第47話 頼みの綱
空港に戻った俺達は、すぐに嵐の事とキメラの事、そしてマリッサの事を椿山さん達に報告した。
今の所はまだ、キメラが空港を襲撃していなかったから良かったと考えておこう。
事前に一報を入れたおかげで、迎撃もできるだろうしな。
あとは、メイがマリッサを連れて戻ってくるのを待つだけだ。
メイはマリッサと何を話してるんだろう?
妙に真剣な様子だったから、ちょっと気になるな。
でも、変な詮索はするべきじゃないか。
なんて考えてると、思ったより早く2人は空港に戻ってきた。
雨でずぶ濡れにはなってるけど、怪我とかは無さそうだ。
それだけでも吉報だよな。
と、安心したのも束の間、バロンに召集された俺達は、ガランディバルの最奥にある議場に集まることになる。
「みんな、良く集まってくれた。早速、これからのことについて会議を行いたいのだが。良いだろうか?」
「俺達は特に異議はないですよ」
本音を言えば、もう休みたいところだけど、そうも言ってられないよな。
「よし。ではまず、今の外の状況を整理しよう。ハヤト、頼めるか?」
「はい。俺達が見たのは、風龍の巣によって外が嵐になったっていうのと、ウェアウルフ型のキメラ、そして、マリッサの召喚獣であるガルーダが飛び去ってしまったこと。くらいです。俺は正直、詳しいことを知らないんですが、それぞれ何が起きたのか、説明できる人はいますか?」
「ふむ。1つ目の風龍様がもたらした嵐は、我らにとっては良く見聞きする話だ。かのお方は嵐と共に各地を巡ることで、世界に風を運んでおられる」
つまり、風龍の巣が嵐を運んでるって言うのは、異世界じゃ当たり前の現象ってことだな。
簡単に言えば、結構強めの台風か?
「1つ目については分かりました。それじゃあ、キメラとガルーダの件は、何か分かりますか?」
「……ガルーダは、風龍様に魅了されちゃったんだよ」
「魅了された? それはどういう意味なんだ? マリッサ」
「風龍様は嵐と共に各地を回りながら、風を司る召喚獣を連れ去って行っちゃうの。貴方も見たでしょ? 緑色の光がガルーダに取りつくのを。あれはエアリアルって言う、風龍様の遣う精霊なんだ」
嵐を連れて回るだけじゃないのか。
まじで厄介者じゃん。
と言うことは、あの時マリッサがガルーダを呼ばなかったのも、それを知ってたからなのか。
つまり、もしマリッサが危機に陥ったりしなかったら、ガルーダは連れて行かれることは無かったかもしれない。
……俺がちゃんと護れていれば、マリッサが涙を流すことも無かったってことだな。
「そういうコトだったのか。すまない、マリッサ。俺がもっとしっかりしてれば」
「べ、別に、貴方のせいじゃないから」
「残るは、キメラの件だが。誰か何か知っている者はおらぬか?」
バロンの問いかけに答える人物は現れない。
まぁ、当然だよな。
唯一遭遇した俺達も、何も知らないんだ。
見たことない人たちが知っている事なんて、殆ど無いだろう。
そうとなれば、ここは俺達が発言するべきだよな。
「勘違いなのかもしれないですが、あのキメラはどことなくメイに似ている姿でした」
「なに?」
「早とちりはしないで欲しいんですが。メイも襲われているので、彼女が怪しいとかそう言う話じゃありません。そもそも、俺達が知ってるウェアウルフはメイだけなので、似てると思うのは自然なことだとも思います」
キメラがメイに似ているとか、似ていないとか。問題はそこじゃない。
メイとほぼ同じ身体能力のキメラが現れた。こちらの方が大きな問題だ。
今まではそこいらの魔物と同程度か、少し強いくらいだったのに。
ここにきて、一気に強化されてる。
これは偶然なのか? それとも、何者かの手が加えられたと考えるべきなのか?
もし後者だったとしたら、どうやって? 何者が?
「魔王が戦力増強を図るために、ウェアウルフのキメラを作り出した?」
「ウェアウルフの……キメラ……」
マリッサの呟きにメイがボソッと呟く。
彼女からしてみれば、不安だよな。
キメラがどうやって生み出されているのか、全く分かっていない状況で、自分の同族がモデルのキメラが見つかったんだ。
悪い想像をしてしまうのも無理はない。
悪趣味な想像が、あくまでも想像のままでいてくれたら、どれだけありがたいことか。
とはいえ、情報が無い今、これ以上このことを考えてもキリが無いよな。
物事には優先順位って言うモノがある。
今、この状況で優先するべきなのは何なのか。
考えるまでもないよな。
「風龍の巣に行くためには、どうすれば良いんだろうか?」
「え?」
「なんで驚くんだよ? 連れ戻しに行くんだろ?」
「でも、空も飛べないのにどうやって!?」
驚くマリッサの質問に被せるように、椿山さんが慌てた様子で続けた。
「そうですよ茂木さん。さすがに外がこれだけの雨風なので、ヘリコプターも飛行機も、飛ばせませんよ?」
「椿山さん。やっぱり自衛隊でも無理ですか?」
「ムリです。部下に命を捨てろと命令するわけにはいきませんので」
「そうですよね」
頼みの綱が絶たれてしまった。
ってことは、地球の技術じゃ無理ってことだよな。
そうなってくると、異世界の魔術で何とかする方法は……。
そんなのがあれば、真っ先にマリッサが提案してるはずか。
「ねぇ、ハヤト」
「どうした? メイ。何か良い案でも思いついたか?」
「うん。あの浮島ってさ、何か蔦みたいなものがぶら下がってたよね」
「そうだっけか? 良く見えたな」
「結構長かったから、ちょっとだけ見えたんだけど。あの蔦を登って行ったりできないかな?」
嵐の中、雨に濡れて滑る蔦を自力で登るってことか?
いやいや、メイならできるのかもしれないけど、俺もマリッサも朧も、絶対に落ちる気がする。
「さすがにそれは危なすぎるんじゃないかな?」
「そ、そうかな? 上手くいくと思ったんだけどなぁ」
「いや、提案してくれたのはありがたいよ。メイ」
「うん」
メイの提案以降、誰も案を出すことが無い。
そりゃそうだよな。
空に浮かんでる島に向かう方法なんて、それこそ、ガルーダの背に乗って飛んで行くくらいしか思いつかないだろ、普通。
風龍様の元に行ってガルーダを連れ戻すって言うのは、流石にムリがあるか?
と、俺がそんなことを考え始めていた時、ずっと考え込んでいたバロンが、不意に口を開いた。
「いや、ハヤト。メイの言った案は案外うまくいくかもしれん」
「え?」
「それは本当なの!? バロン!!」
バロンの言葉に真っ先に飛びつくマリッサ。
そんな彼女の勢いに一瞬圧倒されたバロンは、すぐに気を取り直して真剣な表情で頷くのだった。