第31話 本当のところ
吉田さんと一緒に入った店で、俺達は久しぶりに温かい食事にありついた。
聞けば、地上の森で獲れた兎の肉をふんだんに使ったシチューらしい。
やっぱり、旨い飯は最高だよな。
メイも朧も満足げな表情を浮かべてる。
菓子とか缶詰も旨いけど、ちゃんと調理された食事は精神の安定にも効果覿面らしい。
と、そんなことを考えてる俺に、メイが何かを思い出したような感じで尋ねて来る。
「そう言えばハヤト、さっき言ってた話したいことって何?」
「あぁ、そんなこと言ってたな。もしかして、オイラ達に頼み事でもあるのか?」
「いや、頼みごとって言うか、話しておきたいことって言うか。まぁ、意見を聞きたいってところだよ」
「意見?」
「えーっと、一応私も居るのですが」
「あ、大丈夫ですよ。吉田さんにも聞いてみたかったので」
そう言う俺に少し意外とでも言いたそうな表情で頷く吉田さん。
相変わらず表情豊かな人だな。
「単刀直入に言うと、マリッサのことだよ。ナレッジはマリッサがカラミティを起こした犯人だって言ってたけど。あれは本当だと思うか?」
「嬢ちゃんが犯人? オイラがいないところでそんな話をしてたのかよ」
「うん。アタシ達の所にあの女エルフが来て、魔術結晶を集めるのを手伝え~って、脅して来たんだよ」
「エルフ達も魔術結晶を探してるのか!? ってことは、実は目的は一緒だったり?」
「ううん。魔王軍との戦争のために使うって言ってたよ」
「魔王軍……あまり聞き馴染みのない話が出てきましたね」
「なんであれ、奴らとオイラ達の目的は最初から違ってるってワケだな」
「その通りだ。で、皆がどう思うか、聞いておきたくてさ」
そう問いかけた俺の言葉に、皆は少し考え込み始めた。
そうして、一番初めに口を開いたのは、朧だ。
「オイラは……嬢ちゃんのこと信じるぜ。何か隠してる感じはあったけどよ。なんだかんだ言って、何度もオイラ達の事を助けてくれたし。それに、嬢ちゃんが犯人だとしたら、世界を元に戻すために魔術結晶を探そうとするか?」
「そうだね。アタシも、師匠の言う通りだったらいいなて思うよ」
「そうか。ちなみに、吉田さんはどう思いますか? マリッサとはあんまり話したことないかもしれないですけど」
「そうですね。皆さんを前にして言うのは申し訳ないですが、正直なことを言えば、彼女のことを信じるだけの根拠は、何もない気がしてます」
「そうは言うけどよ、吉田のおっちゃん。嬢ちゃんはオイラ達と一緒に魔術結晶を探してたんだぜ? それは証拠の1つにならねぇのか?」
「確かに、魔術結晶を探していたというのが本当なら、信じる余地はあるように思うのですが……でも、本当に探していたのでしょうか? それと、見つけたとして、本当に世界を元に戻すために使ったでしょうか?」
「そ、それは……」
吉田さんの言葉に、朧が口ごもる。
確かに、俺にとってみればマリッサの行動に疑問を感じることも多かった。
例えば、彼女が魔術結晶を探す際に使ってた魔術。
俺には道端に石を並べてただけにしか見えなかったんだよなぁ。
まぁ、理解できない奴には分からない何かを、彼女は感じ取ってたのかもしれないけど。
とはいえ、今の俺はマリッサのことをまるっきり全て疑う気にもなれてない。
「吉田さんの考えも、俺は少し理解できます。だけど、もし彼女が俺達を騙してでも何らかの目的を達成しようとしてたんだとしたら、アイオンであの白いドラゴンと戦ってたことの説明ができない気がするんです」
「そうですか? 単純に外にいたところを見つかったとか」
まぁ、そう思うのが当然だよな。
やっぱり、この場で吉田さんにも話を聞いてもらったのは正解だったかもしれない。
このまま罪悪感を抱え続けるのは、少しきついからな。
「……これに関しては、先に謝らなくちゃいけません。黙っていて申し訳ありません。実は、あの白いドラゴンは、俺のこの腕を追って来るみたいなんです」
「っ!?」
「だから、あの状況で一番初めに白いドラゴンに狙われるのは、本来、俺だったはずなんですよ」
「そう、なんですね」
驚きとも茫然ともとれる表情のまま、吉田さんは呟く。
でも、彼の理解を待つつもりは無い。
「はい。それなのに、彼女は白いドラゴンが外に現れた時点で、応戦を始めてた。しかも、俺達にも隠してた魔術を使ってまで、本気で戦ってた。そのおかげで、俺達を含めた全員に被害が出ていないと考えると。もしかして彼女は、皆に黙って外の見張りをしてたんじゃないかって思ったんです」
「だから、すぐに外に出て戦ってたってこと?」
「あぁ」
「嬢ちゃんがそこまでする理由は何なのか。って話だよな」
俺の考えは一応皆に伝わったらしい。
あとは、当の本人から本当のところを聞ければいいんだけどな。
なんてことを考えていると、店の床を鈍く軋ませながら、1人のドワーフが俺達の元に歩いてくる。
「ふむ。会話に横入りしてしまい申し訳ないが、もしやその話、あのエルフの女子のことを話しているのか?」
「バロン・ガラン様!?」
「そんなに畏まる必要は無い。我のことはバロンとでも呼んでくれて構わん。それより、あの女子の話、もう少し聞かせてはもらえぬか?」
「そんなに気になるんですか?」
隣のテーブルから椅子を引っ張って来て勝手に座るバロン。
そんな彼に軽い気持ちで問いかけてみると、バロンは男気満載な笑みを浮かべながら返答したのだった。
「惚れた女子の事を知りたいのは、当然であろう?」