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第二十一話 「栄誉式」


 それから早くも二週間が経過。

 私は目標にしていた合計五百個のポーションを無事に用意することができた。

 それを開拓作戦の成功を願って第一師団に託す。


「本当にありがとうスピカ。君の頑張りを無駄にしないためにも、きっと開拓作戦を成功させてみせるよ」


「どうかご無事でお戻りください」


 そう言って私は、他の王国騎士たちと一緒に第一師団を送り出したのだった。

 開拓作戦開始。

 そして私は宮廷で、開拓作戦を任された第一師団の帰りを待つことになった。


 その間の私は、正直気が気じゃなかった。

 開拓師団は私の解毒ポーションの力を信じて、コルブス魔占領域の開拓へと向かった。

 だからもし私の解毒ポーションに何かしらの欠陥でも見つかったりしたら、一気に師団は崩壊することになる。

 そうでなくてもコルブス魔占領域の魔物は強力で、順当に侵攻ができたとしても、少なからずの犠牲は免れないと言っていた。

 だから私はひたすらに、ただ祈ることをした。


 第一師団の皆様、レグルス様、どうかご無事でお帰りください。

 贅沢は言いませんから、作戦の成功なんて関係なしに、全員が生還してくれますように。




「此度のコルブス魔占領域の開拓作戦において、第一師団は我々の希望を背負い、見事に作戦を遂行してみせた。そして団員の王国騎士を一人も犠牲にすることなく、全員で無事に生還も果たした。よってその功績と栄誉をここに称える」


 第一師団が開拓作戦に旅立って一週間。

 彼らは見事に作戦を成功させて、王都まで帰って来た。

 しかも、誰一人欠けることなく、なんとも爽やかな笑顔で。


「……」


 私はいまだに信じられない思いで、王都の中央広場で行われている作戦成功を祝う栄誉式に参加している。

 正直、全員が生還してほしいというのは、あまりにも贅沢な話だと思っていた。

 とても難しい作戦だし、作戦の成功を関係なしにしても、少なからずの犠牲は出てしまうのではないかと。

 だというのに、全員を生還させただけでなく、その上で開拓作戦も見事に成功させてしまった。

 すでに見知った王国騎士も何人か参加していたので、本当に全員帰って来てくれて夢でも見ているような気持ちである。

 しかも……


「あ、あの、本当に私もこの栄誉式に参加してもよろしかったのですか? それも第一師団と同じ表彰側で……」


「何言っているのさスピカ。開拓師団のみんなが頑張ったのもそうだけど、何より君の解毒ポーションのおかげで今回の作戦を無事に成功させることができたんだ。団員たちも口を揃えてそう言っているくらいだよ」


 私の解毒ポーションが開拓作戦でとても役に立ったらしく、なぜか私まで表彰側で参加することになった。

 簡易的に設けられた壇上に立ち、師団員たちと一緒に周囲の国民たちから視線を浴びている。

 なんだかあまり活躍できた実感が湧かないから、ものすごい場違い感を感じるんですけど。

 ただ、話に聞く限りだと、確かに私の解毒ポーションは今回の作戦成功の鍵になっていたのだとわかる。


 どうやら私が手掛けた解毒ポーションには、一つ“隠された力”が宿っていたらしい。

 コルブス魔占領域の魔物の毒も一瞬で治す、桁違いの解毒効果。

 それこそが私の解毒ポーションの強みだと思っていたけど……

 実は服用した後も、“持続的”に毒の分解が体内で起こるそうだ。

 解毒ポーションを飲んだ後、およそ三十分間は毒の分解効果が継続する。

 そのため新たに別の毒が体に入ってきても、都度ポーションを使う必要がなく自動で毒が消えるらしい。

 一時的な毒耐性の獲得。それこそが私の解毒ポーションの真の力で、おかげで団員たちを全員生還させることができたそうだ。


「継続的な解毒効果……。どうして私の解毒ポーションに、それを付与する力が宿っているのでしょうか?」


「これは僕の推測だけど、スピカの解毒ポーションは効果が莫大すぎるんだと思うよ。厳密に言えばこれは、『継続的な解毒効果の付与』じゃない。あまりにも莫大な量の解毒効果を一瞬で体内で処理できず、持続的に分解効果が発生しているんじゃないかな?」


 レグルス様は私の隣で国民たちに手を振りながら、囁くように教えてくれる。

 けど、正直詳しく理解はできませんでした。

 まあとにかく私の解毒ポーションを飲めば、猛毒も一瞬で治せて、しばらく他の毒も効かなくなるそうです。

 ……我ながらとんでもないポーションだと思う。


「おかげで解毒ポーションの在庫が尽きることもなかったし、最後までみんな万全の状態で戦うことができたよ。これで念願だったコルブス魔占領域の本格開拓を進めることができる。王国のみんなも待ち望んでいたことを、スピカのおかげで叶えることができたんだ」


「……」


 私は周囲を見渡す。

 国民のみんなは、師団員の人たちだけにではなく、私の方にも確かな拍手を送ってくれていた。

 そして口々にこんな声が聞こえてくる。


「聖女様、王国騎士団の皆様をお守りしてくださってありがとうございます!」


「これからもぜひ、この王国のために力をお貸ししてくださいませ!」


 そんな言葉をもらって、体の内側から嬉しさが込み上げてきた。

 私はヴィーナス王国の宮廷から追放されて、自分への自信を完全に失くしていた。

 そして自信をつけるためにポーション作りを頑張って、みんなに認めてもらおうと思った。

 正直、まだまだ時間が掛かることだと思っていたけれど……


 これだけ言ってもらえたら、もう充分だ。


「よかったね、スピカ」


「はい!」


 私は心からの笑顔をレグルス様に向けた。

 これで私は、赤月の舞踏会に自信を持って参加することができる。

 レグルス様の婚約者として、堂々と胸を張って隣に並ぶんだ。

 それで必ず私の方から、“好き”って気持ちを伝えてみせる。


 一週間後に迫った赤月の舞踏会が、より楽しみになったのだった。

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