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閃光の極―KIWAMI―  作者: 木下源影
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第七話 楽園と地獄



   第七話 楽園と地獄



リリーと黒江は、かなり豪華な装飾が施されている部屋に誘われた。


よってそれほどに疑われているわけではなく、賓客扱いだと感じ、リリーは機嫌がよくなっていた。


「リリー様、修行が足りませんぞ」と黒江が言うと、「…はいはい…」とリリーはため息交じりに機嫌よく答えた。


ふたりは執事姿とメイド姿の者に、豪華な応接セットに誘われて、柔らかいソファーに腰を掛けた。


すると執事とメイドが向いのソファーに腰を掛けたのだ。


「大したことないわよ?」とメイド姿の燕が言うと、「…かなりがっかりした…」と執事姿の極が大いに眉を下げて答えた。


黒江は目を見開いているだけで、現在の状況を把握することに必死だ。


一方のリリーは、作法のなっていない執事とメイドに怒りの目を向けている。


リリーが言葉を発する前に、「私は煌極、そして妻の閃光燕です」と極が挨拶をすると、黒江はさらに目を見開き、リリーは黒江以上に目を見開いた。


「ファーストコンタクトは重要です。

 この件だけで、私は様々なことを察しました。

 黒江さんとリリー王女の知った真実と思われるものは、

 私が知った真実とはかけ離れているはずです」


するとリリーがいきなり不機嫌になった。


「あんたは格下でただの人間だから、名前があとに上がって当然のことじゃない」という燕の言葉に、「黒江!」とリリーは黒江に怒りの矛先を向けた。


黒江は大いに動揺していた。


そしてすべてが間違っていたのかと思ったが、それはないと自信を持った。


「黒江さんに命じた方は、きっとそれほど自信はなかったと思うのですが?

 しかし黒江さんは今までに

 その方が間違ったことは言わないという自信があった。

 その方に迷惑ですので、始めから冷静に考え直してください」


「…王は、間違わない…」と黒江が言うと、「自己催眠にかかっているようだわ…」と燕は大いに呆れるように言った。


「そもそも、黒江さんのようなずば抜けた方が、

 ただのお付きの執事とは思えません。

 どうやらその王に大恩があるようだ。

 その件もあり、王は間違えないと決めつけていると、

 私は思っているのです」


「納得いかないのなら帰って。

 今日は楽しいデートだったのにぃー…」


燕の甘えるような言葉に、「この埋め合わせはするから…」と極は眉を下げて言った。


「…ですがこの件はこの程度でいいでしょう。

 では、王の口から出た人名のような予言だけを教えていただけますか?」


極のこの言葉にも、黒江は大いに目を見開いた。


しかし、「…アテナ… …ゼウス… …アフロ… …リクタナリス…」と黒江はうつむき加減で言った。


「ほかには?」と極がなんでもないように言うと、黒江は顔を上げて、極をまじまじと見入った。


「…い… いえ… この、四柱の神だけです…」と黒江は目を躍らせながら答えた。


「…あっ…」と極はつぶやいて、頭を押さえつけた。


そして顔を上げて燕に笑みを向けた。


「どうして竜が卵を産むのか、ようやく理解できた」と極は笑みを浮かべて言った。


「…この件と関係ない」と燕は言ってから眼を見開いた。


「…そういうこと… かなり理解できたわ…

 だけどそれが本当にそうなのかはよくわかんないわよ?」


「ああ、その通り」と極は言ってから黒江を見て、「ゼウスに会って来いと、命令されましたね?」と極が言うと、黒江は目を見開いたままうなづいた。


「いやぁー… 頭ごなしに疑っちゃダメだね、やっぱ!」と極は陽気に言った。


しかし、今までの話だと、黒江たちはまさに嘘つき呼ばわりされても反論できない状態である。


「ゼウスを探し出し、リリー王女と結婚させ、

 母星の安寧のために働いてもらう。

 それができるのはゼウスだけ。

 …もう結婚しているとは思わなかったんだろうか…」


極の言葉に、「…この星での常識まで見抜いてたんじゃないの?」と燕がつまらなさそうに言うと、「ああ、なるほど… 王はなかなかのお人のようだ」と極は陽気に言って、何度もうなづいた。


「姫、今の話は、真実なのですか?」と黒江がリリーに聞くと、「…その通りです…」とリリーは頭を垂れて告白した。


「というわけで、それなりに大きな目論見は崩れました。

 ですが王としてはそれよりも脅威が近づいていると確信している。

 よって先手を打って、おふたりをここに誘った。

 そして、大神殿のマリーン様を説得する必要があるという

 勅命も受けているはずです。

 もし、ここまで王がおっしゃったのなら、

 まさに素晴らしい能力者でしょう」


「…マリーン、様、ですか?」と黒江が言うと、「あ、その部分はたぶんアフロとおっしゃったと思います」と極が言うと、黒江はすぐさまうなづいた。


「…公表されてないのね?」と燕が極に聞くと、「…稀にあるからね…」と極は眉を下げて言った。


魂の循環システムを公表していない星の場合、大神殿のマリーンの存在も公表されないことになる。


もちろん、循環システム内にいる者たちはよく知っているはずだ。


「神アフロはここではマリーン様に値します。

 そして私はマリーン様の盾。

 よって、私はマリーン様の指示がない限り戦いません。

 さらには、マリーン様が戦えという命令はされませんので、

 そちらの意に沿うことは不可能です」


極がまくし立てると、「…我が星を見捨てるというのか…」と黒江は体を震わせて言った。


「戦わずして立ちふさがるような命令はあるでしょう。

 ですがそれではやられっぱなしなので、

 マリーン様は手を出すなとおっしゃっても仕方のないことです。

 私はマリーン様をお守りする盾ですので、

 それ以外で倒れるわけにはいかないのです」


「自分の星の悲劇を他人に背負わせるな」と燕が厳しい言葉を放つと、黒江の力が抜けていて、涙を流し始めた。


極は苦笑いを浮かべたが、何も言わなかった。


「黒江! 帰るわよっ!」とリリーは言って立ち上がった。


そして、「こんな子供の話など信用できるものですかっ!!」とリリーは怒り心頭になって言葉を放った。


「…あーあ、言っちゃったぁー…」と燕が眉を下げて言うと、極は愉快そうに笑った。


「…子供などではない、言葉を慎め!」と黒江は厳しく言って、極と燕に丁重に謝った。


リリーは黒江にも燃えるような憎悪の目を向けた。


「俺はあんたの僕ではない!

 王の僕だ!」


黒江の堂々とした言葉に、リリーは居場所を失くしたが、何とか椅子に腰かけてうなだれた。


「このリリーの方が子供だ…

 だから王家には仕えたくなかったのですが…」


黒江の言葉に、「ご自身ではなく、ご家族が救われたのでしょうか?」という極の言葉に、「はい、その通りです」と黒江は言って頭を下げた。


「ですがもう、残ったのは私だけです」と黒江は言って、心に反して愉快そうに笑った。


「王に出会われて、どれほど時間がたったのですか?」


「もう、300年を超えましたなぁー…」という黒江の言葉に、リリーは顔を上げて目を見開いた。


「王の種族を教えていただきたいのです」


極が興味を持って核心を突いた言葉を放つと、「ゼウス様と同様に、勇者という種族だとお聞きしています」と黒江は穏やかに言った。


「となると、悪魔や天使、それに神とも知り合いだと思うのですが…

 そのお話は?」


極の言葉に、黒江は大いに考え込んでから、「…時折、就寝以外でもおひとりになられることが…」と言うと、「その時にコンタクトを取っておられたのでしょう」と極は言った。


「天使たちのご神託のようね…」と燕が言うと、「ほぼそうだろうね」と極は同意して、マリーンに念話を入れた。


念話はほんの数秒で、「…回りくどい話だぁー…」と極は大いに嘆いた。


燕はすぐに察して、「結局はこのふたりを導いたのはマリーンのようね」と言うと、「そういうこと…」と極は答えて眉を下げた。


「存在を明かさないということが第一コンセプトだから。

 さらに天使の考えがよくわかったよ…」


極は嘆くように言った。


「だけど命令はされずに、この事実だけを語られた。

 まあ…

 どんな災いなのかはよくわかってるつもりだよ」


極が真剣な眼をして言うと、「…そう… あの子の師匠の登場のようね…」と燕はため息交じりに言った。



「どのような災いが近づいているのでしょうか?」と極は雰囲気をがらりと変えて、真剣な眼をして黒江に聞いた。


黒江もその雰囲気を正確に感じ取って、「現在は一度だけですが、人が乗っていない小さな戦艦に襲撃されました」と黒江は答えた。


「その件に関して、わかったことを教えてください」


極の言葉に、黒江は知っていることすべてを話すと、「リーナ星…」と極はつぶやいた。


「リーナ星の回りは生物がいない暗黒の宇宙なのです…

 ですので、幽霊が攻めてきたと、

 王城内は恐怖に満ちているのです」


「太陽はいつ消えたのです?」


「今から、五百万年前ということらしいです」


黒江の回答に、「…なかなかうかつなヤツ…」と極が言って少し笑うと、「それに、賢くないわね…」と燕は言った。


もしも星を乗っ取りたいのなら、宇宙船に乗り込んでおけばいいだけだ。


「何か勘違いしてるんじゃない?

 もしくは太陽があろうがなかろうが関係ないのかもね。

 ただただ攻撃することが楽しい」


「…やなヤツ…」と燕は吐き捨てるように言った。


「…まさか… 正体をご存じなのか…」と黒江が目を見開いて聞くと、「森羅万象という種族です」と極が言って、その字を書くと、「…森羅、万象…」と黒江は聞き慣れない言葉を復唱した。


極がその説明をすると、「…ひと言でいえば妖怪の類…」と黒江が言うと、「その分類に値しますね」と極は同意して答えた。


「これが質の悪いやつでね。

 倒したと思っても復活してくるのです。

 ですので捕えないと解決できないのですよ。

 よって私もミスを犯しましたが、

 何とか汚名を返上しました」


「…あなたの恥をさらすような…」と黒江が嘆きながら言ったが、「いえいえ、この先、さらに失敗することがあると思います」と極は気さくに言った。


「ですので同じ失敗は犯さず、

 入念に計画を練って捕らえることにします」


極の言葉に、黒江は顔を上げ、希望を持った顔をした。


「まずは色々と下調べをしてからですね。

 幽霊船を見つけたら宇宙空間で始末しましょう。

 あなた方が乗ってきた宇宙艇もそれなりに使えるようなので、

 軍の宇宙船などもかなり使えるものだと思うのですが?」


極の言葉に、「陸にいる船は穴だらけなので役に立ちません…」と黒江は嘆くように言った。


「まずは宇宙船を破壊されたようですね…

 不安になって当然です」


極は黒江の心中を察して言った。


「となると、まずは防衛を急ぎましょう。

 守るだけなら、それほど苦労はないので」


極が言って立ち上がると、黒江も立ち上がった。


「一緒に母星に戻りましょう。

 私の船は速いですよ」


極の言葉に、黒江は大いに喜んで、極と握手を交わした。



黒江とリリーは乗ってきた宇宙船の中にいた。


もちろんリリーは役立たず扱いされてかなり怒っているが、黒崎が三百才以上の年齢だと知って、どう接すればいいのかわからなくなっていた。


「帰ったら俺らしく生きる。

 芝居はもう終わりだ」


黒崎の言葉に、リリーは何も言えなかった。


まさに王がふたりいるような気持ちになっている。


「ちなみに、王の血の繋がった子孫は誰ひとりいない。

 あんたを含めてな」


リリーはショックを隠し切れなかったが、「そう…」とだけ答えた。


「…煌様を知って古い神の一族でも格差があると思い知った…

 …だが、ここに来てよかった…」


黒江が笑みを浮かべて言うと、『黒江さん、そろそろ行きますから』と極の陽気な声が聞こえた。


すると宇宙船はふわりと宙に浮いて、気づくと同時に、見慣れた景色が眼下にあった。


『フレッツ星に到着です』と極の明るい声が聞こえると、黒江は苦笑いを浮かべて、首を横に振った。


「…何が起こったの… 私、夢でも見ているの…」とリリーは目を見開いて言った。


「…魔法に近いことだろうな…」と黒江は言って、宇宙艇がタッチダウンしてから安全確認をして、ハッチをあけた。


そして宇宙艇を出てすぐに、とんでもな化け物たちが極を囲んでいることに気付いた。


しかしその一団は大いに陽気で、士気も上がっている。


「…とんでもない王だった…」と黒江が言うと、「…人間って、ほんと愚かだわ…」とリリーは自分自身に嫌気がさして大いに嘆いた。



黒江の案内で、宇宙港にほど近い貴賓室の大きな部屋に極たちは招かれ、少年のような勇者と面会した。


あまりのことにリリーは目を見開いた。


祖父でしかなかった王が、今は弟のように幼くなっている。


黒江は今回の旅の収穫を素早く王に伝えた。


「…森羅万象… 名前だけは聞いたことがあるよ…

 とんでもない人に狙われちゃったようだね…」


王でもある勇者ランバート・タクトは大いに眉を下げて言った。


「今回も相手は暇つぶしでしょう。

 何の利益も発生しませんので、

 戦いを長引かせることは得策ではないでしょう。

 相手を殲滅する前に、

 こちら側の資源や資金が枯渇する可能性が大きいですね。

 今は悪意を感じないので、

 こちらに向かって来てはいないように思います。

 ですので、狙われているのは

 このフレッツ星だけではないのかもしれません。

 現在、リーナ星を取り囲んで、調査をしているところです」


極が言って流石の頭をなでると、様々な映像が映し出された。


鉱石の採掘から宇宙船の製造まで、クリアに見えた。


大気がないことで、明かりがあるところははっきりと確認できる。


「照明をつける必要ってあるの?」と燕が聞くと、黒江は大いに戸惑った。


「自分が作り出した機械や兵器に見惚れてるんじゃないの?」


「…そういうところは子供なのね…」と燕は眉を下げて言った。


「さらにはプラモデル感覚で様々なものを作り出す喜びもあるんだろう。

 そして極め付けに実戦まで楽しむ。

 標的になっているのは、このフレッツを含めて三つのようですね。

 …確証は何もありませんが、

 通信可能な距離的な部分からほぼ間違いないでしょう。

 レイト星では、厳戒態勢にあるようです。

 すると次は、ワーレン星が狙われるかもしれませんね。

 現在の造船状況からして最短でも10日ほどかかるようですが、

 真っ暗な部分にもう完成した宇宙船や戦艦があるかもしれません。

 確実に気づかれますが、小さな人口太陽を気づかれないように放ちます。

 このモニターにご注目を」


極は言って、作戦を決行させた。


小さなリナ・クーターからやんわりとミサイルのようなものが放たれた。


しばらくは何の反応もなかったのだが、その5秒後にいきなり画面が明るくなり、そして星の地上の様子がよくわかった。


すると地表の明かりが一斉に点灯して、昼の明るさとなっていた。


「自慢しているようですね」と極が言うと、「僕の作品、すごいだろ!」と燕が少年のように言うと、極は愉快そうに笑った。


「ここまでなら微笑ましいのですけどね、

 実戦の方は微笑ましくありません」


「…すべてが攻め込んで来たら、守りようがない…」とランバートは大いに嘆いた。


まさに無数と言っていいほどの様々な宇宙船がずらりと並んでいるのだ。


「様々なアプローチから鑑みて、飛べるのは数隻です」


極の言葉に、「えっ?」とフレッツ側の者たちも、極の仲間たちも一斉につぶやいた。


「肝心の燃料がほとんどありません。

 タクト王はこの状況を確認されて、

 今後どうしますか?」


「この状態のまま、全てを破壊したいです」とすぐさま淡々と言った。


「私も賛成します。

 そうしないと、もしも森羅万象がほかの星に飛んでしまった時、

 どこかの星がこの兵器などを手に入れる可能性が高いからです。

 燃料さえあれば、多分動くはずですから。

 そして燃料不足になり、

 この近隣の星々は大混乱になる可能性は高いでしょう。

 ここからは我が母星のラステリア軍にも出張ってもらい、

 ほかの星に大使を派遣してもらいたいと思いますが、

 どうでしょうか?」


ランバートは今回はさすがに即答せずに、黒江を話しを始めた。


その結果、このフレッツからリーナ星の状況は語らずに、レイト、ワーレンの二星に対して表敬訪問を行うことに決めた。


特にレイト星は厳戒態勢にあるので、その事情も知りたかったからだ。


大筋で話が決まったが、まさかのためにとして、ランバートは極にリーナ星の兵器の破壊を要請した。


「その作戦を決行する場合、

 リーナ星に近づかないようにしていただきたいのです。

 私は一度、星を破壊しているので。

 私だって破壊者なのです」


極の雰囲気に、ランバートは大いに戸惑った。


もちろん、極が言った作戦の証明をして欲しかった。


そしてランバートはこの場で天使にコンタクトを取って、破壊的な言葉を聞くことなく、真相を知った。


「軍の作戦だと聞きました…

 今回もそうして頂いた方が、

 煌様の負担も軽減されるでしょう…」


ランバートは極の心中を察していった。


天使の話からも、極は破壊者などではなく、みんなを救ったという表現が多用されたからだ。


ランバートも勇者なので、極の心情は痛いほど理解できていた。


極は中央司令部に連絡してすべてを話した。


そして統合幕僚長の代行としてマルカスが指名され、ラステリアからも将軍などが数名飛ぶことになった。



ランバートは、リナ・クーターの力を借りて、レイト星に使者を送り、その実情を知った。


フレッツと同様に、リーナ星から攻撃を受けたという。


被害は最小限に食い止められたが、高性能なビーム兵器を使ってくるので、安心はできなかったのだ。


更に次に狙われる候補のワーレン星にも大使を送って、フレッツ星とレイト星の状況を話したのだが、宇宙開発がとん挫していて、防衛の手立てがないと嘆いた。


よって作戦を急がないと、もしもワーレン星に危害を加えようなら、壊滅することは目に見えていた。


マルカスは到着した将軍たちに事情を説明してから、今後の作戦会議を行った。



極は今すぐに事は起こらないことを確認してから、フレッツ星で夜を迎えた。


そして就寝したのだが、暗闇の中で、『あなたは間違っています!』という声をまた聞いた。


「今度は間違えないから」と極が穏やかに言ってその事情を話すと、この声はぴたりとやんだが、『もうすぐ会えます』と初めて違う言葉と感情を放った。


「俺には妻がいますよ?」と極が言ったとたんに大きな悲しみとともに、その意識は消えた。


―― やれやれ… ―― と極は思いながらも、極が決めた作戦の反復をしているうちに、天使の夢見に誘われていた。


天使の夢見ではただただ遊ぶだけで、自己紹介などは何もない。


幼児の極は気になったので、ランバートと黒江がここにいないことを聞くと、天使たちは大いに戸惑った。


―― 思っていたほど、天使にとっていい人じゃない… ―― と極は思って、苦笑いを浮かべた。


よって極が誘われたことで、―― 間違っていない! ―― とさらに自信を持った。



翌朝、朝食の席で、極が天使の夢見に誘われたことを話すと、ランバートは眉をひそめた、


もちろん黒江も同じような顔をしていたので、―― 昔は大暴れしていた… ―― とだけ極は察した。


作戦内容に無謀なことでもあったのだろうと感じた。


いくら勇者とはいえ、強気に出ないと勝てない戦いもある。


平和をつかんだ代償は、天使たちに嫌われることだった。


極の場合、天使たちに慰められるほどなので、天使にとって都合がいい存在と言っていいのだろうかと、考えを改めた。



目を赤くしたマルカスたちは朝食の席に着いた。


仮眠はとったので、それほど憔悴はしていない。


しかし今は口を開かず、黙々と食事をとりながら眉をひそめた。


―― 確かに、父さんの感じた通りだ… ―― と極は思い、食の進まない仲間たちを見た。


極は料理に使っている材料などから様々な考察をしてから、ふりかけや香辛料やソースなどを創って、料理に混ぜ込んだ。


そしてひと口口に入れて、―― はは、これでいい… ―― と極は思って何も言わずに燕に渡した。


燕はすぐに察して、料理に振りかけて、「あら、すごいわ!」と食べることなく陽気に叫んで、もりもりと食べ始めた。


もちろん仲間たちもすぐに気づいて、燕からふりかけなどを受け取って、大いに食べ始めて、場の空気がいきなり陽気に変わっていた。


もちろんランバートも気づいて、極たちのマネをすると、「料理長、クビ」と冷たく言い放った。


―― はあ、こういった面があるわけだ… ―― と極は、ランバートが天使たちに嫌われていることに納得していた。



朝食を終えマルカスが極に近づいてきたが、「先にやることがあるんだ」と極は言って、オカメ、トーマ、ミランダを抱きかかえて、床に座って瞑想状態に入ってすぐに、「…とんでもないわね…」とオカメが眉をひそめて嘆いた。


「はい、終了」と極は言って、意識を失くしそうなトーマとミランダを抱きとめた。


「ふたりと、ついでにオカメちゃんも癒して欲しい」と極はランプたちに言った。


「はい! 喜んで!」とランプ、ピアニア、静香は満面の笑みを浮かべて、早速三人を癒し始めた。


マルカスは、今度は失敗しないように、極は先に手を打ったことを知った。


そして極に、「軍事作戦会議の結果を言い渡す」とマルカスは厳しい言葉を極に向けて放った。



「今回も頼んだよ」と極は宇宙船の中に入れ込んだリナ・クーターのボディーを軽く叩いた。


極は大きな透明の窓の前に立って、眉を下げている獣人のオカメを抱きしめてから、「爆裂レーザー閃光、準備します」と言って左腕を上げ、手のひらをリーナ星に向けた。


すると極の手のひらに光が帯びて、気が付くと大きな煌く球になっていた。


「準備完了!」


「閃光、発射!」とマルカスが命令すると、「発射します!」と極は叫んで、光の球を放った。


すると光の球は大きな矢となって、リーナ星に命中して、太陽の輝きを帯びてすぐに収束した。


「全速後退維持っ!」とマルカスがすぐに命令すると、巨大なリナ・クーターにけん引されていた宇宙船はとんでもない速度で後退した。


今はトーマが専用機を使って、巨大なリナ・クーターを操っていた。


今回もブラックホールが現れ、リーナ星の残骸だけではなく、近隣の星までその黒い穴に吸収して行った。


それはまさに早業で、この太陽系があった星々を吸い込むまでほんの数秒だった。


極は腕を下げて苦笑いを浮かべたまま、「リーナ星の破壊を確認」と言って、マルカスに向けて胸を張り、拳を当てた。


「ご苦労」とマルカスはこれだけ言って、苦笑いを浮かべて極の肩を軽く叩いた。


なにも間違っていないと思っていても、この仕事は慣れないと極は思って、薄暗くなっている宇宙船の廊下を歩いて行った。



「燕さん、リフレッシュ」と極は言って、かなり嫌がっている燕の手首をつかんで、シャワールームに誘った。


「…ああ、豪華なホテルの方がいいぃー…」などと言ったが、肝心要の極はシャワーを浴びながら眠っていたので、「何がしたかったのよ?!」と大いに叫んでから、極の尻を蹴り上げた。


しかし燕は笑みを浮かべて、子供でしかない顔をした極の唇に唇を重ねた。



「ああんもう、極さんったらぁー…」と燕は顔を真っ赤にして、復活した極に寄り添っている。


「法律違反ですよ、先生」とマルカスが真剣な顔をして言うと、「…うふふ… 法律の前に妻だし、被害届けが出ているの?」と燕は陽気に言い返した。


「シャワーを浴びてから記憶がない…」と極が眉を下げて言うと、「証拠不十分… そのあとは先生への褒美」とマルカスが言うと、「あ、そういうことだったのね」と燕は大いに納得してから、「おしりを蹴ってごめんなさい…」と極に謝ると、極は察して大声で笑った。


「…褒美にならなかったのか…」とマルカスは眉を下げて言うと、「…うふふ…」と燕は愉快そうに笑った。



「大問題のこいつはあとでいい」と極は言って、黒い箱を遠ざけた。


そして透明の箱の方を見入って、「こっちはリーナちゃん」と極が言うと、誰もが目を見開いた。


極は小さな箱を開けて、「生まれ変わった気分はどうです?」と聞いた。


リーナはかなり恥ずかしがっていて、「…体がなくなったのに…」と言ったが、自分の体に触れて目を見開いた。


「リーナちゃんの星はリーナちゃんの体になったから。

 今回は動きまわれるよ」


「つっかまっえたっ!」と果林が陽気に言って、両手のひらでリーナを包み込んだ。


「もう友達ができたね」と極が言うと、「…この子、すっごぉーいぃー…」とリーナは目を見開いて言った。


「わかっているとは思うけど、

 容易に人の体の上に乗っちゃダメだよ」


極のやさし言葉に、「うん、十分気を付けるの…」とリーナは頼りなげに言って、果林に連れ去られた。


「リーナの重量、たぶん10トンはあると思う。

 小さいのにかなり重いから。

 空を飛べるから、リーナが意識していれば大丈夫」


極の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


「肩に乗せて修行にしてもいいよ?」と極が言うと、誰もが一斉に首を横に振った。



黒い箱の方は別の場所で処理することにして、極たちは別れを惜しんでいるランバートと黒江に挨拶をしてから、一旦ラステリアに帰還した。


ミカエルは極に話をしたかったようだが、マルカスに連れ去られて今は会議室にいる。


「燕さん、海の星にバカンスでもどう?」


極の言葉に、「その黒い子もいるのよね…」と燕は大いに眉を下げて言った。


「どう処分するか決めてから、遊んでもいいんだ」というと、「遊ぶ気にもなれないわ…」と力なく言った。


「…ふーん… ノリが悪いよね?」


「その前に、ガイアに会った方がいいと思うんだけど…」


「うん、行こうか」と極は言って、燕とともに空を飛んだ。


リカには確認を終えていて、師匠だった森羅万象だと力なく言った。


よって当面の杞憂は失くなっていた。


極と燕が神殿のエントランスに降りて、極が黒い箱を出した途端に消えた。


「…あらら…」と極は言って、何もない手のひらを見ていた。


「…天に帰りました…」とだけマリーンは言った。


「次に生まれて来る時は、誰かの役に立てればいいんだけどね…」


極の言葉に、「どう考えても千年は無理でしょう」とマリーンは薄笑みを浮かべて言った。


「…まさか、一から修行のやり直し、ですか?」


マリーンは小さくうなづいて、「能力を持った、決められた種族ではないので」と穏やかに言った。


「それはそうだ…

 森羅万象という超常現象でしかないわけだ…

 魂に記録されているけど、

 それを引き出せる術はほぼない…」


「古い神の一族でもありませんから。

 まさにイレギュラーと、ガイアも言っていました。

 …そのイレギュラーが多いのも問題ですわ…」


マリーンが嘆くように言うと、「私もそのひとりだと思います」と極は真剣な眼をして言った。


マリーンは薄笑みを浮かべて首を横に振り、「今の程度ではまだまだです」と厳しい言葉を放った。


「比べることはそれほど良くありませんが参考までに。

 以前、仏の世界というものがあったことはご存じでしょう。

 しかし今はございません。

 その世界に住んでいた仏という者たちはそれほど脅威ではございません。

 十獄、すなわち10ある地獄のうちの虚無界。

 この世界に落とされると、魂が滅却されたのです」


「えっ?」と極と燕は耳を疑った。


「そこに落とされる者たちはそれほどに悪人だったということです。

 その虚無界をつかさどり、

 その能力だけを使われていた方が、

 ゲイル・コリスナー様、

 無属性の竜の方です」


極はまさにまだまだだと思い知った。


精神的には未成長と言っていいほどだと実感していた。


しかし、比べるのは確かによくない。


極力多くのものを見ながら、正しい道を歩もうと心に決めた。


「仏の世界に妖怪が住み着いていたことを見破って処分した方がおられます。

 ですので、イレギュラーを消す程度の力を、

 松崎拓生、すなわちリクタナリスも持っているのです」


「それほどのお方でも間違っていた…」と極は感慨深く言って何度もうなづいた。


「間違えることも経験のうちです。

 ですが、取り戻せないことを間違えないように」


「はい、肝に銘じました」と極は答えて胸を張って拳を当てると、マリーンは満足そうに笑みを浮かべてうなづいた。



「ひとつ、確認しておいた方がいいのか、

 しない方がいいのか悩んでいることがあるのです」


極が言い渋ると、「聞きたい!」とマリーンが満面の笑みを浮かべて、身を乗り出して極を見ている。


「…ちょっとあんた、なに興奮してんのよ…」と燕が諫めると、マリーンは恥ずかしそうにして椅子に座り直して、薄笑みを浮かべた。


極も燕も大いに愉快に思ったので、控え目に笑った。


「実は、神の名のゼウスとアフロについてです」


極の言葉に、「…はぁー…」とマリーンは深いため息をついた。


そして、「知っても知らなくてもどっちでもいいことですわ…」とマリーンは悲し気に言った。


「どちらの意志でしょうか?

 それに何があったのでしょうか?

 その想いも、精神修行としたいのです」


「教えてあげないっ!」とマリーンが叫ぶと、極も燕も大いに眉を下げたが、ある程度は察することはできた。


すると、肩に三つのプルプルボールを乗せたマイクがやってきた。


「お話が弾んでいるようで。

 まるで人間の世界の学校のように楽しそうでした」


マイクが穏やかに言うと、「あら、私ったら… おほほほ…」とマリーンは淑やかに笑ってごまかしている。


もちろん、極と燕の目は、マイクの肩に集中していた。


当然のようにマイクは気づき、「ご挨拶を」というと、ポールは翼の先を胸に当てた。


「…いや、マジかぁー…」と極が大いに嘆くと、「…かわいいぃー… ほしぃー…」と燕は言って大いに欲を出した。


「もとはと言えば、煌様の思し召しです。

 煌様のお言葉をありがたくお受けするはずですから」


「…ま、まあ… なんとなく理解できたし、

 参考資料にも似たものがあった…

 ぬいぐるみが魂を得た…」


今度は極以外の三人が驚く番になった。


「だけどね、ぬいぐるみが魂を持ったことよりも、

 親権争いが過熱化したようでね。

 ここでは親権を持ち出さない方がいいでしょう」


極が穏やかに言うと、「ありがたく、そして戒めにもなりましたわ…」とマリーンは穏やかに言って頭を下げた。


「…その争い、奇跡が打ち消されて不毛だわ…」と燕が嘆くように言うと、「その中心にいたのがエッちゃん…」と極は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「…わがままな母ちゃんだわぁー…」と燕は言って、我がふりも直そうと心に決めた。


「だけどね、それを完全に終わらせたのが、

 ゲイル様だとお聞きしているんだ。

 ぬいぐるみが魂を持ったのは、

 直接の功労者は天使たちの存在。

 その条件をそろえたのがエッちゃん。

 その話をしただけでエッちゃんは納得して、

 成長を終えていたぬいぐるみたちに生活の変化はないそうだよ」


燕は少し怪訝そうな顔をして、「じゃあ、術師は?」と極に聞くと、「魔王」と答えた。


「…とんでもないぬいぐるみ… たち?」と燕が聞くと、「奇跡は一度じゃなかったらしい…」と極は苦笑いを浮かべて言った。


「補足説明できますが」と流石が言うと、「みせてみせて!」とマリーンが大乗り気で叫んだ。


「…あんた、くだけすぎ…」とまた燕が指摘すると、「…さらに控えますぅー…」とマリーンは申し訳なさそうに言った。


映像を見終えて、誰もが納得していた。


「…どこの世界にも、驚くべきことはあるものです…」とマイクは納得して、三羽のポールを見入った。


「その子たちの管理係?」と極はマイクに聞くと、「暇があれば、笑わせて欲しいとせがんできますので」とマイクは眉を下げて答えた。


「ひと言言おうと思ったけど、

 全てお任せします」


極は言って、マイクとマリーンに笑みを向けた。



翌日はもちろん完全休養日となった。


しかし、極と一部の者しか働いていないので、力は有り余っている。


「…ふむ、創るか…」と極がつぶやくと、「何を作るの?」と燕が聞いたところで、「遊園地に行きたぁーい」と果林とマリナが同時に言ってきた。


「それを創ろうかという話をしていたんだけど、どうする?」と極が言うと、「…遊園地、創っちゃうんだぁー…」と果林は言って、大勢の子供たちを集合させて相談が始まった。


「…引率、かなり大変だったと思う…」と極が言って眉を下げると、燕も同意するように眉を下げていた。


「軍施設の移設は次にして、遊園地を創ってしまうか…

 ここで母ちゃんが来てくれたら、

 楽なもんなんだけど…」


極がつぶやくと、「呼んだよね?!」と茶碗片手に扉から飛び出してやって来た桜良が叫んだ。


燕は大いに笑い転げて、極は、「先にご飯を済ませて来て… 待ってるから」と眉を下げて言った。


「だけど、そういった場所って問題が多いわよ?」と燕が眉を下げて言ったが、「…あっ」と言って、「もちろん入場制限は重要だよ」と極は明るい声で言った。


まずは簡単な入場制限装置をノーマーク会会長の権限で創って、様々な場所に設置した。


合格をもらった人だけに、ノーマーク会が企画するパスが配布された。


もちろん、これを盗用することはできないようになっていて、顔認証などの本人確認が必要となるので、この件では犯罪は起こらないことになる。


さらには、開園前の時間は決められた場所に迎えに行くことになるので、無駄な交通費の負担もない。


開園後は、現地に集合してもらうことになるが、比較的混雑は緩和される。


その第一弾の企画が、ノーマーク会から発表された。


『収容人数最大一千万人! フロートアイランド遊園地が近日開園!』


まだ何もできていないのだが、早々に発表することになった。


そのフロートアイランドはもうすでに創っていて、常に海の上に浮いていたのだが、現在は中央司令部の傘のようになり、その巨大な姿を見せつけた。


「…おおお、おおお、おおお…」と桜良はうなり声を上げて、これからの仕事の楽しさを考え込んでいた。


テーマエリアは30、アトラクションは250を超えるほどあって、どの年代でも楽しめるように企画されている。


もちろん、桜良がいる世界の遊園地アトラクションを失敬している部分が半数以上ある。


桜良が手掛けたものが多いので、桜良の製造の集大成のような青写真を極がエサとして与えていた。



大人数の作業員を宇宙船に乗せて、早速工事が始まった。


基礎はすべて終えてあるので、下水などの細かい作業だけになっている。


極が青写真通りの区画を作り上げてすぐに、桜良の作業が入る。


子供たちはすでに極が創り上げていた児童公園で穏やかな時間を過ごしている。


まさにごみ問題もかなりの速度で解決して、完成予定の十分の一ほどは出来上がっていた。


「…今回は手ごわいわぁー…」と疲れ果てた桜良はうなって、レスターの腕の中で眠った。


「疲れ果てることは初めてです」とレスターは穏やかに極に言って頭を下げた。


休養をじっくりと取ることにして、まだ明るいうちに今日の作業を終えた。



問題はほとんど起こることなく、さらにはランプとピアニアによって、いい人をたくさん作り上げ、遊園地は大盛況のうちに開園した。


しかし果林たちはもうすでに堪能していたので、混み入った遊園地には行かずに、別荘の庭で穏やかに遊んでいる。


極の仕事ももうなく、全てはノーマーク会一同で賄うことになり、極の手から離れた。


星が平和で工期が伸びなかったおかげで、素晴らしい体力トレーニングになったようで、仲間たちも機嫌がいい。



どこかの星で復興作業でもしようと思いながら、極が流石と話をしていると、「…あのね…」と桜良が言って眉を下げ、極の前に座った。


「何か困ったことでも? 働き足りない?」と極が言うと、燕が大いに笑い始めた。


桜良としては今は満足のようで休息を満喫しているのだが、慈愛という本能を持つ桜良にとっては耐え難い事態が訪れていた。


「…間違ってる!の子が生まれたんだけどね…」と桜良はいつもと違って言い渋っている。


「俺に振られたから怒ってる?

 それとも話をしないとか…」


「素晴らしい人生経験よ!」と燕は陽気に言って、極の右腕を抱きしめた。


「生きる希望が無くなったから、宇宙空間を崩壊させるって…」と桜良は眉を下げて言った。


「…また面倒な子だな…

 森羅万象以上に面倒だ…」


「まずは植物を消すって…」と桜良が言うと、燕が大いに慌てふためいた。


「…燕さんの実体を知ってて言ったんだろうか…」と極は眉を下げて言ったが、桜良はすぐさま首を横に振って、「生きて行けない生物がたくさんできるから…」と悲しそうに言った。


「…ま、そりゃそうだ…

 だけどもし俺が会ったとして、

 改善に向かうとは思えない。

 俺の目の前でそれをやると思う。

 万有様の考えは?」


「…やるならもうやっている…」と桜良がつぶやくと、「だろうね…」と極は答えた。


「だから彼女は言ってないだろうけど、

 俺を連れて来いってことのようだね。

 極ロボでも送り込んでやろうか…」


燕は笑うどころか真剣な眼をして、「刺激しないで!」と叫んだ。


「じゃあさ、簡単にそれを思いとどまらせる言葉があるんだ」


極がひと言言っただけで、桜良は笑みを浮かべて扉をくぐって言った。


「…まあ… 自分の言った言葉には責任あるから、

 必ず認めるはずだわ…

 それに、宇宙空間の崩壊って…」


燕の言葉に、「…生まれた子は見つかっていなかった宇宙空間の神だよ…」と極は吐き捨てるようにつぶやいた。


それが本当に起こった時の状況を説明すると、「…表面上のリセットで、魂は残る…」と燕はつぶやいた。


「宇宙全体の崩壊じゃないからね。

 宇宙空間はきれいさっぱりなくなって、

 大量のホワイトホールが出現して、

 宇宙空間の再構成を始める。

 客観的に見て、

 綺麗に片付いていいとは思うね。

 だけど俺たち全員、一旦は今を終えることになる。

 そんなゲームのようなことは推奨できないよ。

 そもそも、何のために駄々をこねるのか。

 俺や周りへの試練と把握。

 きっとな、かなり探りを入れていたんじゃないかと思うよ。

 燕さんが大いに慌てた、とか…

 エッちゃんが実は一芝居打っていた、とか…」


「…引っかかったわね…」と燕は燃えるような目をして言った。


「エッちゃんは芝居をしていないと思う。

 だけどレスターさんが来なかった。

 きっと、俺と同じ回答をもう知っているか言っていたのかもね。

 だからレスターさんは確実に俺に悟られると思ってこなかったんだろう。

 宇宙空間の神がレスターさんに行くなと言ったとも考えた。

 それにこれは、宇宙全体をリセットするよりはいいことでもあるんだ。

 宇宙全体を消した時、残る魂はたったのふたつだけだから」


「…その二つの魂が、三空間を再形成して、

 魂を産んでいくわけね…

 だけど今のようになるまでには、かなりの時間がかかる…」


燕は嘆くように言った。


「本来なら、三空間の神などイレギュラーなはずなんだ。

 だからこそ、この宇宙は全く平和ではないといえると思う。

 だけど、自然界の神はイレギュラーじゃないと思うんだけど…

 自信はないぁー…」


「4つの世界に担当の神がいるってことのようね…

 ところで、万有夫妻は極と同じ立場ってことでいいわけ?」


燕の言葉に、「たぶんそうなると思う」と極は苦笑いを浮かべた。


「静香ちゃんがここにいることも、

 関係があると思うんだけどね…

 だけど天使としては普通だし、

 古いの一族としての特殊能力は、

 まだ何も目覚めていなようだ。

 今のままでも全く問題ないから、

 本人の想うがままに成長してもらっていいと思う」



極と燕が話し込んでいると、桜良とレスターがかなり怒っている剛毅を連れてやってきた。


「ゴーちゃんが、ユニバちゃんを泣かしちゃったぁー…」と桜良は大いに眉を下げて言った。


確かに剛毅が怒ると怖そうだと、極は感じていたが、まさに今の顔はかなり怖かったが、さすがにその顔はやめることにして、極に頭を下げてから、「申し訳ないことをしてしまいました」と言って謝った。


「いえ、剛毅さんが謝ることでもないと思います。

 そのユニバちゃんの言いなりになってここに来たエッちゃんのせいです」


極の言葉に、剛毅とレスターは大いに笑ったが、桜良は気に入らないようでふくれっ面になった。


「エッちゃんがマジメなのは知ってるから、

 言いなりになったようだけど、

 剛毅さんはその場にいなかったのですか?」


「いない時を見計らっていたようです」と剛毅が厳しい顔をして言うと、「…そりゃまた面倒な子だ…」と極はあきれ返って言った。


「遮光性の結界でも張って、

 仮死状態にでもなってもらおうかなぁー…」


極が恐ろし気なことを言うと、「ゲッタに言っておきますよ」と剛毅は自然な笑みを浮かべて言ったので本気のようだ。


「あまり面倒なことを言って駄々をこねられると、

 いざという時に動きづらくなりますから。

 もちろん、大いに説教してから、ゲッタと決めますので」


「…はは… お任せします…」と極は剛毅の迫力に、少し腰が引けていた。


「では早速」と剛毅は言って、扉をくぐって言った。


「…実直で、厳しい兄ちゃんだぁー…」と極が大いに眉を下げて言うと、「でもね、極君はゲッタ君と重なっちゃったわ」と桜良は笑みを浮かべて言った。


「だけど、ゲッタ様が一番強いそうだし、

 四次元空間の覇者と言っていいほどだから、

 色々と隠しているように思うよ?

 三次元での強者とはレベルが違うと思う。

 だから次元解の種族の人たちも、

 鍛え方次第でかなり使えるんじゃないの?」


「すぐに確認して来ましょう」とレスターは真剣な眼をして、嫌がる桜良を連れて扉をくぐって行った。


「…そりゃそうね…

 四次元の世界の種族に、

 勝てる方がおかしいわ…」


「要領が悪いだけだったらいいんだけどね…

 ゲッタ様以外が使えないんじゃ、

 辛くなる一方だよ…」


極は大いに同情して言った。


「だけど妻の子って悪なんでしょ?

 …ああ、ある意味、私と同じだわ、きっと…」


「…いや、人間とのコミュニケーションがある分、

 燕さんの方が使えていると思うし、

 パートナー能力の件もある。

 だからあまり気にしなくていいよ。

 俺たちはベストパートナーなんだから」


極の言葉に、「…そうね…」と燕は言って、極に背中を預けて密着して喜んだ。



極はアルバイトのように、航空宇宙局の依頼を受けて、現在は近場の宇宙を飛んで、データの収集をしている。


もちろん隣には燕がいて、まさにデート気分だ。


「…なんだか嫌な予感…」と極は言って、リナ・クーターを高速後退させた。


辺りは暗闇で、いくつもの太陽系の墓場のような場所だった。


するとブラックホールとホワイトホールが背中合わせで現れて、至る所で超新星爆発が起こり始めた。


まさにとんでもない宇宙の神秘に、まだ後退しているリナ・クーターの中で、極と燕はこの景色に見惚れていた。


「…ん? 魂…」と極は言って、三時の方角に飛んだ隕石のようなものが飛び出した途端、「中にいる!」と叫んですぐさまビームアンカーを放った。


少し引きずられたが、ゆっくりと停止した。


ビームアンカーには金属質の鈍い光を放った、球体を捕らえていた。


「…だけどおかしいわ…」と燕が言うと、「生物のような物質を張り付けておけば、問題はないはずだよ」と極が言うと、「…異空間部屋もそうだったわ…」と燕は言って納得した。


異空間に入り込んだ場合、生物や生態は元素に戻らない。


しかし非生物は元素に戻ってしまうので、金属の球でしかない捕らえたものが、形をとどめているはずはないのだ。


よって、金属の回りに生物と思しきものでくるんでおけば、異空間に入り込んでも、その状態を維持できる。


もちろん異空間航行もこの方法を取っていて、生体エネルギーのバリアを張って飛んでいる。


「どうやら機器の故障で、停止できなかったようだ。

 止めてないと、流れ星になって、

 異空間から出てきた甲斐がなくなってしまっていたはずだ」


「…気の長い旅行だわ…」と燕が言うと、極は愉快そうに笑った。


極はすぐに軍に連絡を入れて、未確認生物を捕らえたと連絡した。


もちろん、星に迎え入れることはなく、大隊用の宇宙船のドッグに運び入れることに決まった。


「…いい人だったらいいんだけど…」と極が眉を下げて言うと、「…どっちも能力者…」と燕が鋭い視線で、球体を見入っていた。


さらに安全を期すために、ドッグ内に異空間部屋を用意して、その中で事情聴取などをすることに決まった。


そして異空間部屋に運び入れてすぐに、コールドスリープが解け、二名とも仮死状態から復活した。


「…あ、大丈夫、多分いい人だ」と極は言って笑みを浮かべた。


「安堵感が流れた谷間でよく見えたわ」と燕は言って笑みを浮かべた。


外からは中の様子を探れないが、近距離であれば極は透視が使えるので、何をやっているのかは一目瞭然だ。


ふたりはほぼ同時に半身を起こして、武器を手に取ろうとしたが、「助けた者を傷つけるのかい?!」と極が叫ぶと、すぐに手を引いて、両手を上げてからハッチを開いた。


『プッシュ―――…』という空気が抜けるような音がしてからハッチが開き、ごく一般的な服装に見える男女二名が極と燕を見入った。


「長旅お疲れ様。

 ここは宇宙船の中だ。

 ホワイトホールから飛び出してきて、

 でっかい星に突っ込みそうになったから捕らえてここに連れてきたんだ。

 エンジン、故障してるよね?

 あ、調べてもいいよ」


極の言葉に男性がすぐにうなづいて確認すると、「…助かりました…」と言って頭を下げた。


「色々と事情を聞いてから星に招きたいのでね。

 悪人だったら宇宙船から放り出すから」


極の言葉に、燕は愉快そうに笑った。


助けた男女はこの雰囲気から条件は悪くないとでも思ったようで、「逃げ場がなくなったので、仲間たちとともに、異空間に飛び込んだのです」と男性が言った。


「ほかの方は別の場所から飛び出したか、

 まだ異空間の中かもしれませんね。

 ホワイトホールから飛び出してきたのは、

 あなた方だけでした」


「…そうですか…」と男性は少し悔しそうに言ってうなだれた。


「逃げ場がない。

 宇宙自体が崩壊するとわかっていたわけですね?」


「はい… もう止められないとわかった時に、

 このポッドの作成を開始したのです。

 もちろん時間的猶予はありましたが、

 星自体が壊れてしまうことも考えられたので急いだのです」


男性の説明に、極も燕も大きくうなづいた。


「何か映像など、撮影したものはありませんか?

 あとは宇宙地図、など」


「…あ、はい…」と今度は女性が言って、黒い金属ケースを出した。


「流石、解析できるかい?」と極が言うと、もうすでに映像と宇宙地図が宙に浮いていた。


「この近隣じゃないですね… 

 まあ、当然ですが…」


極は言って、床に座ってから瞑想状態に入った。


「かわいい天使ちゃんを抱っこしたいところだけど、

 オカメちゃんでも構わないよ」


極の言葉に、燕は獣人のオカメに変身して、極の腹を踏んずけて座った。


「…変身、種族…」と男性がつぶやくと、「珍しいようですが、俺の住む星では獣人であれば当然のようなものですから」と極は言ってから瞑想を解いた。


「どうやらこの先の大宇宙の崩壊のような気がするね。

 この近隣の宇宙ではなさそうだ」


「…その事実もご存じでしたか…」と男性は言って笑みを浮かべた。


「この宇宙がある大宇宙が宇宙の果てです。

 よってあなた方は最低でも、

 30万年ほどは眠っていたはずです。

 この先の大宇宙の崩壊は、30万年前らしいので。

 ところで、主だった神の名を知りませんか?

 できれば信憑性がある、実際にいた神です」


極の言葉に、男性も女性も目を見開いて、「…ゼウス神とアフロ神、です…」と男性が答えると、極も燕も何度もうなづいた。


「その神は何をしていたんです?」


「平和だった時は、星々の守護を…

 誰もがおふたりを敬愛しておりました…

 しかし異変が起こる前に、

 多くの知識を授けてくださったのです。

 ですので、今のようにして生きていられるのです…」


男性は尻すぼみに小声になって、涙を流した。


「俺の知識では、その神々は消えて、

 別の神に生まれ変わって、この宇宙にいます」


極の言葉に、「…やはり、ゼウス神…」と男性は言って、深く頭を垂れた。


「それが正しければ、俺の神の名はタルタロスです。

 神の系図では息子のように書かれていたのですが、

 どうやらゼウスから完全に生まれ変わったようですので、

 ゼウス神の記憶はないのです。

 この神々は役職のようなもので、

 思念の上に上書きされているようなので、

 魂に記録がなく空白なのですよ。

 ですが、アフロの方はたぶん記憶はあると思っています。

 きっとお会いになった時、

 すぐに気づかれるかもしれませんね。

 それにこの空白は、私にとってそれほど良くないのですよ。

 ですが、現在の私の神、ガイアはそれをおっしゃいません。

 よって、まだまだ俺は未熟ということのようですね」


「…意地悪なヤツ…」と燕が悪態をつくと、男性も女性も燕をにらんだ。


「竜という存在を知っていますか?」と極が聞くと、ふたりは一瞬にして燕を畏れた。


「人間の生活にはそれほど興味はないのです。

 それが神でも同じなのですよ。

 竜も神ですからね。

 それに、俺の妻をにらみつけるとは万死に値する!」


極の言葉に、「申し訳ございません!」とふたりはすぐさま謝って頭を下げた。


「いえ、怒っていませんから…

 軽いジョークのようなものです」


極の言葉に、燕は極の尻を思いっきり蹴って、「…かったぁー…」と言って足をさすっていた。



「ついでに聞きますけど、森羅万象についての知識はありますか?」


「あ、はい、ゼウス様が一度退治に行かれたのですが逃げられてしまったそうで…」


男性の言葉に、「…今はなき大宇宙から、避難してきたようだね…」と極が眉を下げて言うと、「だからこそ消したのね…」と燕が言うと、「…退治されたのですか…」と男性は目を見開いて言った。


「長い時間をかけて何とか退治できたようです」と極は笑みを浮かべて言った。


それ以外には森羅万象はいなかったという情報も得た。


そしてここで自己紹介をして、男性はベルト、女性はサーリャと名乗った。


ふたりとも修行中の能力者で、ベルトは25才、サーリャは26才で、夫婦だった。


「一応、軍預かりとして、私の軍に席を置いてください。

 もちろん、戦えなどとは言いません。

 星の常識の勉強が先ですので、

 学校に行って学んでいただいても構いませんので。

 それに修行中であれば、教官として指導することも可能です。

 今は心をいやすために、

 自由に過ごしていただいて構いませんから。

 カウンセラーに天使もいるので、

 仲良くしてやってください」


ふたりは大いに感謝して、4人して異空間部屋を出た。



「…おまえ、激怒したんだって?」とベルトとサーリャとコミュニケーションをとっているジャックが極に聞いてきた。


「驚きの感情は、ほとんどのものを解放するからね。

 そうやって深層心理をつかんでおかないと、

 万が一っていうやつがあるだろ?

 ふたりはなかなかの高能力者で、

 ブレインロックがかかってるから。

 さすがに解けとは言えないからね」


「…うう… 勉強になった…」とジャックは言って、また会話の輪の中に入った。


「…そうだった…」と燕は眉を下げてから、「…蹴ってごめんなさい…」と謝ってから、舌を出しておどけた。


するとミカエルがやって来て、「うー…」とうなって極をにらんだ。


「話すだけなら構いませんよ。

 ですが、私はゼウス神らしいので、

 ラステリア軍には所属しないでしょう。

 それに、軍属になれなどと命令もしたくありません」


ミカエルは極の言葉を無視するように、ベルトとサーリャにインタビューすると、「…ゼウス神とともに…」とふたりに言われて早々に退散した。



極は夕食後の散歩として、ベルトとサーリャを修練場に誘った。


訓練することはないと言ったのだが、極と燕が教官になっていた。


まだ体が慣れていないはずなのだが、随分と体が動く。


それなりの修練を積んでいたのだろうと思い、休憩がてらにどのような鍛錬をしていたのか聞き出した。


「…心頭滅却訓練…」と極は苦笑いを浮かべて、そこに連れて行って見本をみせると、ベルトとサーリャも恐る恐るだがクリアした。


「さすがゼウス様!」とベルトは昔に戻ったように、極を敬愛していた。


あとはランニングとトレーニングジムで鍛え上げて、ベルトもサーリャも大いに納得していた。


「神修行でもしていたのですか?」と極が聞くと、「…できればお手伝いでもと…」とベルトは寂しそうに言った。


「ゼウス神のお付きのような人はいたのですか?」


ベルトもサーリャもうつむいたまま首を振った。


「たぶん、あれこれ聞いてはいけないと思うので最後に…

 ゼウス神は竜のようなものに変身できましたか?」


極の言葉に、燕は大いに期待した。


「いえ、竜に変身なさったことが何度もございます。

 いつもいつも、では行ってくる、とおっしゃって、

 星を飛び出して行かれました」


「いやったぁ―――っ!!!」と燕は大いに喜びながら叫んで、極に抱きついた。


「へー… どんな竜でしょうか?」と極が聞くと、「はい! 真っ黒な、漆黒の竜です!」とはっきりとベルトが言って満面の笑みを浮かべた。


流石が黒竜の動画を出すと、「そうです! このお方です!」とベルトは叫んで、サーリャとともに大いに感動していた。


「うわぁー… そうだったんだぁー…

 なんとか変身できないかなぁー…」


極が少し有頂天になって言うと、「…それがすっぽり抜け落ちてるところね…」と燕が冷静になって言うと、「…あっ」と極は言って、一気に冷静になった。


「…ガイアの本来の姿は白竜様だろうね…」と冷静になったついでに極が言った。


「はいそうです。

 ゼウス様は雄々しき黒竜様、アフロ様はお優しい白竜様です」


ベルトは言って、サーリャとともに天を仰いで祈った。


「だけど、黒竜、かっけぇー…」と極は動画を見て、まさに年相応に戻って感動していた。


「能力は口から太陽を吐きます」という流石の解説に、「はぁ?」と人間4人は言ってぼう然とした顔をした。


その映像が出ると、まさに圧巻で、口どころか頭すべて、さらには黒竜の体が白く見えるほどに輝き、太陽を吐き出す。


そして宙に浮かんで安定して、暗闇を明るく照らした。


「万有源一様の妻の、万有花蓮様のお姿です。

 ご夫婦はどちらとも現在は自然界の妖精扱いとなっています。

 覚醒される以前は、源一様は天使、花蓮様は死神であり悪魔でした」


「よっしっ! やったぁ―――っ!!!」と極はさらに喜んだ。


「…悪魔の情報が集まらないことが、理解できたわぁー…」と燕は言って、子供のように喜んでいる極に笑みを向けた。


極自身が悪魔を持っているので、全てを知っているはずと燕は察したのだ。


しかし極はすぐに冷静になって、「…自慢できないのが悲しいなぁー…」とつぶやくと、燕は大いに笑って、極に抱きついた。


そして動画をまじまじと見て、「…黒なのに、虹色の煌きか…」とつぶやくと、「大魔神も大魔主も、この煌きを持っているのです」と流石が解説すると、「…ソルデの修行の役に立ちそうだ…」と仲間思いの極らしい言葉が出た。


「さらに補足説明ですが、

 この場合、夫婦であることがそれほどいいとは言えないようなのです。

 万有様ご夫婦も、兄弟となられるような気がするのです。

 花蓮様の欲が膨れ上がっておられるようで、

 コリスナー様父子が抑え込んでいるそうです」


流石の言葉に、「…うう、気をつけよ…」と極はつぶやいて大いに反省した。


「極たちの場合は、白竜に問題があったと思うわ…」と燕はため息交じりに言うと、「その痕跡があると、僕も感じます」と流石が言った。


「…マリーン様、何にも言ってこないね?」と極が言うと、「知られるのは時間の問題だったからだと思うわ…」と燕は苦笑いを浮かべて言った。


「じゃあ、ベルトさんとサーリャさんの挨拶がてらに行こうか」と極は言ってふたりに笑みを向けた。



「久しいな、ベルトコンベアにサーヒャ」


どう考えても違う名前だが、ベルトとサーリャは涙を流してガイアと対面した。


しかもこの呼び方は30万年前と同じなので、アフロであった神であるとふたりは確信した。


「童はアフロでなくガイア。

 決して間違えるではない。

 さらに、人間名煌極はゼウスではなくタルタロス。

 こちらも同様じゃ」


「はい! ガイア様!」とベルトとサーリャは気持ちいいほどの感情をもって返事をした。


「姉ちゃん、俺の欠けてるとこ返してよぉー…」と極がガイアに言うと、燕は愉快そうに笑った。


「ふん! そんなもの持っておらんわ!

 お前が未熟者だから今の状況になっていることがまだわかっておらんのか?!」


ガイアが叫ぶと、「うん、よくわかった、ありがと」と極は軽い言葉で言ってガッツポーズをとった。


「…こやつ、童をたぶらかしよってぇー…」とガイアは声を震わせて悔しそうにうなった。


「持っているのにそれを引き出せない。

 極自身もよくわからないけど、

 必ず自分自身の中にタルタロスはいることを確信した。

 そして竜の存在」


燕がガイアを見上げて言うと、「…たまにはマリーンを喜ばせてやろう…」とガイアは言って白竜にその身を変えた。


ベルトとサーリャは胸を張って拳を当てた。


「ある意味、童よりも守護神タルタロスの方が覚醒は難しい。

 間違わぬことも大事じゃが、

 取り返しがつかないことはやっておらぬ。

 リクタナリスの爺はほんに愚かじゃ」


すると、白竜から小さな光が飛び出して、極の目の前に浮いた。


「…天使の妖精…」と極は言って、頭をなでた。


天使は振り返って、「すごい人になでてもらったよっ!」とガイアに報告すると、「…まだまだそれほどすごくない…」と白竜は小声で言った。


「…俺は三空間の妖精を見つけなければ、

 黒竜にはなれない…」


極がつぶやくと、「…かなりの試練ね… 元からいた子以外よね?」と燕が聞いた。


「そうなるから、

 宇宙空間の妖精はかなり難しいと思うし、

 いろんなところを飛び回らないと見つからないかもしれない。

 人と会うことは重要で、その魂に飛び込む必要もあるだろうね。

 そうしないと妖精が俺を見つけてくれないから」


燕は何度もうなづいて、「見つけながら見つけてもらう…」と言った。


「さらにマリーン様の守りを固めて、

 外国出張に行かなきゃね…

 できれば燕さんが守ってもらえれば一番安心できるけど…」


「そんなわけないじゃないぃー…」と燕は言って、極の右腕をしっかりと抱き締めた。


「浮気させまいと必死」と白竜が無感情で言うと、「観光旅行」と燕は無感情で切り返した。


「となると、ゼウスとアフロの母が一番いいはずなんだけど、

 居場所知らない?」


極がガイアに聞くと、「もう転生した」と白竜はつまらなさそうに言った。


「あれ?」と極は言って、白竜を見入っていた。


「アテナと俺たちは質が違うわけだ…

 俺たちは本来の神の強化版…

 だからこそ、普通じゃないわけか…

 だったら、誰が見てもハイレベルな竜でいいわけだよね?

 ゲイル・コリスナー様の母上、とか…」


極がにやりと笑うと、白竜は何も言わずにマリーンに戻った。


「…ああ、素晴らしい夢を見ていました…」とマリーンは大いに感動して言った。


「かなり威厳のある水竜らしいわね」と燕が真剣な眼をして言った。


「俺の予想では、俺たちがこうなったのはアテナの力だと思う」と極は比較的自信を持って言った。


「…夫婦から、姉弟…

 人情を交えた場合、普通だとできないわね…」


「竜が卵に戻った時、

 言い聞かせができるそうだ」


極の言葉に、「…うわぁー… それ、イヤだわぁー…」と燕が大いに嘆いた。


「それに神の戒めがとんでもないらしい。

 民衆の教育係として雇いたいほどだよ…」


「…雇っちゃうぅー…」と燕は瞳を輝かせて言った。


「緑竜にもあるそうだよ?」と極が言うと、燕が大いに焦った。


そのような戒めなど持っていないと思っていたからだ。


「あ、参考映像です」と流石が言って映像を出すと、「…うう… これが戒めだったのね…」と燕は言って、大いに眉を下げて、大いに納得していた。


「なんのためにって思ってたわ…」と燕は言って流石の頭に触れた。


するとその体験した実状が映し出されて、「…イリュージョン…」と極が言うと、燕は愉快そうに笑った。


「害はないけど、花を愛する、

 弱い者をいたわる性格に更生されることがあるわ」


「この星の全員にやってもらいたいほどだ…」と極は言って眉を下げた。


「手ごろな場所で試してくださいませ」とマリーンが穏やかに言うと、「軍でもいいけど、もっとわかりやすい場所でやってくるわ」と燕は拒否せずに同意した。


「あとは、マリナちゃんの火竜にもあるって思うの。

 あの子、なかなかハイレベルだから」


「いい人になりまくってもらうか…」と極は言ってにやりと笑った。



ノーマーク会は裁判所に掛け合って、軽犯罪で実刑を受けているセンタリア刑務所にいる者たちすべてに緑竜の生命の捕食という神の戒めを使って、すべての者の感情と性格がかなり穏やかになっていると認定した。


しかし、刑務所を出すわけにはいかないのだが、ノーマーク会会長が身元引受人となり、刑務所同様に宿舎を造って、その中での職を与えた。


差別視されることは必至なので、この方法を使って厚生と労働力不足を補った。


もちろんこれはニュースになって、ノーマーク会はさらに崇められることになった。


「この戒めを受けた者は決して楽なものではなかった!

 次はこのテレビを見ているお前の番だ!」


会長である極の厳しい言葉に、誰もが極を畏れていた。


しかし善行を繰り返すのも程々として、あまり手を入れなかった。


しかし効果はあり、ノーマーク会認定のカード配布が300万人増えたという事実がある。


様々なニュースを精査して、率先して生きづらい道を歩み始めた者がそれほどに増えたということにもなる。



そして軍としての出撃がないことを見計らって、極の側近でもある燕とトーマだけを連れて、ついにアニマール星の大地の土を踏んだ。


真っ先に春之介と優夏と挨拶を交わしてから、「はは、やっぱでかい…」と極は巨大な山のようなヤマを見上げた。


ヤマはもうすでに極を見ていて、「やあ、いらっしゃい」と相変わらず子供のような声で来星を歓迎した。


ここからは順番が重要なので、「万有源一様とご挨拶させていただけますか?」と極が言うと、「その方がよさそうですね」とすべてを察している春之介はいつ戻り穏やかに言った。


源一とはすぐに面会できたのだが、肝心要の花蓮がいない。


「奥様はご多忙ですか?」と極が聞くと、「…逃げたんだ…」と源一は眉をひそめて言った。


「根性なしの悪魔で黒竜ですね」と極が思ったことを言葉に変えると、「なかなか辛らつだ」と源一は妻の肩を持つように言った。


「自然界のただのお手伝いの方にはわからないことですよ」


極の言葉に、源一はその程度の存在だったと認めたが、腹が立っても当然だ。


しかし今は、その怒りをあらわにしなかったが、愛想はかなり悪くなっていた。


「やはり先にスイジン様にお会いするべきでした。

 右京和馬星が全ての宇宙の中心でいいと、

 私は思っているのです。

 八丁畷様、案内をお願いします」


「それほど軽いとは思わないんだけど?」と優夏が極を覗き込むように聞くと、「この程度で腹を立てる人は役に立ちませんから」という極の言葉に、「あっ! そっちだったのね!」と優夏は愉快そうに笑って極を認めていた。


「しかも今の私は本来の私の半分でしかないのです。

 その半分に軽く見られたのですよ。

 更に精神修行を積んだ方がよろしい。

 力足らずの状態で、現世にしがみつくことは愚の骨頂、時間の無駄です」


「…あーあ… 誰も言えないこと言っちゃったぁー…」と優夏が言うと、「俺たちを巻き込まないでくれ…」と春之介が眉を下げて言った。


よって誰もが、極の意見に賛同していたことになる。


するといきなり、『キェ―――ッ!!!』と断末魔のような声が聞こえた。


「…はは、初めて聞いた…」と極は振り替えて、眉を下げて耳をふさいでいるトーマと、うつ伏せに倒れている悪魔に頭を向けている緑竜を見上げた。


倒れている悪魔はもちろん花蓮だ。


「不意打ちとは卑怯なヤツ」と緑竜は言って燕に戻った。


「…万有様もやっぱ大したことない…」と極は言って仰向けに倒れて白目をむいている源一を見て言った。


「後ろめたさに反応する術のようなものですね」と極が陽気に言うと、「…魂が震えたぁー…」と優夏は言って明るい笑みを浮かべた。


―― さすが悪だった人… ―― と極は優夏だけは大いに認めていた。



極たちは右京和馬星に誘われてすぐに、「空気が違う」と極は言って笑みを浮かべて辺りを見回した。


「次に来る時は、部下を全員連れてきますから」と極が春之介に言うと、「…ここの空気は濃厚だからね…」と眉を下げて答えた。


すると極が行くことはなく、無属性竜と水竜が、優雅な姿で飛んできて、地面に足をつけてすぐに人型に変身した。


無属性竜は青年のゲイル・コリスナーで、水竜は幼児姿のスイジンだ。


「スイジン様、いえ、お母様、またはお婆様と呼ばせていただきます」


極の硬い言葉に、「スイジンちゃんがいいぃー…」とスイジンが眉を下げて言うと、ゲイルは腹を抱えて大声で笑った。


「では、エッちゃんと同様でよろしいようですね?」


「それでいいのぉー…」とスイジンは眉を下げて答えた。


「実は今回、満を持してこちらに来させていた第一の理由は

 スイジンちゃんにあるのです」


「まだまだ、ここに住むよ?」とスイジンが言うと、「いえ、できれば私が不在の時に、我が王を守っていただきたいのです」という極の言葉に、「だったらいい?」とスイジンはゲイルに聞いた。


「数日だったら全然いい」とゲイルが笑みを浮かべて答えると、「いいってぇー…」とスイジンは今度は極に言った。


すると桜良とレスターがやって来て、地面に足をつけてすぐに胸を張って拳を当てた。


極もすぐに倣って、「早速顔合わせだけでもお願いできないかな?」と極が桜良とレスターに目を向けて気さくに聞くと、「もちろんっ!」「お任せを」とふたりはすぐに答えた。


「…極君だけだったらもっと楽しいのにぃー…」とスイジンは言いながらも、桜良とレスターに引率されて、社と呼ばれている転送装置に入って行った。


「…やっぱり、それなり以上だったわけだ…」と春之介が三人を見送りながら言うと、「一番初めの自然界の神でした」という極の言葉に、誰もが目を見開いていた。


「古い神の名をアテナと言います。

 そのあとをゼウスとアフロという男女神が継いだのはいいのですが、

 夫婦としてはあまり良くなかったようで、

 現在は姉と弟として、ガイア、タルタロスとしてあとを継いだのです。

 これには、竜の転生が使われていたのです。

 卵に戻った時に、アテナによって言い聞かせがあったようです」


「リクタナリスがいなかったから、あとを継がせられなかった…」と春之介がつぶやくと、「はい、そうなります」と極がすぐさま答えた。


「次の目的は、私には三柱の三空間の妖精が必要なのです。

 もちろん、神が生んだ妖精とは別にです。

 その候補の妖精を得るために、

 こちらに出向いた方がいいという結果に達したのです。

 そうすることで、私は最強最大の破壊者となるでしょう」


極の言葉に、春之介は大いに身構えたが、優夏はけらけらと愉快そうに笑った。


「その時に、私の宇宙の覇者ははく奪されるのね…」と優夏はころりと感情を変えて寂しそうに言った。


「いえ、私が本当の意味でタルタロスという名前を得るだけですから」と極は大いに眉を下げて言うと、優夏は、「よかったぁー…」と安堵の笑みを浮かべた。


「その時の私は勇者のままで、もうひとりは悪魔となるはずですから。

 悪魔の魂の方がタルタロスになります。

 ふたつの魂を持っていないと、自然界の神としてはやっていけないようです」


「…安易に開放するものじゃないんだね…」と春之介は松崎拓生を示唆して言った。



するとひとりの可憐な少女が極を見上げて見つめていたが、「何か用かしら?」と燕がインターセプトして少女をにらみつけた。


「君が生まれたばかりのユニバちゃんだね」と極は燕を抱きしめて、そばに寄せて聞いた。


ユニバは答えずにうなだれると、「おまえのその対応は間違っている!」と極はユニバに指をさして叫んで愉快そうに笑った。


「…やられちゃったわね…」と優夏は眉を下げて言った。


「…刺激しない方がいいって、平和的に思うんだけど…」と春之介が気弱そうに言うと、「私は破壊者だと申し上げました」と極は胸を張って言った。


「こんな生まれて間もない者に、

 振り回されては仕事にも差し支えがあるはずです。

 優夏さんに厳しく鍛え上げていただきたいですね」


「…うふふ、従っちゃうぅー…」と優夏は言って、ユニバの頭をなでた。


「…ゲッタ以上に破天荒…」とゲイルは言って大いに苦笑いを浮かべた。


「さらに、自然界としても反抗を始めました。

 三空間の神の能力も制限されたはずですから。

 そして、森羅万象のような存在のユニバちゃんを消すことも

 容易にやってしまうことでしょう。

 森羅万象は30万年待っても改心しなかったので、

 ガイアが消してしまったのですよ。

 私としてはどうにかして救いたかったのですが、

 少々残念です」


「…ほら、小指、消えちゃったわ…」と優夏が言うと、「イヤァ―――ッ!!!」とユニバは悲鳴を上げたが、優夏が手で隠していただけだった。


「…明るいのにひどい人だわ…」と燕がつぶやくと、極とゲイルは陽気に笑っていた。



すると、憮然とした顔をした軍人が極の視界に入った。


「どうやらお気に召さないようですね、大屋京馬さん」と極は笑みを浮かべて言った。


しかしここはゲイルの手前、顔色を真顔に変えて頭を下げた。


「実力差、思い知りたいですか?」と極が言って黒いコアラに変身しただけで、京馬は体を震わせて地面に腰を落とした。


「よっわ!」とコアラはひとこと言ってすぐに、極に戻った。


「破壊者の証明、その二です」


「破壊者なんかじゃありません!」と天使ジュンを先頭にして、天使たちがずらりと整列して、懺悔と感謝の祈りをささげた。


「いや、ある意味破壊者だからね。

 だけど、乱暴者ということはそれほどないと思う…

 多くの人間が賛同したことは、時には従う必要もあるし、

 時には考え直させる必要がある。

 俺としては根っからの天使にはなれないようだが、

 プルプルボールがみっつも魂を持ったんだ。

 俺としては嬉しかったね」


流石がその映像を出すと、天使たちは笑いながらも祝福の祈りを捧げていた。


「…これ、欲しいわぁー…」と優夏は映像を見入って陽気に言った。


「…あ、スイジン様、帰ってこなくなるかも…」と極が言うと、「この子たちがいるわけだ…」とゲイルがすぐに察して眉を下げて言った。


「しかし、甘やかすことなくお返ししますので。

 ゲイル様とゲッタ様にもお願いするかもしれませんし、

 剛毅さんの正論攻めには弱いと思っています」


「それ、大いにあるし、

 レスターさんが大いに変わった。

 俺たちの出番はないと思うよ」


気さくなゲイルの返答に、極は嬉しくなって握手を交わした。



剛毅たちはまだ仕事中のようで会えなかったが、都合が合えばまた会えるので、極は帰ろうと思ったのだが、この右京和馬星に大いに興味を持った。


さらにはこの食卓には大勢の獣人がいることにも笑みを浮かべていた。


「星の探検に行きませんか?」と極がゲイルに言うと、「何人でも連れて帰ってください」とゲイルは察して気さくに答えた。


しかし飛んだのはいいのだが、極の希望通りの動物は発見できない。


だが希望は捨てずに、燕とともに入念に探った。


大陸の端の小島が点在している場所に、ついにその候補者を発見したのだが、逃げ足が速かった。


「トーマ、悟られずに確保」という極の厳しい言葉に、「はっ お任せを」と飛行装置を着こんでいる犬のトーマはすぐさま答えて、森に消えた途端に、鳥などが慌てて飛び立った。


「おっ! 苦戦中…

 なかなかの逸材だった…」


「保身第一… すごいな…」とゲイルはトーマに大いに感心していた。


「もうよさそうだわ」と燕は言って、緑竜に変身してすぐに、森がら飛び出してきた馬に近い、逞しいが中型犬並みの小さい動物の鼻先に、その巨大な鼻先を向けた。


すると馬はしりもちをついて固まった。


「われの僕となれ」と緑竜がうなると、馬は何度もうなづいているようなポーズをみせた。


「…デジャブ…」とトーマは言って大いに眉を下げて緑竜を見ていた。


「誰がいいと思う?」と緑竜がトーマに聞くと、「真っ先に果林ちゃんが背中に乗る」とトーマがほぼ確実にそうなる未来を予想した。


「大人だと小柄で大人しい人…

 アリス先生でいいのかもね。

 俊足部隊との二足の草鞋でもいいようね」


緑竜は機嫌よく言うと、極とゲイルが下りてきた。


「…こりゃ、春之介さんが悔しがるだろうなぁー…」とゲイルは言って眉を下げた。


「この子がどうするかで構いません」と極は言って馬の頭と体をなでてコミュニケーションをとってから抱き上げた。



極たちは途轍もない高台にある町に戻って、ここにいる獣人たちが大いに畏れたことを知った。


それは穏やかでしかない仔馬に向けたものだった。


「おまえ、ひょっとして悪者?」と極が仔馬に聞くと、「攻撃と防御が巧妙なの」と燕が答えた。


「ああ、蹄が武器か… なるほどな…」と極は納得して仔馬を地面に降ろした。


獣人たちはさらに怯えたが、仔馬は極を見上げて妙にかわいらしく小首をかしげている。


「じゃあ、八丁畷様に挨拶をして帰ろう」と極は言ってゲイルに別れを告げて、社に入ってアニマールに出た。


極は春之介と優夏に挨拶をしたのだが、ふたりとも仔馬にご執心のようで見入っている。


「よかったな、気に入られたようだぞ」と極が言ったが、仔馬は極と燕の影に隠れた。


「…はあ… ざんねぇーん…」と優夏は大いに嘆いてトーマを見た。


「これで複雑な作戦もこなせそうです」と極は笑みを浮かべて言ってから、ふたりに別れの挨拶をして扉をくぐった。


すると極は大神殿の方角を見据えて、「…駄々っ子… いや、駄々っ子解除…」と言うと、燕が腹を抱えて笑った。


「結局は極じゃないということ聞かないようよ?」と燕は笑い終えて言った。


「…マリーン様にご迷惑が掛からなかっただろうか…」と極は本気で心配して、仔馬を抱き上げてから、燕とトーマとともに大神殿に向かって飛んだ。



極たちがエントランスに姿を見せると、「また来るね!」とスイジンは明るく言って、マリーンや極たちに手を振って、別荘に向かって飛んで行った。


レスターと桜良は大いに眉を下げて極に頭を下げてから、スイジンを追いかけて行った。


極の杞憂はすぐに払拭された。


マリーンが愉快そうに、「あははは!」と愉快そうに笑い始めたからだ。


「あちらのお母様も、相変わらず愉快な方ですわ」とマリーンは体裁を繕って穏やかに言った。


「あら、またかわいいお方が」とマリーンが仔馬に視線を向けると、怯えてはいないが、また極と燕の影に隠れた。


「少々人見知りなようですが、きっとトーマと似たようなものだと思います」


極の言葉に、トーマは反論はないようで、笑みを浮かべて会釈をした。


そして、「すべてがデジャブのように感じます」とトーマが言うと、燕は愉快そうに笑って、トーマの頭をなでた。


「動物だからね、わかってはいても警戒するのよ」という燕の言葉に、「…お母様…」とマリーンは懇願の目を燕に向けた。


「…大きな子供もここにいたわ…」と燕は言って、仔馬をやさしく抱きしめると、仔馬は探るように床を歩いて、つぶらな瞳でマリーンを見上げた。


「小さいのに立派ですわ…」とマリーンは言って初めは頭をなでているだけだったが、ついには椅子を降りてから抱きしめ、ふわりと仔馬にまたがって、エントランスを機嫌よく闊歩し始めた。


「…マジ、子供でしかなかったわ…」と燕は言って、少しうなだれて首を横に振った。


「…はは… ノーコメントで…」と極は大いに眉を下げて嘆いた。



マリーンは満足したようで、仔馬に丁寧に礼を言って自由にさせると、極たちに席を勧めた。


「まずはスイジン様ですが…」とマリーンは言って、大いに苦笑いを浮かべているマイクを見た。


「欲しがったわけですね?」と極が眉を下げて言うと、「随分と饒舌になられていたわ!」とマリーンは大声で叫んでから、大いに笑った。


「それも、極様がここに戻られるまででした。

 昔も今も、お母様は極様が怖い…

 いえ、苦手なようですわ」


「…そうですか…

 となると、多少の食い止め役も必要になりますが、

 度胸試しついでにソルデを雇ってもいいでしょう。

 尻込みもするでしょうが、それなり以上に対応できるはずですから。

 なにしろトーマを赤子扱いですからね」


「あら素敵!

 あら、申し訳ございません…」


マリーンはすぐさまトーマに謝ったが、トーマの方が恐縮していた。


「大魔主についても色々と判明しましたので、

 やる気にはなると思います」


「はい、そのようにお伝えしますわ」とマリーンは薄笑みを浮かべて言った。


「仔馬ちゃん以外の収穫はあったのでしょうか?」


マリーンの言葉に、「八丁畷ご夫妻とコリスナー家に関しては問題なさそうです」と極はお堅く答えた。


「肝心の万有様がやはり修行不足の様ですのね…」


「この件は、スイジンちゃんが解決してくれるかもしれませんので、

 これ以上は手を出さないことにしました」


マリーンは納得したようで、小さく頭を下げた。


「仔馬以外の実質の収穫ですが…」と極は言って、その体から二柱の妖精を出すと、「キャ―――ッ!!!」と燕とマリーンが一斉に叫んで、妖精を抱きしめて回った。


極とトーマ、そしてマイクは顔を見合わせて、女性二人に向けて眉を下げていた。


ふたりが落ち着いてから、「契約は済ませました」と極が言うと、「肝心の宇宙空間の妖精がいなかったのですね…」とマリーンは言いながら、真っ黒な体だが異様に心根がやさしい異空間の妖精の頭をなでた。


「随分とハードルが高いようね」と燕は言って、少々ワイルドに見える精神空間の妖精を我が子宇宙の代わりのようにして抱きしめたまま言った。


「候補は何人もいたのです。

 そして魂も反応したのですが、あと、二歩三歩…」


極が残念そうに言うと、「神が創られた宇宙空間の妖精とは、お会いになれなかったようですね?」とマリーンが聞くと、「この時間は仕事をされていたようです」と極はまた残念そうに言った。


「ポポルさん」とマリーンが言うと、マリーンの天使の妖精が姿を見せた。


「この近隣にあなたほどの宇宙の妖精はやはりいないのでしょうか?」


マリーンの言葉に、「実は、つい先ほどまでこの辺りにいたようなのですぅー…」とポポルは眉を下げて言った。


「なかなか猪口才な…」と極はかなり陽気に言った。


「ポポルちゃん、ありがとう。

 それを知っただけで希望が湧いたから」


「…ああ、お役にたてた…」とポポルは言って感謝の祈りをささげた。


「…極の魂に寄り添わずに遠くから見ている…

 なるほどね… なかなか猪口才だわ…」


燕は機嫌よく言って、極の右腕にしがみついた瞬間、極と燕は同じ右方向上部に顔を向けた。


「あら? 息ぴったり!」とマリーンは言って、極と燕に倣った。


「リナ・クーターの影に隠れた。

 まあいい、雇ってもらいたかったら来るだろう」


するとマイクから幼い天使とゴルデが飛び出してきた。


「あっ」と極は言って、どういうことなのかよくわかった。


極はリナ・クーターに指をさして、「あそこにいる妖精はソルデの子かい?」と極が言うと、ソルデは大いに戸惑って、何も言わずに椅子に座ってそっぽを向いた。


「…偵察の妖精だったのね…」と燕は言って大いに眉を下げた。


「だがそれだとおかしいな…」と極が言うと、「あら、どうして?」と燕が興味津々に言った。


「妖精と契約していたのなら、ソルデがこの程度のわけがない」


燕は納得していたが、ソルデが大いに前のめりになっていた。


「そうかい、そういうことかい…」と極は言って少し笑った。


そして、「おまえ、妖精の言ったこときちんと聞いてなかっただろ…」と極が言うと、「…うう… 何の話だぁー…」とソルデは大いに戸惑って言った。


今になって、妖精たちの言葉を思い出したのだ。


そして自分が言った言葉も思い出していた。


「何の契約なのかよくわからなかったから、

 雇うとは言わずに侍らせてただけ」


「…ほんと、呆れるわ…」と燕は言ってから愉快そうに笑った。


「仕える意味があるから強い者に寄り添う。

 主はな、従者となった妖精とともに成長するんだよ。

 おまえ、時間的には随分と損をしたと思うぞ。

 お前の星の件でも、お前だけの力で何とでもなったかもしれんな」


「…べ… 別にいいんだ…」とソルデが言ってそっぽを向くと、「…極様と出会えたから…」と燕は流石が出しているテロップを読んで、さらに呆れていた。


「あの子を含めてどれほど抱えてるんだ?」と極が少し笑いながら言うと、悪魔の妖精たちがごろごろわらわらと出てきた。


「あ、男の子もいる」と極がうれしそうに言うと、男子の悪魔の妖精は頼りなげな笑みを浮かべた。


「もらっていいかい?」と極が聞くと、「…す… 好きにすればいい…」とソルデは言ってまたそっぽを向いた。


「もちろん、礼は弾むからな」と極は言って、男子の悪魔の天使と契約を交わした途端、「ソルデ、鍛えてやる!」と男悪魔がソルデを見下ろしていた。


悪魔がまとっている黒い悪魔服は、虹色の光を放っていた。


「…えー…」とソルデも、そして燕も変わり果てた姿の極を見て嘆いた。


「この俺がタルタロスだ」という言葉に、燕はすぐに察したが、「極を出せ!」と予想外にソルデが激怒して叫んだ。


「…せっかく鍛えてやろうと思ったのに…」とタルタロスがぶつぶつとつぶやきながら極に戻った。


「おまえ、ある意味特殊だな…」と極がソルデに言うと、「…な、なにがだぁー…」とソルデは少し怯えるように言った。


「タルタロスは魅惑を出していたはずだが、

 ソルデは全く反応していなかったようだ。

 おまえ、悪魔じゃないだろ!」


極は叫んでから、大声で笑った。


「そんなことはどうでもいい!

 俺と戦えっ!」


「いや、まずは精神修行の方から」と極が言うと、ソルデは大いに困惑の笑みを浮かべ、燕とマリーンは笑い転げていた。


ほんの十数分でソルデが動かなくなったので、極は席に座ってマリーンから完全体に戻れた祝福を受けた。


「光が鈍いように感じるので、少々鍛える必要があるそうです」と極が言うと、「…軍内部は落ちつきそうね…」と燕が陽気に言うと、「そうなりそうで助かった」と極は笑みを浮かべて言った。


「…流石さん」とマリーンが呼ぶと、流石はマリーンの前に立ってすぐに、マリーンは流石の肩に触れた。


「はい、かしこまりました」と流石は言ってからすぐに、マリーンからの指示を映像として出した。


「少々面倒な星が三つほどありますが、

 それほど急がなくていいようです。

 ほかはほぼ復興です。

 まだまだございますが、

 それほど根を詰めることはないでしょう」


「少しでも、宇宙の空気が平和になるのなら」と極は言って、胸を張って拳を当てた。


「このラステリアを中心にして、平和の光を」とマリーンが穏やかに言うと、極、燕、トーマは胸に拳を当てていた。



夕食を摂ったあと、タルタロスは修練場にいて、まずは自分の修行を積もうと思ったのだが、修練場自体が子供だましの大したものではないと思い、どうしようかと思案して、両手の人差し指一本だけで、するすると登り始め、さらには足も使わずに登った。


いきなり現れた男悪魔に、誰もが大いに怯えて、修練場に近づかなくなった。


しかし、その正体を知っているトーマたちは、いつものように修行を積む。


タルタロス軍の関係者だろうと思ったのだが、あまりにも恐ろしげな顔と雰囲気なので、極に敵対している者すら何もできない。


「…学校に来ないって思ってたら、不良になっちゃった…」とアリスが大いに嘆くと、「違うから…」と燕は眉を下げて言って、事情を話した。


「タルタロス軍の本来の指令…」とアリスはつぶやいて、トールと名付けた仔馬に乗って、垂直の壁を登り始めた。


「…もう乗りこなしてるわ…」と燕は少し陽気な雰囲気を醸し出して笑みを浮かべてつぶやいた。


そして降りる時はトールを背中に乗せて、「うぉー…」と小さくうなりながら気合いを入れている。


しかし基本的には俊足部隊に所属になるので、アリスはランニングコースに出てトールを乗りこなす。


トールもアリスが気に入ったのか、機嫌よく走っている。


あまりの素早さに、ファーストコンタクトでは引けを取らなかったはずのトーマが必死になって追いかける。


まさか背中に誰かを乗せて早くなるとは夢にも思わなかったようだ。


「犬っころ! 体に力を入れすぎだ!」というタルタロスの指導に、トーマは力を抜いてタルタロスを追い、ついにはトールまでも追い抜いた。


もちろんトールはアリスの指示で走っているので、意地になって追いかけない。


しかしそのスタミナはトーマ以上で、さすがにハードワークと感じたトーマはコースアウトした。


タルタロスは黒い弾丸となって、ランニングコースを百周して、汗ひとつかかずに組み手場に行って、勝手に相手を大勢集めて、一瞬にして倒した。


「…訓練にならん!」とタルタロスは大いに怒って、極に戻った。


「また創ることになるとはね…」と極はつぶやきながら、超猛者用に岩のゴーレムを作り上げた。


5メートル、10メートル、15メートルという破格の体格で、単独では勝てる者はまずいない。


タルタロスは簡単に5メートルの岩人形を倒し、10メートルには至難の末に勝ち、15メートルには瞬殺で負けて、大いに悔しがっている。


大きさが変わってもスピードとパワーが変わらないので、大きくなればなるほど強いのだ。


「一番小さいのは三人程度で倒せ!」とタルタロスの厳しい指示が仲間たちに飛ぶ。


宇宙は広いので、こういった敵に出会わないとは言い切れない。


何事も経験が必要なのだ。



そしてタルタロスは眉を下げている。


一番苦手な術の訓練だ。


まずは獣人のオカメを抱きしめて試射をしたが、訓練場の壁を撃ち抜いて外が見えた。


オカメが距離限定の閃光を放ったので、大事には至らなかった。


タルタロスはまず壁を元通りにしてから、様々な獣人を抱きしめて修練を積み、何とか初歩段階の課題はクリアした。


いい意味で、極よりもかなり大らかなので、サポートを受けるとそれ以上の力が出てしまうのだ。


よってここは単独で訓練を積み、「ある意味、極の逆だけど合格」と燕に及第点をもらって、今日のタルタロスの修練を終えた。


そして風呂場の大鏡の前で腰に拳を当て、「…よし、これでいい…」と納得してから風呂で寛いでから極に戻った。



翌朝から早速マリーンからの依頼を果たすため、星の平和と安寧を願いながら、タルタロスが先頭に立って戦った。


そして仲間たちに迷惑をかけながらも、復興を行い、子供たちの笑みを取り戻した。


もちろんタルタロスが怖い子もいるので、おもちゃやお菓子も配って、笑みに変えて行った。


約10時間をかけて、マリーンからの依頼を全て叶えて、仲間たちとの穏やかな時間を過ごして、夕食を終えてから、夜の大神殿に飛んだ。


マリーンは大いに恐縮して、そして大いに礼を言った。


だがまた新たな試練を流石が受け取って、短い時間だったが穏やかな時間を過ごした。


これが三日も続くと、タルタロスであれば宇宙の空気が澄んでいると実感できていた。


マリーンに表現させると、『みんなが元気になって希望を持った』という最高の言葉と満面の笑みを、極とタルタロスに送った。


この日は新しい指示は与えられず、翌日は完全休養となった。


さらには極が決めた者たちは、修練禁止の命令が下された。


それはほとんどがハイレベルな者たちで、我慢を修行にしろと言わんばかりだった。


その半数が、どう過ごせばいいのかわからず、大いに考え込んだ。


極はこの三日間を振り返って、様々な企画を立案して、半分をノーマーク会に背負わせた。


廻った星々のいいところだけを、商品などとして販売することにしたのだ。


残りは極が見抜いた混沌が使える数名の者たちとの修行の糧にするために残したのだ。



夕食前にマリーンから新たな試練を受け取って、帰る間際にソルデがやってきた。


「この短期間でよく鍛え上げたものだ」と極が笑みを浮かべて言うと、「そんなもの当然だ!」とソルデは胸を張って大いに笑ったが、「…よかった… 褒めてもらえた…」と燕は流石が出してテロップを読むと、「通訳すんな!」とソルデは叫んで大いに照れた。


「今は星の復興だけだが、俺たちの旅に同行しないか?」と極が提案すると、「…うう、どうしよ…」とソルデは言葉と感情を一致させて言った。


「迷うことなどありませんわ…

 多くて10名を選抜して行ってらっしゃいな」


マリーンの後押しもあって、ソルデが選抜した10名を大神殿に呼び寄せることに決まった。


もちろんその中にソルデも含まれている。


そのソルデの代わりに、リナ・クーターを警備に当てた。


下手な者に警備に当たらせるよりも安心感があるので、天使たちも喜んでいる。


しかも魔王がいることで、本当は追加の警備はいらないほどだ。



この宇宙の半分ほどの平和を確実にした時、ついに外からの侵入者をマリーンが発見して、すぐさま極に向かわせた。


たどり着いた場所は暗黒のキャコタエリア。


侵入してきた宇宙船とすぐにコンタクトを取り、冒険者だというが地上用の武器を備え付けている。


護衛用というが、侵略者に近いと極は判断して、この宇宙から出て行けと言ったが、自由を尊重してきた。


よって、『防衛する自由』を極が説いた時、ついにミサイルを発射してきた。


しかし、シールドに阻まれ、一瞬明るくなってすぐに消えた。


この宇宙船をけん引して、元いた宇宙に戻して、小宇宙にあるトンネルに魔法道具を設置して、網目の結界を張って、外に出られなくした。


この対策はすでに考えていたことで、極たちの宇宙の平和を守るために、宇宙の仕組みを知った日から用意していたものだ。


この小宇宙には、極たちが住む宇宙に続くトンネルのほかに、10のトンネルがある。


そのうちの4つが統括地の宇宙に繋がっている。


統括地の宇宙がつながっている宇宙を管理、監視するのだが、現在のシステム上では強制ではない。


しかし今のような侵略者が現れた時の歯止め役にもなるはずなのだが、この小宇宙では機能していないようだ。


万が一を考えて、極はすべてのトンネルに網目のふたを施すことにした。


網目にする意味は、密閉すると宇宙の空気が加速度的に悪くなるからだ。


最後のひとつに蓋をする直前にマリーンから連絡を受けて、統括地の宇宙を訪問することになった。


トンネルは長いのだが、宇宙船の速度が異常に早いので、数秒で統括地の宇宙に出た。


そこには太陽系がひとつあるだけで、まさに平和だと誰もが感じた。


もっとも、小宇宙よりも狭いので、太陽系がひとつしか存在できない宇宙ではある。


すると通信が入って来て、いきなり、『助けてください!』という女性の声だけが聞こえたが、ようやく映像もつながった。


すると映像の奥に映っている扉が開いて、まさに悪者善とした者たちが入ってきたのだが、全員固まった。


「ナイス、流石」と極は言って流石の頭をなでた。


流石がすでに場所を特定して、その正確な位置を極に報告していたので、簡単に拘束の術が届いたのだ。


「気づかれましたが、宇宙船は飛べませんし、兵器も使えません」と流石が報告すると、「荒っぽい仕事になるかもな」と極が言うと、仲間たちが一気に気合を入れた。



人質になっている者がいることは明白なので、ここはトーマが偵察に走り、流石が止められるものはすべて止めた。


ここからは能力者たちが大いに奮起して、侵略者の両腕を強制的に上げさせて、簡単に人質を救出した。


「これで全員か?」と極が通信に出た薄汚れた服を着ている女性に聞くと、「…はい… 本当に助かりました…」と後悔と懺悔の涙を流した。


「姫には敬語を使え!」と騒ぎ始めた大男がいたので、ジャックが男の両腕を上げさせさらに足も動けなくして、技術スタッフからガムテープを借りて口に張った。


「あんたの口からすべての真実を話してくれ。

 極力元通りにしたい。

 そこにあんたの感情は必要ない。

 本を読むように、今までにあったことを話せばいいだけだ。

 その前に…

 あんたは浮浪者か?」


極は言って、まじまじと薄汚れた女性の服を見た。


「天使の装いはこうだ」と極は言って指を鳴らすと、女性の服は純白の輝きに満ちた。


「…ああ… …ああ…」と位の高い天使である女性は、さらに後悔と懺悔の祈りをささげた。



始めは穏やかな貿易でしかなかった。


しかしそれが罠であり、この統括地の創造神の兵力を把握して、創造神から最新の技術を盗み出そうと画策していたのだ。


よって力のあるものは倒れ、その姿は消滅した。


全てが死後の世界の住人だったので、もう取り返すことは不可能だ。


創造神の抵抗する限界近くに達した時に、極からの通信が入って来て、現在に至った。


この話から、侵略者たちをここに来た宇宙船や戦艦に乗せて、該当する宇宙に続くトンネルの網を解除して、宇宙船なと30艇を入れ込んで、またふたをした。


小宇宙から創造神に連絡をして、「じゃあ、帰るから」と極が言うと、創造神はさらに礼を言ってから、極の名前を聞きたがった。


「あんた、自然界の神って知ってるか?」と極が聞くと、「…アフロ様…」と創造神はつぶやいた。


「今は代変わりしているが、

 俺はその方の盾だ。

 その方の命により俺はここに来た。

 そして、あんたらを助けろなどとは言われていない。

 成り行き上、助けることになっただけ。

 それが自然界の厳しさで、

 あんたが現実だけを正確に話したから、

 比較的自由を得たというだけだ。

 ここに、俺の名などは全く必要はない」


創造神がうなだれたので、極は通信を切った。


「夕食には間に合いそうだ」と極は言って、極の宇宙に戻り、ラステリアに帰還した。



「俺の名などは必要ない」とジャックが言ってにやりと笑うと、「ガムテープ、張るよ?

」と極が言うと、ジャックは苦笑いを浮かべてそっぽを向いた。


「教えなくていいの」と燕は言って、機嫌よく極の右腕を抱きしめた。


穏やかな夕食を済ませて、極と燕は大神殿に飛び、今回の事件の土産話をした。


「…この大宇宙の中心がこの体たらく…

 …先が思いやられます…」


マリーンは大いに嘆いて、大きなため息をついた。


「ご報告した通り、この宇宙に侵入はできなくなっています。

 さらに小宇宙の行き来も確認の上、

 全て元の居場所に戻しています。

 交流が悪いことではありませんが、

 さすがに統括地の創造神を襲う者がいる場合は当然の処置かと」


「はい、このままで構いません。

 できれば外の宇宙もふたを外せるように尽力願います」


極は胸に拳を当てたが、燕は賛同しなかった。


「極はあんたの盾よ」と燕は厳しい口調で言うと、マリーンは大いに動揺した。


「たったひとつの軍で、何ができるというのよ。

 あんたも尽力して、タルタロス軍の手伝いができる者たちを選抜なさい。

 長い時間をかければかけるほど、

 新たな欲が蔓延してくるの。

 どれほど時間をかけても、この大宇宙に安寧は訪れないわよ」


マリーンはさらに眉を下げて、極に助けを求める目をした。


「宇宙ごとに、善の正義を持つ者は多いはず。

 その者たちにその宇宙だけでも安寧に保つように指導します。

 あとは竜の存在ですね。

 一柱だけで大隊に匹敵します。

 できれば、協力を得たいと思っているのです」


「…私も頑張りますぅー…」とマリーンは嘆くように言ってから燕を見ると、「まあ、それでもいいわ」と燕は憮然とした態度で言った。


「…お母様がちょいちょいと行って正してきて欲しいぃー…」とマリーンがつぶやくと、「いつまでも甘えてんじゃないわよ」と燕は腕を組んでマリーンを叱咤した。


―― こっちは親離れができない… ―― と極は考え、感情にも声にも出さずに笑っていた。


さらには後ろめたさがあるのか、ガイアが出てこない。


本格的な地盤固めがようやく始まったが、極の目の前にある前途は多難だった。



よって極は苦肉の策として、ミカエルにある提案をした。


タルタロス軍のような半分以上復興の軍を作り上げること。


争いがなくなった今、軍を遊ばせておくのはもったいないとした。


もちろん、それなり以上の装備も労働賃金も極が提供するので、さらなるエリート部隊を造るようにと、半分以上命令した。


もちろん、有事の際には戻らせて、強い力に変えることになる。


極が接触して仕入れた情報では、部隊がふたつほどはでき上がるはずなのだ。


様々な方面の資金面では何も問題はないので、あとは人選だけだ。


この情報が広がると、軍内の誰もが目の色を変えていた。


そしてわかりやすかったので、ミカエルは早々に、暫定的な部隊をひとつ造り上げた。


そして極は最後の仕上げとして、タルタロス軍の思い切った刷新を図った。


軍を三つに分けて、本隊、第一部隊、第二部隊に組み替えた。


本体は極とパートナーたちだけの部隊。


第一部隊は重度の復興部隊として、見事に成長を遂げた火竜マリナが悪魔の眷属6人を従えて所属する。


第二部隊は軽度の復興部隊として、極が人を見始めてトップだと思っていた者たちをずらりと並べた。


その二つの部隊に、それなり以上に成長した、極の仲間たちを分けて配属させる。


まさに生え抜きのエリートの軍がさらに成長を遂げることになった。


命令はすべてマリーンから極を経由して伝えられる。


そしてラステリア軍からの依頼があれば、軍事作戦にも参加する。


ここでようやく大型のリナ・クーターが活躍するようになる。


うまくいけばもうひとつ部隊ができるのだが、問題がある。


第二部隊の隊長は順当にジャックに決まったが、第一部隊の隊長は外から召喚された。


さすがに指揮官がまだ育っていないことが大いに問題だったのだ。


マリナは機嫌よく、迎え入れられたソルデに抱きついている。


「詰まらん部隊だ」とソルデが隊員たちを見回して、ひと言言ったとたんに、第一部隊員たちは背筋が伸びていた。


「極! 俺とマリナだけで十分だぞっ!!」とソルデが叫ぶと、「それだと部下の成長がないだろ…」と極が眉を下げて言うと、ソルデの直属の部下の悪魔5人が肩をすぼめた。


「生かさず殺さず、うまく使ってやってくれ」


「…くっそぉー…」とソルデは悔しがるようにうなったが、あてにされていたことを大いに喜んでいたのだ。


「さらには俺たちには使命がある!

 新しい強い力という仲間を手に入れることも重要だ!

 各司令はこの件に全力を注げ、いいな!」


「おうっ!」とソルデとジャックは叫んで胸に拳を当てた。


第一と第二部隊には、新たに天使の救護班もつくことになった。


これで万全として、早速極の命を受けて、仕事場に向かって飛んで行った。


「…これだけ抜かれても弱体化していない…」とミカエルが苦笑いを浮かべて言うと、「でしたら、さらに協力を惜しまなことが最善でしょう」とマルカスが誇らしく胸を張って進言した。


もちろん、エリートに見つけられ育て上げられた者たちが、そのあとを継ぐように、適任者を見つけては鍛え上げ始めているからだ。


この正の連鎖は、まさに極の考えが見事にはまった良案だった。



巨大なリナクーターは、キャコタにあるトンネルを抜て警戒をしたが、ほぼ問題はないことを確認して網の結界を外して、また結界を張った。


すると、昨日押し込めた宇宙のトンネルの出口付近にいる宇宙船から通信要請が飛んできたが、今は無視して、一度行った統括地ではない左側のトンネルを見ると、その先には10艇ほどの宇宙船がいることが確認できた。


少々物騒な戦艦も数艇いるようだ。


「統括地の創造神が捕らわれたことを知って、

 横取りをしようと企んでいる者たちです」


流石が探った結果の説明すると、「今回も強制送還だけでいいだろう」と極は言って、この場から宇宙船を動けなくした。


そして急ぐことなく網の脱着をしたのち、宇宙船などをビームワイヤーで固定した。


もちろん、多くの通信要請が入ってきたがすべて無視して、統括地の宇宙に入った。


すると、ひとつある太陽系が騒がしいようだったが、止められることはなくそのまま正面にあるトンネルをくぐって小宇宙に出た。


10艇の宇宙船を母星がある宇宙のトンネルに放り込んで、ここに新たに網を設置した。


スムーズに移動できたのは、それほど宇宙の中心から外に出たものがいないという証明のようなものだ。


ここで広範囲で探ったのだが、トンネルから出てきていたのは極たちが遭遇した二カ所の宇宙だけだったので、この先はスムーズに作業ははかどるだろうと期待した。


方向転換してトンネルをくぐり、統括地の宇宙に出た時に通信要請が入った。


今回は創造神の住む星からの使者のようだったので、通信回線を開いた。


音声と映像に対応しているようで、真正面にはまさに武人らしき男が映っていたが、少々獣人らしき雰囲気がある。


その後ろに、落ち着かない様子の少年のように見える者が、大いに映像を気にしていた。


『何をされたのかはよくわかった。

 こちらにも危害が及ぶと思い構えていたところに、

 そなたのその変わったロボットスーツに興味が沸いたのだ。

 また新たに外に出られた者が現れたと、

 我が王が杞憂に思っている。

 しかしながら、私はそなたが悪行をしようなどとは

 思っていないだろうとお伝えしたのだが、

 落ち着いてくださらぬ。

 よって、宇宙から外に出られた理由をお聞かせ願いたいのだ』


それほど長くない言葉だが、大いに事情を察した極は、「この大宇宙の中心にある、大神殿長マリーン様の命により、宇宙の空気の正常化という仕事に従事することになりました。名前を、煌極と申します」と極は少し丁寧に話すと、後ろにいた少年が大いにうろたえ始めた。


『申し訳ない! 少々お待ちくだされっ!!』と武人は大いに慌てて振り返って、少年の前に非ざまついて何やら話を始めた。


かなり取り乱しているようで、詳しい事情がよくわからないらしいのだが、大勢の天使たちが移り込んで、極の映像を見て、笑みを浮かべて手を振り始めた。


「さらに混乱しそうだね」と極が言うと、「…外に出て暴れてやろうかしら…」と燕が言うと、パートナーたちは大いに怯えていた。


事情を察した武官が厳しい顔をして振り返ったが、天使たちのあまりにも陽気な様子に、少し考えてからまた少年に向き直った。


「どうやらあの子は、自分の事情を話さずに、

 こっちが悪者のように伝えたようね」


「そろそろ解放してもらいたいんだけどね…

 たくさんの人が待っているはずだから」


極の声が聞こえたようで、『わかったのっ!!』と数名の天使たちがすぐに答えて、武官に向かって飛んで行った。


武官はなぜか背中を震わせてから、すぐに戻って来て、『お忙しいところ申し訳ない! どうか、安全な航海をっ!!』と言ってすぐに通信を切ったが、また天使がスイッチを入れたようで、極を見て手を振っている。


極たちも手を振り返してから、統括地の宇宙を抜けた。


「あの少年はそれほど関係ないんじゃないのかな…

 まあ、預言者的な…

 そして、本来の創造神は天使たちにいたような気がするね。

 ひょっとしたら、映像に映っていない下の方で待機していた、とか…」


「かくれんぼをしていたそうです」と流石が報告すると、誰もが大いに笑った。


「出たくても出てこらなかったわけだ!」と極は叫んで大いに笑った。


そして真剣な眼をして、「だからこそ、あの創造神はある意味畏れられていると思う」と極が言うと、誰もが納得してうなづいていた。


元いた小宇宙に戻ると、網の結界のトンネルにいた宇宙船は、少々豪華そうな宇宙船に代わっていた。


通信要請が来たのですぐに出ると、『お前は何者だ!』といきなり怒鳴ってきた。


「あんたのしりぬぐいにやって来たに決まってるだろ…

 統括地の創造神を襲うような人間たちを造ってんじゃあねえ!

 そういうヤツらは外に出すな!」


極の怒号に、相手はかなり怯えたようで、かなりの及び腰になって、『…ある意味、助かったとも思っている…』とかなり気弱に言った。


「宇宙の創造神だったら抑え込めるはずだ。

 その程度の力もないんだよな?」


『…面目次第もない…』と今度は消え入るような声で言った。


「すべてを変えてやるからキャコタから出て待ってろ!」


極の言葉に、宇宙船はすぐさま後退を始めたので、結界を解いてからトンネル内に入って、また結界を張った。


そしてトンネルの出口にまた結果を張って、「宇宙の気の流れです」と流石が言って映像に出した。


「悪い気は少々遠いが、5分程度でつくだろう」と極は言ってリナ・クーターを急速発進させてた。


「…いいなぁー…」と宇宙の創造神は言って、外の装飾とは違い旧世代のおんぼろの船内を見入って肩を落とした。



「盗賊団の巣窟のようですね。

 その罪は、この映像では出し切れません」


流石が眉を下げて言うと、「…すべての武器、兵器と宇宙船、破壊だぁー…」と極は大いにうなってから、操縦をウータに任せた。


巨悪は目の前にある双子星で、まさに盗賊と言わんばかりの生活に明け暮れているようだ。


そして極の閃光が辺り一帯を襲ったのだが、誰ひとりとして反応できずに、すべてが使用不能となっていた。


そしてすぐ様もうひとつの星に飛んで、同じような攻撃を仕掛けてから、盗賊と思しき者たちだけを、もうひとつの星の飛ばした。


逆の星は、一般人だけをもうひとつの星に飛ばして、盗賊と一般人を分離させた。


それほど人口は多くなく、両方で一億ほどだたので、それほど時間はかからなかったが、「そろそろ昼食だな」と極はお気楽に言った。


まずは一般人がいる星に飛んで、盗賊が使っていた宇宙港をすべて農地に変えて、大勢の者たちに食べ物を与えてから、極たちも食事にした。


こっちの星では大きな農地と村を5カ所造った。


必要であれば自分たちで何とかするだろうと思い、廃材などを使って建築資材などを大量に作った。


『…あんたは神か…』と宇宙の創造神から通信が入って来た。


「あいる意味そうだが、種族的には勇者だ」


『…勇者など、なれる者などひとりもおらん…』と創造神は大いになげいた。


「悪者は勇者になれないように変わったそうだぞ」と極が言うと、『…だとすれば、ある意味助かった…』とようやく明るい話題になったので、創造神は笑みを浮かべた。


「ここら辺りの星はすべて回るから、

 あんま話しかけてくんなよ」


『…わかった、邪魔はしない…』と創造神は言って通信を切った。


「大きなところはあの二カ所ですが、

 報復してくる星が10カ所ほどあります。

 そのうち二カ所は、この宇宙でも正義の味方として通っている軍です」


流石が報告すると、「だけど、悪者を殺すんだよな?」と極が聞くと、「それを楽しんでいる者もいるようです」と流石は眉を下げて答えた。


「武器、装備、宇宙船、すべて破壊」と極は言って、一番遠い星から、すべての武器などの破壊に回った。


今日のところは身動きを取れないようにして、ラステリアに帰還した。


その足で大神殿に出向いて、極はさすがとともに詳細に現状と作業内容を話した。


「どうか、明日は復興の方を…

 今日は本当にお疲れさまでした」


マリーンは大いに気を使って、極たちをすぐに開放した。


極と仲間たちは、大いに盛り上がっている別荘に戻ってから風呂に入って、宴会の仲間入りをした。


「…お前たちは何をしていたんだぁー…

 ピクニックかぁー…」


ソルデがうなると、「ああ、そうだよ」と極は笑みを浮かべて言った。


「…んなわけあるかよ…」とジャックは言ってから、少し眉を下げた。


そして、「どれほど武器を壊したんだ、と聞けばすぐにわかる」とジャックが自慢げに言うと、「今まで破壊した武器の一万倍ほど」と極が答えると、「ほらな、わかりやすい」とジャックはさも当然のように言ったが、その口元が震えていた。


よってかなり遅い時間に帰還したんだと誰もが思い、胸を張って拳を当てた。


「明日からは15カ所の星の復興。

 あっちの宇宙に宿泊した方がよさそうだから、

 ジャック、頼んだよ」


「…お、おう… 任せろ…」とジャックは答えてから、「…俺たちはまだまだだ…」とつぶやいた。


「証拠を見せるわけじゃないけど、参考資料だ」と極は言って再生装置に記憶媒体を差して、「先に寝るよ」と言って、パートナーたちとともに寝室に行った。



翌日、まずは小宇宙に出た時に、「帰りは気付かなかったけど、空気が軽いように思うね」と極は笑みを浮かべて言った。


そして双子星の盗賊だった者たちの星に行くと、大いに悲壮感が流れていた。


「片付いてるな…

 創造神がやったようだがら、

 ここは任せよう」


リナ・クーターはまた宇宙に飛び出して、残りの15の星の復興に従事した。


三つ目の星の作業に取り掛かった時に、宙に浮かんでいる天使たちを発見した。


ここはランプたちが偵察に行って、事情を聞いて帰ってきた。


「マリーン様から通達があって、近づくなって言われたって」とランプが眉を下げて言った。


「いや、作業に専念できて助かるよ」と極は陽気に言って、結界を解き、「じゃ! 次行こうか!」と叫んで、全員がリナ・クーターに乗り込むのを待った。


すると、近隣の村に住んでいた者たちが走ってやってきたが、リナ・クーターは高く飛び上がって、飛行機雲を伴って飛んで行った。


「…礼も言わせてもらえなんだ…」と村長がつぶやくと、『忙しいから邪魔しちゃダメなの』という声が聞こえた。


「…忙しい神もいたもんじゃ…」と村長は言って、頭を振った。



作業がすべて終わると、丸一日が過ぎていた。


しかし極たちは安全な場所で異空間部屋で睡眠をとって、きちんとリフレッシュしていたので元気なものだった。


その足で大神殿に降り立ち、今日の作業報告をマリーンにした。


今は早朝で、マリーンは起きたばかりだった。


「本日は休養を。

 ほかの宇宙はそれほどひどいところはないようですので、

 明日はお手伝い程度で構いませんので、

 観光気分でいらしてください。

 この宇宙近隣は一抹の不安もなく、安泰となりました」


マリーンの明るい言葉に、極のホホも緩んで、笑みを浮かべて胸を張り拳を当てた。


別荘に帰ってから、パートナーたちとゆっくりと風呂に入って、寝室で眠った。


起きると丁度昼時だったので、軍の食堂に出かけた。


「ジャックが観せたね」と極が言うと、「誰だって自慢するわ」と燕はさも当然のように言った。


食堂にいる誰もが一斉に、極たちに向けて敬礼をしていたからだ。


極たちも敬礼を返してから席に着いた。


昼食後は、さらにリフレッシュ気分で修練場に行き、清々しい汗を流し、極はタルタロスに変身して、気になる部分の鍛錬をした。


特に問題はなかったのだが、やはり射撃は苦手で、何とか課題を消化してから、仲間たちとともに別荘に戻った。


どちらの部隊もまだ戻っていなかったが、数分後にジャックたちが戻ってきた。


「なんだ、早かったんだな」とジャックが言うと、「宇宙の創造神がやる気を出してくれたからね」と極は答えた。


「あ、そうだそれだ。

 この宇宙にはいないのか?」


ジャックの素朴な質問に、「そういやそうだ… おかしいな…」と極は答えて、マリーンに念話をした。


極は少し騒々しいなどと思ったのだが、それはすぐに収まった。


「スイジンちゃんですか?」と極が聞くと、『慌てて帰られました』とマリーンが言ったとたんに、空を飛んでいるスイジンの姿が見えた。


スイジンは縁側に降りてすぐに、「お疲れ様!」と笑みを浮かべて言って頭を下げてから、扉をくぐってアニマールに戻った。


「駄々っ子は治ってないようだ…」と極がつぶやくと、マリーンは陽気に笑った。


そして本題の件を聞くと、『もうお会いしていますよ』とマリーンは陽気に答えたのだ。


「それはまたハイレベルな…

 その雰囲気さえ感じさせません。

 ですがいらっしゃるとわかればそれだけで構いません。

 ありがとうございました」


『あっ あっ』とマリーンが大いに慌てると、燕が愉快そうに笑った。


極は燕を見ながら、「知っておいた方がよろしいのですか?」と聞くと、『想像でしかありませんが、ご本人はそう思われていると思いますぅー…』とマリーンは自信なさげに答えた。


「ふむ…」と極は言って燕を見たが、顔の前で手を振ったので違うようだ。


「燕さんではないようですね…」と極が言うと、『えっ?』とマリーンが声を上げた。


「…どういうことです?」と極は言って燕を見て、そして目を見開いた。


「まさか、あの神獣が…」と極が言うと、燕は笑みを浮かべていた。


今初めて気づいたのだが、燕にもふたつ魂があるのだ。


「…歴史は真実をある程度正確に語っていたわけだ…」と極は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「長期じゃなければ何も変わらないことはわかっているの。

 この宇宙に飛んできた時に、意気投合してね。

 創造神になる前は、私の神獣と同じだったって。

 私にしては珍しいことだったから、

 ずっとこの宇宙にいることに決めたの」


「長期ってどれほど?」


「最大で十億年だって」と燕はすぐに答えた。


「そりゃ、あってないような期間制限だ…

 よかったなジャック、宇宙の創造神に会えるぞ」


極の陽気な言葉に、ジャックは頭を抱えて大いに嫌がっていた。



極は別室で宇宙の創造神であるポポタールと挨拶を交わした。


「昔からみんな何が怖いんだろうって思っていたんです。

 ですが私も、あなたと同じように思われているようです」


「この宇宙の英雄、煌様に同じと言われてうれしいですわ。

 この宇宙に来ていただいたマリーン様にも感謝です」


ポポタールは穏やかだった。


しかしそれは相手が実力者である極だからだ。


相手が同格、または同格以上でないと、神としては認めることはない。


「ひとつだけ、賛同できないことがあったのです」とポポタールは少し厳しい目で極を見て言った。


「…大切な宇宙を傷つけてしましました…

 …本当に申し訳ありませんでした…」


極は言って頭を下げると、「ほほほほ… ですが今はそうではないと思っているのですよ」とポポタールは優しい言葉で言うと、極は戸惑いの目でポポタールを見た。


「私が手を下すことが怖かっただけだったのです。

 本当に、奥様ともども、お世話になってしまいましたわ」


「…いいえ… そう言っていただいて救われた気分です…」


極は涙が出るほどうれしく思っている。


「ですがこれからも精査して極力星の破壊は避けて通りたいと思っているのです。

 やはり自然界を担う者としては、辛いことでもあるのです」


「…はい、理解しているつもりです…

 慈悲の心は二回とも感じていましたから。

 ですが二度目はお見事でした。

 リーナちゃんを救っていただいてありがとうございました」


「私の力など…

 大勢の仲間がいてこそ私の力が生きているだけのことです…

 私は公言しているように、ただの破壊者でしかありませんから…」


ポポタールは首を横に振って、「本当の破壊者の方と面会させていただけませんか?」とポポタールが穏やかに聞くと、「はい、喜んで」と極は言ってタルタロスに交代した。


「いや、私が今までに出会った悪魔の中で一番の美人でいらっしゃる」


タルタロスがいきなり褒めると、「あら? 恥ずかしいですわ…」とポポタールは言ってわずかにある白いホホを赤らめた。


「しかも奥ゆかしい…

 できれば極のヤツと離別したいほどだが、

 そうすれば私は弱くなる」


タルタロスの言葉に、「賛同いたします」とポポタールは穏やかに言った。


「極とオカメの許可が出ればうれしいのだが…」


「私は出していただきましたわ」とポポタールはさらに照れてホホが真っ赤になっていた。


「…おっ! おおー… 俺も許可が出たぁー…」とタルタロスは大いに戸惑ったが、今は大いに照れている。


「不幸がある星では、ふたりして闊歩したいほどだ」


「…はい… お供いたしますわ、大魔神様…」とポポタールは逞しいタルタロスに妖艶な笑みを向けた。


「…あ、あら… この先は許されませんでしたわ…」とポポタールが言うと、「裏の者が出しゃばってはならぬようですな… 極は何も言わんが… …極は気にしないそうだ…」とタルタロスは言ってさらに照れていた。


「…オカメにはため息交じりに賛同されましたが、

 それは今後ゆっくりと…」


「ああ、そうしよう」とタルタロスが言うとともに、ふたりは極と燕に戻った。


「…いやぁー… 妙な気分だよなぁー…

 タルタロスの夢に便乗しているようだった…」


「…そうね… 二万年以上経っても慣れないわ…」と燕は言って極に笑みを向けた。


「ふたりがデートすることは、遠い未来じゃなさそうだ」


「ほかの宇宙は比較的平和に感じるだけで、

 ピンポイントの不幸はあるはずだから。

 平和に見えて実は不幸だったなんて普通にあるから」


「その辺りはじっくりと異空間部屋で思い起こすことにするよ。

 参考資料はきちんと読んでおかないと、あとで後悔しそうだからね。

 だけど、その場その場で間違わなければいいだけだ」


「ポポタールもタルタロスも後押ししてくれるからあてにしてるの」


燕が言うと、極は愉快そうに笑った。


「…あ、そうか… これからはちょくちょくタルタロスに代わってもらうか…

 俺は俺自身を前面に出し過ぎていて、

 タルタロスがいる意味がなくなっているように思う…」


「現実世界では、生きている時間を半分にすればいいわけね?

 だったら、冷静にすべてを見られるかもしれないわ。

 それが、魂を二つ持っている意味…

 だけど、全く別の体だから別人なんだけどね」


「そこが不思議に思うところだけど、

 正確な真実を知る必要はないさ」


極は言って、燕の肩を抱いて引き寄せた。


そして、どちらからともなく、熱いキスを交わした。



翌日、極たちは、新しい宇宙に足を踏み入れた。


確かに空気は澄んでいる。


澄んでいるからこそ、小さな不幸がよく見えるものだ。


「生物がいる星はみっつです。

 これがごく普通ですが、この宇宙はまだまだ狭いようです」


「成長段階でもう不幸がある…

 ここからだと小さく感じるが、

 その場に行けばそう思わないかもしれないな」


極は言いながら流石の頭をなでた。


「今回はリナクーターを降りることになるだろう。

 この宇宙に文明文化はそれほど感じない。

 あっても電気を使っていることくらいだろう。

 よって、肉体自慢、体力自慢は多いはずだからな」


極の言葉に、誰もが大いに気合を入れた。


「闊歩しそうだわ…」と燕が言うと、極は愉快そうに笑って、「その手が手っ取り早そうだったらそうしてもらうさ」と極は穏やかに言って、不幸がある星にリナ・クーターを飛ばした。



目的星に到着して、すぐさま大気圏に突入してから、安全確認の後、リナ・クーターのハッチをあけて、戦場の真っ只中に、極たちは足を下した。


そして極がタルタロスに代わると、燕もポポタールに変わった。


「先に村を救うか」とタルタロスが言って、飛んできた巨大な岩を手のひらではじき返した。


「タルタロス様、素晴らしいですわ」とポポタールは言って、タルタロスに寄り添って、まさに戦場を闊歩して、ふたりに怯えている住人たちを獣人たちが担いで遠くに避難させた。


しかし天使が三人もいることで、この地の住人たちは大いに戸惑っている。


そして疲労感も傷の痛みもすぐに消してくれたので、走ることも可能になった。


「通りすがりのケンカを好きなタイミングでやっているようだな。

 だったら俺たちも参戦してやろう」


タルタロスは言って、ポポタールとともに、ふたつ陣地を、「ははははは!」と陽気に笑いながら破壊して回った。


「何か文句あるか?

 お前らと同じことをやったまでだ」


人間にしては逞しい種族は、まさにその肉体を生かした戦いをしているのだが、さらに逞しいタルタロスには、さすがに何もできなかった。


「戦うのなら人がいないところでやれ、馬鹿者どもが」


さすがに腹を立てた戦士たちはタルタロスを襲ったが、赤子同然に簡単に地面にひれ伏した。


「詰まらんからお前たちがやってしまえ」とタルタロスは、全てを獣人たちに任せて、ポポタールとともに戦場を見入っているだけだ。


すると犬のトーマが戻って来て、「悪の元凶は占い師のようです!」と報告した。


「ほう、なるほどな…

 そいつが予言した場所で争いが始まるわけだ。

 それを高みの見物としゃれこんで、愉快そうに笑っているわけだ」


「はっ その通りかと」


「私たちが行って、昇天しなかしら…」とポポタールが大いに心配すると、「もう予言は終わっているはずだ」とタルタロスが言うと、ポポタールは愉快そうに笑った。


小高い丘の中腹にふたりが駆け上ると、「ひー! ひー!」と言って、数名いる人間に囲まれている中央にいる男がひれ伏して嘆いた。


回りにいる人間は恐怖で震えて全く動けなくなっていた。


「なんだ、予言できてないじゃないか…」とタルタロスが眉を下げて言うと、ポポタールが愉快そうに笑った。


「預言者は偽物だ!

 あとはお前らが判断しろ!

 このバカ者どもがっ!」


タルタロスが叫ぶと、戦いは一気に集結していた。


「やろうども! 次行くぞ!」とタルタロスは言って、ポポタールとともに太陽に向かって走って行った。


流行りのように、全てに占い師などが関与していた。


「占い師協会でもあるのか?」とタルタロスが言うと、ポポタールは愉快そうに笑った。


「おっ! あの城が、悪の元凶のようだな…」


タルタロスは言って、異様に浮き出ているように見える、平屋の神殿を見た。


「古代遺跡のように天井を外してやろうかぁー…」


タルタロスがうなると、衛兵たちが出てきたのだが、タルタロスとポポタールの迫力と存在感に、誰も動けなくなっていた。


「ここに、偽物占い師がいるはずだ」


タルタロスの言葉に、誰も答えなかったが、「偽物と半数が認めましたわ」とポポタールが穏やかに言った。


「では、城の屋根を取り外す罰」とタルタロスは言って、全員で協力して、神殿の屋根を取り外した。


「アリの巣を覗いている気分だ。

 なかなかの大騒動だな…

 ここからは弱い者いじめだから、

 この程度でいいだろう」


タルタロスが極に代わると、ポポタールは満足そうな笑みを浮かべて燕に戻った。


「素晴らしいデートだったそうよ」と燕が言うと、「ああ、俺も満足感を感じたよ」と極は陽気に言って、リナ・クーターを呼び寄せた。


復興などはそれほど必要がなかったので、この星を出て、残りのふたつの星は何も手を加えることなく、次の宇宙に飛んだ。


やはり未発達の宇宙が多いようで、生物がすむ星がない宇宙もあった。


そして今日の最後の訪問として、三つ目の統括地を訪れた。



トンネルに入った途端、忙しい、あわただしいという感情などが一気に感じられた。


「…成敗されるなどと思ったんだろうか…」と極がつぶやくと、「ほぼ正解なんじゃない?」と燕は言って、極の右腕を機嫌よく抱きしめた。


「創造神に関しては、それほど手を入れようとは思ってないからね。

 常識的に考えて、悪いヤツなら成敗もするけど」


リナ・クーターが創造神の星に近づくにつれ、その感情が大きく膨らんで、さらには一気に困惑に変わった。


「気絶でもしたんじゃない?」と燕が眉を下げて言うと、「…ダメダメだな…」と極は言って、マリーンがどう伝えたのか、かなり気になっていた。


特に通信や抵抗などはなく、リナ・クーターは創造神の星にタッチダウンした。


「ここも天使?」と極が怪訝そうに言うと、「創造神という括りの統計結果で、天使は60パーセントとなっています」と流石の短い解説に、「小宇宙に繋がっている四つの統括地のうち三人が天使でも、それほどおかしくないわけか…」と極は言って流石の頭をなでた。


「今世のマリーンは天使だから、居心地はいいはずなの。

 それに、大天神になっちゃったし、

 ガイアは白竜様だし…」


燕の言葉に、「そりゃ怖いか…」と極は言って納得していた。


「となると…」と極が言うと、「その可能性も大いにあるわ」と燕は答えた。


ふたりはもう以心伝心で、パートナーたちはそんな二人をうらやましく思っている。



リナ・クーターを降りると、天使服を着ている天使たちに大歓迎された。


そしてお茶の時間ということで席を勧められた。


もちろん、創造神が目覚めるまでの時間稼ぎだ。


よってそれなりの中間管理職がいるのだろうと、極も燕も思っていたが、何も探らなかった。


すると眉を下げている、それなりに徳の高い天使がやってきて、「この度はご来星いただきましてありがとうございます」と穏やかに言って、感謝の祈りをささげた。


「主は現在、深い眠りに落ちてしまいまして、起き出すことができません。

 私、おそば付きのジェイリルと申します」


天使が穏やかにあいさつすると、極も自己紹介とパートナーたちの紹介もした。


マリーン、ガイアの騎士と極は説明を重ねた。


「天使にしてはお名前に鋭さがある。

 悪魔からの転生でしょうか?」


「はい、粗暴になり切れなくて罰を受けて天使返りしてしまいました」とジェイリルは穏やかに答えた。


「ですが武闘派ではない。

 術師だったようですね」


ジェイリルは認めたようで、うなづくように小さく頭を下げた。


「同時に両方もてなかったことは残念ですが、

 どちらか一方という道の方が幸せだとも思います。

 両方持つと、精神修行が大変でしょうから。

 どうしてもどちらも妥協してしまって、

 根っからの素質がないと大成できませんから」


するとジェイリルは大いに動揺した。


「両方、持ってるわ」と燕が確信して言うと、ジェイリルは深く頭を下げた。


「天使だと強く念じているわけですね…

 できれば我々の修練を受けていただきたいものです。

 ですがここに専用の修練施設をお創りしても構いませんけど、

 どうされます?」


「はい! 喜んで!」とジェイリルはこの幸運に大いに感謝して、涙を流して祈りをささげた。


極は携帯食を出して、パートナーたちとともに腹ごしらえをしてから、許可を得た山のふもとに第一修練場の垂直の壁を作り上げた。


その他には小さなランニングコースを造ったついでに農地もパワーアップした。


「無心で登り、

 さらには様々なことを考えながら何度も上り下りしてください。

 色々と世界が広がってくると思います。

 ランニングコースも同様です。

 天使たちとともに楽しみながら、

 時には自分自身に厳しく走ってください」


ジェイリルは山よりも高くなった絶壁を苦笑いを浮かべて見上げていた。


「…ここの方が高い…」と燕は大いに嘆いて、ジェイリルの隣に立って壁を見上げた。


天使たちは遊び場ができたと思い壁に昇り、ランニングコースを走り、併設した児童公園で穏やかな笑みを浮かべている。


「では帰りますので、創造神によろしくお伝えください」


ジェイリルは大いに戸惑ったが、引き留めてはならないと言われていたので、「本当にお世話になりました」と丁寧に礼を言って、感謝と安寧の祈りをささげた。



「ジェイリルはここに来るわ」と別荘の縁側で燕は確信して言った。


「来たいだろうね」と極が言うと、「…そうね、星を離れることの方が大変かも…」と燕は眉を下げて言って、遊び疲れて眠っている宇宙に母の笑みを向けた。


「大きくなったぁー…

 走り方も様になってる…

 幼児でもなのに幼児以上の赤ん坊だよ」


極は笑みを浮かべて言って、宇宙のホホを指で軽く突いた。


「…ずっと抱いていたら、今は鬼のような顔をして睨まれてたかも…」と燕は言って大いに苦笑いを浮かべた。


すると、「うおっ!」とエリザベスが叫んで目を見開いていた。


その目の前に赤い何かがいる。


「…寄り添って当然なのかもね…」と燕は眉を下げて言った。


「火の妖精か…

 まあ、心情は常に燃えているようなものだからなぁー…」


「…お、おい… 何だこいつはぁー…」とエリザベスが目を見開いて極に向かってうなると、「お勉強した宇宙の妖精だよ」と極は笑いながら言った。


「…おー…」とパートナーたちが大いに感心して、バンに至っては拍手をしていた。


「…雇えと抜かしやがった…」とエリザベスが表情を変えずに言うと、「精査して雇えば?」と極が答えると、「…セイサってなんだぁー…」と聞き返してきたので極と燕は大いに笑った。。


「…頭の中真っ白のようね…」と燕は笑いながらも大いに嘆いている。


「…ここは追加の実戦の勉強会にしよう…」


極が言って立ち上がると、パートナーたちは一斉に胸に拳を当てた。



極が丁寧に説明を終えると、「おー…」とうなってパートナーたちはその日が来ることを楽しみにした。


だがエリザベスは今その時が来たのだ。


エリザベスがサエに戻っても、妖精の態度は変わらないどころか、さらにサエを気に入ったようで満面の笑みを浮かべた。


「明日、修練場に専用の施設を建てるから。

 それまでは火を出すなよ。

 この近隣に大いに迷惑だからな」


「はいぃー…」とサエは眉を下げて答えて、火の妖精を抱きしめてやさしく頭をなでた。


明日は一日強制的に休養日となっていたので、自由な時間はある。


今日の方がハードだったはずなのに、誰もが元気いっぱいだったので、ガズ抜きのつもりでマリーンが申し渡していたのだ。



翌日の朝食を終えてすぐに、極はパートナーたちとともに軍の修練場に移動して、火渡りの谷の近くに二面の壁がない天井が高い施設を岩を積み上げて造った。


爆発力のない火なら、この程度で十分に防げると、流石が計算した結果だ。


しかしその石組は厚みが5メートルほどあるので、岩の強度から考えて、これを壊せたとすれば化け物でしかない。


サエは極にレクチャーを受けた通りに、コロナと名付けた妖精を抱きしめて、腕をまっすぐ前に伸ばして、標的の岩に向けて人差し指を差し、爪の先に集中した。


「ファイアッ!!」とサエが短く素早く叫ぶと、とんでもない勢いで岩を焦がし始めたが、すぐさま火の勢いは収まった。


「おー…」と誰もがうなり声を上げて、サエとコロナに向けて拍手をした。


「軽く放ってこの威力。

 今のところはエリザベスは火の魔法を使わない方がいい。

 ほぼ確実に、この壁が吹っ飛んでいたはずだからな」


極は言ってから、暖かくなってしまった岩を手のひらで数回叩いた。


「あっ もう行かなきゃ」と今回の協力者のマリナは言ってふわりと浮かんで、みんなに手を振ってから、宇宙船に飛び込んだ。


第一と第二部隊は今日も当然のように仕事だ。


「火の質は火竜と同じ。

 サエとコロナも風呂の火入れの仕事が可能だから」


「…さらにお手伝いの幅が広がってうれしいですぅー…」とサエは笑みを浮かべて言った。


「大きな力がバックボーンにあるからこそ、妖精も認めるんだ。

 そして人間の姿になることで、その威力が大いに抑えられる。

 俺の知っている範疇でこれができるのは、

 この星の獣人で、

 パートナー資質を持っていて、

 人間の肉体を得られた者だけのはずだ。

 できれば俺の考えた通りの妖精が、

 みんなにも降りてくることを祈っている」


極の力強い言葉に、パートナーたちは一斉に胸に拳を当てた。


「バンにはもう寄り添っていて、順番待ちができてるわ」


燕の言葉に、バンは大いに目を見開いている。


「どうしてバンには人間の肉体を与えなかったの?」と極が素朴な質問をすると、「必要ないって思っていたから」と燕は言ってから、「うふふ」と機嫌よく笑った。


「…燕さんが見ていて楽しいから…」と極が眉を下げて言うと、「緑竜に変身する必要がないほど素晴らしいもの!」と燕は機嫌よく言って、バンの背中に触れた。


するとバンは壁のような肉体を持った、目つきの鋭い大男に変身した。


「…おお… …おお…」とバンは自分の手のひらを見て、「…弱そうだけどこれもいい…」とつぶやいたので、誰もが大いに笑った。



そして妖精たちを目の前にしたバンは、「硬そうなお前」と言って、順当に土の妖精を指名した。


残された妖精たちは大いにうなだれてから消えた。


「ウータ、外れ一位だが雇うか?」


「来る者は拒みません」とウータは言って、緑の妖精をすぐさま雇った。


「…私の仕事、取らないでね…」と燕が言うと、ウータは大いに眉を下げて、胸に拳を当てた。


そしてトーマも、外れ一位として風の妖精を雇った。


「パオは残念だったな…

 水の妖精はいなかったし…」


「いいえ、これも精神修行とします!」とパオは雄々しく言ったが、仲間たちに慰められていた。


「だけどな、すぐにでももらえる伝はあるんだ」と極が言うと、「…甘やかせちゃダメよ…」と燕が言うと、パオは大いに背筋が伸びていた。


「あらあら、パオに言ったんじゃないの。

 その伝がある人を甘やかしちゃダメって言ったの」


燕のやさしい言葉に、パオはほっと胸をなでおろしていた。


「うっ!」とパオはうなって背筋を震わせた。


「あ、ラッキー…」と極は言って笑みを浮かべた。


「頼らなくても来てくれたわ」と燕はパオに向けて笑みを浮かべた。


パオは逃がすものかという勢いで水の妖精を雇った。


そして極はパートナーたちのために専用の魔法鍛錬ブースを作り上げた。


やはり緑以外は重厚なものになったが、緑の妖精を伴ったウータは、くつろぎの場などの地面が見えることろなどに種や苗などを植えて、植物を成長させ、花を咲かせることが修行になっていた。


スペースがあるところは木の新芽などを植えて、根気よく緑のオーラを流して成長を促している。


「何のお祭り?」と主任監督官のキースが眉を下げてサエたちの訓練を見っている。


「小隊でも大隊の力を手に入れるためのお祭りです」と極は胸を張って言った。


まさにキースが言った通りで、それぞれの能力によって出る音が違うので、まさにお祭り騒ぎだった。


修練者たちは今のこの状況を見ないようにして、それぞれの修行に勤しみ始めた。


「おおっ! よくやったっ!」と人型のバンは大声で叫んで、マルトと名付けた土の妖精を大いに褒めた。


ブースにはとんでもないほどの水蒸気が上がっている。


「マグマを放出したようです」と極が笑みを浮かべていうと、「誰もが逃げる…」とキースは言って大いに苦笑いを浮かべた。



タルタロス本隊の全員がひとり二役になってしまったことで、星の平和は勝ち取ることができるのだが、心底疲労が蓄積されるようで、マリーンの判断により、本体は一日置きの宇宙の旅に出ることに決まった。


もちろん、慣れというものがあるので、司令である極が特例解除の権限を持っている。


しかし、それほど慌てることがないことを知ったので、今のところは無理をしないことにしている。



三日後の仕事納めに、極たちが住む宇宙がつながっている最後の統括地に向かうと、妙に気合が入っているような気配を感じる。


「俺と同種のようだ」と極は機嫌よく言って、リナ・クーターを操って、創造神がいる星に向かって通信要請を送った。


しかし宇宙船が星から飛び出してきて、通信回線が開いた。


『待ちわびていたぞ!

 自然界の神の騎士、煌極!』


まさに勇者然としたきらびやかな服装の勇者が映像に出て、雄々しく叫んだ。


『あ、すまん。

 俺は、ゼン・ハウンド。

 よろしくな』


ゼンはいきなり気さくになって、リナ・クーターを誘導するようにして星の大気圏に飛び込んだ。


大気圏に飛び込んですぐに、まるで鍛錬が趣味のような、楽しそうな施設がずらりと並んでいる。


「…何とか地獄のような景色…」と極が眉を下げて言うと、「…普通に軍の修練場だけでいいと思う…」と燕は眉を下げて言った。


施設は広いのだが、ゼンの弟子はそれほど多くなく、極が感じたところ5人ほどしかいなかった。


「鍛え過ぎて昇天したのか…

 逃げ出した…」


極の言葉に、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


小さな宇宙港にタッチダウンしてすぐに、極はハッチを開いた。


そしてすぐさま、舗装路で待っていたゼンと握手を交わした。


「もう帰ってもいいと思っています」と極が言うと、ゼンは大いに眉を下げて、「…そんな連れないこと言わないでくれよ…」と嘆くように言った。


「もちろん、何も口出しできることはなく、

 素晴らしい創造神だと思ったからですよ。

 ですが、少々厳しいようにも思います」


「…やっぱり?」とゼンは小声で言ってから大いに笑った。


ゼンの弟子たち5名が、慌てて走って来て、整列してから極たちに頭を下げた。


「それから、ここから出た人はどこにいるのです?」


極の素朴な質問に、「復讐心が沸きそうにもない原始的な星」とゼンは淡々と言った。


するとゼンの弟子たちが一斉に目を見開いた。


「…強くなる可能性がある人は、そういった理不尽な仕打ちを受けていた人が多いですからね…」と極は眉を下げて言った。


「復讐心は、自己満足であり、

 復讐を遂げたあと、自己崩壊する。

 罪は憎むべきことだが、復讐は地獄に落とされる。

 復讐は何も生みませんからね。

 しかし、報復は構わないでしょう。

 泣き寝入りなどはする必要はありませんが、

 できれば命は奪わない方がいいでしょう。

 ですので私の部隊は、

 人々を脅かす武器関連だけに集中して破壊して回っています。

 …あ、俺に限って、星をふたつほど破壊してしまいましたけどね…」


極の言葉に、ゼンもその弟子たちも大いに震えていた。


ゼンは喜びから、そして弟子たちは極に恐怖したのだ。


「こんな短い言葉で表現しても意味がないので…」と極は言って、極の悪行をダイジェストで流石が放映した。


「宇宙の創造神に叱られると思っていたんですが、

 何とか許されました」


「…まあ、ここにいることがその証明のようなものだけどね…」とゼンは言って、笑みを浮かべている燕を見た。


「それに、タルタロスはハウンド様をご存じのようです。

 タルタロスの昔の名前はゼウスです」


「…あの悪魔野郎が、ここにいるのかぁー…」とゼンはパートナーたちを見入った。


「あ、俺ですから」と極が種明かしをすると、「何だとっ!」とゼンは叫んで、素早く5メートルほど引いて身構えた。


極はタルタロスにチェンジして、「やあ、ヘタレ」というと、「ヘタレじゃあねえっ!!」とゼンは大いに叫んだ。


「極のおかげでさらに強くなったぞ。

 竜に、変身してやろうか?」


タルタロスの言葉に、「…うう…」とゼンは大いにうなって眉を下げた。


「あ、俺の弟子じゃあないぞ。

 当時のゼンは宇宙の創造神だったというただの知り合い」


「…悪魔野郎の弟子などになるもんかぁー…」とゼンはうなったが、膝が大いに笑っていた。


「へっぴり腰。

 やっぱヘタレ」


タルタロスの言葉に、「…お前はどこまで強くなるんだ…」とゼンは涙を流して力を抜いてから、地面に膝を落とした。


タルタロスは極の戻って、ゼンの肩に軽く触れてから脇を持って立たせた。


「俺は知っての通り、あなたと同じで勇者です。

 要望があれば、どんなことでもお受けしますから。

 俺たちは、子供たちの笑顔を報酬として、

 戦いを止め復興に尽力しています。

 あなたの担当の小宇宙はほかにみっつもある。

 そのお手伝いをさせていただきたいのです」


「…ゼウス… タルタロスのヤツとは大違いだ…」とゼンは言ってすぐに、笑みを浮かべて極と肩を組んだ。


「これほどでないと、自然界の神の盾ではいられないからです」


極の言葉に、「その盾が、そばにいなくていいの?」とゼンが素朴な質問をすると、「アテナの生まれ変わりが護衛役です」と極が言った途端、ゼンは固まった。


「現在は徳の高い水竜です」と極が言うと、「…まだまだ宇宙は広いなぁー…」とゼンは言って、うなだれてから頭を振った。


「俺がまだ、星の創造神の見習いをしていた遠い過去の話だ…」とゼンは顔を上げて笑みを浮かべた。


「俺の師匠がアテナ様に叱られてな…

 こんな復讐心の塊のようなヤツを鍛えてどうする!

 ってな…」


ゼンの告白に、弟子5人はすぐさまうなだれた。


「師匠は大いに慌てたよ…

 そして宇宙の創造神と統括地の創造神4人がやって来て、

 師匠を攻め立てたんだ…

 俺ではなく師匠をだ…

 復讐者を育てている師匠が悪いと言ってな…

 俺はいたたまれなくなって、師匠を離れようとしたが、

 俺から離れる時は免許皆伝、もしくは死だ!

 と、おっしゃったんだ…

 そこまで言って下さったのに、

 俺の復讐心は消えなかったんだ…

 だがな…」


ゼンは言ってランプたち天使たちを見て笑みを浮かべた。


「…やはり、小さく弱い者たちを救わないとと思い、

 必死になって人々を助けたんだ…

 俺は助けた子供たちの笑顔に救われた気がしたんだよ…

 その筋書きを書いたのが、

 アテナ様だとかなり後で聞かされたんだ…

 …復習したい気持ちはわかる。

 だが、その力を使って、子供たちを救え、弱い者を救え…

 師匠はそうおっしゃって消えたんだ…」


「…素晴らしいお師匠様ですね…」と極は笑みを浮かべて言った。


「それ、多分あんただ」とゼンが言うと、極は大いに苦笑いを浮かべてから、流石と相談してすぐに、「…うう、あった…」と言って、流石がそのダイジェストを流した。


「…ううっ! 恥ずかし過ぎるから出すな!」とゼンは言ったが、極は笑いながらゼンを羽交い絞めにした。


「…アテナが消える前に、修行として星の創造神から始めたころだ…」と極は苦笑いを浮かべて言った。


「という昔ばなしだが、演技かもしれないぞ!」と極はゼンの5人に向けて言った。


「…いい話が台無し…」とゼンは大いに苦笑いを浮かべて言った。


「信じる信じないは二の次だ。

 それに、嘘をついていたら治るものも治らない。

 だが復讐者も俺は何があっても止めるから、

 それほど問題じゃあない。

 それを止めるために、星すら吹っ飛ばす覚悟が俺たちにはある。

 …まあ、死の星だとしても、あまりやりたくはないけどね…」


「…とんでもない能力者だよ、極は…」とゼンは言って、また極と肩を組んだ。


「せっかく修行施設があるから、ひと通り走破させてもらいますよ」


極の言葉に、「…あ、ああ、それは構わんが…」とゼンは言って、走って行った極たちを見送った。



「おまえらっ! どんな体力してるんだっ?!」と、走破し終えた極たちに向けて叫んでから、大声で笑った。


「それなりに楽しかったよ。

 ついでに農地をパワーアップしておいたから、

 食事会でもしない?」


極の気さくな言葉に、「…お、おう…」とゼンが戸惑いながら答えてすぐに、極は道具などを出して調理を始めた。


ゼンとしては、収穫物がそれほどうまいものではないことを知っていたからだ。


出来上がった料理をサエたちが配膳して、「さあ! 食べて食べて!」と極は調理をしながら陽気に言った。


ゼンは瞳を閉じて鼻から空気を吸い込んで、「…今までとは別物だ…」と言って瞳を開いてから、一口食べた途端に目を見開いて、とんでもない勢いで料理を食べ始めた。


弟子たちもパートナーたちも、笑みを浮かべて大いに食事を楽しんでいる。


「あ、うまい。

 これなら及第点だ」


極の言葉に、「おまえらいつもどんなもの食ってんだ?!」とゼンは大いに文句を言いながらも、陽気に大いに食った。


食事を終えて、「じゃ、また来るから」と極が気さくに言うと、「頼みたいことが山ほどある」とゼンが真剣な眼で言うと、「優先的に手がけることを、マリーン様に伝えておくよ」と極が言うと、「俺も手伝いたいところだが、ある程度目途がついてからにしたい」とゼンはまた真剣な眼をして言った。


「統括地を離れられないことはよくわかってるさ。

 だから、簡単なことでまずは協力させてもらうから。

 トンネルを、網目の結界を使ってふさぐ」


極の言葉に、「助かる」とゼンは言って、極と固い握手をして、星を離れていくリナ・クーターを見送った。


「随分と深刻そうね」という燕の言葉に、「今日は一時休戦ってところなんじゃない?」と極が意味ありげな顔をして言うと、「…マリーンが何かやったようね…」と燕はため息交じりに言った。


「友人であり、師匠と弟子の感動のご対面だったからね。

 足止めでもしてくれてたんじゃない?

 俺なんかよりも強力なスイジンちゃんもいたことだし。

 だったら礼としてこれを渡した方がいいだろう」


極は言って、大爆笑プルプルボールを出して燕に渡した。


「あの子たちと同じ動きをするのね…」


「随分と大変だったけど、何とか片手間で済んだ…

 それ、持っておいてもいいよ」


「…これで、宇宙を釣るわ…」と燕が真剣な眼をして言うと、極は愉快そうに笑った。



極たちはまっすぐに大神殿に行くと、スイジンが慌てて帰っているところだったが、「渡したいものがあるんだ」と極がスイジンに念話をすると、とんでもない勢いで、リナ・クーターに向かって飛んできた。


極がハッチをあけてプルプルボールと操作説明書をスイジンに渡した。


「さすがに魂を持っている子たちは上げられないから、その代わりだよ」


極の言葉に、スイジンは明るい浮い笑みを浮かべて首を横に振ってから、「ありがと!」と陽気に礼を言ってからすぐに、別荘に向かって飛んで行った。



極たちがマリーンに帰還の挨拶をすると、「ハウンド様のご協力を優先的に」という命令が下った。


「彼がいることで随分と助かっていたようです。

 その気配すから感じさせないほど、

 速やかに駆逐していたようですね。

 本来ならば統括地を出たいところだったようですが、

 さすがにそれはできない。

 今回は私たちだけで十分でしょうが、

 第一と第二部隊にも経験を積ませたいところです」


「両部隊には明日と明後日、本来の仕事は与えません。

 明日は第二はお休みにして、明後日、極様に同行していただきます。

 第一はその逆で。

 その予定でお願いします」


「はっ 了解しました」と極は敬礼してから、「友人とのいい時間を過ごせました、ありがとうございました」と極は礼を言った。


「いえいえ、全てスイジンちゃんが私の願いを叶えてくださったのです。

 それに、お礼は望んでいなかったみたいですわ…

 私たちの母として、協力してくださったようです」


マリーンは言って、両手のひらを極に差し出した。


極は大いに苦笑いを浮かべて、プルプルボールと説明書を出して、マリーンの手のひらに乗せた。


そして燕と大いに笑いながら、さらにかわいい動きに癒されながら、大いに楽しんだ。



別荘に帰って、燕は大勢の子供たちに囲まれていた。


そして燕は満面の笑みを浮かべて、嫌がっていない宇宙を抱きしめることに成功して上機嫌だった。


「…明後日は、ついに外に飛び出すわけか…」とジャックは大いに気合を入れていた。


「見学だぞ」という極の無碍な言葉に、ジャックは大いに眉を下げた。


「だけど復興の方は手伝ってもらうから、

 それほど暇じゃないと思う。

 今回は少々急ぎだから」


「…おう、よくわかった…」とジャックは極の様子から正しく理解して、邪魔だけはしないように心掛けた。


「…ついに… 俺様の出番だぁー…」とソルデがうなると、「おまえだってジャックと同じだ」という極の無碍な言葉に、「…くっそぉー…」と、とりあえず悪態をついておくことにしたようだ。


「…俺たちにはまだまだ追いつけないと思い知らせてやる…」と極が気合を入れて言うと、ジャックもソルデも大いに怯えていた。



「どのトンネルが一番嫌なんだ?」と翌日早速ゼンに面会た極が聞くと、「12時の方」とゼンは極の大勢の屈強な者たちを見回しながら言った。


「…おまえ、すげえなぁー…」とゼンがつぶやくと、「明日は違う班の者が来る」と極は真剣な眼をして言ってから、「行くぞ!」と気合を入れて叫ぶと、「おうっ!」と仲間たちは威勢良く答えた。


「ああ、そうだ、昼食の頃には帰ってくる」という極の言葉に、「待っている」とゼンは大いに苦笑いを浮かべて答えた。


その杞憂がもう目的の小宇宙で待っていたので、すぐさま宇宙船を動けなくして、母星などをすぐさま探り、ビームアンカーで一列に整列してから該当の宇宙に飛び込んで、トンネルに蓋をした。


母星に返すついでに、武器、兵器、宇宙船をすべて破壊して外に出られなくした。


星は二カ所で、ほんの数分ですべてを終えて、残る一カ所に飛び、奴隷扱いされていた原住民を解放して、占領軍を母星に戻した。


二カ所の復興は終了したようで、奴隷になっていた星に戻って、桃源郷のような村などを作り上げて、子供たちの笑みを報酬として、ゼンの星に戻った。


「…また昼食には早い…」とゼンは、さらに苦笑いを浮かべて言った。


「掃討対象は二カ所。

 あと一カ所は解放した」


極が笑みを浮かべて報告すると、「…それで間違いない…」とゼンは言って、流石が流し始めたダイジェスト映像を見入り始めた。


「…ハイビーム…」とゼンは言って、昼食の調理を始めた極を見ている。


「極様は閃光と呼んでいます。

 燕様が閃光の術使いですので。

 実はハイビームと閃光は似て非なるものです。

 ところで、午後からはどちらの大宇宙に向かえばよろしいでしょう?」


「あ、三時の方を頼みたい」とゼンは答えてから、「君もすごいね…」とさらに苦笑いを深めた。



朗らかな昼食を済ませてすぐに、タルタロス軍は出撃した。


この小宇宙はわかりやすく、トンネルは5カ所しかない。


よって統括地以外にひとつしか宇宙がないことになる。


迷わずひとつのトンネルに飛び込んで、宇宙の空気を探った。


「なるほど…

 ここが面倒なのは、奴隷になっている獣人だが、

 もちろん、人質を取られている。

 人質の保護は、ソルデの部隊に頼む」


すぐさまトーマが専用機で飛んで行った。


レーダーはかなりのザルなので、いとも簡単に星に侵入して、人質の存在を確認してすぐに、かく乱してから、軍と人質の引き離しに成功したのち、巨大なリナクーターと宇宙船が大気圏に飛び込んできた。


攻撃と人質の救出を同時に行い、陸戦に入ってすぐに、「人質は救出した!」と極が叫ぶと、流石がその映像を流した。


するとあっという間に奴隷が敵となり、独裁者の軍は一気に殲滅された。


この星は、人間と獣人の住む星で、人間のずる賢さが顕著に見えた星だった。


人間は高い囲いがある狭い檻に閉じ込めてから、獣人の村の再建を果たした。


「罰はこの宇宙を管理している神がすることになるから、

 お前らが勝手に罰を下すことは許されない」


極の厳しい言葉に、獣人たちは反抗しようと思ったのだが、作業中の緑竜がかなり怖かったようで、極の話を無碍に断ることはなかった。


そして極は黒竜に変身して、「手を出すなよ」とさらに脅した。


その恐ろしさは緑竜どころではなく、―― 食われるっ!! ―― と誰もが思って、もうすでに黒竜の手下になっていた。


ここでも、子供たちの心からの笑みを報酬にして、もうひとつある平和な星を見回ってから、ゼンの星に戻った。



「明日も来ようかと思ったが、今日で終わらせる。

 残りの一カ所も行ってくるから、

 明日からはゼンが出張って、処分すればいい」


極の雄々しき言葉に、「本当に助かった」とゼンは言いながらも、自分自身を不甲斐ないと思った。


あまりにも自分の過去にこだわり過ぎて、仲間を作っていなかったことを大いに悔やんだ。


そして今回は間違えないようにと、星々を巡って仲間を雇うことに決めた。


極たちの長かった一日は終わり、ゼンと夕食を楽しんでから、ラステリアに戻った。



「…復興だけじゃあねえじゃあねえかぁー…」と出番がなくなったジャックは大いに悔しがっている。


「ノリだよノリ」と極は悪びれることなく言ってから、「明後日に同行してもらうから」と極がお気軽に言うと、「…行けるのならいい…」とジャックは仲間たちに顔を向けた。


さすがに頂点に立つと、部下たちの顔色伺いをすることが普通だ。


まだ勇者になっていない能力者でしかないので、さらに気を使うものなのだ。


仲間たちはジャックの粗暴さも知っているが、気遣いの鬼であることも知っている。


誰も文句を言うことなく、流石の出している映像を見入って、今後の糧とした。


しかし今まで以上の素早さと判断の速さに、誰もが霹靂とした。


「そういった勘のようなものも勇者の特権だ」とジャックが吐き出すように言うと、誰もが小さくうなづいた。


「さらには武器という名のパートナーたちのレベルアップも大いに認められる。

 特にトーマが勝手に動いているようにしか見えないほど自然だ。

 今回の戦いで、トーマはさらに英雄になったな」


大群が来たと見せかけるトーマの動きはまさに圧巻で、風の術を使って、大勢いるように見せかけ、時には太い木をかまいたちや竜巻を使って切り倒していた。


斥候能力に加え、風の魔法を手に入れたトーマは無敵に近い強さだと誰もが感じていた。


「だけどな、これからは極のパートナーたちが、

 俺たちのパートナーの講師となるはずだ。

 この宇宙の復興が間もなく終わる。

 それと同時に、パートナーたちのレベルアップが行われることだろう。

 そうじゃあねえと、この先戦えねえからな」


ジャックの部下たちは一背にジャックに敬礼した。



もちろん、ソルデの抱える悪魔の眷属のレベルアップもあるので、講師の方がかなり大変なことになる。


また時間をかけて、新しい能力者とパートナーの獲得も重要だ。


部隊をみっつよっつと増やしていけば、この大宇宙の平和が急速に見えてくる。


しかし今回の旅で極は思い知っていた。


出会った獣人に、パートナー能力を持っている者は皆無だった。


よってこの奇跡は、ラステリア星だけに与えられたものだったと思い知っていた。


もちろん天使も同様だ。


よってさらにこのラステリアに住む者たちとコミュニケーションを取る必要がある。


この宇宙を中心にして、もうひと回り統括地の宇宙の自由を獲得しながらも、並行して進めていくことになると極は決意していた。


この大宇宙もまだまだ広いのだ。


そして外に行けば行くほど面倒になると感じていた。


今回、その空気を体感して、極にさらに気合が入っていた。



「あ、そうだ極」とジャックが極に声をかけると、「えっ なになに」と極が笑みを浮かべて機嫌よく聞き返した途端、―― さすがボス… ―― とジャックの部下たちは一斉にこの仲がいい友人をうらやましく思っていた。


「おまえに認められたという証っていうものって考えてあるの?」とジャックが聞くと、ここにいる全員が一斉に極に注目した。


「専用リナ・クーター」


まさにわかりやすい極の一言に、誰もが静かに気合を入れ始めた。


「じゃあ、持ってない者はまだまだなわけで、半人前なんだな」


「ジャックが欲しいのなら創るよ?」


あまりにも気さくな極の言葉に、ジャックは、「マジかっ?!」と叫んでガッツポーズを取ったとたんに、「…あ…」とつぶやいて考え込み始めた。


「…悪いけど、明日は出撃停止で頼む…」とジャックは極に言って、部下たちに頭を下げた。


「うん、それで構わないさ。

 ジャックの手下の面倒は見るから。

 手伝うことがあったら言ってくれていいよ」


「…お、おう…」とジャックは答えてから、子供たちが遊んでいる児童公園のベンチに座ったとたん、獣人の子供たちが一斉に寄り添ってお祝いや誉め言葉を次々に言い始めた。


そして自分自身のアピールも忘れない。


まだ子供だが、全員がパートナー資質を持っているからだ。


「さすが勇者だ」と極がジャックに笑みを向けて言うと、誰もが大いに目を見開いた。


「…くっそぉー… 大出世、しやがったかぁー…」とソルデは大いに悔しがっていたが、「…極さんよりも扱いやすいからジャックさんは楽かも…」と燕がソルデの真実の言葉を語ると、「…もうやめてぇー…」とソルデは本気で大いに嘆いた。


「能力者と勇者は雲泥の差だから。

 特にジャックもそれなり以上のはずだから、

 休暇は明日だけじゃ済まないかもしれないけど、

 確実に使える術だけを選定して旅に出ると思う。

 勇者になったからと言って、

 それほど喜べないものなんだよ。

 今のジャックの姿が正しいと思ってくれていいから」


極の言葉に、ぼう然としていたフランクは号泣を始め、ジャックの目の前に片膝をついて頭を垂れた。


「何をやっている、お前は隣だ」とジャックが穏やかに言うと、「はい、マスター」とフランクは涙声を気にすることなく、ジャックの隣に座った。


「…はぁ… 牛のおっちゃん、すげぇー…」と子供たちは次々と言い始めた。


「そんなもん、俺のパートナだからな。

 すごくねえわけがねえ」


ジャックが自慢げに言うと、フランクはさらに号泣を始めた。


「もちろん、優秀なパートナーが引き上げた事実もある。

 本来ならまだまだ先のはずだったが、

 自分に課した様々な試練に、

 ジャックはさらに心を入れ替えて急速に成長を遂げた。

 さて、次は誰の番だ?」


極は言って、黒崎を見た。


黒崎は大いに苦笑いを浮かべて、眉を下げっ放しのマスターの沙月を見て、大いに眉を下げた。


「パートナーは能力者の協力者という道具でもない。

 その道は広くないが、

 もちろん、勇者の道もあるんだよ」


極の言葉に、黒崎は体を震わせていた。


そして、「その時は、ここにいる子供たちにお願いしますよ」と黒崎が沙月に言うと、「…捨てられること決定なのね…」と沙月が微妙なニュアンスで言うと、黒崎が大いに焦ったので、極は愉快そうに笑っていた。


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