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閃光の極―KIWAMI―  作者: 木下源影
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第六話 通過点と分岐点



   第六話 通過点と分岐点



今までの三倍ほどあるリナ・クーターが、大神殿を守るように、エントランスの門の上に浮かんでいる。


まさに圧巻で、遠くからでもその姿を見ることができた。


どちらかと言えば、極とそのパートナーたちの専用機のようなものだ。


そしてエントランスにいる天使の中で、ひとりだけそのリナ・クーターを睨みつけてるノラ天使がいる。


「いい加減にしろ、ミランダ」とマイクは厳しい口調で言った。


「こんな機械に任せて、

 本人はどこかにバカンス?」


ミランダは鼻で笑いながら言った。


「いや、軍の修練場でランニング中だ」


マイクは近い場所であれば、知っている者の動向を知ることが可能だ。


まさに探知系に長けたハイレベルな能力者でもある。


「しかも星を何度か離れられたが、全てバカンスではない。

 お前もそれくらいは聞いていて知っているだろ?」


マイクが大いに眉を下げて言うと、「何がマリーンの盾よ」と悪態をついた。


「そろそろ見限られるぞ…」とマイクが言うと、「あら? 私を助けてくださるんじゃないの? お兄様?」とミランダはマイクをからかうように言った。


「おふたりは改心して、いい子になったのですけどね…」とマリーンがつぶやきながら大神殿からエントランスに出てきた。


そしてその後ろにあるふたつの大きな黒い影を見て、ミランダは膝から床に崩れ落ちた。


「…はあ… まさか悪魔の方々に怯えるなんて…」とマリーンが言うと、マイクはすぐさま頭を下げた。


「あなたには荒治療が必要だっていう結果が出ました。

 試してすぐに結果が出てしまいましたわ…

 ミランダさんは追放も覚悟していただいて、

 この数日間を過ごしていただきますよう」


マリーンが踵を返すと、「出番、終わり?」とソルデの配下のバルトが聞いた。


「いえいえ、あなた方は皆さんに大人気ですわ。

 お母さん業に励んでくださいますよう…」


「おうっ! わかったっ!」とバルトともうひとりの悪魔のゴルデが同時に機嫌よく叫んだ。


ミランダはついに口から泡を吐き、尿を垂れ流して意識を断たれていた。


「…天使ではないな…」とマイクは言って笑っていたのだが、涙を流していた。


そして、格上の天使では使えないはずの拭去の術を使って、ミランダの汚れを一瞬にして消した。


するとゴルデとバルトが戻ってきて、「マイク、あとで付き合え」とゴルデがケンカを売るように言ったが、それほど物騒な口調ではない。


「はっ かしこまりました」とマイクは穏やかに答えて頭を下げた。


「…まさか、こんな強敵がここにいるとはな…」とバルトは機嫌よく言って、ゴルデとともに大神殿に入って行った。


マイクは唯一の男天使として、天使たちにも人気があり、そして大いに慕われている。


さらにこのふたりの悪魔によって、マイクのフラストレーションはある程度払拭できていた。


しかし、マイクは武闘派天使にはならないとして、決して拳を作らない。


よってほぼ受け身となるが、マイクはすべてを素早くかわしたり、殴りかかってくる拳の軌道を変えるなど、悪魔にとっては素晴らしいほどの教師でもあった。


「…うっ…」とミランダはうなって、少し首を上げてゆっくりと振った。


そしてミランダは、マイクを見つけて涙を流した。


―― なんということ… ―― とマイクは思い、ミランダを抱き締めたかったが、大いに躊躇した。


「マイクさん」と大神殿長補佐のパルアが薄笑みを浮かべてマイクに言った。


「はい、パルア様」とマイクは言って、自分の心のままにミランダを抱きしめた。


ミランダは何も言わずに立ち上がり、「…本物の天使になりたかったなぁー…」と言って涙を流した。


「まだ諦めなくてもいいんだ。

 すぐに出て行くことはないんだから。

 この数日間だけに集中して希望を持て。

 …なに?!」


マイクはいきなりのことに、ついつい叫んでしまった。


そして、「言葉足らずだと、誰かに叱られた… 希望の内容を詳しく話せと…」とマイクが言うと、「…聞かせて欲しい…」とミランダは懇願の目をマイクに向けた。


「その希望は、今のミランダならよくわかると思う。

 どうして、その心根が瞬時にして変わったのか。

 私が知りたいほどだよ」


「…あ…」とミランダはつぶやいて、ミランダは大いに考え込んだ。


ミランダは白装束の腕を見て、「重い何かがほどけたような…」とつぶやいた。


「心の重荷が下りたように感じるわけだね。

 それは、あのふたりの悪魔かい?」


マイクが聞くと、ミランダは首を横に振った。


「…煌様の希望…」とミランダは言って笑みを浮かべた。


「いけないことだが、嫉妬してしまいそうだ」とマイクが言うと、「…見捨てられてはいなかった…」とミランダは言って、今度は声に出して泣き、マイクにしがみついていた。


「うっ!」とマイクはうなった。


また、誰かが話しかけてきたのだ。


「よく判断できたもんだと、鼻で笑われた…」とマイクが言うと、「煌様だと察します」と笑みを浮かべて言ったミランダの言葉に、「…はぁー…」とだけマイクはため息を漏らした。


できれば悪態をつきたかったのだが、マイクもミランダのように、重荷を下ろそうと決意して、マイクの神である極に向けて、感謝の祈りを捧げた。


もちろんミランダも追従して、ふたりは笑みを向けあった。


「ミランダさん、ではこれを」とパルアは言って、ミランダに天使服を手渡した。


「最終試験のようなものですわ」とパルアは言って、またゲートに戻って、清々しい笑みを浮かべて、大いに頼りになるリナ・クーターを見上げた。


「私も着よう」とマイクは言って天使服を着て、幼児の男の子になった。


そして、「…お姉ちゃんって言いそうになった…」とマイクが照れ臭そうに言うと、ミランダは愉快そうに笑ってから、天使服にそでを通した。


するとミランダは何も言わずに、薄笑みを浮かべているだけだ。


「…感想、ないの?」とマイクが聞くと、「…緊張、してるからぁー…」とミランダは泣き出しそうな顔をした。


「きっと、大丈夫さ!」とマイクは言って、ミランダの手を握った。


「うん! 大丈夫大丈夫!」とミランダは明るく言って、マイクとともに大神殿に向かって走って行った。



その三日後、ミランダにマリーンから使命が与えられた。


「極様のパートナーとして認められてらっしゃい」


幼児の天使ミランダは大いに戸惑ったが、「はい! マリーン様っ!」と笑みを浮かべて返事をして、感謝の祈りを捧げた。


「…お母様の意地悪も程々だわ…」とマリーンは眉を下げてつぶやくと、「…いいえ、弱い私がいけなかったのです…」とミランダは当時のことを思い出して、悲しげな眼をした。


「ですが、今でしたら、きっと煌様に使っていただけると、

 希望を持っています!」


「あら? その希望を詳しく教えてくださいな」


マリーンの問いかけに、ミランダは考えられることを単刀直入に語った。


「そうね、その通りだと思いますわ。

 極様が意地悪だとは申し上げづらいのですが、

 極様の先見の明だと、私は思っていたいわ。

 きっと極様でしたら、

 私などよりも詳しく教えていただけると察します。

 やはり勇者は、それほどでないと務まりませんからね」


ミランダは笑みを浮かべていたが涙を流していた。


意識を失う覚悟で、極の役に立とうと、さらに決心をした。



しかしミランダはいざ大神殿を出ると、足がすくんでしまった。


そしてランプが、「大丈夫大丈夫!」と明るく言うと、「…はいぃー… ランプお姉様ぁー…」とミランダは今にも泣きだしそうに頼りなげな笑みを浮かべてつぶやいた。


「極様に叱られちゃうよ?」とピアニアが言うと、「…もう、叱られたくないですぅー…」とミランダが言って泣きだすと、「大丈夫大丈夫」と静香も励まして、ミランダの涙をやさしく拭った。


ミランダは、仲間の天使たちにも感謝しながらまた泣いた。


「では、マリーン様、お勤めに行ってまいります!」とランプが挨拶をすると、マリーンは笑みを浮かべて右手を軽く上げて柔らかに振ってから、「いってらっしゃい」と笑みを浮かべて天使たちを送り出した。


天使たち七人は、全員で手をつないで輪になってから、ふわりと宙に浮かんで、息を合わせるようにゆっくりと移動を始めて、そして、とんでもないスピードで、東の獣人の村に向かって飛んだ。


まだ空を飛べないノラ天使がミランダを含めて三人いるので、実はこれも修行のようなものなのだ。


こうやって空を飛ぶことで、飛べるようになるノラ天使も現れた事実がある。


そして飛ぶスピードが早ければ早いほど、大いなる成長を遂げたことも確認できた。


飛行術は気功術も含めた混合の魔法で、体験すればするほど上達も早いことが、極によって証明されたのだ。


よって能力者たちはほとんど毎日、極を含めた飛行術が得意な者たちに引っ張られて空を飛ぶ訓練も受け始めた。


人手が足りない時は、ちびっこリナ・クーターが大勢の者たちを個別でけん引して空に誘う事もある。


そしてそれは誰にでも等しく行われ、確率は低いものの、ひとりだけ能力者の資質を見せたのだ。


「…特典はもうないけど、親が喜ぶぅー…」と事務方で、一番最後に極に雇われた、総務部庶務課のアリス・ミストガン曹長が笑みを浮かべてつぶやいた。


そして燕の診断により、サイコキネッシスとテレポテーションの資質もあると認められた。


さらには、「さすがの事務方の鏡ともいえそうな術も持っていたのね」と燕が笑みを浮かべて言うと、「えっ えっ」とアリスは大いに戸惑った。


「能力じゃなくて、実力だと思っていた部分よ」と燕がつぶやくと、「あ… ああああっ!!」とアリスが叫んで、「記憶力だぁ―――っ!!」とアリスは大いに喜んで叫んだ。


「…私、ローエイジの低学年までは、

 すっごく記憶するのが不得意だったのに、

 ローエイジを卒業するまでに、

 全世界模試で一番になっていましたぁー…

 モルタカレッジも主席で卒業したのに、

 なぜか全然自信が湧いて出なかったのですぅー…」


アリスが嘆くように言うと、「今の気持ちのままで全然かまわないから、アリス先生」と極が気さくに言うと、「…その先生も、すっごく恥ずかしいのですぅー…」とアリスは大いに恥ずかしそうに言った。


このアリスがパトリシアの後任の教師だった。


そのパトリシアは、まだ学校に復帰できずに、作戦本部で従事している。


「テキストを持たないで教室に来るのは、アリス先生だけだから」と極は我が恩師を自慢に思って言うと、「…そうだったんだぁー…」とアリスはひとごとのように言った。


どの教師も、教科書はすべて暗記していると、思い込んでいたからだ。



清々しい朝の特訓を終えると、7人の天使たちが空を飛んでやってきた。


「あ、来た来た」と極は待ち焦がれるように天使たちに笑みを浮かべて言った。


「…今の軍の状態での能力アップのブースターは大いに役立つわ…」と燕は笑みを浮かべてつぶやいて、宇宙とふたりして天使たちに手を振った。


「さらに訓練が厳しくなるだけなんだけどね。

 どれほど自分自身を抑え込めるかという、精神修行だからね」


「…ぜってえ、調子に乗る…

 …俺も含めて…」


ジャックが大いに眉を下げてつぶやいた。



天使たち7人が極の前に整列すると、「やあ、おはよう」という極の挨拶に、「おはようございまぁーす」と朝から眠くなるような癒しを放ちながら、天使たちも挨拶を返した。


「ミランダちゃんは、今日からよろしく頼むよ。

 大いに期待しているから」


「しっかりと役に立ってあげるわ!」とミランダが号泣しながら叫ぶと、「いいねぇー… ツンデレ天使…」と極は機嫌よく言ったが、ほかの天使たちは大いに眉を下げていた。


「大丈夫大丈夫」と極が笑みを浮かべて言うと、「…あっ…」とミランダはつぶやいて、天使たちを見回してから極を見入って、感謝の祈りをささげた。


「うん、様になってるね。

 だけど、俺のパートナーの扱いは厳しいぜぇー…」


極がうなるように言うと、「…全然、平気だもぉーん…」とミランダは自信なさげに消え入るような声で強がったことに、燕は大いに笑って喜んでいる。


「ジャックと気が合いそうだ」と極がにやりと笑って言うと、「だから引き合いに出すなぁー…」とジャックは言ってなぜだか頭をかいて、かなり照れていた。


「勇者と天使の本当の意味でのパートナーは多いそうだ。

 生物だと、勇者しかほぼいないそうだ。

 あとは竜かロボットらしい」


「…うう… そんな事実もあるわけだ…

 …だけど俺は、勇者なんかじゃあねぇー…」


ジャックは素早く甘い考えを捨てた。


ジャックは穏やかなフランクと、穏やかな天使がいれば素晴らしい日常を送れると期待しているのだ。


ランプは無理だったが、ピアニアは許容範囲だったようで正しくパートナーになれたと確信したからだ。


「それも、大切な想いだよ」と極は穏やかに言って、ジャックの肩を軽く叩くと、「さあ! 朝食だよ!」と幸恵の威勢のいい声を聴いた。



極はわずか三日間で見違えるような軍に仕上げた。


そしてミカエルとマリーンの双方の願いに応えることにして、タルタロス軍はわずかながらに面倒な星を訪れる大使として、三つの星を回ることに決まった。


今回は基本的に、荒れた星の大地の復興という作業に就くことになったのだ。


様々な星での復興などの情報も、スパイなどによって知らされていて、一番間口が広い温厚な星のサルー星に宇宙船はまず飛んだ。


もちろん、政府も軍も王室もタルタロス軍を大歓迎して、早速荒れた巨大な大地に極たちを案内した。


「地形を変えないと使えないことはご存じだと思っています」という極の言葉に、「…うう…」とまずは政府総裁のルドルフがうなった。


「ですがそれも見据えて、このように変えます」と極は言って、大きな地図を一気に広げた。


「おおっ!」とサルー側の高官たちは、一斉に叫んで、まるで桃源郷のような完成予想図と、荒れた大地を見比べた。


まずは砂漠化をしてしまった場所を、本来あった高い山に変えること。


そして雨が降る気象条件になることを確認すること。


さらには大いに植樹をして、山が砂に返らないように管理すること。


などと多くの施工作業説明や条件などを極は話した。


「…維持すると、約束しよう…」と王のサルタンがうなるように言って、極に頭を下げて握手を求めた。


「皆さんの好意と好感を私は認めました」


極は言って、王と固い握手を交わした。


そこからはまさに怪獣映画で、巨大な緑竜と極の術によって、標高二千メートル級の巨大な山ができていた。


その穏やかな山麓のふもとに、巨大なくぼみがある。


もちろん、このくぼみにあった土を山の材料としたのだ。


そして仲間たちは幅のある河を整備してから、極は腕だけで踊るようなポーズを取り始めると、黒雲が湧いて出たことに、誰もが大いに目を見張った。


すると、山麓部分だけに雨が降り始め、「問題なさそうです」と極は言って、この不思議な光景に笑みを浮かべた。


巨大な湖には半分ほど雨水が溜まったので、「本格的に村を造るぞ!」という極の言葉に、「ウォ―――ッ!!」と仲間たちは大いに吠えた。


近隣にあったさびれかけていた村々は、この場所にできる少し大きな村を担うことになり、極たちのとんでもない働きを目を見開いて眺めていた。


そして果林を中心とした天使たちが、子供たちを笑みに変えていって、誰もが仲良くなって、笑い声が絶えなくなった。


大人たちは大いに喜び、できる作業の手伝いを始めた。


そして多くの廃材があるのだが、何もしないのに減っていくことを不思議に思いながら、次々とできていく家などを見入っている。


「…まさに魔法で、しかも材料費は全く必要ない…

 煌様は戦士だと聞いていたが、

 いやいや、人々の心を満たす、神であらせられた…」


王の言葉に誰もが大いに賛同して、どんどん完成予想図に近づいて行く新しい村を見入った。


そして村は完成予想図と同等になり、極たちも村人たちも肩を組むようにして、村の完成を祝って宴会が始まった。


農作物のチェックも行い、政府の管理で少し離れた町などで販売を始めると、あまりのうまさに飛ぶように売れ、政府、王家、軍の懐は一気に温かくなった。


問題は、農地の巨大さに比べて村民が少ないのだが、村長に決まった者と政府の話し合いにより、近いうちに面接をすることに決まった。


粗暴な者がやって来て、この素晴らしい村を荒らされることを嫌ったからだ。


そして政府は早速警察署を設けて、監視を行い始めた。


軍だけが少々浮いたことになっているが、近くに軍事基地があるので、村の住人に早変わりすることに決まっていたのだ。


この軍人たちも村民として、村を守る力となるので、ならず者対策の準備ができていたことになる。


その間に極たちは、もうすでに別の星に飛んでいた。


ここでは極たちが歓迎されることはなかった。


しかし物は試しとして、王城の城下町の外れに少し大きめな農地を創っただけで、一気に王と民衆の信用を得て、荒れた大地をさらに城下町にして、素晴らしい風景を誰もが堪能した。



「問題はこの次。

 門前払いは覚悟の上で、

 村を作り上げた実績であるこの記憶媒体を渡してから、

 一旦このティス星に引き上げる。

 通信回線はすでに確立しているから、

 連絡して来たら作業を行うことにした。

 呼び出されるまでは、この素晴らしい城下町を見ながら休息だ」


極の言葉に、誰もがまずは気合を入れた。


まさに極の言った通りで、窓口のラデル星の政府首相のドリトルは大いに怪訝そうにして極たちを見た。


極は挨拶だけをして記憶媒体を渡して、予定通りティス星に宇宙船を飛ばした。


もちろんティス星側にもこの予定は話していたので、大いに好意を持ってタルタロス軍を出迎えた。


するとラデル星からティスとサルーに視察団が飛び、全てが事実だと知るや否や、感情を真逆に変えたドリトルが通信を送ってきた。


「なかなか用心深くて素晴らしいです」


極の嫌味とも取れる言葉に、『申し訳ない… 数十年前に、そしてそれ以前も、痛い目を見ていたからなんだ…』とドリトルは申し訳なさそうに言った。


「でしたら私の直接の言葉だけを信じてください。

 この通信だって、それほど信用しない方が得策ですよ」


極の言葉に、「そうしよう」と言ってから大いに慌てて、「この事実は知れていないから問題ない!」と早口で言った。


『あ… 疑うわけではないのだが…

 あー… 疑っているのだが…

 どうしてこのような善意をみっつの星に向けられたのかが、

 不思議なんだ…』


「偽善者ぽいのですが、

 宇宙を平和にするためですよ。

 戦争をするよりも、できることは費用をかけずに協力する。

 その方が平和ではないでしょうか?

 そして別の星から攻撃を受けた時、

 ひけめなく協力もできますから。

 これは信じてもらう必要がありますが、

 星を侵略しようなどとは考えていません。

 映像を見てもらって納得していただいたと思いましたが、

 私たちの報酬は子供たちの笑顔なのです。

 それに、マリーン様という後ろ盾もありますので」


極の言葉に、「それ、聞いてなかったよ?」とドリトルは大いに戸惑って眉を下げて言った。


「それを先に知らせると、誰もが認めようとするじゃないですか…

 その逆に大いに疑うことにもつながる。

 それに、もしもそれが悪例となって、

 またどこかに騙されることもあるかもしれないのです。

 ですのでこのようにして、

 言葉を重ねて信用を得ようという軍事作戦のようなものです」


『…うう… 天使たちに叱られた…』とドリトルが言うと、大勢の天使たちが映像に映り込んだ。


「まずは、天使たちの導きも重要でしょうね。

 私ではなく、そこに住む天使たちとさらに交流を深めて、

 平和を維持してくださいますように」



通信での会見を終えて、極たちはティスを離れラデルに飛んだ。


そしてラデルでは、大勢の天使たちが王城を乗っ取ったかのようにして待ち構えていた。


首相にも王にも歓迎を受けたが、早速仕事の話を始めた。


「村と農地の建設はこの辺りでもいいのですが、

 ここから300キロ離れたこの荒れた地は、

 貴金属が出ると思いますから、

 まずは調査をしてからですね。

 監視体制をまず整えてからが得策でしょう」


極の言葉に、「…全く恐れ入った…」と若い王のキッドが眉を下げて言ったが、笑みを浮かべて極と握手を交わした。


「詰まらなことで諍いを起こしたくないからですよ」


「…うう… 言い返す言葉も浮かんでこない…」とキッドは嘆くように言ってから、陽気に笑い始めた。


「では、詳しいことは調査をしてからですが、

 鉱山の町としての基本コンセプトで」


極は言って、予想の予想完成図を出して、王たちを驚かせた。


「では、早速調査に行きましょう。

 信用のおける警備などを派遣してください。

 この事実を知って、謀反を起こさないとは言えないので、

 精査していただきたい。

 それに、王と首相の人を見る目も図れるので、

 いい機会だと思いますよ」


極の言葉に、「…また試験ですか…」とキッドは言って眉を下げた。


学生でもあり王でもあるので、同年代の極にもその気持ちがよくわかった。


「いいや! ここは煌様にすべてを託す!」とキッドは言い切って、キッドの信頼を置いている衛兵から5人を選んだ。


「衛兵でもあるけど、友人でもあるから」とキッドは笑みを浮かべて胸を張って言った。


「首相はどうします?」と極が聞くと、「…誰も信用できんので、私だけが秘書官とともに同行しよう…」と首相は眉を下げて言った。


「では、信用を得たということで、空を飛んでいきましょう」と極は言ってこの場にいる全員を宙に浮かべて、すぐさま目的地に飛んだ。



「早い方が誰もついてこられませんから、

 妨害を受けません」


極の言葉に、「…それも真理…」とキッドは大いに膝を震わせて言った。


そして早速山を探って、金などの鉱脈を発見して、まずは坑道の整備を始め、試験的に掘り出したすべてを王に託してから、坑道の説明を始めた。


「まさにここはゴールドタウンになるわけだ…

 ここに城を…」


キッドが言い始めたのだが、極は反対しなかった。


キッドの衛兵の友人たちが、かなり協力的だったからだ。


もちろん高給取りでもあったので、妙な欲などは沸いていないことも確認済みだった。


「一応城を建ててもいいのですが、

 使わないのなら博物館にでもしてくださって結構ですよ。

 その両方でも構わないでしょう」


極の提案は即座に採用されて、まずは辺り一帯の整地をしてから、城の建設予定地の周りは農地となり、大きな城下町になる青写真は見えていた。


王は軍を派遣して、すぐさま警備に当たらせた。


これはいい判断で、航空機などを使って偵察などを始めていたからだ。


しかし、近づこうとしても近づけない。


この城下町予定地は、極の結界で包まれていたからだ。


そして軍から派遣されてきたのはいいのだが、極が認めなかった者たちは結界内に入ることができなかった。


「にらんだ通り、少々欲深いヤツらばかりです」と軍の高官は言って、結界の外を見入った。


今回の軍の指揮官のピーター・ホビット准将は、顔と名前を知っていた極に敬礼をした。


極は胸に拳を当てて、敬礼代わりにすると、キッドは少しおどけて極のマネをした。


「マリーン様に挨拶はこうしろと言われていたのです」と極が言うと、「…これに変えるぅー…」とキッドは言ってピーターを見入った。


「そういたしましょう」とピーターは言って、胸を張って拳を力強く胸に当てた。


早速政府から警官が派遣されてきたが、四分の三は蚊帳の外になった。


「警察官僚は更迭」と首相は冷めた目をして言った。


「軍の方がマシだった…」とピーターは言って大いに苦笑いを浮かべた。


そしてジャーナリストやテレビ局の者たちもやってきたのだが、結界内に入れたのはただひとりだった。


それはテレビ局のスタッフで、音声担当の者だ。


しかし、ここでジャーナリズムを発揮して、当たり障りのない質問を極たちにしてから、大いに礼を言って結界の外に出た。


「…嘆かわしい…」とキッドは言って、うつむいて首を横に振った。


「ひとりでもいたことを幸運だと思うしかないですね」と極は大いに困惑の笑みを浮かべて言った。


極はこの星の最先端のテクノロジーを利用して、集中管理ができる管理システムを構築した。


全てはこの星のものなので、この星で広がることは全く問題ないのだが、大いに応用してランクアップしいるので、全く新しい別物のように、誰もが感じていた。


このシステムは多くの警備員を雇ったことと同等になるので、キッドとしては大いに機嫌がよかった。


さらに暫定の城も完成してから、城下に住む者たちの審査も始まった。


もちろん、家族の中にひとりでも結界内に入れないと、不合格となる。


この厳しい審査に通過できたのは、わずか20の家族、45名だけだった。


「…さらに手を広げて募集した方がよさそうですね…」と極は眉を下げて進言した。


しかし合格を得た者たちは、早速収穫作業を開始した。


「農作物を結界の外に置けば、大騒ぎになります」


極の言葉に、「容易に頭に浮かんできたからしないよ…」と平和主義者のキッドは眉を下げて言った。


キッドはすぐさま、この事実を電波に乗せて、農民兼住人を募集した。


近隣から多くの人々がやってきたのだが、ここでも20組しか合格を得られなかったが、城下町としてはなんとか機能できるようになった。


「徐々に増やしたいけど…」とキッドは大いに戸惑った。


「冷たいようですが、あとは王が見極めを」と極が言うと、「…これも積み重ねだね…」とキッドは諦めるように言って、衛兵たちに指示を出した。


しかし天使たちが隠れて審査をすることになったので、キッドに余裕が出てきた。


もちろん、王の衛兵の進言が採用されたのだ。


よって天使たちはこの城下を出張所として、極にねだって小さな神殿を建ててもらった。


「…城の方がデカいのに、小さい神殿の方が威厳がある…」とキッドは大いに苦笑いを浮かべて嘆いた。


「すべてはマリーン様の思し召しです」と極が穏やかに言うと、「いいや、俺の友で神の仕業だよ」とキッドは言って極に握手を求めた。


極たちは道路の整備などをして、さらに素晴らしくなった城下町を眺めてから、大いに別れを惜しんでいるキッドに別れを告げて、一週間ぶりにラステリアに帰還した。



「…これであっち方面に動きやすくなった…」と別荘の縁側で極に報告を聞いたミカエルは笑みを浮かべて言った。


「言っておきますが、問題児を連れて行かないようにお願いしますよ」


極の言葉に、「…人選…」とミカエルは懇願の目を極に向けた。


「ひとりの高能力者は軍を崩壊に導く」


極の堂々とした格言に、「…さらにがんばります…」とミカエルは言って肩を落としながら軍服に着替えて、扉をくぐって行った。


その間幸恵はずっと腹を抱えて大いに笑っていた。


「だけど、本番はここからだ」と極は言って、「流石、宇宙地図を」と言うと、極の影から少年が姿を見せた。


「…知ってても驚くわぁー…」と燕は言って、流石と呼ばれた幼児に近い少年の頭をなでた。


「…ボクにはできないぃー…」とトーマは大いに悔しがった。


「流石は俺の事務方の秘書官だから、

 トーマとは別の扱いだよ」


極が穏やかに言うと、トーマは従うしかなかったので、「はいぃー…」と答えてうなだれた。


「うふふ」とランプは笑って、おどけて流石と腕を組んだ。


「たまには実年齢を考えて行動しろよ」


極の言葉にランプは大いに現実に引き戻された。


「今度は私私!」とピアニアは陽気に言って、流石と腕を組んで上機嫌になった。


「…この先、どうなっちゃうのかしら…」と燕は眉を下げて言ってから、小首をかしげた。



キッド王の住む星ラデルから引き揚げて10日が過ぎた。


トラスト星については、まだ諜報部が帰還していないことで、何の情報もない。


諜報部の宇宙船は航海の途中からリナ・クーターがけん引して大いに助け、調査団はトラスト星近辺に到着したのだが、「…ここはおかしい…」と能力者のギルド・ステファー中尉が身震いをした。


隊長のミラー・ストレイド少佐はギルドの予感を信じて、リナ・クーターの秘匿回線を使って、中央司令部に一報を入れた。


この件が極の耳に入ってすぐに、大量のちびっこリナ・クーターが放たれ、星の外から観察した。


その映像を見てミラーは、「なんだここは…」と目を見開いてつぶやいた。


人間はいるのだが、全てが夢遊病者のようだ。


昔話のゾンビかと思ったがそうではなく、よくよく観察すると、ごく普通に生活をしていて行きかっているだけだと、ミラーは判断した。


『現状を精査して、予測でしかないのですが、

 人間の皮をかぶっていると推測します』


極の通信に、「…中身はまさにゾンビかもしれない…」とミラーは目を見開いて、つぶやくように言った。


『かなりスローですが、

 宇宙船の整備もしているようです。

 ですが一切会話はないようです。

 よって、様々な命令などは、

 念話によって行っているのでしょう。

 星に降りなくて正解だったと、

 私は感じました』


「スローであっても、行動が予測できない…」


『隕石を投げ込んでみますので、一光年ほど下がってください』


極の言葉に、「全速後退!」とミラーは即座に指示をした。


小さなリナ・クーターが、地面に届かないほどの大きさと体積の隕石を投げ込むと、大気圏に飛び込む前に、レーザービームが飛んできて、隕石を破壊した。


「…科学技術としてはかなりのものだ…」とミラーは言って大いに冷や汗をかいていた。


『統合幕僚長から帰還命令が出ましたので、

 リナ・クーターでけん引します。

 お勤め、お疲れさまでした』


極の言葉に、船内は、「…助かったー…」と誰もが言って、極の映っていたモニターを拝んだ。



「なかなかの脅威のようですし、

 行動の予測ができません」


極の言葉に、「一斉厳戒態勢」とミカエルは命令した。


よって宇宙軍の宇宙船団は宇宙空間で、広範囲の監視任務に就くことになる。


もちろん、強力なレーザービーム対策を終えてある船が次々と宇宙に向けて飛び立った。


「予測でしかありませんが、

 トラスト星の生物に見えるものはロボットかもしれません」


極の言葉に、「ロボット技術はそれほど優秀じゃないようだね」とミカエルが言うと、「人間でいう三半規管の構造や回路が幼稚なのでしょう」と極は予測して答えた。


そしてその証拠映像を出すと、「…段差で転ぶ… 起き上がってもふらついてまた転ぶ…」とミカエルは言って苦笑いを浮かべた。


「表情も変わりません。

 とりあえず人間に見せかけているロボットの可能性があるように思うのです。

 転んでも皮膚が傷つかないようで、

 多少の強化を施しているのでしょう。

 リナ・クーターにエックス線の機能はついていませんので、

 音波エコーを取った結果を出します」


極は言ってその映像を出した。


「…どう考えても、人間とは思えないね…」とミカエルは眉をひそめて言った。


「体の中に空洞が多すぎます。

 ロボットに感じますが、

 虫の可能性も捨てきれないのです」


「…ホラーの世界になってきた…」とミカエルは震えあがって両腕をさすった。


「ですが人間はいるはずです。

 いえ、いたはずです」


極の言葉に、「うん、よくわかったよ、本当にありがとう」とミカエルが言うと、極は胸に拳を当てて会議室を出た。



「…流石はどう思う?」


極の言葉に、「虫だと思います」と流石は言って、人間に見える姿とエコーの結果から、想像に苦しくない虫の映像を宙に浮かべると、「イヤァ―――ッ!!」と幸恵だけが叫び声を上げた。


確かに気味が悪いが、ほかには誰も叫ばなかった。


「…母ちゃん、虫、ダメなの?」と極が眉を下げて聞くと、「…食品衛生上…」とつぶやいたので、極は愉快そうに笑った。


「問題は皮を着て生活しているところにあるんだ。

 体が慣れたら宇宙船に乗れる資格を得るなどと思ったが、

 調べた限りではみんな同じような動きをしていた」


極は言って、薄気味悪い昆虫の予想図を見た。


流石の画像解析技術は素晴らしく、調査したものは全て同じ種類だと判断して、映像として出している。


上半身は人間に似ているのだが、下半身はまさに虫で、気持ちのいいものではない姿だ。


「…あ…」と極はつぶやいて、あることが頭に浮かんだ。


「ボクも同意します」と流石が賛同すると、「…お前らだけで内緒話すんなぁー…」とジャックは悪態をついてうなってから、両腕をさすっている。


「それほど難しいことじゃないさ。

 この虫たちはプログラムに従って、

 人間としての進化を遂げようとしていると思う」


「…あー…」と誰もが言って、ある程度は納得していた。


「ですが、あまりにも無謀な方法だと思います。

 ですので、このトラスト星には、

 この虫しか生息していないのではと」


「…ああ、動物などは確認できなかった。

 街に見えるような場所以外は深い森だ。

 きっと、かなりの時間を費やして、

 小さいが街を作り上げたのだろう。

 そして人口は、約五千だろうと推測した。

 食べ物は木の実や根菜だろう。

 売店に並べてあった。

 勝手に取って食ってもいいようで、

 料金の支払いなどはないので、

 役割分担もあるようだ。

 侵入しようと思えば案外簡単なようだ。

 しかし油断してやられるわけにはいかない。

 星の裏には町がないことがその理由。

 だけど、兵器が隠されている可能性もあるからね。

 一発撃ってきたが、どうやら地面の中から発射したようで、

 その発射口が見つからなかった。

 よってこの星に立ち寄った宇宙船があったとして、

 誰も生きてはいないんじゃないかな?」


極が語り終えると、「その主犯のプロファイルは?」と燕が真剣な眼をして極に聞くと、「星自身か星の創造神」と極が答えると、「…あー…」とその知識を得ていた誰もがうなって賛同した。


「自分自身の能力の低さと不幸を呪って、

 何とか起死回生して、人間を作り上げようと画策した。

 きっと、何か欠点があるんだと思う。

 できれば聞いてみたいものだが、

 この状況から察して、

 簡単には出てきてくれないかもね。

 きっと、意地になっていると思う」


「極の杞憂は?」と燕が核心を突いた質問をした。


「近隣の星との協議の上、トラスト星の破壊」と極は真顔で言った。



極と燕は真剣な眼をして、マリーンと面会した。


マリーンはできればふたりに会いたくなかったようで、極の話を聞いていても上の空だった。


よって極はガイアを呼び出した。


「人間たちの身勝手さにはあきれる」とガイアはまず言った。


「ですが、多くの不幸を引き起こすかもしれないのです。

 ですがまずは、何とかしてトラスト星に侵入して、

 実情を探りたいのです。

 それには姉上のご協力が必要で重要だと思い、

 やってきた次第です」


「協力は断る」


ガイアの冷たい言葉に、「…わかりました、全てを慎重に調べ上げることにします…」と極が言うと、「マリーンがそれを許さない」とガイアはさらに言った。


―― オレは、無力なのか… ―― と極は悔しく思って、拳を握りしめた。


「いいわ、私と極だけで侵入するから」


「ならんと言った!」とガイアが叫ぶと、さすがの燕もガイアを大いに畏れた。


「…危険だと思われるトラスト星を放置しろとおっしゃるのですか?」


「攻めてくれば追い払えばいい」


「ですが、トラストの戦艦はどの星よりも危険な兵器を搭載しているはずです。

 それに立ち向かうのは、かなり危険なのです」


「童の真意がまだわからぬか、この愚か者…」とガイアは言ってマリーンに戻った。


そのマリーンは泣いていた。


そして、「どうか、お帰りを…」とだけ言って、ふらつくようにして立ち上がり、神殿に消えて行った。


極は大いに考えた。


だがその前に、できることを考えたのだが、全てを破壊するという結果しか出なかった。


「…まずは、武器が外に出るとかなりまずい…」と極が言うと、「…それが一番だと気づいたわ…」と燕は眉を下げて言った。


「正体を探るなと言ったに等しい…

 極端な例でいえば、

 トラストの創造神は俺自身、とか…」


本当はマリーンの何らかの関係者だと言いたいところだったが、ここは何とか控えた。


極の苦しそうな言葉を聞いて、「それに似たことなのかもね… 会うと少々やばいのかも…」と燕は補足説明して言った。


「だけど、生物を無条件で掃討することは、

 今の俺には納得できない」


結局、結果が出ないまま、極と燕は別荘に戻った。



極は二日に一度は願いの夢見に飛んでいた。


夢見に誘う条件は、全て極が握っていることに気付いて、常に最低でも15人ほどは呼ぶことにしている。


よって現在は三周目に入っているところだ。


願いの夢見に出たあくる日は、天使の夢見に出ることにしていた。


そして今回の件のヒントが欲しいと思い必死になって神に祈ったが、神は現れない。


「根性なしの神ばかりね」と燕は悪態をついた。


極と燕は語り合いながら、いつのまにか眠ってしまっていた。


『あなたは間違っています!』と女性の声が聞こえる。


極には聞き覚えのない声だ。


年齢的にはまだ若く、極と同年代だと感じた。


しかし目の前は真っ暗で、その存在感もなく声だけが聞こえた。


『何が間違っているのか教えてほしい!』と極は必死になって訴えた。


しかしまた、『あなたは間違っています!』と繰り返すばかりだ。


極は、―― まさか、試されているのか… ―― と思い、ここでようやく冷静になった。


そして極自身がもがき苦しんでいたと察し、極なりの善の正義を考えることに決めた。


しかしまた、『あなたは間違っています!』という声がしたが、極の耳には届いていなかった。


―― 必死過ぎる俺って… 燕さん、本当は笑ってたんじゃないのかなぁー… ――


などと考えていると、妙に陽気な気分になった。


姿の見えない女性の声はまだ聞こえる、


極は今の状況を冷静に探っていたのだが、真っ暗闇で何ひとつ見えない。


―― いや、確実におかしい… ――


極は思って、何も見えない自分の体を感じ、そして裏を表に向ける瞑想状態に入ってすぐに、―― あ、そういうこと… ―― と極はあっという間に察してすぐに、明日からの予定などを考え始めた。


―― そうだ、俺はあんたの言うように間違っていたよ… ―― と極はうそぶいた。


しかしまた、『あなたは間違っています!』と見えない姿の声だけが辺りに響いていた。



起床してすぐに、極は妙な夢見の話を燕にした。


「…復活が早いわぁー…」と燕の第一声はこれだった。


「本当は笑ってたんじゃないの?」


極の言葉に、「極以外のことは無関心って言ったわよね?」と燕は言って極をにらんだ。


極はおどけて他人行儀に謝ってから、「どこかデートにでも行く?」と極が聞くと、燕は満面の笑みを浮かべて極に抱きついた。


身支度をしてから、朝食前のひと時を燕と宇宙とともに縁側で過ごしていた。


「よく笑う、いい子だわぁー…」と燕が母の笑みを向けて宇宙に言ったとたんに、「ブッ!」と宇宙が声を発して怒った顔になった。


「あーあ、怒らせたね」と極が穏やかに言うと、燕は意味が解らず、大いに戸惑った。


「宇宙は親離れするよ」という極の言葉に、「まだ歩けもしないじゃない!」と燕が叫ぶと、「だぁー だぁー」と宇宙は言って極に両腕を延ばした。


「おっ 了解だ」と極は言って、宇宙の脇を両手でつかんで、地面に立たせた。


そして宇宙は振り向いてから、極に満面の笑みを向けた。


極はゆっくりと手の力を抜くと、かなりの蟹股で歩いていたが、ついには走り出して、頭が重いのかバランスを崩して前のめりに転んだ。


「あーん! あーん!」と宇宙が泣き始めると、燕がすぐに立ち上がったが、「まだだ」と極は言って、燕を制した。


「痛がって泣いてるんじゃない!」と燕が声を荒げて鬼のような顔をして極をにらむと、「不甲斐ない自分自身に嫌気がさして、悔し泣きしてるんだ」と極は落ち着き払って言った。


「そんなわけないじゃない!」と燕が大いに反抗すると、果林とラステリアとマリナが走ってやってきた。


するとぴたりと泣き止んで、果林が宇宙を抱き上げて立たせた。


「慌てちゃダメよ?」と果林が言うと、「あー」と宇宙は機嫌よく答えて、機嫌よくゆっくりと歩き始めた。


すると燕が大いに眉を下げて極を見て、「…子離れ、できそうにないんだけど…」と悲しそうに言った。


「脇をもって抱き上げた時、全身に力が入っていたんだ。

 だから歩けるはずだと確信したんだよ。

 それを通り越して走ったけどな」


「…うう… ママは弱し、だわぁー…」と燕は言ってうなだれた。



朝食が始まって、「パパとママはお出かけするけど、宇宙はどうする?」と極が聞くと、「あー」とまず言って、果林を見た。


「お姉ちゃんを困らせちゃダメだぞ」


「あい!」と宇宙がかわいらしく答えると、果林は宇宙を大いに褒めていた。


「…ああ、ママがいないと泣いちゃうのにぃー…」と燕が言うと、「ブー!」とまさに怒った声と顔をして、燕をにらんだ。


「…あーあ、緑竜様もかたなしだ…」とジャックがつぶやくと、燕は無言で悪魔の燕に変身した。


あまりのことに、ジャックは恐怖で体が硬直した。


「燕さん、大人げないから」と極が眉を下げて言うと、「…ああ、ついつい…」とまさにホラー感満載の声で答えると、「ひー! ひー!」とジャックは悲鳴を上げて大いに怯えた。


「迷惑だから戻って戻って」という極の言葉に、「…反抗的な子にはやっちゃうぅー…」と元に戻った燕は言って宇宙を見たが、その顔には笑みがあったので、燕はかなりの勢いでうなだれた。


「どんな姿でもママはママなんだよ」と極は明るく言った。


「それから、宇宙はかなり賢いぞ」と極が言うと、「それは私と極の子だから当然よ」と燕は言って胸を張った。


燕のあまりの親バカぶりに、極は、―― やれやれ… ―― という感情のままに、「宇宙はまず、何に怒ったと思う?」と聞くと、燕は大いに戸惑った。


「宇宙はな、いい子という言葉を毛嫌いしたんだよ」と極が言ったとたんに、「あーい!」と宇宙は機嫌よく返事をした。


「えー…」と燕だけではなく、誰もが意義があるように声を発したが、宇宙が機嫌よく返事をしたことで、間違っていないとも察した。


「宇宙自身がいい子じゃないと判断したわけじゃないんだ。

 甘やかして欲しくなかったんだよ。

 だから俺は、親離れすると言ったんだ」


「うう… なんとなくだけど、わかったような気がするぅー…」と燕はつぶやいてうなだれた。


「それにさ、ふたりでデートに行っても落ち着かないんじゃない?」


燕は、「…うん、そう思う…」と力なく言った。


「ここは心を鬼にして、宇宙を少し遠くから見ていた方がいいと思う。

 きっと、一度くらいはママに甘えたいと思うはずだから」


「…ああ、そうして欲しいぃー…」と燕は言って、宇宙に笑みを向けた。


よってこの日は、燕は極そっちのけで、宇宙のストーカーになっていた。



ひとりになった極は、別荘の縁側で瞑想を始めた。


―― ダメだ、俺ひとりの力では… ―― と極は思い、扉をくぐって天使たちの職場に行った。


基本的には軍施設内の監視業務だが、天使7人は機嫌よく遊んでいる。


これでもきっちりと監視業務は無意識化でしているので、部屋に入ってくる前から、極の存在に気付いていた。


「ミランダちゃん、頼むよ」と極は言って床に座り込んで瞑想のポーズをとった。


ミランダは極の右手を握りしめて、「えっ?」と戸惑いの声を上げた。


「色々と上げる必要ができてね。

 戸惑うだろうが、少し付き合ってほしい」


「はい! 極様!」とミランダは真剣な眼をして答えて、とんでもない状況の極の今の状態を修行としていた。



瞑想に入ってから30分が過ぎ、「…よっし、これでいい…」と極は言って満足そうに笑みを浮かべた。


「みんな、ミランダに癒しを」と極が言うと、天使たちは朗らかに返事をしてから、眠ってしまったミランダを穏やかに癒し始めた。


極はその場から黒ヒョウのラステリアに精神間転送で飛んですぐに、「うおっ! 重いっ!」と叫んだ。


極の手には金色の小さな玉が握られている。


極は別荘の極たちの寝室に、金色の球を祀るようにして、部屋の片隅に置いた。


「…うわぁー… 不思議な気分…」とラステリアはつぶやいて金色の球を見た。


「魂が抜け出たように感じるだろ?」


「…あー… そうだよねぇー…」とラステリアは言って、極を見上げた。


「宇宙に出ても大丈夫だから」という極の言葉に、ラステリアは飛び跳ねて大いに喜んだ。


「一応、一筆書いておこう」と極は言って、『触れるな、危険! 煌極』と達筆で書いて、金の球を乗せている、重厚な箱に張った。


「誰も持ち上げられないと思うけどね。

 それに、誰かが触れたらわかるから、戒めてもいいぞ」


「そうだね、張り紙までしたんだから」とラステリアは言って、機嫌よく極にまとわりついた。



トラスト星がらみの件はとん挫しているが、近隣の様子を怪訝に思ったギア星の調査団が、煌極が三つの星に恩恵を与えたと知り、過去の所業を顧みず、ラステリアに使者を出した。


だがラステリア星は厳戒態勢中で一旦引き上げようとしたのだが、簡単に補足され、囲まれてしまい動けなくなった。


ここは穏便に話をしたのだが、もちろん、何かの工作をしにやってきたと疑って当然だ。


ギアの使者が、個人的な感情をもって説明を始めると、話だけでも聞いてやっても構わないと判断して、中央司令部に報告した。


そして、リナ・クーターが飛んでくると、全ての艦の軍人たちは一斉に敬礼した。


極は通信回線を開いて、「タルタロス軍の煌極です」と穏やかにあいさつした。


「ギア星からの使命と、

 あなたの見た目での希望をお話し願いますか?」


使者の代表者のロットン・グレイ大佐は、「…煌極を連れて来て星の復興をさせるように命令しろ…」とまず言った。


「随分と高飛車な希望というか、命令ですね…

 横道にそれますが、

 それほどに横暴になっている原因を何か知っていますか?」


「…実は、マリーン様を異様に毛嫌いしておりまして…」とロットンは大いに眉を下げて言った。


「あー… 何かイヤなことがあって、命令でもされたようですね…

 その辺りの事情は知りませんか?」


「15日ほど前に、我が星の船籍を偽装した船がここに訪れたとか…

 内通者がいたのではないかと大いに疑われたのです。

 私の知る限り、そのような事実はないと判断しています。

 どうやらその件で、かなり怒っているようで…

 マリーン様が住むラストリアにまた攻め入ろうかなどと考えてもいたようですが、

 今回の星々の復興の件で、まずは利用してから

 などと画策しているようです」


「ああ、なるほど…

 怒らせて確実にギアに訪れさせようという算段ですね?」


ロットンは目を見開いて、「それに今気づきました…」とつぶやいて頭を下げた。


「軍を抜きにして、

 復興作業を行っても構いません。

 王室や政府は、正常に機能していますか?」


「…軍が、第一権力者で、

 対抗している勢力はあり、

 悲しいことに、我が星はほとんど緑を失ってしまいました…」


「では、一気に緑を復活させて、

 驚かせてやっても構いません。

 ほんの数秒で終わりますから。

 大きな戦いはすぐにはできず、

 終戦を余儀なくされるでしょう。

 もしも、それ以上の望みがあるのなら、

 また訪問してきていただけますか?」


「…そんなことまで…」とロットンはつぶやいて怪訝に思ったが、調査団の報告を聞いて、―― 簡単にできるのではないか… ―― と希望をもって、承諾した。


「とんでもない化け物が現れるので、

 攻撃しないように伝えてください。

 ですが攻撃しても、全く通じないので、

 無駄な行為だとも。

 この件に関しては、宣戦布告は行わないと誓っておきましょう。

 こちらが攻撃のようなものを仕掛けるわけですからね」


極は言って胸に拳を当てた。


「お待ちしています!」とロットンは希望をもって敬礼をすると、「いえ、今すぐに行きますから、待つことなんてありませんよ」と極は言ってラストリア星に帰還した。



極はすぐに燕に事情を話すと、緑竜に変身した。


極は竜の鎧をまとって、まるでデートのようにして大気圏を飛び出し、ほんの数分でギア星の大気圏に突っ込んで、ひどい有様の大地を見てすぐに、緑竜はとんでもないほど巨大な緑のオーラを放って、すべてを緑に変えていく。


ほんの数秒で、緑のオーラは星中に届き、茶色かった大地が全て緑となった。


あまりの早業に、攻撃命令は出ていたのだが、ツタなどが絡まり、兵器が使えない事態に陥り、ジャングルのようになってしまった大地を見入るしか術はなかった。


もちろん喜んでいる者もいて、特に子供たちが笑みを浮かべて果物などを食べている。


食糧難も解消できるほどのジャングルを見入ってから、緑竜と竜の鎧はラストリアに帰還した。



「…はっや…」とジャックが帰ってきた緑竜と竜の鎧を確認して空を見上げてつぶやいた。


「…あれは反則だが、まさに平和の使者だろう…」とリナ・クーターからの映像ですべてを知っているキースは笑みを浮かべて言った。


「だが、少しデートでもしたのか、

 少々時間がかかったような…」


キースが怪訝そうに言った。


どう考えても行きと帰りで30分程の差があったので、直接帰ってきていないと感じたのだ。


「なんとなくですけど、

 トラストの件で、何かの準備でもしてきたのではと。

 あの化け物たちなら、

 30分もあればとんでもないことをしそうですので」


キースは少しジャックをにらんだがすぐに眉を下げて、「…やったんだろうなぁー…」とつぶやいた。


その5日後、ついに無船籍の艦隊5隻がラステリアに接近していたのだが様子がおかしい。


そしてその艦隊は誰も乗っていないと確認して、一旦は幽霊船騒ぎとなった。


しかしいきなりレーザーをぶっ放し、着弾したのだが、偵察艇はシールドに守られていたので難を逃れ、一旦旗艦に引き上げた。


もちろんラステリア軍は大艦隊で迎えうち、ただ撃ってくるだけの5隻をハチの巣にした。


早速調査団が5隻の館内を探って、やはり誰も乗っていなかったことに背筋を震わせた。


そして武器パネルにはまだ攻撃をしているような映像が出ている。


命令を出しても武器を破壊されているので、命令は届かない。


すると微速ながらも動き出したので、全員館内から脱出して、引き上げていく5隻を見送った。


そしてもちろん偵察艇数機があと追って行った。



その20日後に様々な経緯があり、ラステリア軍統合幕僚長より極にトラスト星破壊の命令が下った。


もちろん、様々な星との話し合いがあったからこそ、比較的長い時間がかかったのだ。


もちろん、それなりの確認は行っていて、トラスト星に通信を送っても音沙汰がない。


さらには星には誰もいないという結論に達したのも、星に侵入しようとすると攻撃してくる。


さらには戦艦の修理をしている形跡もある。


よって、これほどに危険な星はないとして、この結論が出たのだ。


極は無言で、胸に拳を当てるだけで同意の意を表し、この命令を受けた。


もちろん、極の夢で、『あなたは間違っています!』という声は聞こえてくるのだが、願いの夢見が優先されるようで毎晩ではない。


しかし極はもう慣れてしまったようで、『なにも間違ってはいない』と言い返すだけだ。


そしてつい最近だが、細かにその事情を話すと、この声がぴたりと止まった。


―― 詫びも何もないんだな… ―― と極はあきれ返って考えていた。



極は仲間たちと宇宙船に乗って、今は小さく見えるトラスト星を見入っている。


この作戦にはサポートが必要で、8艇の最速宇宙船がタルタロス軍の宇宙艇とビームアンカーでつながっている。


極は館内に格納してあるリナ・クーターを軽く叩いて、「さて、やろうか」と言った。


そして獣人のオカメを抱くと、「…ある意味助かったわぁー…」とつぶやいて、リナ・クーターに笑みを向けた。


「マリーン様の代わりでもあるさ」と極は陽気に言って、早速トラスト星を見入った。


そして左腕を上げて、手のひらを標的に向けて指を大きく開いた。


「最大出力スパイラル閃光、放ちます!」


準備完了状態の極の言葉に、「スパイラル閃光、発射っ!!」と司令官のマルカスが叫んだ。


それと同時に、まずは五本の指先が光り、手のひらの中央で絡まりあうように、そして成長するように巨大な球になっていく。


「閃光! 発射!」と極が叫んだ途端、巨大な球がらせんの尾を引いて、一瞬にしてトラスト星に命中して貫いた。


「急速後退!!」とマルカスから指示が出ると、八基の宇宙船が一気にトラスト星から離れた。


もちろんビームアンカーで繋がれているタルタロス軍の宇宙船も一気に後退した。


するとトラスト星は一瞬膨張したのちに消えた。


それと同時に、背後の星の瞬きが消えたように見える。


「…ブラックホール… やっぱり出たね…」と極はつぶやいた。


そして振りかってから、「トラスト星に着弾、破壊を確認しました」と極は報告して胸を張って拳を当てた。


「ご苦労」とマルカスは言ったが、眉を下げていた。


まさに複雑な心情だろうと、息子の心労を察した。


しかし極は悲しげでもなく誇らし気でもない。


これが最善の処理だったと、納得していただけだ。


軍から選抜されてこの作戦のすべてを見ていた者たちは、一斉に極に向けて胸に拳を当てた。


そして眉を下げている極を見て、その心情を知った。



別荘に戻って仲間たちをともにいる時も、極は何も語らなかった。


だが、これではいけないと思い、全員をリビングに集合させた。


「今回の作戦に使った、スパイラル閃光について説明する」


極の堂々とした言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てた。


説明を聞き終えた仲間たちは、「…はぁー…」と大きなため息をついた。


「ほんの二秒ほどで、それほどのことをやっていたのか…」とジャックは大いに嘆いた。


「だけどな、ここからが大変だ。

 またさらに、俺に敵対してくるか、

 すり寄ってくるか…

 どっちにしても面倒だから、

 できれば命令して欲しくなかったね…」


極は言ってミカエルを見た。


「もちろんそれもきちんと話したもーん!」とミカエルがおどけて言うと、極は腹を抱えて笑った。


「そんなこと、信用しちゃいませんよ。 

 だからこの結果を見て、大いに慌てたはずです」


「慌ててる慌ててる!」とミカエルは多くの小さなモニターを見入って、腹を抱えて笑っていた。


「…ほんと、呆れるわ…」と燕は眉をひそめて言ってミカエルを見た。


「…燕さん、行くよ…」と極がため息交じりに言うと、「…行かなきゃね…」と燕は答えて、重いを上げた。


すると、宇宙が走ってやってきた。


もう転ぶことなく、足腰がしっかりしてきた。


「パパッ!」とはっきりと宇宙は笑みを浮かべて言って、極に向かって両手を広げた。


「おっ! うれしいなぁー…」と極は大いに感動して言って、宇宙を抱き上げて抱きしめた。


「燕さんはマリナ」と極が言うと、宇宙と同じポーズをとっているマリナを燕は抱き上げた。


「時には交代しない?」と燕が宇宙に言うと、困惑の目をして極を見た。


「一日一度は甘えた方がいい。

 ママが怒りっぽくなるからな」


「…ああ、幸せ…」と燕は言って、極に体ごと寄り添った。


「はい、パパ」と特に妥協することなく、宇宙ははっきりと返事をした。


「…その理由までも理解しているのね…」と燕が眉を下げて言うと、「多少の犠牲は仕方ない、ってな」と極は陽気に言ってから、燕とともに宙に浮かんで、大神殿を目指して飛んだ。



もちろんマリーンは待ち構えていたが、その顔に笑みはなく、眉を下げて極と燕を見ている。


「もしよろしければ、今回の件について、すべてを詳細に説明できます」


極の言葉に、「…すべてをもう知っています…」とマリーンは言ってうなだれた。


「ああ、いけないわ…

 お勤め、お疲れさまでした」


マリーンは穏やかに言った。


「はい、ありがとうございます」と極は言って、マリーンに勧められるままに、マリーンのお気に入りのテーブルについた。


よってここからは世間話となって、三人は愉快そうに笑って会話を楽しんだ。


「お母様は本当に子煩悩ですわ」とマリーンが笑みを浮かべて言うと、「限定っていう意味は大いにあるわよ」と燕は言ってマリナに笑みを向けた。


「ちなみに言っておくけど、宇宙は俺に甘えてるわけじゃないんだ」


極の言葉に、燕は大きく目を見開いた。


「同性の男の仲間」


極のひと言に、「…納得できたぁー…」と燕は言って、宇宙に笑みを向けた。


「もちろん俺が父だから抱きついているだけで、

 友人に抱きつくことはない。

 その辺りの分別もあって、

 果林が構いすぎると大いに嫌がるからね。

 今、一番仲のいい同姓はラステリアだ」


「…勇者気質満載だわ…」と燕は言って更に深い笑みを浮かべた。


「もちろん、獣人の子供たちとの態度も違って、

 特に同性の子供たちに寄り添いたがるが、

 女の子も黙っていないけどね…

 あの別荘は本当にいい環境だと思う」


極の感慨深げな言葉に、「…現実離れ」と燕は言って言葉を止めた。


「それにももちろん理由はある。

 いい環境だからあの別荘で暮らしているというだけの理由じゃないよ」


極の問答のような言葉に、「…不幸を感じさせない場所で生活することが重要…」と燕は言ってから何度もうなづいた。


「だから現実世界のような軍施設に行ったとたんに、

 大いにイヤな空気を感じるからね。

 そういった精神的修行を積んでいる場所と言っていいね。

 もちろん、この大神殿もほぼ同じだから」


極の言葉に、マリーンは薄笑みを浮かべてうなづいた。


すると、「うぉ?!」という声が大神殿から聞こえて来て、黒い塊が極を目指して走ってきた。


「やあ、今日はソルデの当番かい?」と極が穏やかに聞くと、ソルデはバツが悪そうにして、「そうだぁー…」とうなってそっぽを向いた。


「ソルデ様、どうぞお座りください」というマリーンの勧めに、「おう、悪いな」と答えて音を立てるようにして椅子に座った。


「…どうでもいいが戦えぇー…」とソルデは小声で極に向けて言った。


「かなり強いことは認めるよ。

 だけど、マイクさんに勝ってからだね」


そのマイクが笑みを浮かべてゆっくりと歩いてきて、「ミランダがお世話になっております」と極に向けて礼を言った。


「今回の件での功労者はそのミランダさんだから。

 まさに好都合のタイミングで大いに助かったんだよ」


もちろんマイクは飛び上がるほどにうれしかったのだが、「すべては極様の手のひらの上」とマイクは笑みを浮かべて言った。


「そんなもの、大いに流動的だから。

 必ずうまくいくとは限らないからね。

 ミランダさんの場合、

 そのタイミングがかなり難しかったんだよ。

 早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない。

 そのタイミングがあの瞬間だったと思うよ」


「あら? その件については詳しく知らないのです。

 どうか教えてくださらないかしら?」


マリーンが瞳を輝かせて極に言うと、極は発端から現在までの一部始終を語った。


「…星を、吹っ飛ばした…」とソルデは言って鳥肌が立っている腕をさすりまくった。


「もちろん、やりたくはなかった。

 だけど、幽霊のような戦力を放っておくわけにもいかずに、

 詳しい事情を交えた多くの星との協議をして、

 その結果、軍の命令に従ったんだ。

 それが俺の大いなる譲歩。

 罪も何もない人たちが巻き込まれるのも問題だったから。

 だけどそう仕向けたのは俺の考えと、

 能力を爆発的に上げていた俺。

 全てのトラスト星の生物を、

 ミランダさんの力を借りて、

 別の星に移しておいたんだよ」


極の言葉に、燕以外は大いに納得してうなづいた。


「…だ、だが…

 勇者とはいえ、

 その能力で星を吹っ飛ばすほどのパワーが出るものなのか…」


ソルデの言葉に、「エネルギーはかなり使ったよ」と極は言って、燕を見た。


「燕さんの考えられないほどの魔力量でも足りないと思った。

 だからリナ・クーターのパワーと宇宙船のパワーも足して、

 全てをひとつに取りまとめて放ったんだ。

 一応余裕はあったけど、

 巻き込まれるのもごめんだったら、

 多くの宇宙船に引っ張ってもらって、

 何とか難を逃れたんだ。

 それほどに準備をしておかないとできない芸当だから。

 宇宙船が動けないから、

 いきなり沸き上がったブラックホールに吸い込まれていたと思う。

 大勢の協力と、罪を分け合って作戦は成功したんだよ」


「…ああ、よかったぁー…」とマリーンは言って涙をぬぐた。


「軍の作戦ですので、実行者だけの責任ではありません。

 さらには多くの星々の王たちの賛同を得た作戦なのです。

 逃げのような考えですが、これも真実です。

 それにまだまだこれに似たことも起こるもしれないのです。

 一定方向だけの平和は得たと思いますが、

 この宇宙だけでもまだまだ広いのです」


極の言葉に、「この宇宙に、人間の住む星は500ほどございますから」とマリーンが言うと、極だけが穏やかにうなづいた。


「さらには、極様の出現で、

 魂たちが多く集まっているようで、

 その数はさらに増え続けていますので、

 ようやく安心できる日々となっているのです」


マリーンは希望がある言葉を放ったのだが、憂鬱そうな顔をした。


「それほど早く、全てを平和にすることは不可能でしょう。

 それにマリーン様は常にここにあらせられると私は考えているのです。

 大宇宙は、もうこれ以上増えないと思いますので、

 この場が宇宙の果てだと察しているのです」


「…ああ、私にも大いなる希望を!」とマリーンは叫んで、大いに感謝の祈りをささげた。


「…甘えん坊の矯正をしていいようね…」という燕の言葉に、極は大いに愉快そうに笑った。



「お聞きしたいことがあって…

 万有桜良さんの出現と、

 いきなり話してきたことについてです。

 それに、私の夢での少女の声ですが、

 大いに気になっているのです」


極がマリーンに問いかけると、「万有桜良さんは、この宇宙の根本を造られたお方です」とすぐに答えると、「…とんでもない母ちゃんだったぁー…」と極は大いに嘆いた。


「…じゃ、じゃあ、魂の循環システムとかも…」と燕がつぶやくと、「はい、その記録はきちんとあります」とマリーンは胸を張って言った。


「この宇宙が三つの空間を形成するように構築なさったのも、

 万有桜良さんで、古い神のお名前をデヴォラルオウとおっしゃいます」


「…デヴォラルオウ… 

 名前だけの印象的には、悪魔と天使を思い浮かべる…」


極の言葉に、ソルデが何度も腕をさすっている。


「なんだよ、怖いの?」と極が気さくにソルデに聞くと、「当たり前だ!」とソルデが叫んでまだ腕をさすっている。


「なにが?」と極が聞くと、「…察しろぉー…」とソルデは言ってようやく落ち着いたようだが、「デヴォラルオウ」と極が言うと、またソルデが激しく腕をさすり始めると、燕は大いに愉快そうに腹を抱えて笑い始めた。


「その名前には悪魔を恐怖させるほどの威厳がある。

 王とか神とか、そんなレベルじゃなく、

 恐怖を与えるわけだ…

 まあ体験した実例でいうと、悪魔の中の悪魔で大魔王」


「そうだ! だからこの件はもう話すな!」とソルデは大いに叫んでからそっぽを向いた。


「…俺の母ちゃんをそれほど嫌うな!」と極が子供口調で叫ぶと、燕とマリーンが大いに笑った。


すると宇宙が、「ママ」と言って両腕を燕に向けた。


「ほらほら、交代交代」と極は言って、宇宙とマリナを入れ替えてから、「お母さん孝行な息子」と極が言うと、マリーンは笑みを浮かべてうなづいた。



「それから夢での極様を戒めるような言葉の件ですが、

 どうやら精神空間の王が関与しているように感じるのです」


マリーンの言葉に、「ゲッタ・コリスナー様ですか…」と極は言って何度もうなづいた。


「その少女の方ですが、まだ混沌にいるようなのです。

 正確にはまだ生まれていないと察します」


マリーンの言葉に、誰もが目を見開いたが、「…それなり以上の神のようですね…」と極がつぶやくと、「私の予測でしかありませんが、まだ判明していない、宇宙空間の神かと…」とマリーンはつぶやいた。


「もちろん、いいたいことはわかっているのです。

 多くを救うために

 ひとりを地獄に落としてもいいのかと問われていたはずですから。

 もちろん、こちらの反論としてはその逆を語るしかないのです。

 助けたくても拒まれると何もできません。

 それに強制的に手を差し伸べて、

 結果的に甚大な被害が及ぶことも考えられますから」


「…ガイアの杞憂はそこにあったと思います…」とマリーンは消え入るように言った。


「さらに言えば、私は誰も亡き者にはしていませんので。

 ひとつを除いた魂を持つものすべてを別の星に移していました。

 残る魂は、星の創造神らしきものだけでしたので」


「森羅万象を持つ者でした」とマリーンが言うと、「…森羅万象…」と極は言ってから軽く頭を抑え込んだ。


「もしも私たちが星に攻め入れば、

 全滅も容易に考えられた」


極の言葉に、燕が大いに目を見開いた。


「簡単に言えば、星自身がその肉体だったはずだ。

 その魂に、悪の正義が宿ったんだろうね…

 こっちの意見など聞く耳を持たない。

 まさに魔王で、テリトリーに入ってきた者は踏みつぶす。

 そして希望があったとしても、虫の言葉は神には届かない」


全ての事情を察していたマリーンだけが穏やかにうなづいていた。


「大きな神たちは、この森羅万象を嫌っているのです。

 もちろん、今回のような件もあり得るからですわ。

 それに…」


マリーンは言ってソルデを見た。


「…ななな、なんだぁー…」とソルデで大いに動揺して言うと、「悪魔の協調も何とか訓練しましょう」と極は言ってマリーンに頭を下げた。


「俺が星を撃ち抜いたことなど、

 なんでもないほどの悪魔の協力技だよ。

 その威力は、銀河をも吹っ飛ばすそうだから。

 うれしいだろ?」


極がソルデに問いかけると、「…放った俺も吹っ飛ぶじゃあねえかぁー…」とソルデは大いに理解してから極を威嚇するようにうなった。


「うん、多分吹っ飛ぶ」と極が気さくに言うと、「…ううううう…」とソルデは大いに戸惑いながらうなった。


「天使たち二名が、簡単にその試練を乗り越えました」とマリーンが穏やかな笑みを浮かべて言うと、「気が強ええからこそだ!」とソルデは天使の性格の本質を見抜いた上で叫んだ。


「悪魔はその表面が粗暴なだけで、

 性格的には人間とそれほど変わらないからね。

 気持ちはよくわかるから」


極のやさしい言葉に、「…お、おう…」とソルデは言って、少しだけ頭を下げた。


「勇者の協力技はないようだなぁー…

 神通力を纏おうとしても、地に戻るだけだし…」


「…今やんなよぉー…」とソルデは言ってまた腕をさすり始めた。


「死なないから大丈夫」


「…死んだ方がマシなほど辛れえんだぁー…」とソルデは極を大いに睨んでうなった。


「あ、まさか魔王がなにかやってて巻き込まれた?」


極が気さくに聞くと、「…お、おう…」とソルデはすぐに答えた。


「…俺がうかつにも手を出したから俺のせいだ…

 あいつ、泣くほどに俺に謝ったが、

 非があった俺は天使たちに叱られた…」


ソルデがうなだれたまま語ると、極と燕がここは声を殺して笑っていた。


「…いいですねぇー… 心からの友人…」とマイクがソルデに言うと、「こいつは友人なんかじゃあねぇー…」とソルデは極をにらみつけてうなった。


極には何の反論もなく、笑みを浮かべてうなづいている。


ソルデは極を神と思っているのだ。


だが照れくさいので、そのように誰かを褒め上げることは、悪魔にはできない芸当だ。



… … … … … … … … … …



極たちが住む宇宙から遠く遠く離れた場所、何光年などと表せられないほど遠い場所に、アニマールという星があります。


そのアニマールにはヤマという古い神の一族の一員の動物が住んでいます。


その姿はまさに山で、足を折った姿でも一万メートル級の山でしかありません。


その山に立ち向かうように、少し呆れた顔をした、青年に近い少年が立っています。


「爺ちゃん! そろそろタネ明かししてよ!」と八丁畷春之介という名の少年が叫びました。


春之介とヤマの距離は100キロほどありますが、声は聞こえています。


ヤマは長い首を大きく振って、春之介に頭を向けました。


「…何の話?」とヤマは子供のような声で言って、大いにとぼけました。


「そんなのいいから、話してくれない?

 源一様がここに来てもいいの?」


春之介の言葉に、ヤマはかなり怯えました。


「全部は話せないよぉー…

 きっと、不幸が起っちゃうもぉーん…」


「…それはわかっているからその先…」と春之介は言って眉を下げました。


高能力者の春之介は、その程度のことは見破っています。


「それにエッちゃんの様子がおかしい。

 今は手紙を書いてるし。

 今までにない行動をしてるから、

 エッちゃんの子供で、とんでもないヤツがいて、

 そう簡単には行けない場所にいるんだろ?」


「…大正解ぃー…」とヤマは言ってゆっくりとそっぽを向きました。


ヤマがあまり早く動くと大きすぎることで、大風だけではなく、かまいたちが起こってしまうことがあるから、ゆっくりと動くのです。


「どれほど強いの?

 それから仲間とかは?」


「強さは、春之介と京馬と源一を足したような人」


ヤマの言葉に、「そこは普通、3で割ると思うんだけど、割らないわけね…」と春之介は大いに眉を下げて言いました。


「三空間を使いこなせるから」


春之介は大いに眉を下げて、「…普通じゃない強さだろうな…」と呆れたように言った。


「悪に染まった森羅万象の住む星を射抜いて、 

 異空間に封じ込めたと思うよ?」


「…おいおい、それ、やばいんじゃないの…」と春之介は眉を下げて言いました。


「でもね、星がなくなって一旦宇宙に飛ばされたはずだから、

 魂だけになって、異空間にいると思うよ?」


「…あー、それはあるか…

 それに、一番恐れる事態になっていたんだね…

 悪竜なんて楽なものだって思ったよ…」


「その子は勇者になったから、

 仲間を鍛えてる途中。

 でもね、ふたりほど勇者になりそうだよ」


「この辺りにいる勇者に聞かせたいほどだね…」と春之介は大いに眉を下げて言いました。


「もちろん、勇者ひとりじゃなんにもできないもん…

 それに、ひとりの強者がいる軍は弱体化するって言ったんだ。

 まだ15才なのにね…」


「…はは、わかってるぅー…」と春之介は陽気に言って、その勇者を大いに認めて会いたくなっていました。


「だから行っちゃいけないんだって、

 自分で言ってたじゃん…」


ヤマがあきれ返って言うと、「…そうだった…」と春之介は眉を下げて言いました。


「それにね、守る王がいるから、来られるとしてもこっちには来ないよ」


「…その事情はよくわかるね…

 まさに勇者は王の騎士…」


春之介は感慨深く言って、何度もうなづきました。


「その王はね、自然界の神」


ヤマの言葉に、春之介は一瞬固まってしまいました。


ですが、「…もう、いたわけだ…」と春之介は目を見開いたまま言いました。


「代理だよ?」というヤマの言葉に、「…やっぱりかぁー…」と春之介は言ってさらに事情を大いに理解できました。


「それにその勇者は、とんでもない緑竜と結婚したよ?」


「…ああ、緑竜はとんでもない人しかいないからね…」


「悪魔の眷属の能力も持ってるんだよ?」


春之介はまた固まりました。


「…だからこそ、それほどに危険な宇宙なわけだ…

 俺たちが行ったって、足手まといになるかもしれない…」


「それはさすがにないけど、手下の人は使えないかも…

 さすがにここからは遠すぎて、送り出せないから。

 だから宇宙船に乗って、一カ月ほど飛ばないと着かないよ?」


「…それこそ普通じゃない距離だ…

 大宇宙の果て…」


春之介は言って少し考えてから、「…大宇宙の果ての場所に、自然界の神が根ずくわけだ… そういうことか…」と春之介はすべてに納得していました。


「金の球も創ったよ?」


「…俺、さらに鍛えないとな…」と春之介の目は大いに燃えていました。


「リナ・クーターを足として造って乗ってるよ?

 影君も創っちゃったよ?」


「…その勇者のことを俺はきちんと理解できたと思う…」と春之介は今までにないほどの大きなため息をつきました。



「あら、エッちゃん、珍しいわね、手紙なんて…」


優夏が聞くと、「すっごい息子ちゃんが見つかったの!」と桜良は陽気に言って、優夏に手紙を読ませた。


優夏は目を見開いて、宇宙全体を探ったが、「ヤマのアンテナが届いてない場所…」と言って、苦笑いを浮かべた。


「だからね、声とかね、映像とかね、お手紙だったらいいんだってぇー…」と桜良が幼児のように言うと、「…ノリノリね…」と優夏は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「足りない部分は、動物を使って中継をしているのね…

 だから飛ぶことすらできないほどの、

 大宇宙の果て…」


優夏は言ってから大いに苦笑いを浮かべて、「宇宙の覇者じゃなくなっちゃうかも…」と優夏はさらに苦笑いを浮かべた。


しかし桜良は子供のような満面の笑みを浮かべていた。



… … … … … … … … … …



「…間違っていた、かもしれない…」と極は桜良からの手紙を読んで、苦笑いを浮かべた。


そして燕に手紙を渡すと、「…どこかに擦り付けたのかもしれない…」と燕も大いに苦笑いを浮かべた。


「運が良ければ、異空間からは出られない。

 だが、悪運が強ければ、もうすでに出てきているかもしれない…

 これは大いにまずい…」


極は真剣な眼をして言ったが、「その対応策を考えましょう」と燕は言って、極の右腕をしっかりと抱き締めた。


「…どうしても俺以外に俺が必要だ…

 結界で捕えないと安心はできなかったわけだ…

 だから一時的には逃がすしか方法はなかったのか…

 できれば、冷却…」


極の言葉に、「有効ね」と燕はすぐさま言った。


「手っ取り早いのは氷竜。

 術では、知らないわ…」


燕の言葉に、「大屋京馬様が冷却の術を使えるそうだ」と極は言って、大きな希望を持った。


燕は何度もうなづいて、「勇者だったわね?」と燕が聞くと、極は無言でうなづいた。


「あとは、星を氷河期にする。

 大気圏内を煙や水蒸気で充満させて、太陽からの熱の遮断…

 …ああ、そうか、時間はかかるがそれは簡単なことだった…」


極は自分の愚かさを大いに知った。


「星と太陽の位置に合わせて、

 大きな壁を作って星が常に影になるようにすればよかっただけ…

 納得だわ…

 どうやら、夢の少女に教えられちゃったわね…」


「…心を入れ替えよう…

 俺は愚かだった。

 しかし、もう二度と、愚かな行為は繰り返さない」


極と燕の会話を聞いていた仲間たちは、誰も何も言えなかった。


口を挟める話ではなかったからだ。


「…アリス先生を参謀に…」と極が言うと、「ミストガンね?」と燕は陽気に言うと、極はすぐにうなづいた。


「そうじゃないと、俺はまた愚かなことを繰り返すだろう…」


だが、極は桜良からの手紙を見て、「…字が異様にかわいい母ちゃん…」と言って大いに笑い転げた。


よって仲間の誰もが極に寄り添って、極の言葉の意味を知って、大いに笑った。



この話はミカエルの耳にも入ったが、極を慰める言葉もなかった。


星を破壊した結果、汚物をほかの場所に回しただけなのかもしれないのだ。


しかし、命令を出したのは軍であり、ミカエルだった。


さらには多くの星の王たちも賛同したことだった。


よって、極だけのせいではなかったことだけは、胸をなでおろしていた。


「そのあと、煌少佐は仲間たちと笑いあっていました」とマルカスが言うと、「この問題のどこが笑えるの?!」とミカエルが錯乱して叫ぶと、「私の息子だからこそです」とマルカスは大いに我が息子を褒めて、胸を張っていた。



「…ミストガン…」とアリス・ミストガンは言って、極に困惑の目を向けた。


「記憶の術はね、ミストガン姓を持つ選ばれた者は必ず持っているんだよ。

 だからアリス先生は、さらに多くのことを知っているって思うんだ。

 今回の作戦の件で、なんでもいいから、思い浮かんだことってない?」


「…空箱に閉じ込める…

 空箱ってなにーっ?!」


アリスが叫んで頭を抱え込むと、極は大いに苦笑いを浮かべたが、ふとあることに気付いて、「…これもできたはずだ…」と言って気功術を使って、その空箱を出した。


「これってね、収縮自在なんだ」と極は言って、箱を大きくしたり小さくしたりした。


「この箱は精神空間にあるんだよ。

 計算上、星って、四次元空間では一番大きいのリナクーター程度らしい。

 これは、悔しいなぁー…」


極は嘆いたが、そのヒントをくれたアリスは確実に使えると胸を張った。


「何らかの作戦がある時は、必ず会議に出て欲しいんだ。

 ここからはアリス先生の力がさらに重要になるはずだから」


極の力強い言葉に、「…なんだか、協力できそうなので、がんばりますぅー…」とアリスは頼りなげに言ってから、機嫌よくスキップを踏んで教室を出て行った。。


「…正解の回答がすっごく早かったわね…」と燕が眉を下げて言うと、「アリス先生の問題は積極性にあると思うから、きちんと指示を出すべきなんだろうなぁー…」と極みは言って大いに苦笑いを浮かべた。



学校が終わってから、極と燕は大神殿に飛んだ。


最近はめっきりと平和で、困ったことは起こっていないが、万が一を考えて宇宙船を外に出しているので、さらに安心感がある生活となっている。


極はマリーンに桜良からの手紙を読んでもらい、アリスの話もした。


「…頭脳労働者も、大勢必要ですわ…」とマリーンは言って手紙を置いてから、また手紙の文字を見て愉快そうに笑った。


「会える日が待ち遠しいほどです」と極は笑みを浮かべて言った。


「私も早く会いたぁーい!」という声が三人に聞こえた。


「こっちの声、聞こえてるの?!」と極が叫んだが、返事はなかった。


「それほど多くは語れないようだね…

 もしくはすっごいタイムラグがあるとか…

 母ちゃんは先読みして叫んだんだと思う」


「聞こえてるよっ!

 あっ! えっ?!」


桜良の声はぶつりと切れたように三人は感じた。


「…ヤマの持続力の限界、かも…」と極が言うと、「疲れ果てたのね…」と燕は眉を下げて言った。


「さらなる問題は、読んでいただいた通りです」と極が言うと、「ガイアは代理」とマリーンは薄笑みを浮かべたまま言った。


「本来は、リクタナリスがその地位にいるはずのようですが、

 力が復活できていないのでしょう。

 ですので、代理ではなくなるのは、

 いつになるのかわかったものではないのでしょう。

 それに、すぐに移行できるとは限らないとも思います。

 広大な大宇宙の群れなので、

 引き継ぎはかなり大変かと」


「…それは簡単に察しました…」とマリーンは穏やかに言った。


「あんた、今のこの時間が長ければ長い方がいいなんて考えてないわよね?」


燕が厳しい言葉と目をして聞くと、「能力者?!」とマリーンは叫んでから、愉快そうに陽気に笑った。


「…いえ、それは構わないのです…

 この場所も、私は好きですから」


「…それも言えるけどね…」と燕は言って、ティーカップに口をつけた。



「…ん?」と極は言って、マリーンを見入った。


マリーンは勘違いしたようで、大いにホホを赤らめた。


「マリーン様と、ガイアの魂…」と極がつぶやくと、マリーンも燕も目を見開いたのだが、「…まさか… マリーンはずっと代理のまま、かも…」と燕がつぶやいた。


「これは確認しておいた方がよさそうだ」


極は念話でラステリアを呼んだ。


ラステリアは極が創った獣用のリナ・クーターに乗ってやってきて、大いに機嫌がよかった。


「もう一度暗黒大陸に行って、

 ヤマに聞いてもらいたいことがあるんだ」


極がその内容を伝えると、「うん! わかった!」とラステリアは素晴らしい返事をして、空気を蹴るようにして飛んで行った。


「…もしも分離していたら、人道上元に戻せない可能性は大きい…」と極がつぶやくと、「自然じゃないもの… ひとりにふたつの魂…」と燕は眉を下げて言った。


「それほどに管理が難しいんだと思う…

 …あ、動物がアンテナ…」


極は言って少し考えて、翼のある黒いコアラに変身した。


すると、『うおっ?!』という、男子の子供のような声が聞こえた。


「…まさかだけど、ヤマ?」とコアラが聞くと、『…うわぁー… 楽々繋がっちゃったよぉー…』と子供の声が聞こえたが、大いに困惑がある。


「まさかつながるとは思わなかったんだけど…

 あ、もうすぐラステリアから連絡が行くと思うけど…」


『うん、事情を話すから、一旦切るよ』とヤマは機嫌よく言って念話を切った。


「…勇者のままじゃ繋がらなかったのね…」と燕は眉を下げて言った。


「オカメちゃんや、神獣でも繋がるかもよ?」とコアラが言うと、燕は獣人のオカメに変身した。


『あ、またつながった…

 いいような、悪いような…』


ヤマの言葉に、「行き来できるかもしれないんだね?」とコアラが聞くと、『まあね…』とヤマはさらに困惑気に答えた。


「聞きたいことは、リクタナリス…

 松崎拓生さんは魂を二つ持っていたんじゃないの?」


極の言葉に、『そこまで飛躍した考えがあるってことは、分離しちゃいけない魂だったんだぁー…』とヤマは大いに嘆いた。


「ちなみに、その魂を持っている人はそっちにいるんだよね?」


『エッちゃんの旦那さん』


ヤマの返答に、コアラは固まった。


「…リクタナリスは、自然界の神に、しばらくは戻れないだろうね…」


『しばらくどころか多分もう無理…』とヤマが嘆くように言うと、『ああっ!』とヤマが嘆くように叫ぶと、ひとりの女性がコアラから飛び出した。


「こられたぁ―――っ!!!」と桜良は満面の笑みを浮かべて両手を上げて、なぜだか踊り始めた。


コアラもオカメもマリーンも、目を見開いて桜良を見入っていた。


「…や、やあ…

 母ちゃん、いらっしゃい…」


コアラが大いに困惑してあいさつをすると、「うわぁー! かわいいっ!!」と桜良は叫んで、コアラを抱きしめた。


「…ヤマと、大切な話し中だったんだけど…

 本人が来たからもういいか…

 ヤマ、どうする?」


『つなぎっ放しでいいよ…

 もちろん、こっちに戻ってもらうし、

 自主的に戻るだろうから…』


「母ちゃんの旦那さんがいるからね…」とコアラが言うと、「あー…」と言って桜は消えたが、すぐに桜良が現れ、その隣に男性が立っていた。


「あ、今は変身を解けないので…

 煌極です」


コアラが挨拶すると、桜良とその夫のレスターも自己紹介をしてから挨拶をした。


「持ち帰ってもらいたいお話があるのです」


コアラが真剣な眼をして言って、極はふたつの魂について話をした。


桜良もレスターもショックを隠し切れずに、「…うかつでした…」とレスターは言ってコアラに頭を下げた。


「エッちゃん、一旦帰るよ。

 道は繋がったから、いつでも来られるから」


レスターの言葉に、「う、うん…」と桜良は大いに戸惑いながらもふたり同時に消えた。


「…レスターさんは表の方だと思う…

 リクタナリスは裏の方で、ガイアと同じ立場…」


コアラがつぶやくと、『かなり面倒になったね…』とヤマは困惑気に言った。


『春之介も気づいたけど、エッちゃんをすっごく気にしてるから、

 そっちには行かないって思う』


「…だけど、うかつなのはお互い様だよ…」


『森羅万象の件だね…

 だけどね、どんなことでも経験を積んでおくと、

 この先きっといいことがあるよ』


「うん、ミストガンもいたから助かってる。

 気功術の空箱」


極の言葉に、ヤマは黙り込んでしばらくしてから、『思い浮かばなかったぁー…』と大いに嘆いた。


「だからね、もう破壊的なことは考えないようにしたいんだ。

 それは最後の最後の手段で」


『うん、そうだね…

 でもね、考える時間もない時もあるから、

 失敗だとあとで気づいても、

 今のように元気でなきゃいけないと思うんだ』


「うん、大勢の仲間がいるから大丈夫だ」


「やっぱり、極以外はみんなヘタレ」とオカメが機嫌よく言った。


『あ、緑竜の人だね?』とヤマが聞くと、「極さんの妻ですぅー…」とオカメはホホを真っ赤にして自己紹介した。


『明るい人なんだぁー…

 それに、やっぱ、すごい人のようだ』


「おほほほほ…」とオカメは上品に笑った。


今日はこの程度にして、暇な時はコアラに変身すると伝えて、コアラは極に戻った。


「…いやぁー… 嵐のようだった…」と極は言ってマリーンを見ると、そのホホが大いに膨れていた。


「かわいいですね」と極が言うと、「あら、私ったら…」とマリーンは言って大いに照れていた。


「…蚊帳の外だったから、私だって怒るわ…」と燕はマリーンの心情に同情して言った。


極が全てを細かく語ると、「特に問題はございません」とマリーンは堂々と言った。


「戻れなくなる可能性もありますので、

 全てが平和になったと確信してから、

 あちらの世界に遠足に行くことにします」


極の言葉に、マリーンは薄笑みを浮かべてうなづいた。


「それに、母ちゃんとレスターさんの様子から察して、

 いい人は多いと確信しました」


「影がひとつもないほど真っ白だったわ」と燕は言って、笑みを浮かべた。


「マリーン様に問題がないのなら、

 リクタナリスには退場してもらいましょう。

 ガイアは反抗しそうですが、

 自然界は人間の事情に口を挟んでもらいたくないですね」


「…猪口才な…」とマリーンがうなってすぐに、「あら、申し訳ございません」とマリーンは涼しい顔をして謝った。


「ガイアはさすがに腹が立ったようだわ…」と燕は眉を下げて言った。


「あ、しまった…」と極は言ってから、「流石」と名を呼んだ。


流石は極の影から出てきて、「次回は探検に行ってくるよ」と言うと、三人は大いに笑った。


情報は多ければ多い方がいいので、情報収集は重要だ。


「だけどね、会話中は繋がっていたから、

 少しは情報を得られたんだけど、

 みんな、すっごく驚いてたよ?」


「電波も通ったわけだ…

 あ、これはもうどうでもいい…

 面白いニュース、ない?」


「最強のコアラ」と流石が言うと、「いいねいいね」と極は大いに明るく言った。


コアラの組手の映像を見て、「スピードとパワー… そして威嚇… という威厳、だね…」と極はつぶやいたが、それほど楽しくはないようだ。


「それほど鍛えることはないのかも」と極が言うと、「余裕の発言ね」と燕は陽気に言った。


「もしも、大屋京馬様がラステリアの魂の代わりを持てるのなら、

 同等だと思うけど、多分持てないと思う。

 その分、俺には余裕があるから、

 それほど脅威じゃない」


「だけど、本気じゃないわよ?」


「もちろん、それも加味したさ」


「ある程度以上の力を出した時、組み手でも中止させられるんだって」と流石が言うと、「怪我をするかもしれないから、それは当然だろうね」と極は言ってうなづいた。


このあとは、五大神が住む三つの星の観光巡りをして、このラステリアにないものを精査してから建設などをしようと、極は決めた。


「…この駄菓子は斬新だね…

 販売よりも、復興地で配る…

 ほんと、いい人ばかりだよ…」


極は大いに感心して言った。


情報としては目で見える範疇のものだったが、大いに勉強になったようで、極も燕も満足だった。


「随分と遠いけど、超新星爆発があったようだよ」


流石の言葉に、「汚名返上の時が来たのかもしれない」と極は真剣な目をして言った。


「燕さん、タンデムで天体観測に現地まで行かないか?」


極が真剣な眼をして言うと、「ええ、楽しそうだわ」と燕は言って、極の右腕を抱きしめた。


極は格納庫にあるリナ・クーターを呼び出して、マリーンに別れの挨拶をしてから、ラステリア星を飛び出した。


普通の船ならひと月ほどかかる場所まで、約30分で到着した。


わかっている星系などを縫うように、異空間航行を多用したので、この程度の時間でたどり着いたのだ。


「…残念、この辺りには魂がない…」と極は少し悔しそうに言った。


「この状態で魂があれば、確実に創造神ね」と燕はモニターを確認しながら言った。


しかし、リナクーターを移動させてしばらく飛び、隣の太陽系に飛んだ途端、「いた」と極は低い声で言った。


「だけど、相当慌てていたようね。

 どう考えても外に出られないわよ」


燕の言葉に、「このビッグマン星はハンマー星ほどあるからね、だけど何とかして…」と極は言ってからあることが思い浮かんだ。


「そうか、大地に立っていてはダメ…

 浮かんでいれば…

 さらには宇宙空間なら…」


「あら? 何の話?」


「神通力のオーラの話」と極は笑みを浮かべて言った。


「だけど、この星に飛び込んだ途端、

 竜の鎧でも押しつぶされちゃうわよ?

 58Gだわ…」


燕は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「諦めたくないなぁー…

 いい人になってもらいたいなぁー…

 まあ、そもそもの原因を知らなきゃ、

 また悪い人になるはずだから、

 その対策も重要だ。

 それはいい人にしてからの問題でいいだろう。

 まずはどうやっていい人にするかだね…」


「竜の鎧の肉体の変化は?

 巨大化できて、強度を上げられたら何とかなるかもよ?」


極は何度もうなづいて、「体高百メートル」と極が言うと、「あら、いいわね」と燕は笑みを浮かべて答えた。


「体高が半分ほどになりそうだが、

 できれば一瞬で戻って来たい。

 だがここで賭けはできない…」


「計算、終わったよ」と流石は言って、その結果を映像に出した。


「…はは、余裕だ…」と極は言って、リナ・クーターに大きな結界を張って、酸素発生装置を外に放った。


基本的には植物が使われていて、酸素と二酸化炭素が含まれているケースだ。


そして液体酸素と液体窒素を少量ずつ流し始めた。


数分後、「いい湯加減になった」と極は言って、リナ・クーターのハッチを開けた。


危険がある場合はハッチは開かないので、生物が外に出ても問題はない。


極は竜の鎧に変身して、燕はかなり小さめの緑竜に変身した。


ふたりが外に出てすぐに、『極力一瞬で戻ってくる』と竜の鎧は緑竜に念話を送った。


『念話は大丈夫なようよ?』と緑竜が答えると、『はは、確認してなかった… 失敗失敗』と竜の鎧は陽気に言ってから、『一瞬で戻る』と極はもう一度言って、その体を巨大化させた。


『百メートルどころじゃないわ』と緑竜は陽気に言った。


『じゃあ、帰りはこの姿で飛んで帰ろう』


竜の鎧は言ってから、神通力のオーラを纏った。


『計算通り! 行ける!』と竜の鎧は叫んでから、森羅万象の魂に飛び込んだ。


そして、その肉体が魂にたどり着いた途端、『緑竜に飛べ!』と強く念じると、竜の鎧は無傷で緑竜から飛び出した。


『おかえり、随分と早かったわ』と緑竜が言うと、『Gを感じなかった』と竜の鎧は答えた。


『あんた、聞こえるかい?』


竜の鎧が森羅万象の魂に向かって聞いたが、返答がない。


『意識を失ったようだ… 正確には魂内での混濁…』と竜の鎧は言って眉を下げた。


『では、経過観察ということで帰りましょう。

 そろそろ、夕食の時間だわ』


ふたりは言って帰路につきながら、監視用の小さなリナ・クーターを時折放ちながら、ラステリアに戻った。



極と燕が別荘に戻ると、リビングでの夕食は後半に差しかかっていた。


「どこ行ってたの?」とミカエルが聞くと、「現在、超話題のスポットです」と極は笑みを浮かべて答えた。


「…君、まだ未成年なんだよ?」とミカエルが少し怒ったように言うと、「ああ、スペースワンダーホテルは、特に興味はありません」と極は答えて、燕とともに席に着いた。


このホテルはかなりの高額を投資して、無重力体験ができる総合エリアがあって、かなりの人気スポットになっている。


「だったら、ラビットテイルパークかい?」


「幼児向けの遊園地じゃないですか…

 大人のカップルなんて、ほとんどいませんよ…」


「どんな様子だった?」とマルカスが聞くと、「磔になっていて助かったよ」と極は笑みを浮かべて機嫌よく答えると、「それは何より」とマルカスは笑みを浮かべて答えた。


「みんなにわかるように話してやんな!」と幸恵は言って、極と燕に料理を配膳した。


極はまず料理を一口食べてから笑みを浮かべて、「超新星爆発があったとなりの太陽系のビッグマン星に、森羅万象が突っ込んでいた」と極が言うと、マルカスは笑みを浮かべてうなづいて、それ以外の者たちは目を見開いていた。


「ホワイトホールはほぼ収束していたんだけど、

 勢いよく飛び出しすぎて、ビックマンの引力圏に捕らわれたらしい。

 何か物体にしがみついていないと、

 自然に昇天するらしいから、

 欲張って大きなものにでもしがみついたんじゃないの?」


「考える時間は大いにありそうだ」というマルカスの言葉に、「一応、効き目はわからないけど、神通力のオーラを纏って、魂に飛び込んでおいた」と極は答えた。


誰もが納得の笑みを浮かべていたが、「…よく戻れたもんだ… おまえ、偽物じゃないのか?」というマルカスの言葉に、「十分計算したよ」と極は機嫌よく答えた。


「…あんな大きな星に飛び込んで、

 出られるわけがないじゃないか…」


ミカエルが目を見開いて言うと、「体高300メートル、重量330トンだったら、ほぼ問題なかったよ」と極は笑みを浮かべて言った。


「まさにビッグマンだ!」とマルカスは叫んで愉快そうに笑った。


「リナ・クーターだと速度は大丈夫だけど、その前に重力で潰されるからね。

 竜の鎧をまとって宇宙空間に出てから巨大化して、神通力のオーラを纏った。

 そのあとに森羅万象のヤツの魂に飛び込んで、

 外に出ると同時に、緑竜の魂に飛び込んだんだよ」


「ちょっとだけ熱かったわよ」と燕は笑みを浮かべて答えた。


「どんな感じだった?」


「天使たちの時よりも柔らかいって感じたわ。

 森羅万象は、正気に戻ったって思う」


「だけど意識がなかったからね…

 まあ、少しは事情は分かったけどね」


「ひねくれすぎて、意地になっていたただけじゃないのかい?」とマルカスが聞くと、「虫への復讐心も感じたんだよ」と極は神妙な顔をして言った。


「人間への進化は正の感情。

 だが、やっていたことはイジメのようなもの、か…」


マルカスの言葉に、極は笑みを浮かべてうなづいた。


「今頃、でっかい蝶になってるヤツらもいるかもね」


極の言葉に、「…蝶に変態する昆虫だったのか…」とジャックが目を見開いて言った。


「ここいらにいる昆虫よりは長生きでね。

 羽以外の本体は、人間そのもの。

 知能を持つ蝶だったようだよ。

 だからこそ、全員助けたかったんだ」


「ヤツがそれを知らないわけがない」というマルカスの言葉に、「あの星では変態できない理由があったんだ」と極は少し自慢げに言った。


「食料かい?」とマルカスが聞くと、「どうやらそうらしい」と極は同意した。


「トラスト星には花が咲いていなかった。

 果物の樹木も確認できなかった。

 食事になる甘いものがないと、変態できないんじゃないのかなぁー…」


極の言葉に、マルカスは納得してうなづいた。


「やあ、起きたかい?」と極は言ってから、慌てて料理を平らげた。


「そりゃ出られないさ。

 あんたがいい人だって認められるまではね。

 ははは! 悪夢じゃないさ、全て現実だよ。

 ちなみにあの昆虫たちは蝶人間になったと思う。

 だから全員、別の星に移したから。

 …嘘じゃないさ。

 まだ確認に行ってないから明日にでも行くよ。

 俺って少々忙しくしているからね。

 だけど、話ができるだけでも助かった。

 動けない?

 あまり抵抗してもいいことはないから、

 大人しくしておいた方がいい。

 じゃあ、詳しいことはまた明日にでも。

 …ああ、今から10時間後だ。

 俺には生活というものがあるから、

 その程度は我慢しなよ。

 じゃあな」


極は念話を切ってから、「ということらしい」と極が言うと、ほぼ事情は察したようで、誰もがうなづいていた。


「…呼吸の必要もないわけだ…」とマルカスが言うと、「まずはね、一番に人間の肉体を捨てることから始めるからね」と極は言った。


「ある意味、星の創造神以上の存在と言ってもいいほどだわ。

 だけど、術の類は肉体の代わりに物体を纏うことだけ。

 この情報は、多分、残像思念のようなものだわ」


「ほかには?」と極が聞くと、「退屈」と燕は答えた。


「…暇つぶしにあれほどのことをやられたらたまったもんじゃない…」とミカエルは大いに嘆いた。


「ある意味、今は退屈じゃないはずだよ。

 会話もしたことで、生きている実感がわいていると思う。

 ある程度は強制も必要だろう。

 だけど明日になって戻っていたら、一からやり直しだなぁー…」


極は眉を下げて言った。


「ちなみに、男なの女なの?

 私の予想では女…」


燕が極をにらむと、「…大正解…」と極は異様に小さな声で答えた。



「あ、忙し過ぎてもう忘れてた」と極は言って、黒いコアラに変身した。


『こらぁー!! エッちゃん!!』といきなりヤマが叫んだと同時に、桜良とレスターがコアラから飛び出してきた。


極の仲間たちは大いに驚いたが、レスターが笑みを浮かべて頭を下げると、誰もが頭を下げ返した。


「拓生君もゲッタ君もゲイル君も嘆いていたわ!」と桜良は機嫌よく明るい声で報告した。


コアラは極に戻って、「あ、母ちゃん、胸、なくなったね」と聞くと、「…経験値蓄積装置ぃー…」と桜良は胸を両腕で抱きしめて恥ずかしそうにつぶやいた。


「燕さんもそうなの?」


「違うわよ!!」と燕が大いに怒って叫ぶと、極は愉快そうに、「ごめんごめん!」と笑いながら謝った。


誰もが笑いたいところだったが、さらに燕の機嫌を損ねることにもなるので、ここは大いに我慢した。


「自然界の神のことは、

 代理が問題ないと太鼓判を押したから。

 このままでいいそうだよ」


極が明るく言うと、「…私の欲が、この結果を招いてしまったようなものです…」とレスターは消え入るように言って頭を下げた。


「拓生君も未熟だったからって、言ってたよ?!」と桜良は力強く言った。


「…もちろん、それは否めないが…」とレスターは渋々答えた。


「実は、俺の見解では、本来は表裏逆のはずなのです。

 レスターさんが本来の表で、リクタナリスが裏。

 それがいつの間にか入れ替わってしまった。

 一番の悪は、裏だった者の欲だと思います。

 ですが今更、それを元に戻すのも問題だと思います。

 リクタナリスもコリスナー様も、

 更に嘆かれることでしょうね。

 この話はしてみる価値はあるでしょう。

 リクタナリスの決意を見てみたいと思っているのです」


極がレスターに向けて言うと、「…だから私は、積極性が足りないのか…」とレスターは大いに嘆いた。


「レスターさんは自然界の神になって、私と一緒にここで暮らすのっ!」と桜良は満面の笑みを浮かべて叫んだ。


「母ちゃん、それほど急がない」


極が戒めると、「…うう… 息子ちゃんに叱られちゃったぁー…」と桜良がレスターに言いつけると、極は愉快そうに笑った。


「戻れなくなるかもしれないけど、ここで暮らせば?」と極が言うと、「…それも大問題ぃー…」と桜良は真面目な顔をして言った。


「まあ、方法はいくらでもあるんだけどね」と極は言って、縁側にある扉に指をさした。


「…どこでも扉があったぁー…」と桜良が言って、感無量になったようで泣いた。


「どこにでも行けるわけじゃないけどね…」と極は言って、扉をふたつ出した。


「じゃ、テストで」と極は言って、扉をひとつレスターに渡した。


「私にもぉー…」と桜良が言うと、「ふたつ持って行ったら意味ないじゃん!」と極は叫んで笑い転げた。


極がコアラに変身すると、「あ、つながった」と言ったとたんに、レスターと桜良は消えて、ここにある扉から、すぐさまふたりが出てきた。


コアラは極に戻って、「はい成功」と極は言って、桜良とレスターに握手をした。


極はコアラに戻って、「また連絡するよ」というと、『できれば使用許可をふたりだけにして欲しいんだけど…』とヤマが気弱そうに言うと、「ヤマの願いはかなえるよ」とコアラは堂々と答えた。


「だけど変更がある時は、ヤマの申請で叶うということでもいいよ」


『うん、それがよさそうだね、本当にありがと』とヤマは礼を言って念話を切った。


コアラは極に戻って、「じゃ、訓練でもする?」と極が言うと、桜良は開いた口がふさがらなかった。



桜良は、―― 有言実行なのぉ―――っ!!! ―― と思いながら、レスターと二人三脚で壁を登っていく。


「…むむっ! できる!」と極がうなると、周りにいる誰もが悪い予感しかしなかった。


「桜良さんたちのマネをして、二人一組で登れ!

 マスターがいる者は、パートナーの絆を切れ!」


さすがに第一修練場では厳しいと思ったが、鬼教官に従わないわけにはいかなかった。


もちろん極はただの監視役ではなく、燕と二人三脚で壁を登っていく。


「あっちもかなり厳しいようだ」と極は笑みを浮かべて言うと、「ベストバートナーは私たち!」と燕はプライドを持って、桜良たちを追いかける。


そして極と燕はほぼ無心になって、全ての修練場を二人三脚のままで走破した。


ふたりは大いに感動して、空に四本の腕が力強く上がっていた。


―― 誰も追いつけないわぁー… ―― と今度は桜良が第三修練場の高台で大いに思い知っていた。


「極! もう一度よ!」と燕が高揚感を上げて叫ぶと、「おう!」と極は威勢よく返事をして、二人三脚で第一修練場に走って行った。


「…あれほどじゃあねえと、大成しねえ!」とジャックは大いに強がって言って、フランクと息を合わせて、第四修練場の太い丸太の頂点を蹴った。


そして組み手場でも二人三脚で大勢の者たちを打ち倒す。


まさにペストパートナーと言わんばかりで、誰もが恐怖し始めていた。


「少し大人の、ゲッタ君とメルティーちゃんのようだ」とレスターは笑みを浮かべて言うと、「大人具合は春之介君と優夏ちゃんねっ!」と桜良は明るい声で言った。


「ここに来てよかった…

 そして、それほど甘くない場所でもある。

 修練場は妬みや欲が渦巻いている。

 私たちは甘えていたのではないだろうか…」


「少し前はもっとひどかったって思うの」と桜良は言って、笑みを浮かべて、逞しい極と桜良を眺めていた。


「母ちゃん! 父ちゃん!」と極が叫ぶと、「おう!」とレスターが勇ましく叫ぶと、桜良はホホを赤らめた。


これは今までにないことだった。


―― ここで暮らした方が絶対いいっ!! ―― と桜良は思い、ここはレスターにすべて従い、少々甘い極と燕の攻撃に対応した。



極はさらに容赦なく、射撃訓練場に行って鬼教官となり、パートナーたちを確実に眠らせた。


「…獣人たちの全てのランクが半端ないっ!」と桜良は大いに叫んだ。


「…こりゃ… 春之介君は悔しがるだろうなぁー…

 獣人や動物が好きなだけではこうはならない…

 まさに勇者の鍛え方と愛し方なんだろう…

 できれば、源一君だけでもここに来させた方がいい…」


レスターが小声でうなるように言うと、「源一様、確認したって!」と桜良から影のマルマルが顔だけを出して報告した。


「でもね、ヤマ様がダメだって…」とマルマルは悲し気に言った。


「…約束は守んなきゃ…

 だから、精神間転送では飛べないようにしちゃったかもぉー…」


「さすが、物理的にも大きな神…

 信用問題にもつながるから、

 自分の欲だけで動くわけにはいかない…」


すると桜良が大いに戸惑い始めたが、「エッちゃんは特例だったはずだから、気にしなくていいんだ」というレスターのやさしい言葉に、「…ママだから…」と桜良は笑みを浮かべて、鬼教官の極を見入った。


そして、「…あれほど厳しい子じゃなかった…」と桜良がつぶやくと、「だけど、真面目さと真剣さは変わらないんだね?」とレスターが聞くと、「…うん… いい経験を随分と積んだって思うの…」と桜良は笑みを浮かべて言った。


「素晴らしい希望の子を産んだね」とレスターがやさしい言葉を投げかけると、「…ゴーちゃんも連れてきたいなぁー…」と桜良は眉を下げて言った。


「ここは俺が進言する!」とまさにレスターは父の威厳をもって、極の前に立って話すと、「…兄がいたぁー…」と極はかなり興味を持って、レスターにヤマを説得するように頼んだ。


そして極は兄になる剛毅だけでいいのかとレスターと桜良に聞くと、ひとりだけと限定するのなら剛毅だけと答えた。


剛毅はゲッタのいる部隊の司令官なので、得た情報はゲッタにも正確に伝わる。


大勢でやって来ても、それほどいいことがあるとは思えないとレスターが答えたのだ。


それは雄々しき獣人たちの存在だ。


しかも悪魔の眷属ではないのにハイレベルなサポーターでブースターでもある。


自由だからこそ悪魔の眷属よりも強い存在なので、まずは剛毅が正しく判断して、部下たちのしつけをするべきと熱く語った。


桜良とレスターは別荘に戻ってから、アニマール星に飛んだ。



十数分後、万有剛毅は極と握手をしていた。


「顔、なんとなく似てるよね?」と極は嬉しそうに気さくに剛毅に言った。


今世では全くの無関係なので、似ているとすれば偶然でしかない。


「エッちゃんの影響が大きいと、ボクは確信しています」と剛毅が笑みを浮かべて言うと、「母ちゃんはやっぱ、母ちゃんだ」と極は笑みを浮かべて桜良を見た。


「…普段はすっごく穏やかな春之介君が怒っちゃったのぉー…

 春之介君も、私の子供だったことがあったからぁー…」


「じゃ、精神修行だって、八丁畷様に伝えておいて欲しい」と極が笑みを浮かべて想いを伝えると、剛毅は素晴らしい弟に笑みを向けていた。


剛毅は修練場で様々な体験をしただけで、その目に真剣みが帯びていた。


そんな兄に、極は何も言わずに笑みを向けているだけだ。


そして、二回目の夕食が終わってすぐに、剛毅だけはアニマールに戻って行った。


「…根本の性格は父ちゃんによく似ている…」と極はレスターに笑みを浮かべて言った。


まさに極の言葉は桜良にとって大いなる誉め言葉だったので、陽気に喜んで、さらには子供のように飛び跳ねている。


「…いつの間にか胸が膨れ上がってる…」と極が眉を下げてつぶやくと、「はいっ!」と桜が叫ぶと、ふくよかだったものが一瞬にして消えた。


「…ある意味、便利だわぁー…」と燕は言ってまじまじと見てから、ついには桜良の胸に触れ始めた。


「…再現は厳しいかなぁー…」と燕が言うと、極が燕の手首をつかんだ。


「ああ、これだったら、こうしてこうだ」と極が言うと、「…うう… なぜ理解できたのかが意味不明!」と燕は叫んでから、自身の体に施術をした。


「マリーン様や天使たちのためだったことは知っていたから」と極が言うと、「見破られていて当然だわ」と燕は笑みを浮かべて言った。


もちろんそれは異性からの好奇の視線にある。


天使は基本全員女性なので、男性を刺激するような肉体であってはならない。


よって、魔法道具の天使服のように、一般の服はワンピースで、ベルトはつけずに体のラインがわからないように工夫されている。


燕はその風習に乗っ取ることに決めて、胸を目立たないようにした人間の肉体の構築を施したのだ。


「…修練場や戦場に行ったら確実に変化するから気をつけとかなきゃ…」と燕は言って笑みを浮かべた。



「あたし… ここで協力できることって…」と雰囲気の変わった桜良が極に困惑の笑みを向けて聞くと、「今は食器の後片付けだね」と極が答えると、「…慎重に頑張るぅー…」と桜良は言って、食器を積んでから、厨房に向かって走って行った。


「桜良は実は、大物の建築物が得意で、

 大いにやる気になるのです。

 小さなものは、誰かのためになることであれば、

 奮起して素晴らしい作品を作り上げます。

 ですがこれは罠のようなもので、

 気に入らないことをあまりしてこなかったという欠点があります」


レスターの言葉に、極は大いに喜んで、何度もうなづいた。


「では、得意なことをさらに極めるように伝えます。

 そうすれば、気乗りのしないものにも変化が現れるかもしれませんから」


極の言葉に、「…戦闘方法の志と同等に…」とレスターがつぶやくと、「嫌なことを押し付けられると、さらに嫌いになるだけですから」と極は言った。


そして、「今のような日常生活の手伝いなどは広い目で見ます」とさらに言った。


「…そうだ、それが大いに欠けていたのかもしれない…

 食ったら食いっぱなしだった…

 メイド制度も考え直す必要がある…」


「あまり賛同できないですね。

 ですが雇った以上は責任があるので、

 何らかの協力者にする必要もあるでしょう」


レスターは少し考えて、「ほぼ全員が、タレント事務所からの出向なのです」と話すと、「出向停止でも構わないと思います、それが世間というものだと思いますから」と極は何の感情も乗せずに言った。


「もちろん、個人的に雇ってもらいたいのであれば、

 星の復興に関する仕事にも従事するべきでしょう。

 普通の人間には無理と思い知らせることも重要だと思うのです。

 この先は、本人の気持ち次第でしょう」


「…だから、ここにいるみんなは逞しい…

 肉体的にも精神的にも…

 日常生活も修行の場だ…」


「その辺りは、その場のボスが判断することになっています。

 特に獣人たちは、俺のここでの母ちゃんの僕のようなものなので。

 ですので、それほど口は出さないのです」


「…役割分担も重要だ…」とレスターは言って何度もうなづいた。


「あんたは大食いなんだから、しっかりと働きな!」と幸恵の陽気な声が聞こえた。


「早速指導が入りましたね」と極が言うと、「ありがたいことだ」とレスターは笑みを浮かべて言った。



翌朝、極は起きて早々に森羅万象に念話をしたが、応答がない。


「なに拗ねてんだ?」と極が言うと、森羅万象は、『…すねてない… よかった…』と言ったとたんに、極の頭の中にストーリーが沸いて出た。


「あんたの師匠だが」と言ったとたんに森羅万象から悲壮感が流れた。


「いつの間にかいなくなっていて、あんたはトラスト星に閉じこめられた。

 そうだよな?」


『だけど、きっと、戻って来てくれる…』と森羅万象は希望を持って答えた。


「はっきり言うがそれはない。

 その理由はあるんだよ。

 あんたはどう考えても、

 森羅万象を持てるほどの修行を積んでいない。

 それは師匠の力で引き揚げられただけだ。

 実際の修行はほんの数年だったはずだ」


『三年がそんなに短いの?!』と森羅万象が立腹して叫ぶと、「最短でもその百倍の時間が必要だ」という極の言葉に、『…ボクが、優秀だったから…』とつぶやくと、「優秀なヤツはどんなことがあってもその言葉を使わないものだ」と言われ、森羅万象は黙り込んだ。


「あんたは人間としても修行を終えていない。

 あんたの師匠は危険だから、隔離する必要がある。

 あんたは生きているが、

 きっと何人も修行中という理由として殺しているはずだ。

 あんたが生きているのは、

 幸運でもあり不幸だ」


極の言葉を聞いて、森羅万象は大いに悩み始めた。


「それにあんた、気功術って知ってるか?

 この念話も、気功術を使ってやっているんだ。

 森羅万象の使い手は、

 まずは気功術師になることから始めることが重要だからな」


『…こんなこと、ボクにはできない…』


「本来、気功術は肉体がないとできない術だが、

 念話だけは残されると聞いている。

 あんたはそれが使えないようだから、

 色々と確信したんだよ。

 更に実例で言うと、真の修業を積んだ者たちは全員、

 誰が見ても楽しいことしかしないんだ。

 すなわち、子供のように時間を忘れて遊ぶんだよ。

 本当に体験したかったものは、

 多くの時間を笑みを浮かべて楽しく過ごすことだけにあったんだ。

 師匠にそんな指導あったのか?」


『…聞いてない…

 どうすれば肉体を切り離して、

 永遠の命を得るかだけ…』


「俺はあんたをそれほど信用できなくなった。

 あんたも雑音に惑わされずに考えたいこともあるだろう。

 また時間を置くが、それでもいいか?」


『君の生活の邪魔になるのなら、

 それも考えてそうする…』


「そうか、わかった…

 次は夕方にでも…

 今から十時間後に連絡する」


『…うん、待ってる…』


極が念話を終えると、全員が流石を見ていた。


「はは、さすが流石だ!」と極は陽気に叫んで、流石の頭をなでた。


念話の内容を全員にわかるように映像を宙に浮かべて、テロップとして出していたからだ。


「…内緒話できないぃー…」と燕が嘆くと、「極様の後ほどの説明の時間を省いただけですから」と流石は笑みを浮かべて燕に答えた。


「流石は余計なことはまずしない。

 だけど、それも、ヒューマノイドの悲しい性だ」


極の慈愛のこもった言葉に、「いえ、そうおっしゃってくださる極様の影でいられてよかったと中央処理装置の奥底にまで感じています!」と流石は笑みを浮かべて、そして口調を変えて答えた。


「あはは、そお? ありがと…」と極は照れくさそうに言って、また流石の頭をなでた。


「森羅万象、捕まえちゃった?!」と桜良が目を見開いて言うと、「あ、話してなかったっけ?」と極が聞くと、「…まさかだったぁー…」と桜良はレスターを見てつぶやいた。


「どうやらお忙しい時に来てしまったようです。

 今回はこの辺りでお暇させていただきます」


レスターは丁寧にあいさつをして極とその仲間たちに頭を下げて、かなり嫌がっている桜良の腕をつかんで扉をくぐって行った。


「…それほど忙しいわけでもないんだけど…」と極が苦笑いを浮かべて言うと、「エッちゃんのためよ」と燕は涼しい顔をして言った。


「…母ちゃんって、ほんと子供だからね…

 だけど優しくていい人には違いない」


「大いに好感は持てるわね。

 ただの人間のはずなのに、

 バックボーンに神がいるから、

 能力者にしか見えない」


「…なかなか特殊な母ちゃんだ…」と極は苦笑いを浮かべて言った。



極と燕は半分デート気分で、リナ・クーターに乗り込んで、名のない星の大気圏に飛び込んだ。


この星は未開拓で、外部からまだ誰も足を踏み入れていない星だ。


このような好条件の星がごろごろとあるわけではないので、極にとっては幸運だった。


しかし探索していて似たような条件の星はいくつも発見していて、文明文化がそれほど発達していない星が多くある銀河も発見していた。


「…マジ、蝶人間…」と燕は流石が出している映像を見入って言った。


「幼虫の時とはまるで別のような変態だけど、

 昆虫の場合はそれが普通だからね」


「だけどあの一帯は手を入れたのね?」と燕は振り返ってその場所に指をさして言った。


「まずは過ごしやすいようにと思ってね。

 でも、まだまだ幼虫はいるね」


しかし離れているとその姿の確認はできない。


極力暗い場所がいいようで、今は背丈のある藪の中でうごめいて、根菜などを食べている。


それとは一転して、蝶になるとまさに華やかで、まるで舞踏会会場のようだ。


「…格差社会…」


「…そう見えるね…」


ふたりはこの場から退いて、リナ・クーターに乗り込んで、大気圏を脱出した。



昼食時になったので、リナ・クーターを格納庫に収納してから、食堂に行くと、仲間たちは真面目に修練を終えて、続々とやってきた。


「今のこの平和なひと時を、

 十分にかみしめながら食事をしよう」


極の言葉に、誰もが笑みを浮かべて胸を張って拳を当てた。


「というわけで、俺と燕さんはデートがてらに、

 トラスト星から移住させた住人の様子を見てきた」


流石がその映像を宙に浮かべると、「おー…」と誰もが感嘆の声を上げたが、叢には予想した通りの不気味な昆虫がいたので、誰もが眉をひそめた。


「生まれてすぐに成人のようで、

 言葉も使えるようだ。

 映像でははっきりしないけど、

 大きいもので、羽の大きさは1メートル。

 人間の姿の部分は80センチもある。

 ああ、流石、ありがとう」


流石は平面の映像から立体映像に切り替えた。


「…おお、すげえ…」とジャックは大いに感動して、手を伸ばして映像でしかないと確認した。


「推定で10年以上は生きるはずだ。

 やはり羽が命だから、

 一番先にガタが来るようで、そこから算出したが、

 手足はあるので、生きていくことは可能なのかもしれない。

 接触はしない方がいいと思って、

 撮影だけさせてもらった。

 人間生きていれば、

 こういった奇跡のような種族にも出会うこともあるんだな」


極が解説しているうちに食事の配膳が終わって、幸恵が映像を見入って笑みを浮かべている。


気味の悪い虫ではないので、ここはごく一般的な態度だ。


「…これってどこにいるの?」といつの間にかここにいたミカエルが極に聞いた。


「話すわけがありません。

 もちろん、

 現在の軍の宇宙地図には記されてはいない遠い場所ですよ。

 さらに、宇宙港にも今回の件はデータの公表はしていませんので、

 俺と燕さんしか知らない場所です」


「だけどほかの星の人が見つけるかもしれないじゃないか…」


ミカエルの常識的な言葉に、「隠してあるので見つかりません」と極が言うと、燕がくすくすと笑った。


「できれば長い時を優雅に過ごしてもらおうと思ったのです。

 もちろん、マリーン様は大いに喜んでおられましたが?」


極の最終兵器に、ミカエルは何も言えなくなっていた。


「極ですら接触しないことに決めたの。

 繊細な生物に決まってるじゃない」


燕は言って、ミカエルにあるものを渡すと、「ひぃ―――っ!!!」と叫んで腰を抜かした。


もちろん、この蝶の幼虫の模型だ。


燕はけらけらと愉快そうに明るく笑っている。


「こらオカメッ!!」とかなり離れた場所で幸恵が叫んだ。


近くにいたはずなのだが、危険を察知して素早く逃げていた。


「はいはい」と燕は言って、模型を極に渡すと、極は手品のようにして模型を消した。


「…ぜってえ、俺の背中とかに入れやがる…」とジャックが極をにらんで言うと、「いや、ストックじゃなくて材料に戻したからもうないぞ」と極が言うと、「…材料に、戻す?」とジャックは大いに不思議そうな顔をして聞いた。


「実際に混沌の球を使えるようにならないと理解に苦しむはずだ。

 俺が続々とものを出している製造場所は、

 魂の中にある混沌の球なんだよ。

 これは勇者になればよくわかる。

 能力者でも、ある程度は理解できているかもしれないね。

 特に技術班所属」


技術班の軍人は、宇宙船の操縦や調査、確認作業を請け負っている者が5人いる。


時間のある時はもちろん、修練場で体を鍛え、時間のない時でも異空間部屋で技術系の勉強に勤しんでいる。


「もしできるようになっても、イメージングが重要だから、

 パートナーや悪魔の眷属に頼んで、

 射撃訓練場で鍛えることが得策だ。

 できれば数人は、俺の製造仲間が欲しいほどなんだ。

 何か役に立つもの、平和に誘えるものを大量に作り出したいからな。

 まだまだゴミ問題も解決していないから」


極は言って、大爆笑プルプルボールを出してテーブルの上に置くと、燕が操り始めて、食事どころではなくなっていた。


「…このボールを配布したいほどなのにね…

 強盗事件とかに使われそうで嫌だわ…」


笑い終えた仲間たちは、燕の言った通りだと思ってうなづいていた。


そしてタルタロス軍の周りには欲しがっている軍人が大勢いたが、燕の話を聞いて、うなだれてため息をついた。


しかし極は素早くある感情を察知して、『治療で使うことになりそうだ』と燕に念話を送った。


『ほぼわかってるけど、事情を聞いて渡しておくわ』と燕は言って、プルプルボールをポケットに入れて、うまそうにして昼食を平らげた。



昼食を終えてしばらくしたのち、燕が食堂から消えていた。


今は小鳥の姿になって、対象者の肩の上にいる。


考え事をしているようで、全くオカメの存在に気付いていない。


昼休憩は終わっていないようで、対象者は自室に戻った。


「話くらいは聞くわよ」とオカメが言うと、総務部会計課の田島加奈子は大いに驚いたが声は発せずに背筋が伸びていた。


オカメ飛び上がってから燕に変身して、「家族に、感情のない子がいるんじゃないの?」と燕が聞くと、加奈子は目を見開いて何度もうなづいた。


「基本的には脳や感情の病気のことが多いけど、

 手術をやっても投薬をしても効果がなかった。

 根本的な原因はわかってるの?」


加奈子はうなだれたまま何も言わなかった。


「いたいけな少女のデリケートな部分ね」と燕が言うと、加奈子は小さくうなづいた。


燕は大爆笑プルプルボールを加奈子に渡した。


「外に出すのはこれだけ、

 ニュースにでもなったらあんたのせいよ」


燕の厳しい言葉に、「…ありがとうございます、大佐…」と加奈子は涙を流して礼を言ってから、プルプルボールを受け取った。


「効果があってもなくても返してよ。

 あいまいにすると本当にいろんな意味で危険だから。

 だけど、極が何か細工をしているはずから、

 問題はないと思うけどね」


燕は言いたいことを言ってから、加奈子の部屋を出た。


しばらくしてから、加奈子の泣き笑いの声を聴いてから、燕は小鳥に変身して飛んだ。



極と燕は、午後は教卓訓練の場にいた。


誰もが、―― 何をしにここに… ―― と確実に思っていて、講義に集中できない。


もちろん、その中にいて気にもしない者を探していたのだ。


『残念だね、該当者なし』と極が念話で燕に伝えると、『…これだけいてゼロはないはわぁー…』と燕は大いに嘆いた。


ふたりが廊下に出ると、教師のサポートなのか、コピー用紙を山ほど抱えた総務部の男子がやって来て、「敬礼、省略いたします」と涼やかに言って、講義室に入って言った。


「来てみるもんだ」と極が言うと、「アリスちゃんの知り合いかしら?」と燕が言った。


「たぶん、ライバル視していたはずだけど、

 今は学校の先生だからね」


極は今日は学校をさぼっているのだが、その甲斐があったと思って、ロック・サンダン軍曹の顔と名前を新たに覚え込んでいた。



極と燕は様々な場所を徘徊していたが、夕食の少し前に、修練場の見晴らしのいい場所に座った。


そして極は、森羅万象に念話をした。


「どうだい、さらに落ち着いたかい」と極が念話を送ると、『あ、また約束を守ってくれた』と少し涙声で返事が聞こえた。


「どんな場合でも誰にでも誠意は重要だ。

 特に君は面倒な存在だが利用価値は大きい。

 だが、そこから出すにしても、

 危険すぎて誰もが反対するはずだ。

 だから今のようにある程度縛り付けて、

 コミュニケーションを取ろうと思っていたんだ。

 だが、移動はできるし自由はある。

 この話に乗ってみないか?」


森羅万象は黙り込んだ。


しかし、全く動けないよりはマシと少し希望が湧いていたのだが、『イジメられない?』と聞いてきたので、極も燕も大いに笑った。


「人の立場に立って考えることもわかっているようだし、

 悪夢のような経験を嫌がっていた。

 今の君はそれほど危険じゃないと思っていたから、

 時間をかけようと思っていただけなんだ。

 悪いヤツなら、時間をあければ確実に怒り出す。

 そして自分の存在理由と利用価値を饒舌に話し、

 何とかしてその場から抜け出そうと画策する。

 君には全くそれを感じない。

 だからもし、君が俺たちにとって何か都合のよくないことをした時、

 責任を取るのは君じゃなく俺だ。

 もちろん、君だってただでは済まないが、

 君の体は俺が縛っているようなものだから、

 それほどひどいことにはならないだろう」


極の言葉に、『…今まで、お師匠様… あの人とした会話と、君とした会話が同じほどの長さだって気づいたよ…』と森羅万象は感慨深げに言った。


「まだまだ話してやるが、俺は少々急がしいから、

 君は俺以外の者に預ける。

 今の状況よりもずっといいから、

 期待しておけばいいよ」


『…うん、忙しいのにごめんね…』と森羅万象が謝った。


「じゃあまずは、自己紹介をしてもらおうか」と極は満面の笑みを浮かべて聞いた。



「うふふ… つっかまえたっ!」と果林は陽気に言って、小人でしかないリカ・サンドラをやさしく両手でつかんで、肩の上に機嫌よく乗せた。


「体の具合はどうだい?」と極が聞くと、『…なんだか新鮮ー…』とリカはかなり戸惑いながら言った。


「リカにとってそれほど自由はないように思うだろうが、

 動けるし遊べるし、笑うことだって普通にできて、

 体の感覚もあるはずだ。

 調子が悪い時はなんでも言って欲しい」


『ううん… 不満なんて何もない。

 それに、小さな子供たちの歓迎する感情がうれしい…』


この中で一番小さいリカは涙声で言って、果林の首に抱きついた。


「言っとくが、着せ替え人形じゃないからな」と極が果林に釘を刺すと、「はいぃー…」と答えてうなだれた。


着せ替え人形としても楽しもうなどと果林は画策していたようだが、「それでもいいの、恥ずかしくない様にしてくれたら…」とリカが恥ずかしそうに言うと、「お洋服、たくさんあるよ!」と果林はノリノリで言って、子供たちを連れて子供部屋に向かって走って行った。


「…いい子、じゃあねえかぁー…」とジャックは声を震わせながら、大いに強がって言った。


この感情がごく自然でもある。


「これがバレたら俺はクビ」と極が言うと、燕は愉快そうに笑った。


「ミカエルは言っていたわ。

 極がどこに所属していようが、協力者でしかありえない。

 その決意を見せてもらおうじゃない」


「…ま、大いに嘆くことはもうわかっているけどね…」と極は眉を下げて言った。


「だけどあれもロボットだなんて…」と燕はまさに信じられないと思いながらも納得するしかなかった。


「小さいがまさに究極のロボットで、

 今はできないが、人体に潜り込むことも可能だ。

 しいて言えば、医療ロボ。

 小さいが、人間以上に体感できるから、

 人間に戻す第一歩のようなものだよ。

 本人が気に入れば、あの姿のままで、協力してもらってもかまわないし。

 …機嫌よく遊んでいるようだ」


極は子供部屋を見て笑みを浮かべて言った。


「人間的には、果林と同年齢なのね…

 果林よりもリカの方が随分と落ち着いてはいるけど…」


燕が眉を下げて言うと、「それぞれがしのぎあって成長すればいいさ」と極は笑みを浮かべて言った。



夕食の時間になって、果林たちも食卓の席に着くと、「あれ?」と果林は言って、かなり小さな夕食を見入った。


テーブルの上にはかなり小さなテーブルと椅子があって、そのテーブルの上に極が調理した料理が乗っているのだ。


「…リアルおままごと…」と果林が苦笑いを浮かべて言うと、リカは果林の肩から腕伝いに降りて来て、「…ありがとう…」と大いに感動して極に礼を言ってから席に着いた。


「リカちゃんと一緒がいいぃー…」と果林がわがままを言うと、「まあ、それでもいいけどな…」と極は言ってから、果林を小さくして、テーブルを並べて置いてから、果林の元の食事のミニチュアを創り出してテーブルに置いた。


「…どうやればこうなるんだぁー…」とジャックは果林を見入って大いに嘆いた。


「これが気功術の技のひとつだから。

 一応、30分は今の姿のまま。

 戻る時は、本人にわかるようになっているから、

 手間はない」


「…できると信じる…」とジャックは小声で言って、仲のいい果林とリカを見入りながら食事を始めた。


極は食事をしながらも、次々と様々なものを創り出して、テーブルの上は、まさにおままごとセットのようになっていた。


ついには、小さなキッチンとリビングが完成していた。


動く小人のおままごとセットに、子供たちは大いに目が釘付けになっていた。



果林が元の姿に戻ると、予想外に何もねだることなく、自分が過ごしていたリビングセットを片付けて、リカを肩に乗せてみんなで遊び始めた。


「共存できそうでよかったわ」と燕が言うと、「おっ 戻ってきた」と極は言って縁側を見た。


するとその縁側に、大爆笑プルブルボールが降りて来て、着地に失敗して、誰もが大いに笑い転げた。


「任務完了したのね!」と燕は大いに笑いながらも、「リジェクト!」と叫んだ。


燕は停止したプルプルボールを手に取って、極に渡した。


「飛んで戻ってくるとは思わなかったわ!」と燕はまだ笑いながら言った。


「オートモードで起動後の一分後に、二名の笑い声を確認しました。

 その二分後に、二名の泣き声も確認しています。

 窓が開いていたことが幸いして、簡単に外に出られたようですが、

 悲壮感が沸いた声が記録されています」


流石がすかさず報告した。


「…まだまだいて欲しかったのね…

 だけど、それ以上は甘やかしだわ…

 感情は取り戻せたんだから」


燕は厳しい目をして、流石の出している映像を見入った。


「だけど、外に出られなかったらどうしてたの?」と燕の素朴な疑問に、「プルプルしながら窓を開ける」と極がにやりと笑って答えると、燕はそれを想像して腹を抱えて笑い、「簡単に逃げられる逃げられる!」と陽気に叫んだ。



翌朝の朝食中に、『空飛ぶ謎の白い物体?!』というニュースが流れて、「あ、見つかってた」と極は言って少し笑った。


そしてその証拠映像が流れると、誰もが大いに笑っていた。


飛びながらもプルプルと震えていたり、木に衝突して枝の上でプルプルと震えたりしていたる。


幸いにも誰もが爆笑していたので、手に取るものはひとりもいなかったので、無事に戻ってこられたようだ。


『撮影者は大勢いたようなのですが、

 笑い転げてしまって、

 現在、どこに行ったのかは不明のようです。

 想像でしかありませんが、

 このように笑いという平和を誘う使徒は、

 マリーン様の関係した方に違いないと、

 私は信じてやみません』


リポーターが半笑いで比較的真剣に熱く語ると、「…大正解…」と極は言って笑みを浮かべた。


「…あの子、今頃悲壮感にあふれているんじゃないのかしら…」と燕が加奈子の頼りなげな顔を思い出しながら眉を下げてつぶやくと、「事情を説明するから別にかまわないさ」と極は笑みを浮かべて答えた。


「…マジ、マリーン様が関係してるの?」とジャックが目を見開いて極に聞くと、「マリーン様が天使の夢見で、リナ・クーターと白竜様の像ともに体感したものを俺が再現したんだよ」と極は笑みを浮かべて答えた。


「…じゃあ、随分と前からその存在はわかっていたわけだ…

 極が再現したからこそ、明るい話題にもなったわけだ…」


ジャックは自分の手柄のように思ったのか、満面の笑みを浮かべていた。


「そのおかげで、広報から何か言ってきそうだけどね。

 軍には知っている者が大勢いるから、

 この情報は簡単に伝わるだろうし、

 広報担当者も何人も食堂にいたし…

 もちろん、阻止する必要はないよ。

 話せる範囲でインタビューに答えるから」


極の言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てた。



しかし特に獣人たちは極を守るようにして、扉をくぐって食堂に出た。


「…エリザベス、申し訳ないが、煌指令に話があるんだけど…」と広報部長で将軍でもある、ワット・ミーツ准将が眉を下げてトラの獣人に言った。


「プルプルボールの件かぁー…」とエリザベスがうなると、「…そういうストレートなネーミングなんだね…」とワットはいつもの穏やかさをもって言った。


「阻止するなってさっき言ったばかりだぞ…」と極はエリザベスの影に隠れているような状況なので、ワッツに声だけが聞こえた。


「…こいつは嫌いなんだぁー…」とエリザベスがうなると、「ふーん…」とだけ極は言った。


するとエリザベスは素早く振り向いて、「…お前の興味はその程度かぁー…」と極の額に額を押し付けてうなった。


「もうわかったから下がって…」と極が言うとエリザベスはサエに戻ったが、その感情はまだワッツに敵対心を向けていた。


「ただ唯一の珍しい方のようです」と極がワッツに朗らかに言うと、「…実は、僕にもよくわからないんだ…」とワッツは眉を下げて言った。


「いえ、あとでご説明差し上げますから。

 気になさらなくても構いません」


極の気さくな言葉に、ワッツは目を見開いて一瞬固まったが、「…申し訳ないのだが、今朝あった報道の件で、撮影に付き合っていただきたい」とワッツが言った。


「ええ、構いませんが、ここでですか?」と極は言って、もう撮影準備に入ってる広報部員たちを見た。


「先に映像を作っておいて、テレビ局に流せば、

 手間を取らせることはないから」


「ええ、それで一向に構いません」と極は好意的に承諾した。



極がテーブルの上が花などで飾られている場所に座ると、燕が右隣に座り、トーマがその逆に座って、獣人たちはその背後に整列した。


「…迫力あるぅー…」などと、撮影班は口々に感想を述べた。


「…まさに王の風格…」とワッツは心のままにつぶやいた。



インタビュアーはワッツが直接担当することになり、「今回、少々世間を騒がせている、プルプルボールの件で、関係者である、タルタロス軍指令、煌極少佐にお話を伺います」と涼やかな声で言った。


まさに、誰もが好感の持てる声に、心まで涼やかになったが、「ウー…」とエリザベスだけが小さな声でうなっていた。


そして燕だけが愉快そうに声を出さずに笑っている。


ワッツが言った、『プルプルボール』に反応したのだ。


ワッツと極は簡単にあいさつをしてから、早速用意された質問に極が答えることになった。


「できれば、プルプルボールの正体について、

 詳しくお話しいただきたいのです」


まさに単刀直入な質問に、「実はそれほど詳しくお話しできないことを先に断わっておきます」と極はまず言った。


「その理由もお話しできません。

 ですが悪い話ではありません。

 よって、これを話すと、

 悪いヤツらが面倒なことを起こすはずなのです。

 それを阻止するために、

 矛先を私にだけに向けてもらおうと思っただけですので」


「善が悪に代わってしまう、典型と言っていいようですね?」


「はい、その通りです。

 本来ならば、正式名称である、

 大爆笑プルプルボールを販売したいと思っていたのです。

 ですが、映像でご覧になった通り、

 誰もが爆笑してその場に崩れ落ちました。

 販売すれば確実に悪用されることでしょう」


「店内などに押し入り、笑わせて金品を強奪する、

 などですね?」


「はい、その杞憂もあって、極力伏せていたのです。

 そして今回、街中を飛んだのは、詳しくは語れませんが、

 私の指示によるものなのです。

 出向先から帰還した、とだけ言っておきます」


「今回の話題になった件はよく理解できたと察します。

 では、どうして大爆笑プルプルボールが存在しているのか、

 お聞かせ願いますか?」


「はい、実はこのボールの存在をすでに確認していた

 一般の方がおられたはずなのです」


極は言って、プルプルポールをテーブルの上に置いた。


「ですので隠す必要はほとんどありません。

 大神殿に一体だけ献上してありますので」


「…ああ…

 マリーン様に許された方だけが、もうすでにこれを見ていたわけですね。

 ですがこの軍施設の外で動いている姿を見た方は誰もいなかったわけですね?」


「それは判断しかねます。

 マリーン様が披露されておられるかもしれませんので」


ワッツは何度もうなづいて、「許された方だからこそ口が堅いわけですね」と感心して言った。


「では、どうしてこのボールがここにあるのかという理由ですが、

 大神殿に浮かんでいるリナ・クーターと同時期に、

 マリーン様がその情報だけを仕入れていらっしゃったのです。

 そのイメージを私が再現したのです。

 ですので、ただただ笑わせるものですが、

 かなりの高性能となっているのです。

 平和の使者としてのプルプルボールですが、

 一般庶民が手にできないことだけが、

 本当に残念でならないのです」


「私はよく理解できたつもりです。

 まだ質問はあるのですが、

 今までのお話から、

 ご説明いただけないでしょう。

 では、今回の大爆笑プルプルボールについての

 インタビューは終了させていただきます」


ワッツの締めの言葉と同時に、「ガッシン!」と燕が叫んで、プルプルボールの電源を入れ、言葉で指示して誰をも笑わせた。



「…今までにない、最高に陽気な説明会でした…」と笑い疲れたワッツが言って、胸を入って拳を当てた。


極も倣ってから、「では、別荘で個人的なお話でもどうです?」と極が言うと、ワッツは大いに眉を下げたが、すぐさま極に従った。


別荘の縁側には極と燕、そしてワッツの三人だけがいる。


「ミーツ准将の恋についてお話し願いたいのです」


極のいきなりの言葉に、「…はあ… 気づかれていましたか…」とワッツは言って少しうなだれた。


「サエだけは敏感ですので。

 それに、マルカス大将と沼田少将は両想い。

 この邪魔をさせまいと、威嚇していたようですね」


「…沼田君とは同期でね…

 彼女は男女問わず人気ものだった。

 そして一歩引く女性らしさも持っていた。

 そのすべてがマルカス将軍に向いていることはつい最近知ったんだ」


「マルカス大将もここに引っ越した時、ですか?」


「…軍施設内の城のような家では、

 ただの下宿だと思っていた…

 だけど、将軍がこちらに引っ越されたことで、

 もう家族だったと、諦めるしかなかった。

 それに彼女は最近、いきなり将軍への態度を変えた。

 まさに恋人同士だと、理解できたつもりだ。

 それに、少佐の想いが届いたんだろうと、

 さらに納得できたんだ」


もちろんワッツは、極と燕の結婚式を示唆して言った。


「この話はよく理解できました。

 あと一年、ここが正念場ですから。

 本来の軍人としての本領を発揮していただきたいと、

 私は思っていますから」


極の力強い言葉に、「…大佐に落としてもらおうかなぁー…」とワッツは言って燕を見てから、愉快そうに笑った。


ワッツがひとり食堂に戻ると、幸恵が待ち構えていた。


「サエにだけは話しておいたんだ!」と幸恵が威勢良く叫ぶと、「…もう終わったんだけどなぁー…」とワッツは言って、傷心を胸に抱いて食堂を出て行ったが、もうすでにワッツは、配置換えのある一年先を見据えて、足取りは軽くなっていた。



極たちが食堂で昼食を摂っていると、朝に撮影したばかりの映像が流れ、解説者たちが激論を交わしていた。


過激になり過ぎて、強制的にスタジオから放り出される者までいた。


「…配布できない理由を身を呈して表現してくれたね…」と極は眉を下げて言った。


「…マリーン批判はないわぁー…」と燕も大いに眉を下げて言った。


もちろん司会者が丁寧に謝罪をしたが、退場した解説者は星のほとんどの住人の代弁者でもあったはずだ。


しかし、極の言った通り、犯罪に使われることは確実という結論に、番組内では達していた。


よって多くの星の住人たちの希望の火が消えたことになった。


しかし、軍にテレビカメラが入った。


広報部の企画で、軍施設内に見学に来た子供たちに、プルプルボールに触れてもらい、笑ってもらうものだ。


もちろん厳重に監視していて、極が提供したボールはみっつだけだ。


さらには天使たち7人が見張っているので、盗まれることはないし、管理は天使たちの仕事になっていた。


よって、軍施設への見学会の要望が激増したが、元より週一度の第一休日だけの企画なので、これを変えることはなかった。



その三つのプルプルボールが極の目の前にある。


純白だったポールが、手垢などで汚れている。


「…天使の心で、か…」と極はつぶやいてから、漂白の術を使った。


「…おっ! 真っ白!」と極は陽気に叫んで、ランプにポールを渡した。


「みなさん! 本日もお疲れさまでした!」とランプが代表してあいさつをして、天使7人は消えた。


「だが、本当に懲りないね…

 全員の魂に飛び込んでやろうか…」


極がうなるように言うと、「わかってる範囲でやってもいいんじゃない?」と燕は呆れるように言った。


極に対しての何らかの攻撃なら問題なかったのだが、その攻撃が無駄だと思いつつも大神殿に向いていた。


さらにはリナ・クーターと止めようと、妨害電波のようなものを出したりするような者まで現れた。


もちろん、リナ・クーターが反撃するので、妨害者はただでは済んでいない。


電波には電波で対応するので、それが反撃なのかは誰にもわからない。


そしてマリーンは大いに憂鬱になっている。


大神殿への見学の依頼が殺到したが、実際の見学者として認めるのは、今まで通りの人数しかいないからだ。


「極のやつのせいだから、ぶん殴ってやろうか?」とソルデが陽気にマリーンに言うと、「あなたが楽しいだけではありませんか」とマリーンは答えて楽しげに笑った。


「俺の天使たちが喜んでいる礼でもある」とソルデは自分の都合がいいように言うと、マリーンはさらに愉快そうに笑った。


特にソルデは、マリーンにとって素晴らしい友人となっていた。


その共通点に極がいることが一番の理由だ。


ランプたち7人が姿を見せて、マリーンに帰還の挨拶をした。


するとソルデは大いに反応した。


「おい、それ、魂が宿ってるぞ」とソルデは言って、ランプが持っているプルプルボールに指をさした。


「…そんな気もしてたけど、自信がなかったぁー…」とランプは嘆くように言って、三つのボールをマリーンに渡した。


「…極様…」とマリーンは穏やかに言って、三つのボールをやさしくなでた。


「極様が漂白の術を放つ前に、天使の心で、とつぶやいておられました」


ランプの報告に、「欲がひと欠片もない、無垢なこころ… 素晴らしい父を持たれたようですね」とマリーンがポールに話しかけると、三つのボールの目が緑色に光った。


そしてプルプルすることなく、三体は整列して、マリーンに向けて翼の先端を胸に当てた。


「ほんと、素晴らしいですわぁー…」とマリーンは驚くことなく言って、ポールたちをほめた。


―― やはり、神… ―― とソルデは思い、笑みを浮かべていた。


「気を抜いて構いませんよ」というマリーンの言葉に、プルプルと震え始めて誰をも笑わせた。


「…どうしようかしら…」とマリーンが言ってすぐに、「ええ、それでもかまいません。あなたたちのお仕事として認めます」とマリーンが誰かに応えるように言った


「…話してきたわけだ…」とソルデは苦笑いを浮かべて言った。


「大神殿では少し控え目に過ごしてくださいませ。

 みなさんが笑い過ぎて、何もできなくなってしまいますので」


するとポールたちは、また体を揺らすことなく、翼の先を胸に当てた。


「ランプさん、お願いしましたよ」とマリーンのやさし言葉に、「はい! 大天神様!」とランプは初めてこの言葉を使った。


「…あらあら、照れくさいのですが、誇らしくも思いますわ…」とマリーンは穏やかに言って、祝福の祈りを捧げているランプたちを見入り、走り出したランプたちの後ろ姿と飛んでいる三つのボールを眺めた。


「…今、その地位に達したか…」とソルデは言って、この幸運を喜んだ。


「この先が、白竜様らしいのです。

 ですので、現在が最終到着地ではございません」


「…うう… 俺はいつ、大魔主になれるんだろ…」とソルデは大いに眉を下げて言った。


「私から、お願いしておきましょう」とマリーンが穏やかに言うと、「いよっしゃぁ!」とソルデは陽気に叫んで、ガッツポーズをとった。



「というわけできてやったぁー…」とソルデは修練場の組み手の近くで、極に向けてうなった。


極はソルデではなく、ソルデに赤子扱いされて伸びている軍人たちに、憐みの目を向けていた。


「その、というわけでの説明をして欲しいね」と極は眉を下げて聞くと、「聞いてないのかっ?!」とソルデが言うと、「あ、今お聞きした」と極は苦笑いを浮かべて言った。


「…ソルデを大魔主に…

 興味はあるけど、

 そう簡単になれるものじゃないと思うけど?

 それに俺には悪魔の情報が乏しいんだよ。

 男悪魔が大魔神という程度のことは知ってる」


極の言葉に、「なっ?!」とソルデはうなったが、ある男の顔が浮かんだので、否定しなかった。


「女性の天使は大天神。

 男性の天使は大天主になれると言われている。

 ここはマリーン様が大天神になられたお祝いとして、

 その糸口だけでも探ってみるさ」


「あら? 出世しちゃったのね?」と燕が陽気に言うと、「念話でさらりと言われてね…」と極は眉を下げて言った。


「…何かおねだりでも考えていたから言えなかったんじゃない?

 確実に聞かれるだろうし…」


燕があきれ返って言うと、「俺はそっちのけかっ?!」とソルデが大いに怒って叫んだ。


「普通に夫婦の会話」と極が言うと、「もう、極さんったらぁー…」と燕は極の右腕をしっかりと握って、極に満面の笑みを向けた。


「…うー…」とソルデは大いにうなった。


「トーマッ! あ、ここにいた」と極は言って少し笑ってから、犬の姿のトーマの頭をなでた。


「はっきり言って、俺が戦ったのでは、その糸口が見えないこともある。

 だから、俺の代わりに誰かに戦ってもらおうと思ってね。

 別に意地悪してるわけじゃないぞ。

 それに俺と戦ったら、

 スタミナがすぐに切れて、何にもわからんからな」


「…うー… くっそぉー…

 口のよく回るガキがぁー…」


「ああ、素敵だわ。

 その饒舌さも素敵」


燕が棒読みで、流石が出しているテロップを読んで、愉快そうに笑っている。


「さすが、流石だ。

 情報収集、ありがとう」


極は言って、流石の頭をなでると、「…そんなこと、言ってねぇー…」とソルデがうなると、「恥ずかしいったらないわ」と燕が言った。


「奥ゆかしい女性でしかないね」と極は言って燕と流石を見た。


「…もう、やめてくれぇー…」とソルデはついに降参した。


「あら、この感情は同じなのね… もう許してください」と燕はつまらなさそうに言った。


「今の言葉も逆のような想いでしたら、

 悪の可能性が上がります」


流石の言葉に、「真逆を好む悪… あっちには三人もいるそうだからなぁー… ほんと、意味不明だよ…」と極は眉を下げて言った。


「…なるほどね、この修行、続けていいんじゃない?」と燕が言うと、「そうだね、簡単にランクアップの手掛かりがつかめたよ」と極が言うと、ソルデは苦笑いを浮かべたまま何も言えなかった。


しかし、肉体的鍛錬も重要だとして、それほど乗り気ではないソルデと、かなりやり気のある犬のトーマが、修練場で向き合っている。


「ソルデ、無謀なことはするなよ。

 トーマは基本的には戦士じゃないんだからな。

 だが、油断してると簡単に負けるぞ」


極が声をかけると、「…曖昧過ぎるだろうがぁー…」とソルデはトーマを見たまま悪態をついた。


「始めっ!!」という極の言葉と同時に、まず前に出たのはトーマで、そしてその姿がはっきりとしなくなった。


「ふんっ!!」とソルデは開いた手を振り下ろして、前に回転していたトーマの体の動きに逆らわず、その回転をさらに加速させた。


トーマは地面に接触して弾み、とんでもない勢いで場外に吹っ飛んだ。


「…はー… ソルデを甘く見てたなぁー…」と極は大いに感心しながら言った。


「となると、ここは切り札で…

 バンッ!! お相手して差し上げろ!!」


「おうっ!!」とバンはすぐさま答えて、ソルデの前に立った。


「くっ!!」とさすがのソルデもバンは強敵と思い、守り重視の構えを取った。


だがバンに攻めも守りもない。


その鋼以上の硬さを誇る体を生かして、ソルデに猛然と挑む。


まさにハイレベルな悪魔がふたりいるようにしか見えない組み手場を、誰もが見入っていた。


そしてこれほどの力を持っているバンよりも、バンを従わせている極を誰もが畏れた。


「一度バンと組み手をして体験しないとね」と極が楽しそうに言うと、「…できればやめてほしいわぁー…」と燕は常識的にやんわりと止めにかかった。


ふたりの攻撃はまさにハンマーで、『ガンッ!! ガンッ!!』と生物ではない打ち合いの音が聞こえる。


「…いい勝負だ… よっしっ! それまで!」と極が叫ぶと、バンは一気に下がったが、ソルデがそれを追った。


だが、極が張った結界に阻まれて体ごと激突し、「くっそっ!!」と悔しそうに叫んで結界を拳で殴った。


「じゃ、精神修行の方やるよ」という極の言葉に、ソルデは目を見開いてから、渋々組み手場の外に出た。



そんな中、それほど近くない宇宙からの使者らしきものが宇宙艇に乗ってやってきて、煌極に面会したいと、警備中の宇宙船に通信が入った。


もちろん、疑わないわけがなく、様々な事情聴取ののち、あるキーワードが極の興味を引いた。


もちろん疑ってかかっていることには間違いはないので、油断はしていない。


宇宙艇は様々な確認の上、宇宙港のど真ん中に停泊させて、さらに入念な確認作業に時間を費やした。


「疑り深いのね」と宇宙船の持ち主の、リリー・ゴッズが少しため息交じりに言うと、「この程度、当然の事のようですな」と執事然とした、黒江岳厳が背筋を伸ばしたまま言った。


宇宙艇に乗っているのはこのふたりだけで、操縦していたのは黒江だった。


「煌少佐が会うそうだ」と今回の陸上の警備隊長のキースが言うと、「…どうなってんのよ…」とリリーが困惑の目をして黒江に言った。


「人違いかもしれませんな」と黒江は言って少し笑った。


「だったら、このままお引き取り願ってもいいんだぞ」とキースがにやりと笑うと、「ほほ、そういうことですか…」と黒江は機嫌よく言って、「力を持っているからこそ、付き合いも広く、誰にでも好かれている」と黒江は言って何度もうなづいた。


「誰にでものところは少々違う。

 ほぼ、極が認めた者だけだ」


キースが自慢げに言うと、「…間違いなさそうだわ…」とリリーはほっと胸をなでおろして、黒江に続いて宇宙艇を降りた。


「…ふむ…」と黒江は言って、首を振って辺りの確認を始めた。


「この辺りで戦闘はないのに、

 まるで厳戒態勢…

 普通ではないことが起ったようですな」


黒江の言葉に、「極に好かれたら、答えも返ってくるだろう」とキースは少し投げやりに言った。


「わかってるわね、間違えられないわよ」とリリーがすごんで黒江に言うと、黒江は答えられず大いに苦笑いを浮かべた。


「知った事実をお話しするだけですし、

 切り札もございます」


黒江はその切り札だけにかけていたのだが、その弱点のようなものも感じていた。


しかし、極に面会することが叶って幸運だったとリリーと黒江は幸運に思っていた。


「了解」とキースがいきなり言った。


キースが通信機など持っていないことに、黒江はすぐさま悟って、様々なものを大いに疑い始めた。


「爺さんは古い神の一族」とキースが無表情で黒江に言うと、リリーと黒江は立ち止まって、キースに顔を向けて目を見開いていた。


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