表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/36

第九話 「お手並み拝見」

ここから短編版の続きです


「さあ、ここが今日から君が過ごす宮廷だよ」


「わぁぁ……!」


 第一王子のレグルス様に勧誘を受けた私は、コズミックの町を出て王都にやって来た。

 そしてさっそく町の奥に構えている宮廷まで案内されて、その景色に思わず心を震わせる。


 白と青を基調とした、まるで青空のように爽やかな印象を受ける外観。

 庭園には豊かな緑と色彩溢れる花々が並んでいて、その景色が大きな宮廷の端まで広がっている。

 その中を煌びやかな衣装を着た貴族や王国騎士たちが行き交い、この絵に一層の上品さを付け加えていた。

 さすが世界でも指折りの美景に数えられるだけのことはある、アース王国の宮廷とその庭園。

 ここが今日から私が過ごす場所かぁ。


「気に入ってもらえたかな?」


「はい! お噂の通りすごく美しい宮廷で感動しました!」


 本当に私なんかがここで暮らしてもいいのだろうかと、いまだに不安に思ってしまうほどに。

 するとレグルス様は、そんな私の不安をかき消してくれるように、手を取って優しく導いてくれた。


「さっそく宮廷の中を案内するよ。改めてよろしくね、スピカ」


「はい、レグルス様」


 伝えたばかりの名前も呼んでもらえて、私は嬉しい気持ちで宮廷に足を踏み入れたのだった。

 今日から私、宮廷薬師として美しい宮廷での生活を始めます!




 と、思いきや……


「申し訳ございませんが、すぐに宮廷にお通しすることはできません」


「あれっ?」


 門番を務めている王国騎士さんに止められてしまいました。

 なんで? 話が違うような……

 そう思っていると、レグルス様が両手を合わせてお願いするような仕草を見せた。


「僕が秘薬の魔法薬師を探しに行くっていうのは、近衛師団の方にも話を通してあっただろ。彼女がその噂の秘薬の魔法薬師なんだ。どうか通してあげてくれないかな?」


「たとえレグルス様のご紹介であっても、部外の者を簡単に通すわけにはいかないのです。大変ご無礼ではありますが、噂の秘薬作りの魔法薬師かどうか、確かめさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 まあ、それは確かに。

 王族の住む宮廷に部外者は入れられない。

 素性も不確かな私なら尚更だ。

 それがたとえ第一王子様の紹介であっても容認はできないだろう。

 万が一王族の暗殺を企てる者だった場合は、取り返しのつかないことになるから。

 だから秘薬作りの魔法薬師であることをここで証明してくれ、ということらしい。


「すまないねスピカ。僕の紹介ならすぐに通してあげられると思ったけど、さすがにそうはいかないみたいだ」


「まあ、それは仕方がないかと」


 申し訳なさそうに言ったレグルス様は、次いで耳元に顔を寄せて囁いてきた。


「僕の婚約者だって言っても、まだ正式に公表はしていないからそれも無駄だと思う。手間をかけるけれど、近衛師団の騎士たちの前で実際にポーションを作って見せてくれないかな?」


「はい、それくらいなら全然」


 むしろこちらからお願いしたいくらいだ。

 私としてもレグルス様の伝手だけで、こんな素敵な宮廷に入れてもらうなんて忍びないと思っていたから。

 是非とも秘薬の魔法薬師であることを認めてもらって、気持ちよく宮廷に入りたい。


「思えば、僕も実際には君のポーション作りを見たことがなかったね。それでスピカのことを宮廷に勧誘して連れて来てしまうなんて、僕も相当気が急いていたみたいだ」


 そういえばそうだったと私も遅まきながら気が付く。

 レグルス様は話に聞いていた特徴だけで私を秘薬の魔法薬師と断定した。

 秘薬の魔法薬師として攫われそうになっているところを目撃したとは言っても、実際にポーション作りを見てもらったわけじゃない。

 それで私を宮廷に連れて来てしまうなんて、常に余裕綽々といった表情をしながらも本当に焦っていたのかな?


「スピカを手放したくない一心で、そんな初歩的な確認も忘れてしまっていたよ。良ければ僕にも君のポーション作りを見せてもらえないかな?」


「……」


 またそういうことをさらっと……

 私は恥ずかしさを誤魔化すように咳払いを一つ挟むと、両手で持っていたカバンを下ろして頷きを返した。


「では、改めてお見せします。とは言っても、他の魔法薬師と一緒で普通の作り方ですけど」


 まずはカバンの中を確認する。

 エメラルドハーブ。スターリーフ。瓶詰めされた綺麗な水。

 それと乳鉢と乳棒。小さな釜。火にかけるようの台座。神木で作られた木ベラ。

 素材と道具はきっちり揃っている。

 近衛師団の王国騎士さんも興味深そうに見守っている中、私は緊張感に苛まれながらもポーション作りに取りかかった。


「まずは……」


 乳鉢にスターリーフを入れて、乳棒でコリコリと潰していく。

 細かく潰れて爽やかな香りが立ち上り始めたら、次に調合釜を用意する。

 そこにエメラルドハーブと綺麗な水、それと潰したスターリーフを入れて火にかける。

 ちなみに火に関しては、私が魔法で着火を行っている。

 私の白魔力でも、微弱だが炎魔法を使うことはできるので、それを火種にしている。


「んっ? そこで何やってるんだ?」


「なんかポーション作ってるらしいぞ」


 どうやら他の王国騎士さんたちが宮廷に帰って来たらしく、私のポーション作りを見て足を止めていく。

 何やら周囲が騒がしくなってきたが、私は平静を保って作業を続けた。

 木ベラで釜の中身をぐるぐるとかき混ぜながら、魔力を注入していく。

 充分に煮立ったら、その液体を濾して大きめの瓶に入れて、氷を入れた器にその瓶を入れる。

 氷に塩をまぶして瓶をくるくると回転させると、中身を早く冷ますことができるのだ。

 これはコズミックの町にいた時に知った、時短豆知識。ちなみに氷も魔法でなんとか搾り出した。

 中身がしっかりと冷えたことを確かめると、小瓶に移し替えてそれを近衛騎士さんに見せた。


「はい、完成しました」


 十人ほどの騎士さんたちに見守られる中、私はなんとかお手製のポーションを完成させることができたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ