第49話 はぐらかす声
「やっと、ついた……」
「ハヤト、大丈夫?」
本当に長かった。
でも、俺達はようやく蔦を登り切って、さっきまで見上げてた浮島の上に居る。
「こりゃまた、すげぇ高い場所まで来ちまったなぁ」
「だね、アタシもさすがにちょっと疲れちゃった」
嵐のど真ん中だから景色が良いってわけじゃないけど、空気は澄んでて心地いいな。
まぁ、疲れと全身の痛みで、それどころじゃないんだけど。
ゆっくり深呼吸して、荒れた呼吸を整える。
ふと視界に入ったマリッサは、呼吸を荒げたまま周囲を見渡してるな。
ガルーダを探してるってところか。
「……」
「マリッサ? どうかした?」
「え? あ、ううん。なんでもない。それより、もう動けそう?」
「あぁ、俺は大丈夫だぞ」
「オイラもだ」
「アタシも、動けるよ! でも、どこに向かえば良いのかな?」
少し座り込んでたおかげで、俺も皆も活動再開できる状態にまで回復した。
とはいえ、あてもなく歩き回るだけの体力が残ってるかと聞かれると、ちょっと怪しい。
「それっぽい建物とかは見当たらないな。てっきり、風龍様とやらが待ち構えてるもんだと思ってたけど」
「って言うか、浮島って言う割に、地面に生えてる木とかがあるんだな。オイラはてっきり、岩だらけの何も無い場所かと思ってたぜ」
「案外、嵐の中心に浮いてるから、いろんな種類の植物の種が集まったりするんじゃないかな?」
「なるほど。マリッサの言う通りかもしれないな」
「そんなことより、取り敢えず、島の真ん中に向かってみない? 風龍様がいるのかは分からないけど、ガルーダは居るかもしれないし」
「そうだね。向かってみよう!」
マリッサの提案に乗った俺達は、メイの元気な掛け声に合わせて、島の真ん中に向かうことにした。
「なぁ、マリッサ。龍神様って誰か見たことあるのか?」
島の真ん中に向かう道中、俺はいくつかの茂みをかき分けながらマリッサに問いかけてみる。
「私が知る限り、龍神様が私達みたいな人の前に現れたって話は聞いたことないよ」
「それは風龍様とかも同じなのか?」
「ううん。風龍様と水龍様は、かつてのレルム王国の国王が話したことあるって、記録にも残ってるよ。それがどうかしたの?」
「いいや。ちょっと気になっただけだ」
そもそも本当に風龍様とやらが存在するのか。
そして、龍神様も、存在するのか。
正直、疑問に思っちゃうよな。
でもまぁ、国王が話したってことは、噂とかそう言う類じゃないらしい。
「記録に残ってるってことは、本当にあった話ってコトだよな。風龍様って、どんな見た目してるんだろうな? やっぱり、龍っていうからには、ドラゴンに似てるのか? オイラ的には、キュートな三毛猫だったら嬉しいが」
「それは絶対にないと思うよ、師匠」
「まぁ、そうだろうな」
呆れるメイに苦笑いを浮かべながら朧が答えたその時。
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「ボクの見た目がそんなに気になるのかい?」
「おわっ!? だ、誰だ!?」
「誰って、今キミたちが噂してた風龍様だよ?」
「ふ、風龍さま!? で、でも、どこにも姿が見えない……」
「そりゃそうだろうね。ボクは今、君達から見えない位置から、声だけを送ってるんだから。あ、もちろん、君達の声はボクにちゃんと届いてるからね。安心して良いよ」
「盗み聞きかよ!!」
「ふふふ、素直な猫ちゃんだね」
「だ、誰が猫ちゃんだぁ!?」
「いや、お前は紛れもなく猫だろ」
思わずツッコミを入れる俺の隣、神妙な面持ちのマリッサが、中空を見つめながら口を開く。
「あ、あの、風龍様。私はマリッサといいます。折り入って、お願いがありまして」
「知ってるよ? ボクのガルーダを連れ戻しに来たんでしょ?」
「ボ……クの? えっと、そのことなのですが」
「ヤだね。あの子はもうボクのガルーダなんだ。今更キミに返すつもりなんてこれっぽっちも無いのさ」
「そんな!」
「人の大事なものを奪うのは良くないと思う!」
「キミがどう思うかはボクに関係ないよね?」
「むぅぅ」
絶望に打ちひしがれるマリッサと、頬を膨らませて不満をあらわにするメイ。
どうやら風龍様は癖のある性格をしてるらしい。
出来れば穏便に済ませたいけど、難しそうだな。
となれば、中途半端に下手に出るより、大胆にいった方が良いかもしれない。
「風龍様。こうして話が出来るなら好都合です。できれば話し合いで解決したいと俺達は思ってるんですが、いかがでしょうか?」
「それはもしかして、ボクに喧嘩を売ってるのかな?」
「さぁ、それはどうでしょうか?」
「ふふふ。面白いね、キミ。ハヤト、だっけ? 実はボク、キミにちょっとだけ興味があるんだよねぇ~」
「ハヤトに興味!? そ、それはどういう」
「なんでメイが動揺するんだよ」
「ってなわけで、ボクから1つ提案だ。キミたちがボクを見つけることが出来たら、少しだけ話をしてあげるよ。もちろん、ガルーダについての交渉もね」
いわゆるかくれんぼか?
でも、このかくれんぼは圧倒的に俺達が不利だよな。
「その話、俺達を騙すつもりじゃないですよね?」
「というと?」
「風龍様って、空を飛べますよね? ってことは、浮島の外にいる可能性もあるワケですし」
「ははは。分かったよ。かくれんぼの範囲はこの浮島の上だけ。空中は無し。制限時間は陽が落ちるまで。それで良いかな?」
「俺は良いと思う。皆はどうだ?」
「私は問題ないよ」
俺もマリッサも、そしてメイや朧も。特に不満はない。
取り敢えず、戦闘になることはなさそうで良かった。
あとは、陽が落ちるまでに風龍を見つけ出すだけか。
それはそれで、難しそうだけど。
どうやって風龍を見つけ出そうか、俺が色々と思考を巡らせていると、悪戯っぽい声が響いて来る。
「よし、決まりだね。それじゃあボクは、ちょっと島の方に戻るから、少しだけ目を閉じててね」
「っておい!? やっぱり島の外にいたのかよ!?」
「ははは、冗談だよ~」
「冗談には聞こえなかったけどなぁ……」
朧のツッコミとメイの呟き。
それらをはぐらかすように、風龍の笑い声が空に響いたのだった。