表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/85

第66話 違うアタシ

「みんな、ごめんなさい! アタシ、みんなにひどいことしちゃった……」

「メイ。大丈夫だから。あやまらないで」

「でも」

「大丈夫だって。私も、まちの皆も、全員ぜんいん無事だから」


 マリッサにやさしくさとされても、メイがすぐに元気を取り戻すはずがない。

 誰だって、失敗してしまったらしょんぼりするよな。

 俺だってするし。

 今回はそんな軽い話じゃないんだろうけど、重い話にするかどうか決めるのは、少なくとも俺じゃないだろう。


「気にすることは無いぞ、メイ。われらの街は我らが作って来た。つまり、我らが無事ぶじであるならば、何度なんどでも作り直すことができるってことだ」

「バロンの言う通りだと思うぞ、メイ。だから、そう落ち込むなよ。それよりも、街の復旧ふっきゅうを手伝って、少しでも恩返おんがえしをしような」

「バロンさん……ハヤト……うん。分かった。アタシ、頑張るよ! マリッサも、ありがとう」

「いいんだよ。それより、もう身体からだは大丈夫なの?」

「うん? うん。そうだね。今はなんともないや。どうしてだろ?」

 手をにぎったり開いたりするメイの様子は、前とあまり変わってないように見える。

 つまり、元に戻ってるんだけど、そう簡単かんたん回復かいふくするものなのか?

「詳しくは、地龍ちりゅう様に聞いた方が良いんだろうな」


 俺の声と同時に、その場の全員の視線しせんが、ゴーレムの上にいる地龍ちりゅうそそがれた。

 地龍ちりゅうはと言うと、相変あいかわらず寝ぼけた表情ひょうじょうをしてる。

「あ、あの、地龍ちりゅう様。アタシの事、助けてくれてありがとうございます」

「ん~? あぁ、まぁ~ねぇ~。別に大したことしてないから」

「それでも! ありがとうございます!」

「ふふん。そんなに感謝されると、れちゃうねぇ。でも、ホントに大したことないんだよなぁ。それに多分、キミの力は今から必要になると思うからさぁ」

 ん?

 地龍ちりゅう様、今なにか気になること言ったよな?

「アタシの力?」

「うん。キミの魔素まそじゃボクの魔素まそえ切れなさそうだったから、ちょっと活性かっせい化させたんだよ。だから、今のキミは今までのキミとは違うはずだよ」

「今までの、アタシ……?」


 確かに、メイの力ってのも気になるんだけどさ。

 今から必要になるって、どういうことだ?

 考えても無駄むだだな。ストレートに聞こう。

「ちょっと待ってもらっていいですか? 地龍ちりゅう様、メイの力が必要になるっていうのは、どういう意味ですか?」

「あぁ。それはねぇ。ほら」

 気怠けだるそうに頭上ずじょうゆびさす地龍ちりゅう

 彼がしめした方を見上げた俺達は、ガランディバルの天井てんじょうに出来た大穴おおあなふちを見て、絶句ぜっくする。


「あれ……もしかして、全部キメラなの?」

「あれだけの数……あ奴ら、どこから連れて来ておるのだ?」

「くそっ。まだ空港くうこうの皆を助けに行かなくちゃなのに!」

 おぼろ体調たいちょうくずしてたんだ。早く向かわなくちゃいけない。

 でも、あのキメラの相手をしていたら、空港くうこうまでのぼれるのがいつになるやら。

 何か方法は無いか?

 キメラたちを一掃いっそうできる方法とか、街を守る方法とか。

 そう言えば、地龍ちりゅうがいるじゃん。

 アイツらを追い払うのを手伝てつだってもらったり。


 俺がそんなことを考えた時、まるでタイミングをはかったように、地龍ちりゅうが口を開いた。

「それじゃあ、ボクは先に空港にのぼって様子を見て来るから。こっちはよろしく頼むよぉ」

「え!? ちょ、待って!」

 俺の制止せいしむなしく、地龍ちりゅう大地だいち花束はなたばの中に入って行ってしまう。

 あの中を通って上に行けるのか?

 なら、俺達も一緒に連れて行ってくれたらいいのに。

 まぁ、かなわない願望がんぼういだき続けるのはやめておこう。

 そうなると、別の手を考えるしか……。


「ハヤト、マリッサ」

「? どうした、メイ」

師匠ししょうと、吉田さん達の事、助けに行ってあげて」

 不意ふいに呼びかけて来たメイは、自身の両手をじっと見つめながら、俺達に告げた。

「どうしたの? メイ。何か良い考えでもあるの?」

「良い考えなのかは分かんないけど。でも、アタシがやらなくちゃいけないんだと思うから」

「確かにメイの力には期待きたいしてるけど。私も一緒に戦うからね。ハヤトも当然、戦ってくれるはずだから」

「当たり前だろ? メイとマリッサだけにお願いするわけには」

 マリッサに賛同さんどうした俺の言葉を、メイがさえぎる。

「空を飛べるのは、マリッサとガルーダくらいでしょ?」

「それは、そうだけど……」

「急いで師匠ししょう達を助けに行けるのは、マリッサ達しか居ないから」


 メイもおぼろたちのことが心配なんだな。

 かといって、街を放置ほうちするのは違う気がする。

 だとしたら、マリッサと地龍ちりゅう空港くうこうに向かってくれるのが得策とくさくなのでは?

 そうだな。そうに違いない。

「じゃあ俺は良いんだな?」

「ハヤトもダメ! マリッサと一緒に行って!」

「何でだよ!?」

「そ、それは、なんででもなの!」

「えぇ……」


 納得なっとくいかない俺のかたを、マリッサがたたく。

「ハヤト。ここはメイに任せて、行くよ」

「マリッサ? でも」

「良いから。それより、水龍すいりゅう様のうろこ、持ってる?」

 切り替えはやいな。

「持ってるけど。それがどうした?」

「もちろん、使うのよ」

「使うって、今か? 何に?」

「もう忘れたの? 水龍すいりゅうの巣でサハギンがどうやって風龍ふうりゅうの巣まで登って来たのか」

「おい……ちょっと待て」


 マリッサの提案ていあんを聞いて、俺は自分のほお硬直こうちょくするのを感じた。

 実を言うと、俺はすで水龍すいりゅううろこ籠手こてに取り込む実験じっけんをしてるんだが。

 まぁ、なんていうか、あんまり使いたくない代物しろものなんだよなぁ。

 全身にうろこが生えるし、手足は魚のひれみたいになるし、胸元にえらが出来る。

 使ったことある人しか分からないと思うけど、気持ち悪いんだなこれが。


「なぁマリッサ。やっぱり俺もガルーダの背に……」

「それはできないの知ってるでしょ? 私とハヤトの2人は、重すぎるの。メイなら乗せられるんだけど」

「ぐぬぬ……はぁ」

 俺、そんなに太ってるかな?

 いや、まぁ、メイと体格差たいかくさがあるってのは理解してるんだけどさ。

 ん?

 別に俺が重いって決めつけるのは早計そうけいなんじゃないか?

 だって、ガルーダの背に乗るのは俺だけじゃなくて……。


「ちょっと、今、なに考えてるの?」

「ほら、早く向かわないとだろ。すぐにうろこの準備をするから、マリッサも準備をしてくれ!」

「言われなくても準備してるから! それじゃ、メイ。こっちは任せたから」

「うん。マリッサ、ハヤト、気を付けてね」

 危うく水球すいきゅう地獄じごくに落とされるところだったな。とにかく今は、平静へいせいよそおうことに専念せんねんしよう。

「メイもな。バロン、メイのこと、頼んだぞ」

「任せておけ!」

「よろしくお願いします、バロンさん」

「お、おう!! 我に任せておけぇ!!」


 豪快ごうかいに笑うバロンに後押しされるように、俺は籠手こて水龍すいりゅううろこを取り込んだ。

 すぐに体に変異へんいが発生し、俺はうろこえらひれを手に入れる。

 そのまま、ガルーダに乗ったマリッサとウンディーネが作り出した水球すいきゅうに飛び込んだ俺は、水と共に空に運ばれる。


 結局けっきょく、どうして俺はメイと一緒に戦うのをことわられたんだろう?


 そんな疑問ぎもんを地面に残して、俺達は空へと向かうのだった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あ奴ら、ついに動き出したな」

「そうだね」

 ハヤト達が空港に向かって飛び立った後、キメラたちの動きを見張ってたバロンが報告ほうこくする。

 でも正直、アタシは今、それよりも大きな不安をむねかかえてるんだ。

「そういえばメイ。1つ聞いておきたいのだが」

「はい」

「どうしてハヤトを上に行かせたのだ?」

「それは……」


 バロンさんの質問に、アタシは答えられない。

 だって、アタシ自身も、まだ分かって無いんだから。

 今までと違うアタシ。

 それが、どんなアタシなのか。

 それを知るまでは、ハヤトの前に出るのが、ちょっぴり怖い。


「あの、バロンさん」

「どうした?」

「えっと。変、だったりしたら、ちゃんと言ってくださいね」

「ん? それはどういう意味だ?」


 首をかしげるバロンさんの前で、アタシは全身に力を入れた。

 そうすることで、アタシの身体が変になるって、さっき気が付いたから。


 初めに気が付いたのは、指先ゆびさき

 指先ゆびさきに力を入れたら、するどとがったんだ。

 皮膚ひふかたくなってて、よろいてる気分。

 力をけば元に戻るけど、少しだけ違和感いわかんが残る。


 もし、全身ぜんしんに力を入れたら、どうなるんだろう?


 ハヤト、こわがってどっかに行っちゃったりしないかな……。

 ううん。

 ハヤトはこんなことでどっかに行ったりしない。

 分かってる。分かってるけど。

 今までと違うアタシを見せるのは、ちょっと、準備じゅんびが必要かも。


「……ど、どう、かな?」

「なるほど。そういうワケか。大丈夫だぞ、メイ。とても凛々(りり)しい姿だ。戦士せんしとしてうらやましい」

「ホント!?」

「あぁ。われほこりにけて、本当だ」

「そ、そっか」

 バロンさんがそう言うなら、変じゃないんだよね。

「その姿、ハヤトに見せてやると良い。きっとめてくれるはずだ」

「えへへ……そうかなぁ」

「あぁ、だから、今はこの街を守り抜くことに専念せんねんしようではないか」

「うん。ありがとう、バロンさん」

「気にするな。我らもこの街を守らねばならぬからな。それに、われもハヤトに用事が1つ増えたしな」

「バロンさんも? もしかして、ハヤトにめてもらうの?」

「そんなわけあるまい? 少しばかり、らしに付き合ってもらわねば、割に合わんからな」

「そっか?」


 バロンさんの言うことは、たまにむずかしいよね。

 でも、アタシもバロンさんも、ここで負けるわけにはいかないんだ。

 きっと、ハヤト達なら師匠ししょう達を助けて来てくれる。

 それまで、えるんだ。

みなの者!! 準備じゅんびは良いかぁ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 ドワーフ達の雄叫おたけびにじって、アタシはえた。

 ハヤトに、マリッサに、空にかがやく巨大な月に。そして、師匠ししょうに届くように。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ