第13話:変態、そして反撃
~ギルド一階、酒場~
「で、名前はなんなんだよ。さっさと言え、変態」
「さっき兄ちゃんが邪魔してたよな!?」
失礼な。どんな理由があっても、変態に非難されたくない。
「しょうがないな、俺の名前は「変態」ってこんどはマオちゃんかい! 明らかに兄ちゃんが悪い影響与えてるぞ!?」
「マオ。もう駄目だぞ、邪魔したら。こういう繰り返しギャグは3度までと決まってるからな?」
「うん、わかった!」
「教え方が間違ってるっ!?」
うん、マオも打ち解けたみたいで良いことだ。
「俺の名前は、ジャック=コートだ。かっこいいだろう」
「…………」
「…………」
「なんで目をそらす」
正直微妙だからです。
わざわざ引っ張っておいて、ジャックってありふれすぎというか、なんというか。没個性?
しかし改めて観察すると、金髪碧眼の……イケメン。変態のくせに。変態のくせにっ!!
「なんで兄ちゃんはいきなりこっちを睨みつけてるんだ……」
「死ねばいいのに」
「なぜにっ!?」
おっと、つい本音が。
しかしまあ、没個性だろうと変態だろうと礼を欠かしてはいけません。親しき仲にも礼儀ありというが、親しくないならさらに注意して礼儀が必要だよね。
「改めて、感謝する。マオを助けてくれてありがとう」
「ありがとう」
「あー。いやいや、いいって。ほら、女の子を助けるのは男の義務だよなー」
「でも、ジャック……さんはどうやってあの縄抜けだしてきたの? きつくなかった?」
そういえば、こいつ店の前に縛って転がしてたよな。親切な人にでもほどいてもらったんだろうか。後マオ、こんなのにさんづけしなくて良いよ。
「それで思い出した。これ見ろ、これ」
服の裾をこっちにつきだしてくる。ちょっと焦げてるだけで、普通の服っぽいけどこれがどうかしたんだろうか。
「焦げてんだよ! ほら、マオちゃんが火を出す魔道具落としただろ。起動しっぱなしで。からからーってこっちに転がってきて、縄を焼き切ったんだ。」
「いいことじゃないか」
「いいもんか! だから服は焦げるし火傷するし男の顔なんて触るはめになるしよー!」
最後のはどうかと思う。
「あらぁ? お酒も頼まずになにしてるのぉ?」
アルコールも入ってないのにさんざん騒いだせいか、受付のおねーさんが寄ってきた。というか仕事しなくていいんだろうか。
「ウェイトレスも仕事だからねぇ」
疑問に思って質問してみたら、ころころと笑いながらあっさり返された。ウェイトレスも兼任するとは、大変ですね。
「じゃあ綺麗なお姉さん。私と一緒にティリスの酒でも飲みませんか?」
「はいはい、ティリス酒ねぇ。少々お待ちをー」
「え、ちょ、違っ」
ナンパを敢行するも、あっさりかわされるジャック。おまけに酒頼んだことになっている。ざまあ。
「マオはミルクでも飲むか?」
「ううん、大丈夫」
「マオちゃんもティリス酒飲んでみる?酔っ払っても大丈夫、俺が優しく介抱してあげごぶらっ」
とりあえず余計なことを言う馬鹿を殴った。
※
深夜。マオは眠そうだったので部屋へ行かせ、こっちは変態とたいして面白くもない会談中。
「え!? じゃあ何、兄ちゃんは何にもわかんねーくせにあいつらの獲物助けてあいつらに喧嘩売って人助けしたわけ? けっこうしつこいんだぜ、あのチンピラ集団」
「うるさいな。大体あんな状態なら助けるだろ、普通」
ずたぼろで死にかけてる人間が近くにいるんだぞ? ほっとくのは精神衛生上良くない。もっとも、良くないだけで支障もないんだが。
「普通じゃないってー。この国でそんな奴らは掃いて捨てるほどいるんだぜ? まあ、可愛い子だからつい助けちゃったというのもわかるけどな!」
「一緒にすんな変態。そもそも拾った時は男か女かもわかんなかったっつーの」
うっそマジかよーと信じられない目を向けてくるジャック。治安が悪いってのはわかってたけど、王都ですら野垂れ死にが普通らしい。仕事しろよ、王族のみなさん。
「で、なんでマオちゃん寝かせたの? 眠そうにしてたってのはなしね」
「別に。眠気を我慢させてまで聞かせるような話じゃないだけだ。」
「兄ちゃんは本当に優しいねぇ。優しいっていうかむしろ甘いよ。この国じゃ長生きできない……っと、話がそれた。それで何を聞くつもりかな、兄ちゃん?」
「昼のチンピラどもの居場所を教えろ」
一瞬、空気が固まる。
ジャックはすぐにへらり、と笑って、
「なんで俺にそれを聞くんだい? そもそもそれを知ってなにをするのさ?」
「なんでってお前、あいつらのこと知ってるじゃねえか。けっこうしつこいなんてのは経験したから知ってるんだろ?」
「確かに。なんだ、兄ちゃんはもっと鈍いかと思ったんだけど。ちょっと前に痛い目にあわせてやってね。おかげでしばらくはまともに道も歩けやしない状態だったよ」
で、続きは? と促してくる。それこそ大した話じゃないんだけど。
「潰す。二度とマオにちょっかい出せないように、叩き潰すさ」
「本気か? 言っちゃなんだが、あいつらはチームワークだけならそこいらの冒険者なんて相手にならんよ。4、50人はいるっていうし、マオちゃんのためとはいえ無謀な気がするんだけど。それでもやるのかい?」
「何を真剣な顔してるんだ、似合わないな。俺の連れに手を出したんだ、このまま何もしないなんて選択肢はありえない。大丈夫大丈夫、路地裏に50人くらい行方不明者が出たって何の問題もないだろ?」
どうせ後ろ暗い連中だ。人目につかない場所にねぐらがあるだろうし、俺の能力をフル活用してもなんの問題もない。チームワークがあるなら、それを端っこから崩していくまでだ。長距離射撃するもよし、罠をしかけるもよし、裏切らせるもよし。統制が崩れた集団なんてのは昔っからただの的と相場が決まっているのである。
「よし、じゃあ俺もついていってやろう」
「だが断る」
「なんでっ!?」
正直、邪魔だし。能力をあまり人に見せたくないのと、自分だけでなんとかなりそうだし。せいぜい変態はカーナビの役を果たしていればいいのだ。
「案内だけしてくれたら良い。終わるまで、マオと遊んでてくれ。」
「え、いや、俺もけっこうやるよ? 足手まといにはならんってば」
「いいからいいから。むしろマオを一人にするほうがまずい。せいぜい騎士役頑張ってくれ」
納得したのか、渋い顔をしながらも黙るジャック。今回はどれだけ強い味方がいようと邪魔なのです。おとなしくマオと仲良く……って、忘れてた。
「マオに手を出したらチンピラと一緒に並べて晒してやるからな」
「え、し、しないよ?」
チンピラのほうよりも変態のほうが不安だ。