表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃光の極―KIWAMI―  作者: 木下源影
9/11

第八話 苦難の道と楽な道



   第八話 苦難の道と楽な道



ジャックは極がやりたかったことを見せつけるように、フランクとともに修練場の裏の山の中腹の見晴らしのいい芝生の上で語り合っていた。


もちろんジャックが勇者になって湧いて出た、新しい数々の術についての相談だ。


―― まさか俺の希望を見せつけられるとはね… ―― と極は少々嘆き気味に思って、天国にいる仲のいいふたりに笑みを向けながら、足元にある地獄のような修練場を見入った。


「今すぐにできるわけがねえ!

 だが! できると信じやがれ!」


まさに地獄の鬼教官の極の声が飛ぶ。


その都度誰もが、「おうっ!」と声を張り上げて答える。


もう誰も冗談でも極にすり寄ってくる者はいなくなった。


誰もが、―― なんでもかんでも思い通りにできるのはこの鬼だけ… ―― と思いながらも、自分のできる修練に勤しむからだ。


鬼教官の部下たちも、「イメージングを高めろ! ギューッとしてズバッだっ!!」などと擬音だけで表現するので、わかる者はわずかに獣人だけだ。


よって射撃場にも鬼がいて、集中力とイメージングを集中して鍛えさせる。


「諦めるの早すぎ」と小鬼のトーマが、冷静な顔をしたまま修練者をにらむ。


「はっ! 申し訳ございません!」と誰もが英雄の極にすぐさま謝るしかない。


ひと月に一度あるかないかのこのコミュニケーションに、多くの者が集まるのだが、ほとんどの者が様々な場所で倒れ込む。


燕の弟子だった者たちは、長い時間をかけてまさにこの地獄体験したが、燕の思い通りにはならなかったことを悔しく思った。


だがついに、ヘタレ1号のマルカスが重い腰を上げて、大将から大佐に自らを落とし込んで、ポポンとともに修練場を駆け回り始めた。


ポポンは今は人型の幼児の姿で、普通に遊んでもらっているように思っているが、マルカスは必死の形相だ。


「顔は常に笑みだ!」と鬼教官の極が叫ぶと、「おうっ!!」とマルカスは声を張り上げて答えて笑みを浮かべる。


これが上級者の修行となる。


ちなみにラステリア軍での極の階級は、本人が知らないうちに大佐まで駆け上っていた。


もちろん、この上の出世は望んではいないが、与えられる給料は最高位の大将クラスだ。


現地軍司令という肩書は伊達ではない。


しかもこの宇宙以外での仕事なので、危険手当は倍額になるので、月の給料は大尉クラスの年収になっている。


数名の者にこれほど払っても、軍の腹が痛むことはない。


このラステリアすべての経済はまさにピークとなっていて、一般住民の貧富の差はほぼなくなっていた。


この辺りは、ノーマーク会の尽力によるものだ。


ノーマーク会会員が一致団結すれば、この程度は可能だと見せつけただけに過ぎなかった。


その頂点にいる極は、まさに神という称号まで得ていた。



その翌日、鬼でもある神は、自らの判断で暫定的に合格を出したジャック率いる第二部隊とともに、二番目に宇宙船をトンネルに強制送還した宇宙に向かって飛んでいた。


するとまた統括地の星から宇宙船が飛び出してきて、通信要請が飛んできた。


今回はさすがに創造神が映像に出て、極に丁寧に礼を言った。


『勇者ゼンが自慢げでした』と天使クリルは少し悔しそうに言った。


「今頃は大掃除をしていることでしょうね」と極が機嫌よく答えると、『終わったら、それだけでもやらなきゃね…』とクリルは眉を下げて言った。


「この近隣の宇宙の創造神は未熟な者が多いようです。

 ですが、科学技術的に未発達の星が多いことが、

 助かっていることにもつながっているようですね。

 統括地の創造神が自由にお出かけできなくなる前に、

 小さな問題でも面倒がらずに解決しておくべきでしょう」


極の説教のような言葉に、『…マリーン様にも言われたぁー…』とクリルは耳をふさいで言ったので、極は愉快そうに笑ってから、クリルに別れを告げて隣の小宇宙に飛んだ。



網の結界を張っているトンネルにはやはり見張りの宇宙船がいたが、強制的に後退させて、トンネルを抜けた途端に、無警告でリナ・クーターに攻撃を仕掛けてきたので、第二部隊も協力して、敵宇宙船団の全ての武器を破壊し、ふたつの星に強制送還させた。


そして順当に、宇宙船と武器兵器の破壊という実刑を下した。


さらには現地の軍などに反抗していた者たちの宇宙船と武器も破壊したので、「一蓮托生だったからなぁー…」と遠くで見ていた星の住民たちは納得していた。


今度は力がなかった一般住民たちが食料と大地という力を持つことになり、一気に星の復興に勤しんだ。


特に農地づくりはまさに地獄のようだったが、完成すれば桃源郷になったことは誰もが認めた。


そして大中小三機のリナ・クーターと、巨大な緑竜を神と崇めた。


結局は強い力を持つと星から出てその武力を使いたいだけの、子供の考えしか持っていなかった。


この近隣には、誇りをもって戦っている者はいないと極は思い、急速に宇宙を安寧にして、本来の仕事の約半分を終えていた。



だがその先は、宇宙全体が地獄のようだと感じて、滞在期間を延長して、先の宇宙を訪れることにした。


「…こりゃ、話に聞いていた暗黒宇宙に近い…

 この大宇宙は未成熟なんだな…」


極が嘆くと、「小宇宙と統括地の連なりは本来の四分の一以下ですが、安定は確認できています」と流石が答えた。


「早々に暇にはさせてもらえないようだ。

 この先は今までのように簡単にはいきそうにない」


極は覚悟を決めて、この宇宙にひとつしかない、生物が住む星に飛んだ。



目的の星の大気圏に飛び込むと、大勢の悪魔たちが天使たちを襲っているように見える戦場が見えた。


極たちは宇宙船を出て、かなり遠い場所にある山の頂上から戦場を見下ろしている。


天使たちはこの村に住む人間たちを守っているように見える。


しかしその天使たちは、悪魔に負けないほどに厳しい表情をして悪魔たちをにらんでいる。


「この戦い、何が目的なのかわかる者」と極が少し手を上げて聞くと、ジャックがすぐさま手を上げたが、誰も手を上げないので、ジャックは大いに戸惑っている。


「ひとりしか手を上げなかったから、自信がなくなったことはわかるけどな…」と極は言って苦笑いを浮かべた。


「ジャック、ひと言で説明してくれ」と極が言うと、ジャックはわずかに考えて、「巧妙に仕組まれた利害関係」とだけ答えた。


「そう、正解だ。

 この回答を導くためには、

 この星の外からの気配も知っておく必要があったんだ。

 この星からは悲壮感を感じられなかった。

 そして今もそうだが、視覚的には悲壮感を大いに感じる。

 ここはな、悪魔、天使、そして人間の魂の修行場なんだよ」


この時点で極の言葉を何とか理解できたのは獣人たちの半数だけだった。


そういった雰囲気は、獣人たちは人間よりも敏感に察知することができる。


「この戦いを一瞬にして止める方法はある。

 悪魔か天使を引かせれればいいだけだ。

 しかもそれをしないと大宇宙は広がらないから、

 できれば速やかにやってしまいたいんだ。

 どうだ、ジャック」


極が問いかけると、「悪魔に魂まんじゅうをやる」とジャックが無感情に答えると、「そう、正解だよ」と極は友人のノリで言った。


「ではそれをすればどうなるのか、

 実際に見てもらおう」


極は言ってタルタロスに変身してから、魂まんじゅうの入っている箱を出した。


「全部食っちまうか…」とタルタロスが言うと、誰もが笑っていた。


タルタロスは飛び上がって、にらみ合っている悪魔と天使の真ん中に立って、双方を見回してから悪魔の方に体を向けた。


そして箱を開けて魂まんじゅうを食らい始めると、悪魔たちの生唾を飲む雰囲気を大いに感じた。


「ほら、欲しい者は食え食え!」とタルタロスは言って、大勢いる悪魔たちの目の前にテーブルを出して、箱を山積みにした。


悪魔たちは我先にと、箱に手を出してうまそうにして食い始めた。


天使たちは受け身でしかないので、この光景を見ているしかない。


しかしこのままでは天使たちの目的が達成されない。


タルタロスはジャックに魂まんじゅう用の農地を造り、人間に指導するように言った。


それも、ある程度以上に厳しくするように命令した。


部隊員たちは出番はあったと思い、まずはジャックの指示で魂まんじゅうの農地と、人間用の農地を作り上げた。


そして今度は人間たちに同じようにして働かせた。


まさに奴隷一歩手前のような働かせ方に、天使たちは眉を下げたが、部隊員たちをなだめて人間たちを癒して、そして、人間たちの感謝の気持ちを受け取った。


「…よーく、理解できた…」と黒崎は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


まさに誰もが悲壮感を流すことなく、この場は平和になったのだ。


「人間ども! さっさとまんじゅうを造りやがれ!」と悪魔たちが叫ぶと、「それ程すぐにできるものではありません!」と天使たちがすぐに対抗した。


腕力的なケンカが口げんかに変わったが、誰も肉体的にも精神的にも傷つかなくなっていた。


「人間の修行としては、過酷な状況で生き残り、

 まじめに働くという、魂のための刷り込みが利益だ」


タルタロスは言って極に戻って、仲間たちとともに宇宙船に戻った。



この星をジグザクに飛んで回ったが、この広い星には今の団体しか生息しておらず、動物の姿もない。


しかし、植物と虫は生息していたので、それほど心配することなく、宇宙船は星から離脱した。


「もしも、魂まんじゅうがなければ…」とトーマが思案しながら言うと、「あの星は長い間あのままだったはずだ」と極はすぐに答えた。


「もうわかっただろうが、悪魔は昇天した人間の魂を食う。

 だから人間を襲った。

 しかし副食として、人間の恐怖心まで食らっていたから、

 視覚以外の悲壮感は感じなかったんだよ」


「…ああ…」と誰もが言って納得の笑みを浮かべた。


「あとは知っての通り、

 天使たちは大いに人間に尽くして礼をもらうことが糧となる。

 なかなか原始的な仕組みだろ?

 さらには、人間の利点だが、

 暗黒宇宙に根づく人間の魂は高尚なんだ。

 誰もが経験できない経験をしているわけなんだよ。

 この宇宙で生死を繰り返して、

 強い魂と弱い魂の差が生まれることにもなるわけなんだ」


極の言葉に、誰もが感心しながらもうなづいている。


「先のトンネルに変化が現れました!」と流石が陽気に叫ぶと、誰もが映像を見入り始めた。


「これでひとつ層が厚くなった。

 今回の旅は有意義だったよ。

 宇宙の状況によっては、

 今と同じことがあるとは限らない。

 この先も、俺たちは頭も使って正しい道を歩むしか、

 平和の道はない。

 そのつもりで、さらに修練と経験を積んで欲しい」


極の言葉に誰もが一斉に胸に拳を当てた。



「今回の件でようやくガイアの力を解放されるそうです」


極たちは帰還したその足で大神殿を訪れた。


そしてマリーンに歓迎を受けて、この話が始まった。


「明日の朝までには、この大宇宙はすべての厚みが一段上がります。

 そのあとに、白竜様が天使の光を放つそうです。

 そうすれば、この大宇宙の中心であるこの宇宙は、

 ようやく万全となるでしょう。

 このお仕事は、前回から数えて約300億年ぶりのことらしいのです」


「…おー…」と誰もが明るいだろうと予測する話しを聞いてうなり声を上げた。


よって、ある程度の宇宙の厚みがないとできない処置だったのだろうと極は感じていた。


もちろん、あとで前回の記録を探ろうと思い、覚えておくことにした。


「本来であれば浄化を施したいそうですが、

 住んでいるのは天使だけではございませんので、

 さすがにそれができないことを悔しがられておられます」


マリーンの言葉に、誰もが眉を下げていた。


「明るいニュースとしては、天使の光は悪を寄せ付けないことにあります。

 よってこの星の住人たちは特に顕著な変化が現れます。

 できれば、みなさん改心していただきたいところですね…」


マリーンは言って、プルプルボールを手に取って笑みを浮かべた。


「さらには困った良き方も生まれますので、

 注意が必要です」


マリーンのこの話に、ほとんどの者が怪訝に思っていた。


困ったいい人の想像ができなかったからだ。


「浄化ができてしまった人間、と言っていいのでしょうか?」と極が聞くと、「はい、そういうことですわ」とマリーンは笑みを浮かべて答えた。


「几帳面過ぎて潔癖症過ぎる人間は少々面倒で危険だ」


極のこの言葉だけで、「…ああ…」と誰もが言って、その事情がよくわかっていた。


「だけど、それを維持しようと行動を起こそうとした時に、

 ようやく自分の考えが間違っていたと気づくんだ。

 だがそれを気づいた時には遅い場合もあるから、

 警察には周知させておいた方がいいだろうね。

 いい人が、考えられないほどの犯罪を犯したと同時に、

 自死を選ぶ、とかね」


「基本的には異議を唱えるだけでしょう。

 もちろん、この子の件は大いに話題となることでしょうね」


マリーンは言って、またプルプルボールに触れた。


「配布するにも販売するにしても、

 様々な条件を付けますので問題はありません。

 問題の起こっていない大神殿のボールと、

 軍に出向しているボールたちは守られますから」


極の言葉に、マリーンは穏やかに頭を下げた。


マリーンはつかんだボールをジャックに渡した。


ジャックが大いに恐縮して受け取ったとたん、「…これだと問題ない…」とジャックは言って、マリーンに頭を下げながらボールを返した。


ジャックの知ったことを誰もが知りたがったが、すでにジャックはみんなの気持ちを察していた。


「簡単に言うと、持ち主の名前が書いてあるんだ。

 それ以外の者が奪うと、極に戻ることになっている。

 もちろん、兄弟げんかの場合も有効だ。

 よって、悪意などをもって奪うという感情に反応する。

 だから持ち主から預かった場合は、

 今のようにごく普通に受け渡しできる。

 よって持ち主の子供たちが眠っていても、

 奪うという感情があれば、

 ポールは極に戻ってくるということになる。

 持ち主はわかっているので、

 あとは警察の住民生活安全課にでも任せておけばいいはずだ。

 軍施設内にも警察はあるから、

 署員を少々増やしてもらえば対応は可能だろう。

 もちろん、警察署員にも悪いヤツはいるから、

 油断はできないだろう。

 さらにはボールには音声認証も利用可能だから、

 その声質にしか反応しないようにする設定もあるようだ」


ジャックが語り終えてすぐに、極が拍手をすると、誰もが極に倣った。


「細かな問題はあると思いますが、

 できれば広めていただきたいですね」


マリーンの希望を聞いて、極は胸に拳を当てた。



極はそろそろ辞去しようと思ったのだが、マリーンが大いに眉を下げていた。


「明日は休日をいただいたので、

 昼食でもご一緒にいかがでしょうか?」


極が気を利かせて言うと、マリーンは満面の笑みを浮かべて手のひらを合わせた。


「あんた、極に甘えすぎ」と燕が厳しい目をしてマリーンを見て言うと、「極様が許してくださったもぉーん!」とまさに娘が口答えするようにマリーンは言った。


もちろん、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


「…あんたの弱点もよく知ってるつもりよ?」と燕が言うと、マリーンは大いに怯えた。


「極が気に入ってくれたのに、あんたが嫌いだなんてねー…」と燕が言うと、ジャックはすぐさま察して、「…お気持ち、察します…」と小声で言った。


「あのお方は、悪よりも怖すぎます!!」とマリーンは立ち上がって大いに叫んだ。


「…あ、あら… 興奮し過ぎちゃいましたわ…」とマリーンは言って、椅子に座ってから薄笑みを浮かべた。


「…悪よりも怖かったんだぁー…」とジャックは小声で言って、大いに納得していた。


「…悪の場合は、扱いは妖怪のようなものだからね…

 ポポタールは肉体を持っている神獣。

 神なんだから、本来の威厳のある神の姿のようなものよ」


「誰にでも得手不得手はございます!」とマリーンは大いに反論したが、極は愉快そうにして親子喧嘩を楽しんでいるだけだった。


「お母様だって、大いに慌てふためいたことがおありだったそうではないですか」


マリーンの反撃の言葉に、「その程度はあるけど、今回の件とはそれほど関係ないわよ」と燕は大いに呆れたように言った。


マリーンは少々言い過ぎたと思ったようだが、「…うー…」とうなって燕を見入っている。


「発情期かしら…」と燕が言った途端、極を含めて誰もがすぐさま顔を伏せた。


ここは笑うわけにはいかなかったからだ。


それにマリーンが反論しないので、燕もここは黙っておくことにしたようだ。


「まあいいわ…

 極、帰るわよ」


燕が穏やかに言うと、極はようやく顔を上げて、マリーンに挨拶をしてから、宇宙船に乗って軍施設に戻った。



宇宙船を格納庫に仕舞い込んで、リナ・クーターを外に運び出している時に、「…どうしたものかしら…」と燕は大いに眉を下げて極に言った。


「…発情期…」と極は言って、サエの件を思い出して腹を抱えて笑った。


「そういったことも含めて、天使修行だと思うよ」と極が答えると、「…天使はその道しかないからねー…」と燕は少し嘆くように言った。


「できれば甘いエサは与えたくないんだ。

 ここは何とか乗り切ってもらいたいところだね。

 そうでないと、マリーン様としては使えなくなってしまうから。

 こういったことで、表裏逆になるんだろうね」


「…はあ… リクタナリスもそういう事情があったのかもね…」


燕はさらに理解を深めて、何度もうなづいた。



別荘に戻って、遅い夕食を取った極たちは、子供たちを相手に遊んで寛いでいる。


勇者ごっこのようで、ホログラムを使った敵を相手にして打ち倒すというものだ。


体格に合わせて相手が変化するので、まだ赤ん坊でしかない宇宙が怖がることはないし、大きくてもどこ吹く風で、恐れることをそれほど知らないように勇敢だ。


更に何の効果もなくおもちゃでしかないレーザーソードとレーザーシールドも子供たちにとってはかっこいいと思っているようだ。


すると宇宙が極にすごいところを見せて欲しいと言ってきた。


極は宇宙の言葉に応えることにして、なぜか燕を呼んだ。


「姫! 私の後ろに!」とまさに芝居のように極が言うと、「勇者極! 頑張って!」と燕は大いに乗って、ふたりは三文芝居を始めたが、子供たちはワクワクしていて、興味津々の目をふたりに向けた。


すると、かなり逞しい巨体の男性が現れて、相手もレーザーの剣と盾を持っている。


「姫! 離れないでください!」


「わかったわ! 勇者極!」


ふたりの熱演に子供たちの手に力が入っている。


さらにホログラムとの戦いが始めると、子供たちは、「がんばれぇ―――っ!!!」と自然に声援を送り始めた。


もちろん、極は相手が強敵のように思わせるために、ピンチのように見せかけているのだ。


しかし、「ミラクルスラッシャー!!」と叫んでごく普通にホログラムを切り裂いて消えたことを確認してすぐに振り返り、「姫! お怪我はありませんか?!」と燕の心配をした。


「…あー…」と子供たちは、声を上げた。


強い相手に勝ったことよりも、守った相手を気遣う心が大切だと感じたようだ。


もちろん極もこれを狙ったのだ。


燕は言葉もなく、本気で極に抱きついた。


燕が何も言わないので、「…なんか言って…」と極が眉を下げて言うと、「…本気で感動しちゃったから…」と燕は言って涙を流した。


子供たちも感動して、極と燕に大拍手を送った。


そして子供たちは誰かを守るようにして遊び始めた。


「…ふむ… こういった刺激もいいのかもしれない…」と極がつぶやくと、「…いいかもしれないけどね…」と燕はすぐに察して、ため息をついた。


そして極はほんの10分程でロボットを創り上げた。


「…厳ついわね… マリーンは好まないと思う…」と燕は眉をひそめて、大男を見上げた。


「だからこそいいと思ってね」と極は言って、ロボットの逞しい背中を軽く叩いた。


「大神殿のわかりやすい警備員でいいと思ったんだよ。

 それと、美女と野獣になればいいなと思っただけだよ」


「…さっきの、やらせるわけね…」と燕は言って、呆れた顔をした。


「燕さんだって役に入り込んで感動してたじゃないか…

 暇つぶしとは言わないけど、

 こういった多少の刺激は必要なんじゃないのかなぁー…

 まあ、悪魔たちとマイクさんの組手程度は見ているんだろうけど…」


「あっ」と燕は言って、少し考えて、「…そういったところにもイラつく何かがあったのかも…」と燕は言って何度もうなづいた。



そのころマリーンは大いに心を静めてから、ガイアではなくいきなり白竜に身を変えた。


もちろんマリーンの変身ではなく、その魂はガイアだ。


「…ほんと、久しぶり…」と白竜はその長い首を伸ばしてリナ・クーターを見上げて胸を張り、翼を大きく広げた。


すると白竜の魂が白く輝き始め、あっという間に大神殿を包み込んでいた。


大勢の天使たちはエントランスにいて、全員が祈りを捧げている。


その光は簡単にラステリア星を包み込み、宇宙全体に広がった。


俯瞰で大宇宙を見ると、それはただ白い点にしか見えなかったが、中心にある小宇宙が輝き始め、その光はトンネルをくぐって、四つある統括地の宇宙にも流れ込んだ。


さらに別の小宇宙にも光が届き、その先の統括地の宇宙をのみ込んだ時にようやく止まった。


この光の範囲内は、ガイアによって守られることになる。


よってほぼ、この大宇宙に安寧が訪れたことになる。


しかし、それは終わりではない。


この大宇宙には8つの軌道エレベーターがあり、8つの大宇宙とつながっている。


極たちはさらに別の大宇宙に旅立って、全てを正すことになる。


今までの仕事は、その予行演習に過ぎなかったのだ。


白竜は光を弱め、そしてマリーンに戻った。


「…お母様、いいなぁー…」とマリーンはつぶやいた。


しかし、―― 謝らなきゃ… ―― とマリーンは思って、懺悔の祈りをささげた。



予想外に、極と燕が朝一番にやってきたので、マリーンは大いに戸惑ったが、落ち着いた雰囲気で、「おはようございます」と挨拶を交わしたが、子供ならひと目見ただけで泣き出しそうな厳つい大男が極の隣にいたことにようやく気付いた。


「実は、警備員でもと思って創ってきたのです」と極が言うと、マリーンは極の想いに感謝して礼を言った。


「…うふふ…」と燕が意味ありげに笑うと、マリーンは大いに戸惑っていた。


「リナ・クーターだけでも十分なのですが、

 やはり見た目恐ろしい門番がいても問題ないかと。

 魔除けのようなものだと思っておいてください。

 もしも少しでも気に入られなければ、

 修正しますので」


「もちろん、大歓迎ですわ」とマリーンが言って大男に笑みを浮かべると、大男はすぐさま胸に拳を当てた。


大男は純白のスーツを身にまとっていて、体と顔が怖いだけで、マリーンが見ても何も問題はなかった。


しかも、ロボットであることはわかっているので、全般的に極を信用していた。


「時にはお話のお相手もできますし、

 きっと、マイクさんも悪魔たちも喜ぶと思いますから、

 たまには貸してあげてください」


極の言葉に、「そういたしますわ!」とマリーンは陽気に答えてさらに極に礼を言った。


そして極がマリーンに別れを告げたが、燕はここに残るようで、極だけが別荘に戻った。


極は今日はタルタロスを鍛えようと思い変身した。


「…別にいいんだが…

 気を使わせたな…」


タルタロスはつぶやいて、魂まんじゅうを食べながら軍の食堂に出ると、誰もがすぐにタルタロスを見つけて大いに怯えた。


タルタロスは何も言わずに外に出て、修練場に行ってから、ランニングコースで走り始めた。


やはり走るだけでもやっておいた方がいいと思ったのか、かなり本気で走って、いつもの時間でいつもの倍を走った。


汗もかかないし疲れもしないが、気分爽快になっていた。


そして動物たちが好む草原に行って、流石とふたりして勉強会を始める。


特別な何かを知るわけではなく、なんでもいいので勉強をすることが重要なのだ。


「…まさか、これが悪魔が強くなれる秘訣とはな…」とタルタロスは大いに嘆きながらも、カレッジ用のテキストを読んでいく。


「…おっ! ラッキー!」とタルタロスが叫ぶと、「おめでとうございます」と流石が笑みを浮かべて祝福した。


「探知以外にも何か欲しいと思っていたんだ。

 これはかなり遊べそうだ」


タルタロスは機嫌よく言って、小さい穴の採掘坑に小さなリナ・クーターを放って、鉄に近い、それほど価値がないものばかりを採取した。


「…ふむ… 一段階、二段階、三段階…」とタルタロスはつぶやきながら鉱物を選別して、そのグループ別にした鉱物をすべて金にして、最終的にはひと固まりにした。


「…問題はここからだ…」とタルタロスは言って、重さ100キロほどの金を一気に圧縮して、手のひらサイズの薄いメダルのようなものを造った。


「…まだ完成ではないが、岩程度であれば、まあ、減ることはないだろう…」


タルタロスは言って、メダルを指に装着して、かなりきれいに切れている岩を軽くこすっただけで、鏡のように反射するような光沢を持った。


「全く減らなかったようです。

 しばらくの間は、その形状を維持すると思います」


流石の言葉に、タルタロスは納得するようにうなづいた。


そして、磨き上げても問題のない場所はすべて磨き上げ、辺りを見まわして何度もうなづき、満足したようで極に戻った。


「…一気に錬金術の上を行ったね…」と極は大いに苦笑いを浮かべて言った。


そして円形で指にはめるための取っ手がついているメダルを出すと、やはりなかなか重いものだが極でも楽に装着できた。


そして石切場に行って、壊れた時のための予備の岩を磨き上げて喜んでいる。


「…白い岩…」と極は言って、石灰を混ぜた岩を作り上げて大いに納得して、必要数だけを造って組み上げてから磨きを入れた。


「こんなもんでいいだろう…」と極は言って、リナ・クーターを呼び寄せてから、小さな神殿を宙に浮かべた。


大男が極の姿を確認してすぐに、「…これは素晴らしい…」と地響きがするような声で言った。


「君の待機場所と思ってね。

 あ、名前はもらったの?


極が聞くと、「はい、ハルクと」と大男は言って、胸に拳を当てた。


「強そうでいい名前だ」と極は言って、エントランスの門の前の左脇に、ハルクの待機場所となる小さな神殿を置いた。


するとマリーンと燕もやって来て、「…何をすればこうなるの…」と燕は言って、待機小屋の壁を手のひらでなでた。


「…大神殿にもこの輝きを…」とマリーンが言うと、「ええ、やってしまいましょう」と極は言って、まずは門から磨き上げて、わずか10分ですべてを磨き終えた。


「そろそろ昼食の時間ですね」と極は機嫌よく言って、大神殿に入って行った。


燕は上空から大神殿を見て、「光りすぎてて神殿がないように見えるわよ?」と言うと、「いえ、これで構わないのです」とマリーンは言って、感謝と労いの祈りを捧げた。


リナ・クーターが今まで通り普通に見えることで、ここに大神殿があることは誰にでもわかる。


居残りの天使たちも外に出て来て、今日はエントランスで食事を摂ることにしたようだ。


一般人の閲覧者は、時間になったので大神殿を出て行ったが、後ろ髪を引かれる思いだったようで、少し離れて、鏡のような大神殿を見入って、感激の祈りを捧げている。。


実はと言えば、できれば極と話をしたいところだったが、極は大神殿とは直接関係のない人物なので、これは常識的なことだ。


しいて言えば、一見使用人のように見えるが、マリーンの賓客であることは周知の事実だからだ。


よって極から話しかけない限り、話をすることは不可能だ。


もちろん極にもわかっているので、気になったとしても話しかけることはない。


こういったいい人の部類に入る人の中には、使える人は多いからだ。


しかし、ある程度以上のハードルを設けないと、部下だらけになってしまうので、ここが難しいところだ。


やはり秀でた何かをひとつでも持っている者が大いに目立つものなのだ。



「やすりには見えないんだけど、薄いのに異様に重いのね?

 これって金なの?」


燕が興味を示してクッションの上に置かれているメダルを見入って言うと、「ダイキンというものらしい」と極が詳細を説明すると、「…タルタロスが造ったんだぁー…」と燕は感動して言って、いつの間にかポポタールに変身していて、その恐ろし気な指でメダルを装着していた。


「…ああ、婚約指輪…」とポポタールが恐ろし気な声を発すると、マリーンは金縛りのように固まって、動けず声を発することなく涙を流していた。


極は眉を下げてタルタロスに変身すると、「…あら、ついつい…」とポポタールは言ってホホを赤らめてから、ダイキンの工具を外して燕に戻ると、タルタロスは大いに苦笑いを浮かべてから、極に戻った。


「無意識ですので」と極が真剣な眼をしてマリーンに言うと、「…怖かったぁー…」と燕に眉を下げて言った。


「慣れなさい」と燕がなんでもないことのように言うと、「はいぃー…」とマリーンは素直に答えて、この件は修行にすることにしたようだ。



昼食会を終えてマリーンの機嫌はすっかりと直っていて、「では、本日二回目の公演です」と言って立ち上がって、ハルクとの寸劇を極にも披露した。


天使にとっては素晴らしい刺激になっているようで、マリーンは正常化したと極は思っている。


さらには敵のセリフも追加されていたので、なかなかいい芝居だったと極は思って、陽気に拍手をした。


特にハルクの腹に響く声は、ある意味悪者だったが、天使たちは涙を流してハルクを神と認めて感謝の祈りを捧げている。


どれほど悪いヤツがやって来ても、強いハルクが常に守ってくれていると思うと、さらに安心できたのだ。


もちろん、それほどに悪いヤツは、この大神殿に近づけないことはもう十分に知っているので、自分自身の修行だけに専念できるように変わっていた。


マリーンの気持ちも、まさに天使たちと同じだった。


極ほどではないにしろ、その存在感と腕力の強さと優しさは、マイクが師匠だったからだ。


マリーンとしてはこの強いハルクを欲していたのだと、今になってようやく理解できていた。



翌日極は、本隊だけで大宇宙の端にある、別の大宇宙に続く、軌道エレベーターのある宇宙に飛んだ。


やはり宇宙の果てまで飛んでくる者はいないようで、魂の気配すらない。


その軌道エレベーターのエリアにもトンネルがあるので、そこを網目の結界でふたをした。


トンネルに大小はなく、どこも均一の広さで、百人乗り程度の宇宙船であれば行きかうことが可能になっている。


よって大きな宇宙船では、宇宙を飛び出すことは不可能になっているので、生物の大移動などは困難な造りとなっている。


これを7カ所繰り返すと昼時になった。


特に気になる気配はなかったのだが、警戒を緩めることなく、近くにあった生物の住む星に向かった。


現在は植物だけ生息しているようで、ここで昼食を摂ることに決めた。


暗黒宇宙にある星は、どこもどんよりと曇って見えるが、雲はない。


そして太陽がないのに辺りの確認ができて夜は来ないとう、変わった場所でもある。


極は大いに料理を作って、パートナーたちと大いに食らう。


今までの数倍の食欲に誰もが心配したが、「食べているように見えるけどね、それは違うの」と燕は言って、その説明をした。


パートナーたちは大いに理解を終えて、この先の極のイベントを楽しみにした。



まずは極が気になった軌道エレベーターに乗った。


そして極が事前に命令した言葉通り、移動中は極を含めて目をつぶっていた。


そしてエレベーターが止まってから、「瞬きした人」と極が言うと、燕とトーマが申し訳なさそうな顔をして手を上げた。


「燕さんは経験者のはずだからどうなるのか知っていて当然だ。

 そしてさすがトーマ、ほとんどダメージはなさそうだ」


「…意識して見ないように気を付けたことがよかったようです…」とトーマは言って眉を下げた。


「先に命令しておかなとな、瞬きした瞬間に興味を持って見入るんだ。

 そうなった場合、よくて廃人だ。

 パートナーの中でずば抜けて器用なのはトーマだけだからな。

 ほかの人たちはさらに修行を積んでいく必要があるから、

 俺が言ったことを素直に聞いておいた方が身のためだぞ」


極の少し厳しい言葉に、パートナーたちは一斉に胸に拳を当てた。


トーマは特に喜ぶことなく眉を下げていたので、獣人たちはその過酷さを知って、極の言葉通りにすることに決めた。



リナ・クーターは小宇宙と大宇宙を2ブロック抜けた。


もちろん気になる場所に立ち寄るつもりだったが、ごく一般的な暗黒宇宙だと判断して後回しにしたのだ。


すると誰もが、「…あー…」と言って笑みを浮かべた。


「感情などはそれほど感じなかったが、

 体の重みが取れた気がしただろ?」


極の言葉に誰もが賛同したが、「小さな不幸を無数に感じます」とトーマが神妙な顔をして言った。


「なぜそうなったのかは、太陽のあるなしで決まるんだ。

 暗黒宇宙には太陽が生まれないからね。

 よって異様な重みは消えるのだが、

 光あるところには影がある。

 トーマが言ったように、今は小さく感じるが、

 大きな不幸が無数に生まれる。

 よって、それを極力なくしてから移動しようと思う」


極は語ってから竜の鎧をまとって、出撃ブースに入ってから外に出て、黒竜に変身した。


「…行けばよかったぁー…」と燕は言ったが、今は黒竜を見入っている。


そして黒竜は推定で一キロほどの大きさとなってから、まずはその胸が光った。


そして一瞬胸が大きくなったと思った瞬間に口を開いて輝く何かを吐き出した。


小宇宙に、赤く黄色く燃える太陽が現れたのだ。


しかしそれほど大きくなく、維持できるのは千年にもならない。


だが今はこれで十分で、次は横に移動を始め、統括地を抜けて小宇宙に出てからまた太陽を吐き出した。


「もうひとつ移動してから、

 中央の小宇宙から縦にひとつ移動して太陽を造れば、

 この近隣はかなり安全になるはずです」


流石の言葉に黒竜は従って、合計四つの太陽を吐き出した。


黒竜は一瞬にして竜の鎧に戻ってから、リナ・クーターに戻ってきた。


「飯が足りなかった!」と極は言って、非常食を食べ始めてすぐに落ち着いた。


「守るべき人たちが多すぎるのも問題だから、

 自分の運命は自らの手でつかんでもらおうと思ってね。

 悪いヤツらを少々弱体化させた。

 だけど、ここには自然界の神がいたはずなのに、

 300億年も経つと別の場所、だよなぁー…

 太陽系は3回ほど生まれ変わっているから、

 当然なんだけどな…」


極は言ってから、今日のところは引き上げることにして、異空間航行でリナ・クーターを大神殿の上空に浮かばせた。


「帰りは楽をした。

 やはり肉体の鍛錬は毎日にした方がいいからな」


極の言葉に、パートナーたちは笑みを浮かべて賛同した。


マリーンはすぐに気づいてエントランスに飛び出してきて、巨大なリナクーターに陽気に手を振った。


そして白竜に変身して満足そうにしてうなづいてからマリーンに戻った。


極たちがリナ・クーターから飛び出してくると、「ご褒美を差し上げたいほどですわ!」と大いに陽気に極に言った。


「黒竜の力も試そうと思いまして。

 今回は楽をさせていただきました」


極の言葉にマリーンは薄笑みを浮かべて首を横に振って、「お隣さんの10分の1ほどは、白竜様が受け持つそうですから」と穏やかに言った。


「できれば中心を速やかに目指します。

 早ければ明日にでも到達できるでしょう」


極の言葉に、マリーンは大いに喜んで、極たちをお茶に誘った。



席について落ち着いてから、「だけど、この星がなくなったら、またやり直しなのよね?」と燕が素朴な質問をすると、「この星はなくなりません」とマリーンは断言した。


「その部分も白竜様と黒竜の力なんだ。

 白竜様が放った術は、極めて異空間に近づける効果があって、

 黒竜は都合のいいものを異空間からひょいひょいと頂けるようになる。

 そうやって永遠にこの星は存続できることになるんだよ。

 もちろん、有効なのは白竜様が存在することと、

 黒竜が作業をする必要があること。

 作業は気付いた時だけでいいから、

 もしもの時でも急速に星がなくなることはなく、

 100億年は維持できるわけ。

 これが自然界の神の特権と言ったところだろうね」


燕は大いに納得してうなづくと、パートナーたちも笑みを浮かべていた。


「黒竜は修行として転生すらできる…」と燕が言うと、「それも可能だけど、したことはないよ」と極は言った。


すると燕が大いにホホを膨らませたので、極とマリーンは陽気に笑った。


「…反抗できる武器ができたからいいわぁー…」と燕がうなると、マリーンは大いに眉を下げていた。


もちろん、その昔は白竜と黒竜、ゼウスとアフロは夫婦だったので、離れることはなかった。


よって現在は極はマリーンの、タルタロスはガイアの騎士でしかないので、基本は離れないが、離れることもあり得るし、ゼウス、アフロ夫婦だったころとは言葉遣いも大いに違う。


姉弟であっても、主従でもあるからだ。


「さらにいいことがあって、

 異空間の谷間がこの辺りを通過する時、

 悪はその場から立ち去るか、消え去るんだよ」


「少しずつでも、悪を消すことができるんだ…」と燕が言うと、「だから悪の種族の人は、ここに来てはいけないことになるね」極が言うと、「優夏で試そうかなぁー…」と燕がうれしそうに言うと、極は大いに眉を下げた。


「悪ではなくなったけど多少の刷り込みがあって残っているから、

 ここに来た途端に帰るかもね」


極が苦笑いを浮かべて言うと、「…さすが宇宙の覇者… 保身もうまいわけね…」と燕は悔しそうに言った。


「だけど自然界は見守るだけじゃないの?」とまた燕が素朴な質問をすると、「…大宇宙が増えすぎたので、手を出すことにしたのです…」とマリーンが憂鬱そうに言うと、「…愚問だったわね…」と燕は眉を下げて言った。


「だから神が必要になった時から、

 今に至っているわけだよ」


極のこの言葉が、この会話の締めになって、お茶会はお開きになった。



「極様の杞憂が現実となったようですが、

 説明だけで尻尾を撒いて帰って行ったようです」


極が別荘の縁側で寛いでいると、いきなり流石が報告した。


「まあ、多少の不公平はあって当然だからね…

 何もかも平等にすることは不可能だ。

 そして最終的には、俺とマリーン様に会わせろ、

 などと言ってきて駄々っ子になるわけだ。

 甘い顔を見せれば付け上がり、

 厳しくすれば歯向かう。

 ほんと、面倒な人は、

 平和になってもいくらでもいるもんだよ…」


「今のお言葉、採用してもよろしいですかと、

 副会長からメールがありました」


極は大いに眉を下げて、「精査してから良きに計らえ」と極が芝居っぽく言うと、流石は愉快そうに笑って、極の言葉通りに伝えた。


「あら? 楽しそうね」と子供たちと遊んでいた燕が言ってから、縁側に腰を下ろした。


流石がクレーム一覧の画像を宙に受かべると、燕は素早く読み取って、「これも伝えてよ」と燕はにやりと笑って、極と流石の眉を下げさせた。


この言葉が一番説得力があり、クレームがぴたりとやんだ。


この宇宙の第一の神である宇宙の創造神が神獣ポポタールだったと知れば、ほとんどの者は口をつぐんでしまうわけだ。


さらにはタルタロスとのデートシーンを見せると、誰ひとりとしてクレームを言わなくなった。


極が軍の命令により星を破壊したことについても、ポポタールが許したことで解決しているので、民衆の恐怖心を訴えたとしても、持ち主が許したことで、クレームをつけるだけ無駄となるわけだ。


さらにはクレームがある場合、ポポタールに直接話すことになる。


よって極以外はマリーンも含めて誰もが怖いので、何も言えなくなるわけだ。


そして燕はポポタールに変身して、「程を知れ、愚かな人間どもよ」と話している映像も添付した。


よってこのラステリアには、真の平和がやってきた。


この結果を鑑みて、フロートアイランド遊園地にある、『大爆笑プルプルフレンド』のアトラクションブースに併設してある土産物屋で、大爆笑プルプルボールの改訂版の発売を開始した。


幼児の小遣いでも購入できる、幼児用のおもちゃとして販売を始めたのだが、5才児以下という購入制限をつけた。


そして胸を張って拳や手のひらを当てるポーズが大流行となった。



極たちの新たな試練は三日目を過ぎ、隣の大宇宙の中心に到達する直前に、スイジンが大いに眉を下げて極に願いを言った。


改訂版のプルプルボールはスイジンしかもっていないが、発売を機にいくつか売ってもらいたいと言ってきたのだ。


アニマールでは学校の経営や、児童保護施設などの事業を展開しているので、それも踏まえてのことでもある。


本来ならばアニマール星の王の春之介が言ってくるべきなのだが、極の杞憂通り、優夏がラステリアの渡航を大いに嫌がったので、代表として既に交流のある、右京和馬星の王のひとりでもあるスイジンが代理としてやってきたのだ。


しかも、右京和馬星にもアニマール学園の分校があるので、全くの無関係ではない。


「30個」とスイジンが眉を下げて言うと、「また微妙な個数だね… 100でもいいよ?」と極は言って、箱入りのポールが入っている大きな段ボールを出した。


「…天使たちがさらに元気になるぅー…」とスイジンは大いに喜んでから礼を言って、段ボールを持ち上げて戻って行った。


しばらくしてからスイジンが眉を下げて戻って来て、「…追加で一億個ってできる?」とかなりの桁違いの数を言って眉を下げていた。


もちろん極も大いに眉を下げて理由を聞くと、全宇宙にある天使のコロニーに配るためだという。


「ということは、万有様では創れなかったわけだ…」と極が言うと、「…あははは、大正解ぃー…」とスイジンが種明かしをした。


極でもかなり苦労したことでもあるので、そう簡単にはできないだろうと納得はしていた。


こちら側の天使のコロニーの一部の把握は終わっているので、天使たちの総本山でもあるフリージアからの統一した配布ということでも構わなのだが、マリーンと燕が大いに反発した。


「…親権問題と同じようなことをおっしゃらないでいただきたい…」と極にしては珍しく、マリーンを諫めた。


「…初めて叱られた…」とマリーンは嘆いたが、大いなる喜びもあった。


「…私以外の誰かに叱ってもらいたい想いもあったようだわ…」と燕は眉を下げて言って、すぐさま極の側に着いた。


問題は一億というとんでもない数なのだが、ごみ問題解決のためにも大いに奮起して、その百分の一を作り上げて様子を見たが、近場での基本となる落ち葉などの植物由来のものが足りなくなった。


しかし別のゴミ収集場には大量にあったので問題はないと判断した。


できれば近場がいいので、極から部下への特別作業として、星中の落ち葉などを、このセンタリアンのゴミ収集場に集めさせて、腐食処理をしてから、依頼の個数は楽にできることを確信した。


腐食処理をしておかないと、大量の落ち葉から熱が出て自然発火するためだ。


よって密閉できるケースに入れ込んで空気を抜くという保管方法を取っている。


ここで極の製造仲間たちを集合させて、極は仲間たちとともに大量のポールを創り上げた。


箱に梱包したものから順に出荷して、規定数をクリアした時には丸一日が過ぎていた。


まずはこちら側の大宇宙に配布されたことで、極たちの仕事がさらにやりやすくなっていて、マリーンから青天井の休息の時を与えられた。


それほどに余裕ができたということになる。


しかし極は二日間だけ休んでから、通常営業に復帰することにしたが、ふたりの悪魔が面会したいとスイジンが言ってきたのだ。


極は大いに興味を持って、事情を聞くと、「…悔しかったのかなぁー…」と極が言うと、「…ふたりがかりでもできなかったから…」とスイジンは言って眉を下げた。


極が許可を出すと、妙に温厚そうな悪魔と、その逆の感情を持った悪魔が手をつないでやってきた。


姿は幼児なのだが、かなり威厳があると極は感じた。


そして燕が極の右腕を抱きしめた途端、穏やかそうな悪魔が、「…もういいぃー…」と言って戻って行った。


「…結婚していたことを言っていなかったわけだ…」と極が眉を下げてスイジンに聞くと、「…そんなこと考えてもなかったぁー…」とスイジンも眉を下げて言った。


スイジンとしては、純粋に錬金術関連の件で怒っていると思って話をしていたのだが、本人は見合いのつもりで来たようだった。


「ベストパートナーがいて助かることが多いね」と極が明るく言うと、「…はい、あなたぁー…」と燕は大いに雰囲気を出して答えた。


「だけど、タルタロスは大いに興味を持ったようだけど…」と極が言うと、燕はポポタールに代わって、「…どういうことでございますかぁー…」と極をにらみつけてうなった。


「錬金術に関してだから…」と極が大いに苦笑いを浮かべて話した。


今のポポタールはかなり怖いと思ったようで、タルタロスが出てこなかったので代弁したようなものだ。


「…錬金術に関しては理論は知ってるけど詳しくないぃー…」とポポタールは悲しそうに言って燕に戻った。


「すごい嫉妬心だったわ…」と燕の眉を下げさせるほどにポポタールは怒っていたようだ。


「錬金術は少々特殊過ぎるから、

 あまり協力などはしない方がいいと思うんだ。

 外に出す時もかなり考えた方がいいと思う。

 鉄くずのようなものを金や貴金属に変えてしまうんだからね」


極は言って、准ダイキン製のやすりを出した。


「原材料費の市場価格約千円」と極が言うと、「やっす!」と燕は言って大いに笑った。


「変化させて得た金は100キロだから、

 まあ、かなりの差はあるね…

 というか、錬金術は交換の術と言っていいから。

 一番の問題は、異空間とつながることが可能か」


「…異空間から金を持って来て交換してるわけね…」と燕は正しく理解して言った。


「知っての通り、異空間には何もないないように見える。

 それはね、隠しポケットのような場所にため込んでいるからなんだよ。

 だから何も見えないように感じるだけで、

 正確に探し出すことは不可能で、

 それができる者は錬金術師だけなんだ。

 あとは、ホワイトホール」


「…最後は生物じゃないけどね…」と燕は大いに眉を下げて言った。


「もちろん、俺だってできる」と極は言って、砂場に歩いて行って、幼児だと大きいと思うほどの城を造って、「…5段階…」と苦笑いを浮かべて言ってから、同類項のゴールドの城が出来上がったが、指先に乗る程度の小ささになっていた。


「…できただけマシ…」と極は眉を下げて金の城を燕に渡した。


「あ、重みは金に違いないわ…」と燕は大いに感心して、精巧な細工の城を見入った。


「プラチナだったら米粒だったそうだ。

 今は金よりもプラチナの方が貴重らしい。

 これは異空間の価値観だけどね」


「ということは、金の方が多く宇宙空間にあるわけね…」と燕は言って、金の城をポシェットに入れた。


もちろん、極からのプレゼントとして受け取ったので、「ありがと」と照れくさそうに言った。


「論理上、生物が住む星自体を錬金術で変化させた場合、

 かなりコンパクトな星が完成する。

 一周10キロほどの、不思議な星になるそうだ」


「…質量が密だから、重力が大いに作用して気体が逃げないんだ…」と燕は正しく理解してうなづいた。


「だけど、生物は住みづらいだろうね…

 重力は人の住む星と同じにはならずに、

 ほぼ倍になるから不思議だ。

 もっとも、大問題はマントルで、

 その動きが止まる。

 そしてかなり危険な星だろうね。

 いつ大爆発を起こしても何の不思議もないから」


「…それ、大問題だけど…」と燕は言って考え込んでから、「…マントルがないと大地に植物が育たない…」とつぶやくと、「そういうこと」と極は笑みを浮かべて言った。


さらには、「神通力も消費するだけで自然治癒しないから、勇者と神はまず住めないね」というと、燕は大いに納得していた。


「妖術を使える妖怪などの天国になるだろう」と極は言って、この先必ず出会うと確信していた。



この件とは全く関係ないのだが、宇宙は広いと改めて思わせる星を見つけた。


「…あとどれほど持ちそう?」と極が眉を下げて流石に聞くと、「突き刺さった破片がどうなるかにかかっていますが、一万年は持たないと推定します…」と眉を下げて答えた。


星は丸い。


確かに丸いのだが、大きな星の破片が刺さっている星を極は見たことがなかった。


しいて言えば、右京和馬星のあの高台が一番不思議だと感じていた。


高い山々の山中に隕石が落下してせりあがったようで、標高は一万メートル近くある、周囲100キロほどの高台だったからだ。


その百倍ほどの大きさの破片が星に突き刺さっていて維持できている方がおかしい。


しかも人はいて、さらにはこの突き刺さった破片の星の現住人たちと戦っていたのだ。


戦っている場合ではなく、この状況を何とかした方がいいと思い、極はおせっかいながらも、まずはこの戦いを力づくで止めた。


もちろん双方ともに鼻息が荒いが、極と流石が今後のこの星の説明をすると、誰もが大いに戸惑った。


まさに戦っている場合ではなかったが、やはりどこにでも、『今が良ければそれでいい』信者も大勢いるものだ。


「多数決で何もしないことに決めてもいいぞ」と極が半分脅すと、「この状況をどう正常化するんだ!」と高飛車に言ってきたので、「もういい…」と極は言って、リナ・クーターに乗り込もうとすると、さすがに指導者の上の者たちが引き留めにかかった。


「戦いたければ戦えばいい。

 楽しんでいるところを邪魔して悪かったな」


今度は極が悪態をついて言うと、「気分を悪くさせて申し訳なかった…」と謝ったが、ほかの者はそう思っていないと極ははっきりと言って、リナ・クーターに乗り込んだ。


上昇して大気圏外からこの様子を見ていると、穏健派と強硬派が二手に分かれて小競り合いを始めて、ふたつの星の種族が入り乱れての戦いが始まった。


「ほんと、馬鹿野郎どもだ」と極は言って鼻で笑ったが、移動する意思はない。


「星の創造神と天使たちです」と流石が言って映像を切り替えた。


「創造神がふたりいる。

 ひとりは壊れた星の方の創造神のようだ」


「…なんだか、安っぽい童話の物語のようだわ…」と燕は眉を下げて言ったが、極は迷うことなく、大気圏に再突入して、星の創造神と話し合うことに決めていた。


「戻ってくださって助かりました」と男性の創造神が言って頭を下げた。


「本当に、申し訳ございませんでした」と女性の創造神が言って、男性に倣って頭を下げた。


「あなた方の意志に従って作業をしても構いません。

 特に戦っているやつらの許可はいりませんが、

 邪魔をされるのは困りますので、

 それだけを押さえていただきたい。

 それができないのなら、この話はなしです」


極の言葉に、ふたりは大いに戸惑った。


戦っている人間の数は5万を超える。


これを抑え込むほどの力を持っていないのだ。


「…仕方ない…

 まずは説明だけでもしてきてください…

 その途中から神の威厳を見せつけて強制的に避難させます」


極がため息交じりに言うと、ふたりの創造神は大いに恐縮していた。


「どっちも頼りないから、バランスが取れているようね。

 人間的に言うと、この場合、女性が男性を捨てる場面だわ」


燕が辛らつに語ると、男性の創造神は大いに戸惑って女性の創造神を見た。


「…かなり思ったわ…」と女性が答えると、男性はわかりやすく大いにうなだれた。


「戦いが止まったら作業に入るから。

 さっさと行って」


極がめんどくさそうに言うと、女性の創造神だけが戦場に向かって走って行った。


―― だめだこりゃ… ―― と極は思って大いに呆れていた。


女性の創造神は岩を投げつけて、一瞬にして戦いを止めて、「ここから立ち去れ!」と命令した。


岩と言っても、大人の程の大きさがあるので、普通ではないと誰もが思い、話をしようとしたが、また創造神は岩を投げつけた。


「撤退だ!」と各指揮官が叫んで、この場には誰もいなくなった。


「できるんジャン…」と極が大いに呆れて言うと、「…最後の手を使っただけ…」と燕は呆れるように言って緑竜に変身した。


極は黒竜に代わって、パオに指示を与えた。


黒竜は体高を二十万メートルほどに大きくして、大きな翼で破片を抑え込んだ。


「パオ、やれ!」と黒竜が叫ぶと、「おうっ!」とパオは雄々しく叫んで、破片の根元に水圧で小さな穴をあけて行った。


そして緑竜がピンポイントで穴を狙って緑のオーラを流し込んで、植物の生長を促した。


すると巨大な破片がきれいに切れて、黒竜が破片をゆっくりと地面に寝かせた。


黒竜は出番は終わったとばかり極に代わって、極は今度はミランダ、エリザベス、オカメを抱きしめて大地を探り、この辺りの地層や大陸プレートの修復を行った。


「よっし! 終わった!」と極は陽気に叫んで、仲間たちを大いに褒めた。


「すべてがハッピーエンドにならなかったが、

 これが現実だ」


極は言って、パートナーたちとともにリナ・クーターに乗り込んだ。


今回は天使たちの笑みと感謝が、極たちの報酬となって、星を離れた。



変わった星がまたあって、まさにここの場合も奇跡だと極は思っている。


見た目は何の変哲もない星なのだが、恐ろしいのは今は夜になっている部分だ。


「…どうして維持できてるの?」と燕は映像を見入って言った。


「この星がもう終わりに近づいていたことと、

 崩壊することを星自身が拒んだこと」


極の言葉に、燕は何度もうなづいたが、星の4分の1がなくなっているのに、大気が残っていることがおかしいと大いに疑問に思っている。


「神が神を産み、そして人間に勇気や希望、

 そして絶望を与える施設を造ったからだよ。

 まさに悪魔の副食のように、

 人間の小さな感情をたくさん集めて、

 それを原動力に変えて星の崩壊を抑え込んでいるんだ」


映像が切り替わって、高い塔が映し出された。


「そのアンテナ兼ダンジョン」と極が言うと、燕はようやく納得していた。


「この施設が10カ所ほどあって、大きな力を得ている。

 あ、気づかれた」


極は言って、リナ・クーターを夜になっている部分に飛ばして、大気圏に突入したが、抵抗感をそれほど感じなかった。


「…そうね… 大気を術で抑え込んでいるから、大気圏をそれほど感じない…」


燕は言って、映し出されている星自身と思しき女性を見入った。


女性ではあるが老婆でしかない。


まさにこの星は終焉の時を迎えているようだと、誰もが思っていた。


しかし飛び跳ねて喜んでいる姿を見て微笑ましく思った。



極たちはリナ・クーターを降りて、星自身の老婆と挨拶を交わした。


「星の修復は可能です」と極が言い切ると、老婆は大いに喜んだが、地面に座り込んだ。


まさに安心してしまったようで、力が抜けてしまったようだ。


「…いい加減なことを…」と側近が言うと、「我が王はいい加減な言葉を吐かぬわぁー…」とバンが一瞬にして側近に迫ってうなると、側近は白目をむいて、意識を断たれていた。


「バン、やり過ぎると簡単に昇天するから気をつけろよ」という極の言葉に、「はっ! 心得ました!」とバンは叫んで敬礼しただけで、そのほかの者たちもしりもちをついていた。


「こりゃ急いだ方がよさそうだけど…」と極は言ってから、みんなにも地面に座るように言った。


「人間たちはこの事実は?」と極が老婆に聞くと、「…さすがに言えん…」と答えてうなだれた。


「となると、修復を終えたとして、

 今の状態を維持できますか?

 神たちとしては本来の悲願がかなうことで昇天してしまうのでは?

 となると、ダンジョンは機能しなくなると思うのです」


「…あっ…」と老婆は言って、「…この星の文化として何とか残したい…」と希望がある言葉を言った。


「星を復活させると同時に、若返ったとすれば?」と極がさらに希望になる言葉を述べると、「今程度のことなら、ワシだけでも維持できる!」と大いに元気になって叫んだ。


「…星だけは、さすがに昇天しないからね…」と燕が眉を下げて言うと、「…昇天しそうになって、ちびりそうになったぁー…」と老婆が言うと、極と燕が大いに笑った。


早速極たちは、巨大なクレーターの端に立った。


そして予定通りに、水のようなマグマをバンが放出を始めた。


辺りは一瞬にして水蒸気まみれになったが、今度はトーマが風を使ってマグマを冷やす。


すると星の老婆が見る見るうちに若返り、そして安心した神たちが消えて行った。


さらには極が全体的に抑え込んで、さらに冷やした。


星の熟女は少女にまで戻っていて、「…みんな、すっごーいぃー…」と大いに感心していた。


そして極めつけに燕とウータが緑のオーラを使って、辺り一面を濃い緑で覆った。


極はパートナーたちを抱きしめて、星の状態を確認して、ひどい部分だけを簡単に修復して作業を終えた。


「星の寿命、80億年」と極が言うと、「ほんと、生まれ変わった気分!」と星の少女は言って、また新しい娯楽用の神を造ると、人間たちの悲壮感は消えていた。


大勢の神がいなくなったことで、人間たちが不安になっていたのだ。


「最近は隕石は飛んでこないようですね?」と極が聞くと、「すぐ隣に太陽系ができちゃったからだよぉー…」とクレームがあるように言った。


ここにも天使たちはいて、極たちの邪魔をしないように遠くから見ている。


「じゃ、終わったので、別の仕事に行きます」と極が言うと、少女は寂しそうな顔をした。


「天使たちが全て知っていますから、聞いてください」と極が言うと、神は素早く天使たちに寄り添って、事情を聞き始めた。


極たちはリナ・クーターに乗り込んで、今回は大いに大気圏の抵抗を感じて星を飛び出した。


「張り切り過ぎて、ダンジョンの難易度が上がっていたりして…」


極の陽気な言葉に誰もが大いに笑った。



少々寄り道が過ぎたが、大宇宙の中心の小宇宙に到着した。


「ひょっとしてさびれてる?」と極が言うと、「極様の記憶の半分しかトンネルがありません」と流石は眉を下げて報告した。


トンネルは8つあるので、宇宙に繋がっているトンネルは4つしかないことになる。


しかし落ち込むことなく、その7カ所に網の結界を張って、ゼウスとアフロが暮していたはずの宇宙に飛び込むと同時に、宇宙空間に雄々しき姿の創造神が現れた。


まさに巨人で、鬼という種族でもあるが、今はその威厳を抑え込んでいて、人間の巨人にしか見えない。


『お戻りになられた…』と宇宙の創造神のゴーラルが涙を流して言うと、「あんた誰?」という極の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


『ゴーラルでございます!

 ゼウス様からタルタロス様に転じられたことは、

 アテナ様とガイア様からお聞きして承知しております!』


ゴーラルの言葉に、「君、相変わらず暑苦しいから苦手…」と極が言うと、獣人たちとゴーラルは目を見開いたが、燕は愉快そうにけらけらと笑っていた。


「ずっとこの調子なんだ…

 それが数百億年も続いたんだ…

 できればそれなりに仲良くなりたいと思うよね?」


極が燕に聞くと、燕は笑いながらだが大いに賛同した。


「さっさと統括地の創造神にでもなっちまえ」と極が吐き捨てるように言うと、『もちろん、考えてございます』とゴーラルはかなり控え目に答えた。


『できれば次回もおそばにいさせていただきたく!』とゴーラスが大いに高揚感を上げて言ったが、「あ、空きはないよ?」と極は無碍な回答をした。


ゴーラスは大いにうなだれて、『…それだけを楽しみにしていたのに…』と男泣きに泣いた。


「だけどまだ未熟な大宇宙だから、

 タイミングが合えば端の方に当選するかもね」


極の言葉に、『…宇宙の創造神は、どれほどのお方か…』とゴーラスは大いにライバル心を燃やして聞くと、「あ、私私」と燕が答えると、『ふん、たかが緑竜』と言ったとたんに、ゴーラスの言葉が止まった。


『神獣ポポタールッ!!

 しかも二頭もいる!!』


ゴーラスは叫んでから頭を抱え込んだ。


「…あー… そうなるわけか…」と極は言って燕を見た。


「…不得意な人って、全宇宙共通のようね…」と燕は大いに嘆いたが、「得意なヤツがひとりいれば十分じゃないか」と極が言って燕の肩を抱くと、「…近くにホテルとかないかしら…」とホホを赤らめて言った。


「ポポタールについてはまたお勉強するよ。

 その情報がないから全くわからない」


極が言うと、「うふふ」と燕は意味ありげに笑ったが、機嫌はかなりよかった。


「じゃ、今日は帰るから。

 マリーン様と夕食会があるから、

 お待たせするわけにはいかないから」


極の言葉を聞いたゴーラスは、『…ほんとにまた来てくれる?』と子供のように聞くと、「君が頑張ったおかげで、俺たちがこの宇宙ですることがないから来ないかも…」と極が答えると、『張り切って頑張ったのにぃ―――っ!!!』とゴーラスは大いに嘆いた。


「はいはい、よくやったよくやった。

 褒美でも考えて待っていてくれよ」


極の言葉に、ゴーラスはすぐに復活して、『お待ちしております』と紳士然として言った。


「…暑苦しさがよーく理解できたと思います…」とバンが言うと、極は愉快そうに笑って、異空間航行で大神殿上空に戻った。



「ゴーラス様には最高のご褒美を」とマリーンは機嫌がよさそうに食事を摂りながら言った。


「やはりキャコタを照らす太陽でよろしいようですね?」と極が聞くと、「あ、こちらにもよろしくお願いしますわ」とマリーンはすぐに言った。


「何か意味があるようね」と燕が聞くと、「この宇宙のわずかな底上げ」と極が答えた。


「…へー、そうなの…」と燕は詳しい話をポポタールに聞いて納得していた。


「わずか1パーセントでも規模の大きなものには、

 効能の大きなものになります。

 小さな人間にとって、大いなる利益にもつながりますから。

 さらにはキャコタに神が住みつきますので、

 かなり安全になるのです」


「…仕事がなくなるって嘆いたわよ?」と燕がポポタールの心境を話すと、「楽をしてくださいな」とマリーンが穏やかに言った。


「家賃のようなものだから。

 大家さんはその間に見分を広げてくれたらいいさ」


極の気さくな言葉に、「本気で頑張るって、はりきってるわ」と燕は我がことのように喜んで答えた。


「…キャコタには統括地の創造神相当が住みつく…」と燕が言うと、「ゴーラスが来るかもね…」と極が言うと、燕は大いに笑った。


「こちらは宇宙の大王制度を採用していませんから丁度良いのです」とマリーンは薄笑みを浮かべて言った。


今は悪しき風習でしかなくなったが、宇宙の創造神のサポートとして、軍事的力を持った星の創造神出身の者たちが大きな力を持っていた。


しかし、多くの場所で、創造神側と大王側で小競り合いがあった事実は多い。


その風習が残っている宇宙もまだまだあるので、この戦いも収めさせる必要がある。



「あらみなさん、お疲れさまでした」とマリーンは笑みを浮かべて、大人数の第一と第二部隊を労った。


全員が胸に拳を当てて敬礼している姿は壮観だった。


「全部終わったぜ!」とソルデが叫ぶと、「明日はお休みをして、明後日から本隊と合流していただきますよう」とマリーンは笑みを浮かべて軽く会釈をした。



極はマリーンに別れを告げて、ここから総司令自らが部下たちを労う会を行うために別荘に戻った。


ソルデとジャックが見込みのある候補生を連れてきたので、極と燕がまずはコミュニケーションをとって、まずは司令ふたりの実力を認めた。


まさに即戦力に近く、数日同行しただけでその力を大いに上げていた。


しかし見込まれた者たちは、見た目はか弱そうな女性たちと優男たちだけだった。


実力と体力と見た目はこのあとにつければいいだけと、極は陽気に笑っているだけだ。


ソルデもそうだが、タルタロス軍所属でラストリア軍には所属しない軍人となる。


極が直接契約する貴重な戦力でもあるのだ。


よって軍服も違っていて、極がデザインした、誰もが着てみたい、多少スレンダーに見え、軍服ではないような装いとなる。


「こっちに替えようよー…」と燕が甘えた声で、新規採用の少女のような女性の服を見てうらやまし気に言うと、「…そうするかな…」と極はすぐに賛同して、幸恵に変更届を提出した。


「ますます差がついたね!」と幸恵は機嫌よく言って、早速軍服を着替えて書類をもって扉をくぐって行った。


階級などは極が決めて、ソルデは中佐、その他は曹長からのスタートになった。


宇宙軍と防衛軍でも多少軍服は違うのだが、大いに差がついている仕様の軍服だ。


まずは飛行装置がついていることが大きな違いとなる。


そしてビームシールドも左腕に装備しているので、どんな時にでも身を守れる。


新規入隊者は早速庭で遊んでいた幼児のパートナーたちにすり寄られて、辟易としている姿を見て、極たちは愉快そうに笑った。


もちろん能力者ではない者もいるが、見込まれると悪魔の眷属がつくことになる。


現在のところは目移りしているのか、専属契約は交わさずに、多くの人に使ってもらいたいようだ。



第一と第二部隊は休日だが、本隊は仕事なので、まずはこの宇宙の中心のキャコタの近くに、黒竜が一千万年ほど維持できる太陽を創り上げた。


黒竜は満足したようで、リナ・クーターに戻ってから魂まんじゅうを大いに食らった。


そして一瞬にして昔大神殿があった宇宙に飛んだ。


もうすでにゴーラスは待っていて、「…本当に来た…」とゴーラスはつぶやいて笑みを浮かべてリナ・クーターを見た。


「俺たちが住むキャコタに太陽を浮かべたけどどうする?」と極が言うと、ゴーラスは目を見開いた瞬間に消えた。


「…なかなか要領はいいし素早い…」と極が言うと、少し頼りなげな新しい宇宙の創造神が姿を見せたので、挨拶だけをして、キャコタの近くに太陽を浮かべた。


「…ああ、とんでもなく楽ができる…」と創造神は感動して言って、黒竜に大いに礼を言った。


もちろん、この宇宙には、ゼウスとアフロが昔住んでいた星は存在しない。


この場から確認した限りでは、全くもって平和そのものの宇宙だ。


生物が住む星が5つと少ないのだが、これが本来の姿だ。


極は創造神に別れを告げて、様々な宇宙や星を巡って、平和であることだけを確認した。


しかし、黒竜が太陽を浮かべていない小宇宙に差し掛かれば、やはり不幸はあるようで、少々手を入れた方がいいとは思ったものの、とりあえずは黒竜の太陽を浮かべておくことにした。


しかしリナ・クーターに戻った極はこの辺りの宇宙の様子を探って、「…これは良くないかもしれない…」とつぶやいた。


「過保護ってことでいいの?」と燕が眉を下げて聞くと、「それもあるんだけどね… すべての魂がこの大宇宙を目指されても困るんだ…」という極の言葉に、「…きっとよくないことが起きるわ…」と燕は極の杞憂に賛同した。


「もったいないけど、小宇宙に浮かべた太陽は消そう。

 やはりきちんと星を巡って、地道に平和にしていった方がよさそうだ」


極は言ってタルタロスに代わった。


「…やれやれ…

 だが、いい訓練にもなったし、

 極の言った通りだろう」


タルタロスは言って、指を一度鳴らしてからすぐに極に戻った。


「さすが大魔神…」と極は苦笑いを浮かべて言った。


「…予測はしていたわけね?」と燕が聞くと、「とんでもなく用心深いと思う」と極は言って、タルタロスを尊敬していた。


今回はまずは統括地の宇宙を巡って、創造神との面会を果たした。


もちろん、ゼウスとアフロと顔見知りも多くいて、極が戻ってきたことを大歓迎した。


そして屈強な部下を褒め、リナ・クーターを物欲しそうにして誰もが見入る。


しかし極が機能説明を始めた途端、「よーく、わかりました…」と誰もが言ってすぐに諦める。


あまりにも理論が複雑で、使いこなせないと思ったようだ。


さらには奪われた時のことを考えると、極たちに大いに迷惑がかかることも理解していた。


今日のところは統括地を20カ所回って、明日からは本格的に星の平和を確認して回ることになった。


すると、大宇宙の中心よりも外側のトンネルから、5隻の宇宙船と三隻の軍艦が姿を見せた。


するとすぐさまリナ・クーターに通信が入ってきたので、極は応じた。


『見たことのない船籍だが?』と挨拶なしにいきなり言ってきたので、「ああ、お宅の船籍もだ」と極が答えると、映像に出た者がわなわなと震えると、燕は腹を抱えて大いに笑った。


「ところであんたは、ゼウスとアフロという、伝説的な神を知らないか?」と極が言った途端、画面が真っ白色になったが、光がさえぎられて真っ黒の変わった。


「こらこら、何も見えない」と極が言うと、カメラにしがみついていた天使たちが整列して、『ごめんなさい…』とすぐに謝った。


「悪いけど説明しておいてくれない?

 同じことを何度も言うのももう飽きたから」


極の言葉に、『はいっ! タルタロス様!』と天使たちはすぐに答えると、わずかながらに静寂が訪れて、初めに通信に出た男が眉を下げてカメラの前に立った。


『引き留めて申し訳ございませんでした!』と態度を一変させて、全ての船を反転して逃げるようにして立ち去った。


極は通信を切ってから、「さあ、帰ろう」と言って、一瞬にして大神殿上空に戻って、日課のようにマリーンとティータイムを楽しんでから、別荘に戻った。



今日は来客があり、剛毅とゲッタ、その妻のメルティーの三人が極の帰りを待っていた。


もちろん、桜良とレスター、そしてスイジンもいる。


「できればもうひと方、初見の方に来ていただきたかったのですが…」


極の言葉に、剛毅はかなり考えたが思い浮かばなかっったようで、「きっと、私たちが関知していない人だと思うのです」とお堅く答えた。


「…ヤマは話さなかったようですね…

 宇宙空間の妖精、クロノスです」


極の言葉に、剛毅たちは神妙な顔をしたので、極は宇宙を呼んで説明をした。


「聞かなきゃわかんなけど、確実に恭司おじさんの関係者だろうなぁー…」とゲッタが言うと、剛毅もメルティーも賛同した。


「申し訳ありませんが、クロノスにウラノスが探していると伝えていただけないでしょうか?」と極が願うと、剛毅がすぐさま扉をくぐって行った。


ほんの数秒後に、剛毅の手を引っ張っている男性が現われて、まずは極と目が合った。


極が挨拶をすると、クロノスは、「山王恭司と言います」と礼儀正しく言って頭を下げた。


「ウラノスがここにいるとお聞きしたのですが…」と恭司が言うと、「なるほど… お分かりにならないのですね?」と極は言って、宇宙を抱き上げた。


すると宇宙にしては珍しく、恭司に向かってこれ見よがしにそっぽを向く仕草をした。


「色々と怒ったようです」と極が言うと、「…あーあ…」とゲッタとメルティーが同時に嘆いた。


「恭司おじさんは修行不足のようだ」と剛毅は言って、恭司の手を取って、強制的に扉をくぐって行った。


そして剛毅だけが戻ってきた。


「それほど低レベルではありませんでしたが…」と極が眉を下げて言うと、「…多大なるご迷惑をおかけしたはずなのに、見抜けないとは世も末です」と剛毅は厳しく言ってから、宇宙に謝った。


宇宙は、「別にいいよ?」と笑みを浮かべて言うと、剛毅たちはほっと胸をなでおろして笑みを浮かべた。


「ヤマに何か考えがあるのでしょう。

 特に気になりませんので、なりゆきに任せます」


極の言葉に、剛毅は笑みを浮かべて賛同した。



「今回、ご訪問させていただいたのは、

 万有様の件です」


極はスイジンを見て、「卵になったわけじゃなさそうだね?」と聞くと、「…あはははは…」と笑ってごまかした。


「あれから意地になって鍛え上げて、

 煌様を連れて来いと…」


剛毅は言って頭を振ってから、極に頭を下げた。


「私の予想では白竜に変身するでしょうね。

 そしてその力を失うはずです」


「…やっぱり…」とゲッタは言って眉を下げた。


「自死のようなことに付き合うつもりはないとお伝えくださいますか?

 それをするくらいなら卵になれと付け加えてくださっても構いません。

 その方が未来は明るいはずですから」


極の言葉にスイジンはすぐに反応して、「いこいこ!」と言って、ゲッタとメルティーの手を引っ張って扉をくぐって行った。


「スイジンちゃんは本気のようです」と剛毅が言うと、「強制的でも構わないと思います」と極は笑みを浮かべて言った。


「見届けてまいります。

 花蓮さんも逃がさないことにします」


剛毅は決意の目をして言って、極に頭を下げて扉をくぐって行った。


「…今回ばかりはよくわからないの…」と桜良が眉を下げて言うと、「意地になっていることは確認できたんだ」とレスターが言うと、「…それはわかってたけど…」と桜良はつぶやいた。


「なにをしても、極様を超えることは不可能と認めたくなかったんだ。

 今までは、それを簡単に乗り越えられたが、

 今回はそのめどすら立たない。

 源一君は一度、覚悟の上で天使も白竜も捨てているからね。

 今回もそれをしようと企んだと思うが、

 また戻れるとは限らない。

 源一君にあるのは屈辱を受けた復讐心のようなものだけだと思う。

 彼の天使が消え去るのは時間の問題だろう。

 ここは母として、エッちゃんもひと言言っておくべきだと思う。

 エッちゃんの思いの丈の全てを」


レスターの言葉に、「うん、行くの」と桜良は決心をした目をして、レスターの手首をつかんで扉に飛び込んだ。


「…根本的な原因は、過保護、かもね…」と極が言うと、燕は大いに戸惑って、極が抱いている宇宙を見たが、その宇宙は機嫌よく燕に両腕を向けた。


燕はすぐさま宇宙を抱いて、「あー… 重くなったわぁー…」と機嫌よく言ってから、すぐに宇宙を床に降ろして頭をなでて、母の笑みを向けた。


宇宙はこれ見よがしと言っていいほどの笑みを燕に向けてから、「みんなも抱っこ」と宇宙は友人たちに向けて言うと、「はいはい」と燕は機嫌よく言って、代わる代わる子供たちを抱きしめて抱き上げた。


ついには極までも仲間にされて、子供たちとのコミュニケーションを大いにとった。



「あんま係わらねえ方がいいんじゃねえの?」と珍しく気を利かせたソルデが極に言うと、「ソルデも気が向いたら、星の創造神から統括地の創造神まで経験しておいた方がいいぞ」と極は言った。


「宇宙、まではある」とソルデが少し照れくさそうに言うと、「そうか、魂の記録を探れるまでになったわけだ」と極は機嫌よく言った。


「だからできれば、これ以上は鍛えねえ方がいいと思ったんだが…」


「強制はもうないはずだが…」と極は言ったが、この件はまだ生きているのかもしれないと感じた。


「もしも、統括地の創造神になっても、

 出歩いたってかまわないから、

 自由はあるぞ」


「そうなのか?!」とソルデは言って、小躍りするようにして喜んだ。


「どこにいるのかもわかるから、

 迎えに行ってやる。

 ソルデも俺の大切な友人だからな」


「…お、おう…」とソルデは大いに照れて答えた。


「忽然と人が消えることがあってな。

 探すと、宇宙や統括地の創造神になっていた、

 なんてことも何度かあったんだよ。

 この大宇宙はまだまだ広がるから、

 ソルデも統括地の宇宙で生まれ変わるかもしれない。

 もっとも、宇宙は広いから、

 選ばれるとは限らないけどな。

 だが、今すぐにでも選ばれるとしたら…」


「万有源一、万有花蓮」とソルデが言ってにやりと笑った。


「…ソルデと同じで、宇宙の創造神は経験済みのようだし、

 大いにあるような気もするね…」


極は言って苦笑いを浮かべた。


「…だがならねえと、今よりも強くなれねえ…

 とんでもなく時間はかかるんだろうが…」


ソルデが大いに眉を下げて言うと、「星は仲間に守らせればいいから、時には宇宙を見回ればいいだけのことだ」と極はお気楽に言った。


「…専用の術とかも、宇宙の創造神ですらあった…」


「ああ、あるな。

 まさに専用の術だ。

 器を大きくすることが目的だから、

 程を考えて使いまくった方がよくわかってくる。

 そして人を育てることと同じだ。

 構いすぎると甘えるし、

 冷たくし過ぎるとすねるし嫌われる。

 その程を知ることも重要だ」


「…お、おう…」とソルデは言って目を見開いた。


極が振り返ると、意味ありげな笑みを浮かべている燕がいた。


「友との語らい」


極の言葉に、「…仲が良すぎて嫉妬しちゃう…」と燕は言ってけらけらと笑った。


「燕は創造神の経験は?」とソルデが大いに興味をもって聞くと、「もちろん済ませてあるからこそ、ポポタールが私と同化したんじゃない…」と燕が答えると、「…そりゃそうだ…」とソルデは眉を下げて言った、


「…今、納得いった…」と極は言ってから、大いに苦笑いを浮かべた。


そして、「ポポタールの姿で創造神をやったんだね…」と極が言うと、「みんな、恐れおののいてたわ!」と燕は機嫌よく言って、大いに笑った。


「だけどね逆のヤツがいてね…

 穏やかで誰にでも好かれて、

 そして仕事ができるヤツ…」


「タートスっていう統括地の創造神じゃないの?」と極が聞くと、「…有名人だった…」と燕は眉を下げて言った。


「ゲッタ・コリスナー様だよ」


「…それほどだったかぁー…」と燕は大いに悔しがった。


「タートスは何人もいたらしい。

 さすが、次元解の進化系だね。

 きっと超える人は誰もいないかもね」


「…極が越えて…」と燕が懇願の目をして言うと、「磊落し最善を尽くす」と極は真剣な眼をして言った。


「…その時、解き放て、だって…」と極が眉を下げて言うと、「…自分で弱くなるって言ったのに?」と燕は愉快そうに言った。


「もちろん、よく話し合ってからだ。

 そう簡単には決めないよ」


極は機嫌よく言った。



やはり母は強しで、最終的には桜良が源一を説得した。


そして花蓮は強制的に黒竜から卵を吐き出させて、スイジンが滾々と説教をした。


生まれ変わるのはいつになるのか判断がつかないようだが、それほど遠い未来ではないそうだ。


そして一足先に白竜が生まれ、一度ラステリアを訪れたベサーニが猛烈にアタックして、まずは友達から始めることになったそうだ。


そして予期せぬことがあり、極のいる大宇宙に出来上がった統括地に、大魔神と白竜の統括地の創造神が誕生した。


あまりのことにマリーンは大いに戸惑って、極が調査に行くと、ふたりとも古い神の一族で、まさに初期の男神と女神だった。


さらには、万有源一の父母でもあることが発覚して、極たちが大いに手伝って、創造神の太陽系を早急に創り上げた。


星の守護は、万有源一の部下だった者に任せることにも決めていたのだが、大魔神も白竜も居心地がいいのか、創造神の仕事に専念することにしたようだ。


しかし白竜は星を持っていたほどなので、大勢の天使たちもそばにいた。


よってその天使たちは、白竜のそばで生活することになった。


「おふたりとも能力頭打ちの典型だったそうだよ」と極がソルデに言うと、「…呼ばれた方がいいのかぁー…」と大いに悩み始めたが、「なってから悩めよ」と極に簡単に一蹴されて、「そりゃそうだ!」とソルデは機嫌よく言ったとたんに消えた。


「おー… 神隠し…」と極が言うと、「第21統括地のようですね」と流石がすぐに言って、その映像を出すと、極も燕も大いに笑った。


宇宙空間で、幼児の悪魔が声を張り上げて泣いていたからだ。


「早く行って安心させてやろう…

 すっごくかわいそうに思えてきた…」


「…さすがに賛同するわぁー…」と燕も同意して、極はパートナーたちとともに、リナ・クーターに乗って、ソルデだった悪魔っ子に会いに行った。


極は黒竜にチェンジして、幼児の悪魔に近づくと、『食べないで!』と言ってきたので、事情を説明した。


どうやらソルデだったころの記憶は戻っていないようだ。


ここでも太陽系創りを手伝って星を仕上げたのだが、「…みんな、帰っちゃう…」と小さな悪魔は悲しそうにつぶやいた。


極が扉を置くと、「お母様!」と天使ソレイユが言って、目を見開いてかわいらしい悪魔を見て、かなりの勢いで笑ってから抱き上げた。


「君の前の人の家族たちだ」と極が簡単に説明すると悪魔は安心したのか、胸を張って自慢話を始めた。


そしてもうひとつ扉を置いて、別荘につなげてから、魔王に説明して、扉をくぐった。



よって、早急に決める必要がある事象が発生した。


「第一部隊の司令だが、

 みんなも知っている通り、個人的な急な用件で一旦退くことになった。

 よって第二部隊の司令のジャックが第一部隊の司令にスライドする。

 それに伴い、フランクさんは引き続き、ジャックのパートナーとして、

 参謀役を頼む」


極の言葉に、ジャックもフランクも反論することなく、胸に拳を当てた。


「第二部隊の司令は、これは本人の修行も兼ねて、黒崎さんに頼みたい」


極の言葉に、「…おー…」と特に獣人たちがうなり声を上げて、拍手をした。


その黒崎は大いに戸惑ったのだが、ブラックナイトに変身して、「ぜひとも、お任せ願いたい!」と、堂々と胸に拳を当てた。


「うん、それで構わないよ」と極はすぐさま承諾した。


「マスターが手下になるわけだが、

 軍は実力第一主義だ。

 力がない自分自身を呪え。

 沙月さんは、パートナーを替えることも検討した方がよさそうだ。

 特に急ぐことはないから、各々考えておいてくれ」


沙月は大いに眉を下げてブラックナイトを上目づかいで見てから、胸に拳を当てた。


この件は、まさに極らしさが出ていて、実力さえあれば、誰でも上に立つことが可能と知らしめたことにもなり、タルタロス軍は、まさに大きな家族となっていた。


「なんなら、手下は全員獣人でもいい」と極は言って、庭で遊んでいる子供たちに笑みを向けて言ったので、―― 本気だ… ―― と誰もが思って、大いに眉を下げていた。


「さらに本隊だが、一名増員する」


極の言葉に誰もが息をのんだ。


獣人であれば、誰もが残ったふたつの席のどちらかが欲しいと思うものなのだ。


「俺との相性もあるが、

 誰も文句をつけられないロアード」


極の言葉に、雄々しき獅子の獣人のロアードは、『ガルルグォ―――ッ!!!』と叫び、両腕を上げてガッツポーズをとった。


「言っておくが、残った席はひとつではない。

 雄々しき獣人たちの膝の上が残っているので、

 諜報と俊足の者は大いに期待しておいてもらいたい」


極のパートナーたちは大いに眉を下げたが、素晴らしい高揚感に満ちていた。


しかし明日からは全員が同じ場所に飛ぶことになるので、何とかして結果を出したいと誰もが思いながら、解散してすぐに修練場に向かった。


「…ロアードは実力差を大いに知ることになるわ…」と燕が眉を下げて言うと、「それを知っても、くじけることなくマイペースだよ」と極は笑みを浮かべて答えた。


「その状況に置くことで、

 案外成長は早いという判断もしたんだよ。

 格下の者ばかりがいる部隊も考えものだからね」


「…それは言えるわね…」と燕は笑みを浮かべて極を見た。


「さらに、ソルデが色々と思い出したら、

 リナ・クーターに乗せるから。

 サエの膝の上で構わないだろう」


極の言葉に、燕は愉快そうに笑った。



するとまた極は剛毅たちの訪問を受けて、手放しで歓迎したのだが、話の内容は手放しでは喜べないことだった。


源一、花蓮という大きな指導者を失ったことで、母星であるフリージアの全ての歯車が狂いかけてるという内容だ。


もちろんその件で得たことも多く、まさにひとりの強者が全てを台無しにするという、極の言葉通りのことが起ったのだ。


「エッちゃんとレスターさんが王で女王でいいのでは?」と極がなんでもないことのようにいうと、桜良は大いに目を見開いたが、レスターは納得の笑みを浮かべた。


「元々はエッちゃんが創った星なんだから、

 エッちゃんが牛耳ればいいんだし、

 広大な施設もエッちゃんの作品だ。

 遠慮することなんて、何もないはずだよ?

 気に入らないヤツは放り出せばいいんだし、

 特に問題はないと思うけど?

 面倒なことが起りそうだったら、

 スイジンちゃんに俺から話してもいいし」


「…考えつかなかったぁー…

 ふたりはうろうろしてて当然だと思っていたから…」


剛毅が大いに苦笑いを浮かべて言うと、極は愉快そうに笑った。


「だからもちろん、後継者を作ることは重要だよ。

 今いる人でもいいし、

 新たに雇ったっていい。

 もちろん、この件は俺は受けられないから、

 この大宇宙以外の人材でお願いしたいところだね。

 それから、俺からの推薦があるんだ」


極の言葉に、誰もが大いに注目した。


「名前は聞いていないけど、大屋京馬さんの弟子のような勇者の人がいた。

 彼でもいいような気がするんだけど…」


ここで初めて、その勇者が有馬雄大という名だと知り、さらには天使と婚約までしているという。


「…雄大さん、納得するんだろうか…」と剛毅がゲッタに向かってつぶやくと、「…雄大さんの目は極さんしか向いてないから、多分大丈夫…」とゲッタは苦笑いを浮かべて言った。


「あ、弟子になるのなら大歓迎。

 少々鍛えて、仕事を言いつけるから。

 勇者になってそれなりのはずだから、

 師匠について回る必要はないし。

 師匠を超えないと、免許皆伝はない、

 とでも言っておくから。

 弟子にしてないけど、ゲッタさんが師範代でもいいんです。

 そうすれば大いに口出しもできるので」


「あ、賛成」とゲッタがすぐさま言うと、剛毅とメルティーは大いに眉を下げていた。


「では、気合を入れていないコアラ」と極は言って、久しぶりに黒い体毛で翼を持っているコアラに変身すると、まずは燕がポポタールに変身して抱きしめてから、子供たちが列を作った。


「…こりゃ、両極端だ…」と剛毅が嘆くと、ゲッタとメルティーは笑みを浮かべてうなづいていた。


「まず器が違う。

 ヤマのゾウの姿と同じだよ」


ゲッタが笑みを浮かべて言うと、「…京馬おじさんの何倍にも感じるわ… 今は穏やかさがあるから、誰にでも大いに好かれる… 見習わなきゃ…」とメルティーは決意の目をして言った。


ちょっとした騒ぎは終わって、極と燕は元に戻った。


「…こうやって、天使たちのご機嫌も取ろう…」と極が苦笑いを浮かべて言うと、誰もが大いに笑った。


「じゃあ、挨拶がてら行って弟子にします」と極が言うと、「…アニマールにいたのは、ここまで読んでいたからかなぁー…」と剛毅は考えながら言った。


「八丁畷様に動物の変身の極意でもお聞きしていたのでは?

 ですが彼にはその前にやっていただくことがあるので、

 そっちの方が大変だと思います」


極の言葉に、「…うん、あるね…」とゲッタが即答すると、「…しみついたしかめっ面…」とメルティーが苦笑いを浮かべて言うと、極は愉快そうに笑った。


「勇者はいつも朗らかに。

 をモットーとして鍛えていますから。

 いくら能力が高くても、朗らかでないと俺は認めませんので。

 まずは愛想笑いでもいいのです。

 とにかく、にじみでる優しさを接した人に感じてもらいたいので。

 この件もスイジンちゃんは得意でしょうね。

 顔を合わせたら、刷り込みのように伝えてもらうだけでいいので」


極はこの言葉通りのことを実行して、この騒ぎは収まった。



極は大勢の仲間たちと宇宙を放浪するようにして探っていると、「…何だこの感情…」と真っ先に極が気づいた。


「…記憶、あるわよ…」と燕は言って苦笑いを浮かべた。


「…そうだ、ニーナ星を吹っ飛ばしてニーナを救い出した前の朝食…」


極がつぶやくと、大勢の者たちが賛同して、渋い顔をした。


「うまいものが実らない星…

 しかも諦めもある」


極は言って、目の前に近づいてきた表面的な星の調査をして、すぐさま大気圏に飛び出した。


緑は濃く、空気はうまい。


だがこの悲壮感だけはぬぐえなかった。


「普通においしいわよ」と燕は言って、ラステリアでも生息している作物を育て上げて食べている。


「土は肥えているけど、肝心のおいしく育つ植物がないのね…

 あまり考えられなんだけど…」


燕が言うと、「虫まで元気がないように見える…」と極が言うと、燕も眉を下げて賛同した。


「ここまで徹底できるのは、

 原因はひとつしか考えられないわ」


「ああ、ようやくその理由も思い浮かんだよ。

 確かに戦争などに発展することは辛いことだけど、

 それを避けて考えるとこういう結果になるわけだ。

 戦う前に、その気が起きない。

 うまいものがないと、大いにストレスとなる。

 よって病人も多いと思うね」


すると目の前にいきなり老人が現れてすぐに、地面に腰を落として、燕と極を見上げた。


「あんたは自分の本来の仕事をしていない」と極が厳しい言葉を投げかけると同時に、「ただの怠け者の創造神だったわ…」と燕は大いに嘆いた。


「創造神は何も食べなくても生きて行けるからな。

 それが間違いだということすら知らない」


極の言葉に、老人は大きく目を見開いた。


「人間であろうが神であろうが、食するということに大いに意味がある。

 あんた、創造神としては落第だ。

 まあ… こんな創造神はそれなりにいたと今知った」


極は魂を探って、その多くの実例を探り当てていた。


「さあ、みんな! 仕事だ!」と極が気合を入れると、「オウ!!」と誰もが雄々しく叫んで、その割り振りをして、星中を飛び回り始めた。


わずか数時間で、この星の感情は一気に変わった。


そして天使たちは病人たちを癒して、「…ありがとう…」という感情のこもった純粋な礼をもらった。


このようにして30の星を巡って、そのうち10の星に立ち寄って、様々な処置をしてから、意気揚々として、マリーンの前に立っていた。


「本日はお疲れ様でございました。

 明日からもこの調子で、大いに奮起していただきますよう」


マリーンの最高級の誉め言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てた。


「やはり道しるべも必要…

 流石さん」


マリーンが流石を呼んで肩に手を置くと、「承知いたしました」と流石は言って、明日の予定一覧と、今後の予定などを映像として出した。


「明日は、全員で戦いを二件止めてから、

 一気に復興に入る。

 遠慮することなく明後日からの予定もこなしても構わないが、

 時間制限は一日5時間。

 極力それを守ってほしい。

 その分、リラックスする時間が俺たちには必要だからだ。

 同じような毎日となるが、

 休日ももちろん設ける。

 そうしないと、手助けする方が壊れることもあるからだ。

 よってこの件だけは、罪悪感を纏わないように、

 自分自身に言い聞かせるように」


極が語り終えると、誰もが胸に拳を当てた。


「今の極は、人助けの時間も癒されているほどなの。

 さらにレベルアップを遂げた時、

 休みなんていらなくなるはずだから。

 できれば全員がそうなってもらいたいところだけど、

 これは勇者の特権のようなものだから」


燕は言って極とジャックを見た。


「…きちんと休息もとります、先生…」とジャックはすぐに言った。


「なんなら、あんただけこっそりと世直しに回ってもいいのよ?」と燕が言うと、ジャックは大いに眉を下げていた。


「秘密にすると発覚することは確実だ。

 部下たちに不安を抱かせないようにすることが、

 上に立つ者の使命だ」


極の言葉に、ジャックと黒崎がすぐに敬礼した。


「それに、近い家族がいると、

 さすがに休みなしというわけにはいかない。

 家族サービスも重要だからね。

 まずは自分の身の回りが平和でなければ意味がない。

 近い未来も見据えて、様々なことも考えておいて欲しい」


極の言葉が締めとなり、この場で解散となった。



夕食にはまだ早いので、マリーンが早速極をお茶に誘ったのだが、「今日は家族サービスの日です」という極の言葉に、燕は愉快そうに笑った。


「…こちらにお呼びして遊んでくださいませぇー…」とマリーンが眉を下げて言うと、「あ、それもいいですね」と極は困ることなく言って、大神殿の真横に白く柔らかく厚みのある巨大なマットレスを敷いてから、白く柔らかい遊具などをわんさかと出すと、早速天使たちが極に礼を言って遊び始めた。


この情報網の伝達はかなり素早く、マットレスを敷いたと同時に、大勢の天使たちはもう並んで待っていたほどに期待していたのだ。


極は果林に念話をして、「大神殿まで遠足だ」と伝えると、果林はここにいたスイジンとともに、大勢の子供たちを抱え上げて飛んできた。


「今日は天使ちゃんたちとお友達になるのよ!」と果林が明るく言うと、子供たちは恥ずかしそうにして天使たちと挨拶を交わしてから、一瞬にして友達になって遊び始めた。


「…宇宙ちゃんを抱っこできないぃー…」と燕が大いに嘆くと、「あとで鬼ごっこでもすれば?」と極が言うと、「最高の手だったわ」と燕は笑みを浮かべて言って、マリーンの勧めた席に座った。


「…毎回抱え上げて飛ぶのも問題だ…」と極は言って、幼児であれば乗りたくなるような幅がある平たいバスを果林に提供した。


果林は早速この乗り物も遊具として、大神殿の敷地内を安全運転で飛び回り始めた。


「…あれも、認めた証拠?」と極に付き合っているジャックが眉を下げて控えめに聞くと、「あ、そういう意味も確かにあるな…」と極は言ってから、一瞬にして新しい中型5人乗りのリナ・クーターを出した。


その両側面には、『JACK』と赤い斜体文字で書かれていて、ジャックは飛び跳ねて喜んで、今までにないほどに極に丁寧に礼を言ってから、また号泣しているフランクとともに乗り込んで、すべてを一瞬で理解してから、遊覧バスのあとを遠いかけるようにして試運転として飛んだ。


「…本当にもらえるんだ…」と、極とジャックに付き合っている者たちが口々につぶやいて、かなり気合を入れてから、軍施設に向かって一斉に走って行った。



極たちが別荘で夕食を取っていると、「…平和なのも程々だねぇー…」と幸恵が言うと、『大神殿は遊園地?!』というテロップがテレビ画面に映し出され、子供たちと天使たちが仲良く遊んでいる姿がテレビカメラに映し出された。


「何か言ってきたら対応するからいいよ。

 ノーマーク会が」


その会長は全く気にせずに食事を楽しんでいる。


かなりの望遠を使って撮影しているようで、空気中の空気が揺らいでいるように見える。


『ここでお詫びをいたします…』とアナウンサーが頭を下げていきなり言って、撮影禁止場所の映像を使い報道をしたということで、ノーマーク会広報からクレームがあったと伝え、かなり丁重に謝罪した。


「…いつ決まったんだ…」と極は大いに苦笑いを浮かべて言うと、「今までになかっただけなんじゃない?」と燕が言うと、「…元から決めごとがあったわけだ…」と極は大いに苦笑いを浮かべて言った。


極はこのような決め事などを流石から仕入れた。


しかし、浮世離れしているような決め事はなく、ほぼ常識的範疇のものばかりだった。


やはり盗撮されると、誰でもいい気分はしないので、撮影禁止とプライバシーの侵害として訴えると記されていた。


さらにはノーマーク会が撮影者を告訴したと、テレビ画面に流れた。


「…何の連絡もないな…

 まあ、この程度のことで、

 会長の手を煩わせたくないとでも思っているんだろうか…」


「今来ました」と流石が言って、今回の報道の件と告訴の件の報告書の画像を宙に浮かべた。


「了承したと返しておいて」と極は言って、部屋着から軍服に着替えた。


「あら? それほどなの?」と燕が聞くと、「盗撮犯は政府の重鎮の息子」と極は眉を下げて言った。


「そう… 直接出た方がいいかもしれないわね」と燕は言って、一瞬にして軍服に着替えた。


極はマリーンに念話で聞くと、『いい機会です』と穏やかに言われたので、その言葉に従うことにした。


「いつでも出向く準備はできていると連絡して」と極が流石に言うと、その10秒後に、「ノーマーク会会場で、記者会見を開くそうです」と流石が報告した。


「じゃ、行こうか」と極は笑みを浮かべてまるでデートにでも行くように、燕とふたりして飛んだ。



極は会場に行く前にマリーンと少し話して、「…目的は別にあると…」とマリーンの話から極は察して言った。


「首相の息子さん…

 種子島拓斗さんは、いい人なのです」


マリーンの言葉に、「几帳面、潔癖が過ぎるいい人…」と極はマリーンの感情から察して言った。


「大神殿訪問の申請を出しても色よい返事がないから、

 まずは映像でも流してやれとでも思ったようね…

 告訴もあり得ることは知っていたのかしら?」


燕の言葉に、「知っていたと予測するね」と極は胸を張って言った。


「テレビ局は知らなかったんだろう。

 なにしろ首相の息子で、

 もうすでに政治家だからね。

 何のアピールなのかはよくわからないけど、

 大神殿の対応については気に入らなかったんだろう。

 特に対抗馬の政治家などは招待されている事実はあるから、

 などという理由かな?」


「すべてを理解した上で今回の騒動を起こしたという情報が入ってきました」


流石の言葉に、「…盗聴と盗撮はダメだよ…」と極は眉を下げて言って、少し笑った。


「こっちが知っている事実を語ればいいだけ。

 だけど、その情報は大いにありがたい。

 今はどうしてる?」


「電話中です。

 相手は中央司令部のグランデ中将です」


「幕僚長と母さんに連絡を」と極は厳しい顔をして言った。


「…あっ!」と流石が珍しく叫んで、「…ジャック専用機が屋敷の外から中将をにらんでいますぅー…」と眉を下げて報告した。


「悪だくみの察知だろう。

 能力者どころか勇者だからこれは証拠になる。

 ジャックは話の内容まで知ったと思うか?」


「はい、確実に知ったようです。

 中将が別の基地の横流しの武器を持っていて、

 それを使ってノーマーク会を襲撃する予定だったそうです。

 容疑者は表示した通りです」


「わかりやすくしてやろう」と極は言って、容疑者全員を中将の入り室内に入れ込んだ。


もちろん、中将は大いに慌てふためいている。


しかも、持っていないはずの旧型の武器を装備しているので一目瞭然で、犯罪行為を犯そうとしていたことは言い逃れできない。


「ジャックさんが罪状を読み上げて、衛兵が突入しました」


「…終わった、かな?」と極が言うと、「種子島拓斗は笑っています」と流石が報告した。


極が瞳を閉じてすぐに、「…自殺を寸でで止めた…」と言ってから眼を開いた。


「はい、確認できました。

 首相が駆け込んできて、動けないことを見抜いたようで、

 床に膝を落としました」


「ああ、感じる。

 しばらく様子を見る」


SPが拓斗の拳銃を手から奪い、首相は警察に突き出すように命令した。


そして首相も息子に同行した。


「ジャック、終わったか?」と極が念話を送ると、『ああ、こっちは終了だ』といつもよりも低い声で返事が返ってきた。


「首相の息子は警察に向かっている。

 なにもなければ一件落着だ。

 政府も軍も、大いに叩かれるだろうけどな…」


『タルタロス軍には関係のないことだ』とジャックは少し陽気に言って念話を切った。


「…ジャックのように、少し気楽に考えるか…」と極は言って苦笑いを浮かべた。


「ノーマーク会広報から、記者会見中止の連絡がきました」と流石が報告すると、「他言無用として、簡潔に事情を説明しておいて…」と極はため息交じりに言った。


極はマリーンにおやすみの挨拶をしてから、燕とともに別荘に戻った。



「よく判断できたもんだ」と極はジャックに言うと、「黒い噂は耳に入っていたからな」とジャックはなんでもないことのように言った。


「俺も誘われたことがあるから余計だ。

 もちろんそいつは今は軍にはいないし、

 多分生きちゃいないだろう。

 どこかの星で、戦死扱いになっていると思う」


「…ふむ…」と極は小さくうなってから、マリーンに念話をした。


「ラステリア軍から完全に撤退したいのですが、

 それでよろしいでしょうか?」


極の言葉に、誰もが目を見開いた。


「…はい、基地は別に創ります。

 いつでも視察にいらしてくださって構わな場所ですので。

 …はい、了解しました」


極は言って念話を切った。


「…まさか、ここが基地とか言わないだろうな…」とジャックが大いに眉を下げて言うと、「安心しろ、これから創るから」と極が言うと、ジャックは笑みを浮かべてうなづいた。


燕が心配そうな顔をすると、「大神殿の回りに、物騒なものを配備するわけないじゃないか…」と極が眉を下げて言うと、「…だったら、あれね!」と燕は陽気に言った。


「それほどでかくなくていいからね。

 こことも扉でつないで、

 子供たちに毎日遠足に来てもらってもいいだろう。

 軍の食堂の扉は撤去だな…

 …まあ、母さんも俺たちの意見に賛同してくれたらいいんだけど…」


「行ってくる」と軍服姿のマルカスは言って立ち上がって、扉に入って行った。



極たちは、今は夜の海にいる。


軍が管理しているごみは使わずに、海の中のゴミやら資源やらで、フロートアイランドの十分の一ほどの浮島を創り上げた。


小さいとはいえ、一周約20キロほどはある。


ここからは大勢の手を使って、簡素な基地を創り上げて、舗装した地面に宇宙船とリナ・クーターを並べて置いた。


ここからだと、大神殿の門の上に浮かんでいる巨大なリナ・クーターをよく確認できる。


すると早速、マリーンが基地にやってきて、「こちらに引っ越そうかしら…」と言い始めたので、燕がやんわりと止めた。


「また修練場を創りますので、

 みんなをさらに鍛え上げられますので」


極の言葉に、「みなさん、期待していますわ」という、マリーンのありがたい言葉を聞いて、誰もが一斉に敬礼した。


マリーンはガイアに替わって、「ここだとでかい顔をしても誰にも叱られない!」と心を解放して陽気に叫んでから、大声で笑った。


「…少しは羽目を外したいんでしょうけどね…」と燕はため息交じりに言った。


「息抜きにはいいと思うけど、

 みんなが怖がっているから控え目に」


極が戒めると、「…うう… 少々調子に乗った…」とガイアは言って、手下たちに小さく会釈をした。


「ちなみに、姉ちゃんもポポタールは怖いの?」と極が聞くと、ガイアは聞かなかったことにしてマリーンに替わった。


「…怖いのね…」と燕は言って、愉快そうに笑った。


「…瞳が剣の断面のようで、目は吊り上がってるし、

 鼻がないし、口が首まで裂けていて、

 前歯は人間のようにそろってるところが不気味だし、

 奥歯は肉食獣のように尖ってて牙が見え隠れするし、

 髪の毛のような塊が異様に波打ってるし、

 耳は長くて尖っていて堅そうだし、

 頭には変な形の角まであるし、

 肌は妙にとげとげで痛そうだし、

 わずかにある白いホホがアンバランスでさらに怖く見えるもーん…」


マリーンの具体的な言葉に、ジャックたちは耳をふさいで、「あー、あー」と聞こえないふりをしていたので、極は愉快そうに笑った。


そして、「大いに個性的ですよ」と極が笑みを浮かべて言うと、マリーンは大いに眉を下げて極を見ている。


「…ただひとりの大切な人に気に入ってもらえているから、

 気にしないんだって…」


燕は言って、極に笑みを向けた。


「ここで心置きなくデートでもしてもらおうか」


「ええ、喜んでるわ」と燕は笑みを浮かべて答えたが、手下たちは聞こえていないふりをした。



「ここに修練場を造るメリットがわかる者」


極の言葉に、きっととんでもない理由だと思い考え込んだが、やはり真っ先にジャックが反応して、「…おまえ、恐ろしいこと考えてんだろ…」と大いに怯えながら言った。


「俺だって未経験だから。

 だから誰も、訓練で息絶えないようにして欲しいものだね。

 色々と確認しながら個人指導とかもするから。

 そうすれば、ますます強くなれると思うんだよねぇー…」


極がここまで言うと、察しのいい者たちは次々と気づいていって、悲壮感漂う顔になっていった。


「…まさか… この島を、さらに上空に…」と黒崎がつぶやくと、「心肺機能の上昇が認められるからね」と極はかなり楽しそうに言った。


「しかも下は海だ。

 潜水とかでも鍛えてもらおうかなぁー…

 とか…

 きれいさっぱりゴミもないから、

 リゾート気分で、素晴らしい海を体感できることだし」


この恐ろしい陽気な鬼の指導者に、誰もが大いに怯えていた。


今日のところは海水を真水に替える装置と、排水用の浄化装置を造り、別荘に続く扉を立て、島の中央に浮かべたリナ・クーターに結界を張らせて、訓練代わりに空を飛んで別荘に戻った。



帰り着くと、ミカエルが眉を下げて待ち構えていた。


どうにかして思いとどまってもらえないだろうかという懇願の目だ。


しかしもうすでに極とマリーンとの間で話は進んでいて、軍施設まで作ってきたことにミカエルは反論の言葉もなくうなだれた。


「今のような巨大な軍はもう必要なくなると思う。

 軍縮も考えていいと思けど?

 だけどね、戦いの場がこの宇宙じゃなくなっただけで、

 今まで以上に過酷な戦いも待っているんだ。

 だからラステリア軍は、

 タルタロス軍の訓練施設ってことでもいいと思うよ?

 さすがに暗殺を企てた人が軍にいたとは、

 監督不行き届きだろうし」


極の言葉に、ミカエルは返す言葉もなかった。


もちろんグランデ中将は反乱分子としてマークはしていたが、見た目も性格も温厚だという油断はあった。


どんなことをしようとも、悪いヤツはどこの世界にでもいるものだ。


それが多いか少ないかだけで、その星の平和の評価が変わってくる。


しかし極はそれ以上に幸恵の動向が気になったが、今のスタンスを変えないと言い切った。


それでもかまわないと極は言って、幸恵に笑みを取り戻させた。


正式にラステリア軍がただの訓練施設になった時は、もちろん極たちは軍施設に降りて、直接兵たちとコミュニケーションをとることになる。


それまでは、ミカエルの手腕に期待するとして、この話を終えた。



「さて、こうなった以上、

 ラステリア軍の資金をあてにすることはできなくなった。

 最終手段は、考えられないほどお金を持っている

 燕さんに頼ることもできるんだけど、

 ここは軍関連以外の商売も視野に入れてやっていこうと思うんだ」


「…お金のことは頼ってぇー…」と燕は大いに甘えた声で言った。


「やっと使える日が来たって?」と極が言うと、燕は恥ずかしそうな顔をしてうなづいた。


「それは事業に失敗した時に頼むことにするから…」と極が眉を下げて言うと、「うふふ… それはないわ…」と燕は機嫌よく言った。


「もちろん俺には、ノーマーク会からも給料が出ているので、

 それほど急ぐわけじゃないけど、

 この宇宙を出ても、子供たちの心からの笑みは、

 全宇宙共通だと思っているんだ。

 得た知識に頼って商売をするのもいいし、

 また新しいことも考えてもいいと思う」


極が語ると、救済、復興関連の様々な情報の画像を流石が宙に浮かべた。


このラステリアにはない文明文化のものや、同じようなものまで数多くの事業を展開している。


やはりその星にしかない唯一などは、比較的人気が高いようだ。


そしてその商売相手としては、平和な星がターゲットだ。


統一流通貨幣としては金やプラチナが使われる。


星によっては多少の差はあるが、貴金属や宝石は、全宇宙統一の貴重な化石資源でもあるからだ。


「タルタロスが錬金術を使って金を作り出すことは知っていると思う。

 実は資金の心配はいらないんだけど…」


極は言って、メダル型の工具を出して、シリコン製の厚みのあるクッションを出して置いた。


「力比べだ、持ち上げてみて」と極が言うと、真っ先にエリザベスが挑戦してなんとか1センチだけ持ち上げたが、「…お、重い…」と言ってすぐに台の上に戻した。


そして極が軽々と手に装着してみせると、誰もが目を見開いた。


「これを使って大神殿を磨いたんだ。

 同じ金でもこれはダイキンと言って、

 かなり高価な代物になっているそうだ。

 実はこれもまだ完成品じゃないらしい。

 俺も挑戦したが、ここまでにはならなかったから、

 さらに修行が必要だ」


極は言って、工具を台に戻すと今度はジャックが挑戦して、軽々と持ち上げたが、術も使っていた。


「…普通じゃあねえな…

 作業の途中で術が使えなくなる…」


ジャックは少し嘆いて工具を台に戻した。


「こういった加工品との交換なども考えているので、

 資金としてはたぶん問題はない。

 あとは、子供たちの喜ぶ顔を見られたら、

 俺としては満足なんだ」


極の穏やかな言葉に、誰もが賛同するように一斉に敬礼した。



そして極は極と流石が相談の上決めた、新たな階級章を全員に配った。


誰もが大いに喜んで、誰もが陽気に階級章をつけあった。


階級による作業制限などはなく、高官になったからといって、デスクワークだけになるわけではない。


もちろん希望は聞くが、誰もが現場で働きたいので、フロントワークの部分は極、燕、ジャック、黒崎、そしてマルカスの担当となり、手が足りない時は戦場に出られない事務方の仕事となる。


そしてこのチームが、大きな罪を背負っていくことにもなるのだ。



いつもの雑魚寝の寝室で極が宇宙の寝顔を見ながら、「…どういうことなのかようやくわかった…」とつぶやいた。


「…ウラノスはクロノスを探せ…」と燕がつぶやくと、「クロノスは偽物」と極が言うと、燕は目を見開いた。


「だけどね、山王恭司さんは自分がクロノスだと信じて疑っていない。

 だとしたらウラノスである宇宙のあの反応はうなづけるんだ。

 あんたはクロノスじゃない、などと言いたかったんだと思うよ。

 さらには恭司さんはウラノスのことを知っていたはずなのに見つけられなかった。

 その理由は簡単で、ウラノスの存在は知っていたが、

 会ったことがないからだと思う」


「…じゃあ… どこかで入れ替わってしまった…」と燕が言うと、「ほんの20年前、恭司さんが11才の時に、身長も存在感も大人に変わった恭司さんに変身したらしい」と極が言うと、「…過去に戻ったわけね… だけど何の理由で…」と燕は不思議そうに言った。


「過去の不幸を取り戻すという

 知り合いの野望を打ち砕くためだったと聞いている。

 その確認をしたかっただけだろう。

 それがそもそもの過ちだった。

 その時に罰を受けたのか、

 その魂の記録ごと別の者の魂に書き込まれてしまった。

 それはたった一日のことで、翌日には元に戻っていたそうだ。

 だから今の恭司さんは、本当の恭司さんでもクロノスでもないはずだから、

 ウラノスはクロノスを探せということになると思う」


「…辻褄はあってるわ…

 だからこそ、ヤマは何も言えないのね…」


「恭司さんは高能力者でもあるからね。

 狂ってしまって何をしでかすかわかったもんじゃないからだろう。

 それに、妖精だとは到底思わなかったよ。

 ごく普通に人間で勇者だった。

 妖精たちも賛同してくれた。

 山王恭司はクロノスという妖精ではないと」


すると宇宙が、「…ここにいる…」と寝言のように言うと、極は察して目を見開いた。


「…宇宙に、魂がふたつある…」と極は目を見開いて言った。


「…じゃ、宇宙はウラノスでクロノスでいいわ…」と燕は言って、宇宙の頭をやさしくなでた。


もちろん極は何も言えなかったが、どうしたものかと大いに悩んだ。


そして今の宇宙では、ふたつ目の魂を見つけられないのだろうとも考えた。


しかし成長すれば、本当のクロノスが現れるような気がしてならなかった。


そして今の恭司は、ウラノスの知り合いだとも思っている。


元々持っていた、宇宙のもうひとつの魂。


―― ウラノスはヤマが創っていた、もうひとりの宇宙の妖精か… ―― と極は考えていた。



翌日からは、タルタロス軍の基地が出来上がるまで、本来の仕事は休暇となった。


まさにこれから大いに鍛錬する修練場を、大汗を流しながら誰もが従事した。


そのおかげでわずか一日でパワーアップを兼ねた修練場が出来上がったのだが、極と燕以外は眠ってしまっていた。


極は浮島を高度5000メートルまでに上昇させたが、「…こりゃ、呼吸が厳しい…」と言って、高度を2000メートル下げた。


極は早速第一修練場の壁を登ったが、やはり息切れが激しい。


よって、いつもの何倍もの時間を費やして、ヘロヘロになって、なんとか登り切って転がった。


「これが人間の限界ね。

 勇者の方は?」


燕が笑みを浮かべて言うと、「体力的には問題ないけどね、大問題は神通力」と息も切れ切れに説明した。


燕は何度もうなづいて、「その器も上げなきゃね」というと、極は無言でうなづいて、浮島を海面から100メートルのところまで降下させた。


「…あー… 酸素と神通力を大いに感じる…」と極が感動して言うと、「あら? 復活は早いわね」と燕は陽気に言った。


「ああ、全てを吸収するように復活できた」と極は言って楽々と半身を起こした。


「…タルタロスに鼻で笑われそうだ…

 口だけの生意気な小童、などとね…」


極が言うと、燕は笑みを浮かべて首を振った。


「上昇下降を繰り返すだけでもいいんじゃないの?

 それほどハードに鍛えなくでも、変わってくるように思うわ」


「みんなはまだ眠っているようだし…」と極は言って、酸素発生装置を中心にして、仲間たち全員を包み込む結界を張って、人間の体で耐えられる位置までの上昇と下降を繰り返した。


「…ほとんど何もしていないのに、肉厚が…」と燕は言って、ここぞとばかりに極に触れ回った。


「神通力のコントロールも始めたんだ。

 放っておくと勝手に抜けることにも気づいた。

 人間で言うと、呼吸を止めることに値するね。

 この基地は、様々なことを教えてくれそうだ」


極は嬉しそうに言って、緑の芝をなで回った。


「飛び降りることはあっても高度の維持はしないものね…」


「…まさに盲点だったと思う…」と極はこれを戒めとして思い直した。


「燕さんも気を付けた方がいい。

 顔に妙な皺が出てきたよ」


極の言葉に、燕は大いに慌てて鏡を見て、「油断してたぁー…」と嘆いてから、極に火竜の若清水をもらって飲んで顔に刷り込んだ。


「…ああ、戻ってよかったぁー…」と燕はほっと胸をなでおろしてから、「…竜だということに胡坐をかいてちゃダメだわ…」と燕も極のように考えを変えた、


「たぶん若くても肌にダメージはあると思う。

 上空は乾燥がひどいからね。

 水分をすべて奪われる感じだよ。

 たからこそ、人間の限界には挑戦できそうだ」


「…女の子たち、一瞬我を忘れると思うわ…」と燕は体験談から言って、大いに眉を下げた。



全員が目覚めてから食事を摂り、ランニングコースで軽く食後の運動をしてから、浮島を上昇させた。


早い者で1500メートルのところで頭痛を訴え、高山病の兆候を示した。


飛行機などを多用していた者や宇宙に出たことがある者はそれほどでもないが、高所恐怖症の者が判明したりと、極は試行錯誤した。


よって、今日のところは1200メートルを維持して修練場を使ったが、やはり誰もがいつものように動けずに、抵抗はしたものの比較的簡単にギブアップした。


いつものように体を動かすと、酸素量不足で大きな体の維持ができなくなるせいだ。


浮島を元の場所に戻してから、入浴してリフレッシュをして、また浮島を上昇させて鍛錬を積んだ。


そしてまた高度を下げてリフレッシュをしてから、今度はほぼ平地の場所で修練場を体験すると、誰もが大いに元気だった。


全員が今までに感じなかった高揚感に満ち溢れ、調子に乗ることを避けるため、この日の修練は終わることにした。


「ちょいと個人別に器具を造ろうと思ったもんでね」という、極の明るい言葉に誰もが恐怖していた。


多少は個人的なものもあるが、基本的には高山病対策をする。


あまり甘く見ていると、死の淵にいたりすることもあるので、極は細心の注意を払う。


極のこの感情がわかっているのは、わずか二名だけだ。


ほかの者は、―― 鬼師匠… ―― などと思ってはいるものの、わずか一日で成長したと思わせる極の手腕に感服もしていた。


このような訓練を5日も続ければ、誰もが成長して当たり前だった。


もちろん、極が見込んだ者しか手下にしていないので、全員が成長して当然のことだった。


しかし個人差もあり、置いて行かれそうになる者には、極の厳しく優しい叱咤が飛ぶことになっているので、バランスよく精神的には成長を遂げている。


「…見違えるようですわ…」とマリーンがもろ手を挙げるようにして喜んでいるので、誰もが大いに自信を持つ。


「では、明日から早速、本来の仕事に参りますので」という極の言葉に、誰もが気合が入った。


だがマリーンだけは、「…あー…」とため息をこぼし大いに眉を下げて、反論があるようだが、すかさず燕が少しにらんだので、わがままを言うことはやめたようだ。


マリーンは一日三回もこの浮島に来て、気合が入る修練を見ることが趣味になっていた。


マリーンにとっても新鮮で、島が上昇する時が特にお気に入りだった。


天使の場合体が軽いので、人間よりも負担はかなり軽減されるので、基本的にはランプたち天使たちが一番元気なほどだった。


もっとも、天使たちが一番にへこたれていては、もしもの時に大いに困るので、これも極の確認しておきたい部分でもあった。


よってマリーンは、それほど厳しい仕事は与えず、決めた星だけ訪れるようにと、極に言いつけた。


もちろん極が反論することはなく、マリーンの指示に従う。


実のところは、マリーンがへそを曲げた時が一番面倒だと思っているだけなのだ。


もちろん燕も極の感情を察していて何も言わなかった。


この日から5日間は、合計で30ほどの星を回って、そのうちの半分を、小競り合いのような戦争に割って入って止めてから、簡単に復興を手伝っただけだ。


しかしこれも重要なことなので、『宇宙の空気の状態』の変化を流石が映像として流すと、誰もが笑みを浮かべた。


まさに、仕事に行った甲斐があったという笑みだ。


そしてこの5日間も欠かさず修練はしたので、5日前よりも数段の実力向上を自負しているが、また流石が個人的な体力面、精神面の情報を見せつけると、誰もがガッツポーズをとっている。


特に獣人にはわかりやすいようで、誰もが納得する。


そして極は必ずこう言う。


「楽なのは今だけ」


よって誰もが気を抜くことはない。


しかし休息の時は気を抜いて、別荘の公園で子供たちと大いに遊ぶ。


この場では大人が順番待ちをしているようなものだった。


誰もが多くの人々に接してやさしくなったのだ。


マリーンが一番褒めたいのはこの件なのだが、本人たちがよくわかっているので、いつもよりもフレンドリーになって労うだけに留めている。


そんな中、旅に出ない日を二日もらったのだが、一日はラステリア軍の中央司令部に行って、めぼしい兵士の選定をすることになった。


よって四つ目の部隊を編成することに決まっていた。


第三部隊の指令はもう決まっていて、極が一番に見込んだ、能力者のアンディー・パウエルだった。


年齢は極の三倍で45才と妙齢なのだが、実力的には黒崎に迫るものがある。


そのパートナーはサイに似た角がある動物で大柄だが、俊足剛力部隊に所属していた、まさにエースだった。


パウエルとそのパートナーのニケは、エリザベスとブラックナイトのライバルと言っても過言ではなかった。


よって新隊員の選定にはパウエルとサイの獣人のニケも審査をすることになる。


最低でも10人ほど雇えば、確実にもうひとつ部隊はできるので、審査員たちは大いに欲をもって、修練場をにらんでいる。


「…いやぁー… これはぁー…」と極は感動したのではなく嘆いたのだ。


「…俺たちを鍛え過ぎたから、目が肥えてたに決まってる…」とジャックがさも当然のように言うと、誰もがジャックの意見に賛成した。


「だったら、鬼教官に来てもらって基地で訓練してもらってからだよ。

 それには、まずは鬼教官が必要だ」


極の言葉に、「…そこまでは考えてなかったぁー…」とジャックは大いに眉を下げて言った。


「三人の指令のうち、誰かが居残りで」


極のこの言葉に、三人とも大いに眉を下げた。


「まず言っておくけど、

 新規採用者全員が第三部隊に配属とは限らないから」


これだけは言って欲しくなかったようで、三人は大いに眉を下げていた。


「何なら俺が残って、

 本隊の隊員をどこかで使ってくれてもいいよ?」


「…エリザベスかトーマが来たら隊長になってもらう…」とジャックが苦笑いを浮かべて言うと、「…本隊の隊員はまた別格です…」と黒崎は眉を下げて言った。


「…多方面で教育者まで育てなきゃいけないとはね…

 ラステリア軍レベルだったら簡単だったわけだ…」


極の嘆きに、三人は大いに賛同していた。


「…パパにお願いしたら?

 まだ早い?」


ジャックが極に聞くと、「…もちろんそれも考えたんだけどね…」と真剣な眼をしてつぶやいた。


「実はね、俺たちの基地に侵入者がいたんだよ」


極の言葉に、誰もが目を見開いた。


「マリーン様は知っているのに、この事実が伝わってこない」


極が映像を見せると、「…これが正体か…」とジャックは言って目を見開いた。


そしてマリーンが楽しそうに基地を上下させて楽しんで、侵入者を疲労させては癒している。


「マリーン様が楽しそうだから放っておくことにしたんだよ」と極が言うと、誰もが控えめに笑っていた。


「始めはこの人が俺とマリーン様と同じ神だと思っていたからね。

 神じゃないけどそれなり以上の実力者だよ。

 マリーン様とふたりして、

 強化訓練指導官にでもなってもらおうかと考えてるとこ」


「…とりあえず、心身ともに壊れそうにない者を優先的に雇っとく?」とジャックが極に聞くと、「仮雇用ということで、その路線で行こう」と極は決めた。



数分後に4人は合流して、合計12名を極が最終審査をして、仮雇用と告げた。


話は聞いていたものの、極に聞かされるとやはり落ち込むようで、多少元気はない。


しかし、声をかけられただけマシとして、大いに空元気は出している。


その中には、どう考えても体がひと回り大きくなっているミカエルがいた。


「統括幕僚長はいらないの?」と極がミカエルに聞くと、「軍縮は申し渡しているし、幕僚長だけで会議をさせるからいいんだ」とミカエルは明るい声で言った。


現状では、ケンカを吹っかけてくる星はないと、ミカエルは判断していた。


よってかなり暇をしていたようで、タルタロス軍の基地に侵入して鍛えていたようだ。


極たちは12名を午前中はマリーンに託すことにすると、「はい! 喜んで!」とマリーンの二つ返事ですぐさま決まった。


部隊の帰還は午後になるので、そのあとにみっちりと訓練を積むことになる。


もちろん12名の性格なども合格点が出ているので、どれほど真摯に修練に励むかにかかっている。


よって、比較的自分自身に厳しい者はほぼ採用となるわけだ。


さらには、各支局も縮小するが、その前に中央で修練を積むので、10日に一度はこのようにして新しい隊員を見極める仕事が増えることになった。


うまくいけばもうひと部隊出来上がりそうなので、司令の選定も極が終えていて、早々に公表して、全員に認知させた。


やはり極が初めのころに目をつけていたリーダー格の者が順当に選ばれるようになっていた。


しかし、幸恵のようにパートナーいらずの猛者という逸材はさすがにいないことだけが残念だった。


これから中央に人が集まるとことを踏まえて、食堂の増築工事も簡単に終えた。


幸恵の新しくなった城に、主はさらにやる気になっている。


極たちも時々来ることになったので、幸恵の機嫌がさらによくなっていた。



翌日の本来の休日は、家族サービスに徹しようと前日に考えていたのだが、子供たちにその意思はないように思えたので、さらに効果的な復興がないかと思い、子供たちを目の前にして色々と考えていた。


一番いいのは、その星々の特徴を生かすものがやはり必要だと感じて、作り置きを配ることを維持しつつ、手間暇をかけることに決めかけていた。


本隊だけは少々残業をして、仲間たちが仕入れた情報をもとに、子供たちが笑みになるものを作っていこうと極は決めた。


さすがに極のようにひょいひょいと物が降って湧き出るほどの能力者はいないので、ここは極が奮起することにした。


この獣人の村にもそれがあるので、この地特産の果実を使ったお菓子を造ると、子供たちは大いに喜んで、屋敷の外で販売まで始めた。


「…逞しい…」と極たちは大いに眉を下げて、かわいい売り子たちに笑みを向けていた。



復興をメインにして作業を続けて10日が過ぎ、徴兵検査の日の前日、極たちが別荘で寛いでいると、極から黒い物体が飛び出してきた。


それは幼児でしかない悪魔だった。


「おっ! ソルデ、いらっしゃい」と極が笑みを浮かべて言うと、「どーちてきてくんなかったのっ?!」とソルデがまさに幼児のように叫ぶと、極と燕が大いにソルデをかわいがった。


ソルデは抵抗するが、このふたりにかなうこともなく、なすがままにならざるをえなかった。


「こっちから迎えに行かなくてもこうやって来ると思っていたからだ」


極の言葉に、「…うー…」とソルデはうなったが機嫌は良くなっていた。


「ほら、サエ、妹だ」と極は言ってソルデを抱き上げてサエに抱かせた。


ソルデはサエの深層心理を知り、―― 逆らっちゃいけないぃー… ―― と正しく理解した。


サエは機嫌く、「みんなと遊びまちょーね」と幼児語で言って、ソルデを連れて庭に降りた。


しばらくはごく普通に接していたのだが、黒ヒョウのラステリアを手下のようにして接し始めたので、「本隊二名増員で」と極は機嫌よく言った。


ラステリアは悪魔の眷属たちと遊ぶように仕事をしていたので、特に抜いても構わない戦力だったので都合は良かった。



しかし翌朝、マリーンから緊急の仕事が入り、全四部隊は今まで飛んでいなかった大宇宙に向かって飛ぶことになった。


ガイアの探知能力が膨れ上がってきたので、中でも一番の不幸を救うことが可能となったからだ。


しかし気づいた時にはもう遅く、生物のいる星いない星を含めて、箇所が悪意まみれとなっていたのだ。


よってその根源と星の復興に励むことになる。


「…厄災は宇宙にまで飛び出せるのか…」と極は悔しそうにうなった。


「協力者はいません。

 大気圏の脱出は、宇宙船を操ってしがみついているだけです。

 そうやって星を汚染して回っているのです。

 宇宙船のエネルギーが尽きるか、

 脱出できない星の飛び込まない限り、

 広がりは抑えらません…」


マリーンは言って、憂鬱そうな顔をした。


「あまり賢くない軍が出張って、宇宙船を乗っ取られていると推測します」


「…やはりそうですのね…」とマリーンは言って、その場所を知らせるために流石に触れた。


「天使が足りません。

 どうか補充を」


極の言葉にマリーンはすぐさま手配して、この大神殿に住む天使と、ソルデの子供たち、ドドン星の天使居住区から選抜して連れて行くことになった。


第一部隊の宇宙船内は百を超す天使たちで埋まってしまって、大いにジャックに懐いている。



タルタロス軍は目的の第一の軌道エレベーターに飛んで乗り込んでから、一番近い軌道エレベーターに移動して乗り込み、目的の大宇宙に出た。


目的の星はここからはさほど遠くなく、小宇宙と統括地の宇宙を3ブロック移動してから、目的の宇宙に入った。


ここからはまだ目視できないが、先行して飛んでいたリナ・クーターの映像から、どこかの宇宙軍が厄災を攻撃するが、次々と飲み込まれている。


極は強制的に通信を送って、下がるように指示した。


だがそう簡単に言うことは聞かないので、小さなリナ・クーターが団体となり強制的に引かせた。


極は厄災の大きさを見極めて、巨大な結界で厄災を包み込んだ。


厄災は大いに暴れまくったが、結界から出ることは叶わない。


「生物のいた星が確認できました!」と流石がすぐに報告して、タルタロス軍は厄災を引っ張って該当の星まで飛んだ。


「…こりゃひどい…」と極は言って、星の表面を見入っている。


まさに黒い地獄のようで、荒れた海のようにうねっていた。


そして極はランプとピアニアに指示を与えた。


もちろん、天使の協調を星の表面に放つためだ。


だが天使がこの地獄のような場所に入れるわけもないし、大気圏に突入することさえ危ういことだ。


よって宇宙船内で天使ふたりに結界を張って外に出してから大気圏に飛び込ませた。


大勢の天使たちはふたりの健闘を懸命に祈った。


結界が空高く浮かんだことを確認して、極はふたりに張った結界を最大級に巨大化させてから、「天使の協調、放て!」という極の合図とともに、ふたりは前回の倍の大きさの協調を放ったと同時に極は結界を解き、すぐさま小さな結界で天使たちを包んだ。


結界内に充満していた浄化の空気を一気に星に流し込んだことになる。


その浄化は大気に混ざり込み、黒いうねりは弱まり、元あった大地が見える場所までできている。


「もう一回できるか?」と極はランプとピアニアに聞くと、ランプはピアニアの表情を確認して、「全然大丈夫!」と、余裕の笑みを浮かべて叫んだ。


「じゃあ次はもう少し大きいものを頼む。

 少々大地を浄化しても構わないからな。

 星の裏に移動する」


極は言って、日の当たっている限界位置まで結界を移動させて、ここでまた天使の協調を放った。


すると今回は、黒いものは一瞬にして消え去って、大地の様子がよくわかった。


「燕さん、出番だ!」と極が叫ぶと、「おうっ!!」ともうすでに宇宙空間で待機していた緑竜が叫んで、ふたりの天使がいる場所めがけて大気圏に飛び込んでから、至る所に緑の雨を降らせて、緑のオーラを流し、その巨大な翼で扇いだ。


「生きている人がいます!」とランプが叫んだと同時に、タルタロス軍は厄災を引き連れて、一斉に大気圏に飛び込んだ。


まずは人命救助を急ぐことにして、極が細かい指示を出した。


天使がわずか百人では足りないほどだったが、その分静香が百人分以上の働きをしたので、大勢の者の命だけは救えていた。


そして重傷者は極が一手に引き受けて、気功術の正常化の棺に入れ込んで、欠損部分などを一気に元通りにしていく。


兵士たちはこの施術を今までに何度か見ているのだが、まさに奇跡が起こっているようにしか思えない。


だが、完全に治してしまうことで、ひどい状況に陥った者でもそれほどのトラウマが沸かない統計データもある。


ただの悪夢だったと、ほとんどの者が考えるようになるからだ。


命を助けたからとって、本当の意味で救ったとはいえないのだ。



ここからは余裕で休息をとり、天使たちも復活を果たして、捕らえた厄災の服を脱がす作業を始めた。


経験者が半数いることで、作業は順調に進み、ここでも多くの人たちを救い出すことに成功した。


そしてその核にいた者が判明した。


「だからこそ、必死になって潰そうとしたわけか…

 大昔の姫の呪い…」


極の言葉に、誰もが背筋を震わせた。


「だけど、これほど返り討ちにあっているのに、

 本当に学習能力が低いわ…」


燕は言って、宇宙船のがれきの山を見上げた。


「…だが、これからが大変だ…

 放置できないから仲間にするわけじゃないけど、

 同行させるしかないか…」


極の言葉に、「また長い年月をかけて厄災になられてもね…」と燕はあきれたように言ったが、いきなりポポタールに変身した。


「あ、オカメの方よ」とポポタールが言うと、「本当にそっくりだね」と極は感動して言った。


燕の方がわずかばかりにホホの白い部分が大きいだけだ。


「なにがあってどうなったのか、全てを頭の中に叩き込んでやる」とポポタールが威厳をもってうなると、ジャックたちは耳をふさいでポポタールを見ないようにしていた。


「監視ロボ作って」とポポタールが言うと、「…それをすると取り返せないと思うよ?」と極が言うと、「神隠しにでもあったと思わせるわ」とポポタールは言って、現地住人たちに触れて回った。


「…大勢の意見は比較的信用する…」と極は言って苦笑いを浮かべた。


それにその神隠しは事実として実際にあることなので、極としては否定できなかった。


よって天使のロボットを創り上げて、元姫に寄り添わせた。


もちろん神隠しの件も知識として持っているので、それを刷り込ませることも可能だ。


極たちは少し休憩してから、ほかの悪まみれの星の掃除をすることにした。


天使ロボは極たちを見送ってから、両手のひらを、『パンッ!』と打った。


すると人間たちの服が新品同様に変わり、ロボは納得の笑みを浮かべた。



ふたつの星をきれいにすると、さすがに疲れたようで、ランプとピアニアは笑みを浮かべて眠ってしまった。


そして大勢の天使たちが一斉に癒して、瞬時にして復活を遂げた。


ここで極は小さなリナ・クーターによって捕らえていた宇宙船を解放すると、すぐさま通信が飛んできた。


「あんたらの杞憂は去った、立ち去れ!」と極が叫ぶと、『そんなもの、信用できるか!』と当然のように言ってきた。


「確認して来いよ」と極が挑発するように言うと、一艇だけ無人の探査船が飛び出して、すぐに相手司令官をうならせた。


「おい役立たずども。

 この星に手を出すな。

 出したと同時に、宣戦布告とみなす」


『…役立たず、だとぉー…』と司令官は言ってぶるぶると体を震わせた。


「大勢の部下を死なせたお前は、軍法会議で死刑だな。

 俺だったらそうするぞ」


もちろん、絶命した者も多くいたはずだが、厄災に取り憑かれていた者は、全員命を救われていた。


相手は通信を切って、踵を返して宇宙船を進ませた。


そして高速航行に移る前に、ビームによる攻撃を仕掛けてきたが、全く効果はなく、逆に閃光部隊に反撃を食らって、武器をすべて失くして逃亡した。


「じゃ、早速報復に行くよ。

 攻撃してくれて助かった」


極の陽気な言葉に、ジャックたちは大いに眉を下げていた。


移動の途中で宇宙船を拿捕して、星の代表に通信を送って攻撃されたと極は言って、その映像をすべて見せてから、宇宙港に停泊中の無人の宇宙船を早速一艇破壊した。


相手側は大いに慌ててたが、返答をしてこないので、次々と宇宙船や武器、兵器を壊して回った。


大勢の者たちが、慌てて宇宙港から立ち去っていく。


ついには近場の軍事基地から反撃してきたので、一瞬にしてすべての武器などを破壊を終えて、星中の武器、兵器、宇宙船を根絶した。


そのついでに、残骸などを資材に変えておいたが、工場も破壊して更地にしたので、そう簡単に武器どころか宇宙船の製造はできない。


「平和になった」とだけ極は言って、通信を切って、監視用に小さなリナ・クーターを十機放って、大神殿に帰還した。



マリーンはまずはもろ手を上げて天使たちを労って褒め称えた。


落ち着いたところで、極たちにも労いの言葉をかけて、今日のところは簡単に解散になった。


極たちは長時間の労働を癒すように風呂に入ってから飯を食って異空間部屋で就寝した。


わずか五時間の就寝なのだが、誰もが完全に復活していた。


「…これは不思議だ…」と黒崎は苦笑いを浮かべて言った。


「異空間はエネルギーの宝庫でもあるんです。

 体を穏やかに保つと、自然治癒力が上がるのです。

 ですのでふらふらになるまで勉強や体力づくりをすると、

 外と比べて作業効率は上がっているんですよ。

 時間だけではなく、そういった利点もあるんです。

 ですので、戦場でも大いに使えますから。

 俺たちのことをゾンビ軍団などと、

 そのうちうわさされるでしょうね」


極の言葉に、話を聞いていた者たちは大いに苦笑いを浮かべた。


「今回時間を設けたのは、

 子供たちと遊ぶためです」


極は言って庭に出てから、芸術品の砂の城を造って、子供たちを大いに陽気にさせていた。


「…素晴らしいパパさんだ…」とジャックは言って極にまぶしそうな目を向けた。



「帰らなくていいの?」とフランクが抱いている二名の天使に言うと、「…あはは…」とふたりは照れくさそうに笑ってジャックを見上げた。


「咎められなかったからいいのいいの」とジャックは調子よく言った。


「だが、作戦実行中はきちんと協力しろよ」


ジャックの少し厳しい言葉に、「はぁーい!」とふたりの天使は陽気に答えて、フランクを離れて庭に出て子供たちとともに遊び始めた。


「ひとりは222才。

 もうひとりは少々若くて122才だ」


ジャックの言葉に、フランクは大いに眉を下げていた。


「俺とフランクを気に入ったから、

 ふたりは結託して俺たちにしがみついていたんだよ」


「…はあ…」とフランクが気のない返事をすると、「結婚相手」というジャックの言葉にフランクは大いに目を見開いて、「…同族結婚の方がいいと、極様が…」とフランクが言うと、「だったら断わればいいさ」とジャックが何でもないことのように言うと、フランクは大いに悩み込んだ。


「極に色々と聞いてな。

 同族でもいいが、天使でもいいらしい」


ジャックがその説明をすると、「…スイジン様の力で…」とフランクは言って目を見開いた。


「孕むのは天使になるから、母親には変わりない。

 そして生まれてくる子供は、

 ハーフではなく純粋に獣人が生まれるそうで、

 父親は我が子を抱くことになるそうだ」


「…ですが、そこまでになるには、いばらの道ですが…」とフランクは大いに尻込みをした。


「それも修行さ」というジャックの穏やかな言葉を、フランクは心に刻んだ。


「なにごとも天使の立場に立って考える必要がある、

 好きになる前に、まずはその覚悟をして、

 しっかりとお勉強しておくべきなんだよ。

 もしも俺たちに天使たちが合格点を出した時、

 もう逃げられねえけどな!」


ジャックのいい加減な発言に、フランクは心底苦笑いを浮かべたが、何事も経験と思い、覚悟を決めた。



極は笑みを浮かべて縁側に座った。


「マリーン様はなぜ何も言わなかったのだろうか」と極が言うと、「俺が誘拐しただけだ」とジャックが答えると、「あー… それは仕方ないなぁー…」と極が少し嘆くように言うと、フランクは大いに戸惑った。


「本音で話すと、

 ジャックがそう言わないと、マリーン様が悪者になるか、

 天使たちを特別扱いにしたことになる。

 さらには天使たちの統率が取れなくなる。

 ジャックが何も言わずにつれて来たことで、

 案外うやむやになるものなんだよ」


極の言葉に、「…半分ほどは納得できました…」とフランクは言って苦笑いを浮かべた。


「それに、天使たちも勇者と同じで比較的自由なんだ。

 大きな天使のマリーン様に寄り添うことが普通だが、

 勇者や悪魔に許可を得れば、

 誰に寄り添ったっていい。

 もしもマリーン様に監督責任があるのなら、

 あのふたりの天使を引き留めたはずだからな」


「…は、はあ… なるほど…」とフランクはほぼ納得ができていたが、やはり獣人の常識が先に立ってしまう。


「単独行動だったら誘拐してなかったな」とジャックが言うと、「天使はひとりでいると、どうしても仲間を欲する生き物だと思い知るんだ」と極が補足説明をした。


「だから賢い天使はね、

 誘拐してぇー…

 などと言ってせがんでくるかもしれないな。

 さらには、勇者に誘拐されたんだから、

 天使にとって、ある意味出世でしかないんだよ。

 しかも、マリーン様から奪ったことにはならない。

 俺たちはマリーン様の僕だから。

 俺たちも全員、マリーン様の持ち物のようなものだから」


「…住処が替わっただけ…」とフランクが要約すると、「そういうことだね」と極は言って笑みを浮かべた。


「ランプもピアニアたちも誘拐してもらいたいところだろうけど、

 さすがにハイレベルな天使はそれはしない。

 後継育成のために、ここは自己犠牲の道を選ぶんだ。

 だけど、俺たちが出撃する時はずっと一緒にいるから、

 それほど気にもしていないと思うよ」


フランクはようやく天使の生態を知ったような気がした。


「だから几帳面な天使はそれほどいないんだよ。

 だけど程というものがあるし、

 相手の立場に立って考える。

 よってそれなり以上に考え抜いた結果、

 ジャックに誘拐してもらったんだよ」


極の言葉に、ジャックは照れ臭かったようで、鼻の頭をかいていた。


「問題は、幼児だが悪魔がいることが問題だけど、

 ソルデは統括地からの通いにすると思うから、

 言い聞かせはしないと思うね」


「…その時は諦めてもらうと言っておいた…」とジャックが言うと、極もフランクも笑みを浮かべてうなづいた。


するとソルデがやって来て、「…おうち、帰るぅー…」と極に言ってきたので、極は燕を連れて、扉を置いてから消えた。


そしてしばらくしてから極と燕が戻ってきたが、ソルデは扉からやって来て、わらわらと天使たちも出て来た。


そして、獣人の子供たちの仲間になって庭で遊び始めた。


「…ま、ソルデがいいのなら、いいかぁー…」と極は苦笑いを浮かべて言った。


しかしソルデは星に戻ったようで、仕事だろうと漠然と思って気にもしなかった。



極が住むこの宇宙にも存在したのだが、恨みっこなしの宇宙最強決定戦なるものが、自然界のある大宇宙からみっつ離れている大宇宙でも行われている。


熱狂的なファンがついていることもあり、高額の賞金目当てと、強さ目当てで自分自身の命を懸けて戦っている者たちがいる。


試合中はなんでもありで、観客が巻き込まれることすらある。


この興業のおかげなのか、戦争はどこにいっても行われていない。


もしも戦場にこのようなとんでもないヤツらを放てば、星が崩壊されてしてしまうのではないかと思わせるほどに、すべての者を粉々に粉砕してしまう。


出場者のほどんどはハイビームの操り手で、当たればほぼ勝利は決まったようなものだ。


よって出場選手は多くいて、誰もが一番強いと自負している。


ハイビームだけは、どんな盾であっても鎧であって貫いてしまうからだ。


よって守るよりも攻め足逃げ足を大いに鍛え上げることになる。


このノーガードの戦いが熱狂的な理由でもあるが、もちろん観客も巻き込まれるが、会場内は戦場と同じで、命を落としたとしても苦情は受け付けられない。


それほどに刺激がない大宇宙だとも言えるのだが、このコロシアムが生まれたからこそ、多少のことでは刺激がなくなったともいえる。


しかし、悲壮感はそれほどなく、これもひとつの平和だといえた。


そして戦う闘士の寿命も、デビューして長い者で数カ月だ。


その中で、3年もの長い時間を生き延びた者がいる。


まさにキングオブキングで、誰もがこのドリル・バッガーと戦うことだけを生き甲斐としている。


今日も簡単に相手をハチの巣にしたが、ドリルも大いに傷ついた。


本来ならば怖くなって当り前なのだが、ドリルにはそのような感情すらなくなっていた。


自分自身を殺してくれる者が現れることを待っている気持ちもあるが、手を抜くことはない。


「…痛ってえなぁー…」とドリルはつぶやいて、穴だらけの左腕から流れ出る血を見つめていた。


そして徐に正常化の棺を出して中に入り、一瞬にして完治した。


まさにこの魔法にも観客は熱狂して、ドリルを湛えるのだ。


「…また生き延びちまったが、

 また痛い目を見るわけか…」


ドリルはこの苦痛からも早く脱出したいのだ。


よって何度も一線を退くのだが、それはほんのわずかな時間で、次の試合には復帰して、戦場であるコロシアムに立って、確実に相手を粉砕する。


もう性癖のようなものになってしまっているので、この一年は退く意思は出さずにひと月に一度の戦いに挑んでいる。


ドリルのレベルになると、ライバルなどは必要ない。


仲間も必要ない。


そのような者を作ったとしてもすぐにいなくなってしまうから、無意味なのだ。


よって家族もいない。


トップクラスの闘士は、みんな同じ病のように、ドリルと全く同じように変わっていく。


戦争はないが、盗賊程度の者たちはそれなりにいる。


ドリルは技を維持するために雇われて盗賊退治などを受けつけることもある。


そこには正義感などはなく、彼の修行でしかなかった。


まさに命を懸けているのだが、コロシアムに向き合っている者に比べると、相手は子供でしかない。


ドリルは相手の持つ武器とその腕や脚だけを確実に粉砕する。


さすがに命を奪ってしまうと罪に問われることもあるので、この処理だけは試合以上に繊細に作業をする。


「…お前たちの時代はもう終わったも同然だぜぇー…」


両腕を粉砕された盗賊のボスが苦しみの中でうなるように言った。


「…ふーん、面白そうだ」とドリルは言って、盗賊を正常化の棺に入れて復活させた。


「さあ、話を聞かせてくれ」とドリルが言うと、盗賊は体が元通りになり、痛みも消えてしまったことに目を見開いていただけだ。


しかし話を聞き終えたドリルは、何の確証も根拠もない盗賊の話を興味深げ反芻していた。


「…どんな攻撃も通用しねえヤツがいるとはな…」とドリルはにやりと笑って盗賊に礼を言ってから、逃がすことなく依頼主に引き渡した。


ドリルはこの近隣で最高に速い宇宙艇を購入した。


今までに稼いだカネの半分ほどを一気に消費して、ある意味喜んでいた。


こういった者は無趣味で物欲もなくなっていくものなのだ。


「…あ、ハイビームが無効化…」とドリルは思い直してから、肉体の鍛錬も並行して行うことにした。


術もそうだが肉体もそれなり以上に鍛え上げているが、術を使えないと考えると丸裸にされた思いになったのだ。


「…何だこの感情…

 …いや、懐かしい…」


ドリルは闘士になると決めた日の言い知れぬ不安を快く思い始めたのだ。


さらには伝説級の話だが、この宇宙だけが全てではないらしいこともつかんでいた。


よって人を雇ってすべてを調べ上げさせて、ついに軌道エレベーターを発見した。


しかし二カ所も見つかったので、どうしたものかと考えていると、続々と情報が入って来て、最終的には8つになっていた。


ドリルは生まれて初めて大いに悩んだのだが、悩んでも仕方がないと考えを変えて、一番初めに見つかった軌道エレベーターに乗った。


軌道エレベーターを出て近くにある小宇宙を目指していると、ロボットタイプの宇宙船を補足した。


もちろん相手側も気づいたようで、すぐさま通信要請が入ってきた。


『やあ、こんにちは。

 一人旅ですか?』


極は気さくに聞いた。


ドリルは様々なことが大いに気になったが、「ええ、そうです」とだけ答えた。


相手が敬語で話してきたので敬語で返しただけだが、ドリルにとって初めての経験だった。


「実は、宇宙で一番強い者を探しているんですけど、

 知りませんか?」


ドリルが聞くと、『何人か知っていますよ』と極は気さくに答えた。


「…一番が何人もいるのですか?」とドリルは目を見開いて言った。


『命のやり取りはしないので、

 一番を決めようがないのですよ。

 あなたもそれなり以上に積んでいるようにお見受けしますので、

 腕試しにやって来たようですね。

 ですのでそういった人たちは、

 人々の不幸を少しでも軽減させるように、

 星々の復興などを生業としています』


ドリルには全く興味のない話だったが、その強さを体験したいと考えた。


『食事休憩の予定でしたので、

 目の前に見える星に行きませんか?』


ドリルはすぐさま極の話に乗って、リナ・クーターを追いかけたがとんでもない速度で星に突入して行った。


「…ヤツは、誰よりも強い…」とドリルはつぶやいて、宇宙艇を星に飛ばして、大気圏に突入した。



「…ひとりだけじゃなかった…」とドリルはつぶやいて、極のパートナーたちを見まわした。


「あんた、随分と殺してきたのね…

 まあそれが、あんたの仕事のようなものだったらしいけど」


燕の棘のある言葉に、ドリルは大いに苦笑いを浮かべた。


どう考えても、今までに会った誰よりもとんでもない雰囲気を持っていたからだ。


「ルールのない、治外法権での戦いのようだから、

 ある意味正当化はされるよ。

 ドリルさんが悪いんじゃなく、世間が悪いと言っていいね」


ドリルはまた違和感を感じた。


相手はドリルのことをよく知っていると考えたのだ。


「じゃあ、なぞ解きをここでひとつ」と極は言って、大きな岩の前に透明の盾を突き立てた。


「ハイビームを撃ってみてください」と極が言うと、「…は、はい…」とドリルは言ってすぐさまハイビームを撃ったが、完全に盾に防がれたと察して、岩を見たが穴が開いていない。


「この防具を着て戦えば、肉弾戦しか残りませんから。

 ですので、宇宙最強は大勢いるのです」


「…はは… 納得、できました…」とドリルは言って極に頭を下げた。


「ヘタレ4号にでもなれば儲けものだわ…」と燕は言って、獣人のオカメに変身した。


「…え?」とドリルは言って目を見開いた。


このような変身種族には会ったことがなかったからだ。


そして宇宙は広かったと思い、旅に出て正解だったと大いに喜んだ。


するとオカメがドリルの足を踏んづけた瞬間に、ドリルは地面に転がってのたうち回った。


「…残念… 番号なしだったわぁー…」とオカメは大いに嘆いて燕に戻った。


―― なんだ、この衝撃はっ?! ―― とドリルは苦痛の中で何とか考えることはできたが、ようやく楽になっていった。


「…ふむ… 復活は早かったわね…

 もう一度やってみようかしら…」


燕が言うと、「…それほど変わってないから…」と極は眉を下げて言った。


そしてドリルは見た。


獣人たちは火や水を使って盾に攻撃するのだが、どれも全く効果がなかった。


しかし、その盾が岩とともに水蒸気を上げて溶け始めた。


「あ、マグマにはさすがに弱かったね」と極が明るく言って、バンを大いに褒めた。


「最高温らしいので、まず、この地表ではお目にかかることはないらしいです!」とバンは妖精から聞いた話をすると、極は満足そうにうなづいていた。


―― …俺は小さかった… ―― とドリルは納得の笑みを浮かべて半身を上げた。


ハイビームが通用しないものを溶かしてしまったことに、大いにショックを受けたのだ。


もしも戦いの場で今の攻撃をされると、負けは決まったようなものだった。


「ドリルさん、まずは食事でもどうです?」と極が聞くと、ドリルはすぐに立ち上がって、「はい、ありがとうございます」と言ってすぐに立ち上がって、極が勧めた席に座った。


ドリルは初めて食事をうまいと感じていた。


「これが自由というやつです」という極の言葉に、ドリルは食事の手を止めた。


「あなたは自分自身を縛っていたはずです。

 そこには善も悪もない。

 あなたに課した精神修行のようなものだったのでしょう。

 しかしその道は死ぬことにしか向いていなかった。

 生きていこうという希望はなかった。

 なぜだと思います?」


「…孤独だからだと思います…」とドリルはうなだれて答えた。


「あなたのような方が大勢いるようなので、

 気が合えば俺たちの仲間になってくれるでしょう。

 きっとほかの強い方々もあなたと同じだと思いますから」


極が語ると、流石が仕事内容の映像を出した。


ダイジェストのようなものだったが、まさに極の魅力が満載だったので、ドリルにはすぐに理解できた。


「…俺は、誰かが熱狂してくれることだけを喜んでいた…」とドリルは正しく理解して、映像の中の子供たちの無垢な笑顔を見てうなだれた。


「ですが、その感情すらも薄れて、

 死に場所を探していたと思います。

 ですがもったいないので、

 俺たちとともに働いてみませんか?

 もちろん、入隊試験として、俺と戦ってもらいますけどね」


「はい! 喜んで!」とドリルは顔を上げて、満面の笑みを浮かべて答えた。


ドリルはかなりしっかりと食べて、しばらく時間を置いてから、極が創り上げた組み手場を見て大いに呆れていた。


瞬きする間もなく、平らに整地を終えていたからだ。


もうこの時点でこの先の展開は読めていたが、ドリルは気合を入れて極の前に立った。


「合図、出すわよ」と燕が言って双方を見回してから、「始め!」と叫んだと同時にドリルは極の頭をめがけてハイビームを放ったのだが、もうそこにはいなかった。


そしてどこにもいない。


しかしドリルはいつの間にか少し柔らかい地面にうつ伏せにされていたことに気付いて、ようやく羽交い絞めにされていたことに気付いた。


「…残念、不合格…」と極は眉を下げて言って、ドリルの脇をもって少し乱暴に立たせた。


「心を入れ替えたら、再試験もありです。

 一分以内に答えを出してください」



ドリルは目隠しとしてハイビームを放ったのだが、それを予測していたように簡単に逃げられた。


そして極は常にドリルの真後ろにいた。


ドリルは何とかなると思って高をくくってたことがそもそもの間違いだった。


初見の相手には攻撃ではなく、様子を見ることが重要だと、この組み手のルールのようなものを見抜いた。


「じゃあ、もう一度」と極は言って組み手場の中央に立った。


「ドリル、急げ」と燕が厳しい言葉でいうと、ドリルは慌てて極の前に立って、今度は半身になって身構えた。


燕から開始の合図がかかったが、今回は双方とも動かなかった。


しかしドリルはこの緊張感に耐え切れずに、すり足で極に近づく。


―― なんだこの緊張感… そして、威圧感… ―― とドリルは思って少し焦ったが、ここははやる気持ちを抑え込んで、極の出方を見たが全く動かない。


ドリルはもう半歩分すり足で移動してから、素早い前蹴りを放ったのだが、途中で叩き落とされた。


しかし極は全く動いていない。


いや、動いていないように見えただけだ。


つま先には極の手のひらの感覚があったからだ。


ドリルはすり足でわずかに回り込むと、極はもうすでに体ごとドリルに向いていたことに驚いた。


ここは一気に前に出て、鋭い抜き手を放ったのだが、極は簡単に避ける。


さらには手刀の軌道を変えられていることにも気づいた。


ドリルは体力温存など考えずに、真っすぐに極を見据えたまま、今までにないハイスピードで手足を出すが、全く当たらない。


術を放つ場合は一呼吸必要なので、当たることはないともう察していた。


しかし、妙案が浮かんだので、そのタイミングを見計らって、もろ手突きと見せかけて巨大な光の球を出した時、ドリルは両足を払われて、数回転して空を見上げていた。


―― もう、読まれていた… ―― とドリルは思いながらも何とか立ち上がったが、極が歪んで見える。


高速で回転させられたので、視界は定まらないし、足元もおぼつかない。


だがそれは二秒ほどで、少し腰を落とした時、「じゃ、今度は俺から行くよ」と極が言うと、ドリルは大いに緊張した。


その瞬間、ドリルは額を極の指ではじかれて、後方に向かって数回回転して地面を見ていた。


ドリルはもう何度も死んでいたと思ったが、さらに何度も死のうと思って、腕を立てて起き上がろうとしたが、全く体が動かない。


体力が切れる前に、精神力が切れていた。


しかしここは強引に立ち上がって、ふらつく足を抑え込みながらも、半身に構えた。


もう、腕を上げていることすら辛かった。


どうしてやめないのだろう、放り出さないのだろうと、ドリルは思って少し笑った。


「よっし! 合格だ!」と極が言うと、「…や… やったぁー…」とドリルは言って両腕を上げたかったがそれは叶わずに、真後ろに倒れ込んでから、ようやく腕が上がった。


「甘いわね…」と燕は言って極をにらんだ。


「この状況で、何人が心からの笑みを浮かべられると思う?

 ひょっとすると、燕さんだけかもしれないよ?」


「…大成するって見込んだわけね…」と燕は眉を下げて言うと、極は笑みを浮かべてうなづいた。


「術の訓練… というか矯正は必要だけど、

 ほぼ即戦力の貴重な存在だよ。

 時間があれば、ドリルさんのいた宇宙で、

 仲間を増やしたいと思ったね。

 それに、気功術を使えるみたいだ」


「…うう… 見捨てるともったいなかったぁー…」と燕は言って、傷ひとつないドリルの顔と腕を見て納得していた。


「正常化の棺は使えるようね」


「ふたりいれば、救命のかなりのスピードアップができるからね」と燕は笑みを浮かべて言った。


今日のところはドリルに極たちの仕事の見学をさせてもらってから、気づくと別の星の空の上にいた。


―― 空気が、まるで違う場所… ―― とドリルは思って、きらびやかに見える大神殿を見ていた。



マリーンは大いに悩んでいた。


まさに善も悪もなく人を殺していたドリルの判断ができなかった。


「倒さないと倒されますから。

 そういう世界で、ドリルさんは生きていたのです」


極の言葉に、「…理由はよくわかりました…」とマリーンは言ったが、ドリルを好きにはなれなかった。


「私だって初見では反対したわよ。

 だけど、そうじゃないって、極に身をもって教えてもらったの。

 ドリルはある意味、平和な宇宙で過ごしていたはずよ」


「…そのような世界は、平和とは言えないと…」とマリーンは大いに抵抗した。


極がドリルに様々なインタビューをすると、マリーンの顔色が変わっていた。


盗賊程度しかいなくて戦争のない比較的平和な宇宙だったとドリルが答えたからだ。


さらに治外法権であるコロシアム以外では、正当防衛であっても罰せられるという法律もきちんと整っている。


戦争の代わりに、コロシアムがあるようなもので、多くの住人は安堵を前面に出した生活をしていたとドリルは語った。


しかしそれがまるで映画の中の話のように燕たちには聞こえて、自分と同類だと燕はここでようやくすべてを察した。


「竜と同じで無関心」と燕が言うと、マリーンは深いため息をついたが、極は笑みを浮かべてうなづいていた。


「不死身という者が大勢いる中だと、どのように変わっていくのかが、

 私にとっては楽しみなのです」


極が笑みを浮かべて言うと、「…はい、意見を申し上げてしまって申し訳ございませんでした…」とマリーンは素直に言って、極に頭を下げた。


すると、大勢の天使たちがやって来て、その半数がドリルに近づいて興味深げな顔をして見上げた。


強い存在なのはわかっているのだが、馴れ馴れしくするほど強くないと感じたので興味を持っただけだ。


「食事をしてから、早速基地に行って修練を積みます」という極の言葉が締めになって、ドリルは初めて空を飛ぶ体験をした。



ドリルは別荘についてから、まずは極に風呂に誘われると、体の変化に気付いた。


まさに生き返ったように感じて、なぜだか涙を流していた。


極たちは何も聞かなかった。


今のドリルはまさに生きている実感を味わっていて、生きていてよかったと思い感無量となったのだ。


そして大勢との食事も楽しそうに笑みを浮かべていて、極以外とも親しげに話すようになった。


そしてドリルは一番気になったことをジャックに聞いた。


「それ、ハルクっていうんだ」とジャックが答えると、「…名前と顔とその存在がマッチしているが…」と言って怪訝そうに言った。


「さすがだ。

 ヤツはロボットだ」


ジャックの言葉に、「…そういう理由か… 存在しているのにしていないように感じたから…」とドリルは言って何度もうなづいた。


「大神殿の警備員だから、

 一番の適任者じゃねえの?

 だが、信じられねえほど強ええぞ」


ジャックは言ってから身震いをした。


「ほかにも警備らしき者がいたが、

 傷だらけだった…」


ドリルが思い出しながら言うと、「大神殿の裏の空き地で毎日訓練してんだよ」とジャックは面白くなさそうに言った。


「これからちょいと基地に行って修練を積むだけでさらによくわかるさ」と極が言うと、「そうかぁー?」とジャックが言うと、「ドリルさんは俺たちとは場数が違うから」と極が陽気に言うと、「…その積み重ねが全く見えねえからなぁー…」とジャックは言って、ドリルの露出している肌の部分をまじまじと見た。


「…俺は、今日の日を夢見ていたと思う…」とドリルが言うと、ジャックは納得したように何度もうなづいた。



そして食後に基地に移動して、ドリルは修練場を見上げて固まっていた。


どう考えても普通ではないと思ったが、誰もが一斉に、まるで子供のように高くそびえる壁を登り始めた。


ドリルは極に修練場の要領などを聞いて、襲る襲る壁を登り始めた。


安全だと聞いていても下腹部が大いに緊張する。


そして何とか登り切って下を見ると背筋が震えた。


これを降りるとなるとさらに震えるだろうと思い、何度も深呼吸してリラックスを促した。


第9修練場まで体験してもうフラフラだったが、笑みを浮かべて柔らかい芝生に寝転んだが、「上げるぞ!」という極の言葉か聞こえてすぐに、地面がせりあがるような感覚を体験した。


半身を起こして辺りを見ると、水平線が移動しているように感じた。


島でしかないはずだったが、その島が宙に浮かんでいるのだ。


そして、多少の息苦しさを感じてすぐに島は動きを止めた。


―― 強くなれないわけがない… ―― とドリルは少し陽気に思って立ち上がろうとしたが、体が妙に重く感じる。


ドリルは一旦寝転んで、何度もゆっくりと深呼吸を繰り返すと、今度は寒いと感じたので、起き上がって散歩をするようにしてランニングコースに向かうと、誰もがとんでもない速さで走っている。


まさに実力差を見せつけられたように思ったが、ドリルは倒れることを覚悟して、前を走る者たちを追いかけた。


だが一周する前に側道に倒れ込んで、荒い呼吸を繰り返した。


―― よく死なないもんだ… ―― とドリルはうそぶいた。


そして体力をそれほど使わないというアトラクションブースに入ったのはいいが、惨憺たる成績でドリルは大いにうなだれた。


成績表はまさに正しいと、ドリルは大いに思い知っていた。


しかし毎日これを繰り返せば、必ず今を脱却できると思い、また壁を登ろうとすると、「下ろすぞ!」と極が叫んだ。


島が降りて行くたびに体が軽くなるように感じ、ドリルは急ぐようにして壁を登った。


そして登り切ってから、「…俺は、強くなった…」とつぶやいて笑みを浮かべた。


またほかの修練場にも移動して、第6修練場のゴーレムに挑戦したが、やはり赤子扱いだったので、さらに積み上げることにした。


呼吸が整いかけたところで極に呼ばれて、射撃ブースに行った。


まずはドリルは自由に的を粉砕してから、悪魔の眷属をあてがわれて、大いに修正された。


その内容はまさに細かく、針の穴を通せと言わんばかりだったが、周りをそれを実行している。


ドリルは大いに真摯になり、悪魔の眷属を、「先生」と呼び始めた。


まだ納得していないが、「終わりにするよ!」と極が言ったので、今日のところは焦らないことにして、射撃ブースを出た。


「今日一番成長したのは、文句なくドリルさん!

 まあ明日からはこうも簡単に成長はしないから、

 落ち込まないように」


極の言葉に、ドリルは笑みを浮かべて頭を下げた。


その細かい成長記録も閲覧して、大いに納得できていた。


「じゃ、帰るか」と極は言って、誰もが空を飛んで行ったので、ドリルも装置を操って空を飛んで、恐る恐る仲間になった者たちを追いかけて飛んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ