第50話 かくれんぼ
浮島にいる風龍様を見つけ出せれば、ガルーダを返してもらえるかもしれない。
言葉にするだけなら簡単なんだけどなぁ。
風龍様と話した後、手分けして島中を探索した俺達は、未だに彼を見つけることはできないでいた。
「ったく、どこにいるんだよ。まさかこのオイラが見つけれないとは思ってもみなかったぜ」
「ホントに、どこにも居ないね……」
「さすがは風龍様ってところかな。戦わないで済んだと思ったけど、こっちのほうがよっぽど厄介かも」
「たしかにな」
「ふふふ。ボク、かくれんぼはけっこう得意なんだよねぇ」
「得意なら、少しくらいオイラ達にヒントをくれても良いんじゃないか?」
「ヤダよ。だって、これはあくまでも真剣勝負でしょ? ってことは、お互いに手を抜くわけにはいかないとボクは思うんだぁ」
「ぐぬぬ」
俺達が風龍を探している間も、彼はこうして話しかけてくることが多かった。
なにが真剣勝負だよ。完全に俺達で遊んでる。
まるでおちょくるようなことを言って来るし、挙句の果てには、全然見当違いなことを言って、邪魔までしてくる始末。
文句を言ったところで、俺達の様子を見るように飛んでるエアリアルたちと一緒に、ケラケラ笑って流されるだけだ。
正直、かなりイラついてる自分がいる。
でも、ここで冷静さを欠いたら、それこそ彼の思うツボだよな。
今は午後3時頃だろうか?
残された時間も徐々に少なくなってるし、無駄な時間を過ごすわけにはいかない。
「落ち着け。俺。今風龍に怒りを向けても、何の意味も無いんだ」
「そうそう。怒るだけ無意味だよねぇ~」
「っ……」
ホントに、人をおちょくるのが得意だな。
もしかして、龍神様ってみんなこんな感じなのか?
もっと厳格な感じかと思ってたけど、思ったより子供っぽいんだな。
……子供っぽい?
それは俺が風龍様に抱いた率直な印象だ。
つまり、風龍様は子供っぽい性格をしている?
だから何だって話だけど、よくよく考えれば、重要な話だよな。
だって、今俺達がやってるのは、かくれんぼっていう遊びなんだから。
「かくれんぼか。そういえば俺も、子供の頃にやってたなぁ」
「どうしたハヤト? 何か分かったのか?」
「あぁ、いや。分かったって言うか、思い出したって言うか。俺もかくれんぼして遊んでたなぁって思ってさ」
「はぁ? そんなこと考えてる暇があったら、ちゃんと風龍を探せよな」
「分かってるって」
俺に苦言を残して茂みの方を探しに行く朧。
そんな彼の周囲には、クスクスと小さく笑うエアリアルが数体居る。
よく見れば、メイとマリッサの近くにも、同じように笑ってるのがいるな。
間違いなく、俺の傍にも居るんだろう。
これが俗に言う、灯台下暗しってやつか?
どれが本人かは分からないけど、少なくとも俺達の傍に居るどれかが、風龍様ってことになる気がする。
だってそうだろ?
かくれんぼをしてる時、隠れる側は常に、鬼の位置が気になるものだ。
少なくとも俺はそうだった。
そして風龍は自分で、かくれんぼが得意だって言ってた。
それはつまり、見つからない自信があるってワケだよな?
「なぁ皆。少し集まってくれないか?」
「ハヤト? どうかしたの?」
「昔話に付き合ってる暇はないぜ?」
「いいから、集まってくれよ」
「もしかして、何か分かったの?」
「まぁ、そんなところだよ」
頷く俺を見た皆は、すぐに俺の傍に集まってくる。
そんな彼らに向けて、俺は軽い口を開いた。
「これだけ探しても見つからないんだ。きっと風龍さまは約束を破って、空高くのどこかに隠れてるんだろう」
「はぁ!? そんなワケ」
俺の軽口を聞いた途端、どこからともなく風龍のそんな声が響いて来る。
だけど、俺はその声を完全に無視した。
なぜなら、視界の右端に居たエアリアルが、一瞬怒りで顔を歪めたから。
「お前だな!!」
言うと同時に、俺は顔を歪めたエアリアルに向けて、飛び掛かる。
「ちょ、ハヤト!?」
「どうしたんだハヤト!」
慌ててる朧とメイには悪いけど、今はそれどころじゃない。
「な、何のことだか!?」
「ずっと俺達を見て楽しんでたんだろ!? もうバレてるんだ! いい加減捕まれよ!!」
「や、ヤダね!!」
俺の追及に慌てて飛びあがったエアリアル……もとい風龍は、まるで風になったかのように逃げだす。
でも、俺の方が動き出しが早かったこともあって、俺は彼の身体に掴みかかる事が出来た。
……筈だった。
いや、確実に俺の手は風龍の身体に触れたんだ。
だけど、掴むことはできなかった。
だってさ、実態が無いんだよ。
そんなの、捕まえることなんてできるわけないだろ?
「なっ!? ズルいぞ!!」
「知らないね!! ルールには実体がないとダメなんて無かったし!!」
「このっ!!」
「ハヤト!! アタシも追いかける!!」
「メイ、頼む!!」
事態を把握したらしいメイが、すかさず風龍の後を追い始める。
とはいえ、多分彼女でも捕まえることはできないよな。
このままじゃ、せっかく見つけたのに逃げられてしまう。
何か、方法はないのか?
実体がない風龍を捕まえる方法は?
実体がないと言えば、前に籠手から発射した弾はナレッジの魔法を消し飛ばしてたよな。
今は、粘着性のある弾が出るけど。
「試してみるか!!」
すぐに籠手を構えた俺は、メイに当たらないように注意しながら、逃げる風龍に向けて弾を放つ。
直後、短い悲鳴と共に風龍の動きが止まった。
「よし! 上手く行ったか!!」
「うぅぅぅぅぅ!!」
「ハヤト!! 捕まえたよ!! 捕まえた……けど……」
呼びかけるメイの元に走る俺達。
そんな俺達が見たのは、黄色いスライムみたいなものに絡めとられた、緑色の幼い少女の姿だった。
「あぁ……えっと」
「……貴方、こんな趣味が?」
「おいハヤト。さすがにこれは、酷すぎるんじゃないか?」
「いやいや、ワザとじゃねぇし!! って言うか、趣味なわけないだろ!?」
必死に言い訳するけど、マリッサと朧の視線は冷たい。
おまけにメイまで、少し赤面しながら呟いた。
「……さすがにこれは、アタシも無理かも」
「メイまで引くなよ!! それより、早く助け出してやらないと」
「ちょっと待って、ハヤト。貴方は少し離れててくれる? それと、今後私にその籠手を向けないでね。分かった?」
「信用ゼロかよ……」
涙目の風龍をマリッサがスライムの中から助け出す。
そんな様子を遠巻きに見ながら、俺は深いため息を吐くのだった。