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第二十二話 「血染めの冷血王子」


「す、少し、派手すぎませんかね?」


 宮廷内の自室にて。

 私は使用人さんたちに着飾ってもらいながら、姿見に映る自分を見て不安を募らせていた。

 今日はいよいよ、待ちに待った赤月の舞踏会の当日。

 夕方の開催に向けて、私は昼の今から使用人さんたちの手を借りて、精一杯にめかし込んでいた。


 世界三大舞踏会の一つに数えられている宮廷舞踏会。

 かつて王様が王国の復興を赤い月に願い、それが叶ったとして催されるようになった舞踏会だ。

 今年はコルブス魔占領域の開拓作戦成功も同時に祝うということで、例年以上の客数と規模になるとのこと。

 その舞踏会で私は、大勢の賓客を前にしながら、改めてレグルス様との婚約を発表します。

 今の段階ですでに、緊張で心臓が痛いです。

 なんで婚姻発表の時に限って、過去最大規模の舞踏会になってしまうんでしょうかね。

 そのせいで着替えを手伝ってくれている使用人さんたちも、何やらものすごく気合が入っていた。


「大衆の前での正式な婚姻発表ですので、きちんと目立つ格好をしませんと」


「賓客の方々や爵位などは気にせず、参加者の中で一番美しい姿をしてください。そもそもあなたは秘薬作りの聖女として活躍し、王子の婚約者にも選ばれた人物なのですから、誰もそれを咎めることはしませんよ」


 すでに宮廷内の人たちの多くには、レグルス王子との婚約がバレている。

 まあ、あれだけ過保護にレグルス様に面倒を見てもらっていたら、気付く人がいても不思議じゃない。

 だから使用人さんたちは、私を王子の婚約者として相応しいように煌びやかに着飾ってくれているのだ。

 でも、ここまで派手に着飾らなくてもいいのに……


 眩く輝いている純白のドレス。

 恐ろしいほど大粒の宝石があしらわれたネックレス。

 いつもと違った形でセットされた銀髪には、これまた豪華な髪飾りが着けられている。

 ドレスを着たり装飾品を着ける機会が今までなかったわけではないけど、ここまで値段がかかっていそうな格好は初めてした。

 レグルス様に相応しい格好をしなきゃいけないというのはわかっているけど、これだと私が衣装を着ているというより、衣装に着られている気がする。

 本当に大丈夫かなぁ。


「あの、スピカ様」


「一つだけ、私たちからお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


「……? はい、なんでしょうか?」


 着替えもそろそろ終わりに差しかかった時。

 何やら改まった様子で、着替えを手伝ってくれている使用人さんの二人が問いかけてきた。

 いったい何事だろうと不思議に思っていると、二人は突然前のめりになった。


「レグルス様とはどのようにお知り合いになられたのですか!?」


「初めにアプローチをしたのはどちらからだったのでしょうか!?」


「えぇ!?」


 予想だにしていなかった質問が飛んで来ました。

 レグルス様と知り合った経緯? アプローチをしたのはどっちか?

 なんで使用人さんたちがそんなことを気にするんだろう?


「レグルス様は世界随一の魔術師であり、アース王国の希望そのものです。しかし同時に国民たちにとっては憧れの存在でもあります」


 使用人さんは、不意に力強く語り始める。


「そのレグルス様が、これまでに見たことのないようなお顔で一人の女性を溺愛している。となればファンとして、気にならないはずがないのですよ!」


「お二人の馴れ初めをどうか! そしてお二人でいる時のレグルス様のご様子なども、お教えしていただけませんか!」


「え、えっと……」


 そこまで必死に懇願されてしまったら、無下に断ることもできなかった。

 見る限りこの二人は、レグルス様にとても強い憧れを抱いているようだし。

 だから私は、自分が恥ずかしくならない程度に、レグルス様との馴れ初めを語り始めたのだった。


 それにしても、こんな風にレグルス様に憧れている人はやっぱり多いのかな。

 彼は立場も才能も、おまけに整った容姿まで持ち合わせている完璧超人。

 よくよく考えたら、憧れている女性が多くいたって不思議ではない。

 そんな彼との婚姻を、大衆の前で発表する。

 もしかしてこれって、実はとんでもない危険性を孕んでいるのでは?

 憧れのレグルス様がどこぞの知らない小娘に盗られた! 絶対に許せない! みたいな感じで……

 今になってその可能性に気が付いて、その不安を二人に明かすと、意外にも軽い反応が返ってきた。


「いえいえ、その心配はまったくないと思いますよ。あの方はもはや恋愛の対象ではなく崇拝の対象ですから」


「あまりにも雲の上の存在すぎて、自分とどうにかなるという想像すらできませんからね。あくまでも『血染めの冷血王子』は、御伽噺に出てくるような憧れの存在なのです」


 だから周りの令嬢たちから恨みを買うようなことはまずないだろうと二人は言った。

 それなら確かに安心ではある。

 血染めの冷血王子は恋愛対象ではなく崇拝対象、というのもなんだか納得できる話だし。

 宮廷舞踏会の場で背中から刺されるという悲惨な未来は、なんとか回避できそうです。

 と、そこで私は、不意にまた一つ気になることを二人に尋ねた。


「レグルス様は本当に、血染めの冷血王子なのでしょうか?」


「「……?」」


「あっ、いえ、私も隣国にいた時にお噂を聞いただけなんですけど、とてもレグルス様がそう呼ばれる人物だとは思えなくて……」


 敵国の兵士に慈悲はかけず、返り血に塗れたその姿からそんな異名が定着した。

 それは果たして事実に基づいた話なのだろうか?

 今日まで一緒に過ごしてきたけど、レグルス様はとてもお優しい方だとわかった。

 そしてそれは私に対してだけではない。誰にでも分け隔てなく優しく接している。

 そんな彼が、敵国の兵士に対して慈悲をかけず、返り血に塗れるなんてことが本当にあるのかな?

 彼の圧倒的な強さを目の当たりにして、敵国の兵士が絶望感からそんな異名をつけたとかじゃないんだろうか?


「私たちも実際に見たわけではないのですが……」


「同じ師団の騎士様から聞いた話ですと、レグルス様はご自分が大切になさっているものが傷付けられそうになると、少し冷静さを欠いてしまうところがあるそうです」


「大切にしているもの?」


 使用人さんたちは、顔を見合わせてから続ける。


「特に物ではなく、家族、友人、部下などに危険が迫ると、感情が昂って力が過剰に溢れてしまうのだとか」


「ですから血染めの冷血王子の異名は、敵国の兵士に慈悲をかけなかったわけではなく、大切なものを絶対に守ろうという強い意思があらわれた結果……とのことですよ」


「……」


 それもまた、なんだか納得できるような話だと思った。

 あの方は大切にしているものを守ろうという意思が強いから。

 きっと敵国との戦争で部下が殺されそうになり、必死に守った結果が返り血に塗れた姿だったのだろう。

 確か目を失ってしまったのも、魔物の攻撃から部下を守ったからだと聞いたし。

 本当はとても優しい人なのだと、いつかみんなに知ってもらいたいと私は思った。

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