第14話:恐怖、そして壊滅
「じゃあ、明日のいつに行くんだい?」
「?」
こいつは何を言っているんだろう。明日?
「今から行くんだよ。寝ぼけてんのか?」
マオくらいの年じゃあるまいし。酒飲めるならまだまだ活動時間だろうが。
「はぁ!? いやいや兄ちゃん、ないって。それはないってば。今から? 装備とか武器とかは!?」
「そんなもの、ほらこの通り」
ばらばらばら、と俺の服の裾からこぼれおちる剣やら槍やら斧やら。あいにくこっちは卑怯な手段があるのです。
……しかし、武器×30と条件を緩く指定したら混合して作り出されるとは。この能力、もっと研究すべきかもしれない。そしてノリで作ったはいいけど、この大量の武器どうしようかな……? 消せないし。
「兄ちゃん、手品師だったんか……?」
「いやいや、ちょっとした特技でね。というわけで、さっさとアジトまで案内しろ変態」
「呼び方が元に戻っちゃった!?」
いや、ほら。一度そう認識しちゃったから。
※
時は、少しさかのぼる。
ある、裏酒場で。
「なにぃ! 邪魔されただぁ!?」
「ウス……」
「すんません……」
「はい……」
頭を下げる部下3人。まったく使えねぇ、単なる通りすがりに尻尾巻いて逃げかえってくるたぁ。
「で。てめぇらは自分がやられたからって俺に働けってのか! 俺もなめられたもんだなぁ、ああ!?」
「かしら。報告したいことが」
「話せ」
かばうつもりなのか別の奴が耳打ちしてくる……なに?
「ほう、身なりからして貴族か、富豪かだと?」
「はい。そもそもあの野良を養うつもりか知りませんが、まともな服を着せ、高級な魔道具店を見てまわっておりました。酔狂なことですが、間違いなく金持ちです。護衛もいないようですし、むしろ今回あいつらを見つけられたことこそ幸いかと」
「ふぅむ……いいだろう。アジトに全員集めろ。儲け話だとな」
「了解しました」
俺を含め、どいつもこいつも仲間の復讐などに興味はない……ないが、儲けられるなら話は別だ。金のためならだれからでも奪って殺す。それが出来るやつばかり集めているからな。
※
「ここだ。本当に一人でいいのか。今からでも遅くない、ギルドに依頼するとか」
「うるせぇ。さっさと戻ってマオを見てろ」
心配そうにこちらを見るジャックをばっさり切り捨てて背中を向ける。
実験も兼ねて、いくつか物を作っておく。上手く動けば良し、動かなくても能力の限界を知れて良し。
もはやジャックが心配するような闘いは起こらない。ゆっくり、じっくりと、向こうの結びつきと心をへし折るだけの、一方的な弱いものいじめが始まるだけだ。
「さて、始めるか」
※
集まったのはおよそ20人。
強欲な、俺でも手綱を取りきれないような悪党どもではあるが、金のためならなんでもするやつらだ。首尾よく集めることはできた。後はこいつらをどれだけ上手く使えるか、だ。
「てめぇら、聞け! 部下の奴らが、逃げた野良の玩具を取り返そうとして、返りうちにあった。そいつらの話じゃぁ、邪魔しやがった野郎どもは貴族か富豪のおぼっちゃまらしい。誰がやられようが知ったことじゃねぇが、向こうから金のありかを教えてくれるなら話は別だ……殺せ! てめぇらの得意分野だろうが! いつもの通り、殺して、奪って、終わりだ!」
『おおおおおおおおおおおおおおお!!!』
「仕留めた奴は5割!後の奴は頭分けだ!行け!」
鼓舞する。必要なのはただ煽って煽って、火をつけることだ。馬鹿はそれで燃え上がるからな、と上手く制御が出来て気を緩ませた瞬間、するっとその声が滑り込んできた。
「いや、あいにく俺の総取りだな。どこかへ行く必要もない。ここで終われ」
「誰だっ!!」
返事はない。きゅきゅきゅきゅ、と背筋が寒くなる音を残して、声は消えた。
「何だ、今のは」
「知るか。さっさとここを出て狩りに……うおわぁ!?」
「なんだ、どうし……ぎゃああああ!?」
それは、例えるなら絞首刑。ぷらん、と揺れる足二人分。二人は、天井に頭を突っ込んでいた。
「なんだこりゃ……どうなってんだ!?」
「いきなり手が出てきたんだ! それがあいつらを引き上げてぎゃああああ!」
また、一人。
「うわっわあ!」
また、一人。
ぷらぷらと吊りあげられていく犠牲者が、また、一人。
(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな…!冗談じゃねぇ、なにが起こってやがる?天井を這いまわってやがるのか?いや、ここは地下だぞ!?ありえねぇ、地上までどれだけ厚さがあると思ってやがる!?)
がちゃん、という音。ランプが一つ、割られた。
「―――!! ランプを守れ!暗闇になるぞ!」
叫びを無駄にするように、また一つ。
一つ。
一つ。
一つ――――!!
がちゃん。最後のランプが割られた。
完全な暗闇。地下にあるがゆえに月の明かりはとどかず、もはや鼻をつままれてもわからないような暗さ。
「なんだ、なんなんだ!? なにが起こってんだよ!」
「こっちが聞きたいわ! 化け物でもいるってのか!」
ずる。
「……おい、今」
ずるずるずる。
「何の音だ……」
ずるずるずるずるずる――――!!
「ひっ!嫌だ、助け――――」
ごっ。ぐちゃ。ばきゅべきごき。どさっ。
「…………………」
ずる。
『うわああああァぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
「てめぇら落ち着け、落ち着けェ!」
落ち着けるはずもなかった。屈強な、誰もが道をあけるような奴らが赤子のように叫び、みっともなく走りまわるのを、ぼんやりと知覚していた。そして、走る音が一つ一つ消えていくのも。
わかってしまった。ここは、狩り場だ。狩人はあの声。獲物は、自分たちだと。
「さて。残りはお前だけだが……お前がリーダーでいいんだよな? それっぽいから残してたんだが」
「……ああ」
もう、抵抗することも思い浮かばない。
「俺たちに二度と手を出すな。何があろうとも、だ。破った瞬間、死ぬと思え」
「お前、まさか」
「以上だ。忠告したぞ」
また、きゅきゅきゅ、という音。それで、自分は助かったんだと、見逃されたんだと、ようやく理解した。
※
その後。その地区には化物がいる、といううわさが流れた。
そのうわさの真相を知る人間は、王都から出て行き、もう一人もいないという。