第52話 ありえない状態
「その反応は、何か心当たりがあるって感じだね」
「それは、まぁ……問い質したい人が1人だけ、いるかな」
マリッサの言う問い質したい人ってのは、間違いなくナレッジのことだよな。
英霊召喚。確か、魔王軍に追い詰められてたエルフ達が、対抗するために使おうとした魔術だったっけ?
具体的にどんな魔術なのかは知らないけど、実際にマリッサが発動したら、意図せずに世界がごちゃ混ぜになっちゃった。
って感じだったよな。
「ねぇマリッサ。その英霊召喚って、使った人は魔術を使えなくなるものだったの?」
「ううん。そんな話は聞いたことないよ」
「ん? おいら混乱してきたんだけど。英霊召喚を使っても魔術を使えなくなるわけじゃないのか? じゃあなんで、嬢ちゃんは使えなくなったんだ?」
「それはあれだろ。ナレッジがマリッサに教えた魔術は英霊召喚じゃなくて、世界をごちゃ混ぜにする魔術だったってコトだろ。つまり、騙されてたってワケだ」
「そうだね。私も、そうなんじゃないかと思ってたところ」
「そっか、そういう可能性があるのか。確かにそうだな」
「細かいことはボクには分からないけどさぁ。お姉ちゃんに朗報があるよ」
「朗報?」
「うん。お姉ちゃんの魔素を回復させる方法。ボクは知ってるんだぁ~」
「それは本当!?」
「モチロンだよぉ。ね、だから、もう少しここに残って、ボクと色々お話していこうよ。絶対、その方が良いと思うよ」
「どんだけ寂しがりやなんだよ」
「べ、別に!! ボクは寂しがってるワケじゃないから!!」
「ねぇハヤト。アタシはもう少しここで話を聞いても良いんじゃないかなって思うな」
「そうだな。たしかに、風龍は俺達が知らないことを色々知ってるみたいだし。話を聞くのは良いかもしれないな」
話してくれるなら、だけど。
睨んでくる風龍に俺が呆れていると、不意にメイが口を開いた。
「そう言えば、風龍さんって触れないんだよね? どうして、その、ハヤトの籠手で撃った弾は触れられるのかな?」
「たしかに、それはオイラも気になってたぜ」
「……」
「答える気無いみたいだぞ」
俺に関する話題だからか? 風龍はしかめっ面を浮かべたまま黙ってる。
「ねぇ。私もそれについて気になってるんだけど。教えてくれないかな?」
「……お、お姉ちゃんがそう言うなら。その男、身体の魔素が変だから、そのせいだよ」
「また魔素か」
思わずそう呟いたら、案の定、睨まれた。
どんだけ嫌われてんだよ。
「魔素が変って、どういう意味? 私の魔素が薄くなってるのと同じってこと?」
「ううん。逆だよ。濃すぎるんだよね。そして無色透明。そんな魔素を材料にした弾を籠手から出してるんだから、ボクに触れられるのは当然だよ」
なんか色々と重要なことを説明してくれてる気がする。
って言うか、風龍はエピタフの籠手についても知ってるのか?
聞きたいことは山ほどあるけど、今は皆の話を聞くことに専念しよう。
「すまん、オイラ、今の説明じゃほとんど理解できないんだけど。どういう意味だ?」
「アタシも分かんない」
「魔素が濃くて無色透明……。私とかメイの魔素はどんな感じなの?」
「お姉ちゃんの魔素は水の魔素がベースになってるから、青色で量も普通だよ。ウェアウルフの魔素は、まぁ地の魔素だね。量はそんなに多くないけど、種族の特性として身体が魔素を活用しやすいように適応してるんじゃないかな?」
「種族で違いがあったりするのか」
「お、オイラはどんな感じなんだ!?」
「猫ちゃんは、う~ん。魔素が見えないや。って言うことは、光か闇のどっちかだと思う。見えないから、量は分かんない」
「光か闇……」
「ちょっと嬉しそうだな」
「そ、そうか? そんなことないけどな」
「今の話だと、ハヤトの魔素が無色透明で、濃いって言うのは、よほど特殊ってこと?」
「そうだね。人間の魔素としては、ありえない状態かな」
「……俺の身体、そんなに変だったのか」
「変態だからね」
「それは今関係ないだろ!?」
ったく、一言多いよな。
「だいぶ話が逸れたけど、結局、マリッサの魔素を回復するには、どうすれば良いんだ?」
「えぇ~? もうその話しちゃう? 話したら帰っちゃうとか言わないよねぇ?」
「言わないから。教えて欲しいな」
「ん。だったら教えてあげるよ。さっきも言ったけど、お姉ちゃんの魔素は水の魔素だから、補充しに行けばいいんだよ」
「補充? それってどうやれば良いんだ?」
「取り込み方はいろいろあるけど、まぁ手っ取り早く終わらせるなら、水龍に会えば良いんじゃないかな?」
「つまり、水龍の巣に行けってことか」
「あの大きな穴が空いてたところだよね? どうすれば会えるのかな?」
「さぁね。ボクもそんなに会ったことないから。あの娘はかなり臆病な性格してるし、穴の一番底に行けば会えるんじゃない?」
水龍の巣。
場所は空港から北の埠頭あたりだから、ちょっとした遠出になる。
バロンが聞いたら寂しがるかもしれないな。
バスとか電車が動いてれば、それなりにすぐ迎えたはずだけど。今となっては、歩いて行くしかないか。
なんてことを俺が考えていると、何かを決意したらしいマリッサが小さく息を吐いた。
「ねぇ。私達を水龍の巣まで運んで貰うコトってできるかな?」
「え~? それはさすがに面倒くさいなぁ」
「そう? なら、私達はもう帰るけど」
「え!? ちょっと! すぐには帰らないってさっき」
「だから、提案してるんだけど? 一緒に向かえば、すぐに帰る事にはならないでしょ?」
「そ、それはそうだけどぉ」
「ま、私はどっちでも良いんだけどね」
「分かった。分かったよぉ。じゃあ、水龍の巣まではお話してくれるってことで良いよね?」
「うん。良いよ」
「やったぁ!!」
なんていうか。マリッサも本調子になってきたな。
「ハヤト? どうかしたの?」
「いいや。何でもない。メイはそのまま、純粋でいてくれよな」
「ちょっと? それはどういう意味で言ってるのかな?」
「待て待て待て!! ガルーダをけしかけるなって!!」
俺とメイのコソコソ話を聞きつけたらしいマリッサが、こちらを睨んでくる。
そんな彼女に釈明をした後、俺達は風龍の望み通り、話をしながら水龍の巣を目指したのだった。