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幼馴染もの

離れ離れの幼馴染の先輩

作者: テル

短めでサクッと読めます。

「ただいま、紗夜(さや)。元気にしてたか?」

「おかえり。うん、元気だったよ」


 15時30分。とある1人の男性が電車から降りてきた。


 私には2個年上の幼馴染がいる。

 小さい頃からずっと一緒で仲が良かった。

 でも一昨年から東京の大学へ行くことになって離れ離れになってしまった。

 

 こうしてみるとだいぶ変わっている。

 雰囲気が大人っぽくなっていて少し頼もしくかんじる。


「そうか、大きくなったな〜」


 と、篠原 健二(しのはら けんじ)は私の頭を撫でた。

 少し胸がドキリとしてしまう。


「おにいもだいぶ変わってる。雰囲気とか」

「まあな、都会で社会のいろはを学ばされたよ」

「あっちでどう? 彼女とか......できた?」

「残念ながら......頑張ってるんだけどなぁ、紗夜の方は?」

「私はできてないし、別に欲しくない」

「そう言うな。今のうちに青春謳歌しておけよ〜」


 告白されたって付き合う気はない。だって......好きな人がいるから。

 その人以外とは付き合いたくない。


「紗夜も受験生じゃないのか?」

「うん......勉強大変」

「一昨年は俺もそんな感じだったな。ま、受験終わったら東京にも遊びに来いよ」

「うん、絶対遊びに行くから」


 本当はおにいと同じ大学に行きたいんだけどな。

 偏差値高いし。やっぱりおにいはすごいや。


「しかし相変わらず田舎だな〜。まあでもここが落ち着くんだよな」

「......今日さ、うち来ない?」

「ん、いいのか?」

「全然いいよ。多分お母さんたちもおにいの顔見たいだろうし」

「そっか、じゃあ荷物置いてそっち行くわ」


 やった。おにいが久々に私の家に......。

 私は心の中で小さくガッツポーズした。


 ***


「こっち来いよ、置いてくぞー、紗夜」

「待って、おにい! ......っ!? 待って、おにい! う、うわああん」


 いつの日かの公園。私は盛大に転んだ。

 膝を見てみれば少し血が流れており、反射的に泣き出してしまった。


「ああ、ごめんごめん。悪かった。......あー、ほら肩貸してやるから」

「ぐすん......」

「もう置いてかないから、な。もう泣くな」

「本当に置いてかない?」

「ああ、ずっとずっと俺が一緒にいてやる」


 場面は変わり、2年前。駅のホームにて。


「......おにい、本当に東京行っちゃうの?」

「ああ、来年か再来年には帰ってくる。いい子にして待ってろよ」

「......うん」

「じゃあな、紗夜。なに、泣くことじゃない。しばしのお別れ。俺たちは離れていても親友通り越して家族みたいなもんだろ」

「......うん、バイバイ、おにい」


 ずっと一緒にいてくれるって言ったのに。


 ***


「おーい、紗夜。紗夜ー!」

「......おにい?」


 うっすらと目を開ければおにいの顔が視界に映った。


「遊びに来たぞ」

「うわっ......ごめん、寝てたみたい」

「気にするな。寝顔可愛かったぞ〜」

「う、うるさい」


 何の夢見てたっけ。思い出せない。

 まあいいか。いつのまにか私は眠っていたようだ。


 目を開ければおにいがいたのと寝起き早々の可愛いのダブルパンチを決められて心臓に悪い。


 見てみれば時計の針は17時過ぎを指していた。


 あー、結構寝ちゃってたか。


「おにいさ、こっちにどれくらいいるの?」

「お盆に合わせて帰省してきたんだし1週間くらいだな。来週には帰る」

「......じゃあさ、別にほとんど何もない田舎だけどそれまで時間がある時一緒に遊ぼ?」

「ん、もとよりそのつもりだ」


 おにいはニコッと笑った。

 どれだけ大人になってもおにいはおにいだ。変わらない。


「にしても、紗夜、だいぶ可愛くなったな。成長を感じる」

「か、可愛い!? え、あ、ありがと」


 だから心臓に悪いです。

 気づけば私の顔は赤くなっていた。温度でわかる。


「あー、そうだ。久々に外散歩してもいいか?」

「全然いいよ。うち今ゲームないから家いても暇だろうし」


 ***


 懐かしいな。昔はこうやってよく一緒に学校から帰ってたっけ。

 おにいも本当にかっこよくなった。


 やっぱり私は......変わらないな。どう足掻いたって無理なのに。

 おにいは多分私の気持ちに気づいてない。恋愛対象として見ていない。

 ......暗いことは考えないでおこう。今はただ、おにいがいるだけで幸せなんだから。


「紗夜はさ。将来何したい?」

「将来......か。考えたことないや。とりあえず受験だからね」

「ま、それもそうか。......俺は今は将来の夢ないんだよな。何すればいいかわからなくて絶賛悩み中」

「おにいのお父さん神主さんでしょ? それ継げばいいじゃん。多分喜ぶよ」

「絶対嫌だ。俺が東京にわざわざ行った意味がなくなる」

「あはは......」


 流石に無理......か。

 戻ってきてくれた方が私は嬉しいんだけどな。

 

 そんな会話をしながら歩いていると、前からクラスメイト2人が来た。


「あ、やっほ、紗夜......と、あとは......って篠原先輩じゃないですか!? お久しぶりです。戻ってきていたんですね」

「おお、久しぶりだな。舞雪(まゆき)色葉(いろは)か。いや〜、名前覚えてくれてて嬉しいよ」

「当たり前じゃないですか。ただでさえ人数少ないんですし」

「あはは、それもそうか」


 3人は私を抜きにして盛り上がっている。

 ......そんな状況に少し嫉妬してしまう。


「むぅ......」

「......? (あーなるほど)」


 私が頬を膨らませてヤキモチを焼いていることに気づいたのか2人は会話をやめて去っていった。


「じゃあ私たちそろそろ帰ります。さようなら」

「ん、またな」

「......むぅ」

「さて、もうちょっとだけ歩いて回るか......ってなんでそんなに不機嫌なの?」

「いや別に......なんでもない」


 私は視線を逸らして少し歩くスピードを早めた。

 ......私を嫉妬させるおにいが悪い。かっこいいおにいが悪い。


「なんか知らんがごめん」

「べ、別に謝られても困る......おにいなにもしてないし」


 そして勝手に嫉妬してる私が悪い。

 しばらくすると、おにいがこんなことを言い出した。


「......あー、昔みたいに手でも繋ぐか?」

「......!?」

 

 確かに昔、小学時代は手を繋いでいた。けどそれもだいぶ昔の話。

 そんな発言に少しでも期待してしまう。しかしただの天然から来ている。

 賢いくせに勘は鈍い。


「は、はあ? む、無理」

「あ、まあそれもそうか、もう年頃の......って」

「ま、まあ、でもちょっとくらいなら」


 と、私はおにいの手を取った。


「ふふ、おにいの手あったかい.......」

「まあ、な」


 おにいの手は昔よりも大きくて少し安心する。


 ***


 それからあっという間に1週間が経った。

 あれ以来、おにいも思ったより忙しいようで遊ぶ機会はほとんどなく、時間だけが過ぎていった。

 そして気づけばもうおにいは東京へ帰ってしまう。


「......おにい、もう帰っちゃうの? ......ずっとここにいればいいのに」

「そういうわけにもいかないからな。大学で友達もできたし」

「......そっか。まあじゃあ、頑張って」

「おう、行ってくる」


 おにいはわしゃわしゃと私の髪を撫でた。


 そしておにいは私に背を向け、去ろうとしていた。

 

「......」


 また、離れ離れ?

 ......嫌だ、嫌だよ、おにい。ずっと一緒にいたい。


 気づけば私は後ろからおにいに抱きついていた。


「......紗夜?」

「私、ずっと昔からおにいのことが好きだった」

「っ......」

「ずっとずっと昔から、好きだった。だから、行かないで、おにい。私とずっと一緒にいてよ......おにいがいないと寂しいの......」


 おこがましいのは自分でも理解している。でも言わなきゃどうにかなりそうだった。

 じゃないとずっと、言えないような気がしたから。

 

 でもさ、私じゃ無理なんだよね。


「そっか、でもごめん、その想いには応えられない」


 私が言った後、キッパリとおにいはそう言った。


 わかってた。わかりきってたことだった。

 おにいは自分で夢を見つけて自分の道を歩みたいんだ。

 もっと広い世界を見てみたいんだ。


 ......それ以前に、やっぱり私じゃダメなんだ。


 私は手を離した。


「ごめんな、紗夜。今まで気づかなかった」

「......いいよ、別に」


 そして駅のアナウンスが流れ、電車が到着した。


「じゃあな、紗夜。元気で」

「......うん、ばいばい」


 私にとっては大きすぎるその背中を、私は静かに見送った。


『待って、待ってよ、おにい』


 そんな思いも虚しく、電車は行ってしまった。


 気づけば私の頬には涙が流れていた。


「ずっと一緒にいるっていったじゃん......おにいの馬鹿」


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[良い点] アオハルだねえ…
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