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第四話 「ポーションはいかがですか」


 翌日。

 作ったポーションを売るために、朝一番に商業ギルドに行って出店許可を得た。

 さらには出店場所の確保も抜かりない。

 町の東側にある商業地区の端っこの方にある酒場。

 その前の小さなスペースを、貸借料を支払って一週間借りる手続きをした。


「よしっ!」


 そこに大きな布を敷いて、布の上に昨日作ったばかりのポーションを並べる。

 かなり簡易的ではあるが、これで一応露店は完成だ。

 あとはひたすらお客さんが来るのを待つだけ。

 ここは酒場の前ということで、仕事終わりの冒険者たちが頻繁に通る道だという。

 だからポーションも買ってもらいやすいのではないかと思ってこの場所を借りてみた。


「ポ、ポーション……ポーションはいかがですか!」


 慣れない大声まで出して、客引きも精一杯してみる。

 しかし町を歩く人たちは、チラッとこちらを一瞥するだけで通り過ぎてしまう。

 たまにこんな会話も聞こえてきた。


「あっ、ポーション売ってるけどどうする?」


「まだ手持ちはあるしいいだろ。それに顔も名前も知らねえ魔法薬師だからな」


 やっぱり無名の魔法薬師だと、人がそんなに寄りついて来ないみたいだ。

 ポーションは誰が作ってもそれなりの治癒効果が保証されてはいるけど、それでも差は出るし。

 どうせ買うなら信用のあるところから、というのは当然の考えだ。

 ちなみにポーションの値段は一つ1000テルス。

 これはどうやらギルドで定められているポーションの基本価格らしい。

 これより下げるのは禁止のため、私もそれに倣ってその値段で売ることにした。


 だから低価格設定による客寄せもできない状況となっている。

 せめて今日の分の貸借料くらいは取り戻せたらと思ったけど、これだと厳しいかな。

 と思っていると、やがて一人の冒険者らしい男性が露店に近づいて来た。

 しかしよりにもよってそれは、超絶強面のイカつい男性冒険者だった。


「い、いらっしゃい、ませ」


「嬢ちゃん見ねえ顔だな」


「は、はい……ごめんなさい」


 なぜか我知らず謝ってしまう。

 だってめっちゃ怖いんだもん……!

 掠れた濁声に丸太のように太い手脚。

 糸のように細い黒目からは恐ろしい眼光が放たれている。

 お客さん、でいいんだよね? 恫喝しに来たとかじゃないよね?


「ほぉ、ポーションを売ってんのか。もしかして嬢ちゃんの手製か?」


「そそ、そうです。魔法薬師になりたくて、思い切って田舎から都に出てきて……」


 聖女のことは念のため伏せておく。

 この国にまで噂が流れているわけではないけど、聖女の存在自体は知っているだろうから。

 すると強面の男性は……


 くしゃっと、怖い顔を笑わせて、こくこくと頷いた。


「若いってのに大したもんだ。見たところポーションの出来もかなり良さそうだしな。町に出てきたばっかじゃ、色々金銭面とかで苦労することもあるだろうが、無理のない範囲で頑張ってくれ」


「…………は、はい。ありがとう、ございます」


 そして男性冒険者は、ポーションを二本買って立ち去って行った。

 怖い人かと思ったら、めちゃくちゃ優しい人だった。

 無名の私のポーションを買って行ってくれて、気遣いの言葉までくれた。

 しかもちゃっかり二本も買ってくれたし。

 人を見た目で判断してはいけない。


 とりあえず最初の売り上げを手にすることができて、私は嬉しい気持ちを噛み締めた。

 また、誰かの傷を癒して、役に立つことができた。

 お金をもらったことで、自分にはこれだけの価値があると言ってもらえたような気持ちになる。

 聖女として価値を失くした私だけど、新しい価値をまた誰かに認めてもらうことができたんだ。


「よし……! よし……!」


 この調子でどんどんお客さんを呼び込もう。

 今日の販売分の二十五本が全部捌けなくてもいいから、一本でも多く手に取ってもらうんだ。

 そして私のことを一人にでも多く知ってもらう。

 ポーション技術の発展でお払い箱になった哀れな聖女ではなく、魔法薬師スピカとして。


「私は無価値の存在じゃない……! 私はこの場所で、新しい価値を示してみせる……!」


 それから私は、一層大きな声で客引きをした。

 今さらになって沸いてきた、婚約破棄と強制解雇に対する怒りを発散するかのように。

 すると思った以上に足を止めてくれる人が多く、ポーションも凄まじい早さで売れていった。

 気が付けば、露店に並べていたポーションは綺麗になくなっていた。


「たくさん売れてよかったぁ」


 私の客引きがよかった、というよりも、やはりポーションの需要が凄まじいように思える。

 まあ長期の保存も効くし、いくらあっても困るものではないからね。

 無名の魔法薬師とはいえ、ちゃんとギルドの性質調査も通っていて、最低限の品質は保証されているわけだし。

 ともあれ明日からもこの調子で、どんどんポーションを作って売り捌いていくぞ。

 “少しずつ”でいいから、魔法薬師として名前を知ってもらうために。




 それから三日後のこと。


「もうポーションは売り切れてしまったのか!?」


「頼む! 今すぐに新しいポーションを作ってくれ!」


「一つ1万……いいや、10万テルスでいいからよ!」


 なんか、私のポーションが大反響を呼んでいました。

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