第十七話 「解毒ポーション」
私は今、赤月の舞踏会に向けて、ポーション作りと露店販売に精を出しています。
露店販売を始めてからまだ三日目ですが、お客さんも想像以上に足を運んでくれました。
「こっちにポーション一つくれ!」
「俺の方は三つ頼む!」
「はい、ありがとうございます!」
どうやら王国騎士の皆さんの噂が町にも広がり、すでに聖女の秘薬について知っている人が多かったらしい。
そのため宮廷薬師としてポーションを売り始めた当日から、かなりの行列が露店前に出来た。
価格も瞬く間にギルド側から変更するように言われて、コズミックの町にいた時と同じ1万テルスにしたけど、今のところ客足が遠のく気配はない。
「すごいですね、スピカ様のポーションは。この価格で客足が途切れることがないなんて」
「私も自分で驚いてるよ」
付き添いのベガ君は、露店販売の手伝いをしながらそう言ってくれる。
本来ならレグルス様が付き添ってくれるはずだったけど、あの人は近頃多忙だ。
だからベガ君に付き添ってもらって露店販売を行っている。
いつかはレグルス様とも一緒にポーションを売ってみたいけどね。
でもまあよくよく考えたら、著名な第一王子様が露店に立っていたら騒ぎになるかな?
ちなみに、たまにこんな風に声も掛けられた。
「先日、聖女様の秘薬によって、息子の失われた腕が治りました。本当にありがとうございます!」
「お役に立てたのなら何よりです」
実際に私のポーションを使った人から、生の声を聞かせてもらえる。
やっぱり感謝の言葉を直接もらえると、この仕事をしていてよかったって思えるよね。
ちゃんとみんなの役に立てているっていう実感も得られるし。
「スピカ様、本日の販売分が捌き終わりました」
「わかった、手伝ってくれてありがとね」
買えなかったお客さんたちには、また明日販売をすると伝えて、私たちは撤収することにした。
売れば売るだけ捌けていく。
冒険者が多い町というわけでもないので、正直ここまで繁盛するとは思わなかったなぁ。
蓄えていたポーションの在庫もそろそろ底をつきそうだし。
これは本格的に、みんなの手元に行き渡るように製造数を増やすしかないかも。
今は一日に三十個ほどが限界だけど、午前と午後に作業を分けて、魔力への負担を軽減させる。
そうすることでおそらく、一日に四十から五十近く作れるようになると思うから。
この調子でどんどんポーションを作って、がんがん町の人たちに売っていこうと思います!
「近頃、随分と張り切っているようだね」
「レグルス様……」
朝。
午後の露店販売に向けて、せっせとポーション作りに勤しんでいる最中。
研究室にレグルス様がやって来ました。
「ベガからも聞いているよ。最近はいつも以上にポーション作りに精を出しているって。何かあったのかい?」
「い、いえ別に!」
レグルス様の隣に堂々と立てるように、ポーション作りと露店販売を頑張ってます!
なんて恥ずかしくて言えるわけないですよ……
「レ、レグルス様こそ、朝早くにどうかしましたか?」
いつもはお昼近くに納品物を回収に来る。
それなのに朝早くに研究室にやって来たので問いかけてみると、レグルス様はやや申し訳なさそうに答えた。
「あぁ、スピカに少し話があってさ。作業中のところすまないけど、少しいいかい?」
「は、はい、なんでしょうか?」
何やら改まった様子だったので、私も作業の手を止めて姿勢を正した。
するとレグルス様は、やはりどこか罪悪感でも滲ませるような顔で、私に告げてきた。
「解毒ポーションを作ってほしいんだ」
「解毒ポーション?」
「次の開拓作戦に必要なもので、それも相当な数を集めなければいけないんだ。今はそれをかき集めるのに苦労をしていてね、だからスピカにも解毒ポーションを作ってもらえないかなって思ってさ」
なるほど、開拓作戦用の解毒ポーションの製作か。
確か、いつも私が作っている治癒ポーションと違う薬草を使うんだよね。
鮮やかな青色が特徴の、解毒作用のある『サファイアハーブ』。
あとは魔力循環を良くするスターリーフと水で出来るって、図書館にある本で読んだ気がする。
体に有害な毒を一瞬で消し去ってくれる魔法薬。少し興味はあったけど、作ったことは一度もないなぁ。
「一応、最優先は治癒ポーションの納品だから、余裕がなかったら無理にとは言わないよ」
「あっ、いえ、魔力にも余裕があるので、両方とも一緒に作れると思います。ただ製作経験がないので、上手く作れるかどうか……」
もしかしたら解毒ポーションを作る才能はからきしで、粗悪なものが出来てしまう可能性もある。
それに治癒ポーションの時と違って、治験が難しいというのも問題の一つだ。
毒を浴びている人なんてそう都合よくはいないだろうし、自分で毒を食らうのもなかなかに勇気がいる。
そもそも開拓作戦に使うということは、魔物の毒に対抗するために必要ってことだよね?
それなら実際に魔物の毒で治験しないことには意味がないし、ますます難易度が高いんじゃ……
「その点については心配いらないよ」
「えっ?」
「スピカの解毒ポーションが開拓作戦に使えるかどうか、僕が実際にこの体で確かめるから」
何やら、不穏なことを言い出すレグルス様だった。