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Second life (仮)  作者: 壱弥
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第12話:戦闘、そして変態

さて。少し、昔の、俺が死んでここへ来るまでの話をしよう。

自分で言うのもなんだが、俺はある一点を除いてはごくごく平均的な、どこにでもいる、普通の高校生だった。

ただしその一点がとんでもなく特殊で、それゆえに俺は本当本来の意味での平凡な男子高校生とは口が裂けても言えないようなスキルを所有する事になった。

冬野 椿。俺の幼馴染にして、四季鮮花流のお譲さまにして、非合法な商売をしている家の箱入り娘。あいつに関わり、気に入られたことで俺の人生は普通のレールから外れた。もっとも、それに文句を言う事はあれど恨むことはないし、口に出すほど嫌な訳でもない。ただ単に、そこに俺がいただけで。誰でも良かったけれど、たまたま俺だっただけで。

そんなもの、ただ運が悪かっただけだろう?



「くそっ! なんで当たらねぇ!」


チンピラどもが悪態をつきながら、ぶんぶんと剣を振り回す。

……ここ、思いっきり街中なんだが、こいつらは目立つということを知らないのだろうか。周りに観客が出来てるし、非常に恥ずかしいのだが。


「頑張れー」


「殺せ! 殺せ!」


「さあさあ、黒髪の青年が勝つかチンピラどもが勝つか、10ブロンから賭けるんだ」


完全に見世物じゃねーか!


「ウネウネウネウネ変な動きしやがって! 当たれ、ガキィ!」


「誰が当たるかボケェ!」


剣向けられて、テンションがちょっとおかしい事になってるな、俺。

つーか、


「おまえら卑怯だろ! 3対1で丸腰相手に武器使うか、普通!?」


1対1なら、まあ楽勝だろう。2対1でも、多分勝てる。だが、3対1で剣振り回されたら勝てるうんぬんの前に近寄れないだろ、常識的に考えて。


「やかましい! 全部かわしやがるくせに!」


「当たったら死んでるだろうが!」


動きはたいしたことないくせにコンビネーションのレベルが高いのがまた腹立たしい。一人を追い詰めても二人でフォローしてくるのだ。

いやいや、幼馴染の地獄特訓がなければあっという間に死んでるぞ、これ。



同じ日に、同じ病院で生まれた。母親同士が、小さい頃に知り合いだった。

小学生のころから、ずっと同じクラスだった。

腐れ縁。それは正しく俺と椿を結ぶものであり、断ち切りたいと……少なくとも弱めたいと思う対象でもあった。

椿いわく、


「しょうがない。なにせ私と楓は季節がひとつ違うだけなんだから」


結びつきが強くて当たり前だろう? そう言って、椿は笑っていたっけ。


俺の家はまあ普通の家で、普通の家族だった。

楓の家は歴史のある名家で、国の裏側に関わるクラスの大きさだった。

何の間違いか俺は椿の親からやけに可愛がられ、好むと好まざるに関わらず世界の裏側というものを見てきた。

暗殺術だか格闘術なんだか、区別はよくわからないが四季鮮花流という流派の技を叩きこまれ、椿と一緒に修行もしてきた。

まあ俺の場合は徒手空拳や近接武器の扱いは防御以外、たいして上達しなかったんだが。

上達しないと椿に殺されるからな、必死だった。



「ほら、あきらめてどっかいけよ三下。今なら見逃してやるからさ」


ぜーぜー息を荒げるチンピラどもに心やさしい声をかけてやる俺。

回避を続けてたら、日ごろの生活がたたったのか知らないがチンピラはみるみる動きが衰えていったのだ。


「くそったれが!」


「覚えてろよ!」


「夜道に気をつけやがれ!」


「またテンプレ通りな捨て台詞だなオイ!」


そんな捨て台詞を残してチンピラどもは―――――逃げ出さない。



「なにしたいんだお前ら?逃げるならさっさと」


「ひ、へへへ。後ろ見てみな?」


俺の声をさえぎって、不快な声で促してくる。嫌な予感しかしないが、最新の注意を払いながら後ろを振り向いて、


「ひゃは、子猫ちゃんげーっと」


4人目のクズと、捕まったマオを見た。



以上が俺の特異点。

向こうの青春においては喧嘩くらいにしか使えなかった技術であり、この世界では非常に有用な特技だ。

技術もそうだが心もそうだ。異世界になんか来た俺が非情になれるのも、あの教えあってこそ。

しかし直せないものもある。悪癖だと自覚はしているが、こればっかりは直せそうもない。

それは――――――



脳が沸騰する。目は標的を見据える。息を忘れ、体は動く時を今や遅しと待ち構える。

我ながら甘い、甘すぎる。クズなんてゴキブリと同じ、どこにでもいるということを忘れるなんて。


「ひゅっ」


ポケットに手を突っ込み、目当ての物をつかんで抜く手も見せず投擲する。

つかんだのはブロン銅貨。狙いは背後のチンピラ三人衆。

中国では羅漢銭と呼ばれる、硬貨を投擲武器とする暗器術の一つだ。携帯性に優れ、硬貨ゆえに硬度が高く、ありふれているがゆえに予測は困難極まりない。

本来暗器術なぞ人前で使う技術ではない、隠密性と奇襲性が肝心だからだ。だからこそ今まで使わなかったが、もうそんなものは知ったことじゃない。大事なのは、マオを無傷で取り返すことだ。

後ろで悶絶しているであろう奴らは放置。目の前で青ざめているクズに向き直る。


「待て! 下手なことするとこいつに一生消えない傷がつくぜぇ?」


ナイフをマオに突き付けながら脅迫してくる。マオは何か言いたげだが、首元にナイフがあっては喋れないんだろう、震えている。

俺はにやりと笑いながら(・・・・・・・・・)両手を挙げる。

それをどう取ったのか知らないが、さらにあわてて言い募るクズ野郎。


「何をたくらんでるんだか知らねぇが、やめておけよ!? 血のシャワーなんざ見たくねぇだろうが!」


「阿呆か。後ろ、見てみな?」


「っ!?」


「はろー」


さっきの俺と同じ状況になってようやく気付いたのか、とっさに振り向いたクズの顔面に、めしぃっ! という音を立てて、変態の拳が突き刺さった。



「いや助かった。協力ありがとう、変態」


「ありがとうございました、変態さん!」


「感謝の言葉より変態変態言わないでほしいんだけど……?」


はっはっは、いやいやあんたは変態確定だろうに。

というか存在を忘れられてるだろ、間違いなく。


「忘れられてないよ!? ほら昨日兄ちゃんをとっぽいと言い、今日は今さっき魔道具の店紹介してあげたじゃん!」


「あんたの登場シーンなんか誰も覚えてねぇよ。みんなこう思ってるね。『変態? 誰?』って」


「そりゃ名前言われてないからだろ!?」


こいつ面白いな。これで変態じゃなければなぁ……


「で、さっきは自己紹介できませんでしたがそこの可愛いお嬢さん。この私めにそのお名前を教えてはいただけませんか?」


「マオ、です。あの、あなたのお名前は?」


「おっと失礼、忘れておりました。マオさん、私の名前は「変態」って違あぁーーーう! 変な声かぶせないでくれるかなこのロリコンめ!」


「なんだと!? お前に言われたくはないね! 女なら誰でもいいみたいな態度のくせに!」


「はっ! 俺は全ての女性を平等に愛しているだけだっ!」


あふれる変態性。マオにちょっかい出してたから邪魔したが、ここまで変態っぷりをカミングアウトされるとは。こいつもう本名変態でいいんじゃないかな。読者さん、どう思います?


「いいわけないだろっ!? 俺の名前は、「変態」ってだから違うわっ! ちょっといい加減にしてくれないかなっ!?」


「うるせぇ! おまえなんて変態で十分だね!」


言い合う俺たち。そして突っ込むマオ。


「あの、アタシの出番は……?」


ごめんマオ。今はこの変態を殲滅しなくてはいけないんだ。

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