第五話 平穏と混沌
第五話 平穏と混沌
「ところでさぁー…」と食事の席で極が燕を見て言うと、「…ま、また、何かしらぁー…」と燕は明からに動揺して聞いた。
「まさにその態度についての疑問だよ」
極の言葉に、「…はぁー…」と燕は大きなため息をついた。
「その理由は隠していることを知られて、
できれば俺に嫌われたくないから。
だけどあの緑竜を嫌わないほどだ。
俺はその逆に大いに好感すら持っている。
だけど燕さんは極力何かを隠そうとする。
それは俺に植え付けられている何かが
大いに反応するはずだと思っているはずなんだよ」
「…どこまで、知ったの?」と燕は恐る恐る聞いた。
「燕さんは最低でももうひとつ変身ができる」
「…ピンポンピンポンピンポーン、大正解ぃー…」と燕は陽気な内容をうなだれてつぶやいた。
「そのヒントは、名前の燕。
となると、子供たちだったら確実に泣きだすほどの存在。
きっと、大人でもトラウマを持っているかもしれない」
すると、能力者たちが大いに反応した。
しかしパートナーたちはその事実を知っても穏やかだ。
「燕さんは鳥の燕のように見える、
翼のある黒い悪魔のような獣人の姿になれるんだろうなぁーと思ってね」
「…やっぱりかぁ―――っ!!!」とジャックが叫んですぐさま頭を抱え込んだ。
「大の苦手一号発見」と極が言って、眉を下げてジャックを見た。
「子供だったらほぼ確実に怖がる…
第一に戒めの絵本に始まって、
ローエイジの低学年の教科書にも出て来て、
さらにはリアルなホラー物の映画にもなった。
元は神話の産物だけど、
緑竜がここに来て初めて変身した姿は、
まさに誰もが忌み嫌う姿だった。
それって、この星の情報を知ってから?
それとも偶然?」
「…それ、すっごく後で知ったわ…」と燕は黄昏て言った。
「だから博物館で言っていた、
誰にでも愛される愛らしい獣人のオカメちゃんに姿を変えた。
そして人間の姿になったのはかなり後で、
マリーン様の成長にあわせるように人型になって、
名前が必要になって、
得意な術名と悪魔の姿に似た鳥の燕という名前を名乗るようになった」
「…隠し事はできないものね…」と燕は肩を落として言った。
「特にここで変身しろなんて言わない。
本当に知りたいのは、
もうひとつの小鳥のことなんだ。
…昔返りってことでいいの?」
極の言葉に、「…ほんと、いい勘してるわぁー…」と燕は涙を流しながら言った。
「特に鳥はね、竜になれる最短距離にいるといっていいらしい。
その次に、姿の似ている恐竜やトカゲ。
その理由は簡単で、
竜の最大の脅威は飛べることにあるからなんだ。
かなり厳しい修行になるけど、すでに飛べる鳥は、
人間のように長い時間をかけて修行をして、
資質があればまずは神獣となる。
その神獣の姿が、鳥から変化した一時的な完成形。
その神獣がさらに修行を積んで竜となる、
という知識を得たんだよ」
「…あとで、見せたげるぅー…」と燕は言って、ようやく極の右腕を抱きしめた。
「あのさ、俺って、あのポポタールっていう神を、
かっこいいって思っていたんだよねぇー…」
極の全てを認め、さらに好意があるという穏やかな言葉に、「今変身する!!」と燕が叫んだので、ここは極が止めた。
「あ、だから悪魔とのコミュニケーションも…」と燕がつぶやくと、「大いに好意的だっただろ?」と極は笑みを浮かべて言った。
「…そうだったんだぁー… やっと、理解できたって感じ…」と燕はほっと胸をなでおろして言った。
「古い神の一族だったことをこの件で大いに幸運に思ったよ」
「…やっと、全てを気に入ってもらえたわ…」と燕は言って、笑っている宇宙のほほに軽く指で振れた。
「神獣の修行って今もできるんだよね?」という極の何気ない言葉に、「…うう… 私にさらに試練を与えようとしてるのね…」と燕は大いに嘆いた。
「悪魔でも弟子入りさせればいいって思っただけ。
マリーン様のためにね」
「…それは無碍に拒否できないわ…」と燕は嘆くように言った。
「…怖くなんかないぞ!」とジャックが子供のように叫んで自慢げに胸を張ると、「…昔返りならぬ子供返りした…」と極が眉を下げて言うと、獣人たちはゲラゲラと笑い始めた。
極たちが食堂で昼食を摂っていると、統合幕僚長の秘書官のマイケル・マスター大佐がやって来て、極の横に立ち、「ドドン星の女王が名指しで会見を望んできた」と耳打ちをした。
「…有名になり過ぎたようですね…
多分顔も名前も知れ渡っているんでしょう…
スパイたちに横の繋がりがあったようだ…」
「そうやって、暗殺された者が大勢いる。
よって何をやってくるのか見当がつかない。
会見の場ごと爆破するような無謀な行為に出たことがあるし、
第三者が実行した事例もある」
極は何度もうなづいて、「俺は影武者と会見するのですか?」と聞くと、「その可能性も大いにあるな」とマイケルはホホを歪めて答えた。
「となると、こちらから場所を指定した方がいいですね。
もちろん、暗殺のセオリーを話してからですけどね。
そして俺が偽物かもしれないとにおわせると面白い…」
極の言葉に、普段は笑わないマイケルが腹を抱えて笑い始めた。
「…その会見、滑稽すぎるわ…」と燕は言って愉快そうに笑った。
「直接会うのはお互い危険なので、
通信を使った会見でいいと思いますけど?
特に親密になるつもりもありませんので。
ですが本物でしたらすべてを見破るとでも言っておいてください。
ですので偽物でもすぐに判明しますので、
俺は保身に走ります。
そしてドドン星との戦いが始まってしまいますね。
あ、これは俺の個人の売られたケンカということで構いません。
もちろん相手はそう思いませんが」
極は言って、記憶媒体をマイケルに渡した。
「…過激だが、全て正論だよ…」とマイケルはつぶやいて、記憶媒体を受け取って、胸に拳を当ててから食堂を出て行った。
その数分後、マイケルが苦笑いを浮かべてやってきた。
「勇者煌極の隣にいた女性は誰だと聞いてきた。
どうやら、煌少佐を大いに気に入ったようだぞ」
「俺が既婚者なのを説明してもらっても構いません。
そしてもし会見をするなら、
俺はパートナー全員を連れて行きますから。
マスターがいるパートナーは許可を取ってもらいます」
すると、極に使われたことがあるパートナーたちは一斉にガッツポーズをとった。
まさに重要な時に極の隣にいられることを誇らしく思ったのだ。
「…遠距離からでないと手は出せんな…
…まあ、君のことだから、
遠距離でも爆弾を仕掛けていても何とでもなりそうだし…」
「相手が本物で会見の席に着いたら、真っ先に結界で囲みますから。
誰にも邪魔をさせません。
相手がそれを飲むのであれば、
会見は可能でしょうが、
もし試すような行為があれば、会見はその場で中止で、
即開戦です」
極は言ってまた記憶媒体を出した。
マイケルは眉を下げて、胸に拳を当ててから記憶媒体を持って食堂を出て行った。
ドドン星からカップ星での会見要請があったが、極は危険な星で会見するつもりなはいと突っぱねた。
そしてドドン星軍が独自に調査した結果、カップ星を災難に陥れようとする事実を知って、それにかかわる星の軍をせん滅した。
カップ星軍はこの事実を知らされて、今までよりも厚い警備や探査の手を広げるようになった。
よって、ドドン星の女王リーテ・ドドンガと極の会見は、カップ星で行われることになり、カップ星の王、マルタ・タリスマンも同席することに決まった。
どのようにして煌極を手に入れようかと、両星の王は大いに画策を始めたようだ。
もちろんこのような面倒な会見は断ってもいいのだが、長期にわたってスパイの処理を強いられることにもなる。
そうなるのであれば、一度の会見ですべてを終わらせた方が手っ取り早いのだ。
「実は、私にとってこの会見は、少々肩身が狭いのです」と極が眉を下げて言うと、リーテは薄笑みを浮かべて首を横に振り、マルタは、「そんなことはない」と否定した。
「実は、私の主は大神殿長のマリーン様なのです」
極の言葉は大いに破壊力があり、リーテもマルタも腰を上げたが、すぐに着席した。
「私はマリーン様を守る盾でもあり騎士で、かなり年の離れた弟でもあるのです」
リーテもマルタも考えていたことは同じで、大いに悔しそうな顔をした。
大神殿マリーンについては、ほとんどの星で知られていたからだ。
よってちょっかいを出す星が多いことも有名だった。
もちろんマリーンが存在している件は、その星々に住む天使たちからの情報なので、特に諜報活動などは行われていない。
「ですので本来ならばこの席には、マリーン様がおられるべきなのです。
その件だけが心苦しいのです。
もっとも、ここにお連れしないことには理由があります。
マリーン様のお召し物が、
人間の欲によって汚れることを見ていられないのですよ。
この程度の知識はお持ちだと思っていますが?」
マルタは何度もうなづいで、リーテは今にも極に飛びつかんばかりに体に力を入れていた。
「よって、私の住む星はラステリアでしかなく、
守る王はマリーン様以外いらっしゃいません。
ここまで来るのに、軍の説得が少々大変でしたが、
ようやく独立軍として承認していただいたのです。
もっとも、マリーン様のお名前をだせば、
軍は黙るしかないと思っていましたけどね。
我が軍も、マリーン様を大いに脅威に感じているからです。
もちろん、ラステリア軍をマリーン様がお認めにならないのは、
人間の欲が渦巻いているからに尽きます。
私の軍はその承認をいただいたといっていいでしょう」
極が語ると、リーテもマルタも肩を落としていた。
そしてふたりはほとんど何も語らない。
「これでは会見になりません。
お話がないのなら、これでお開きでもよろしいでしょうか?」
するとリーテはすぐに顔を上げて、「饒舌な子供」と悪態をついたが、「宣戦布告ですか?」と極がすぐに聞くと、リーテはすぐにそっぽを向いて、「違うわよ!」と大いに憤慨した。
「勇者は嘘はつかないのでね。
嘘だと思っても信じてもらうしかありません。
それでは人々を助けられないのです。
多少なりとも私が偽物だと思っていらっしゃる。
ですのでこういった趣向はいかがでしょうか?」
極は言って、人間大の大きなクマのぬいぐるみを出すと、リーテの目は大いに踊った。
「お近づきの印です」と極が言ってリーテに差し出すと、「ありがとー…」と大いに感情を変えてつぶやいて、クマのぬいぐるみを抱きしめて、満面の笑みを浮かべた。
あまりのリーテの豹変ぶりに、燕は下を向いてくすくすと笑い始めた。
「マルタ王はこのようなものがお好みですか?」と極は言って、リナ・クーターのラジコン模型を出すと、「うおっ!」と叫んでから、極に笑みを向けた。
もちろん、リナ・クーターの情報も漏れていたこそマルタは知っていたのだ。
「…どっちも子供だったぁー…」と燕が小声で言うと、パートナーたちは笑いを堪えるのに必死になっていた。
極の懐柔作戦は功を奏して、この先の全ての平和について語り始めた。
だが、特にリーテはそれほど気に入らないようだが、今はクマに癒されているので、それほど機嫌は悪くない。
リーテにとってはこのクマが唯一の弱点であり、唯一の心のよりどころなのだ。
「杞憂があるのは、ドドン星の法律についてです。
確実なる証拠がない場合、罪にはならないという件に尽きます。
ですので、頻繁に殺し合いのような事件が多発しています。
もちろん、リーテ王もそれに巻き込まれたことがあるようですね。
そして事を起こしたこともおありだ」
極は言って、手袋をしているリーテの左手を見た。
「…小指欠損…」と燕が言うと、「見つかった時の罰さ」と極は言った。
「…魔王のような民族ね…」
「そのうち誰かが魔王にでもなるさ」
「…いまさら、変えられるものでもないの…」とリーテはクマをなでながら比較的穏やかに言った。
「ですがもし、この場で事を起こした場合は、罰せられますが?」
「もちろん、大いに我慢しているわ。
欲は抑えるとよくないことが起きるけど、
ずっと続くわけでもないから」
「ええ、それは言えますね。
ですが、本当の友が現れることはない。
大勢の人がいたとしてもいつもひとりです。
いいことが起らないというのは、魔王の出現でしょう。
キリング星にいる魔王は、
ドドン星にいた魔王だと俺は推測しています」
極の言葉に、「…誰にも気づかないはずの、伝説級の話なのに…」とリーテは少し悔しそうに言ったが、機嫌よくクマを抱きしめた。
「欲を抑え込んで、自己崩壊したのね…
困った種族だわ…」
「その原因はもうほぼ判明しています。
机上の空論ですので、ここではお話できませんけどね」
極の言葉に、「…知らなくてもいい…」とリーテはごく自然に言った。
「そうですか…
そうなると、ドドン星に未来はありませんね…
真の平和が訪れることはありませんし、
そのうちまた魔王が沸くことでしょう」
「…今が良ければそれでいい…」とリーテは答えた。
「…魔王と似たり寄ったりだわ…
話にもならない…」
燕の言葉に、リーテは大いに目を見開いて燕をにらみつけると、燕は目だけを緑竜に変えた。
するとリーテはクマを盾にするようにして身構えて眉を下げた。
「敵対行動には即座の報復が肝心です。
そうしないと大いに調子に乗って、
不幸な戦いが長引くだけです」
極の言葉に、マルタは何度もうなづいた。
「俺は元々攻撃的ではありません。
できれば全てを救いたいと思っています。
ですが、救われる側の協力がない場合、
救うことは不可能でしょう。
ですが、無駄な会見だということがわかっただけでも幸いでした。
ですが、マルタ王とはまだまだお話を続けましょう。
リーテ王は、いつ退席していただいても構いません」
極は言って、リーテに頭を言下げてから、マルタ王に体を向けた。
「…お邪魔様…」とリーテは言って、巨大なクマを抱いて機嫌よくお付きの者の前に立って、指示を与えたが、「本当に開戦してしまいます!」と護衛兵が叫ぶと、「試さないないとわからないじゃない」とリーテが言った。
するとリーテは胸を押さえつけてその場に倒れた。
「…ああ、いつもの発作だ…」と護衛兵は言って、リーテを担ぎ上げて退席して行った。
「魔王への変化の予兆ってとこかなぁー…
もう、不幸でしかないね…」
極が眉を下げて言うと、「だが、原因があるとおっしゃったが…」とマルテが聞くと、「大きな力に作用されていると推測しています」と極は言ってから、少しうなだれたように見えたがそうではなかった。
「もし、地中に悪意などがあるとして、
人間に取り憑くとすればどうでしょう?
民衆はみんな、リーテ王のようになってしまうのです。
きっとそれは、例外などなく全員だと思います」
「…うう… そのような、恐ろしいことを、星自体が起こしている…」とマルタは大いにうなった。
「ですがおかしいのです。
衛兵はごく自然だと感じました。
ですがこれも罠のようなもので、
ここでは人目があるので、
証拠を残すとまずいとでも考えたのでしょう。
ですのでマルタ王の対処は正しいと思います」
マルタは良からぬことをする可能性が高いと思い、背後と両側面に警備を敷いて、宇宙港に向かわせたのだ。
「できれば何をしても反撃可能とその証拠を見せたかったのですが、
ドドン星を調査したいと考えたのです。
できれば、その原因を知って、
一般的な人間らしい生活を送ってもらいたいものです」
だが、極の杞憂は杞憂でしかなく、マルタとの会見は笑みのうちに終了し、何事もなく帰路についた。
「…悪意だらけの民衆、ねぇー…」とミカエルが眉を下げて言った。
極たちは大いに疲れて、今は別荘で寛いでいる。
これだと戦っていた方が大いにマシと、極を始め、パートナーたちも思っていた。
別荘に戻る前に、極たちはマリーンに帰還報告とある施術を行ってもらった。
マリーンは初めてだったようだが、極の自信を持った言葉に、極とパートナーたちの施術を無事終えていた。
「なんら問題はありませんでした」というマリーンの明るい言葉に、極たちはほっと胸をなでおろしていた。
実はそうならないように極が考えた功労者はいた。
今は極の腕の中ですやすやと眠っている、天使ランプと天使ピアニアだ。
「悪意は伝染するのです。
精神疾患が移ることと同じようなものですから。
ですので、その対抗策をふたりにお願いしておいたのです。
もしもこの先ドドンと戦った場合、
ドドンの兵士は捕虜にせず、
即座に強制送還した方がいいでしょうね」
「…そんな面倒な病を移されちゃたまったもんじゃないよ…」とミカエルは眉を下げて言った。
「その治療が、天使のオーラだったわけね。
あの子の慌てようったら、
その場で笑い転げてしまいそうだったわ!」
燕は言って、大いに笑い転げた。
「天使のオーラは浄化の焔だからね。
下手をすると人間の細胞まで浄化してしまう。
だからそれほど影響が及ばないほど、
かすかなオーラでも構わないんだ。
そして、ペンダントの力で、
精神空間転送で魂に飛び込んでもらう。
悪意は心の病だが、
魂に根づくから厄介なんだよ。
施術を終えてマリーン様が問題なしと言ってくれて、
この子たちも報われたと思う」
極は言って、ランプとピアニアの寝顔に笑みを向けた。
「ゆるい天使の癒しがバリアになるなんてね…」と燕は言って、ランプとピアニアの頭をやさしくなでた。
「…熱かったですぅー…」とサエが泣き顔で言うと、「俺もそうだし、みんなもそうだったはずだよ」と極が言うと、誰もが大きくうなづいた。
「心が軽くなったような気がするのです」と黒崎が笑みを浮かべて言うと、「悪意だけじゃなく、不安なども消えたのかもしれませんね」と極は笑みを浮かべて言った。
「…ああ、不安…」とバンが少しうなだれて言うと、「それはいいことだけど、確かに気になるよな」と極は言って、バンの肩口に触れた。
「小さいが、翼が生えてきた」と極が言うと、誰もが目を見開いてバンに寄り添って一斉に祝福の言葉を投げかけた。
「…翼が生えきったら、姿はそのままほぼ竜だわ…」と燕は言って大いに眉を下げた。
「その時点で神獣だろう。
姿の変化はなく、
属性がどうなるのかが見ものだよ。
それが大いに時間がかかるはずだよ。
きっと今世だけでは無理だろうけど、
パートナーの資質がある分、
案外早いかもね」
「ウオッシャァ―――ッ!!」とバンが叫んでガッツポーズをとると、「翼、動かして?」と果林がかわいらしくお願いすると、誰もが小声で笑い始めた。
「いい修行だと思う…」と極が眉を下げて言うと、燕は大いに笑い転げた。
「さて、俺の予定が真っ白なので、
キリング星の天使居住区に遠足に行こうと思うんだ」
極の言葉に、誰もが、―― 何かある! ―― と確信して極を見入った。
「ソルデの肉親と言っていい、
天使マルティンが黒い天使になった理由。
魔王が元はドドン星生まれだったことの確認。
これを知ってから、色々と事を進めようと思う。
ドドンはすぐには行動を起こさないと思うが、
悪意の持つ者の行動は読めないからね。
悪意を持つ者なら、よくわかるんだろうけど」
極の言葉に、誰もがすぐにうなづいた。
「今回は仕事の予定がない者は全員参加だよ。
もっとも、そんなものは放っておけばいい。
俺がきっちりと、勉強でも何でも教えてやるからな」
一同は極の言葉を歓迎したが、かなり厳しいのではないのだろうかと、大いに動揺していた。
「…突き上げが厳しくなるぅー…」とネズミの姿のミカエルが大いに嘆いた。
「…うー…」と珍しくマルカスが言葉を殺して言い淀んでいた。
「父さんも来ていいんじゃないの?
監督者として申請すれば?」
「…それはいいのだが…」とマルカスは言ってまた言い淀んだ。
「次回は母ちゃんでいいじゃん」と極が気さくに言うと、「…順番を決めてからだな…」とマルカスは今度は明るく言った、
「それにさ、役割を明確にして、
ふたりとも来られるように画策すれば?」
極の言葉に、「採用」とマルカスはすぐさま答えて、軍専用の報告用紙を出して、記入を始めた。
「…相変わらず、頭の固い子だわ…」と燕は言って、大いに眉を下げると、極は愉快そうに笑った。
苦虫をつぶしたような顔のミカエルから許可をもらったタルタロス軍の宇宙船は、キリング星の天使居留地の上空に現れると、地上からグリーンの誘導レーザーが放たれた。
宇宙船はゆっくりとタッチダウンして、すぐさまハッチが開いた。
「ようやくきたな! 小僧!」とソルデが両拳を腰に当てて言い放った。
「色々とやってのけたようだね。
砦は全部潰したの?」
極の言葉に、「当然のことを聞くな!」と叫んで大いに笑った。
「実は修行をしてもらいたいと思ってね。
だから今日は大勢連れてきたんだよ」
「…おお… まだあったかぁー…」とソルデは歓迎と戸惑いを混ぜたようにうなった。
「その前に話があるんだよ。
ソルデさんの親しい天使が、黒い天使になった理由と、
魔王がいつどのようにして現れたのか」
「…お、おう…」とソルデは答えたが、拒否反応はなかったので、極はほっと胸をなでおろした。
極はまずは大勢の仲間たちを紹介すると、大勢の悪魔たちが走ってやってきた。
「てめえら! 見合いじゃあねえ!!」とソルデが叫ぶと、悪魔たちは一斉に大人しくなった。
「本人の合意があったらそれでもいいさ」と極が言うと、仲間たちは大いに眉を下げていた。
「…古い方から話す…」とソルデは極が創り出したソルデ用の王の椅子に座って力なく言った。
魔王が現れたを知ったのは、今から千年以上前で、発見したのはその地に勤務していた死神で、岩などを加工して何かを造っていることに気付いた。
そしてその死神が魔王に近づいたとたんに襲われそうになって空に逃げた。
すると投石などをして攻撃を仕掛けてきたので、悪魔のエリアに戻って、担当の悪魔に報告してのち、すぐにソルデに伝えられた。
ソルデは用心深く魔王を探り、「…手が付けられねえ… まさに狂人だが…」と言ったが、城を建てるということは、体を守ることにつながる。
よってしばらくは様子を見ることにした。
「気づいた時にもはもういたわけだ。
肉体的変化は?」
「…あ… 今よりも人間サイズだったはずだが…」とソルデは言って考え込み始めた。
「姿は同じだが小さかった」
極は何度もうなづいて、「人種的にはどう思った? この星の者が変化したと思った?」と極が聞くと、ソルデは怒り狂う顔になり、「ヤツだ! ヤツと同族だっ!」と立ち上がって叫んだ。
「…二百年ほど前に、マルティンさんをそそのかした男と同族…」と極が言うと、ソルデは力を失くして椅子に腰を下ろして、「…そうだ…」とつぶやいた。
「この件に関して、ほかに気付いたことは?」
極の言葉に、ソルデは答えずに首を振った。
「いや、それだけでも大いに想像力が働いた。
ドドンを調査したところ、魔王は住んでいない。
きっと、ここにいる魔王がただ唯一だと思う。
あまりにも異様な姿に変わったので、
当時の王の命令によって、ここに捨てられたんだろう。
多分、時折監視もしていて、
まさに恐ろしい化け物になったと王に報告したはずだ。
そしてドドン星の民衆たちはある保身が芽生えた。
生物の進化と言っていい。
ただ唯一でも、心穏やかになれるものを見つけるようになった。
そうすることで、心を持たない魔王になることはないと、
誰もが安心したはずだ。
きっと、そのような文献があったんだと思う。
その伝奇的なものは正しかったと理解したんだろう」
「…マルティンの件とは、また別…」とソルデが言うと、「また別の文献から、黒い悪魔について知ったんだろうね…」と極が言うと、「…許せん…」とソルデがうなって、両拳に力を込めた。
「ドドンにも天使がいるんだけど、常に土地を浄化しているんだ。
よって、人間たちは何が嫌なのか近づかないんだよ。
その状況から、ドドンの住人は悪意を帯びていると言っていいね。
そんな狂人に復讐を誓っても、
あとでむなしくなるだけだ」
極の言葉に、ソルデは深くうなだれた。
「よって、天使の浄化や癒しは大いに役立つことがわかった。
だが、中には死を迎えるものもいるはずだ。
ソルデは鼻で笑うだろうが、
人を殺したという事実だけは勇者としては避けて通りたいんだよ。
だから天使たちには任せられない」
極の言葉に、大勢いる天使たちは手を組んで、祈りを捧げた。
「殺さずに悪意をぬぐう方法はある。
極め付けもあるんだけど、
これは最後の手段。
悪魔のオーラって知ってるか?」
極の言葉に、ソルデは目を見開いて、「…知ってはいる…」と悔しそうにうなった。
「じゃあ、天使のオーラを使える人」と極が言うと、「はぁーい!」とこの重い話し合いの中、一輪のかわいい花が咲いたように、ランプが手を上げた。
「おっ! 修行の成果が出たってところだね!」と極が大いに陽気に言うと、ランプは大いに喜んでいた。
しかし、「…マイクさんもね、たぶんできちゃう…」とランプは言って極を上目づかいで見た。
「武闘派天使の入り口にいるからね…
弱いものは出るんだろう…」
極は言って、納得の笑みを浮かべた。
「では、その神髄を知ってもらうために、
ランプは説明をしながら、天使のオーラを薄くまとって欲しい。
どうだい? できるかい?」
極の言葉に、ランプは大いに戸惑ったが、「…頑張りますぅー…」と言って、誰もいない場所まで移動した。
「悪魔たちが溶けるかもしれないからね」
極の言葉に、悪魔たちは大いに怯えた。
ランプは饒舌に、今の感情や感覚、イメージなどをつぶさに語って、その体が光り始めた。
「はい! 出たよ!」とランプは叫んですぐに、オーラを止めて、走って極のそばに戻ってきた。
「すばらしい!
あとでご褒美を考えるからな」
極の言葉に、ランプは感謝の祈りを捧げた。
「悪魔だって要領は同じだ。
そして、悪魔のオーラを纏って、ドドン星を闊歩すれば、
悪意が去る可能性が高いんだ。
どうやら悪意は、星自身か、大元のボスがどこかに潜んでいるような気がする。
確率が高いのは、悪意にさらされた黒い天使」
極の言葉に、「…じゃ… じゃあ、マルティンは… まだ生きて…」とソルデは希望を持って行ったが、「この星にはそんな強烈な悪意は認められないんだ」と極が言うと、ソルデは大いに力を失くした。
「だからね、確実に他人だが、そいつを見つけた時に、
マルティンさんだと思って、その黒い天使を助けて欲しい。
もちろん、俺も協力したい。
どうだい? やってみないか?」
極の言葉に、ソルデはしばらくはうなだれていたが、その顔を上げてソレイユを見た。
「姉さんを助けてあげて、お母さん…」とソレイユが涙ながらに言うと、「…そうしよう…」とソルデは言って立ち上がり、ソレイユを抱きしめた。
「…だけど、星自体が悪意を帯びていると、かなり面倒だな…」
「…経験はないけど、あってもおかしくないわ…」と燕は言った。
もちろん、ラステリア星の化身の黒ヒョウがいるからこその想像だ。
「俺の期待的願望だが、
悪意の源は、今は天使居住区を虎視眈々と狙っていると思う。
それ以外の土地は、悪意に満ち溢れているようだからね。
ここは俺の術で、何とかしてその姿だけでも確認したい。
攻撃するだけが全てじゃなく、
ヤツの好物をちらつかせるのも、
その確認には重要だから」
「…俺たちに魂まんじゅう…」と少し元気になったソルデの言葉に、「そういうこと!」と極は陽気に叫んでから、大いに笑った。
実は極はもしも黒い天使がいるとすれば、それはマルティンではないかと考えてもいたのだ。
これを言わなかったのは、ソルデが暴走すると考えたからだ。
よって他人だが、肉親を救うようにと、進言したのだ。
話し合いは終わって、まずは懇親会が始まった。
そのあとに個別訓練や組み手を始めたと同時に、「魔王だ! 魔王が走って来たぞ―――っ!!!」と見張りの死神や悪魔たちが声を張り上げて叫んだ。
「…ソルデが物覚えが悪いから怒ってやってきた…」
極の言葉に、燕は腹を抱えて笑い、「俺の不甲斐なさとは関係ねえっ!!」とソルデは叫んで腕組みをしてそっぽを向いた。
「さて、何をしに来たのか観察しよう」と極が言うと、「攻撃はするな! 傍観しろ!」とソルデは声を張り上げて伝えた。
極と燕、そしてソルデが高い塀の頂点に立つと、土煙を上げて魔王が走ってやってきている姿が見える。
「魔王の城まではかなりある。
それに、それほど大きな音は出していない」
「ああ、砦を破壊した時よりは大人しいものだ」とソルデは魔王を見据えながら言った。
魔王は極たちの姿を確認したのか、走ることをやめて歩き始めた。
そしてその巨大な肉体美が完全に確認できたところで立ち止まった。
まさに魔王とはよく言ったもので、頭には湾曲した角が二本あり、口からは鋭い牙が4本見えている。
さらにはまさに鬼と言わんばかりに、手足の爪は短いのだが円錐形をしていて、さぞ地面を掘りやすいだろうと極は思ってにやりと笑った。
立ち止まった魔王はずっと極たちを見上げている。
「話はできるか?!」と極が叫ぶと、「大声出すんじゃあねえ!!!」とソルデは極以上の大声で叫んだ。
だが魔王はかなり戸惑っているようだが、「あー…」や「うー…」などとうなるばかりだが、進むこともなく引くこともない。
「話す意思はあるようだから、
念話で話してみよう」
「俺だってできるぞぉー…」とソルデが自慢げに言うと、「ソルデが話すと、まとまる話もまとまらないって思わない?」と極が聞くと、ソルデは納得したようだが、腕組みをしてそっぽを向いた。
「今度は話せるはずだ!」と極が叫ぶと同時に念話を送った。
『…お、おまえ… 前にも来た…』と魔王はたどたどしく答えた。
「ああ! 前にも来て、今回は二回目だ!」と叫び返すと、「…魔王と話しやがった…」とソルデは悔しそうにうなった。
『その日から、俺が何をやったのか、思い出してきたんだ…』と魔王は悲しそうに言った。
「そうか、思い出してきたんだな!
その思い出したことは、
お前にとって悪夢のようなものだったんだな?!」
すると魔王は目を見開いて、『俺はひどいことをしていた… だが、夢のようにも思える…』と言った。
「ひどいことをしていたようだが、夢のようにも思えた!
それはお前がお前自身ではなかったからだと俺は思うんだ!
誰かに操られた時などは、そういった症状が出るものだ!」
『操られる?!』と魔王は叫んでから、『俺は、親友だと思っていたヤツに、何かをされたと思ったら、ここにいたことまでははっきりと覚えている』と答えた。
「ここに来たことは知っていて、
お前は親友に何かをされて、今のお前になったんだな!
お前の名前はわかるか?!
その親友の名前は?!」
『俺は、ミルッテン…
親友は、ダズラス…』
「おまえはミルッテンで、親友はダグラス!
ちょっと待ってろ!」
極は叫んでから、マップ装置を出して、千年ほど前のドドン星の王室系図を確認した。
「親友は、ダグラス・サン・ドドンガか?!」
極の言葉に、『そうだ! その名前だ!!』と叫び返すとともに、「…ダグラスは悪魔の研究を…」と魔王はしゃがれているが、声を出すことができた。
「悪魔の研究をして、魔王と黒い天使まで産んだようだ」と極はあきれ返って言った。
「それができたことが異様じゃない?」と燕が言うと、「それなりの悪魔、天使、死神、または勇者か… まあ確実に高能力者だと思う…」と極は答えて苦笑いを浮かべた。
極は塀の外にふわりと降りて、巨大なテーブルと椅子を出して、「まあ座れよ」と言った。
「…うう… お前も魔法使い…
だが、怪しことは何もない…
こんな大きなものは、ダグラスは出したことがなかった…」
「何だったらなんか食うか?
俺も食うけど」
「…そうやって、俺に毒をしかけやがった…」と魔王はうなって極を見たが、「…お前はダグラスではない…」と言ってうなだれた。
「その状況がよくわかっていいよ。
俺だって、お前に殴られたくないから、
そんな真似はしないし、
さらに怖そうに見えるお前に話しかけたり、
椅子に座らせるなんてするもんかい」
「…いや… 俺ではお前に勝てないことはわかっている…」と魔王は言ってうなだれた。
「…そして、お前の背後に巨大な天使が見えていた…
今はお前しか見えないが…」
「それはガイアと言う名前の天使だ。
厳しい顔、してたんじゃない?」
「…うう… 天使なのにあの顔はない…」と魔王が言ってうなだれると、極は愉快そうに笑った。
「何がいいのかわかんないから、ひと通り持ってきたわ」と燕は言って、大きなざるをテーブルに二つ並べた。
「…怖そうなヤツ…」と魔王が燕を見て言うと、「やかましい!」と燕が怒りをもって叫び返すと、魔王は肩をすぼめて小さくなっていた。
「余計なことはあまり言わない方がいいぞ。
なにしろ、あんたよりもこの女性の方がデカいんだからな」
「やっぱりかっ?!」と魔王は叫んで、椅子から転げ落ちそうになった。
「きっとな、夢の中のあんたでも、少々畏れたかもしれないぞ。
なにしろ、口は首まで裂け、大きな角もあり、
首は長く翼があり、手足の爪はダイヤのように固く、
体表は緑色に煌く宝石のような硬いうろこに包まれているからな」
極の言葉に、魔王は目を見開いて、「…それは竜だと聞き覚えがある… あいつは竜も探していた…」とつぶやいた。
「そのあいつが、悪の元凶、かもなぁー…」と極がつぶやくと、「…そう… マルティンじゃなかったのね…」と燕は悲しそうに言った。
「…こりゃ、ソルデでは荷が重いか…
俺もさらに鍛えないと少々まずい…」
「最悪の場合、マリーンが手を出すわよ」
「それも修行としてもらうか…」
魔王は極が勧めるままに、「ふほふほ」と明るくうなりながら、生で食べられる野菜や果物などを大いに味わった。
「ランプ!」と極が叫ぶと、ランプと天使たちが降りて来て、「うふふ、守ってもらっちゃう!」と言ってから、天使たちは一斉に魔王の汚れた体を拭去の術できれいにしてから、魔王の巨体にしがみついた。
「…うう… さすがハイレベルな天使…
ソレイユ、お前は判断できたのか?」
ソルデの言葉に、「…まだ怖いです…」とソレイユは言ってうなだれた。
「全然怖くないよ!」とピアニアが叫ぶと、大勢の天使たちが一斉に魔王に群がって、天使の白い塊になっていた。
「優しくて力持ち。
一番敏感な天使たちが懐いたからもう大丈夫だ」
極はこの幸運に大いに感謝して、席を立ってからこの場に厨房を作り上げて、調理の準備を始めた。
残る杞憂はドドン星の天使居住区だけとなり、ここで切り札である魔王の名前を出そうか出すまいかと、魔王を交えた極たち上層部の話し合いが始まった。
もちろん魔王にドドン星に戻る意思はなく、今のところは天使居住区に甘んじている、ソルデの町に世話になることになった。
そして魔王は戦う意思はないが、協力は惜しまないといった。
よってソルデは、「おまえは隠れていればいい」と胸を張って言った。
魔王はソルデの言葉に甘えることにして、天使たちを守る役目を申し出た。
よってソルデたちが遠征に行ったとしても、大きな戦力をもって攻め入ることが可能だとソルデは語り、特に悪魔たちは大いに気合が入っていた。
だが、リナ・クーターの偵察により、砦が全て落とされたことが原因なのか、中央司令部では大勢の兵士による暴動のようなものが起り始めていた。
砦を壊され、居場所がなくなった兵たちが、中央に戻ってくることは当然だ。
「自滅の道をたどり始めたかな…」と極が言うと、「戦わなくてもいいのならそれで構わん」とソルデは胸を張って言ったのだが、大いに悔しそうにしていた。
特に中央の町では食糧不足により治安の悪さが目立ち始めた。
よってソルデの意志によって、中央から少々離れた砦跡で、条件のいい土地を選んで町と農地を作り上げ、安全確認をしたうえで、死神と悪魔たちが人々の大移動を始めた。
「慌てたり割り込んだヤツは連れて行かんからな!」と悪魔たちは民衆たちを言い聞かせて穏やかに移動を始めた。
大勢の民衆はそりのようなものに乗って、何の苦労もなく移動を始め、そりを引っ張る者たちを大いに労った。
そして桃源郷が見えて来て、誰もが歓声を上げた。
砦跡が、まさにパラダイスとなっていたのだ。
このキリング星の人口が少ないことで、一万人規模の村を三つほど造れば、一般人は何の苦労もなく生きて行くことが可能だ。
もちろん、商売などもできるようにと、器用な死神たちが相談窓口として一手に引き受ける。
しかしまだまだ中央の状態が不安定なので、監視をしておく必要はある。
ソルデの命令で、この町々に駐屯基地を造って、町の安全と軍からの防衛を担うことになった。
さらにはまだ一般の住人は各地に散らばっているので、移住の意志がある者は、うまい食べ物がある土地に誘うことになる。
もちろん、わがままを言えば何もしないので、それほど面倒な仕事ではない。
ある程度の平和を確認して、極たちは三日間のキリング星での長い遠足を終えて、ラステリアに戻った。
宇宙船は大神殿上空に停泊して、極たちは一斉に外に飛び出した。
するとマリーンは待ちかねていたように、まずは燕に抱きついた。
「こらこら、甘えん坊ね」と燕が少し戒めると、「お母様はひとりしかいらっしゃらないもの!」と大いに高揚感を上げて叫んだ。
「さすが姉上だよ」と極が気さくに言うと、「あら? なんのことでしょう」とマリーンは大いにとぼけた。
「マリーン様のおかげで、
これほど早く半分の仕事を終えて戻ってこられました。
本当に、ありがとうございました」
極は言って、大いに胸を張ってから拳を胸に当てた。
極の大勢の仲間たちも一斉にそれに倣うと、「…ああ、王になった気分ですわぁー…」とマリーンは笑みを浮かべて言って、優秀な兵士たちを見まわした。
そして眉を下げて、「ランプさんはどこまで成長されるのでしょう…」とマリーンが言うと、「全ては極様の思うがままです!」とランプは叫んで、満面の笑みを浮かべて、感謝の祈りを捧げた。
「ランプさんの駆け足には誰も追いつけません。
その後ろ姿を見ながら、みなさんも成長して行って下さいね」
マリーンがピアニアたちに顔を向けて言うと、「はいっ! マリーン様!」と答えて、感謝の祈りを捧げた。
「では、ここでさらなる試練です」というマリーンの言葉に、誰もが大いに緊張した。
「ドドン星の天使居住区に慰問に行っていただきます。
出立は明後日。
しかし、それまでに出向いてもらうことにもなるかもしれませんので、
私の願いを叶えていただきますよう」
「はっ! ありがとうございます!」と極は満面の笑みを浮かべて、胸に拳を当てた。
「ドドン星のリーテ王には通達済みです。
どうやら天使居住区は治外法権扱いで、
そこから出ない限り危害は加えないそうです。
よって、身に覚えのない無体があった場合、
安全を一番に考えて行動してくださいますよう」
「はっ 承知いたしました」と極は言って、満面の笑みを浮かべた。
「実はね…
修行中の天使たちが少々良くないことをしてしまったのです。
結果的には黒い影を攻撃してしまったのです。
その事実は、誰も知りません。
そして問題は黒い影ではないのです」
「はっ 重々承知しておりますので、
ご安心ください」
極の気持ちいいほどの素早い返答に、「…あー、よかったわぁー…」とマリーンは言ってほっと胸をなでおろした。
「天使たちはこの旅で、
さらなる成長を遂げることは約束されたようなものですわ」
マリーンは言って、ランプたちを見まわした。
「もし、お疲れでないのなら、
食事の準備をお願いしたいのです」
マリーンが極に向けて言うと、「はっ! 喜んで!」と今までで一番の返事して、極は数名の者に指示を出して、大神殿に消えた。
「あんた、甘えすぎ」と燕が大いに苦笑いを浮かべて言うと、「だってぇー… 待ちきれないんだもぉーん…」とマリーンは大いに甘えて言った。
「もっとも、極だけは疲れてないけどね」と燕は言って、少々疲労困憊の仲間たちを見まわした。
「あら? お母様もでしょ?」とマリーンは言って、燕の手を取って席を勧めて、「みなさんもおかけくださいな! そうしていただかないと、極様の雷が落ちますわよ!」というマリーンの明るい言葉に、誰もが一斉に席について、姿勢を正した。
「…まさかだったぁー…」とジャックがつぶやくと、「…光栄なことですが、大いに緊張しています…」と黒崎は大いに苦笑いを浮かべて言った。
そのあとに、フランクが真剣な顔をして、ジャックに語り掛けた。
フランクが不思議に思ったことを、マスターであるジャックに説明してもらうためだ。
マリーンは胸を張って、「三日間、大人しくしていた私へのご褒美です」と言うと、「…まあ、いいんだけどね… 極は大いに喜んでたし…」と燕は言って眉をひそめた。
すると早速、極たちが姿を見せて、まずは天使たちに配膳が始まった。
そして極たちは天使食と、極特製のシェフのおすすめ料理がずらりと並んだ。
「ご飯はいくらでもありまぁーす!
遠慮なくおかわりして下さぁーい!」
サエの明るい声と同時に、「いただきます!」と極が言ってから、猛然たるスピードで食べ始めた。
もちろん誰もが極に倣って、それなり以上に上品に食べ始めたのだが、あまりのうまさに普段の食べ方に戻って、明るく陽気な食事会となった。
「あー… 大復活だぁー…」と極は言いながらも、自分でご飯をついでから、さらに食欲に拍車をかけた。
食事会は盛会のまま終わって、マリーンが立ち上がった。
そして全員が立ち上がると、「今回は本当にお疲れさまでした」とマリーンはまず言ってから極を見た。
「私からのプレセントを、別荘の方にお招きしています。
今はラステリアがお相手しておりますが、
なかなか大人しいお方です。
どうか、様々な方面で利用していただきますよう」
マリーンの言葉に、極は目を見開いて、「本当に、ありがとうございます!」と極は胸を張って拳を胸に当てた。
「次回の宴は、次の旅を終えたあとでお願いいたします」とマリーンは言ってから、静々と、大神殿に消えて行った。
「…そうか、その生物の気だったんだ…」と極は言って燕を見ると、「…どんな子なのか楽しみだわ…」と燕は大いに眉を下げて言った。
宇宙船を所定のドッグに戻してから、極たちは別荘に戻った。
すると極を見つけたラステリアが急いで走ってくると、赤いトカゲがラステリアを追いかけてきた。
「…どこで見つけたんだろ…」と極は言って、大いに眉を下げると、「生まれたばかりだけど、なかなか積んでるわ…」と燕は大いにライバル心を燃やした。
「あっ! 勇者だ!」と火竜が言うと、極は大いに眉を下げた。
「よろしくな」と極は言って、かなり小さな頭をなでると、「なでてもらったよ?」と火竜はラステリアに報告した。
「早速だけど仕事を頼みたいけど、
まずは旅の反省会をするから。
どこかで遊んでていいぞ」
極の言葉に、「うん、わかった」と火竜は答えて、ふわりと浮かんでから、極の肩に止まってうとうとと始めた。
「俺は宿木らしい…」と極が言うと、燕は大いに眉を下げた。
「ボクもいい?」とラステリアが極に聞くと、「どう考えてもお前はでかいから却下」と極は言って少し笑った。
「じゃあ小さくなる」とラステリアは言って、手乗り猫よりも小さくなって、火竜とは逆の肩に止まって、丸くなって眠った。
「キャットウォーク代わりだな…」と極は言って、それほど気にすることなく、広大なリビングに入った。
極はリビングの絨毯の上に全員を座らせた。
「まあ、今回は遠足だったので、
反省会はなしにしようかと思たんだけど、
修練を積んだことにもなったので、
リナ・クーターの映像を確認して、
俺が感心した者三名を表彰したいと思う。
ちなみに、不合格者はゼロで、
全員俺が考えていた以上に働いてくれた。
本当にありがとう」
誰もがほっと胸をなでおろして、胸に拳を当てた。
「まずはどう考えても見習うべきだと思ったのはエリザベス。
第一位だ」
極の言葉に、サエは大いに驚いて、エリザベスに変身して、『ウオウウオウ!!』と大いに吠えた。
「説明はいらないだろうし、
みんなも感心していたはずだから。
まさに手を抜かないところはすごいと思った。
ちなみに組み手の相手は332人。
まさに化け物級の働きだね。
もちろん組み手だけじゃないぞ。
異空間部屋での猛勉強が大いに役に立っていた。
あとの課題は、サエとエリザベスは全く別人なところだけだね。
でも、今のままでも構わないから、
どうしていきたいのかは、サエが自分で決めてくれ」
エリザベスはサエに戻って、「…色々ともっと頑張りますぅー…」と涙ながらに言った。
「そして、第二位と第三位は、
比較的肉体的部分と精神的部分に大いに分かれて、
同率の二位だ。
まずはブラックナイト」
極の言葉に、黒崎は笑みを浮かべて胸に拳を当てた。
「まさに悪魔の扱いがうまい。
精神面、学術面においてはなかなかのスキルで、
教師にでもなってもらいたいところだよ」
極が笑みを浮かべて黒崎を見ると、黒崎は満面の笑みを返した。
「さて同率の第二位だが、
きっとな、クレームが起ると思うんだ。
しかし、リナ・クーターはきちんと見ていた。
はっきり言って、俺を一番驚かせてくれたんだ。
何につけてもすべてが上位。
第二位はジャックだ」
「…おー…」とジャック自身がうなったので、極は大いに笑い転げた。
「確かに悪魔たちや死神たちに修行をつけろとは言った。
しかしジャックはそれ以外にも気になった者たちに寄り添っては
話をしたり遊んだりと大回転だったんだ。
もちろん、パートナーの存在は大きいけど、
それを差し引いても、客観的に見てジャックは自主的に良く動いていた。
もちろんトーマも驚いていたほどだからね」
極の言葉に、ジャックはどうすればいいのかわからなかったようで、下を向いていた。
「まさに、勇者の気質が大いにある、
と、俺は嬉しくなったんだよ」
ジャックは小さくガッツポーズをとって、「…よかった、よかった…」と小さくつぶやいた。
「さて、褒めるべきことは褒めたので、
この先の参考にしてもらいたい。
そして、この反省会の最後は勉強会としゃれこもう。
もちろん、俺たちに与えられた新たな使命についてだ」
極の言葉に、ジャックが大いに眉を下げた。
極はすぐに気づいて、「当てられるのやなの?」と聞くと、「…しまったぁー…」とジャックは小声で言って下を向いた。
「きっとね、ジャックが語ることはないと思うよ」と極が予言すると、今度はフランクが大いに眉を下げた。
「では、マリーン様の指示で、違和感を覚えた人」と極は言って小さく手を上げると、ほぼ全員が手を上げた。
手を上げていないのは、サエと、目を見開いている燕だけだ。
「…乱暴者ふたりにはわからなかったわけだ…」と極が言って眉を下げると、「…乱暴者でごめんなさい…」とふたりは同時に言って頭を下げた。
「では、マリーン様の指示の真意を正確に語れる人」と極が聞くと、ジャックは大いに眉を下げて手を上げた。
もちろん、ジャックひとりだけではないなどと思っていた。
「勇者じゃないけど勇者でいよ!」と極はジャックに向けて言った。
ジャックは首を振って全員を見て、手を上げているのは自分だけだったと気づいた。
「…うわぁー… 間違ってたら恥ずかしいなぁー…」とジャックは大いに嘆いた。
「それはないと思うよ。
天使にも十分に接触していて、
極力その神髄を身につけようと考えていたはずだからね。
まさに、相手の立場に立って、というやつさ」
「…うう… それは認める…」とジャックは渋々答えた。
「では、ここからはジャックではなく、
そのジャックから詳しく話を聞いたはずの、
フランクさんに覚えている範疇で正確に話してもらいたいんだ」
「そういうことかい!」とジャックは叫んでフランクを見た。
フランクは大いに懇願の目をジャックに向けていた。
「もちろん、マリーン様がある言葉を放った時、
それぞれのパートナーはすぐにマスターの異変に気付いたはず。
そうだよね?」
極が聞くと、マスターのいるパートナーたちは一斉にうなづいた。
「…どこが異変ー…」とサエと燕が同時に言って、同じような頭を抱えたポーズをとった。
「もちろん、俺のそばにいたトーマは、
俺からではなく、自分自身で感じて疑問に思ったようで、
厨房に移動してから真相を話したよ。
だからトーマはさらに賢くなった」
「…天使は本当に厳しいと思い知りましたぁー…」とトーマは眉を下げて言った。
「では、フランクさん、お願いするよ」と極が言うと、フランクは決意を決めて背筋を延ばした。
フランクが異変を感じたのは、ジャックが、「…えっ?」とつぶやいた時だ。
さすがにマリーンが話している時には聞けないと思い、あとで聞こうと思い、マリーンに着席を指示されてからすぐに、「なぜ驚かれたのですか?」とフランクはジャックに小声で聞いた。
「…天使は攻撃という言葉は使わねえ…」とジャックが小声で答えると、フランクはすぐに理解した。
「それにだ、練習とはいえ、生物らしきものに攻撃魔法を当てちまった。
もしもハイレベルな天使なら、
白い焔を吐いて昇天していたはずだ。
理由はもちろん、罪悪感。
その天使はまだ駆け出しだったのか、
生物ではなさそうなものに当てたように感じた。
きっと、はっきりしねえから、それほど気にしなかったんだろう」
「ですが、どうしてそのようなリスクがあるのに
攻撃魔法を持っているのでしょうか?」
「第一に保身だ。
やられっぱなしになるわけにはいかねえ。
もちろん、それなりの教育を受けて術を放つ必要はある、
だがな、天使は攻撃魔法とは言わねえらしい。
人々を救う魔法と言うらしいんだ。
天使はな、乱暴な言葉は基本使わねえ。
それを使うとな、肉体ではなく心を傷つけることがあるからだ。
だからこそ、悪魔を母や姉にして、反面教師にしてるんだ」
「…そのような理由があったのですかぁー…」
「かなりめんどくせえ種族だけど、
だからこそ、間違えないために知っておく必要があることが多いんだよ。
さらにだ、魔法を当てちまった天使を救えと極に言った。
さらに、その教育もほかの天使たちにして来いと言ったんだ。
黒い影のことなど二の次さ。
もっとも、この黒い影こそが、俺たちの敵になるはずだ。
だからこそ、悪意に強い天使の攻撃は必要不可欠。
だから攻撃ではなく、悪意をぬぐう術として、
白のエネルギー弾の修練を積ませる必要があるはずだ」
フランクが大汗をかいて語り終えると、極は満面の笑みで拍手をした。
もちろんほかの者たちも追従して拍手をして、「…無関心も程々だわ…」と燕は自分を卑下して眉を下げた。
「いやぁー… 誰も答えられないって思ったんだけどね、百点だよ!」と極は今までで最高に陽気に言った。
「じゃあ、ジャックが教育係」
「言うと思ったぜ…」とジャックは大いに呆れて言った。
「俺と組んで教育係」
「…助かったぁー…」とジャックは大いに胸をなでおろして言った。
「だからこそ、勇者はすべてに気を配り、
全てを広く深く知る必要があるんだよ。
普通の人間じゃあ、
まずできない精神構造を持っているのが勇者でもあるんだ」
「だけどそれを一瞬で理解できたのは極だけだろ?」
ジャックが聞くと、「マリーン様から攻撃の言葉が出た時から、先を読んでた」と極が言うと、「それがその上なわけだ…」とジャックは大いに呆れて言った。
「だから語彙力は高める必要がある。
常に物知りであること。
先読みの鋭さや正確さも鍛える必要はあるね。
さらにはその時の口調や感情や表情も大いに参考になる。
あの時、先々言って悪かったね」
「…うう… それも鍛えておけばよかったかぁー…」とジャックは極との初対面の時に放った自分自身の言葉を思い出して、大いに恥ずかしくなっていた。
有意義な反省会を終え、極は庭に出て、最後に残った広い庭に、豪華な風呂を作った。
そして肩にいる火竜を起こして、巨大なボイラーに火を入れた。
一度火を入れると2日間は持つほどの大容量だ。
極特製の合金が真っ赤になっているが、溶けだすことはない。
そしてボイラーに水を入れると、『シュー…』ととんでもない勢いで水蒸気が上がる。
すると何事かと思った村長のマックラがやって来て、「…おー… 銭湯だぁー…」とうなって満面の笑みを浮かべた。
「もちろん誰でも使ってくれていいから。
何なら料金を取って、村の資金にしてもらってもいいよ」
「今は無料で。
その先は考えさせていただきます」
マックラは言って、早速銭湯に入って行ったが、すぐに出て来て極を仲間にするために腕を取った。
「じゃあ、お前の名前を考えようか」と極が言うと、火竜は、「いつかなぁーってすっごく気にしてた」と少し陽気に答えた。
「忙しくて悪かったね。
今の竜の姿以外に変身できる?」
「うん、できるよ」と言って、幼児だが、なんと女の子だったのだ。
「…男の子だとばかり思ってた…」と極は眉を下げて言ったが、「髪型、変わってるね?」と聞いた。
「かなりの大昔に、ある星に立ち寄った時にね、
そこにいたお母さんがこの髪型してたんだ。
変わり過ぎてたけど、何かの願いがこもっているようで、
気に入ってずっとこのままだよ」
「ふーん… 願い、かぁー…」と極は言って女の子の髪型をマジマジと観察した。
極から見て右側は、三つに分けてみつあみをしていて、まるで蛇のように絡まっていて、後頭部の部分で止めている。
その弱側は顎の辺りからザックリと上に向かって切られていて、まさに神秘的な髪型だった。
「うわさで聞いたんだけどね、
今は男性として転生してて、
マツザキタクナリっていうんだって。
この髪型の時は、リクタナリスって名乗ってたんだ」
「…ん?
なんだかどっちも聞き覚えがあるような名前だな…」
極は言ったが、それほど気にしなかった。
女の子にどんな名前がいいのか聞いたのだが、名前にはそれほど執着していないのだが、真実の名前は極だけが知っておいて欲しいと言った。
「ああ、その知識はあるよ。
名前を悪用されて縛られないためだね」
「うん、そう。
そんな人、大勢見てきたよ。
妖術が使える人は名前で縛ることができるようなんだ。
これって、不幸でしかないから」
「わかった…」と極は言って目を閉じて、女の子を抱きしめた。
「浅く、印象のあるもの…
花が好きなんだね…
じゃあ、偶然が起らないために、
本当の名前は複雑にした。
表面的な名前は、マリナ・ピックルだ」
極の言葉に、女の子は大いに喜んだ。
「怖いお姉さんに言ってくるよ」とマリナは明るい口調で言って、「ああ、行ってこい」と言ってから、「これ、お前の服だから」と言って、ビニールに入っているほぼ赤い服を渡した。
「うわぁー… 楽しみぃー…」と少年のような話し方からついに少女の話し方に変わった。
マリナは幼児らしく危なっかしく走って、脱衣所に出る前に振り返って満面の笑みを浮かべて極に手を振った。
「…可愛い娘もできたな…」とジャックは言ってにやりと笑った。
「あのさ、星の外に出たいんだけど」とラステリアがついにこの星以外に興味を持った。
「さらに勉強したいって?」と極が聞くと、「ボクって無知だったんじゃないかって思っちゃった…」と言ってラステリアはうなだれた。
「できれば急ぎたいが…
その方法もわかってるんだが、
俺がまだまだ未熟だ…
悪いが、もう少し我慢してくれないか?」
「ううん… 無理を言ってごめんね…
その日を楽しみにしてるし、
絶対にできるって、なぜかすごい希望が湧いたよ?」
「そんなもん、簡単じゃあねえか…」とジャックは言って黒ヒョウをひょいと抱き上げて体を洗い始めた。
「勇者の言葉に嘘はねえ。
そして出た言葉は、必ず守られる。
これほどに力を持っている勇者にできねえことはねえはずだ。
だが本人が意地を張らずに修行不足と言った。
これほど誠実なことはねえんだよ」
「あー… さらによくわかったよ…
ジャックも、すごいんだなぁー…」
ラステリアは言って、ジャックを大いに見習っていた。
もちろん勉強会の件も、大いに加味されていた。
「手形がつくほど背中を叩いていいか?」と極がにやりと笑って言うと、「やめてくれ…」とジャックは大いに眉を下げて答えた。
極が銭湯の外に出ると、ほぼ同時に、宇宙を抱いてマリナと手をつないでいる燕が出てきた。
「おっ よく似合ってるね」と極は言ってマリナの頭をなでた。
「うん! すっごくうれしい!」とマリナは満面の笑みを浮かべて答えてた。
「マリナちゃん! あそぼ!」と果林が誘うと、マリナは笑みを浮かべて、果林と手をつないで走って行った。
「精神的に同年代の友達ができた」
「パートナー気質の勉強したいって…」と燕は言って眉を下げた。
「できないことはないだろうが…
それは長い道のりなんじゃないの?」
「しばらくの間はパートナーが限定されるわね…
そう簡単にはコントロールできないから。
だから受け皿の大きい果林にはうってつけかもしれないわ」
「…色々と自覚を持ってもらう必要はあるな…
もしもマリナに願われたら奮起するかもしれない。
ふたりで遊びながら、共に成長して行ってくれたらうれしいな」
「その幸運を祈っておくわ…」と燕はため息交じりに言った。
「マリナの、勉強に対する意識は高いわけだ」
「…うふふ、助かっちゃったかも…」と燕は言ってにやりと笑ってから、宇宙に母の笑みを向けた。
「高い能力を持っているようだけど、
昔返りはできないようだね」
「…過去を振り返らない潔のいい子のようね…」と燕は眉を下げて言った。
「となると、その部分は果林が言ってきそうだな…」
「…大いにあるわ…
どう考えても幼児だから…」
燕はため息交じりに言ったが、極と手をつないでご機嫌になって、「みんなもお風呂行ってらっしゃい」と遊具で遊んでいる子供たちに明るく声をかけた。
翌日の朝までは、マリーンから急な呼び出しはなかった。
極は今日をどうしようかと思ったが、伸びに伸びた博物館の閲覧に行くことにしたが、全員がついてくると主張した。
もちろん、勉強も必要だし、会議室や準備室を借りて知識を蓄えることはできると思い、館長に連絡してから大人数で出かけた。
まさにボディーガードが大勢いるので、ノーマーク会の会長の極がいると気づかれても、誰も近づいてこないことろは安心できた。
だが、どの閲覧室に行っても新鮮味がない。
前回、見ていないはずのものまでなぜか知っている。
そして足を踏み入れていなかった閲覧室ものまで何もかも頭に入っている。
だがここで、「あ、光ってる」と極が言うと、「…久しぶりに来たのね…」と燕は感動して言った。
そこは、長く薄い引き出しで、年表などを保管している棚だった。
そこには、『ご自由に閲覧ください』と書かれているので、閲覧用のコピーが収められている。
引き出しを引くと、そこには少し古い大きな紙があり、傷ついて確認できない場所がある、神の系譜だった。
「…なぜここに…」と極はつぶやいてから、術で紙をゆっくりと持ち上げてから、大きなUVカットシートホルダーを出して、中に仕舞い込んで、ほっと溜息をついてから、館長に念話した。
「やっぱ、読めない…
よく見ると、作為的な傷じゃないね」
「リクタナリスって書いてたはずだよ」とラステリアが言うと、「…リクタナリス… マツザキタクナリ… リナ・クーター」と極が言うと、「…全部似てるわね…」と燕が眉をひそめて言った。
館長が慌てて走って来て、「館内は走らない」と極が穏やかに言うと、館長はバツが悪そうな顔をして、燕たちは腹を抱えて小声で笑っていた。
「おじさんだとばかり思っていたけど、
リクタナシスは女性でおばさんだったか…
しかし、現在のマツザキタクナリさんは男らしい。
何か関係がありそうだ。
だが、宇宙の5大権力者…
いや、5大カップルの名前の中にリクタナリス関連の名前はない。
これは何を意味するんだろうか…」
「この先の楽しみよ」と燕が気さくに言うと、「ああ、そうだね」と極は気さくに言って、燕の肩を抱いた。
極たちは翌朝、予定通りにドドン星の天使居住区を目指して飛んだのだが、少々雲行きが怪しい。
ドドン星の天使居住区を中心にして、宇宙空間に多数の戦艦を確認した。
幸い、極たちが乗った宇宙船の機影はレーダーには捕捉されていなかったので、この場から天使居住区上空にむけて異空間航行で飛んだ。
「まだ探知できないとは…
お粗末なレーダーだな…」
「せっかくの大歓迎の祝砲だったのにね」と燕が愉快そうに言うと、「びくともしなかったけどね… その時、どういった言い訳をするつもりだったんだろうね」と極が答えると、燕は愉快そうに笑った。
天使たちが手製の誘導レーザーを楽しそうに空に向けると、宇宙船はゆっくりとタッチダウンした。
極たちが外に出ると、代表者の天使が走って来て、「マリーン様が驚かせてくださるとおっしゃってましたが、本当に驚きました!」といきなり叫んだ。
「こういった芸当ができる高性能な宇宙船ですから。
おっと、気づいたかな?」
特に気配というものではなく、常に空に張っている天使の癒しに移動してきた宇宙船が触れたせいだ。
そして数隻の宇宙船が天使居住区に攻撃をした途端、その宇宙船は爆発を起こしたようで、すぐに砲撃は止んだ。
「…あいつら、余計なことを…」と極が空に向かってうなると、天使たちは祈りを捧げていた。
天使に敵味方は関係ない。
不幸があれば、その魂を慰めるようにして祈るのだ。
よって天使を戦場に出すと、祈りっぱなしになる。
それができない天使は、確実に徳が落ちる。
よって、天使を戦場に連れて行くことは愚の骨頂と言っていい。
もちろんこの対策はあり、様々な事例などを伝えるために極たちはここに来たのだ。
極たちは天使の代表者のローレンとあいさつを交わした。
そして極は辺りを見回し、「純粋に天使たちしかいないことが悲しいですね…」と極が言うと、「…はい… 救い切れませんでした…」とローレンは悲しそうに言った。
「うちの軍も、それほど賢くない」とマルカスが言うと、「もう待機していたようだね、俺たちが帰ってすぐに出発しないと、この時間に到着できない」と極は眉を下げて言った。
「その件は漏洩ではない。
マリーン様が先に統合幕僚長におっしゃっていたから、
その前日からここに向けて飛んでいたはずだ。
ま、軍事教練の一環としてという理由をつけたと思うけどな。
もしもここに攻撃を加えたら、大艦隊で封じ込める作戦、とか…」
「できれば今は、戦争を起こしてもらいたくないもんだけどね…
天使たちの情操教育上、多大の迷惑が被る…」
するとマルカスの携帯端末が鳴ってすぐに話し始めて、「ただの脅しですか」と言って極に目配せした。
「じゃ、さっそくだけど、天使たちに喜んでもらうよ!」という極の明るい言葉に、天使たちもつられたように、少し暗い顔を明るく変えた。
まずは極は簡単な料理を作り上げ、天使たちの腹と心を満たして陽気にした。
さらには、三種の神器をローレンに渡し、天使たちは大いに感動している。
そしてネックレス以外を天使たち全員に配ると、チョーカーを首に巻きあい、様々なポーズをとって天使の盾を出して陽気に笑った。
「…辺りの空気が一変した…」とジャックはうなってから、笑みを浮かべた。
「今までにない安堵、だろうね」と極は言ってから、かわいらしい天使たちに笑みを浮かべた。
そして白竜を模した異様に柔らかい像と、大爆笑プルプルボールをローレンに献上すると、誰もが大いに祈りを捧げた。
そしてプルプルボールで大爆笑して、さらに辺りの空気がよくなっていった。
「いた」と極は少し小さな声で言って、東の壁を見た。
「安全距離が安全じゃなくなったわけね…
天使たちを喜ばせただけで、
時間的猶予はできたわね」
燕の言葉に、「きっと十分だ」と極は答えて笑みを浮かべた。
「何と表現した方がよろしいのか…
煌様はマリーン様の盾とお聞きしていましたが、
その程度のはずがございません」
ローレンの感動した言葉に、「盾は私の役職の一部です」と極は明るく答えた。
「じゃあそのヒントを…」と極は言って、「やあ、姉ちゃん! 俺だよ俺! 着いたよ!」と極が陽気に念話を始めると、燕は腹を抱えて笑った。
そして極が今あった一部始終を話し終え、念話を切ろうとしたが、「それほど引き留めると修行に差しさわりがあるから…」と眉を下げて言ってからしばらくして念話を切った。
「と、いうわけです」と極が言うと、ローレンは、「…色々と理解できたと察します…」と目を見開いて言った。
ついに修行となったが、極とジャックは大いに甘々だ。
天使の場合、飴に飴を重ねてから、さらに優しく言い聞かせる。
そうすることで、天使たちのやる気を引き出すのだ。
よって修練中も、その鼻先にエサをぶら下げたりもする。
心からの天使でないと、この指導は務まらない。
よって極とジャック以外は、この天使居住区の整備や農地などの造園などの雑用を始めた。
しかし修行が終われば、天使たちは強い者たちにしがみつく。
まずは大勢の天使たちはエリザベスに群がった。
よってほぼ第一印象の人気投票の結果は一目瞭然で出そろった。
「エリザベスとブラックナイトはもう天使で」と極が愉快そうに言うと、燕は陽気に笑った。
しかし群がっている人数はバンが最多で、うろこが危険と天使たちは察して悲しそうな顔をした。
「バン! 多少は頭を使え!」と極は言って、透明の防護服を出してバンに投げ渡すと、「しまったぁ―――っ!!!」とバンは叫んだが、すぐに防護服を着て、大勢の天使たちが一斉に群がった。
ここからは早速術の修練に入ったが、必要なのは燕、トーマ、そしてウータだけだったので、ほかの者は大いに暇になった。
「じゃあここで、みんなで追いかけっこだ!
ただただ待ってるだけじゃ、詰まらんからな!
兄ちゃんや姉ちゃんたちを捕まえろ!」
極の言葉に、「…うまいわぁー… それに、この大人数は、小さな天使だとしても強敵だわ…」と燕は言って猛然と走り出した白い塊を見入った。
「捕まえられる方は本気で逃げるものいいし、
紙一重で逃げるものいい。
だけど、どれほどスタミナが残るのかが重要だ。
この追いかけっこは、そう簡単には終わらないからね。
ほら、ついには空を飛び始めた」
その間に、燕たちは天使たちを抱きしめて、極が作り出した人形を使って楽しく人形を操り始めた。
暇になった極も追いかけっこに参戦しようと思ったが、ふと気になって地面に手のひらをつけた。
「…む… 余裕はあるが、少々危ういか…」と極はつぶやいてから瞳を閉じ、この辺りの清々しい空気を大いに吸い込んでから、手のひらから空気を流すように気合を込めた。
それを数回繰り返してゆっくりと立ち上がると、『地面から黒いクジラが出てきましたぁー!!』と見張り番の天使が緊急放送を流した。
「訓練中止!!
全員、塀の頂上に飛べ!!」
極は叫んで真っ先に飛んで、高い塀に両足をつけた。
「…これが、厄災か…」と極がつぶやくと、「知識としてあったのね」と隣に降りてきた燕が眉間にしわを寄せて、のたうち回っている巨大な漆黒のクジラのようなものを見入った。
「言っておくが苦しんでいるんじゃない!
少し黒い服を脱がされていやがってるんだ!
それに、あの黒い塊の中に35の魂がある!
俺たちはその人たちを助けなくてはならないんだ!」
極の気合の入った言葉に、「はいっ! 極様っ!!」と大勢の天使たちが一斉に叫んだ。
黒い塊が地面に潜ろうとしたが、「逃がすもんか!」と極は叫んで、黒い塊ごと宙に浮かべて、すぐさま結界を張った。
「よっし! 全て捕らえた!」と極は言って、丸い結界を転がして、少しだけ近づけた。
「じゃあみんなで、黒い服を脱がしていくぞ!」
極の気合の入った言葉に、天使たちは一斉に清々しい返事をした。
すると、予想通り邪魔が入りそうになった。
数機の戦闘機が飛んできて、厄災に向かって攻撃を始めた。
だが結界に阻まれていて攻撃が届かないことを知って、戦闘機は旋回を始めた。
極はリナ・クーターから特殊回線を開いて、リーテがいる城につないで、「あんたらの悪の根源がこの黒い塊の厄災だ」と極は落ち着いた声で言った。
『だったらこっちで倒すわ!』と通信に出たのはリーテだった。
「そんな兵器など通用するもんかい。
一番効き目があるのは天使の癒しなんだよ。
爆発させて燃やしても、すぐに復活するんだ。
人間の兵器なんて、何の役にも立たないんだよ」
『…くっ!』とリーテは悔しそうに言ってから、『お前が作り出したんだろ!』とリーテは悔し紛れに言うと、「もしそれが本当なら、こんな辺鄙な場所に出すもんかい」と極は鼻で笑って言った。
「何なら放してもいいんだぜ!
人間がどれほど無力か、大いに思い知るはずだ!
どうするんだ、この大バカ野郎…」
極の畏れが乗った言葉に、リーテは意味不明の言葉を叫んだが、『全軍撤退!』の言葉だけは聞き取れた。
「あ! 大変そうだから手伝いたい!」と人型のマリナが言って、すぐに小さな火竜に変身した。
「そうだな、まずはそれでいいか…
この火竜マリナの仕事を見ておいて欲しい!
きっと数名はすぐに助けられるはずだから、
癒しが得意な者は準備しておいてくれ!」
極の言葉に、天使たちの年長者が班分けを始めた。
「すぐにでも半分にしちゃう!」と火竜は叫んで、体に似合わないほどのとんでもない火を噴きだした。
すると外から干渉できる部分から火が一気に内部を襲い、結界内は巨大なオーブンレンジとなった。
「魂が中央に寄り添った!
もう一発!」
極の気合の入った言葉に、マリナが同じ火を放ったが、目を回して倒れこんだ。
「あらあら、お疲れ様」と燕は優しく言って、やさしく火竜を抱き上げた。
「…はは、半分になった…」と極は言って、大いに眉を下げた。
すると厄災本体から逃げるように黒い塊が数個現れたので、極はそれぞれを個別に結界を張って外に出した。
「まだ服を脱ぎ切っていない!
まずは慎重に服を脱がせてから癒しだ!」
「はぁーい!」と天使たちは陽気に答えて、一斉に白のエネルギー弾を放ったが、まるで優しいドッジポール投げほどのスピードだった。
もちろん、白のエネルギー弾には癒しも含まれているので、悪霊と言っていい人型の塊は大いに苦しむ。
だが、黒い霧が薄くなってすぐに天使たちは攻撃をやめて癒しに切り替えた。
すると見る見るうちに人間が現れて、天使たちは、「…ああ、救えた…」と大いに感謝して祈りを捧げた。
この前例は大いに役立ち、天使たちは一斉にやる気になった。
全てを救いたいと少々欲を持ったが、この状況での正の感情は大いに認められる。
「じゃ、あとは私に任せて」と燕は言って緑竜に変身して、緑色の雨を降らせた。
「…うう… 溶けていく…」と極は眉を下げて、巨大な塊ではなくなった厄災を見入って、ひとつずつに結界を張って、大きな結界は完全結界に変えて一気に圧縮した。
すると結界内に一気に火がついて、爆発を起こしたが外にはわからない。
そしてさらに圧縮して、また新たなレアメタルが完成した。
「悪意もパワーあるが、スッカスカだから、豆粒にしかならなかった」と極は眉を下げて言った。
数名を救い終えた時に、「手すきの者は空に向けて癒しを放て!」と叫ぶと、「出番、またきたぁ―――っ!!!」と燕が大いに喜んで、天使たちの巨大な癒しを受けてすぐに、巨大な翼で激しく羽ばたき、大風を起こした。
「これで、少しは善人になっていくだろう」
極は言って、雲一つなくなった青空を見上げて言った。
助け出した人々は、時代が全く違う服を着ていて、ひとりを除いてはドドン星人だと極は確認した。
そして唯一、別の星の天使がいて、どう考えてもソルデの関係者のマルティンだろうと確信した。
それは悪魔ソルデと面差しがよく似ているという、視覚的状況によるものだ。
「この天使は少々危険だと言える。
実はな、天使がしてはならない人間との恋に狂ったんだよ。
だから本当の意味では救えないかもしれないんだ」
極の言葉に、天使は一斉にうなだれたが、ランプがすぐさま祈りを捧げると、天使たちは一斉にランプに倣った。
「いい後押しだ」と極は陽気に言って、眠っている天使を見た。
「ランプ、ピアニア、試練だ」
極の言葉にピアニアは緊張したが、何度も首を横に振ってから、ランプとともに、「何なりと!」と叫んだ。
「この人たちの肉体の状態を確認してから、
天使のオーラを纏って魂に飛び込め。
全員にそれができれば全員真の意味で救われる」
極の言葉に、大勢の天使たちは祝福を願い始め、ランプとピアニアに祝福を与えた。
「いや、ちょっとまて」と言って極は大いに苦笑いを浮かべた。
「天使の協調を引き起こすところだった…
今のは危なかったな…」
極が大いに嘆くと、「…とんでもなことになるはずだったのね?」と燕が眉を下げて聞くと、「ああ、あとで話すよ」と極は言ってから、細かい指示をランプとピアニアに与えた。
まずはランプを大いに下げさせてから、ピアニアが薄い天使のオーラを纏い、17名の魂に飛び込んだ。
誰もが等しく体をねじって苦しんだように見えたが、すぐに落ち着いた。
「よっし! 完璧だ!」と極は言ってピアニアをほめた。
そしてランプの施術も何事もなく終わった。
「あとはこれをみんなに飲ませて欲しい」と極は言って、水色のキャップのペットボトルを出した。
「…太る水…」と燕が眉を下げて言うと、「今は倍に太ってもいいほど、みんなスレンダーだからね」と極は陽気に言った。
「では、この辺りをさらに清々しくしよう。
ランプとピアニアはまた天使のオーラを纏ってもらう。
要領は今と一緒でいい。
そして呼吸を合わせて放ってもらうが、
その一帯はすべて浄化されてしまう。
まさに、ふたりが一体となって、マリーン様の力に匹敵する技なんだよ」
「…うう… それは怖いわ…」と燕は言って大いに眉を下げた。
よってふたりは、みんなから一キロほど離れて、生物をすべて避難させてから、呼吸を合わせて弱い天使のオーラを放つと、『ボン』という軽い爆発音とともに、500メートルほどの範囲で、弱い浄化が起こり、雑草などは真っ白になり、表面の土は砂に変わった。
ランプとピアニアは抱き合って喜んで、大いに陽気になっていた。
「天使はな、こういったことまでできるんだ。
決してただただ弱い種族ではないんだよ」
「…反則くせぇー…」とジャックは大いに眉を下げて言った。
「そして、私の出番だわ」と燕が言って緑竜に変身して、緑のオーラを流して翼で扇ぎ、浄化された部分に青々とした緑が覆い茂った。
「あとは虫と動物がやって来て、
素晴らしい自然に返してくれるさ」
極の言葉に、天使たちは一斉に感謝の祈りを捧げた。
意識を取り戻したマルティンへのインタビューは燕が引き受けた。
もちろん、極に向かって余計な感情を抱かせないためだ。
しかも全ては天使たちの働きとしていたので、色男の極にいい寄るわけにもいかなかった。
極はソレイユに念話を入れて、「燕さんに飛んでください」とだけ言うと、『…はいぃー…』と悲しそうに答えた。
できれば極に向かって飛びたいようだったが、燕から飛び出して目を見開いた。
何も聞かされていなかったのだが、ソレイユは極の言葉は無条件で信じるので、ソルデにも何も言わずに燕の魂に向かって飛んだのだ。
「お姉様!!」とソレイユは叫んで、すぐさま目の前にいるマルティンを抱きしめた。
「…ああ、これはどういう…
…ああ、素晴らしい夢だわ…」
マルティンは感動して言ったが、「じゃ、現実に戻るためにソルデに叱られてらっしゃい」と燕が言うと、ソレイユはすぐさま燕と極に頭を下げて、マルティンとともに消えた。
「号泣、してるんだろうなぁー…」と極が言うと、「…してるわね…」と燕は涙ながらに言って、極の右腕を抱きしめた。
ドドン星には長期の予定のつもりで来ていたのだが、目を見張るほどの素早い展開に、極たちが大神殿に戻った時はまだ夕方だった。
「…すっごく早かったぁー…」と極たちを出迎えたマリーンの第一声はこの言葉だった。
「それほど甘えられないって?」と燕が笑みを浮かべて聞くと、「せめて帰りが明日でしたら、多少のおねだりも許されたされたかも…」とマリーンは言ってかなり恥ずかしがっていた。
「では、明日の昼食などいかがでしょう」
極の進言はすぐさま採用されて、全ての報告を終えて極たちは別荘に戻った。
まずは風呂に入ることにして、短い時間だったが濃縮された疲れを癒した。
「…おっと、一難去ってまた一難…」と極は言って、大神殿のリナ・クーターを宇宙に飛ばして、威嚇として何の作用も起こさない閃光を放った。
「あ、停船したね。
たぶん引き上げるだろう」
極が笑みを浮かべて言うと、「どこだったの? まさかドドン?」と燕が眉をひそめて言うと、「かなり大昔にここと戦ったギアという星の船籍だったね」と極は答えた。
「…船籍はギアだということだけね?」と燕が言うと、「今は少し休憩させてほしいね」と極みは言って、燕の腰を抱いてベビーカーを押した。
極にとって、今回の件は大いなる戒めとなった。
よって心を癒す必要があると感じていた。
ひとつ違えれば大惨事となっていたのだ。
よって新しことは入念に確認してから使うようにすることを心に決めた。
「大軍がラステリアから出撃したという情報を聞いて、
攻め込もうとでも思ったんじゃない?
だから艦隊としてはわずか20ほどだった。
どう考えても、ラステリアに上陸しても勝てない戦いだったと思うけどね。
あ、ほら」
極は言って、三十隻ほどの宇宙船が宇宙に飛び立っていく様子を見入った。
「さすがにお呼びはかからなかったけど、ここに来るね」と極は言って、燕とともに縁側に座った。
すると案の定キースがやって来て、「警告ありがとう、だってさ」と眉を下げて極に言って、キースも縁側に座った。
「…詳しいことを聞いてこいって…」とキースが眉を下げて言うと、「船籍はギア星のものでしたが、ここは穏便に確認した方がいいでしょう」と極が言うと、「大いに助かった」とキースは言ってすぐに立ち上がって、「連投で大変だったね」とやさしい言葉をかけてから、扉に入って行った。
「いい兄ちゃんだよ」と極は機嫌よく言った。
「次はジャックに司令官を託そうか…
俺は後ろから見ているだけ」
「今はまだダメ」と燕が言うと、「…厳しいねぇー…」と極は苦笑いを浮かべて言った。
「もちろん極のためよ。
どれほど疲れていても心に重荷があるとしても、
その程度のもの、ははじき返すほどじゃないと、
すぐにでも折れちゃうわよ」
燕の厳しい言葉に、「…大いにある…」と極が言うと、燕は大いにはずかしそうにして腰を揺らした。
「あっ! そうか!
こういう時こそ、女性を抱いて、心機一転頑張るんだね!」
極の叫び声に、燕は大いに焦った。
すると、「おいおい、色っぽい話をしてるじゃあねえかぁー…」と蘇ったジャックはそれなりの筋の者のように言った。
「あっ ついつい叫んじゃった…」と極は言って照れくさそうに頭をかいた。
「…その方面はお子様だったんだな…」とジャックはすぐに理解して眉を下げた。
「…ま、それ以外で楽しいことでいいんじゃねえの?」
ジャックの言葉に、「みんなを鍛えまくる」と極が笑みを浮かべて言うと、ジャックはじわりじわりと極から距離を取り始めた。
やはり戦士には休息も必要なのだが、極は気を抜くことなく修練場をひと通り駆け巡ると、「…俺は、何をくよくよしていたんだろう…」とつぶやいて、素晴らしいほどの青空を見上げた。
やはり体を動かすことが一番として、組み手場に行ってバトルロイヤル形式で大勢の者たちを正面に見て、それを一瞬にして倒してから、瞑想に入った。
―― なんだかすっきりしたな… ―― と極は思っていたが、それに付き合わされる者たちはたまったものではない。
しかし一瞬でも極と同じ時を過ごせたとして、修練場や組み手場にいた者たちは高揚感を上げていた。
もちろん、特別部隊に呼ばれることも考えられるからだ。
呼ばれるのは能力者だけではない。
一般兵もさらには事務方にも声がかかる。
だが、極の穏やかなひと時も、『極様』というマリーンの念話で打ち消された。
マリーンの感情は穏やかだと察して、「まさか、ソルデのやつでしょうか?」と極は大いに眉を下げて聞くと、『ひと言お礼をと… もちろん天使としてはその願いを叶えて差し上げたいのです』とマリーンはまさに威厳を持ってこの言葉を放った。
「今は軍の修練場にいますので、都合はいいのです。
ソレイユさんには結界でも張っておきますので、
私に向かって飛んでくるように伝えていただけますか?」
極はこういったが、極がソルデに念話をすればいいだけだ。
これは極の気づかいで、マリーンに頼むことによって、極はマリーンに対して感謝を向けるという礼を受けることになるのだ。
さらにはソレイユとソルデからも感謝を受けることになる。
こういった細かいことも、天使とのコミュニケーションである。
『かしこまりました、いますぐに。
それではごきげんよう』
マリーンは穏やかに言って念話を切った。
するとほんの数秒後に、ソレイユとソルデが極から飛び出してきたので、極はすぐさまソレイユを包み込む結界を張った。
「この方がよさそうだ」とソルデは言って、ソレイユを囲んだ結界を拳で軽く叩いて、辺りを素早く見まわした。
「おまえは大人しくしてな!」とソルデが判断を終えて叫ぶと、結界内にいるソレイユは大いにうなだれた。
その理由は自由を奪われたことと、周りが全く見えないことにある。
しかし、ソルデの声は聞こえるし、結界を放ったのは極だと確信している。
よってソレイユはソルデの言葉通りに大人しくしていることにして、深いため息をついた。
よって、ここには見てはいけない、感じてはいけないものが確実にあると、ソレイユは察して悲しく思った。
「おまえの天使たちはよくこんなところで生活できるな…
あいつらの半分ほど、成敗してきてもいいか?」
ソルデが組み手場に倒れている者たちを見て言うと、「これがごく普通の世界だと、ソルデだってわかっているはずだ」と極が言うと、「…すまん… 閉鎖した中が長かったから、少々甘やかしすぎていた…」とソルデは極に頭を下げた。
もちろんその理由は、マルティンを失い、さらにはソレイユまでも失うわけにはいかず、過保護になっていたからだ。
「ここで素朴な質問だ」と極が気さくに言うと、「…な、なんだぁー…」とソルデは大いに虚勢を張ってうなった。
その姿を見て燕は愉快そうにして笑っている。
「それほど気張るな。
ごく自然なことだ。
お前の父ちゃんの星の創造神は?」
極の言葉にソルデは深いため息をついて、「必要ないと知った日からボケ始めた」と真顔で言った。
「なるほどな…
今までの修行と、
さらには星の創造神としての使命はもうないと判断したわけだ。
それは大いに間違っているんだ」
極の言葉に、「…ああ、それは最近気づいた…」とソルデは大いにうなだれた。
「あら? そうなの?」と燕が聞くと、「魂の循環システムを使った方が、いい人間が生まれる可能性が高いんだよ」と極が答えると、「…魂を丁寧に処理して宇宙に放つから…」と燕は言って納得したようで何度もうなづいた。
「だからこの百年、それほどいい人間は生まれていないと感じたていた。
もっとも人間たちは、どちらかといえば、ドドンの傀儡だったんだろう。
よって科学技術も頓挫して、
研究者はレベルが低いやつらばかりじゃあじぇねえの?」
ソルデは諦めたような口ぶりで、他人事のように言った。
「それに肝心かなめの神は?」と極が聞くと、「神殿をほっぽりだして消えた」とソルデはあきれ返ったように言った。
「それでか…
悪魔のエリアも消えたんだな?」
ソルデは極を少しにらんで、「ほんとに呆れるほどに物知りだな…」とあきれ返って言った。
「勇者の能力のようなものだ。
こうやって確認しておかないと、
それが正しいのかどうかわからないからな」
「次からは料金を取ってやる!」とソルデは叫んで、腰に拳を当てて愉快そうに笑った。
「無謀な金額じゃなかった払うぞ。
…マルティンさんは新生天使を産む天使ということでいいの?」
「そうだ」とソルデは答えて、「俺たち三姉妹の母ちゃんも、父ちゃんとともに逝った」とソルデは無感情で言った。
「…そうか…
できれば魂の循環システムだけでも復活させたいところだな…
だが、ないものねだりをしても仕方ないか…
それから先に言っとくが、
土着の天使や悪魔は生まれた星で生活した方がいい。
その理由は能力的に落ちるらしい」
極の言葉に、「…じゃ、じゃあここに来たらまずかったんじゃあねえのか?!」とソルデが叫ぶと、「ほんの数分なら何も変わらないさ…」と極はあきれ返って言った。
「だがな、その縛りを解く方法はあるんだ。
俺が未熟だからできないけどな」
「…くっ… この役立たずのガキめ…」とソルデが言うと、極は大いに笑って、「反抗すらできない!」と叫んだ。
「俺はわずか14才だからな。
ま、ガキだから許してくれ」
極が冗談ぽく頭を下げると、「…ガキなんかじゃねえ…」とソルデが小声で言うと、「そりゃよかった」と極は笑みを浮かべて言った。
「あとはそうだな…
土着の悪魔とノラ悪魔の関係性。
実はどちらも同じらしい。
違うのは、土着の悪魔も天使も神も、星の神であることの違いだ」
「…うっ!」とソルデはうなって、大いに眉を下げて極を見た。
「思い当たることがあるんだ」
「俺の心の中に、意味不明のスイッチがあることを、
生まれた時に気付いた。
父ちゃん聞くと、押したきゃ押してみればいいと言って笑ったんだ。
そう言われると、押そうと思っても怖くて押せねえ…」
「ま、自爆スイッチかもしれないからな」と極が言うと、燕が腹を抱えて笑い始めた。
ソルデは横目で燕を見てから極を見ると、「今だったらその説明とかも見えるんじゃない?」と極が気軽に言うと、「…うー…」とソルデはうなって、心という名の魂を探り、「…システムオフ…」とつぶやいた。
「魂の循環システムからの離脱、ということでいいと思うね。
この件はマルティンさんと相談した方がいいと思う。
ちなみに、マルティンさんは常に新生天使を産んでいたの?」
極の言葉に、ソルデは大いに目を見開いた。
「…何度も、産んでない期間があった…
ただの偶然だと思った…
増えすぎると困るかもしれんから、システムオフにした…」
ソルデはゆっくりとつぶやいてから、頭を抱え込んで激しく上下に振った。
極と燕はあまりにも滑稽で不器用なソルデを見て、腹を抱えて笑った。
「だけどな、その時に注意する必要がある」
「…今度は、なんだぁー…」とソルデがうなると、「大元をオフにすると、手下全てがオフになる、と思う」と極が言うと、「…色々と考えてからだな…」とうなだれて言った。
「では、オフにするとどうなるのか。
姿かたちは変わらないと思う。
となると、システムで使っていた領域全てが悪魔となって、
今よりも数段強くなると俺は思うんだ」
「…希望もあった…」とソルデは大いに感動して涙を流した。
「だからシステムオンにすると、弱くなって、
オフにした時に修練を積んだ分がご破算になるかもしれないから、
確認は重要だと思うね」
「…おまえが来て確認しろぉー…」とソルデが言うと、「マルティンさんが知ってるって思うけど?」と極は言って少し笑った。
「…うう… 早速帰って確認する…」とソルデは申し訳なさそうに嘆いて、ソレイユを囲んでいる結界をノックした。
極が結界を解くと、「やっと出られたぁー…」とソレイユが言ってすぐに、「マルティンに飛べ!」とソルデが叫ぶと、ふたりは消えた。
「なかなかうまいね。
脅して飛ぶように仕向けたわけだ」
「…私なんて、全然乱暴じゃないわ…」と燕はあきれ返って言った。
「だけど、なかなかずるがしこいヤツ」と極が言うと、「あら? どうして?」と燕が聞いた途端に思い当たった。
「礼を言ってない」と極と燕が同時に言って、大いに笑い転げた。
体が冷えかけてきたので、極はジョギングがてらに登山ランニングコースを走った。
気分はジョギングだが、もうすでに走っている者たち全員を周回遅れにした。
すると犬の姿のトーマが並走してきて、二人そろってランニングコースを楽しんだ。
「たまには射撃訓練場にでも行くか」と極が言うと、トーマは飛び跳ねるようにして喜んだ。
極とトーマがペースダウンすると、「どんな体力してんのよ!」と宇宙を抱いたままで走っていた燕が追い付いてきた。
「抱いたままでよく走って来たもんだ」
「母は強いから」と燕は言って、宇宙に笑みを向けた。
極、燕、トーマの三人が移動を始めると、何かを感じたパートナーたちもついて行く。
その先が射撃修練場だったので、いい予感は当たったのだが、その先は地獄だと思ったようで、サエ、パオ、ウータ、バン、フランク以外は大いに戸惑った。
だが、勇気を振り絞って室内に入れば世界は変わると考え、譲り合いながらも室内に入って行った。
「…何を戸惑っていたんだ…」と軍人たちは不思議に思って室内に入ると、極がいたことに気付いて納得した。
この射撃訓練場は、特に能力者専用ではなく、銃などの訓練や新兵器の開発班なども使用する。
特にスナイパーたちは少々騒がしいこの部屋を気に入っていた。
一度訓練に来れば、実戦の時に心穏やかに標的を狙えるようになるからだ。
実弾訓練は奥の方に設定されているので、誰もが極がいる混雑しているブースを眺めながら移動する。
そして自分たちの武器を見て、―― 必要なければどれほど楽か… ―― と、いろんな意味を持って考えながらゆっくりと移動する。
極は大勢のパートナーたちがやってきたことを喜び、ひとつの的ごとに交代させて的を狙う。
本来はパートナーが自分の世界に誘うのだが、極だけは全く違って、まさに自分自身がブースターだと思い知る。
回数は少なかったのだが、パートナーたちは満面の笑みを浮かべて極に礼を言って、極とともに外に出ようと思っていたのだが、極はなぜだか燕とトーマとともに奥のブースに行った。
そして武器開発班の武器を見てすぐに、極は同じような武器を出して射撃訓練を始めた。
「初速が遅いのが気になります」
極の言葉に、開発班が杞憂だった事実を思い知って、「無駄な時間を過ごさなくて助かった」と言って、極に苦笑いを向けた。
「武器は好きではありませんが、平和をつかみ取るためには必要。
ビーム兵器の開発はどうなっているのでしょうか?」
開発チームのメンバーたちは口頭で現在の開発状況を語った。
「それだと拡散してしまって使い物にならないのですが、
衝撃だけを与えて殺傷能力の低い武器ならできますよ」
極は言って、比較的近い10メートルの位置に的を設定して、銃身の短い少々近未来的だがコンパクトで軽そうな武器を出して早速撃つと、『バフ』という低い音がして、的が少し窪んだ。
「おー… 威力の低いショットガンだが、対象物は吹っ飛ぶはずだ…」
開発員は的の衝撃データを見てうなった。
「諜報班には持たせておいていいと思います。
軌道修正して提案書を書き直すのもいいと思います。
参考資料です」
極は言って、それほど厚みのない冊子を手渡した。
「空気圧縮砲かっ!!」とひとりが叫んで、「…ビームガンがなぜこうなった…」と興味津々となって資料を読み始めた。
「ところで、スパイが持っていたビームソードの解析はどうなったのです?」
「俺たちの担当じゃなくてね…
諜報班との特別チームを立ち上げて解明中だけど、
どうやら再現はしない方がいい代物が使われているそうだ。
エネルギーが少々危険すぎるらしい…」
開発員が眉を下げて言うと、極は確認していたビームソードと同じような筒を出して、「これなら安全です」と言って、筒を強く握ると、音もなく粉を散らしたような剣の刃が出た。
そして的を軽く切り落とすと、「…俺たち、クビかも…」と言って大いに眉を下げた。
「実は、先ほどの銃もこの剣も、
広い宇宙のどこかで使われているものなんです。
実はこの剣、人体や生物は切れないのです。
面白いですね。
ですが服は切れますし、武器も切れます」
極は言って燕と相談して、人型に見える木を創り出して軍服を着せて、極が創った武器などを装備させた。
「植物人間が攻めてきた!」と極が叫ぶと、燕と開発員たちは腹を抱えて笑った。
そして極が剣を振るうと、服や兵器がすっぱりと切れていたが、木には傷ひとつついていなかった。
「…うう、なんという手品…」と開発員が眉を下げてつぶやくと、極は愉快そうに腹を抱えて笑った。
「訓練で使えば剣と向き合う度胸はつくと思いますし、
これも軽装部隊や諜報班に持たせるべきでしょう。
使わないとしても携行していれば役に立つと思いますし、
細いですが盾にも変化します」
極は言ってボタンを押すと、幅はないが体を包み込む盾となった。
「エネルギーは電気で、バッテリーが燃料タンクです。
小さいのですが少々重いのが難点ですが、
昼ならばいつでもエネルギー補給ができる優れものですから。
もちろん、予備のスティックを持っておけば、
早々重くはなりますがかさばらないので、安心できるでしょう。
夜の場合、常に出しっぱなしで、二時間ほど使えます。
問題はこの武器が敵の手に渡った時ですが、
解明される事態に陥った時の対応策として、
分解すると、基盤は黒焦げになって解明できなくなります。
バッテリーの技術だけは漏れてしまいますが、
この星にしかないと思われる元素を使っていますので、
再現は不可能なはずです」
極は言って、今度は分量がある資料を出した。
「ちなみに発電所で使っているバッテリーも同じ構造なので、
それほど秘密というわけではないのです。
武器もできれば安全第一で開発していただきたいものですね。
ちなみにショットガンも剣も、
少々お高くて、今までの武器の十倍から数十倍の費用が必要です」
極の言葉に、「…そりゃ、実現不可能だよ…」と開発員は眉を下げて言ったが、極は笑みを浮かべていた。
「その高価な原材料はここで掘り出しているので、
実際の材料費はゼロ同然ですから、
担当の幕僚長と直接お話ししてください。
資料にも詳しく書いてありますから」
「…まさかの逆転劇だった!」と開発員たちは大いに喜んで、極に礼を言ってブースを出て行った。
「…安全な武器…」とトーマは言って極を見上げた。
「ほら、トーマ用」と極は言って、さらに小さな銃と、さらに小さなスティックを出した。
「うっひょっ! やったぁ―――っ!!」とトーマは叫んで、早速別のブースに入ってその性能を体感した。
「…私も欲しいぃー…」と燕が眉を下げて言うと、「いらないだろ…」と極も眉を下げて言ったが、ノーマルサイズの銃とスティックを出して渡した。
「うふふ、誰をからかおうかしらぁー…」とかなり陽気に言って悪だくみを始めてから、宇宙を極に託してからブースに入った。
燕にとっては面白道具だったと思い、極は苦笑いを浮かべてが、宇宙の寝顔を見て笑みを浮かべた。
「宇宙はどんな勇者になるのかなぁー…」と極は笑みを浮かべてつぶやいた。
夜の別荘の縁側で、「…ふーん…」と極は言って夜空を見上げた。
「感心してる場合じゃないと思うけど?」と燕が眉を下げて言うと、「悪意を感じない」と極は言った。
「…うう… さっきのは悪意を感じたからすぐに対応したんだぁー…」と燕は眉を下げて言った。
「助けを求めて、かもね…
ここは出張ってもいいが、
軍に任せて大丈夫だろう。
それに隕石の時だって、
悪意を感じなきゃ対応できなかったと思う。
大きな隕石が接近していたって、あとで知ったはずだよ」
「…さらに危機回避を敏感にした方がいいんじゃないの?
不運な偶然が怖いわよ?」
「ああ、そうしなきゃいけないと思ったね」と極は決意の目をして言った。
『極様、お母様』と極と燕の頭にマリーンの声が響いた。
「今夜も素晴らしく星がきれいですね」と極は夜の挨拶をした。
『あのぉー…』とマリーンは先の言葉を言いづらそうにつぶやいた。
「極は気付いているわ。
悪意は感じていないから、普通の軍に任せることにしたようよ」
燕が言うと、『願われていないのですが、調べるとまさに不幸で…』とマリーンは少し嘆くように言った。
「その事実を知ってしまうと、そう思われて当然でしょう。
では、リナ・クーターに乗って確認してまいります」
「あんた、出しゃばるのも大概よ」と燕が厳しい言葉で言うと、『…ちょっとだけ、欲がありましたぁー…』とマリーンは大いに嘆いた。
「明日の昼食会、中止になるかもよ?」
燕の厳しい言葉に、マリーンは自分のうかつさを大いに嘆いて、大いに懺悔の祈りを捧げた。
「父さん、リナ・クーターで出るから」と極は言ってから、南東の空を指さした。
「わかった、あとはやっておく」とマルカスは言ってすぐに立ち上がって、素早く軍服に着替えてから、扉をくぐって行った。
「…大忙しだねぇー…」と幸恵が眉を下げてうと、「今回はマリーンの欲よ」と燕があきれ返って言うと、誰も何も言えなかった。
母である燕だからこそ、マリーンに対して厳しい言葉を使える特権のようなものだ。
「言いふらさなくていいんだよ」と極が普通に言うと、格納庫にいた通常サイズとトーマ専用のリナ・クーターが飛んできた。
「早いもん勝ち」と極が言うと、果林が真っ先にトーマに抱きついた。
「…抱きついていいのかぁー…」とエリザベスが極に額を押し当てて聞くと、「あとで燕さんが怖いと思うけど?」という極の軽い言葉に、エリザベスはサエに戻って、「…私ったら…」と大いに照れていた。
その次に並んでいたのはかなり素早かった黒崎だった。
もちろん、極の感情に敏感なサエは、先読みしてすでに並んでいたという事実はある。
「ついに本領発揮ですね」と極が黒崎に笑みを浮かべて言うと、黒崎は機嫌よく胸に拳を当てた。
極たちはリナ・クーターに乗り込んで、ラステリアの大気圏を飛び出した。
普通であれは丸一日はかかる距離に、一艇の民間船を発見した。
船は緑のランプを点灯させ、黄色のランプを点滅させていた。
緑の点灯は歓迎と誘導で、好意を示すものだ。
黄色の点滅は救援、もしくは願いを聞き届けてもらいたいという、宇宙統一の常識だ。
もちろんこんなことなど極は無視して、かなりの術を放って全ての確認と施術を終えて、「…はー… よかった…」と安堵の笑みを浮かべて深いため息をついた。
「…使われちゃったからよくわかったわ…」と燕は目を見開いて言った。
「俺ひとりでは厳しかったからね。
だが、あとでトーマににらまれる」
「いいのよ、しっかりと言い聞かせるから」と燕は陽気に言ってくすくすと笑って、抱いている宇宙に笑みを向けた。
「悪意を背負わされた、善意の訪問者であってほしいという希望的観測」と極は目の前にある宇宙艇の説明をひと言でした。
「…マリーンがいるからこそね…」と燕は眉を下げて言った。
「宇宙船に乗っている子供たちは180人。
なんでも、ラステリアに遠足できたそうだぞ。
そのお願いをしたいそうだ。
だが実情は違う。
子供たちは高性能で破壊力がある爆弾を体に埋め込まれている。
もしも星に招き入れ、中央司令部に降り立って爆発が起こった時、
そこを中心にして十キロ圏内は消し飛んで、
巨大なクレーターが出来上がっていたはずだ。
その起爆スイッチを持っていた者が三人いる。
もちろん、現在拘束中で動けなくしてある。
そしてその三人が悪意を持っていない理由は、
指示を受けて任務の遂行中という、
一般的な命令を受けているからだ。
よってここまで来ないと、
そのかすかな悪意に気付かなかったんだよ。
だからこの先、手を抜くことは許されないと、
俺はさらに戒められた」
極の言葉に、誰もが胸に拳を当てて、さらなる決意をした。
「爆弾はすべて、無害のレアメタルに変換したから爆発は起こらない。
さすがに180個は大いに気合が入ったけどね…
じゃ、この情報を相手にすべて伝えて、
さらに事情を聞かなきゃいけない。
まだ大勢の者たちが、人質状態の可能性があるからだ。
よって隠密裏に行動して、その事実を知る必要がある。
トーマは送ったデータを精査に読み説いて、
早速任についてくれ」
『はっ! 了解しました!』とトーマは叫んで、小さなリナ・クーターはとんでもないスピードですっ飛んで行った。
「機嫌、直ったわ」と燕が言うと、「助かったぁー…」と極は言って、安堵の笑みを浮かべた。
「そして果林はいい経験になるだろう」と極は笑みを浮かべて言った。
しかし燕は、「…大丈夫かしら…」と大いに心配していた。
極はマリーンに念話をして現状の説明をして、トーマが戻り次第作戦を開始すると告げた。
マリーンは大いに気にしていたが、マリーンが引き起こしたことでもあるので何も言えなかった。
さらに極はジャックに出撃準備を言い渡して、宇宙船を別荘上空に浮かべた。
「…やれやれ、忙しい軍だこと…」と幸恵は嘆くことなく機嫌よく言って、軍服にそでを通して、「あんたら、気合い入れな!」と、大いに機嫌よく叫んだ。
極は宇宙艇の責任者にすべての事実を話すと、大いに動揺して、椅子に座って大人しくしている子供たちを見まわした。
『そんな恐ろしいことを…』と責任者であり子供たちの教師でもあるキャサリン・マーカーは大いに嘆いた。
『実は、そのような事実は軍の方針であったのです…
まさかそれを子供たちにまで…』
キャサリンは口を押えて、涙を流した。
「処理は終わっているので、あとは体から取り出すだけです。
そちらに飛びたいので許可願います」
『…えっ? 飛ぶ?』とキャサリンがつぶやくと、「あなたの体から俺と仲間の三人が飛び出しますから、それほど驚かないで欲しいのです」と極が言うと、キャサリンは大いに動揺した。
「子供たちを助けたくないのですか?
少し苦しそうな子が15名ほどいます。
宇宙酔いではなく、
一時的な安全策のために、
体が少々重くなったからなのです」
キャサリンはすぐさま子供たちを見回して、『お願いします!』と叫んだと同時に、極たち四人はキャサリンの体から飛び出していた。
ここは挨拶抜きで、極は苦しそうな子から順に爆弾や装備一式を肉体から抜き出した。
無重力のために、それほどひどい症状の子がいないことだけが救いだった。
しかし極たちは無重力の館内をごく普通に歩行している。
軍服の中に、小さなキューブリックエンジンを用いた、重力制御装置を備え付けているからだ。
「みんな安心して、大丈夫よ」とサエが大いに奮起して子供たちをなだめる。
黒崎は固まっている三人を引きずってキャサリンの前に立った。
「この三人の素性を教えていただきたい」と聞くと、「…船の持ち主の、軍の方です…」とキャサリンはつぶやいた。
黒崎は三人の体を探って、箱のようなものを出した。
そのみっつはまったく同じ形をしていて、ボタンの周りは保護パネルで覆われている。
「これが起爆スイッチです」と黒崎が無感情に言うと、「…ああ、なんてひどいことを…」とキャサリンは大いに嘆いた。
「このような子供たちがまだまだいる可能性があります。
あなたの勤務する学校の生徒数を教えていただきたい。
そして、子供たちに手術をしたという事実はありますか?」
「この子たちは、軍の宇宙酔い防止の処置として、
簡単な手術を受けました…
子供だけ必要だということで、
私もですが、教師たちにはその手術は行っていないはずです…
…ああ、生徒数は三千を超えています…」
キャサリンは消え入るような声で言った。
「となると、その学校の生徒たち全員が人質と言ってもいいほどですね…
軍が管理している学校ですね?」
「…はい、そうです…
私たちも、軍関係者の公務員です…」
「ほかに一般人をどれほど抱えていますか?」
「…軍施設内に一般人の町があります…
まさか、全員があなた方にとって人質となるのですね…」
キャサリンが大いに嘆くと、「何も心配はありません。我が星の英雄がその下見に行きましたので」と黒崎は言って、清々しい笑みを浮かべた。
「…ああ、少し小さなロボットが飛んで…」とキャサリンは言って、目の前に浮かんでいるリナ・クーターに笑みを向けた。
「申し訳ありませんが、ここで見たことは内密に願います。
我が軍の秘匿事項ですので」
「はい! 守ります!」とキャサリンは笑みを浮かべて誓うように黒崎を見入った。
するとニヤついている極が黒崎の隣にいたので、「お聞きの通りです!」と黒崎は叫んで、胸を張って拳を胸に当てた。
「うん、ありがとう。
爆弾の処理は終わりました。
具合が悪くなった子供たちは眠ってもらいましたが、
命に別状はありません。
…この三人の聴取もありますので、
ラステリア軍の施設に飛びますが、
それでよろしいですか?」
極の言葉に、「はい、ご迷惑をおかけします」とキャサリンは申し訳なさそうに言って頭を下げた。
「なかなか無体なことをしている軍のようですね。
どうしてそのような施設で働いているのですか?」
極の核心を突いた言葉に、キャサリンは目を見開いた。
そして口を開こうとはしなかった。
「語らないということは、あなたにも後ろ暗いことがあるからですね?
しいて言えば、軍に向けて放たれた敵対する組織のスパイ」
「何ですと!」と黒崎は叫んでキャサリンを見入った。
「給料がいいとか子供が好きとか、
そういった理由じゃないと思ったからですよ。
後ろ暗さはあるが悪意は感じない。
善の正義を遂行しようとしている強い意志だと感じました。
ですのであなたは、この件が解決するまで、
星に戻らない方がよさそうです」
「…スパイといえばその通りですが…
荒事専用の探偵で、軍に対する王家のエージェントです」
キャサリンは言ってから、戸惑いの目を極に向けた。
「王女様?」と極が聞くと、黒崎は目を見開いた。
キャサリンは大いに戸惑ったが、「…顔を変えられる私は、こういった仕事が得意です…」とうなだれて言った。
「珍しい種族です…
まさかここで出会うとは思ってもいませんでした」
「…我が王家には数人いて、
このような仕事を請け負うのです…
できる限りわが手で、民衆を救いたいと…」
キャサリンの言葉に、「素晴らしい志です」と極は大いに感動していた。
もちろん、比較対象の王家がラステリアにあったので、好意を持って当然だった。
「もちろん、煌極様の情報も伝わっていて知っております。
まさか、ここで面会できるとは思ってもいなかったのです。
…これは、運命です…」
今度は黒崎が大いにニヤついて極を見ると、「私の夫なんだけど?」と燕が言うと、キャサリンは目を見開いて、「…ああ、耳鳴りが…」と言って耳をふさいだ。
極と燕はこの愉快な王女の行動に、大いに笑い転げた。
「ではもう一度聞きます」という極の言葉に、キャサリンが一瞬怯えたように極たちは感じた。
「子供たちの体に爆弾が埋められていたことは知らなかったのですね?」
極の言葉に、キャサリンは大いに戸惑って、「…知って、いました…」とうなだれたままつぶやいた。
「知っていて当然だと思っていたのです。
変身の能力があれば、探れない事はほぼないでしょうから。
だから私は、あなたも大いに疑っているのです。
ここからもし、嘘を語ったと確信した時は、
あなたも拘束させていただきますから」
極の言葉に、サエが何か言おうとしたが、燕がすぐに黙らせた。
キャサリンは答えることなく深くうなづいた。
「了承していただけましたね?」
極が重ねて聞くと、「…腹が立つほどクールなヤツだ…」とキャサリンは言って右の口角だけを上げた。
「返事を聞いていませんが?
あやふやにされては困るのです」
「…ふん! 真実を語ってやるよ!」とキャサリンが叫ぶと、子供たち数人が泣きだし始めた。
感情としては、愛していた教師のキャサリンが、乱暴な女性に豹変したからだ。
姿は確かにキャサリンだが、誰かに入れ替わったように思ってしまったのだ。
ここはサエが子供たちを大いに優しくなだめた。
「さて、あなたの第一の目的は、煌極というヤツの詳しい実情を知ることにある、
と、私は考えたのですが、どうです?」
キャサリンはさらに口を歪めて、「間違いない」と答えた。
「だが、子供たちには爆弾が仕掛けられている。
あなたは単独行動は許されないはずだ。
よって頃合いを見計らって、
この宇宙艇から逃げ出す算段もしていた。
爆弾の威力はかなりのものなので、
それなりの準備は必要不可欠。
だが、この宇宙艇にはそのようなものはなにもない。
よって、あなたは空を飛べるはずだ」
「くっ!」とキャサリンは悔しそうにうなって、舌打ちをした。
「実は最近ですが、死神と接触したのでね。
あなたもそうだと思ったのですよ」
キャサリンはもう悪態をつくのはやめにしたのか、「当たりだ」と言ってそっぽを向いた。
「死神の存在はそれほど知られていなかったようです。
私も今回初めて接触して驚かせてもらいました。
さらには悪魔とも接触して、
懇意にさせてもらっているので、
色々とよく知っていますから」
「…いい加減な調査しやがってぇー…」とキャサリンはついには調査員にまで悪態をつき始めた。
「出会ったのはごく最近のことですから。
その調査員はこの事実を知らなかっただけでしょうね。
この宇宙艇の技術だと、
結果を知るまでに一週間以上はかかるはずです。
さて、あなたは王室の王女だと確信しましたが、
実際は今はそうではないと思うのですけど、
どうです?」
「…死者の蘇りだからはく奪…」とキャサリンは吐き出すように言った。
「死人に鞭打ちとはね…
王家にも罰が下りそうです。
よってあなたは、王家に人質を取られている。
どうです?」
キャサリンはいきなり表情が穏やかになり、そして涙を流した。
「親身にしていた兄弟たちはご存命なのでしょう。
もちろんご両親もそうだと思いますけどね。
あなたは永遠の命を与えられたのに、
それを生かすことが全くできない。
あなたの肉体を構築した悪魔は関与せずと思いますが、
どうです?」
「…脱走してきたからね…」とキャサリンは言ってうなだれた。
「魂の循環システムは生きている。
なるほど納得…
ではもし、あなたに救世主がいたとしたら、
何を望みますか?」
「弟と妹を救い出して自由を!!」とキャサリンは叫んで涙を流した。
「あなたの救世主は、きっとそれを実現させるでしょう」
極の言葉に、キャサリンはその場に崩れ落ちて声を出して泣き始めた。
「もういいの?」と燕が聞くと、「かなりの高能力者でね」と極は言ってキャサリンを見た。
「…ああ、ブレインロック…」と燕は言って何度もうなづいた。
「探知系が得意なのは雰囲気でわかったんだ。
そして…」
極は言って、キャサリンの腰に革製の長いものを収めるケースを発見した。
「生命を感じる…
これが魔法の杖…」
燕の言葉に、「感じるんだけどね、ただの通信機でしかないよ」と極は言って大いに眉をひそめた。
「だけど、資格があれば、その正体を現す。
…キャサリンさん、その杖ですが、
通信機以外に何に利用できます?」
極の言葉に、「…ほんと、嫌になるほど物知りだわ…」とキャサリンは言いながら杖のケースを手に取った。
「資格があれば、とんでもないものに化けるって。
もう十年も持ってるのに、そんなこと起きなかった…」
キャサリンは言って、腰のベルトで固定しているホックを外して、ケースごと極に渡した。
「うわぁー… いいものもらったよぉー…」と極はまるで子供のように言った。
そして、「何としても、元に戻してやるからな」と極はケースに向かって言った。
「…極ならそう言うと思ったわ…」と燕は眉を下げて呆れた口調で言った。
「元に戻す前に働いてもらうけどな」と極は言って、ケースから杖を引き抜いた。
すると、『バシッ!!』という音がした。
「電撃を食らった」と極がなんでもなかったようにつぶやくと、「…さすがだわ…」とキャサリンは弱々しい笑みを浮かべて言うと、「あ、どうもありがとう」と極は丁寧に礼を言った。
すると杖が消えたと思った瞬間に、動物の虎が目の前にいた。
「…おお… 主だぁー…」とトラは小声で言って、極に突進して抱きついた。
「なんか食う?」と極がフランクに言うと、「…食べることも久しぶりだぁー…」とトラが答えると、極はタンパク質が豊富な保存食を出した。
「時間ができたら、さらにうまいものを食わしてやるからな」と極は言って、トラの体をやさしくなでた。
「なるほど…
こりゃすごいな…
エネルギー弾をハイビームという閃光に変えられるようだ。
あとはサイコキネッシス。
さすが造られた魔法道具でもあるなぁー…」
燕が大いに眉を上げてトラに触れると、「…いい勝負だわ…」と言ってからうなだれた。
「あのね、魔力量の大きさが雲泥の差だから…」と極が眉を下げて言うと、「…そ、そお?」と燕は言って、自信を取り戻したように胸を張って、「あっはっは」と妙にわざとらしく笑った。
「だけど、お前は元のトラに戻したい。
それでいいか?」
「主がそういうのなら…」とトラは言って、極に頭をぶつけて、照れくさそうな顔をした。
「だけど、その前に戦ってもらうからな。
俺はかなり厳しいぞ」
「…うう… 何とか頑張る…」とトラは眉を下げて答えた。
「…うー…」とエリザベスとブラックナイトがトラを大いに睨んでうなった。
「…仲間なんだから威嚇するな…」と極が言うと、「俺の出番がなくなるじゃないかっ!」とエリザベスが叫ぶと、「能力的には全然別」と極が言うと、「…よかったぁー…」とエリザベスは言って天井を見上げてほっと胸をなでおろした。
「燕さんは大暴れ指令を出すかもしれないから、そばにいて欲しい」
極の言葉に、「…はい、あなた…」と燕は答えて、極に寄り添った。
「俺たちの邪魔をしないというのなら、
俺たちの軍の同行を許すよ」
極がキャサリンに言うと、「…私、スパイなのよ?」とキャサリンが眉を下げて聞いた。
「俺の判断が間違っていたら俺のせいだから、
気にすることはないさ」
極の言葉に、「…そう…」とだけ言って立ち上がって、「…みんなに嫌われちゃった…」とキャサリンは子供たちを素早く見てからつぶやいてうなだれた。
「ところでほかの先生は?」と極が聞くと、「本当の宇宙酔いがふたり、あとのふたりは眠ってもらったわ」とキャサリンは正直に言った。
「敏感な人もいるから、
仕事の邪魔をしてもらっても困るからね。
さあ、一旦ラステリアに戻るぞ」
極は言ってから、リナ・クーターからけん引ビームを出して、宇宙艇を固定して、とんでもないスピードで飛んで、ラステリアの大気圏に飛び込んだ。
宇宙港で待ち構えていたキースにすべての事情を話して、まずはポテルザ星軍のスパイを引き渡して、教師と生徒の保護を願い出た。
そしてタルタロス軍の宇宙船がやってきたので、極たちは空を飛んで、宇宙船に乗り込んだ。
「トーマにはすでにポテルザ星に入ってもらっている。
まずは調査の報告を聞いてからだ。
ちなみにこの女性は、キャサリン・マーカーさん。
そして悪魔の眷属という種族のトラ君。
ふたりは協力者で、ポテルザ王室のスパイだ。
あ、スパイだった、でいいんだよね?」
極がキャサリンに聞くと、「…王室の言いなりにはもうならない…」とつぶやいて、その眼には希望があふれていた。
「ちなみに敵は軍だが、多分王家も駆逐する予定だ。
王室も人質を取って能力者を操っていたから同罪だ」
極の言葉に、仲間たちは一斉に胸に拳を当てた。
宇宙船はトーマから報告してきたの星の座標から、異空間航行で一気に飛んだ。
「トーマから追加報告だ!」と幸恵は叫んで、その情報をモニターに出した。
「…ああ!」とキャサリンは叫んで、肉親が助けられたことに喜んでから、涙を流した。
「一応予測の指示を出して、あとはトーマに任せるとしていたけど、
よく救出できたもんだよ…
司令官、さらに詳しい報告はありませんか?」
「…果林が大人20人を担いて飛んだそうだ…」と幸恵が言うと、極と燕以外は大いに目を見開いた。
「そして、デートの約束を取ったそうだ。
その場所はルビー遊園地という報告まで入っている」
幸恵が大いに苦笑いを浮かべて言うと、「余裕ですね!」と極は叫んで大いに笑った。
「…わかるわぁー…」と燕がつぶやくと、極はさらに機嫌よく笑った。
戦場に出向く軍人たちの感情ではないとキャサリンは思い、―― だからこそ強い… ―― と笑みを浮かべて理解した。
トーマが帰還してきたので、早速作戦会議が始まった。
「宣戦布告の後、まずは様子を見る。
宇宙船を外に飛ばそうとしたら、停船させろ。
そこから様子見をしながら、こちらから通信を入れる。
全てを認めるのならそれでよし。
だが、その間に、我が星に大穴を開けようとした報復として、
目立つ武器、兵器は始末させてもらう。
今回は逐次指示を与えることになるだろう。
少々面倒だが、ただの破壊者にはなりたくないからな」
幸恵は早速、ポテルザ軍の司令本部に向けて、トーマが仕掛けた秘匿回線を使って、すべての罪状を話し、宣戦布告を言い放った。
だが、敵司令の動きは鈍く、基地に対しては何も命令をしていない。
「あれだけの大量の爆薬を仕掛けたんだ、
お前から指示が出ていたはずだぁー…」
幸恵がうなると、『本当に聞いていないんだ!』と敵司令官は涙ながらに訴えた。
「おまえ、切り捨てられようとしてるんじゃないか?
本来の司令官をそこに呼べ!
今すぐにだ!!」
「捕虜にした三人の映像を出してもいいんだけどね。
さらには軍内でもややこしいことになっていたようだね…」
極は眉を下げてつぶやいた。
「ほら、動き出した!
全軍出動!」
幸恵が叫ぶと、宇宙船は敵軍基地からかなり離れた場所の大気圏に飛び込んでから、リナ・クーターが兵士たちを引っ張って、一番近い宇宙港に近づいた。
そして戦艦などの武器を破壊し、エンジンノズルを撃ち抜いて航行不可能にしていった。
宇宙港は三カ所で、そのうちの二カ所の動きがあった。
司令本部管轄の宇宙港だけが蚊帳の外だった。
「おまえがいくら知らんと言ってもお前の監督不行き届きでお前の責任だ。
お前らの武器弾薬はすべて破壊させてもらう!」
『…やつらが欲さえかかなければ…』と敵司令官はうなだれたまま嘆いた。
「すべての武器を掃討しろ!」と幸恵の指示が飛び、宇宙港だけではなく、軍施設の破壊も速やかに遂行された。
今回はまさに閃光部隊だけの攻撃によって、敵兵士たちは施設の外に出ることさえできなかった。
「王室との回線を繋げ!」
幸恵の言葉に、通信担当官がこれもトーマが仕掛けた秘匿回線を使って、回線を開いた。
「聞いた話によると、
人質を取って我が軍の兵の調査をさせていたそうだな。
その王城、素手で破壊してやろうか?」
幸恵の本気の言葉に、映像に出ている王の側近は何も語らなかった。
「別にだんまりでもいいんだ。
お前らの兵が動いたと同時に攻撃を開始する。
ほら、高射砲が向きを変えたな。
攻撃開始!」
幸恵の言葉に、極たちは王城にある武器全てを破壊した。
「おい、いいわけくらいしろ」と幸恵がうなるように言うと、側近は振り向いてから、「すべてお前たちのせいだ!」と叫んで、右方向を向いて銃を乱射した。
「…こっちも終わりだな…
回線切れ」
幸恵は言って、大きな王の椅子の心地良い背もたれの感触を楽しんだ。
キャサリンはかなりの田舎に隠れていた人質にとられていた弟と妹と抱き合った。
弟のエリックが、「すっごい女の子が助けてくれたんだ!」と陽気に言った。
「そう… よかったわ…
ふたりとも随分痩せちゃったわ…」
キャサリンは母のような笑みをふたりに向けた。
「…お姉ちゃん、私たちどうすればいいの…」と妹のミッチェルが聞くと、「田舎の方で三人で暮らさない?」とキャサリンが聞くと、ふたりは笑みを浮かべて大いに喜んだ。
「それに、本当の王は、トラを僕にして、
その僕を持ち上げるほどじゃないと、その資格はないわ」
キャサリンは今の極の姿を見て言った。
「…あの兄ちゃん、すっげぇー…」とエリックが大いに感心すると、「あの人をお婿さんにすれば?」とミッチェルは明るく言った。
「もう奥さんがいるの。
すごい人を、近くにいる女性たちが放っておくわけないわ」
キャサリンの言葉に、「…そうよねぇー…」とミッチェルは残念そうに言った。
「信頼できる親戚とかいないの?」と極がキャサリンに聞くと、「祖父の出身の村が閉村になってるから、そこに住もうと思っていたの」とキャサリンは答えた。
「じゃあそこに行って、村を再生してもいい。
しばらくは生きて行けるように農地も創ろう。
手に職は?」
「花嫁修業はひと通りやったから、
衣服の修繕でも何でも…」
「まずは農地で採れた収穫物を売ればいい。
それが尽きるまで、色々と考えればいいさ。
収穫物はかなりうまいものに成長するはずだから、
評判になるかもしれないぞ」
すると空から、ひとりの悪魔と三人の死神が飛んできた。
「なかなか乱暴なやつらだ」と悪魔は極を見て言いながら地面に降りた。
「この星のヤツらなんて、
俺の住む星に直径十キロほどの大穴を開けようとしたんだぜ。
それよりは大人しいもんさ」
悪魔は目を見開いて、「…そういう事情か… おかしいと思った…」と悪魔は言って何度もうなづいている。
「穏やかそうなお前らが、したい放題するわけはないと思っていたし、
死人が出ていないが…
あ、これは、お前らのせいじゃないな…
王が側近にハチの巣にされた」
「今までのうっぷんを晴らしたんだろうな」と極はドライに言った。
悪魔はキャサリンに向かって、「よくもこんなすごいヤツらを連れてこれたもんだ…」とあきれ返った顔をして言った。
「私、今でも信じられないのです…
だけど、素晴らしい神がいたんだって、
煌極様だけが、私の神です」
「ああ、こいつがそうか…
ソルデが大いに自慢していたな…
必ず婿にすると叫んでいたが、
本当にいたとはな…」
悪魔がうなるように言うと、「ああ、悪魔の夢見会議?」と極が聞くと、「…この辺りでそれを知っている者はいないと思っていたが…」と悪魔は眉を下げて言った。
「あとは天使の夢見に、そして、願いの夢見」と極が言うと、「願いの夢見だとぉ―――っ?!」と悪魔は大いに叫んだ。
そして、体を小刻みに震わせた。
「あ、知ってたんだ。
願い事でもして神が来たの?」
悪魔は無言でうなづいた。
「俺の可愛い娘…
いや、堕天使の説得をしてもらったんだ…
天使にも悪魔にも転生できず、
残す道は消えさすしかなかった。
だが、強制的に悪魔に転生させる術を使えるのだが、
もちろん、大いに拒んだんだ…」
「普通の悪魔よりも随分と能力が下がるそうだね。
もちろん堕天使なら、
天使になることが当然の道だと思っていたはずだから」
「…だがな、その神のやつ、
好きにさせればいいさと突き放しやがった…」
「だけど、悪魔に転生させたんだよね?」と極が聞くと、「…うう… 結果的には、な…」と悪魔は渋々言った。
「俺も同じように言ってから、
悪魔から天使にもなれることはあると伝えて、
まずは生きて確認してみないかと伝えて希望を持たせたね」
「なにっ?!」と悪魔は叫んで、「…でまかせではなかったのか…」と悪魔は言って大いにうなだれた。
「嘘じゃないよ。
天使と悪魔の両方を持っている人もいるそうだから。
宇宙は広いからいろんな人がいるそうだよ」
「…うう… ソルデのヤツが自慢するわけだ…
しかも、ほとんど死んでたはずの天使まで蘇らせたとか…」
「天使は死んだら生き返らないさ。
行方知れずになっていただけ。
かなりすごい経験をしたから、
かなり徳が上がったと思うよ。
だけど、生きていたことは奇跡に近かったね。
だから、確たる証拠がないのなら、
希望を持つことが重要だと思う」
極の言葉に、「色々と教えてはくれないか?!」と悪魔が聞くと、「キャサリンさん、村の方はどうするの?」と極が聞くと、「…ついつい出しゃばってしまった…」と悪魔は言ってうなだれた。
「ソルデなんてそんなことお構いなしだから。
あんたはかなり優しいね。
ちょっと悪魔らしくないね。
あんたも堕天使だったんじゃないの?」
極の言葉に、「…強制ではなく、自然に堕天使から悪魔に転生した…」とつぶやくように言った。
「そういった人は高能力者になる可能性があるって聞いたよ。
オンオフの話って聞いたことある?」
極の言葉に、「…そこまで知っていたとは…」と悪魔は言って極に頭を下げた。
「よくわからないのなら、
ソルデと仲介してもいいよ。
その話の結末はまだ聞いてないから」
「…おー… 助かったぁー…」と悪魔は喜びながらうなった。
「極様、お願いがあるのです!」とキャサリンが叫ぶと、「仲間になるのもいいんだけど、俺ってすっごく厳しいよ?」と全く厳しくなさそうに極は言った。
「…うう… なんだかうらやましい…」と悪魔が言うと、「あ、この杖の子、借りてていい?」と極は言って、巨大なトラを持ち上げた。
「…そうなったのかぁー…」と悪魔はさらに驚いて、「…都合がついたら、遊びに来てくれない?」と穏便に聞くと、「俺たちってかなり忙しいから、期待しないで待っててほしいね」と極は気さくに言った。
「でもさ、この杖の子、元のトラに戻すから」と極が言うと、「…そんなこともできるわけだ…」と悪魔はついにあきれ返っていた。
「この子って、誰が創ったの?」
「ここの神と創造神」と悪魔は答えた。
「ふたりがかりか…
なるほど納得。
高性能のはずだよ…」
まさに実感した極だから言えることだ。
「どうせ使えないヤツらばかりだ。
ほかの杖もあんたにやるから好きにしてやってくれ。
あんたの言うことしか聞かんはずだからな」
「その兆候はあるね。
だけど、主の命令は絶対だから、
近くにいればほかの者でも協力するんじゃない?
そういう縛りはないようだから」
「…覚醒したやつを始めて見たから、
俺にもわからん…」
「レンタル料として、
して欲しいことがあったらやって帰るけど、
なんかない?」
極の気さくな言葉に、「キャサリンの願いを聞いてやってくれ」と悪魔は言って頭を下げた。
「あんた、欲がないね…
それは無料でいいから、ほかにない?」
極の言葉にキャサリンは大いに喜んで、弟と妹を抱きしめた。
「魂の循環システムが止まったというのは本当なのか?」
「ああ、本当だよ」と極は気さくに答えて、知っていることをすべて伝えた。
「…今を維持することが得策か…」と悪魔は正しく理解した。
「ここにはそれほどの悪意は感じない。
ソルデの星や、ほかの星もかなりひどかったからね。
ここはかなりマシだと思う。
ここで悪いヤツは、王と軍の上層部だけだったようだ。
この星はいい星だと思うよ」
悪魔は自分がほめられたように感じて、「ありがとう」と言って頭を下げた。
「ほかには?
何か物理的なもので」
「俺にはないが…」と悪魔は言って、お付きの死神たちを見た。
「食い物がうまくないものが多い」と女性の悪魔が言って口をゆがめた。
「じゃあ、予定通りのところに農地を造るから。
死神たちで収穫して、
たらふく食えばいいさ。
俺たちの農地づくりを見ていたら感動するぞ」
極の言葉に、悪魔も死神も廃村になった村に行くことになった。
「…なんだ、あれは…」と悪魔はつぶやいて、農地を荒らしているとしか思えない緑竜を見入った。
しかしあっという間に完成して、さらには収穫まで終えていたことに、悪魔と死神たちは目を見開いていた。
「…親父のやつ、ほんと、低レベルだな…」と悪魔は言って、大いに眉を下げた。
死神たちは、「なんだこれは…」といいながらも、生野菜にかじりついて満面の笑みを浮かべた。
普段食べ慣れているものばかりなのだが、味が濃厚で全くの別物だったからだ。
そして果物なども大いに食らって、明日への活力につなげていた。
「おおそうだ!
魂まんじゅうとかいう美味いものがあるとソルデのやつに聞いていた!」
「あ、これだよ」と極は言って、箱を渡した。
「あとはまんじゅうの作り方と農作物の加工方法」
極は言って、それほど厚みのない冊子を悪魔に渡した。
「…もう、十分だ…」と悪魔は言って、うまそうにしてまんじゅうを食らった。
キャサリンたち兄弟も泥だらけになって農作業を終えて、笑みを向けあった。
極は5本の杖を悪魔にもらってから、ラステリアに戻った。
もちろん、キャサリンたち兄弟も仲間として迎え入れた。
キャサリンの妹と弟は、とりあえず軍の施設内の学校に通ってもらうことになり、学校生活の中で進路を決めてもらうことに決まった。
もらった杖だが、4本は動物で、一本はなんと人間だった。
そして自分の運命を悲観して涙を流した。
「しばらくは俺たちに協力して欲しい。
だがそのうちに、あんたたちを元の生物に戻したいから。
だけど、人によっては戻りたくないと思ってしまうかもしれないけどな。
戻せば強制的に命令する俺の言うことを聞かなくていいけど、
ごく普通の人間に戻ってしまう。
その期間が長いほど、戻りたくないと考える可能性もあるからなんだ」
「…まさか、これほどまでお優しかった…」と女性は言って、また別の涙を流した。
「ほら、このトラ君は俺に使われて、かなり安心したようだからね。
特に元に戻りたいなんて思ってないようだ」
極の言葉に、「…うう、満足してるぅー…」と女性は言って大いに眉を下げた。
トラの名前はなかったので、極がドルアと名付け、女性はカタリナ・ハックと名乗った。
女性の能力は主に探知と防御補助だが、トラと同じように閃光を放てる可能性は持っていた。
「だけど、動物が杖にされたことはなんとなく理解できるんだけど、
人間だったカタリナさんはどうして杖になったの?」
極の素朴な質問に、「…結婚するはずだった男性が殺されて…」とつぶやいて、また新たな涙を流した。
「あなたの身なりからして、まさか王子が暗殺された?」
極の言葉に、カタリナは驚くことなくうなづいて、また涙を流した。
「…王室って、やなところだね…」と極は眉を下げて言った。
「…キャサリンさんのように、死神としてでも蘇ってもらいたかった…」とカタリナがつぶやくと、「その人の名前を教えて?」とキャサリンが穏やかに聞いた。
「マーカス・デン・スワット、です…」とつぶやくと、「…ああ…」とキャサリンはつぶやいて希望のある瞳をキャサリンに向けた。
「復興の状態も気になるから、見に行こうか」と極が言うと、キャサリンは満面の笑みを浮かべて極を見た。
極は、―― カタリナさんは戻さない方がよさそうだ… ―― と考えて笑みを浮かべた。
極は気軽に使える宇宙艇を作ろうと思ったが、ここは大型のリナ・クーターを作ろうと思い、秘密基地の外でユニットごとに創り出して、鼻歌交じりに機嫌よく組み立てていた。
もちろん、暇な兵士たちが眺めていくが、立ち止まれば、『解散しろ!』とすぐに放送が入るので、極の邪魔はできない。
ここはできれば軍にもリナ・クーターを導入したいところなのだが、『マリーンの騎士』という意味合いもあって、極に話すことすら憚られる。
すると解散を命令されない一団がやって来て、極に気さくにあいさつをした。
もちろん、軍の開発部の面々だ。
「…こりゃ無理だ…」と機械好き者たちが口々に口を開く。
「なかなかメカニカルでしょ?」と極は機嫌よく言った。
「ですが、これならどうでしょう?」と極は言って、半分以上透明のパワードスーツを出した。
「…おー…」と開発員たちはうなって、スーツに触れ回って笑みを浮かべている。
「エンジンはさすがにキューブリックは積んでいません。
もしも敵の手に渡ると、とんでもない脅威になりますので。
ですが、新たに開発したモーターなら、
通常のエンジンとそれほど差異はなく、
バッテリー駆動ですのでかなり安全で、
被弾しても爆発しません。
もちろん、被弾しても壊れませんけどね。
このスーツを訓練に組み込むのも面白いと思っtので、
提案させてもらいますよ」
極は言って、厚みのある全工程の資料を開発員に渡した。
極は大きめの台車を出して、パワードスーツをその上に置いた。
「持って帰ってもらってもいいですよ」と極が言うと、開発員たちは極に礼を言って、台車を押して移動を始めた。
「…協力的で助かったぁー…」とミカエルが極に違づきながら言うと、極は姿勢を正して拳を胸に当てた。
「すべてセットで10億です」と極がにやりと笑って言うと、「…稟議にかけるから…」とミカエルは言って眉を下げた。
「ですが、製作費は材料費を使わないのなら、
協力できますから、
組み立てるだけになりますけどね。
プラモデルと同じです」
「…そうだね…
かなり安上がりで、大量生産できるし、
ゴミもなくなるからその方がいいか…」
ミカエルは考えながらうなづいて、「経済がうまく回ってそれなり以上にゴミが増えたようです」と極が言うと、「…資金はそれほどいらないけど、軍からの発信で色々作ってくれていいよ?」とミカエルは眉を下げて言った。
「思いついたらそうさせていただきますよ」と極は言ってから少し考えて、「子供のおもちゃです」と言って、ミカエルに小さなネズミの獣人の人形を渡した。
「…ボクなのに、かわいいって思ってしまった…
…ん? ボタン…」
ミカエルは人形の背に小さな突起物を発見して押すと、「えっ?!」と叫んで、倍ほどの大きさになった、今のミカエルの姿の人形を見入った。
「なかなかでしょ?
テクノロジーは何も使っていません。
スプリングとギヤだけです」
極は言って人形を包み込むように握ると、元のネズミの獣人に戻った。
「…こりゃ、男の子は喜ぶなぁー…」とミカエルは言って、大いに陽気になっていた。
「戦地にしてしまった近隣の子供たちにでも配ろうと思っているのです。
あとはお菓子類は大いに歓迎されますし、
女の子用には着せ替え人形は人気ですね。
お金が有り余っているのなら、
商売抜きで配布していいように思います。
そこから真の平和がやってくると思っているのです」
「…まだまだ敵は多いからね…
ギア船籍の襲来の件は、
トラストという星が関与していたようで、
現在調査中」
ミカエルがつぶやくように言うと、「…本当に、終わりがありませんね…」と極は眉を下げて言った。
この一件は、極は大きな岐路に立たされることになる。
パワードスーツについてはとんとん拍子に話が進み、極はパーツづくりに専念することになった。
「…遊びに行きたいなぁー…」と燕は言って、極と背中を合わせた。
「深刻なゴミ問題を解決中」といいながら極は様々なパーツを作り上げる。
そして仲間たちは整理整頓をして、開発部の工場に運び込む。
数台は完成して、開発部員たちが新たに造った地面を舗装した組み手場で、楽しそうに組み手を楽しんで、スーツの性能テストをしている。
もちろん、軍にも悪いヤツはいて、「おい、俺にも乗せてくれやぁー…」とかなりすごんだが、「あ、悪いね、許可制だから」と開発員は答えた。
「おまえのようなヤツに乗せるとでも思っているのか?」とキースが言うと、「ケッ!」と大いに悪態をついて、本来の人間用の組み手場に向かって歩いて行った。
「…おい…」と言って、この男、ゲルド・マッコイ軍曹は、開発員のひとりのヤム・ヘンリー上一等兵の首を押さえつけて言った。
「…あれ、盗み出せ…」とゲルドが言うと、「…さすがにできないよぉー…」とヤムが言うと、その首への力が増した。
「何をやっている!」とキースの部下のパットン・ラルフが叫ぶと、「…ケッ、またかよ…」とゲルドは言って、ヤムを放り投げるようにして移動した。
ヤムは断ったものの、―― ボクだって強くなれる! ―― という強い意志を持ったが、それは必ずしもいいことではない。
ヤムは、散々苛め抜いてきた者たちに、復習しようと心に決めた。
「ヤム君は失格」という言葉に、ヤムはすぐさま振り返った。
そこには部品製造をしていたはずの極がいたのだ。
「…あんた、最終試験まで行っていたのに、惜しかったわね…」と燕が言うと、「…ああ、ああ…」とヤムは嘆いて、くすれ落ちるようにして地面に膝をつけて、「どうして強くなれないんだぁ―――っ!!!」と大いに嘆いた。
「仲間がいないからさ」と極が言うと、ヤムはすぐさま理解した。
「意地を張ることが悪いとは言わない。
だが、困っていることがあれば、誰かに相談して当然だ。
しかし、君はその行動に出なかった。
本当に残念なんだよ、ヤム君。
だから様子を見ないとね、
君の深層心理を知ることができなかったんだ」
ヤムはさらに、自分自身を大いに知った。
「ま、見てな」と極は言って、「おい、ゲルド、乗せてやるぞ!」と極は言ってパワードスーツを出した。
ゲルドは振りむいてすぐに走ってきて、「へへ、そうかいそうかい」と機嫌よく言って、パッチが開いているスーツに乗り込んだ。
だが、操作方法が全くわからず、極を蹴ることも殴ることもできない。
「ほら、早く動かせこの薄ノロ」という極の言葉に、「くそっ! くそっ!」とゲルドは大いに悔しがって、大いに焦った。
「ヤム君、教えてやってくれないか?」と極が言うと、「えー…」とヤムは言って大いに戸惑ったが、今は極に従うことにして、外からゲルドに指示を与えた。
始めは、「命令すんな!」などとゲルドは言っていたが、ようやく指先を動かせるようになり、関節運動も要領を得た。
よって手足も動かせて、首を振ることも理解した。
そして数度、腕の曲げ伸ばしも楽にできるようになり、そしてついに、拳を作っていきなり極に殴りかかった。
極は掌底で迎えうち、パワードスーツは一気に小さくなって、作業場にしていた山の石切り場で大きくバウンドした。
「おおっ! すごいっ! 無傷だ!」と開発員たちはモニターを見て陽気に叫んだ。
「…あれだけの衝撃にも耐えられるのね…」と燕は眉を下げて言った。
「無傷なのはパワードスーツで、中にいるゲルドは命があるだけ」
極の言葉に、「…体、固定してなかったのね…」と燕は眉を下げて言った。
「ヤム君は説明したからね。
ゲルドはその言葉は無視したから、ゲルドのせいだ」
「…ボク、もっともっと鍛えなきゃ…
…それに、やっぱり頼んなきゃ…」
ヤムは笑みを浮かべて極に言ってから、仕事に戻って行った。
「じゃ、観察期間延長で」と極が言うと、「…そこは厳しいのね…」と燕は眉を下げて言ったが、機嫌よく極の右腕を抱きしめた。
「こらオカメ!」とキースが叫ぶと、「はいはいごめんなさい」と燕は比較的素直に謝って、極の腕を放した。
しかし、「あんた、戦ってやろうか?」と燕が普通に言うと、「…今は職務中だ…」とキースは眉を下げて答えた。
「別にいいじゃなぁーい…
お手本も必要だわぁー…」
「参った!」とキースはすぐさま叫んだ。
「そういえば、燕さんの組手を見たことなかったね。
少しやらない?」
極が機嫌よく言うと、「もちろんだわ!」と燕は機嫌よく言って、組み手場の中央まではデート気分で極の右腕を抱きしめて移動したが、腕を放したと同時にライバルとなっていた。
「…さすが、先生と言われるだけはあったかぁー…」とキースは眉を下げてつぶやいた。
ここからは誰もが極と燕に見惚れていた。
どちらの手足も当たらないのだが、まさに鬼気迫るものがある。
だが極も燕も笑みを浮かべていたのだ。
「…新婚さんの甘さなど、ひと欠片もない…」とキースは苦笑いを浮かべて言って、目の前の素晴らしい戦いに見惚れていた。
極が一気に下がって、「終わりだよ」と陽気に言うと、「いい運動になったわ」と燕は言って、極に右腕を抱きしめて満面の笑みを浮かべた。
「…教官、しない?」とキースは大いに苦笑いを浮かべて燕に言うと、「母は忙しいの」と言って、ベビーカーを押して、極とトーマとともに、作業場に戻って行った。
「おまえら! いい勉強になっただろ!」とキースは自分の手柄のように叫んで胸を張った。
「…あのさぁー… 素朴な疑問があるんだけど…」と別荘の縁側でミカエルが極に聞いた。
「はい、なんでしょう?」と極が笑みを返して言うと、「こっちの軍のランクが落ちてないことが不思議…」と言って、極の大勢の仲間たちを見まわした。
「あ、本来の軍の方のランクが落ちていないということですか?」
「…うん、そう…」
「宿題です」と極は答えて、愉快そうに笑うと、燕も笑ったが、「それ、私も聞きたいわ」と瞳を輝かせて言った。
「それほど難しいことじゃないから宿題」と極は満面の笑みを浮かべて言って、宇宙に笑みを向けた。
「…まあ、落ちないようなことをやったからだと思うけど…」とミカエルは眉を下げて言った。
「大勢の軍人の中で、ひとりだけを抜いたって、それほど問題じゃありません。
ラステリア軍はそれほどやわじゃないことはよくわかっていたので。
もちろん、抜いた瞬間は多少の問題はありますけど、
目の上の瘤がいなくなったと思って、奮起する者も出てきますからね」
「…あー… それはあるなぁー…」とミカエルは極の言葉に同意した。
「俺の場合、各班のトップを抜いた覚えはありません。
もちろん、俺が能力者と認定された時のリストにあったパートナーたちは、
ひとりを除いて全員雇いましたが、
その時はそんなことまで考えていませんでした。
その次から雇い入れる前に、
入念な調査をしました」
「…うー…」とミカエルがうなると、「…調査をしたということは、ミカエルからクレームが来ないようにするために…」と燕が言うと、「…で、今に至るわけね…」とミカエルはため息交じりに言った。
「対象になった人が所属する班の、
俺が気に入った順のランキングを造るのです。
ですから、階級などは関係なく、
俺の仲間としてここにいるのです」
「そのトップだと思った人がここにいるんだ」
ミカエルの言葉に、「落第です」と極が言うと、燕が愉快そうに大いに笑った。
「客観的に見るとそう思われても当然でしょうけど、
もしそれをしていれば、
今の話し合いは、ミカエルさんのクレームになっていた可能性が高いのです」
「…ううー…」とミカエルはうなるだけで、言葉にできなかった。
「トップと思った人を雇うと、後続が育たないからですよ。
ですから二番手か三番手の人を雇っているのです」
「…そこまで考えてたのかぁー…」とミカエルはうなってから、頭を抱え込んだ。
「もちろん、そのトップの人にはすべての事情を話しています。
そして、俺の軍に所属するのなら、
最低でも二名は優秀だと納得できるものを造れと伝えてあるのです。
ですので、そこそこ抜いても、
それほど変化がないように見えるんですよ」
「…結局はここにいないだけで、もうすでに手下なんだね…」とミカエルは大いに納得してつぶやいた。
「大きな目で見ればその通りです」と極は胸を張って言った。
「ですので時には、班を移動するような進言もします。
そうやって横のバランスを取ることも重要なので」
「…いや、ありがとう…」とミカエルはシャッポを脱いで、ここは礼を言った。
「さらには、特に三番手の将来性を見ているので、
そのトップの人をもう追い抜いています」
「…強いわけだよ…」とミカエルは言って、また極の手下たちを見まわした。
「ジャックなんて、俺の予感が大いに当たりましたから。
さらに自信を持てたんですよ。
こういった自信はさらに自信を持てますから。
もちろん、全てが的中するわけではないので、
急いで修練場を作って、
極力俺の理想に近づけるように仕向けたんです」
「…急な話だったからね…
大いに納得だよ…」
ミカエルは言って、自慢げな顔をしているマルカスをにらんだ。
「いってっ!!」と叫んでジャックが話し合いの輪の中に飛び込んできた。
「手形、見ていい?」と極が眉を下げて言うと、「…ひりひりしてる…」とジャックは言って、シャツをまくり上げた。
「…くっきりだね…」と極は言って、幸恵に向けて苦笑いを浮かべた。
「この程度のこと察しな!」と幸恵は厳しい言葉をジャックに向けて、「ほら、おやつだ」と言って、うまそうなスイーツを置いて行った。
「…このメンバーで輪の中に入れるわけねえじゃねえか…」とジャックは大いにクレームを言った。
「じゃ、勇者の心得を…」と極は言って、今した話をジャックに語った。
「…なんとなくだけど、気にはなっていた…
確かに、こっちに来てない者たちの顔色が変わったように思う…
だが、周りにいる者は騒ぎばかりを気にしているから、
その神髄に気付いてねえ…
もしも蚊帳の外でそれに気づいていたとしたら…」
「簡単な調査をして雇うだろうね」と極は躊躇なく言った。
「そうか… もう、それなり以上の修行に入っている可能性が高いから…」
燕の言葉に、「その部分は、顔を合わせるだけでわかるからね」と極は笑みを浮かべて言った。
「それに、向上心が高いことも認められるし、
孤独だったのはジャックだけ」
極の言葉に、「…それも認める…」とジャックは言って極に頭を下げた。
「だから友人になる覚悟でケンカを売ったんだよ」という極の言葉に、「…そんな覚悟までする人はいないと思うわよ…」と燕はジャックを見て穏やかに言った。
「…はい、先生…」とジャックは言ってうなだれた。
「悪かったが、とんでもなく優秀になる典型だからね」とミカエルは言って何度もうなづいた。
「人よりも、それなり以上の苦労を背負っている場合が多いからだと思います。
一番ここにいる者で、イレギュラーなのは多分俺だけです」
「だからこそ、多くの追加の時間が必要だったわけね。
わずか14才で、そこまでできる」
燕はここまで言って黙り込んだ。
「その部分はノーマークの恩恵だね」と極は陽気に言った。
「…実はな、昔話を聞きたいんだけど…」とジャックが申し訳なさそうに極に言った。
「おっ 何の話?」と極は興味津々でジャックに聞いた。
「能力者になる前の友人について…
俺の場合、確かに悪友しかいなかったかも…
だけど、その中には勉強になったこと、
世間は広いと思わせてくれたことが、
今になってよくわかったと思うんだ」
「…はー… いいなぁー…
俺の場合はごく普通の付き合いしかなかったよ。
だけど俺の真の友人はネットの中にいて、
その半数以上がここにいたんだ」
極の言葉に、「…リナ・クーターのプラモデルの会…」とジャックがつぶやくと、「そうそう!」と極は愉快そうに言って膝を叩いた。
「だから、少々大人の話になることがあった。
その話も大いに勉強になったと思うんだ。
まさにリナ・クーターが
俺を大人の入り口に立たせてくれたようなものだよ。
第三の煌きは、初めてリナ・クーターを見た時だった」
「…あー… そうだったの…」と燕は感慨深く思ってつぶやいた。
「…じゃあ、一番と二番は?」とジャックは大いに興味を持って聞くと、「二番は、公式に提供された、マリーン様の写真だよ」と極は自慢げに言った。
「…うう、まさに誘われてたって感じ…」と燕は眉を下げて言った。
「…おー… 一番が大いに気になり始めたぁー…」とジャックが大いにうなり声を上げた。
「たぶんね、本人は覚えてないと思う。
軍にテレビ局のカメラが入ったことがあった。
たまたまそれを見ていて、妙に目がおかしいと思った時に、
初めての煌きを体験したんだ。
そして少し…
いや、かなり笑ってしまった」
「…軍、来たぁー…」と燕が陽気に言った。
「パトリシア先生の耳を噛んでいたオカメインコ」
極の言葉に、「やったぁ―――っ!!」と燕は大いに喜んで、宇宙を抱き上げて陽気に踊った。
ミカエル、マルカス、そしてジャックは笑い転げていた。
「…うふふ、それ、覚えてるわ…
あの子、緊張してしどろもどろになっていたから、
噛んでやったら落ち着いたの。
…今から… 三年ほど前かなぁー…」
「それにね、その時に、俺が能力者だって気づいたんだよ。
目の前にあったグラスや皿が全部宙に浮いていたんだ。
その場には俺ひとりだったから、
家族に気付かれなくて都合は良かったんだと思う。
そして気持ちを落ち着けて、浮いたものをテーブルに戻した。
だけど、不安ばかりが過ってね。
能力者についてのいいニュースなんてひとつもなかったから」
極が寂しそうに言うと、「…じゃあ、どうして能力者の適性検査を受けることになったんだ?」とジャックは大いに興味津々に聞いた。
「ある人に見破られて、ある意味通報されたから」と極は大いに苦笑いを浮かべると、誰もが目を見開いていた。
ジャックはすぐに気づいて、「…この集まりにはいないわけだ…」とつぶやいた。
「その人とは一度だけ顔を合わせて、
再会していない。
学校の帰りにその人と会った時に、
妙な笑みを浮かべて俺を見て、
頑張ってね!
ってやけに陽気に言われたんだ。
俺はわけがわからなくて、
家に帰ると能力者協会から呼び出し状が来ていた。
だけど、俺はその人が誰だか知ったんだ。
五大神と同じような力を持っていた女性…」
「…そんな人もいたわけだ…」とジャックは声を殺すように言った。
「どうやらその人が、古い神の一族の俺の母ちゃんらしい」
極は言って、その時の記憶をたどって、マップ装置に、その姿を映し出した。
「…うわぁー… どう表現すればいいのか…」と燕は言って自分のない胸を見入った。
「心から優しそうに見えるね…」とミカエルは興味津々に言った。
「今の名前を、万有桜良っていうそうなんだよ」と極は言って、メモ用紙に名前を書いた。
「…万有…」とマルカスがつぶやくと、「幼児姿の静香さんにも似てるよね?」と極が言うと、誰もがすぐにうなづいた。
「…胸はこんなにないけどね…」と燕は少し悔しそうに言った。
「俺だけじゃなく、静香さんにも会いに来たのかって思ったから聞いたんだよ。
だけど会ったことないって答えた。
それにね、桜良っていう人の本名は安藤悦子っていうらしい」
極は言ってまたその名前をメモ用紙に書いて、さらに、『結城悦子』、『松崎悦子』と書いた。
「結城姓はまだわいて出いていないけど、
松崎姓は…」
極は言って、『松崎拓生マツザキタクナリ』、『リクタナリス』、『リナ・クーター』と書いた。
「たぶん関係者だと思うんだ。
さらに…」
今度は、『万有源一』と書いた。
「五大神のリーダーの名前。
静香さんはこの人の関係者だと思う。
この人こそ、白竜様なんだよ」
「聞いてない!!」とミカエルはすぐさま叫んで、耳をふさぐと、「…そうした方がいいのかしら…」と燕は眉を下げて言った。
「…マリーン様が崇めるほどのお方…」とジャックは大いに眉を下げて言った。
「だけどね、この万有様が宇宙一強いってわけじゃなさそうだ。
どこの世界でも、腕力的に強い者は王にならずに騎士となる、
って感じだね」
極は言って、『大屋京馬』と書いた。
「宇宙一強い人らしい、さらに…」
今度は、『ゲイル・コリスナー』、『ゲッタ・コリスナー』と書いた。
「このふたりは血の繋がっていない父子で、
ゲイル様は無属性の無敵の竜、
ゲッタ様は、気功の竜、
という特殊なおふたり」
燕は同じ竜として、大いに苦笑いを浮かべていた。
「さらに、ヤマが暮している星の王」
極は、『八丁畷春之介』と書いた。
「古い神の一族の動物の始祖、ヤマのお孫様らしい」
「…今この時は平和ではないと言わんばかりだ…」とマルカスが眉をひそめて言った。
極は何度もうなづいて、「俺もそう思う」と極は答えた。
「…それほどに力があっても、平和にはできない…
もちろん、宇宙がかなりの数があることは知ったが…
これほどの人たちがいても、
そう簡単にはすべてを平和にはできないわけだ…」
ジャックが語ると、「立ち止まってはいられないと、気合を入れることにしたんだ」と極が言うと、「…別に止めないわ…」と燕は笑みを浮かべて言った。
「もちろん、それぞれには俺たちにいるように、
それなり以上の戦士もいるはずだからね。
この程度じゃ、まだまだ安心できないんだろうなぁー…
だからヤマは、こっちの事情をあっちには話していないそうだ。
この宇宙はそれほど安定していないそうだから。
危険がいっぱいだから、送り出せないんだろうね」
「…危険なのに、マリーンはなぜ…
いえ、だからこそ、マリーンがここにいる…」
燕の言葉に、「この宇宙は、大宇宙として比較的安定している宇宙の果てだと俺は考えたんだ」と極は言った。
「…だからこそ、居場所がわかっていても、そう簡単にはここまで来られない…」
燕の言葉に、極はすぐさまうなづいた。
「だけど、万有桜良さんはここに来た。
でも、その思念だけかもしれないんだけどね…
幽霊のように消えたと記憶しているんだ」
極がその記憶の映像を出すと、「…幽霊…」とジャックは言って苦笑いを浮かべた。
すると、「そっちに行きたぁーい!!」と陽気な声で叫び声が聞こえたが、仲間以外は誰もいない。
そして全員にも声は聞こえたようで、「なんだなんだ」と少し騒ぎ始めた。
「言葉通りに、こっちに来たいようだね…」と極は言って苦笑いを浮かべた。
「…ヤマを使って…」と燕が苦笑いを浮かべると、「…そうだろうね…」と極は苦笑いを浮かべて答えた。
「ヤマは、俺たちの話を盗み聞きしている。
マリーン様と同等の力があるようだね。
おっと!」
極は叫んですぐに胸を押さえつけた。
胸というよりも魂に重みを感じたのだ。
「…動物の変身能力の付加…」と極は言って苦笑いを浮かべた。
「…ヤマからの詫びね…」と燕は眉を下げて言った。
「小鳥だったら幸せだけどね…
まだ確認してない…」
極の言葉に、「…ああ、その姿で、ふたりでどこかに行きたいわ…」と燕は夢見る乙女のようにうっとりとしてつぶやいた。
「宇宙がいるからダメ」と極は言って現実に引き戻した。
「…勇者が動物を連れ歩くのは、
自分に足りないものを補うため…
…そして補ったとしても、
動物たちが離れることはなく、
さらに寄り添う…」
ジャックが勉強した内容を語ると、「何であっても俺は嬉しいよ」と極は笑みを浮かべて言った。
「翼を持った犬なんてどう?」と極が燕に聞くと、「…私とトーマは、極の弱点だったようだわ…」と燕は言って大いに眉を下げた。
「悪魔のような燕…」と言うと、ジャックは飛び上がって、居場所を失くして泣きそうになっていた。
「…ん? 何だこの動物…
俺には記憶にない…」
極は魂を探って変身した姿を知った。
「ジャック、大丈夫だ、それほど怖くないと思う」
「…それほどってところが気になるぅー…」とジャックは大いに嘆いた。
「トーマと一度、斥候仕事に出た方がよさそうだ」
極は言って、黒い翼を持った動物に変身した。
「ひぃー!!」とジャックは悲鳴を上げたが、黒い体毛に反応しただけだ。
しかし燕はその愛らしさを見抜いて抱きしめてから、宇宙にその動物を抱かせた。
「クーラ」と宇宙がつぶやくと、「クーラ?」と燕が聞き返した。
「コアラらしいぞ」とクマに似ているが愛嬌があり、穏やかそうな動物が言った。
「…赤ちゃん語だとクーラになるわね…」と燕は言って眉を下げた。
そしてコアラはみんなから少し離れて翼を広げて羽ばたいたが、「重すぎて飛べない!」と叫ぶと、燕だけが大いに笑い転げた。
「…これも俺の修行にしよう…」とコアラは少し嘆いてから、その姿を極に戻した。