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第十八話 「解毒の治験」


 レグルス様に解毒ポーションの製作を頼まれて、さっそく作業に取り掛かることにした。

 材料は騎士団の方から渡されたサファイアハーブ、スターリーフ、綺麗な水。

 治癒ポーションの材料をエメラルドハーブからサファイアハーブに変えただけである。

 製作工程もまったく同じで、まずはスターリーフを乳鉢と乳棒ですり潰す。

 細かく潰れたら、調合釜にサファイアハーブと綺麗な水を入れて、すり潰したスターリーフも加える。

 釜を火にかけてグラグラと煮立たせながら、神木で出来た木ベラで中身をぐるぐると掻き混ぜる。

 この時、魔力を注ぎ込むことを忘れてはいけない。

 そして出来上がった液体を濾して冷ませば解毒ポーションの完成だ。


「ふぅ、とりあえずは出来上がりました」


 レグルス様に見守られながらだから緊張したぁ。

 それにちゃんと出来ているかどうかも不安だし。

 というかエメラルドハーブを使った治癒ポーションと違って、少し甘い香りがするんだ。

 バニラっぽさをほのかに感じさせるまったり甘い系の匂い。

 その青色の液体を小瓶に詰め替えてレグルス様に手渡すと、彼は感嘆するようなため息をこぼした。


「ありがとうスピカ。僕の見た感じだとすごく良質な解毒ポーションだと思うよ。さすがだね」


「ですが、私も初めて作ったものなので、やはりきちんと効果を確かめておかないと……」


 私は聖女の魔力を用いて、治癒ポーションの効果を極限まで高めることができる。

 しかしその魔力が解毒ポーションにどのように作用するのかはまったく知らない。

 もしかしたらまったくの無意味なポーションに仕上がっている可能性もある。

 最低限、他の魔法薬師の解毒ポーションと同じだけの効果があってほしいけど……


「そこは僕が“この体”で確かめるから安心してって言ったでしょ。スピカの力を疑っているわけじゃないけど、さすがに開拓作戦の本番にいきなり投入するのは危険があるし」


「それで、具体的にはどのようにお確かめになるのでしょうか?」


 実際に自分の体で解毒ポーションの効果を確かめるとレグルス様は仰った。

 けど、どうやって開拓作戦に使えるかどうか調べるというのだろう?

 話によれば、開拓予定地のコルブス魔占領域には、厄介な猛毒を扱う魔物がいるという。

 その猛毒に対抗するために大量の解毒ポーションが必要になるとのことだけど、猛毒を分解できるかどうかは実際にその魔物から毒をもらって試すしかないような?


「宮廷の地下牢に、コルブス魔占領域から捕獲して来た魔物がいるんだ。その魔物から毒を受けて、開拓作戦に使えるかどうか治験するんだよ」


「えっ……」


 本当にその魔物から毒を食らうってこと?

 さすがに危なすぎませんか?

 ていうか地下牢に魔物なんて捕縛してたんだ。


「は、初めて作った解毒ポーションの治験で、それは少々危険すぎるような……」


「安心してよ。スピカの解毒ポーション以外にも、ちゃんと実戦での投入歴がある解毒ポーションも用意してあるから。万が一スピカの解毒ポーションで治せなかったとしても問題はないよ」


 いやでも、その分レグルス様が苦しい思いをすることになる。

 毒の分解に時間が掛かれば掛かるほど、体への負担は莫大なものになるから。

 それに魔物から直接毒をもらうなんて、いったいどんな方法で……


「……あの、私もその治験に立ち会ってもいいでしょうか?」


「えっ?」


「解毒ポーションを作った身として、品質に問題がないかこの目で見ておきたくて」


 そう言うと、レグルス様は目を丸くした。

 私はこれを手掛けた魔法薬師として、ちゃんと効果を確かめておきたい。

 何よりレグルス様のことが心配で、正直居ても立っても居られないから。


「……まあ、魔法薬師として自分のポーションの効果は気になるものだよね。わかったよ、スピカにも治験に立ち会ってもらうことにする」


「あ、ありがとうございます」


「でもできれば、スピカにはここにいてほしかったけどね」


「……?」


「あぁ、いや、少しみっともない姿を見せることになると思うからさ」


 レグルス様は少しぎこちない様子で苦笑を浮かべた。




 解毒ポーションを用意した後、治験のために地下牢へと向かうことになった。

 その道中、レグルス様は王国騎士の人たちや従者のベガ君に声を掛けて、一緒に地下牢へ行くことになる。

 全員、解毒ポーションの検証に立ち会ってくれるらしい。

 元々そういう予定だったみたいで、みんなで私の解毒ポーションが開拓作戦に投入可能か判断してくれるようだ。

 中には副師団長のカストル様までいる。

 十人近くの前で治験をすることになって一層の緊張感が湧いてくるけど、皆が見守ってくれるなら安心感も増す。

 やがて地下牢に辿り着くと、そのうちの一際頑丈そうな鉄格子の中に、くだんの魔物がいた。


「あれがコルブス魔占領域から捕獲して来た魔物だよ」


「……」


 三つの頭を持つ蛇のような魔物。

 僅かに光沢とぬめりのある鱗が全身を覆っていて、全体像はかなり大きい。

 鉄格子の隙間からこちらを睨みつける姿は、子供なら泣いて逃げ帰るような恐ろしさを秘めていた。

 こんな怖い魔物が地下にいたなんて驚きだけど、それ以上にどうやってこんな魔物を捕まえたのか気になる。

 というか、今からこの魔物に毒をもらうわけか。


「あの、レグルス様。やはりここは私が……」


「ありがとうベガ。でも大丈夫。開拓師団のみんなが使う解毒ポーションだからね、師団長の僕が実際に確かめたいんだ」


 ベガ君は従者としてレグルス様のことを心配している様子だった。

 それもそのはず、今から行う治験はかなりの危険を伴うから。

 コルブス魔占領域にいる魔物は、非常に強力な毒を扱う。

 解毒ポーションを使ってもすぐには治療できず、分解に時間が掛かって死に至る場合もあるくらいに。

 だから万が一のことを考えて、ベガ君は代わりに毒を受ける役を買って出ようとしたわけだ。

 でも師団長の立場としてこの役目を譲らなかったレグルス様は、改めてみんなの方を見て告げる。


「みんな、今回はスピカの解毒ポーションの治験に立ち会ってくれて感謝するよ。念のために通常の解毒ポーションもいくつか用意してあるから、心配はいらないと思うけど、万が一僕が倒れた時はよろしく頼むね」


 レグルス様がそう言うと、周りの緊張感が一気に増す。

 私も表情を強張らせながら、持って来た解毒ポーションをレグルス様に手渡した。

 そしてレグルス様は、恐れる様子をまるで見せず、魔物がいる鉄格子の方へ歩み寄って行く。


 解毒ポーションの治験には、魔物が体内で生成している新鮮な毒を食らう必要がある。

 そうした方がより実戦に近い形の検証ができるからだそうだ。

 そのためにレグルス様は、鉄格子の中に……


 自らの腕を突き入れた。


「シャアッ!」


 瞬間、三頭蛇の魔物が、レグルス様の腕に強く噛みついた。

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