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閃光の極―KIWAMI―  作者: 木下源影
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第四話 開戦と終戦



   第四話 開戦と終戦



極は出番はまだあると思い、上からの指示はないが就寝しなかった。


今は東の獣人の村に建てた別荘に大勢の仲間たちとともにいる。


もちろんマルカスと幸恵は招集されて今は会議中だが、極の意志を持って会議に出向いていた。


マルカスが言いかけていて極が止めた言葉の件は、極の部隊のその位置付けだ。


極個人が部隊長として、『総合班』という新しい部署を設けた。


そこに煌中隊を配備することにしたのだ。


この班は別の班との重複部隊となるが、出撃時は統合幕僚長が承認し、人選はキースに託されていた。


さらに、高能力者の極の存在は敵となったバーン星に漏れていたということにもなる。


そういった高能力者を始末するような暗殺部隊は存在しているのだが、このラステリアでは初のことだった。


そしてバーン星とラステリアは同盟関係にあった。


よって極を捕らえて仲間に加える意思もあったと、会議では語られた。


だが肝心の捕らえたスパイの四人が何も話さない。


かなり特殊な方法で鍛え上げられていて、諜報部隊の能力者の術が通用しない。


よってミカエルは最後の切り札の極に頼ることにした。



「…小間使いとしてやってきた…」とキースが言って、大いに眉を下げて、ゲートをくぐってやってきた。


「捕虜の思考を読みます」と極が言うと、「…俺のも読んだよね?」とキースが眉を下げて聞くと、「いえ、父さんに先に伝えておいたのです」と極は言って立ち上がって、今回も燕とトーマをお付きに指名した。


「今回はまず出番はないけどね…

 さすがに全員で行くことははばかれるから。

 それから、もうみんな寝ていいよ。

 今日は本当にありがとう」


極は言って燕とともに頭を下げた。


「…波乱万丈の一日だったな…」とジャックは言って、極に向けてひらひらと手を振った。


「だけどここに来て、本当に心が洗われた気分なんだ」と極は陽気に言って、ジャックに向けて手を上げて扉をくぐって行った。


「…俺も、ジャックのように反抗したら友人になれると思う?」


キースの言葉に、「…あははは…」とジャックは照れ笑いをして、そして心に温かい何かがあると感じていた。



「それほど難しいことでもありませんでした」と極は言って4枚の記憶媒体をマルカスに提出した。


「どれほどあるんだ?」


「合計で5時間ほどに収めました。

 本人たちに見せると、目を剥いて私をにらみつけました。

 そして呪いの言葉のように、殺されると唱え始めましたので、

 間違いはないはずです。

 この量ですと見終わった時に空が白んできますので、

 重要な部分はこれをご覧になってから、

 詳細な検討をされることをお勧めいたします」


極が言って、短縮版を提出した。


「ご苦労」とマルカスは言って記憶媒体を受け取って言ったが、ここが会議室でなければ、極の頭をなでたいほどだった。


「あ、みんな、五秒間だけ後ろ向いてて」とミカエルが言うと、「マルカス大将、遠慮しなくていいよ」とピーター・マックス大将が気さくに言った。


「俺の素晴らしい息子だ!」とマルカスは心の底から大いに喜んで、極の頭を乱暴になでて笑みを浮かべた。


「閃光先生が俺を選んでくれてたらなぁー…」とポッタム・ファクト中将が嘆くと、「番号なしの普通のヘタレ」と燕が言った。


「…マリちゃんと一緒かぁー…」とポッタムは大いに嘆いた。



ほのぼのとした気分転換はここまでにして、将軍たちはダイジェスト版を見入った。


極はホワイトボートに、その相関図や具体的に受けていた詳細な命令などのコピーを張った。


「あ、雑用まで…

 本当に助かるよ…

 大方は理解できたから、

 煌少佐たちは下がっていいよ」


ミカエルの気さくな言葉に、上役の大佐である燕はミカエルを大いににらみつけた。


「あ、閃光大佐が上役だったね!

 ごめんごめん!」


ミカエルが陽気に笑うと、「…ああ、あの素晴らしい環境で眠れるなんて…」と燕は言ってミカエルの眉を大いに下げさせてから、胸に拳を当てて極とトーマを先導して退席した。



極たちは就寝前に、素晴らしい空気を大いに胸に吸い込みながら、語り合いながらいつの間にか眠りに落ちていた。


だが、「…ついに、来たかぁー…」と極は大いにうなって気合を入れた。


「…はあ… これがうわさに聞いていたやつね…」と燕は言って、目の前にあるたくさんの映像再生装置を見入った。


「ここは一体何なのですかぁ―――っ!!」とバンが大いに動揺して大いに叫んだ。


「あー… 資格でもあったのかなぁー…

 最低でもジャックさんは来てもらいたかったなぁー…」


極は大いに嘆いたが、同行者は燕とバンだけではなく、サエ、パオ、ウータ、そしてトーマがいる。


「経験を積んだら増えるんじゃない?」と燕が言うと、「…そうなんだろうなぁー…」と極が言ってから、「この場所は願いの夢見という特殊な場所でね… 詳しい話は起きてからするから…」と極は言って、目をつぶってから右脚だけでバランスを崩すようにして、モニターに向かって飛び込んだ。



「やっぱ、いきなりだった!」と極は言って、戦場と仲間たちに結界を張った。


すると、『ドーン、ドーン』という音とともに、砲弾が結界に激突した。


「さて、願った人は…」と極は言って、素早く首を振ってから、該当者に向かって走って行った。


「…砲弾が、届かない… 助かったぁー…」と言って、司令官らしき者はうなだれた。


「願いは?」と極が聞くと、司令官はすぐに頭を上げて、「…若い神だな…」と少し悪態をついた。


「願いがないのなら帰るよ」


極が早口で言うと、「このままでいいよ」と司令官が言うと、「結界は解除するから、またピンチになるけど?」と極が答えると、「…うう、そうなんだ…」と司令官は言って、敵の兵器を使えないようにして欲しいと願った。


極はすぐに承諾して、敵と、そして味方側の兵器を全て破壊した。


「ここは平等に。

 じゃ、次だ次!」


極が叫ぶと、またモニターの部屋に飛ばされた。


「…これは、夢なんだ…」とトーマはつぶやいて、極を見上げて笑みを向けた。


「本番の前に予行演習で本番。

 今はね、夢だけど飛んでる場所は現実なんだ。

 さらに詳しいことは起きてから」


極は言って、始めと同じようにして、モニターに飛び込んだ。



「あ、終わった…」と極がつぶやくと、親しい仲間の雑魚寝の寝室の天井を見ていた。


「…あれだけ戦ったのに、全く疲れてない…

 …すごいな、願いの夢見…」


「…おはよ… いい経験をしたわ」と燕は言って、極に抱きついた。


極たちは軍人らしく素早く身支度をして、庭にいた朝の早い村長たちに挨拶をしてから、扉をくぐって食堂に出た。



「みなさん、おはようございます!」と極は機嫌よく叫んで、大勢の仲間たちとともに席に座った。


幸恵も会議に出ているので、厨房にはいない。


しかし厨房勤務の誰もが働きもので勉強家なので、幸恵がいなくても十分においしい料理を食べられる。


極は真剣な眼をして、仲間を見まわした。


「願いの夢見は、古い神の一族の特権のようなものだ。

 特権と言っても、全然いいことではない。

 肉体の成長はないけど、貴重な体験をすることができる。

 ほとんどが戦場だったけど、

 生死をさまよう病魔に侵されていた少女の願いもあった。

 これは自然界からの指示によって、

 古い神の一族だけに与えられた試練でもあるんだ。

 今回は小隊だったけど、できればさらに増えて欲しいものだね。

 ちなみに夢の内容はこんな感じ」


極は言って、モニターに映像再生装置をつないで放映した。


関係者もそうでない者も、とんでもない戦いなどの映像を見入ってうなり声を上げた。


時代設定や星の様子などはまちまちで、この近隣の星ではないと誰もが理解した。


「俺視線だから、俺の手と足しか写ってないのは悔しいね」と極は少し嘆いて言ったが、仲間たちの必死になって映像を見入っている顔に笑みを浮かべていた。


「高性能な武器や、黒いとんでもないヤツらもいた…」とジャックは目を見開いて言った。


「あの黒い女性たちが、悪名高き悪魔という種族なんだよ」


「…おおー… 悪いヤツらだけど強ええー…」とバンがうなった。


「戦った感覚は残っているように感じる…」とパオが言うと、「肉体は別に用意してくれるんだ。だけど、魂はそのコピーの体に移動するんだよ」と極は笑みを浮かべて言った。


「…そうだった…

 今のボクと同じ力しか出せていないから、

 完璧で無敵の強さというわけじゃなかった…」


「これが、究極の精神修行っていうヤツだよ」と極は言って笑みを浮かべた。


「それから、あいまいな部分もあって、

 必ず毎晩行けるというわけじゃないらしい。

 特に条件らしいものはないけど、

 俺がさらに鍛え上げたら、毎晩行けるかもしれないね。

 あとは誘える人数だけど、上限はなさそうだ。

 そして俺からの指定はまだ確認できていない。

 念のために、行きたい人は大いに鍛えて願っておいて欲しいね」


「…願いまくってやるぅー…」とジャックは言って、まずは朝食と格闘を始めた。


「…だけど、私たちの本体って、無防備なのよね?」と燕が聞くと、「そういうことになるね、すっごくいい着眼点だよ!」と極は陽気に言った。


「第一に俺たちにはかなり敏感な仲間がいるんだ」と極は言ってトーマを見た。


「…あ、はい… 何度か目覚めました…

 …危険はなかったのですが、物音には敏感なので…

 一足先に夢見だったと正しく理解させていただきました」


「…無防備じゃないわけなんだぁー…」と燕は言って、トーマに満面の笑みを向けた。


「もし本当に危険を察知したら、

 トーマが噛みついて起こしてくれるだろうね。

 もし俺が夢見から覚めたら、全員引き戻されるからそれでもいいよ」


「いえ、誰か別の人を起こします。

 別の夢見に飛んで、いきなりのあの状態は、

 どの戦いでも未経験でした。

 それに、少しでも不幸を救うべきだと感じました」


「だからこそ、修練場の危機管理アトラションが大いに役に立つんだよ」


極の言葉に、映像を観た者たちは大いにうなづいた。


「第二に、俺たちはあの部屋で寝ていたが、魂は抜けていた。

 しかし実際に魂が抜けると、あまり良くないと感じる。

 よって、現実世界の肉体は保護されていたといっていい。

 だから、別の何かに刺激を受けると、

 仮死状態の体に魂が戻るというわけだよ。

 魂の件は今日の夜から順に説明しようと思っていたんだけど、

 まずは実際に体験してよくわかったと思う」


「魂があるということがよく理解できました」とトーマは言って、胸に拳を当てた。


「…だけど、悔しいなぁー…」とジャックはとんでもない戦いの映像を観ながら、全く怒ることなくつぶやいた。


「きっと、俺たちの今の本気を全員が出していると思う」


「…極様の司令官ぶりがかっこよかったですぅー…」とサエが言うと、「え? そう? あはは、ありがと…」と極は礼を言って大いに照れた。


獣人たちはサエに同意して何度もうなづいていた。


燕は何か気の利いたことを言いたかったのだが、緑竜になって暴れまくっていたので、感想はほとんどない。


ただただ、極の的確な指示に従っていただけだ。


「だけどね、一番の功労者は、この映像を観てもわかるように、

 遠くに出張って危機回避を受け持ってくれた燕さんだから。

 みんなが全力で戦えたのはそのおかげなんだよ。

 さすがみんなの先生だと、本当に感心したんだ」


「…あ、あら… そうだったのね…」と燕は言って大いに照れた。



朝食を終えて学校に行く前に、疲れ果てたミカエルとマルカス、そして比較的元気な幸恵がやってきた。


「お疲れ様です!」と極は叫んで立ち上がって、胸に拳を当ててから、「おはようございます!」と叫んだ。


もちろん誰もが一斉に立ち上がって、極に倣った。


「…あ、硬い挨拶はいいかから、極君、朝食作ってくんない?」


ミカエルが少し甘えて言うと、「学校がありますので、申し訳ありませんがご希望に添えません!」と元気よく答えて笑みを浮かべた。


「…その感情は清々しいのに、その内容はオカメちゃんと同じだよ…」とミカエルは言って大いにうなだれて席に着いた。


「特別指示書を書けばいいじゃない、今すぐに」と燕が言うと、「…キリク君、書いて?」とミカエルはが言うと、「申し訳ございませんが、極は学校生活も楽しみにしていますので、承諾しかねます」とマルカスが丁重に断った。


「…頑固者家族…」とミカエルは言ってうなだれた。


「では、行ってきます!」と極は燕、サエ、果林を伴って食堂を出てすぐに、学校に向かって走って行った。



「極、何かあったのか?」と教室で、かなり敏感な貝塚聡が眉を下げて聞いてきた。


「…はぁー… 悟のその能力のようなもの、本当にすごいって感心するね…」


「…何かあったって、そんなの当然じゃない…」と女子たちが口々に言って黄色い声を上げて極と燕を見入った。


「…あのね、もしもそんないいことがあったら、私は有頂天になってるわよぉー…」と燕が苦情があるように言うと、「…違ったのね… ごめんなさい…」と女子たちは大いに反省して頭を下げた。


「…あはははは! さすがに俺が未成年だからね!

 同意があったとしても、相手が大人の場合、少々まずいから!」


「…あー、燕さん、かわいそー…」と女子たちは大いに燕に同情した。


「式が終わって二次会に行ったのはいいんだけどね、

 夜遅くまで軍の仕事になったんだ…」


極は黙っておく必要がなかったので、全てを詳細に学友たちに語ったが、まさに密談のように声を潜めた。


「…色々と入り乱れてるって思ってたんだけど、そういう理由だったんだ…」と悟が言って何度もうなづいて、極を大いに労った。


「早速だけど、特例で出撃命令があると思うんだ。

 心の準備だけはしておいて欲しい」


その該当者のクラスメイトの数名は、真剣な眼をして胸に拳を当てた。


「だけど、安心できる映像を」と極は言ってポータブル再生機を出して、緑竜をクローズアップして編集した戦いの場面をみんなに披露した。


「…うわぁー… 先生に守られてるぅー…」と誰もが大いに燕を陽気に崇めると、燕は大いに胸を張って喜んでいた。


「私の神髄の戦い方よ!」と燕は叫んでから、「あっはっは!」と妙に芝居っぽく笑って、さらに機嫌がよくなっていた。



すると、頭を抱えたパトリシアが教室に入ってきた。


そして教卓に両腕をついて、「はぁー…」と大きなため息をついて、まだ始業ではないが、何かを語るのか、顔を上げた。


「…悲しいお知らせです…」とパトリシアは言って、顔を下げた。


「先生は、本来の仕事に戻ることになってしまいそうです…

 ですので明日、新任の教師が来ます…

 どうか、イジメないでやってね…」


―― あー… やっぱ、始まるんだぁー… ―― とクラスメイトの誰もがすぐに察した。


パトリシアは本来は、軍の統括本部でオペレーターをやっていた。


その任が決まりそうだと内定が出ていたのだ。


「聞いてはいませんが、校長もうなだれていて黄昏ていましたので、

 たぶん学校を離れることになります…

 …ですが、みんなと宇宙に飛び出したことだけは、

 本当に素晴らしい思い出になりました…」


「いえ、短期間で終わらせたいですね」と極が発言すると、「…ど、どうしてそれをっ?!」とパトリシアは大いに驚いて身をねじった。


「…あはは… 俺の強奪、もしくは暗殺命令が、バーン星から出ていて、

 その工作員に殺されるところだったたからですよ…」


極の言葉に、「…開戦の原因を知ったのって、初めてかもしれない…」とパトリシアは言って、感無量になっていた。


軍は正義として、民衆たちが戦いの発端を詳しく耳にすることはない。


もちろん、対する星を卑下する発言はあるので、否があるのは相手側とだけ説明はある。


もっとも、今までの戦いはまさにその通りで、ケンカを売られたので買ったという理由が全てだった。


しかも今回は星の宝でもある煌極がターゲットだったので、穏やかな軍上層部は黙ってはいなかった。


よって、バーン星からの宣戦布告のような行為は、もうすでにバーン星に届いていて、動かぬ証拠も見せつけられ、バーン星は大混乱となっていた。


そしてバーン星の軍は、民衆によって叩かれた。


同盟星で、しかも力のあるラステリアにケンカを吹っかけるとは何事だと、特に政府は目くじらを立てて軍を攻め立てた。


よって軍は、政府の政治家などをすべて拘束して、何食わぬ顔をして開戦の準備を始めた。



「…あんたの感動したところはそこなの?

 極さんが殺されかけたのよ?」


燕の厳しい言葉に、「…私のヒーローは死なないから、全然心配してない…」とパトリシアが言うと、「…信者がいたわ…」と燕はあきれ返ってつぶやいて極に笑みを向けた。


「予感があったから気を引き締めていました。

 ですがこれに甘えているわけにもいかないのです。

 そしてもちろん、仲間には甘えましたけどね」


極は言って燕を見て笑みを浮かべた。


「…出番、なかったのに?」と燕が眉を下げて言うと、「それほどの危機を感じていなかったから手を出さなかったと思ってるさ」と極が言うと、「…結婚してよかったぁ―――っ!!!」と燕が大いに叫ぶと、パトリシアはうずくまって両耳をふさいでいた。


「今回真っ先に手を出したのは英雄トーマだよ」


極が自慢げに言うと、「…やっぱ英雄はとんでもねぇー…」と生徒の数人がつぶやいた。


「俺は余裕をもって、工作員を裸にして、

 確実な証拠をつかんで自決をさせなかっただけだよ。

 だからこそ、昨日の今日で開戦になったわけだ」


「…リアルタイムな社会の時間にしますぅー…」とパトリシアは言って、極に頭を下げた。


極は眉を下げながらも、様々な情報を提供した。


バーン星は科学技術的には、ラステリアから一歩遅れていて、ラステリアがバーン星に出向くことになるだろうと、極は予測した。


そうした方が母星に被害が及ばないからだ。


バーン星の詳細な動きは不明だが、まずは宇宙での小さな戦いはあると極は言った。


しかしそこは簡単に撃破して、敵軍の大本営を破壊することが第一目標だが、もうすでに場所を替えていると予測した。


よって、敵軍の全てを別の広い場所に移動させているはずだといって、その候補地を示唆した。


そこはほどんど人が住んでいない湿地帯だった。


アルテリア軍にもバーン星軍にも不利に働くが、この場所が常識的に考えて、間違いないだろうと極は言ったが、もうひとつの可能性も示唆した。


「…民衆を盾にとるとは、卑怯この上ない…」と闘争心の高い能力者たちは大いにうなった。


「だからね、色々と作戦は考えたよ。

 まずは、人質のような民衆という盾をはがすことを、

 今回の作戦の第一目標にしたい。

 これがかなり手ごわいから、いい経験になるだろうね。

 安全に対応したいから、リナ・クーターを出して綿密に調査して、

 もちろん英雄トーマにも詳細に調べ上げてもらう。

 そしてできれば、無血で終戦にしたいもんだね。

 特に閃光部隊が大活躍すると思う。

 少々欲張りだけど、この展開が俺の今の希望だよ」


極は語り終えて頭を下げると、誰もが大いに拍手をした。


「…今までにない、手際のいい作戦会議に立ち会った気分…」とパトリシアは大いに感動していた。


「あはは、先生にそう言っていただいて光栄です」と極は言って頭を下げた。


「だってね、あの禿親父たちって、茶がぬるいだの整理整頓がなってないだの、

 うだうだと話すだけで、一向に会議が進まないの。

 だからその上が出て来てすべてを決めちゃうんだけどね…

 まあその時の高官の人って、一般兵になってるんじゃないのかしら…」


パトリシアの言葉に、極は大いに眉を下げた。


「もし煌中隊が出るとすれば、司令官は沼田准将でしょうから、

 俺としては安心しています」


「…ああ、それも怖いわ…

 准将が司令官だったら、

 ほぼ確実に作戦本部を破壊しちゃうもの…」


パトリシアの言葉に、「何度もあったあった!」と燕は陽気に叫んで腹を抱えて笑った。


「…ただのストレス解消のような仕事っぷりだね…」と極は眉を下げて言った。



すると、『バンッ!!』と大きな音がして、教室の後ろの扉が勢いよく開いた。


そこには確実に寝不足気味のキースがいた。


「おはようごさいまーす!」と極が陽気にあいさつをすると、「…食堂で出した映像…」とキースは言って、今にも眠ってしまうようにうなだれた。


極は少し考えて、まずはキースに調合した竜の水を飲ませた。


するとキースはぱっちりと目覚めて、「…寝て起きた…」と普通に言った。


「いえ、ベッドで寝た方がいいし、無理をすると寿命が縮まるかも…」と極が脅すと、「…無理をしてはいけない…」とキースは決心したように言った。


「何に使うんです?」と極が聞くと、「統合幕僚長がお冠でね… 自慢げなジャックにかみついた」とキースは答えて鼻で笑った。


「ジャックさんも災難だったね…」と極は言いながら、記憶媒体を出して、始めの方だけを再生した。


「いきなりの戦闘開始かっ!

 しかもこんなハイレベルな戦いは見たことがない…」


キースがうなるように言うと、「統合幕僚長がお冠なんでしょ?」と極が聞くと、「…うう…」とキースはつぶやいて、映像を観ながら移動を始めて、「あ! ありがとう!」とキースは気さくに言って極に手を上げた。


「…ボスの手下も大変だ…」と極は眉を下げて言った。


すると学友たちも大いに興味を持ったので、夢見の上映会が始まった。


「…一晩で30以上の戦場を経験したんだ…」などと、学友たちは大いに嘆くようにつぶやいた。


「色々と確認を終えてから招待するから…」と極は眉を下げて言った。


「ということで、極の場合は、

 ゲリラ戦に関しては得意分野だって言えるの。

 しかもマスタークラスを軽く超えてるわ。

 だから戦場がそうなるように仕向ければ、

 まず敵はいないわね」


燕が自慢げに言った。


「だからこそ、

 人質のような民衆たちをどうやって安全に隔離するかにかかっている…

 騒ぎになる前に速やかに敵を倒し…

 いや…」


極は言って希望を持った目をした。


「どうやって、敵の武器を速やかに粉砕するかにかかっているはずだよ。

 特に武器庫は先に潰しておいた方がよさそうだ。

 補給を断てば、途方に暮れるだろう。

 武器だけに頼る戦いは脅威だが、

 その武器がなくなれば簡単に争いは終わるはずだ」


「それができるのが煌部隊なの」と燕は自慢げに言って、腰に手を当てて高笑いをした。


「じゃ、その準備のために、大雑把な偵察隊を出すよ。

 一機だけ、なんだけどね」


極は言って、秘密基地にあるリナ・クーターを発進させた。


かすかな風切音が聞こえると、生徒たちは窓の外を見て、もう見えなくなったリナ・クーターに向けて、陽気に手を振っていた。


「レーダーにかからないの?」


「もちろんかかるんだけど、見せかけることができるんだ。

 あの大きさだと、さすがに生物に偽装するのは無理だから、

 自然現象のプラズマボールに見せかけて、

 素早く上空に飛んで消えたように見せかけるんだよ。

 レーダー担当官がベテランなほど使えるよ」


「騒ぎにすらならないわけね。

 その知識もないと、偽装を思いつかないわ」


「それにさ、大きい方は安全な宇宙で待機させておいて、

 ちびっこ隊を出せばもう完璧」


「…三体、いたわね…」と燕は眉を下げて言った。


「でもね、そこまですると実戦経験とは言えなくて、

 イージーモードのゲームと同じだ。

 だから今回は、現地に行ってから会議をして、

 戦略を考えたいと思う。

 だから絶対に間違えるわけにはいかないんだ」


極は真剣な眼をして空を見上げた。


「ほらほら立派で頼りになる私の旦那様!」と燕は叫んで極と腕を組んで、パトリシアに見せつけると、「キーッ くやしーっ!!」と大いに叫んだ。



「…あのー… 援軍、いらないの?」と昼食の席でミカエルが眉を下げて言った。


わざわざ学校に出向いた意味があるのだろうかと極は思ったが、睡眠を取った後の散歩だったようだ。


「はい、そっちまで守るのは保証できないので放っておきますし、

 常に待機です。

 そういった部隊が煌中隊の理想で、現在の持ち味ですので。

 きっと司令官も機嫌よく首を縦に振ってくれることでしょう」


「…はぁー… ユキちゃんが初めて、司令部を壊さないんだろうなぁー…」とミカエルは言ってうなだれた。


「ですのですべてが終わってからはお任せします。

 敵勢力はなかなかの数なので、中隊ではかなり時間がかかるので。

 後始末をお任せしてしまって申し訳ないのですが、

 御尽力を願います」


ミカエルは顔を上げすにひらひらと手を振って、「…出番があればそれで構わないよ…」とつぶやいた。


「ですが我々は帰還しません」


極が言うと、ミカエルは顔を上げて、「…全くその理由がわからない…」とつぶやいた。


「あまりにも速やかに軍を壊滅させた場合、

 残った民衆が元気。

 よって、民衆たちが騒ぎ始めるからです。

 そうならないように、良き手本を見せつけて、

 騒動が起こらないように仕向けるのです。

 幸い、バーン星の民衆は悪食のようです。

 食事の時、笑みを浮かべる者は皆無で、

 誰もが眉をひそめているのです。

 それを即座に一新するだけで、

 騒ぎにはなっても争いにはならないと思うのです」


「…参った…」とミカエルは言って、極に頭を下げた。


「そのメインの指揮官が燕さんですから、

 できれば崇めていただきたいものです。

 その姿を見れば、騒ぎも一瞬で収まりますから」


「…騒ぐわけにはいかないだろう… 怖いから…」


「できれば速やかに友好関係を取れるようにしたいのです。

 まさか占領するなどと考えてはおられないでしょうね?」


「…あ、それはボクが反対したよ!」とミカエルは必死になって叫んだ。


「もちろん、軍を解体することで、

 星の防衛のために駐留軍は必要です。

 ですので観光目的にもなる駐屯地も作りますから。

 できれば快く、迎え入れていただきたいですね」


「その部分だけは叩かれそうだけど、

 ことが起ってからでは取り返しがつかないからね…

 納得してもらう必要はあるだろうね…」


「ですので、バーン星の最悪の未来として映画でも作りますよ。

 駐留軍がいなかったと仮定して、

 どのようなことが起ってしまうのか。

 そのシミュレーションとしては重要になると思います。

 幸い、テレビっ子が多い種族のようなので好都合です」


ミカエルは少し白い目で極を見て、「…その知識、どこから湧いてくるの?」と厳しい口調で聞いた。


「知識ではありません。

 そうすれば一番平和だろうと感じたからです。

 特に変わった技術などは使いませんから。

 もっとも、駐屯地候補は少々科学技術を使いますから、

 それなりの部隊を駐留させていただきたいですね。

 各支局からも数百名は宇宙軍に格上げさせてもいいと思います」


「…その雑用係、引き受けたよ…」とミカエルが言ってうなだれると、小鳥の燕が極の肩の上で陽気に鳴いた。


「そしてこの中央軍も、どこかに引っ越そうかと思っているので、

 企画書を提出します。

 回りには民間の施設も増えたので、

 静かなところでじっくりと軍人を育て上げることもいいでしょうから」


「…うん、期待して待ってる…」とミカエルは言って大いに苦笑いを浮かべた。



翌日の朝、煌中隊はバーン星の制圧という特命を受けて、学校の遠足用に作っていた宇宙船に乗り込んだ。


「うっわっ、もうついた」とバーン星に詳しいジャックが少し陽気に言った。


「経験者がいることも、この部隊の力になる。

 では早速だけど会議をするよ」


極の言葉に、一段高い場所にいて軍服姿の幸恵は満面の笑みを浮かべていた。


まさに自慢の息子を目の前で見ていられる幸せ感じていた。


よってマルカスが大いに食い下がって宇宙船に乗りたがったのだが、別任務があるとミカエルになだめられて諦めていた。


「まずは大本営の場所ですが、

 このバーン星の一番大きい街の傍らの自然公園内です。

 これは高高度から探って、95パーセント以上確実でしょうけど、

 油断はしません。

 警備としては薄いように感じたので、

 その杞憂があるからですが、

 民衆という盾があるので、うなづける部分もあるのです。

 ここで戦闘を始めてしまうと、

 民衆がただではすみません。

 しかも、ここまで探られていることを悟ってもいないようで、

 ごく普通の静けさです。

 よって、この司令部らしき場所を結界で囲って様子を見ようと思いましたが、

 それでは周りを囲んでいる軍が不穏に思い、司令部に近づこうとして、

 民衆とまじりあうので良策ではありません。

 よってここはトーマに出張ってもらって、さらに詳しい現実を入手させます。

 第二の会議はそれからでいいと思っているのです」


「煌少佐の指示に従え」と幸恵は威厳をもって言った。


「浮気はしないから、トーマに付き添って?」と極が燕に言うと、燕は愉快そうに笑って、小鳥のオカメになってトーマの肩に止まった。


「…ああ、とんでもない安心感が…」とトーマは言って極に笑みを向けてから、胸に拳を当てた。


「じゃ、足はこれを使ってよ」と極は言って、小型のリナ・クーターを出した。


「さすがにこの小ささだと、中央軍のレーダーでも感知できなかったから、

 実証済みで安全だよ」


「…ボクの、足…」とトーマは感慨深げに言って、リナ・クーターをなでた。


「果林が使えるようになったら、レクチャーも頼みたい。

 安全第一に、速やかに諜報活動を頼む」


極は言って胸に拳を当てると、「はっ お任せください」とトーマは真剣な眼をして胸に拳を当てた。


「気を付けていってこい!」と幸恵が陽気に叫んで、トーマとオカメを見送った。



第一報が秘匿回線から入って来て、大本営はふたつあると連絡があった。


もしもどちらかが倒れたとしてもすぐに立ち直せるようにと考えた結果のようだ。


だが優先順位はあって、公園内にある方が順位は高いようだ。


よって、もうひとつある大本営とは頻繁に通信がある。


そのもうひとつは星の裏側の、こちらも街中のビルに設営されていた。


どちらも面倒なのは、その街の周囲に戦力を集中させていることだ。


まさに籠城戦と言っても差し支えない。


「…むむ… こしゃくな…」と幸恵は小さくうなった。


「私の予測でしかありませんが、

 この状況を確認させて、

 諦めさせることが狙いだと思います」


「あ、その件、トーマが送ってきた」と幸恵は言って報告書を見た。


「それが第一の目的だ。

 頃合いを見計らってこの状況から宇宙船を出すつもりのようだが、

 それをまず叩いた方がよさそうだな…」


「はい、外にいるのはわずか数隻なので、簡単に地上に戻します。

 その後、準備中の宇宙港を次々に襲撃します。

 ここは閃光部隊にお任せを」


「おう! それで構わん!」と幸恵は叫んで、陽気に笑った。


「いや、ちょっと待て…

 トーマのヤツ…」


幸恵はにやりと笑って言うと、「…さすがに手早い…」と極は大いに眉を下げて、モニターに映っている小さなリナ・クーターを見上げた。


リナ・クーターをすぐに宇宙船に格納して、全軍の詳しい情報を確認した。


「伏兵はいるようですけど、最後でよさそうです。

 ここには民間人はいませんので。

 戦闘することなく、簡単に終わらせます」


「結界を使いやすいからな」と幸恵は言ってにやりと笑った。


「ではようやくですが、終戦までの詳しい作戦を。

 全員、すべてを頭に叩き込め」


極の冷静な言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てた。



作戦行動は開始され、宇宙船はレーダーに捕捉されない場所のひとつの南極に向かって大気圏に飛び込んだ。


しかし、大型のリナ・クーターに乗っている極は宇宙空間に残り、簡単に敵宇宙船の武器を破壊して、極の能力で、様々な場所の宇宙港に向けて帰還させた。


リナ・クーターはすぐさま南極から大気圏に飛び込んで、閃光が使える仲間たちをリナ・クーターでけん引して、近場の宇宙港の宇宙船や武器、遠距離ミサイルなどを一瞬にして破壊した。


『大いに動揺した!

 作戦通り遂行しろ!』


幸恵の言葉が極に伝えられた。


極は全員に念話で伝えて、次の宇宙港を襲うために、素早く移動を開始した。


5カ所あった宇宙港を機能できないようにした閃光部隊は一旦南極に戻って、中隊全軍をリナ・クーターで拾ってすぐさま、第一の大本営に結界を張った。


その足で第二の大本営にも結界を張った。


もちろん、群衆を囲んでいた軍は、大いに戸惑った。


大本営からの通信が途絶えてしまったからだ。


すると目の前に大群が現れ、誰もがさらに戸惑ったが、現地司令官が迎え撃つように指示を下した。


これは小さなリナ・クーターが映像を投影したダミーだ。


その時、リナ・クーターは裏側の第一の大本営に戻っていて、同じように大軍を発生させて、軍勢力と民間人の切り離しに成功した。


リナ・クーターは大きな結界を町に張って、また裏側に戻って同じように処置をすると、『伏兵部隊が動揺を始めた! すべてを先に拘束しろ!』と幸恵からの指示があったので、リナ・クーターはすべての伏兵陣に結界を張って出撃できないようにした。


「さあ! 本番はここからだ!」と極は言って、リナ・クーターを降りてすぐに、第一の大本営近くの強力な兵器から順に閃光を使って破壊した。


そしてトーマはこの軍の司令部に侵入して、通信できないように工作をして戻ってきた。


さらに陸上戦闘部隊は大混乱となって、武器だけを破壊され、大いに恐れ始めた。


そしてトーマは武器庫を破壊して、悠々と極のそばに戻って来て、陸戦の手伝いを始めた。


この戦いは、リナ・クーターによって、テレビ局をジャックして強制的に報道された。


しかし、多くの民衆は透明の壁に包まれていることに気付いて、捕らわれているのか守られているのか大いに動揺したのだが、ここで幸恵がラステリア軍の司令官として映像に登場して、『無血終戦作戦を遂行中だ』と威厳を放って言った。


民衆たちは派手な戦闘状態を見て納得できなかったが、大勢の軍人たちが走って引き上げてきたことを見て、ほとんどの者が納得していた。


全ての武器、兵器を破壊して、リナ・クーターは星の裏に飛んでから、また武器だけの破壊を始めた。


全ての武器を取り上げられ、人質まで奪われてしまったバーンの軍人たちは、途方に暮れて駐屯地に座り込んだ。


そして幸恵は第一の大本営に、トーマが仕掛けた秘匿回線で通信して、『白旗を上げろ』と厳しい口調で言い放った。


敵幕僚長はあまりのスピーディーな展開に放心状態だったが、うなだれたまま降伏を宣言した。


もちろん、もうひとつある大本営にも通信を送り、同じように降伏の意志を告げさせた。


もちろん、この報道もされ、住人たちはさらに困惑を始めた。


そして暴動が起こる前に、このバーン星の未来を幸恵が語り始めた。


『もとはといえば、我が軍の高能力者の暗殺、または拉致が目的だったのだ。

 よってそれを宣戦布告として、この星に攻め入ったのだ。

 だがその能力者が、この星に恩恵を授ける。

 バーン軍が壊滅したことで、様々な場所に障害が出るだろう。

 まずはこの騒乱による食糧問題。

 ここからは神が現れ、住人たちに恩恵が授けられる。

 戦地となった場所は一時的だが農地に変えて、

 美味いものを食わせてやる!

 しかも、今すぐにだ』


「…うわー… 司令官、きびしぃー…」と極は言って眉を下げたが、全員にペットボトルと冷えてもうまい簡易食を渡した。


肉体の疲労回復と腹ごしらえを終えた煌中隊は、第一の戦場に飛んで、幸恵の言葉通り戦地を整地した。


そして巨大な緑竜が現れて、広大な農地が出来上がった。


もちろんこの映像も放映されていて、誰もが竜の存在に怯えたが、その収穫物を両手で抱え上げてる極の笑みを見て、多くの者が笑みを浮かべた。


そしておっとり刀で、ラステリアの大軍が、軍人たちの拘束に回った。


武器がないだけに、ほとんどの者は抵抗しなかったが、腕力自慢は大いにその拳を振るったのだが、能力者たちに簡単に拘束されていった。


まさに戦争と平和が同時にやってきたのだが、民衆はそれほど騒ぐことなく、うまい収穫物を口にした。


まだ安心できる復興を終えていないが、極たちは休息の時間を摂ることにして、司令部である宇宙船を呼び寄せ、その上空にリナ・クーターを浮かべて警備をさせて、異空間部屋で就寝した。


現実時間では一瞬で完全復活を果たした極たちは、大いに食ってから、さらに農地を造りに回った。


そして子供たちに笑みがないことを発見して、極は笑みを向けて、手品のようにしておもちゃやお菓子などをわらわらと噴出させた。


そして、空き地に子供用の児童公園の代わりの修練場を作り上げた。


まさに俊敏な復興に、怪訝に思っていた大人たちにも笑みが浮かび始めた。



そして解放された政治家の代表と、マルカス大将による、これからのバーン星の会談が早速始まった。


もちろん、宇宙船はすべて破壊され、軍人もすべて拘束されつつあり、ラステリア以外からの脅威はあると、政治家は杞憂に思っていた。


その杞憂を払拭させるため、占領ではなく駐留としてラステリア軍を置くとマルカスは宣言した。


よってすべての政治は政治家にゆだねられたことになる。


大いに答えを渋っている政治たちに向けて、「出て行けと言われたらすぐにでも出て行くが?」とマルカスが言うと、政治家たちは大いに戸惑ったが、マルカスの言葉を信用した。


そして、民衆の子供たちの朗らかな映像が流されて、「…敗戦したはずなのに、喜んでいる… まるで夢を見ているようだ…」と政治家は笑みを浮かべて言った。


極たちは予定通りの任務を終えて、上機嫌の幸恵の指示で、ラステリアに帰還した。



「さすがに司令部が宇宙船だったから、破壊しなかったね」とミカエルが幸恵をからかうように言うと、「その暇もなかったよ…」とかっぽう着姿の幸恵は気さくに言いながら、ため息を漏らした。


「だが、もうないだろうねぇー…」と幸恵は言って眉を下げ、寂しく感じていた。


「強い者がひとりいるだけで、軍人の成長が止まるという、いい資料ができたさ」とミカエルは言って、陽気に寛いでいる煌中隊の面々を見て笑みを浮かべた。



だが、そう簡単には終わらなかった。


キースが真剣な顔をして、パトリシアとともに食堂に現れて、ミカエルに耳打ちをした。


「…ゆっくりさせてもらえないんだね…」とミカエルは言って、ゆっくりと立ち上がって、キースとともに食堂を出て行った。


「煌少佐」とパトリシアが言ってから、燕を見た。


「隊長は極さんだからぁー…」と燕は言って、極の腕を抱きしめて、笑みを浮かべている宇宙に笑みを返した。


「…全てが悔しいぃ―――っ!!!」とパトリシアは大いに叫んだ。


「実は、まだ終わっていない可能性が大なのです」とパトリシアが真剣な眼をして言うと、「スパイに来た4人についてですね?」と極が言うと、「…さすが私のヒーロー…」とパトリシアは満面の笑みを浮かべて言った。


「バーン星は傀儡。

 その背後にまだいるということですね」


「操り主は血の気が多く、気が荒い猛者が多いキリング星です」


「薬物で強くなってもねぇー…」と極は嘆くように言った。


「はい、そのスパイはバーンに戻しましたが、

 老人化が始まっていました。

 実年齢は20台と若いのですが」


「特殊能力を得るために若さを代償にした。

 本人の同意があったのかは、ここでは語らないことにするよ…」


極は言ってから、ため息をついた。


「もちろん大本営は、キリング星にすべての事実を伝えて遺憾の意を示すはずです。

 そしてまた、私のヒーローが戦うのですぅー…」


パトリシアが夢見る乙女ように言うと、「…勝手に決めないでください…」と極は眉を下げて言った。


「それなり以上に満足したよね?」と極がジャックに聞くと、「…お前の部下は俺だけじゃねえー…」とジャックは大いに悪態をついた。


「じゃあ、サエは?」


「今は、満足ですぅー…」とかわいらしい笑みを浮かべて言った。


「こういえばいいだけだったんだけど?」と極がジャックを見て言うと、「…うう…」とジャックは大いに戸惑った。


「でもね、この特別部隊に出撃を断わる権限はない。

 だけど、頼りになる父ちゃんの心ひとつにかかっているから。

 戦場から帰って来てすぐにまた行けなどとは、

 特殊な場合以外はないと思うよ」


「…大軍で行って、制圧すればいいだけ…」とジャックはつまらなさそうに言った。


「だけど相手は強化人間を多数抱えているはずだ。

 そしてどうやら、宇宙での戦いは苦手のようだ。

 だからこそ、バーン星を利用したんだろうと思う。

 キリング星の宇宙船は、

 宇宙開発の初期の遺物と言っていいほどお粗末だからね。

 さすがに宇宙船を購入するとなると、少々お高いから、

 戦艦レベルを数隻しか持ってないんじゃないのかなぁー…

 その辺りはどうなっているんです?」


極がパトリシアに聞くと、「…そこまでの情報はございませんー…」とパトリシアは大いに嘆いて答えた。


「ですが、やけに強いヤツもいました。

 そのバーン星のヤツらもあの場にいたのかもしれません」


バンの言葉に、「確かにいたね」と極も認めた。


「大勢いると苦戦もするだろうけど、

 数人だと簡単に倒せる。

 いい情報を得たと思うよ」


極が言ってバンに笑みを向けると、バンはオーバーアクションでガッツポーズをとった。


「…私も褒められるように、もっともっとお勉強しますぅー…」とパトリシアが言うと、極と燕が大いに笑った。


「その欲は抑えるものよ」と燕が言うと、「…はあ…」とパトリシアはため息をついて大いにうなだれた。



「では、反省会をするから。

 このイベントが終わってから解散するよ」


極の言葉に、誰もが背筋を伸ばして、胸に拳を当てた。


「反省する点は各個人あると思うので全て任せるから」


極の言葉に、誰もが耳を疑っていた。


「そのミスなどをわかっている人に、

 わざわざ伝えても仕方ないじゃないか…

 だけど大きなミスはなかったから、

 実例としての披露も必要なし。

 さらに言えば、同じミスを繰り返した者がなかったことも大きな理由だ。

 では、実際のところ反省会じゃなくて、

 何をしようというのか」


極の言葉に、誰もが大いに戸惑った。


「功労者を褒めたたえる会」


極が笑みを浮かべて言うと、燕だけが大いに笑い、ほかの者たちは大いに困惑していたが、トーマだけは穏やかな笑みを浮かべていた。


「総合すれば誰もがわかっているように、

 やはり英雄トーマの活躍が目を引いたね。

 これほどスピーディーに対応できたのは、

 トーマの斥候能力の高さにある」


極の言葉に、誰もが納得するしかなかった。


「だけどね、英雄を褒めたたえたって、

 この先の成長はほとんどないんだ。

 でも、トーマにはあとでこっそりと、

 個人的に褒美を渡すからね」


極の明るい言葉に、トーマは何も言わずに笑みを浮かべた。


「もっとも、トーマは俺たち評価側に回ってもらおうと思う。

 その仲間は、もちろん燕さん」


「…ご褒美も欲しいぃー…」と燕が眉を下げて言うと、「うん、個人的に宇宙旅行でもどう?」と極が聞くと、「…ああ、うれしいわぁー…」と燕は言って、宇宙をやさしく抱きしめた。


「というわけで、審査員のあいまいな評価よりも、

 現実的にどれほど貢献したのか発表したいんだけど、

 映像として出していい?

 それとも、個人的に渡した方がいい?

 もちろんこれは、軍人としての昇格にも左右することだから、

 かなり重要なことでもあるよ」


極は仲間たちを見回して、「…恥ずかしいという意見が半数ほどあるので、公表はしないよ…」と極が言うと、誰もがほっと胸をなでおろしていた。


「だけどだ、見せしめ…

 あ、違った…

 優秀な者は、できれば全員の前で褒めたたえたいんだ。

 今後のやる気にもつながることだからね。

 これは正確に貢献した結果…

 リナ・クーターの映像から、

 個人別の破壊した武器数を集計したものだよ」


極の言葉に、「…えっ?」と誰もが言って目が点になっていた。


「勇者を甘く見ないでね」と燕はなんでもないことのように言って、宇宙をあやし始めた。


「じゃ、第一戦闘場での第一位」と極が言うと、誰もが大いにそわそわとし始めた。


「…いや、実はね、俺としては予想外だったんだよ…」と極が小声で言うと、「さっさと公表しやがれ!」とジャックは大いに叫んだ。


「あははは、この瞬間が楽しいのに…」と極が言うと、同意したのは燕だけだった。


「第一戦闘場のエースは、サエだ!!」


極の言葉に、「…おー…」と誰もがうなり声を上げて、そして拍手が起こり始めた。


「…くっそ、俺じゃあなかったのかぁー…」とジャックが悔しそうに言うと、「だから後で成績表を渡すから…」と極は眉を下げて言った。


「その第一位、エースの成績も載せておくから、この先の参考にしてもらいたい」


その当事者のサエは、目を見開いて固まっていた。


まさか、これほどのハイレベルな軍人の中で、自分自身がトップとは思ってもいなかったようだ。


「マスターがいないのに、トップは信じられないほどだ。

 だからパートナーたちには大いなる希望となったはずだよ」


まさに極が言った通りで、サエ、パオ、ウータ、バン、トーマはマスターなしで戦ったのだ。


まさにパートナーもハイレベルな能力者ともいえた。


「じゃ、次に、第二戦闘場での第一位」


極の言葉に、誰もが胸に拳を当てて少しうなだれていた。


「ここは能力者とパートナーのペアがエースだ。

 沙月アンドブラックナイト!」


極が叫ぶと、誰もが一斉に拍手をして、ふたりを褒めたたえた。


「サエはね、第二戦闘場では、ちょっと息切れ気味だったんだ。

 よって、総合第一位は大いに激戦となった」


極の言葉に、誰もが大いに希望を持っていた。


「誰だと思う?」と極がジャックに聞くと、「俺に聞くな!!」とジャックは叫んで大いに憤慨した。


「じゃ、トーマはどう思う?」と極が聞くと、「…実は自分自身の任務が必死で…」とトーマは大いに眉を下げて答えた。


「このトーマでさえも、あの戦場では必死だった。

 みんな、怪我もなくて本当によかったよ」


極の言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てた。


「総合のエースは、発表することもなく、

 俺の軍での友人ペアに決まってる!」


極の言葉に、「よっしゃぁー!!」とジャックが大いに叫んでガッツポーズをとった。


「友人なのか?」と黒崎が真剣な顔をしてジャックを見ると、「…あ…」とジャックはつぶやいてから大いにバツが悪そうな顔をしてうなだれた。


「俺は認めてるのに本人が認めないので、

 今の黒崎さんのちょっとしたイジメはありです」


極の言葉に、黒崎は笑みを浮かベた。


「では、この戦いでのエースの反省点を。

 この言葉は大いに重いと思う。

 まずはマスタージャックから」


「…やっぱ、俺たちだったんだ…」とジャックは今さらながらに言って、極に笑みを向けたが、すぐにパートナーのフランクを見た。


「俺たちがエースになれたのは、全てはフランクのおかげだ」


ジャックは言って誇らしく胸を張った。


「まず俺は、何とかして功績を残したいと思って、

 サエの動きについて行こうとした。

 どう考えても、まさに化け物級の動きだった。

 それについて行けねえと貢献できねえ、

 恩を返せねえと思ったんだ」


ジャックの言葉に、極は何度も大きくうなづいた。


「そしたらフランクのヤツがすぐに、オーバーワークです!

 と叫びやがった。

 もちろん、息切れするって言いやがったんだ。

 一瞬カチンときたが、途中で倒れちまったら元も子もねえ。

 恩を返すどころか足手まといになっちまう。

 だから、わかった、牛野郎!

 と悪態をついて、フランクの言いなりになったんだ」


ジャックが語り終わると、フランクは号泣していた。


まさに最高のベアだと、極は思って、少しだけジャックをうらやましく思った。


「最高の反省会だった。

 ちなみに閃光部隊のエースは、

 学生ながらも頑張ってくれた、一条先輩のペアです。

 軍からお達しがあると思いますので、

 できれば快く受けてください」


極の言葉に、一条は笑みを浮かべて胸に拳を当てた。


「そして特進級の今回のヒーローでもあり英雄は、

 見た目と総合成績から判断して、

 その存在感を大いに生かした、バンだ」


極の言葉に、「うおおおおおっ!!!」とバンは大いに叫んで何度もガッツポーズをとった。


「…怖ええ…」とジャックが眉を下げながらもバンを見て言った。


「もちろん、サエは次点だ。

 恐竜とトラの差が出たようなもんだ。

 恐竜の獣人で軍人はそれほどいないから、

 存在感だけで敵さんは腰が引けていたからな。

 よってこれはアシストと認めた結果でもあるんだ。

 だからある程度は、誰もが戦いやすかったはずだ」


すると幸恵がやって来て、バンの背中を思いっきりひっぱたいたが、「あんた! とんでもなく硬いじゃないか?!」と大いに叫んで、幸恵は手のひらをさすった。


「特別に鍛えた成果だよ。

 強いバンをさらに強くしようと思って、

 食事療法で肉体改造をしていたんだよ。

 スピードは少し落ちるけど、

 体表を固くすれば、

 防具を着こめば無敵だからね。

 さらには、うろこの艶が異様によくなって戦場ではその存在感が大いに映える。

 これは俺のアシストだね」


極の言葉に、「ウォー… ウォー…」とバンは小声で泣き始めた。


幸恵は満面の笑みを浮かべて、極の頭を乱暴になでた。


「もちろん、最終的には全員に何らかの指導をしていくから。

 それは気に入った順じゃなく、俺が気になった順だ。

 さらにはもったいないと思っている部分の鍛錬、だね」


極の言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てた。


「発表した各エースは欲しいものがあれば言ってきて欲しい。

 燕さんと相談の上、できる範囲で叶えるから。

 本当にみんな無事でよかった…

 そして俺の夢がひとつ叶った。

 本当にありがとう。

 お疲れさまでした」


極は穏やかに心を込めて言って、反省会は終了した。



「まずトーマには今すぐ褒美だ」と極は言ってトーマに念話を送ると、「ああ… ああ…」とトーマは言って、そして大いに感動して、号泣を始めた。


「トーマだったら絶対に喜んでくれると思っていたんだ。

 物よりも何よりも、トーマが欲しいものだったと思ったんだ。

 これは父さんが俺に願いをかけたそのものでもあるんだよ」


極の言葉に、トーマは何度もうなづいていた。


「うう… すっげえ、気になるぅー…」とジャックが小声で言った。


「私も知りたいわ。

 トーマ、教えてくれない?」


燕が穏やかに言うと、トーマは懇願の目を極に向けた。


「これは自分で言うことじゃないからね。

 トーマにはもうひとつ名前を授けた。

 ふたつ名ではなく、みっつ名と言っていいだろう」


極の言葉に、「…号泣して当然だわ…」と燕はすぐに察して、納得の笑みを浮かべて言った。


「英雄の極 トーマ」


極の言葉に、誰もが大いに納得して、トーマは号泣しながらも、胸に拳を当てて極を見上げて笑みを浮かべた。


「それにもうこれ以上、

 トーマには何もできない程に逞しいからね。

 だからこそ、無謀なことは避けてくれよ」


極の言葉に、「絶対に守るとお約束します!」とトーマは胸を張って言って、胸を何度も拳で叩いた。


「うん、穏やかで素晴らしい気合だ。

 全員、今日はゆっくりと過ごして欲しい。

 もちろん明日は学生を含めて強制的に休暇だから。

 その先、最大三日間、合計4日の休暇は認められているので、

 使用しても構わないからな」


大勢の猛者たちは一斉にガッツポーズをとった。


「俺たちがどのような戦いをしたのか、

 ここでエンドレスで流すから、

 参考にして欲しい」


極はこの場にいる全員に向かって言って、再生装置をモニターにつないだ。


すると食堂にいる誰もが映像を見入り始め、戦闘が始まったとたんに、一般兵たちはうなだれていた。


まさにレベルの格差を思い知ったといったところだ。


もちろん、軍選抜部隊と言ってもいいメンバーでもあるので、認めない者はまずいない。



「…ああ、こいつ…」と極は言って指をさすと、「強化兵のようね」と燕はすぐに言った。


しかし、エリザベスに簡単に武器を弾き飛ばされ、さらにはウータにタックルを食らって伸びていた。


「…飛んだなぁー…」と極が言うと、燕は愉快そうに笑った。


「俺のパートナーたちはまさに重戦車だな…

 閃光が使えれば、怖いもの知らずだ。

 …ん?」


極は言って考え込んで、頭を押さえつけた。


「…さらに強くするご神託ね…」


「…悪魔の眷属って知ってる?」と極が燕に聞くと、燕は真剣な眼で考え始めた。


「…悪魔の眷属は知らないけど、

 そういった意味合いのヤツは出会ったことがあるの…

 別に悪魔とはそれほど関係はなくて、

 生物が術によって封じ込められた杖…」


「…それ、やだな…」と極は眉を下げて言った。


「閃光を放つヤツは知らないけど、

 エネルギーの塊を飛ばすヤツだったわ。

 そいつが飛ばしたのは炎の塊。

 水のヤツもいたの。

 あとは、黒い球。

 着弾すると、大爆発を起こして、地面や岩肌に大きな穴が開いていた。

 ああ、夢見で悪魔が放っていたわね。

 スピードが遅いから無意味だったけど」


「湧いて出たのは、その杖はすべて閃光を放つヒントを持ったヤツら。

 その解析ができれば、術として構築できそうだが…

 その媒体に生物を使わなきゃならないようだな…

 だから、燕さんたちのようにナチュラルじゃないようだ」


極は何度もうなづいて、右手のひらを上に向けると、光り輝く大きな玉に成長した。


「…あんた! ここでやってんじゃないわよ!」と燕が大いに慌てると、「あ、手品のようなものだよ」と極が落ち着いた声で言うと、「…エネルギーを感じない…」と燕は言って慌てた自分を恥ずかしく思った。


「手品だけど、なかなかの高等技術だよ。

 脅しにだったら使えるって今証明してもらった」


極が笑みを浮かべて燕を見ると、「…十分すぎるほどだわ…」とすぐに認めた。


「だけど、多少の熱放射はあるから、

 触っちゃダメだよ」


もちろん果林が興味を持っていたので、極はわざわざ言ったのだ。


「…熱って、どういう理由…」と燕は言って、「…はあ… 大いに呆れたし、納得もいったわ…」と燕は言って呆れ顔をした。


「中心にいくほどに熱くなってるんだ。

 空気中の水分をレンズのようにして、

 都合よく光を反射させてるだけ。

 戦闘的ダメージは皆無」


極は言って、天井に向けてゆっくりと放つと、光はすぐに分散して消えた。


「…きれー…」と果林は感動して言った。


「だけどね、室内だからあの程度だったんだ。

 室外の直射日光で今ほどのレンズを交差させると、

 火球になると思う」


「…かなり熱いわね…」と燕はすぐに賛同した。


「必要だったら色々と考えよう。

 特に能力者には、いいトレーニングになると思うよ」


極は何も得ることがなかったと思っていると、「明日、物知りに会いに行こうか…」と言うと、「黒ヒョウね」と燕は興味津々で言った。


「出てきてくれたら幸いだけどね…

 博物館はそのあとでいいか…

 ガイアも時には呼び出した方がよさそうだし…」


「…あまり会いたくないけど、マリーンのためにもなりそうだわ…」


「きっと、時には呼び出しやがれ! とか言われそうだ…」


極がうんざりした感情を流して嘆きながら言うと、燕はクスクスと笑った。


「火、水、土、風…

 氷、炎、雷、緑、ジュエル、メタル…

 そして、無?」


「今度は何?

 今のって竜なの?」


燕が大いに気にして聞くと、「いるそうだよ… 特に無竜は最強らしい…」と極は言った。


「何も持っていない竜…

 その代わり、術は効かない…」


「えっ いきなりそうなるの?

 …ああ、だからこそ無敵ということか…

 なるほど…」


「だけど四大属性と氷、緑以外は会ったことないわ」


「だけど金竜とか、いそうじゃないか…」


「…うーん…」と燕はうなって考え始めた。


「じゃあさ、緑竜の術で、

 緑のオーラで再現できない術を伝授することってできないの?」


「竜になること」


燕の言葉に、「…それは大いに言えるね…」と極はあきれ返って言った。


「…あ、竜の鎧を纏える自信があるけど、どうする?」


燕は恍惚とした表情になって、「…ふたりっきりで…」と大いに恥ずかしそうに言った。


「色違いのバンのようだよ?」


「…興ざめするようなこと言ってんじゃないわよ…」と燕は大いに感情を変えて怒っていた。


「願いの夢見に出て、変身できるようになったって確信した。

 ま、暗黒大陸に行ってからでいいか…」


「…結局明日も忙しくなりそうね…」と燕は言って、すやすやと眠っている宇宙に笑みを向けた。


極たちは東の獣人の村に行って就寝したが、今夜は願いの夢見に出ることはなかった。



翌朝、極は燕と宇宙を連れて、観光気分で空を飛び、暗黒大陸に行って大地を踏みしめ、辺りを見回した。


「あ、先に竜の鎧を」と極が言うと、燕は恍惚とした表情になっていた。


『…ふーん…』と極が言うと、まさに人型に近い竜で、その色は虹色に光り輝いていた。


『かなり目立つバン』と極が言った途端、燕は耳を押さえつけて緑竜に変身した。


「いきなり驚かせるんじゃあねぇ!」と緑竜が叫ぶと、『声、出さない方がいい?』と極が言うと、緑竜は飛んで逃げた。


極は声を出さずに姿を変えずに考え込んだ。


多分念話もダメだろうと思って、燕に送らなかった。


―― 存在感のような威厳か… 威嚇するようなものだろうか… ―― などと大いに考え込んでから、体の様子を探ってから変身を解いた。


するとベビーカーで眠っていた宇宙は、「キャッキャ」と喜んで、極に両腕を差し出した。


極が抱き上げると、「パーパ」と言って機嫌よく笑った。


すると緑竜はすぐに燕に変身して、「さ、今度はママよ」と言って、極から宇宙を奪った。


「マーマ」と宇宙が機嫌よく言うと、「…ああ、本当にかわいいわぁー…」と燕は大いに感動していた。



「なんかやった?」と黒いエリアのゲートの下に、黒ヒョウが現れた。


極は挨拶を交わして、「忙しくなかったら、少し話さない?」と聞くと、「あ、することなくって暇なんだ」と黒ヒョウは答えた。


「暇になったわけだ。

 どうして暇になったの?」


「この星が背負う負担が軽減されたから」と黒ヒョウは謎かけのように言った。


極と燕は黒ヒョウと長い時間語り合って、極が想像していたように、すべてを納得していた。


「ここが一番安全そうだよね…

 だけど人間とは一緒に暮らさないの?」


「特に考えたことないよ」


「常にひとりだから、寂しいとかという感情は沸かないんだ」


「今まではそれなりに忙しかったからね。

 今は休憩中といったところかな?」


「人間たちは君に害を及ぼしていたんだなぁー…」と極は感慨深げに言った。


「仕方ないさ。

 生物が誕生する可能性がある星を望んでいたから。

 だけどごみを焼却しないことと、

 発電のために火を使わないだけで、

 これほどに安定するとはね…

 電気の問題も大いに関係してたし…」


「どちらも必要だったからね。

 君にとって好条件でよかったよ」


「…創造神とは話したことはあるけど、

 星と話ができるとはね…」


燕は大いに眉を下げて言った。


「創造神たちとは種類が違うって言っていいよ。

 全ての星に魂があるわけじゃないし。

 でもちょっとうらやましいのは、

 星であっても宇宙に飛び出して、星を離れられることかなぁー…

 とっても特殊な術のようで、つい最近知ったんだ」


「星を離れると、星が衰退するとはね…

 だけど、魂のない星もあるんだろ?」


「安定感が違うそうだよ」


極は何度もうなづいて、とんでもない状態の星なんだろうと思っていた。


「どうすればいいのか、詳しい内容をヤマっていう人に聞いておいてよ。

 何とかできるかもしれない」


極の言葉に、「うん、そうする」と黒ヒョウはごく自然に答えた。


「だけどとんでもないわね…

 悪という種族がいて、

 修行の末に宇宙の覇者という種族になったって…

 かなりのイレギュラーじゃないの?」


「極と同じで古い神の一族だったからできたんじゃない?

 その人だって、せっかく生まれてもすぐに死んだそうだから、

 並大抵のことじゃなかったと思う。

 だからその称号のような種族になっても当たり前だと思う」


「誰よりも、生と死を行き来したわけだ。

 その褒美ということかなぁー…」


「もちろん、協力者が何人かいたそうだよ。

 不憫に思っても当然だと思うから。

 そのとどめを刺したのが、結婚相手だった。

 どの世界でも、パートナーは重要だと思うね」


「じゃあ、ラステリアもそのパートナー探しでもする?」


この黒ヒョウには名前がないので、この星の名を名前にすることに本人が決めた。


「そういった生き甲斐があった方が楽しいと思う」とラステリアは今までには出さなかった陽気な感情を出して言った。


そして極は、そのすごい人たちの名前も聞き出した。


そして極たちがここにいることをヤマに伝えて欲しいと願うと、ラステリアは、「うん、伝えてくるよ」と気さくに言って、黒い森に消えた。


するとあっという間に姿を現して、「あのさ、こっちが危険だから伝えたくないんだって」と少し残念な感情を流して言った。


「…まあ、そうだろうなぁー…

 それほどに正義感のある人たちだったら、

 何とかして多くを救いたいと考えても当然だから。

 だけどいくら神でも限界ってものもある。

 俺にやれと言われても、何百年とかかるし、

 こっちの大宇宙が崩壊する危険性もある。

 俺が生まれたからその窮地は脱したらしいけど、

 いつ変わるかわかったもんじゃない。

 だけとヤマって人は優しいなぁー…

 さすが俺の父ちゃんで母ちゃんだ」


「今の話をどうしてしてくれなかったの?

 あ、これは愚問だったわ…」


燕は言ってすぐに打ち消した。


「姿を見かけたのはこの前が初めてだからね。

 ラステリアも、人間にはそれほど興味は持ってないことだし。

 燕さんだからこそ、すぐに理解できたわけだ」


「…極にはすっごく興味があるのにね…」と燕が恥ずかしそうに言うと、「あははは、うれしいよ」と極も大いに照れた。


「誰かと、そういう会話をしてみたいね」とラステリアは明るく言って、希望を持った。


さらに、ラステリア星に不幸が訪れないように星から出る方法もラステリアが説明した。


「…存在感だけを星に残す… なるほどねぇー…」と極は言って、少し考えて、「うん、修行不足だからできない」とはっきり言って、少し陽気に笑った。


「できることは確実なんだ… すごいなぁー…」とラステリアは言って、ついには極に懐き始めた。


「あ、たびたびで悪いんだけど、ヤマはガイアのことは知ってるの?

 もし知らないんだったら、

 あっちにも情報提供した方がいいと思うんだけど…」


「…あはは… ある意味それって逆なんだ…

 ガイアが願って、ヤマに子を産ませてるようなものなんだよ。

 極のような優秀な子が生まれるように。

 そしてついに、弟が現れたってことなんだ」


「…真相を聞いて驚いたが、大いに理解できた…」


「…理解できたわ…」と燕は言って極の腕をしっかりと抱いて、「ヤマにお礼を言わなきゃね」と燕はかわいらしい明るい笑みを浮かべて言った。


「じゃあさ、宇宙の試練だけど、

 クロノスって人のことも知ってると思うんだ。

 ヤマが住む星の、アニマールにいるんじゃないの?

 アニマールを目指して旅をしろってことのように思う」


「それ、クロノスが伝えて欲しいって言ったそうだよ。

 なんでもさ、クロノスが大昔に大失敗して、

 救う目的で無謀なことをして、

 さらに不幸にしてしまったそうなんだ」


極は大いに眉をしかめて、「…とんでもない教訓になった…」と極はこの先は大いに気を付けるようにしようと心に決めた。


「じゃあ、クロノスがヤマに頼んだってことなの?

 だったら、あっちで産めばよかったのに…」


「実はウラノスが恨んでいるかもって思ったんじゃない?

 もしも争いが起ったとしたら、アニマールに災いが起こるから。

 ここだったら極がいるから、

 その感情があったとしても押さえられるとかヤマが考えたように思う」


極は眉をしかめて、「入り乱れてるけど納得できた…」とつぶやいた。


「となると、ウラノスの魂のありかがわかっていたことになるね…

 だけど何らかの原因で、

 生物に生まれることができなかった、とか…

 もちろん、クロノスが犯した大失敗のせいで…」


「その場合だと、自然界の女神、ガイアが何とかしたんじゃない?」


「…あー… そういうこと…

 ここで宇宙が生まれた意味が、はっきりと判明したね…

 やはりガイアは、とんでもない力を持っている。

 まさに古い神の一族よりもさらに。

 じゃあ、マリーン様に会って、ガイアに代わってもらおう。

 怖いけど…」


「…あはは… ボクも怖いね…」とラステリアも極に同意した。


「となると宇宙も、それなり以上の力を持っているようだなぁー…」と極が言って眠っている宇宙の顔を見た。



「たまには呼び出せ!」とガイアは大いに怒っていた。


ラステリアは地面にうずくまって頭を抱えていたが、燕はどこ行く風という感情で、薄笑みすら浮かべていた。


「これからは十分に気にかけておきます、お姉様」と極は受け流すように穏やかに答えた。


「…うう… たった数日で何という成長…」とガイアは言って、ホホが痙攣していた。


「仲間たちと、とてもいい体験をしたからだと察します。

 お姉様は、常に天使たちとともにありますが、

 冒険旅行もおつなものだと思います」


「…うー… 考えておこうかぁー…

 緑竜! 笑うでない!」


ついに極とガイアの立場が対等以上になったと燕は感じ、さらにガイアが滑稽に見えたので、大いに陽気に笑っていた。


「…竜が正しい道を歩むと手が付けられん…」とガイアはうなった。


「…竜の、正しい道…

 やはり生物と接触して、

 別れは辛いけど、親身になって対するということでしょうか?」


「…竜は人間たちに関心がないわけではない…

 関係を持ってもすぐに消えてしまうから、

 その悲しさを背負うことを嫌ったのじゃ。

 じゃが、長く生きると、それすらも忘れる。

 そして不死の者が現れて気に入れば、

 その感情を正確に思い出す。

 まあこれが、竜の精神修行といったものじゃろうな。

 だからこそ、身を呈してまで寄り添う必要はないのじゃ。

 それはやり過ぎで、不幸を招きかねないもんじゃ。

 対等でいることが、長く維持できる秘訣じゃろうて」


「大いに勉強になりました」


「うむ…

 わかっているのにその対応は、

 我にとっては心地良い」


ガイアの言葉に、極は大いに苦笑いを浮かべた。


「…わがまま姫ね…」「やかましい!」


燕とガイヤのやりとりに、極は愉快そうに笑った。


「…婚姻したというのに何も変わらんとは…

 変わったら、緑竜を吹っ飛ばしてやろうと思っていたのじゃがな…」


「常に満足してるもの。

 変わる必要は何もないわ」


「じゃが、興味があることもあるじゃろうが…」


「その件は極次第だから、それほど気にしてないわ」


極はふたりが何の話をしているのかよくわからなかった。


だが、よくよく考えて、その答えが見えて苦笑いを浮かべた。


「…お前、ある意味クールじゃな…」とガイアが極に言うと、「燕さんのクールさが写ったようです」と極は笑みを浮かべて答えた。


「それに、その感情に流されては、

 能力を落とすことにもつながります。

 もちろん抵抗しているわけではありません。

 それをすればさらに不幸が訪れることでしょう。

 私は性格的に、その件はそれほど気にならないようなのです。

 できれば天使たち全員が、

 私の気持ちであればいいと願ってやみません」


「…ひと言余計じゃ…」とガイアは小さな声で言った。


「じゃが、お前の願いは聞き届けた。

 天使によっては、大反省することじゃろうて」


ガイアの言葉に、極は笑みを浮かべて胸を張って胸に拳を当てた。


「…でも、その時が来たら、ドキドキするんだろうなぁー…」と燕が楽しそうに言うと、「余計なことを抜かすな!」とガイアは叫んで、その姿はマリーンに戻った。


「…言いたいことを言えたら戻るんだね…」と極が眉を下げて言うと、「…ある意味、愉快な人だわ…」と燕も笑みを浮かべて言ってから、昏睡状態のようなマリーンを椅子に座らせた。


そしてマリーンがぱっちりと眼を見開いて、いきなり懺悔の祈りを捧げ始めたことに、極も燕も後ろを向いて大いに笑った。



「今日は夕食まで時間がありますので、じっくりとお話しできます」


極の言葉に、マリーンは手のひらを合わせて大いに喜んだ。


極と燕は夕食後に、博物館に訪れる手はずにしていた。


もちろん昼食はまだなので、マリーンとともに摂ることにしている。


するとトーマが眉を下げてやってきた。


「昼飯作れって?」と極がトーマに聞くと、「困った方々ですが、マリーン様とご会食とお伝えてして、問題はないと察します」と答えた。


「いや、ここで作らせてもらうから。

 トーマも一緒にどうだい?」


トーマは一瞬マリーンを見て、「滅相もない!」と言って大いに尻込みをした。


「あら?

 トーマは極様にお名前をいただいたのでしょ?

 ですので、極様のおそばにいても当然ですわ」


マリーンのやさしい言葉に、「はっ ありがたき幸せ!」とトーマは答えて胸に拳を当てた。


「じゃ、トーマも手伝ってくれ」と極は言って、マリーンのお付きの天使のエルアとともに厨房に移動した。


すると、厨房の入り口で天使たちが騒いでいる。


極が大いに気にすると、「…罰が下りましたわ…」とエルアが眉を下げて言った。


「…はは、こりゃダメだ…」と極は言って、白目をむいて倒れているミランダを見て言った。


「…天使なのに恥ずかしいですね…」とトーマが眉をしかめて言った。


「…トーマは今までに見たことがあるわけだ…」と極が眉を下げて聞くと、「…はい、何度もあります…」とトーマも眉を下げて答えた。


「落ち着いたのは今の5人になってからです。

 知っているだけで20人ほどは強制的に再修行で、

 戻ってきた子はいませんが、

 別の場所に勤務しているかもしれません。

 最近は大きな幼稚園や、

 ローエイジスクールにも派遣しているそうですから」


「…天使修行も楽じゃなさそうだね…」と極は言ってから厨房の一角を借りて、使える食材を素早く確認してから早速下ごしらえをしてから調理に取り掛かると、天使たちが大勢やってきた。


「みんなにもあるはずだけど、何人分だい?」と極が気さくに聞くと、エルアは現在は50人だと答えた。


「よっし! 待ってろ!」


極は威勢よく言って、調理が終わったものをトーマが盛りつけた。


大勢の天使たちが食事を始めた食卓を横目で見てから、極とトーマはエントランスに出た。


テーブルでは、燕とマリーンが愉快そうに話をしていて、その傍らにはラステリアが姿勢を正して座っていた。


「ほら、ラステリアも食べてみな」と極は言って、床にラステリア用の食事を置いた。


「…おいしそ…」とラステリアは言って舌なめずりをしてから、料理にぱくついた。


「ああ、素晴らしいお料理…」とマリーンは大いに感動して、感謝の祈りを捧げた。


「天使食については大いに勉強になりました」


極の言葉に、マリーンは笑みを浮かべて極とトーマ、そして料理に頭を下げて、マリーンは上品にフォークとナイフを使って、料理を口に運んだ。


「うおっ! とんでもねえっ!!」とマリーンはまさにガイアのように叫んで、急ぐことなく味わった。


「…ガイアだったかぁー…」と燕は言って眉をひそめると、極は苦笑いを浮かべてうなづいた。


時折出していたマリーンの過剰な反応は、マリーンを押しのけてガイアが出ていたものだった。


だが納得すると引っ込むようで、今はマリーンでしかない。


昼食後の穏やかな談笑の後、マリーンに別れを告げたが、大いに満足したようで、マリーンは寂しげな顔を見せることなく、笑みを浮かべて極たちに手を振って送り出した。



極たちが別荘に移動して室内を探ると、ミカエルとマルカスが寝室で寝ていることを察知した。


「家に帰ってきた実感がわくよなぁー…」と極は言って、縁側に出て、お子様用修練場で遊んでいる子供たちに笑みを向けた。


「宇宙もあそこで遊ぶのね」と燕は言いながら、極の隣に座って、宇宙をあやし始めた。


「ますますかわいらしく感じるさ」


極は言って、宇宙の顔を除き込んだ。


「なんていうお名前なの?!」とシカの獣人の女の子が、宇宙に笑みを向けてから顔を上げて極に聞いた。


「宇宙だよ」と極が答えると、「ウチュウ君のパートナーになるの!」とシカの獣人の女の子は陽気に叫んで、修練場で鍛え上げるように楽しみ始めた。


「確かに資質はあったな…」と極が言うと、「もう何人もいるわよ」と燕は言って、子供たちに笑みを向けた。


「子供のお遊びでも成果があったのか…」


「そうね、昨日までは持ってない子がほとんどだったから。

 我を忘れて鍛えて、そしてよく眠る。

 子供でも体力は並みじゃないわ。

 そしてもとからあった種が芽吹いたって感じ。

 やる気さえあれば成長は早いわ」


「基本的な資質にくわえて、やる気を出さないと何も始まらない典型だな」


極は立ち上がって、まだまだ空き地が多い庭の一角に、危機回避アトラクションの子供バージョンを作り上げた。


ごく普通にホラーハウスのようなものだが、子供たちはすぐに極に礼を言って、大騒ぎするように遊び始めた。


さらには大人でも走れる、全長十キロほどの起伏のあるランニングコースを作り上げると、脚自慢の獣人たちは一斉に走り始めた。


子供たちはレースを楽しむように、ランニングコースを走っていると、トーマが犬に変身して、子供たちの仲間になり、そのあとをラステリアが追いかけた。


「…はは、鬼教官たちの登場だ」と極は言って、子供たちにあわせたペースで走る犬と黒ヒョウに向けて笑みを向けた。


もちろん犬にとって楽しんで走ることが一番の心の休養になるが、ラステリアはコミュニケーションをとることが目的だったようだ。



するとマルカスが起きてきたので、極たちは挨拶を交わした。


もう夕方に近いが、「心地良い小鳥の囀りの朝の目覚めもいいが、子供たちの歓声も、心が洗われるようだ」とマルカスは言って縁側に座った。


「帰還が予想以上に早かったね」と極が聞くと、「問題はほぼなさそうだから、事務方の部下に託した」とマルカスは笑みを浮かべて言って、楽しそうに遊んでいる子供たちを見た。


「ああ、増えていたか… それでさらに陽気になっていたわけだ」


すると村長のマックラがやって来て、「おお! 極様! オカメ様!」と叫んで異様なスピードで走って来て頭を下げた。


「妙に騒がしいと思ったら…

 本当にありがたく思います」


マックラは言って、かなり増えた遊具を見まわした。


「ですが、マルカス様を起こしてしまったようじゃが…」


マックラが申し訳なさそうに言うと、「いえ、それはありませんし、まさに清々しい目覚めです」とマルカスは笑みを浮かべて言った。


すると少々憤慨した態度で、ジャックとフランクが扉をくぐってやってきた。


「あっちでは休養になんねえよ。

 さらにうるせえヤツが大勢できた。

 俺でもできる、などとほざいてな」


「アピールアピール。

 気にすることはないさ。

 もし俺が雇うとしたら最多でもあと五組ほどじゃないかなぁー…

 あと、一般兵が三人か四人だろう。

 登録制のような部隊だから、

 所属していても戦場に行けるわけじゃないからね」


「その資格がありそうなヤツらはしっかりとビデオを見ていやがった」とジャックは少し悔しそうに言った。


「ここにいる子供たちの出番があるかもしれないし」


「…ふーん…」とジャックは言って子供たちの様子を見た。


「…フランク、あのシカの子を連れてきてくれ…」とジャックが小声で言うと、「はい、マスター」と言ってフランクが庭に降りた。


「宇宙のパートナーになるそうだぞ」と極が言うと、「…気が強いねぇー…」とジャックは言った。


シカの獣人の幼児はフランクと手をつないでスキップを踏んでやってきた。


「結婚式するの?!」とシカの獣人の女の子は陽気に叫んだ。


「まずは名を名乗れ」とジャックが苦笑いを浮かべて言うと、「…あ、ご挨拶してなかった… 叱られちゃうぅー…」と女の子は悲しそうに言った。


「ポーズだポーズ。

 村長の手前、

 一応申し訳なさそうにしておけばいいだろうと考えやがった。

 末恐ろしいガキだ」


女の子は顔をしかめてジャックに舌を出してから、「…コノハ・バンビ、ですぅー…」と女の子は言って、極たちに頭を下げた。


「…ふーん… いきなりすごいね…」と極は言ってジャックを見た。


「…ふふふ、褒めろ褒めろ…

 フランクをな」


ジャックは言ってフランクを見ると、極は怪訝に感じたが、すぐに見破った。


「俺と肩を並べて構わないと思う…」


極の言葉に、「反論はないわ」と燕が言うと、マルカスが目を見開いた。


「詳しい事情の説明を頼む」とマルカスが真剣な眼をして言った。


「少々騒ぎになるから、伏せておいた方がいいほどのことだよ。

 遠隔の絆」


極の言葉に、「…先生でもできなかったことを…」とマルカスがうなるように言うと、「できなくて悪かったわね!」と燕が目くじらを立てて、マルカスをにらみつけた。


「ジャックさんの言った通りだ。

 まさにパートナーの鏡。

 フランクさんは純にジャックさんに寄り添って、

 そして大業を果たした。

 離れていても、心は繋がっている。

 まさにジャックさんを英雄にしたいという純な願いも感じる。

 それは昨日のトーマの感動だけにあるように思う。

 その強い想いが、フランクさんを押し上げた」


極の言葉に、ジャックもフランクも大いに照れていた。


「まだこれほど近づかないと無理だけど、

 昨晩気づいた時よりも、確実に距離が伸びているんだ。

 それに、欲を持ったら元の木阿弥と、

 またしかられっちまったよ…」


ジャックの言葉に、極は陽気に笑った。


「…やっぱ、俺のフランクさんに関する、

 第一印象のいい感情は間違っていなかった…

 そして、ジャックさんから取り上げておけばよかったなぁー…」


極の言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「マスターにも同様に!」とフランクは普段は張らない声を張ると、「…おっ! 来たぁー…」と極は言って、満面の笑みを浮かべた。


「見晴らしのいい草原で、穏やかに語り合いたいです」


フランクの言葉に、「うん、ありがとう。本当にうれしいよ」と極は言って、燕を抱きしめた。


「…ああ、うれしいけど… 極さん、いきなり…

 …えっ?」


燕は言ってからオカメに変身した。


「…さすが勇者だわぁー…」とオカメは言って、今得た術をジャックとマルカスに放つと、「ぐっはっ!!」とふたりは同時に叫んで倒れ込んでのたうち回り始めた。


「…それ、拷問でしかないから…」と極が眉を下げて言うと、「…うふふ… 面倒な子にはやっちゃうー…」とオカメは陽気にうなった。


「だけど早かったね、送ったのはその神髄だけだったのに…」


「極が現れてからの積み重ねが役に立ったの」とオカメは笑みを浮かべて言ってから、燕に戻って極から宇宙を取り返して笑みを浮かべた。


「…さすが先生…」とフランクは大いに尊敬して燕に言って、拳を胸に当てた。



「…先生は相変わらず突然で手厳しいです…」と何とか復活したマルカスは眉を下げて言った。


「ヘタレ三号までできたわ」と燕は陽気に言って、ジャックを見た。


そのジャックは、「…前の倍…」と言って放心状態になっていた。


「すぐに起き上がれたことは褒めてあげるわ」と燕が陽気に言うと、「…はあ、ありがとうございます…」とジャックはうなだれたまま言った。


「…こんな化け物の嫁でいいの? ぐっはっ!!!」とジャックはまたのたうち回ったが今回はすぐに動きを止めた。


「こうやって叱っちゃうぅー…」と早変わりしたオカメが言って、「こっちのママのおっぱい飲む?」と宇宙に聞くと、宇宙はオカメの豊満な胸に顔をうずめて胸を抱きしめて眠ってしまった。


「…睡眠薬でも入ってたの?」と極が苦笑いを浮かべて言うと、「ふたり一役が必要だったようだわ…」とオカメは眉を下げて言った。


「だけど、甘えん坊になることは変わらないから、

 気をつけなきゃいけないわ。

 それに、親離れよりも子離れをしないとね…」


オカメは少し寂しそうに、眉を下げて言った。



「次の仕事はどこまで言ったの?」と極が真剣な眼をしてマルカスに聞くと、「すべての証拠、証言をそろえて、キリング星に使者を飛ばした」とマルカスは眉をひそめて言った。


「リナ・クーターを出すよ。

 護衛を兼ねた偵察」


「大いに助かる」とマルカスは言って極に頭を下げた。


「もしもあいまいな情報で動いていたら確信されちゃうけど、

 それはそれではっきりさせておけばいいから。

 隠すからややこしくなる」


「作戦会議に出て欲しい」とマルカスは真剣な眼をして言った。


「もしも時間が合う時はそうするからいつでも言ってくれていいよ」


「勇者煌極の意志を伝えておく」とマルカスは言ってメールを打った。


「おっ! 来た来た!」と極は言って、手もみするようにしてマップ装置を出した。


「宇宙船内、お祭り騒ぎだよ」と極が言う問い、「恐怖が一気に解消されたようだ」とマルカスは真剣な眼をして言った。


「誰も乗っていないと知ると落ち込みそうだけど…」


極は言って船内との通信回線を開いた。


もちろん誰も乗っていないことには落ち込んだが、強い力であることは誰でも知っているし、通信もつながっていることで、大いなる援軍を得た気になったようで、陽気さは変わらなかった。


「だが、すでにかなり離れているはずだ。

 高性能とは言え、通信がつながっているわけが」


マルカスが言うと、「お子様リナ・クーターが中継してるんだ」と極が言うと、「…そういうのもあった…」とマルカスは大いに眉を下げて言った。


「じゃ、スピードアップということで」と極は言って、リナ・クーターからビームアンカーを放って宇宙船を包み込んで、猛然たるスピードで飛んで、わずか10分でキリング星が見える場所までやってきた。


そして宇宙空間に巨大な映像を出して、バーン星とキリング星の関係性や、バーン星を制圧した映像、そして煌極の能力などを流すと、通信することなく映像を攻撃してきた。


もちろん、結界に守られているので被弾することはない。


「通信回線は開いて攻撃の遺憾を伝えたら、

 そんな事実はないといったけど、また撃ってきたね。

 ま、これだけでも、なかなかの武器を装備しているってよくわかるよ。

 だけどミサイルで、ビーム兵器じゃないところは予想外だった。

 おっ 別回線にも通信が入ったようだ」


極はその映像と音声を出した。


相手は女性で、天使だと確信した。


そしてキリング星の実態を語り、止めてもらえるように願っている。


小さなリナ・クーターはキリング星を探り終えていて、人間と天使の住むエリアが分断されている事実を入手した。


マルカスはすぐにミカエルを呼ぶと、大急ぎでやって来て、天使の代表者と話を始めた。


『勇者様がおられるのですねっ?!』と天使は叫んで感謝の祈りを捧げた。


天使の名はソレイユといい、大勢の天使と一部の人間、そして少数の悪魔を護衛として暮している。


隔離されている場所は星の北半球の約10分の1なのだが、なかなか頑強な壁や結界などで守られている。


そしてソレイユから聞いた話を別回線にすると、そんな事実はないといい放ったが、リナ・クーターが得た情報を放映すると、黙り込んでしまった。


「キリング星の天使エリアを防衛することをお約束します」


ミカエルの言葉に、ソレイユは大いに喜んだ。


そして極が歴史を知りたいといったので、話はかなり長くなったが、その事情はかなりよく把握できた。


極は少々疑っていたのだが、現在の状況との整合性を確認できたので、昔話は嘘っぱちではないと確信した。


「あ、悪いんですけど、悪魔の人と代わってくれませんか?

 戦ったことはあるんですが、話をしたことがないのです」


するとソレイユは大いに戸惑った。


「悪魔は気が荒くて乱暴な情報も得ていますから。

 それが敵対ではないことはわかっています」


しかしソレイユは大いに不安そうだったが、『勇者と話をさせろ!』と声だけが聞こえた。


「俺と戦えって言うよ」と極が愉快そうに言うと、かなりの美人だが黒装束の女性が現れて、『煌極という勇者! 俺と戦え!!』と叫ぶと、天使たちが悪魔を何とか追い出そうと必死になっていた。


極は大いに笑って、「俺は信用できると思いました」と言うと、「この状況で、目くじら立てて戦えなんて、普通は言えないよね…」とミカエルは少しあきれ返って言った。


「もうひとつの方はかなりずるいヤツらだな…」とマルカスは大いに嘆くように言った。


もちろん、この情報などももうひとつの通信に流して映像も出しているので、大勢の星の住人が知ったようだ。


その感情などはわからないが、普通の神経の持ち主であれば、さすがに歓迎されることはないだろう。


「まずは現地に行ってからですね。

 本格的に戦うとすれば、

 ソレイユ様のはっきりとした意志を聞いてからにした方がいいでしょう。

 今は少々興奮気味ですので、

 多少なりとも落ち着いた方がいいと思います。

 それに、悪魔との手合わせも楽しみです」


『…今すぐに来やがれー…』と悪魔は映像の中でうなってから、大勢の天使たちに連れて行かれた。


ソレイユは必死になって謝ったが、極は明るく対応して、まずは現地に行って詳細に調べ上げたいと伝えた。


今を維持できるのならそれに越したことはないという意味でもある。


さらに今が不便であるのなら願いも叶えたいと極はソレイユに伝えた。


ラステリア軍には何の利益もないのだが、極は軍人ではなく勇者として行きたいと声に出して宣言した。


そしてバーン星がらみの勇者暗殺の件の話をすると、『…やはり、そのような事情が…』とソレイユは大いにうなだれて嘆いた。


「ですので当然、あなたのことも疑っています」


極の言葉に、『…そう思われていても仕方ありません…』とソレイユは言って、希望の光が消えそうになっていた。


「だけど今回の件は俺の好奇心が俺を動かしました。

 何を置いても真っ先に飛んでいきます。

 今からすぐに行きますから。

 俺の乗る機体はこれです」


極は言って、リナ・クーターの映像を出した。


『…ああ、神の白馬…』とソレイユは言って祈りを捧げた。


極はしばしの別れと言い挨拶をしてから映像を切って、リナ・クーターと宇宙船を帰還させた。


「さあ燕さん、別の星に観光旅行だよ」と極が明るく言うと、「…いい予感はしないけど、もちろん行くわ…」と燕は大いに眉を下げて言った。



だがここで人選について大問題が起こった。


もちろん中隊を連れて行くには大げさだし、極のパートナー限定でリナ・クーターで行くことに決めていた。


しかしそれだとあまりにも少人数過ぎるが、トーマはリナ・クーターをもっているので、極に自慢げな笑みを浮かべて見上げている。


「…リナ・クーター、もう一機作って出かけるか…」と極はため息交じりに言って、庭に出て数分でリナ・クーターを作り上げた。


そして完成してすぐに試運転がてら中央司令部に戻り、戻ってきたリナ・クーターとトーマのリナ・クーターを並べた。


「ということで少人数でしか行かない。

 その理由は戦闘が目的ではないからだ。

 だから俺が不在になるので、あとのことはジャックさん…

 ジャックに頼みたい」


極が言いかえると、ジャックは行く気満々だったが、「…お、おう…」と小声で返事をしてしまっていた。


「ソラ少佐の補佐を黒崎中尉、金城少尉に頼みたい。

 フランク少尉も併せて、四人で面倒なやつらを説得してもいいし、

 粉砕しても構わない。

 少々急ぎたいから、もう行くぞ」


極の言葉に、四人は素早く胸に拳を当て、迫ってくる者たちを一斉に食い止めた。


もちろん煌中隊の仲間も黙っていない。


リナ・クーターを守るようにして、極とパートナーたちはリナ・クーターに乗り込んだ。


「さて…

 今回は急ぎたいから、一旦宙に浮くぞ。

 三号機と、トーマ専用機はリモートにするからな」


極は言って、リナ・クーター三機を、かなりの高高度まで上昇させた。


そしてその三機の機影が消えてしまった。



その瞬間に、リナ・クーター三機は別の星にいた。


「ほら、真下にはキリング星の天使居住区。

 ここに飛べば、まず攻撃は受けない。

 ほら、ずっと確認していたようで、誘導ビームが出た」


極は陽気に言って二機のリモートを解いて手動制御に切りかえた。


小さな発着場には大勢の天使たちがいて、その中心には、笑みを浮かべているソレイユが陽気に手を振っていた。


「…うふふ… 泣き顔が楽しみ…」と燕が言うと、「奥様、悪趣味ですよ」と極がおどけて言うと、同乗者のバンとサエが、大いに眉を下げていた。



「特に気合を入れることはないけど、

 ま、トーマが拘束するだろうなぁー…

 みんなはそのフォローを頼んだよ…」


極がリナ・クーターのハッチを開けると、もうすでにトーマが5人を拘束して地面に転がしていた。


「ソレイユ様、スパイです」と極が落ち着いた声で言うと、「…お母様の言った通りでした…」とソレイユは言ってうなだれた。


そして極の腕を燕が抱きしめたことで、ソレイユはすぐさま悲しそうな目をした。


「妻の閃光燕と、俺のパートナーたちです」と極が挨拶をすると、ソレイユは今にも泣きそうな顔をした。


「…女房がいようが関係ねえ!

 俺と戦え!!」


悪魔が大いに騒ぎ始めたが、天使たちに必死になって止めた。


「あとで戦うから、まずは話をさせてよ!」と極が叫ぶと、「嘘をつくなよ!」と悪魔は言って腕組みをして大人しくなった。


「…お母様が…

 本当にごめんなさい…」


ソレイユは言って極に頭を下げた。


「悪魔がああいう気性なのは知っているので、

 気にしなくて構いません。

 それよりも俺が一番に知りたいのは、

 ソレイユ様の考える、この天使居住区の未来です。

 ですがまずは、面倒な問題から片付けましょう」


極は言って、トーマが捕らえた者たち5名を引き寄せると、それぞれ頭上にモニターのようなものが現れて、その任務が記されていた。


「ふん! こんなもの、全てお見通しだった!」


悪魔は大いに憤慨して叫んだ。


「ええ、あなたは素晴らしいと俺は思っています。

 さすが、ソレイユ様のお母様ですね」


極が穏やかに言うと、「…お… おう…」と悪魔は大いに照れて、「放り出していいか?」と捕らえた5人に目を向けた。


「ええ、特に力はないようですので、外に放してやってください。

 ですが任務失敗は死で購うそうですけど、どうします?」


極が言うと、「…ここにはおいとけねえ!」と悪魔は大いに主張した。


「…お母様… 牢へ…」とソレイユは言って、うなだれた。


「…ま、まあいい…」と悪魔は力なく言って、部下に命じて五人を蹴り飛ばして牢のある地下施設に向かった。


「あなたはそれほどいい天使ではないようです。

 あの五人が破壊者であれば、この街は壊滅していたかもしれません。

 受け身だけでは、善の正義は貫けないのです。

 ですので、お母様をリーダーにした方がいいと俺は思っています。

 幸い、珍しいことに、お母様に悪魔たちが従っています。

 王であり衛兵でもある悪魔は、

 本当に頼もしいと思います」


「…勇者様が…」とソレイユが言うと、「ほら、徳が落ちた」と燕が言うと、ソレイユは大いにうなだれた。


「俺はひとりしかいないのでね。

 それに今の住処を気に入っているので、

 別の星に住むつもりはないのです。

 しかも俺は軍人ですから、

 軍の命令で動きます。

 ですが現在は休暇中でね。

 できればこのような星を多く救おうと思っているのですよ。

 ですのでまずは、お母様とお話しされた方がよさそうです」


極の言葉に、ソレイユは大いに戸惑いながら、頭を下げて、悪魔たちを追いかけて行った。


「じゃ、ピクニックでもしよう」と極は言って、緑濃い芝生のある場所に移動してキャンプセットを出した。


「…本当に旅行だったのね…」と燕が大いに眉を下げて言うと、「休暇中だからね」と極は気さくに言って、早速火起こしをしてバーベキューを始めた。


「ん? この箱ってなあに?」と燕が言って、小さなテーブルに乗っている、紙で包装してある箱を手に取った。


「悪魔の好物らしいよ」と極が言うと、「戦略家ね」と燕は陽気に言うと、「ただのご機嫌伺いさ」と極は陽気に答えた。



「あれ? 果林は…」と言って極が首を振ると、「…もうなじんだわ…」と燕は言って、現地の子供たちが遊んでいる大きな砂場の中心に果林がいることを確認した。


「…あの子、勝手についてきちゃったのね…」


「宇宙に行きたいって言っていたからね。

 判断はトーマに任せたんだけど、

 俺からの指示がない限り、

 勇者候補に従うさ」


「トーマと組ませるの?」


「オカメちゃんと同じで通過点さ」と極は言って笑みを浮かべた。


極は果林を呼ぶことなく、砂場に向かって歩いて行った。


「みんな上手だな」と極が言うと、誰もが笑みを浮かべて極を見上げた。


「じゃ、お手本だ」と極は言って、幸恵の城のような家を砂で作り上げると、「うわぁー… すごぉーいー…」と果林も一緒になって感動していた。


「魔王様のお城?」とひとりの女の子が小首をかしげて言うと、極は大いに興味を持った。


「魔王様が味方になってくれたら、この星は平和になるんだって、

 ソレイユ様がおっしゃってたの!」


極はこの話を聞いて、「この城は俺が前に住まわせてもらっていた城だよ」と極は言って、「果林、飯の時間だ」と極が言うと、「はーい!」と言って立ち上がって、友達になった子供たちと手を洗ってからやってきた。


「ほら! みんな食え食え!」と極が気さくに言うと、子供たちは満面の笑みを浮かべて席について、果林の接待でバーベキューをほおばった。



「…大ニュースだ…」と極が小声で言うと、「あら、なにかしら」と燕が陽気に答えたが、魔王の話を聞いて眉をひそめた。


「あのスパイたちがここにいることと、

 妙に居心地が悪そうにしている人間がいること、

 そしてこの星に魔王がいることは繋がっていると思う」


「…はあ、そういうこと…」と燕は察してつぶやいた。


「だけど魔王は今は別にいい。

 従うはずがないんだから」


「無駄な努力だわ…」と燕はあきれ返るように言った。



すると悪魔が極のそばにやってきた。


「ふん、そんなものをうまそうにして食いやがって」と悪魔が大いに悪態をつくと、「お母さんやめて…」とソレイユがすぐに諫めた。


「ソレイユ様、諫める必要はまるでないのです。

 先ほども言いましたが、これが悪魔の普通の会話ですから。

 天使や人間の常識にあてはめてはいけません。

 さらに言えば、敵対するのならもうすでに殴りかかっているはずです。

 お母様は俺に大いに興味津々なのですよ」


極の言葉に、悪魔は腕組みをしてそっぽを向いて、「おや?」と言って、包装紙に包まれている箱を見入った。


「お土産です。

 たくさんありますので、みなさんとどうぞ」


極の言葉に、「…毒とか…」と悪魔が言うと、極は大いに笑って、「そんなもの、悪魔に対して効き目があるわけがありませんよ!」と叫んで、さらに愉快そうに笑った。


「開けて驚いてください。

 美味そうに見えるはずです」


「…お、おう…」と悪魔は怪訝そうに言って、乱暴に包み紙を破くかと思いきや、丁寧に剥がし始めたので、燕は控え目に笑った。


そして悪魔はふたを開いて、「…なんということだ…」と言って指先でひとつつまんだ。


それはまるで葛餅のように異様に柔らかいが形は変わらない、丸い和菓子のようだ。


悪魔は口を開いて放り込み、恍惚とした表情をした。


「おまえら!

 食わねえのなら俺が食う!!」


悪魔が叫ぶと、誰もが一斉に包みを開けて食べ始めた。


「作り方はあとで指南しますから。

 たくさん作っていくらでも食べてください。

 この先、魂の拾い食いをする必要はないはずです」


「おう!」と悪魔は陽気に言って、「おかわりだ!」と極に向けて叫んだ。



「…満足したぁー…」と大勢いる悪魔たちは誰もが言って、恍惚とした表情をして言った。


「…一体、お母様たちはどうして…」とソレイユが大いに戸惑って言った。


「このお菓子のようなものは悪魔用魂まんじゅうというもので、

 悪魔が確実に好む食感と味になっているそうです。

 そして大いに元気になりますから、

 大いに食べれば厳しい修行にも耐えられることでしょう。

 それに、もしも外のやつらと戦うのであれば、

 もう勝ったも同然なのです」


極の言葉に、ソレイユだけではなく、誰もが大いに目を見開いた。


ここで初めて、極は悪魔のリーダー名をソルデと知った。


「この辺りに魂が浮遊していると思うのですが、食べないで手に持ってください」


極の言葉に、ソルデは、「おう」とつぶやいてから、ふわりと宙に浮かんで右手を延ばして何かをつかんだ。


「悪魔はね、生の魂と死後の魂を認識して手でつかめる。

 だからこそ、魂を食べることができるわけ」


極の言葉に、誰もが眉を下げてうなづいた。


「では、申し訳ありませんが、

 お仲間の誰かに実験台になってもらいたいのです」


極の言葉に、「魂をどうしろというのだ…」とソルデはつぶやいたが、「バルタ、こい」とソルデは言った。


「今つかんでいる魂を、バルタさんの魂にやさしくぶつけてください。

 バルタさんの魂も見えているはずです」


「あ、ああ… 簡単なことだ…」とソルデは言ったが、「軽くでいいですから」と極がさらに言うと、「おう、わかった」とソルデは言って、右手の手首だけで魂を放つと、パルタはとんでもない勢いで後方にふっ飛んだ。


「なんだとぉ―――っ?!」とソルデは叫んで、意味不明の現象に大いに戸惑った。


そしてパルタはそれほどダメージがなかったようで、「…驚いた…」とつぶやいてゆっくりとたちがった。


「これが敵を倒す方法です。

 軽くだと、パルタさんのように立ちあがってきますから、

 それなりに強めに投げてください。

 そうすれば相手は吹っ飛んで、

 すぐには起き上がれないはずです。

 これが、基本的な攻撃方法です。

 あとは手足を使って殴り飛ばせばいいだけです。

 これは、どんな生物でも有効です。

 もちろん、俺にだって効きますよ」


「いいや、お前とは殴り合う!」とソルデが言い放つと、「ええ、そうしましょう」と極は言って、空き地を組み手場に変えた。


「さあ! いつでもいいですよ!」と極は叫んだ。


「いい度胸だぁー…」とソルデは大いに楽しそうにうなった。


「しかし悪魔は硬いので、そう簡単には殴られてあげませんから」


「…いいや、ぶん殴ってやるぅー…」とソルデはうなって、「ウラァ―――ッ!!!」と声が裏返るほど叫んで、極に向かって右拳を振り下ろしたが、そこには極はいなかった。


「くっ!」とソルデは悔しそうにうなって、すぐさま後方に向けて右の回し蹴りを放った。


「素晴らしいです。

 食らってしまうところでした」


ソルデは何も答えずに、その顔には笑みを浮かべていた。


極はしばらくは逃げ回っていたが、ついにはソルデの拳を横殴りにしてはじき始めた。


それでもソルデは拳を放つ。


まさに今までになかった体験をしていると思い、ついには満面の笑みになっていた。


そして極は手を出し始めたが、「隙だらけ」といいながら、ソルデの体を指でつく。


ソルデは今度は大いに怒り始めたが、どんな攻撃も極には届かない。


そしてついに極は掌底でソルデに攻撃を始めた。


「…そうだ、これだ… 俺はこれを待っていた!!」とソルデは叫んで前に出て、拳を振るうのだが、極の掌底を受けるばかりだ。


そしてソルデはついに、自分自身の拳の力に振り回されて、地面に倒れた。


「…くっそ、くっそ…」とソルデは満面の笑みを浮かべながら悔しがっていた。


そして、何とか体を上向きにして、大の字になって、「好きにしろ!」と叫んだ。


「それって、あなたへの褒美ですか?」と極は言って少し笑った。


「負ければ、何をされても文句はいわん」


「じゃあ、ソレイユ様の希望を叶えてあげてください。

 もちろん、この星の暮らしについてですよ」


「…お、おうー…」とソルデはつぶやくように答えて、ふらつきながらだがゆっくりと立ち上がった。


ソルデはソレイユの前に立って、「…おまえには悪いが、力づくであいつらをぶっ飛ばす…」と威厳を放ってうなった。


「お母様が王です…

 ですができれば、多くの人を救ってあげてください…」


ソレイユが涙ながらに言うと、「その願いもかなえてやる」とソルデは言って、ソレイユを抱きしめた。



「悪魔は全員でどれほどいるの?」


極は偵察が終わったリナ・クーターの映像を観ながら聞いた。


「500だ」と胸を張って言った。


「じゃ、一番近いところは楽勝だ」


極の言葉に、ソルデは、「よっしゃぁー!」と叫んでガッツポーズをとった。


「敵の大本営まで1000キロ…

 そしてなんと人影が少ない」


極の言葉に、誰もが、「え?」と言って映像を見入った。


その映像はまるでゴーストタウンのようだ。


「その理由はすぐにわかったよ。

 こっちをにらんでいるのは、ごく普通に人間だ。

 そして大本営にいる兵士は別の星に輸出するために、

 薬物で強化されているんだ。

 だから、体を鍛える必要はないから常に休んでいるはず。

 よって、こちらをにらんでいる、50カ所の砦を攻め落とせば、

 大本営は孤立する。

 そうなれば勝ったも同然だ」


悪魔たちは大いに喜び、歓喜の声を上げた。


「だけど問題はあるぞ」と極が言うと、「…うう…」とソルデはうなった。


「黒魔法のエネルギー弾を打てるヤツ」と極が悪魔たちに向けて言うと、「…なんだそれは…」とソルデは言って戸惑っている。


「…ということで、多少は手伝わないと、砦のひとつも落とせないな…

 あんたたちが怖いのは、砦にある多数の長距離照射砲だろ?

 それを何とかしない限り、

 砦を落として兵士を倒し、退却させることは不可能だ。」

 だがな、実は俺は魔法使いなんだ」


極は言って、手のひらを上に向けて、巨大な光る球を作り出した。


かなりの光を放ったので、誰もが目を閉じたり顔をそむけたが、その輝きは納まった。


「今は光の周りは特殊な結界を張っていて光は納まったけど、

 実は太陽のように燃えている。

 これを砦にぶつけるとどうなるか」


極は立ち上がって宙に浮いてから、ここから一番近い砦に向かって投げつけた。


そして極は映像を見入って、砦に届く瞬間に結界を解いた。


すると、砦の壁は火の海となり、照射砲の砲身が溶けて曲がっていた。


「よっし! 命中!!」と極は叫んでガッツポーズをとった。


「あ、もし敵が攻めてきたら、

 俺の責任だから、俺たちが倒すから。

 だけど、確実に逃げるだろう…

 ほら、大勢の兵が退却を始めた」


「…うう… これほど簡単に…」とソルデはうなって映像を見入っている。


すると、「南の砦が落ちたぞぉ―――っ!!」と見張り番が大声で叫んだ。


「今のような術が使えれば、

 それほど苦労なくすべてを落とせる。

 だが多用すれば、エネルギー切れで動けなくなる。

 できれば大型兵器だけを術で破壊して、

 あとは肉弾戦に持ち込んだ方がいい。

 ハンドガンなど携帯用の武器の殺傷力は?」


「かなり痛いが、死んだやつはいねえ」とソルデはうなるように言って、今度は片手でガッツポーズをとった。


「痛いのならよける必要があるな。

 だからこういった便利な防具があるんだ」


極は言って、透明のスーツを出した。


「これを着こんでもいいが、こういった盾もある」


極は言って小手のようなものを左腕に装着して構えると、ビームを照射して巨大な盾になった。


「軽いから動きやすいぞ」


「…盾の方がいいぃー…」とソルデがうなると、極は盾を消して小手を外してソルデに渡した。


「では、黒のエネルギー弾のレクチャーをしよう。

 始めは辛いだろうが、

 確実に撃てるようになる」


「…出番が来ちゃったわ…」と燕は言って眉を下げて立ち上がった。



まさにオカメたちはスパルタだっただが、何名もが黒のエネルギー弾を自力で放てるようになっていた。


殺傷力はそれほどないものの、その焼夷弾のような威力は、着弾してからの効果が大きい。


燃えるものがあれば燃え尽きるまで火が消えないのだ。


「強敵が現れたら魂をぶつけて迎撃しろ。

 そうすれば敵は敗走していくはずだ。

 休憩したらソルデの意志で、

 砦を落としに行けばいい」


「おう! わかったっ!!」とソルデは叫んで、会った時よりも数段強くなっていた。


「…高能力者以上でした…」とトーマが眉を下げて言った。


「これが悪魔なんだ。

 切欠さえ与えれば、とんでもない兵士となる。

 だけどまさかの時は、

 こいつらを倒さなければならない責任が俺にはある」


「…うふふ、それはないと思うわよ…」と燕は陽気に言った。


「そうなんだ、それは助かった」と極は笑みを浮かべて言った。



わずかながらの休憩の後、百名ほどの悪魔たちは意気揚々と空を飛び、近場の砦を三カ所落として、ほぼ無傷で意気揚々と戻ってきた。


「やあ、おつかれ。

 魂まんじゅうを創っておいたから、

 大いに食べてくれ」


極の言葉を聞いて、悪魔たちは我先に魂まんじゅうに手を伸ばした。


誰もがこずきあいながらも、戦勝の宴は大いに盛会になっていた。


「…わずか数時間で…

 …今までの俺は何だったんだ…」


盛会の中、ソルデだけは嘆いていた。


「今までの苦労が実ったと思っておけばいいさ。

 それに防衛はなかりきちんとしている。

 これで怖いものはそれほどないだろう」


極の言葉に、「…いいや、そうでもねえ…」とソルデは何かを畏れるようにうなって、鋭い視線を東側に向けた。


「魔王かい?」と極が聞くと、「…それも、知っていたのか…」とソルデが言うと、「子供たちに聞いたんだ」と極は言って、今は楽しそうにして砂場で遊んでいる子供たち見た。


「…その余裕がよくわからん…」とソルデは悔しそうに言った。


しかし、極の実力はよくわかっているので、勝てる手立てを知っているのだろうと、ソルデは漠然と考えていた。


「何をやっても魔王はただただ踏みつぶす。

 ここにだって、犠牲者はいるんじゃないの?」


「…うう… 止めたんだが…

 朝起きたらいなかった…

 そして、戻ってこなかった…」


ソルデは悔しそうに言って、拳を固く握りしめた。


「おまえたちの学んだ術でも魔王は倒せないかもしれない。

 だけどな、手を出さなければ何もしないことはわかっているはずだ。

 もちろん、ここの軍と取り合いになったことはわかっている。

 あの魔王がいれば、

 すぐにでもこの星を楽園にでもできそうだからな」


ソルデはうなだれてから、「…やはり、そうだったか… …お前の言った通りだ…」とつぶやいた。


「では、魔王についてのお勉強という余興だ!」


極が叫ぶと、悪魔たちは一斉に極を見入った。



極の説明と映像を見入った悪魔たちは、「…猜疑心の塊…」とソルデはつぶやいた。


「相手が誰であっても何であっても、

 迫ってくる生物はすべて踏みつぶす。

 そこにどんな感情があってもだ。

 相手が怖いとかそういったことも関係ない。

 自分自身以外を信じられないヤツなんだ。

 まさに狂っていて壊れているといっていい者を、

 更生することは不可能だ。

 だが天使は、愛をもって慈悲をもってと考えるだろうが、

 魔王はそれすらも受け入れない」


極の言葉に、天使ソレイユは無力だと思いうなだれた。


「天使としてはそういった魔王を何とか自分たちの生活環境で、

 できれば楽しく生活させたいと思うはずだ。

 実はな、その方法がひとつだけあるんだよ。

 これは確認された事実らしい」


極の言葉に、燕を含めて全ての者が大いに目を見開いた。


「まず条件としては、まさに幸せな子連れの家族を用意する。

 それはそれは強い父ちゃんと強い母ちゃんなんだ。

 そして子供をかばう意思を出会った魔王に向ける。

 その時に、魔王は大いに戸惑うんだよ。

 その理由は簡単だ。

 魔王自身が傷つくかもしれないと迷い始めるんだ。

 それと同時に、父や母から流れ出る感情を不思議に思うんだ。

 よって魔王は動けなくなるんだよ。

 ここからは魔王の意志にもよるが、

 家族が引けば魔王は引くだろう。

 余計な怪我はしたくないものだからな。

 魔王が姿を見せるのは、自分のテリトリー内に侵入者があった場合、

 テリトリー外でも騒がしくした場合。

 脅威と不思議な感情を感じた魔王は一旦引くが、

 今度は岩などを投げて遠距離攻撃を始めるんだ。

 これ、どういうことだと思う?」


極が問いかけると、トーマが手を上げた。


「おっ さすがトーマ、早いな」


「家族を恐れたからです!」とトーマが叫ぶと、「そうだ! 大正解!!」と極は陽気に叫んで、トーマの頭をなでた。


「…ああ、そういうこと…」と燕は言って笑みを浮かべた。


「さてまた問題だ。

 これ、どこがどういいことなんだろうか?

 魔王は近づかないが荒っぽいままだ。

 この問いには、できれば天使たちに答えてもらいたいね」


燕は手を上げて、「私に当ててぇー…」と燕は大いに懇願した。


「…ま、まあ、あとが怖いから燕さん…」と極は眉を下げて言った。


「怖いという感情が芽生えたから!」と燕が叫ぶと、「そう! 大正解!!」と極は叫んで、燕の頭をやさしくなでた。


「…そうか… ヤツは感情を持たない…

 だが、怖いという感情を持った…

 だからこそ、わずかながらだが、

 更生の道ができたということか…」


ソルデがつぶやくと、「そういうことだね」と極は明るい声で言った。


「ま、ここからも大変だけどね。

 だが、運が良ければ、

 父母が出していた子に向ける感情を大いに考え始めるんだ。

 まさに迷いの段階に入る。

 この時に手を出すと、さらに暴れる可能性があるから、

 手を出さない方がいいだろう。

 ここからは未知だが、魔王に勝てる自信がある者が、

 魔王の前に立って戦ってみればいい。

 殴りあっているうちに、魔王は様々な感情を持つかもしれないね。

 始めはノーガードだろうけど、

 身をかばうようになってくれば、

 何かが変わったと思っていいはずだ。

 その時に引けばいい。

 魔王はさらに考えるだろう。

 ここに来たヤツは何をしに来たのだろうかと。

 もうここまでくれば、

 厚生を終えたのも同然だが、

 魔王自らの意志でその先を知るために、

 人がいる場所に攻めてくるかもしれない。

 よって、魔王の城を厳重な壁で囲んでおいた方がいいね。

 だから更生には考えられないほど長い時間がかかるけど、

 天使も悪魔も長い時間がある。

 その生涯を賭して、魔王を救うために尽力していいと俺は思うね」


「…この星を取り戻したら…

 やってやる… やってやるぞぉー…」


ソルデがうなると、極は怪訝そうな顔をした。


「ここって元々、ソルデの星なの?」と極が聞くと、「…うっ 俺の星、というわけではないがぁー…」とソルデは大いに戸惑った。


極がソレイユを見ると、「…私たちの姉… 黒い天使が、この星を軍事国家にしようと企んだのです…」とソレイユが悲しそうに言った。


極は少し考えて、「それ、どれほど前なの?」と聞くと、「二百年程…」とソレイユはつぶやいた。


「たぶんもう、生きちゃいないさ」と極が小声で言った。


「証拠として、改造人間たちは呪いの類も術の類も感じなかったこと。

 黒い天使の場合、呪いを使えるようになる。

 人間の強化には使える術もあるはずだ。

 そして黒い天使は、生きている時間は長くて十年だろう」


「…そうか、そうだろうなぁー…

 …マルティンはもう逝っていたんだなぁー…」


ソルデは言って涙を流した。


「よってこれは予測だけど、

 黒い天使が何らかの薬の調合をした。

 それが受け継がれているように思う。

 強化人間たちの強さなどの変化はわからないか?」


極の言葉に、「…さっき戦って、弱すぎると思った…」とソルデはうなだれたまま答えた。


「薬の効果が薄れたんだな。

 確かに、俺が戦った時も驚異的な強さは感じなかった。

 それでも、投与されると寿命が三分の一になる、

 悪の劇毒という代物のようだ」


全てを語り終えた極は、「さ、帰ろうか」と言うと、ソルデが立ち上がって極の前に立ちはだかり両腕を広げた。


「あとは、あんたたちで何とでもなるさ。

 もちろん監視していていいのなら監視はするし、

 ピンチになったらまた来てやる。

 これでどうだ?」


「…うう… 俺の欲でしかねえ…」とソルデは言って両腕を下した。


「この星に戦える者がいるのに、

 ほかの星の者が救ったのでは、

 ここに住みづらく思うだろ、あんたなら」


「…俺の男になれる高条件のヤツを連れて来い!」


「極力尽力しよう」と極は笑みを受かべて答えた。


「あ、そうだ。

 魂まんじゅうの作り方をソレイユ様に渡してあるから、

 大量に食べたかったら自分たちで作れよ」


「…くっ… …たまには作りにきやがれぇー…」とソルデは小声で悪態をついた。


極たちはリナ・クーターに乗り込んで、帰りは宇宙を飛んで、ラステリアに帰還した。



リナ・クーターを格納庫に収納して、食堂で幸恵と気さくにあいさつをしてから別荘に移動すると、縁側が作戦本部になっていた。


「多分出る幕はないと思います」と極は言って、胸に拳を当てた。


「この人たち、ずっとうなってただけだったよ」と黒ヒョウのラステリアが極に言いつけると、「まあ、うなるのも仕事のひとつなのかなぁー…」と極が言うと、燕が真っ先に大声で笑った。


「さあ、撤収してください。

 ここは俺たち家族のくつろぎの家なので」


ここが会議室になったのはもちろん理由があり、ラステリアが暇だろうと思って、リナ・クーターのカメラがとらえた映像を映し出すモニターを四台設置していたからだ。


その映像を観ながら、ミカエルたち高官が、

ついでにこの先の会議をしていたということだった。


「少しはためになったかい?」と極がラステリアに聞くと、「悪魔たちがいきなり強くなって驚いた!」とラステリアは陽気に言った。


「それに、婿問題もあるし、ここは英雄に行ってもらおうかなぁー…」と極が言うと、ミカエルは何も言わずに、そそくさと扉をくぐって行った。


しかしすぐに戻って来て、「ここはボクの家だ!」と叫んで、リビングのソファーに寝転んだ。



「まさかの太陽を使っちゃったわね」と燕は機嫌よくくすくすと笑った。


「まさかの威力で、俺も驚いた。

 ただの光の反射の球なのに、

 まさに太陽になってたね」


極は陽気に答えた。


「今回は知識の海のオンパレードだったのね」


「願いの夢見で大いに考えさせられたからね。

 魔王の知識は、現場に行ってから浮かんできたんだよ。

 もちろん、燕さんもある程度は知っていると確信していたけどね」


「それほどは多くないけど、出会ったわ。

 まさにテリトリーに入ると、とんでもない勢いで走ってきたわ。

 鬼のバーサーカーさながらだった。

 あ、そうだ、忘れるところだったわ」


「ああ、一番最初のあれは、この扉の応用だよ」と極は異空間利用の扉を指さした。


「…ああ、飛ぶ先は、リナ・クーターが認識していたから…

 ゲートは飾りのようなものなのね…

 それに、宇宙に出なくて大気圏内にも飛べるわけね…

 星も宇宙も関係なく、その裏には異空間があるから」


「急ぎでは使えるね。

 その分、リナ・クーターの劣化も抑えられるから、

 一石二鳥だよ。

 だけど宇宙に飛び立つ瞬間は、

 何度体験しても妙にワクワクするから大好きなんだ」


「…私、極さんとのこれからに、ワクワクしてるわ…」と燕は言ってホホを赤らめた。


「燕先生! インコッ!!」と果林が機嫌よく叫ぶと、燕は笑みを浮かべて果林を見て、「学校お休みしたから、異空間部屋でお勉強しましょうね」と少し妖艶に言うと、果林の表情が固まった。



結局は極が教師になって、今日の時間割の教科の授業をしたが、果林は興味を持って真剣に、そして大いに笑って授業を受けた。


さすがに個人授業だと、果林にだけわかる冗談や好感をもつ話ができるので簡単なことでもあった。


よって大人数のクラスの場合、これを全員に向ければ何とかなるかもしれないと、極は何気なく感じていた。


さらには褒めることも重要で、その逆の場合はそれほど責めない。


やはり落ち込むと、負の感情を抱き過ぎて、耳をふさいでいることと何も変わらなくなるのだ。


少々甘いのだが、見た目よりもかなり子供の果林にだけ通用する教育方法でもある。



異空間部屋を出て時計を見ると、まだ夕食には少し早いのだが、極は台所に行って夕食の仕込みをした。


そして漠然とだが、―― まだ終わっていない… ―― と考え、またキリング星に飛ぶことになるだろうと思い、極にとって愉快に感じるソルデを思い出して少し笑った。



まさに極の予感は当たり、キリング星政府とドドン星政府との間で火花が飛び始めた。


造られた兵士の性能が悪すぎるというドドン星側からの苦情からこの諍いが始まったのだ。


キリング政府は陸戦は得意なのだが、宇宙での戦いははっきり言って戦闘力ゼロといえる。


この先さらに稼いで、宇宙船を購入する予定だったのだが、思ったよりもそれは困難な道だった。


よってもし、キリング星で戦闘があった場合、守られるのは天使居住区だけとなる。


ドドン星はこの件は理解しているので、天使居住区上空を飛ぶことはない。


この地域の防衛は完璧で、近づくだけで大きな痛手を負ってしまうからだ。


よってドドン星は天使居住区の王となったソルデと連絡を取って共闘の折衝をしたが、「やなこった」とソルデは無関心に言って簡単に断った。


ソルデは自らの手で、この星を取り戻す意思を見せたのだ。


しかも、「この星を攻撃することは、俺たちとも戦うということだ。それでもいいのなら攻めてきやがれ」と逆にケンカを売るようなことにもなってしまった。


もちろんソルデはうかつな感情をもってこのことを言ったのではない。


魔王の存在を大いに杞憂に思ったからだ。


まずはこの問題を解決してからでないと、キリング星での大きな戦いは避けるべきと考えたのだ。


もちろんこの件を話せば利用されることはわかっているので何も言わない。


『やあ、ソルデ、困ったことになりそうだな』と極がソルデに念話を送った。


「…うう、てめえ… どこで見ていやがったぁー…

 …お、おまえ… 本当は俺のことが…」


ソルデがつぶやくと、極は大いに笑って、『恋愛感情ではなく、友人としては大好きだ』と陽気に言われてしまったので、ソルデは立ち上がれないほどうなだれた。


『今回の件はラステリア軍が口を出す。

 それはもちろん、天使居住区の平和を守るためだ。

 ドドン星とキリング星の話し合いは、

 ラステリア星が仲介することに決まった。

 だからキリング星での戦闘は極力起こらないようにするが、

 話し合いの流れによっては戦争が起こることも考えられる。

 もちろんドドン星も多額のカネを払って不良品をつかまされたんだ。

 泣き寝入りはしないからな。

 だがその時は、ラステリアがその戦場を指定する。

 キリング星にはやせた土地が多いから、

 いくらでも戦場はある。

 天使居住区と魔王の城からかなり離れた場所に設定するから、

 うまくいけば全く迷惑は被らないはずだ。

 できれば穏便に済ませてもらいたいところだけどな』


「…お、おう… よくわかった…

 …悪魔たち以外の友、か…」


『じゃあな、また連絡するから』と極は言って念話を切った。


「…やっぱ、いい男だぁー…」とソルデはうなって満面の笑みを浮かべた。



キリング政府は、さすがに今回は相手がお得意さんなので、無視するわけにはいかず、ドドン星代表との立会人であるラステリア宇宙軍参謀次官のビッグ・トレイン少将を交えた会談を行った。


ビッグとしてはただの立ち合いだが、もちろん発言権はある。


それは煌極の件での話し合いは終わっていないからだ。


よってキリング政府のポルタ首相は大いに怯えていた。


話し合いの前に、「トレイン将軍は変わったスーツを着ておられるな」とドドン星宇宙外交官のボルテル宇宙外交大臣が怪訝そうな目をしてビッグを見た。


透明のビニールをかぶっているように見えるので、誰でも怪訝に思うはずだ。


もちろん、極手製の防具でもあり、飛行機能も持っているスーツだ。


ビッグは会談の前に、将軍たちに大いに自慢して、練習がてらに空を飛び回った。


「ここでいきなりドンパチ始まるとたまったものではない。

 ある程度は体を守る鎧だ」


ビッグの言葉に、「まあそれも、キリング側の考えひとつによりますけどな」とボルテルは唇をゆがめて言った。


もちろん、ビッグが予想していた通り、この会談は荒れた。


そしてポルタ首相は苦肉の策で、脅威の存在である煌極の名前を出したのだ。


当然こうなることもビッグは予想していて、暗殺未遂の件でポルタを責めると、ボルテルは目を見開いて、すぐさまビッグの側についた。


もちろん、ドドン星でもそのような事件が数件起こっていて、ひとりが犠牲になっていたからだ。


もちろん証拠がないので強くは責められないのだが、大いに疑問が残る。


よってボルタは保身のために、ポルテルの苦情を受け入れ、賠償請求を飲むことにした。


そしてビッグの主張する暗殺未遂の責めには丁重に謝り、かなり渋々だが、賠償金を支払い、今後はこのようなことは起こさないと公言した。


「あの時に認めていれば、

 賠償金までは支払わなくて済んだものを」


ビッグの捨て台詞に、ボルタは何も言えなかった。


ポルテルはこのあとすぐにビッグとの会談を望んだが、「また別の機会でどうでしょうか?」とここは穏便に提案するうと、ポルテルはその日時を指定して、かなり強大な力を持つが中立星のカップで行うことに決まった。


ラステリアとドドンの接触は今回が初めてなので、これは当然のことでもあった。


もちろんラステリアはカップ星との交流はあるので、困ったことは何もない。


ビッグは快くこの会談を承諾した。


「じゃ、今度はカップ星の調査、と…」


極は作戦本部である獣人の村の別荘で楽しそうに言って、小さなリナ・クーターをキリング星からカップ星に向けて移動させた。


「指示を出さなくていいから楽」とミカエルは機嫌よくソファーに座って、ティーブレイクとしゃれこんだ。


「ですが統合幕僚長、もしも、煌少佐が費用などの請求をした場合、

 見たことがないほどのとんでもない金額になりますが」


マルカスの言葉に、ミカエルは口に含んだコーヒーを噴き出した。


「そうなるね…

 どの世界にもないことを極はやっているんだから」


軍服姿の幸恵が胸を張ってマルカスに追従した。


「将軍にしちゃうからいい…」とミカエルは少し不貞腐れて言って、自分でテーブルの上などを拭いた。


「出世など、まるで望んでいませんが?

 その逆に、自由を与えるような役職の方が、

 煌少佐は喜ぶと思います。

 軍ではあってはならないことですが、

 煌中隊のある程度の自由化が望ましいでしょう。

 もちろん、連絡義務はありますが、

 煌少佐の意志で出撃できるようにすれば、

 部隊員たちの大いなるスキルアップも認められるはず。

 キリング星の天使居住区の件などは、

 まさにその宝庫だったのに、

 煌少佐のパートナーしか現場にはいなかった。

 これは由々しき問題でもあると、自分は主張します」


いつになく饒舌なマルカスに、ミカエルは大いに眉を下げていたが、将軍たちはマルカスに同意するように何度もうなづいた。


「極は規格外だ。

 その極を型にはまった軍に所属させるのなら、

 規格外の取り決めが必要だよ」


幸恵の押しに、「…ちょっとだけ、会議するよ…」とミカエルは言って、数歩先にある作戦本部に歩いて行った。


「…今回は嬉しい話のようよ…」と燕が言うと、「…父さんも母さんも不合格だよ…」と極は苦笑いを浮かべて言った。


「あら? どこが?

 …うう、私も不合格になっちゃうぅー…」


燕は大いに嘆いて大いに考え、ハタと気づいた。


「勇者自由部隊」と燕が大いに焦って答えると、「さすが燕さん」と極は言って、燕の肩を抱いた。


「勇者自由部隊だって!」と果林が陽気に幸恵に言うと、「…しまった…」と幸恵とマルカスは同時につぶやいた。


勇者という言葉を使うことで、まさに最高級の兵士の称号を持つ者がいるということになる。


そして勇者は縛られていては機能しない種族でもある。


よって当然だが、自由の戦士という意味も持っている種族が勇者なのだ。



さらにはミカエルは極の修練場主任監視官の職を解いた。


こうすることで、極に群がってくる軍人たちを抑え込むことができるからだ。


極は自分の部下だけに全神経を集中できることになる。


さらには、将軍の秘書官がその監視任務について、極の邪魔をしようものなら、即刻に逮捕するという厳しい規則もできていた。


この方法はさすがにお堅い軍の考えだったが、極の勇者自由部隊に安寧の時が訪れたことには変わりなかった。


さらに言えば、超化け物級の燕と結婚したことも大きい。


さらに燕はマリーンの母なので、このラステリアを見限って捨てることはないという、大人の考えも当然あったのだ。


しかし、それなりの実力者の心は乱れていなかった。


極は何度も食堂などで、それほど面識のない者たちに声をかけて部下にしているからだ。


そうなる日を夢見て、極が認めるであろう有資格者は、大いに自分自身を鍛え上げていた。


よって極は、数名の事務方も雇うことになった。


事務と言っても、極の代弁者の役も果たすことになる。


その代表者をどうしようかと極は考えていた。


できれば大いに面識もあり気さくに話せるパトリシアでもよかったのだが、それほど急がないことに決めていた。



それよりも先に、極はある高揚感の上がる企画を立てた。


もちろん、勇者自由部隊だけの特権だ。


上層部から許可をもらえば、それを公にすることができる。


「ほら、こんなのどうだ」と極は言って少しおどけながら、左胸のポケットの上に、勇者自由部隊のエンブレムを手で添えると、「…ああ、素晴らしいです、極様ぁー…」とトーマは感動して言った。


そのデザインは竜の鎧のようなリナ・クーターのような、少々あいまいになっているが、妙に迫力があるデザインだ。


その上には、部隊の愛称が書かれている。


「そしてネームプレートはこう!」と極は言って、トーマのネームプレートの上にシールを張った。


そこには、『タルタロス部隊 参謀 英雄の極 トーマ・ファンタス』と書かれていた。


「おー…」と部隊員たちは大いにうなってから、トーマに拍手を送った。


トーマはネームプレートを外して、感無量になって眺めていた。


「ふたつ名を決めるのも面白いと思ってね。

 それなりに上がるだろ?

 なあ、狂犬ジャック」


極の言葉に、「俺は犬じゃあねえっ!!」と早速ジャックは狂犬ぶりを発揮した。


「…極様… 私には…」とサエが恥ずかしそうに言うと、「鉄頭の猛虎」と極が言って文字を書くと、「素敵…」とまず言ったが、悪口ではないかとサエは大いに考え始めると、燕は大いに腹を抱えて笑っていた。


「もちろん燕さんは副司令だから。

 もしも部隊を二つに分ける時、

 司令塔がふたり必要だ。

 それがバーン星での宿題だった」


「…光栄として受けておくわ…」と燕は穏やかに答えた。


すると隊員たちは大いに怯えていた。


「詳しい班分けなどは決めずに、

 その場で指示するからね。

 もちろん、適材適所という意味が大いにあるからという理由だよ」


極の言葉に隊員たちは一斉に胸に拳を当てた。


「…燕さんのふたつ名が、たくさんあり過ぎて迷うぅー…」と極が嘆くと、燕は大いに喜んでいる。


「だけど、インパクトがあるのはこれだな…」と極は言って、すらすらと紙に書いた。


『母性の緑竜』


「…ああ、母と竜が…」と燕は言って穏やかに涙を流すほどに喜んだ。


「優しそうで強そうだ。

 何ならその日の気分で変えてもいいよ」


極は言って思いつくままにすべてを書き上げた。


「…これこそ、極さんからの愛だわ…」と燕は言って書き終えた紙を胸に抱いた。


「…あれほどに知っているからこそだ…」とジャックはうなって、燕が抱き締めている紙を見てうらやましく思った。


「そして、本当ならまずは俺なんだけど…」と極は恥ずかしそうに言って、『閃光の極』と紙に書くと、燕が発狂するほどに喜んで、意識を失うほどに興奮した。


「…うう… 俺のふたつ名の方をさらに喜んでもらえた…」と極は言って、ぐったりしている燕を支えた。


「じゃあ、燕さんにもうひとつ…」と極は言って、『煌の燕』と書いて笑みを浮かべた。


「…苗字の交換だが、それ、いいなぁー…」とジャックはさらにうらやましがった。


「牛の僕ジャック」と極が軽口を言うと、「うるせえよ!」とジャックは大いに悪態をついた。


「もちろんほかのみんなの分も考えておくから、

 だけど今は、まずは訓練に行くよ!」


「おう!!」と誰もが叫んで素早く立ち上がった。



もうすでに、極が部隊員たちに指導することはない。


しかし、訓練のレベルを上げることはできるのだが、今は極力抑えた。


あとから雇った者のことを考えて、格差をつけるのはどうだろうと考えたのだ。


よって極は組み手場の奥の、獣人たち用に作り上げた緑濃いくつろぎスペースに歩いて行った。


「…あ、極さん…」と燕が少し恥ずかしそうにして、宇宙を抱いて小走りでやってきた。


「…あれ? まだ何か話してないことってあった?」と極が考えながら言うと、「…魂の投擲…」と燕が言うと、「…ああ、そうだった… そういえば誰も聞いてこないな…」と極は少し不思議そうに言った。


「不思議に思う部分は、魂を掴めること。

 そして魂を投げたり操れること。

 さらには、魂同士の衝突で、とんでもない衝撃があること。

 ということでいいの?」


「…学校の先生…」と燕は言って、大いに苦笑いを浮かべると、極は愉快そうに大いに笑った。


「実はね、あの時、できれば幸運をと思っていたんだよ。

 魂の拾い食いについて」


燕は少し考え込んで、「…ああ、言ってたわね… 拾い食いができることが、まさに幸運だった…」とつぶやくように言った。


「そういうこと。

 もしも、ごく一般の悪魔だったら、

 それはできないんだよ。

 この悪魔をノラ悪魔としておこう」


極の説明に、燕は笑い転げた。


「さて、ではソルデさんたちはどういった種類の悪魔なのだろうか。

 キリング星の土着悪魔なんだ」


「ああ! そうだった! 魂の循環システム!!」と燕は叫んで、得意げな顔を極に向けた。


「そのシステムは今はもうないけどね。

 あと気にかかることがあるんだけど、

 これはあとで」


燕には、極の言った意味がよく分かったので、笑みを浮かべてうなづいた。


「その魂の循環システムについては、

 エキスパートは確実にガイアだと思う。

 だけどその内容を知ったから説明するよ」



魂の循環システムに必要な種族は、神、悪魔、そして死神という種族だ。


よって天使は必要ないのだが、ある重要な任務を帯びて存在している。


人間が死んで、肉体から魂が抜け出ると、極力宇宙に向けて登っていこうとするのだが、そういった魂ばかりではない。


これは自然現象によって、引き寄せられることがあるからだ。


これは人間の強い思念に反応しているのだ。


その場所に興味を持って立ち寄る場合がよくある。


一番困るのは、その死後の魂が、時間切れによって悪霊となることがいただけない。


悪霊になると、天に昇らず土着して、本来の生まれ変わりの機能をしなくなる。


そこで登場するのが死神で、そうなる前に魂を拾って悪魔に差し出す。


この死神は、悪魔が認めた死後の魂から僕として蘇らせる。


特に能力者であれば、悪魔は嬉々とする。


その魂を悪魔が食べるのだが、それには理由があって、魂にこびりついた悪い思念だけを食べることになる。


それを模して作ったものが、魂まんじゅうだ。


魂を食べた場合、その魂は神のもとに飛んで、死後の魂から生の魂である新魂に生まれ変わって宇宙に飛び出す。


その魂はその星に降りることもあるし、長い旅をして別の星に移動することもある。


よって一番の問題は、魂の存在する場所は精神空間ということに尽きる。


宇宙空間から精神空間へのアプローチはほぼ不可能。


よって、自然界が魂の循環システムだけに与えた特権で、悪魔と死神には魂を認識させ、つかむことが可能になるように構築したのだ。


さらに、魂同士はどちらも精神空間にあるので、ぶつけると衝撃が起る。


よって、魂の循環システムに属する悪魔は、魂を投げ、生物の魂に当てることが可能なのだ。


ちなみに、新魂だけは、悪魔であろうとも認識できないようになっている。



「だからね、この宇宙にはとんでもない量の魂が存在しているんだ。

 それから新たな情報で、

 爆発的に新品の魂が生まれることはもうないそうだよ。

 これは古い神の一族のかなり上の方の人が偶然が起こしたものらしいんだ。

 また詳しいことがわかったら、異空間部屋ででもみんなにも説明するよ」


「…じゃあ、この星って…」と燕が言うと、「その前に、魂をぶつけられた者はどうしてあれ程に衝撃を受けて飛ぶのか」と極が言うと、「…うっ! その問題もあった!」と燕は言って大いに考え込んだが、眉を下げて極を見た。


「答えはそれほど難しくないよ。

 魂と肉体は、死ぬか仮死状態にならないと離れることがないから」


極の言葉に、「…うう… そういう仕組みなんだぁー…」と燕は眉を下げてつぶやいた。


「だからね、俺たちが意識していない術で

 同じように使っている事実があるんだよ。

 浮かんでみて」


極の言葉に、燕は50センチほど浮かび上がって、「あっ!」と燕は何かに気付いて叫び、「何らかの方法を使って、魂を持ち上げている…」と言って地面に降りた。


「その方法は誰にもわからない。

 だけどイレギュラーがあって、

 気功術師にはよくわかるんだよ。

 気功術の飛行術は、

 意識的に魂を動かしているんだよ。

 だから空を飛ぶことが可能という、

 論理的なことを知ることができるんだ」


「…私たちの場合は、魔力などを使って、

 組み込まれている術によって飛んでるから、

 その理屈はわからない…」


「そうなるね」と極は笑みを浮かべて言った。



「さて、このラステリアには魂の循環システムは存在していない。

 この星はイレギュラーと言えるね」


「…あー… 納得…

 その痕跡すらないもの…

 何度か、星の創造神と確信した人と出会ったことがあるから」


「何らかの理由で魂の循環システムは機能を停止した。

 だからこそ、この宇宙の気をきれいにしないと、

 魂は悪霊だらけになる。

 ここからが、勇者や能力者の出番なんだと確信したんだよ」


「…勇者は自由の騎士…」と燕は言って、極の右腕をしっかりと抱き締めて、満面の笑みを浮かべた。



極は変わった座禅を始めた。


燕が真似をすると、「あっ!」と叫んだが、瞳を閉じた。


何も見えないはずなのだが、辺りの景色はよくわかり、それ以外の情報も瞼の下に見え隠れする。


「…これは、すごい修行だわ…」と燕がつぶやくと、「あーあ、どやされる…」と極が言うと、燕は愉快そうに笑った。


極と燕が話をしていたところをじっと見ていた者が何人もいて、ふたりが目を閉じたところで迫って来たのだ。


しかし、大勢の監視官が、「近寄るんじゃない!」と叫んで修練に戻らせた。


「噛んでやろうと思ったのに…」と極の傍らにいたトーマがさも残念そうに言った。


「甘噛みならいいぞ」と極は言って少し笑った。


「…それはなんだぁー…」とエリザベスが聞くと、「精神修行だよ」と極は言って、「…ああ、邪魔しちゃったぁー…」と姿を変えたサエが言うと、「いや、特に問題ないから、話しかけてもいよ」と極が気さくに言ったが、「…私には難しいぃー…」と燕は大いに嘆いた。


「この場合、魂に集中することが重要だから、

 気功術師でハイレベルであれば、

 簡単にできるはずだよ」


「気功術師にもなろ…」と燕は言って、目を覚ました宇宙の頭をやさしくなでた。


「あっ! 赤ちゃんのポーズ…」と燕が言うと、「うん、多少似てるね。それに、純な心にもなることが重要だよ」と極は言って、宇宙の頭をなでた。


「…気功術師になれると思う?」とトーマが極に聞くと、「はい、まずそれが失格」と極が言うと、「そうだった…」とトーマは眉を下げて言った。


「なれると信じて疑わないこと。

 これが簡単そうでかなり難しいんだよね…

 英雄の極のトーマでも難しいことなんだよ」


「…名前負けしてるからもっともっと信じる!」とトーマは大いに陽気に言った。


「その内容はたった一枚の紙の内容でしかないことは、

 みんなも知っての通りだ。

 よってそのすべてが、無理難題を言っているようなものだ。

 だがそれがすべて真実だと強く心に刻むこと。

 黒崎さんは、精神的にはトーマに近づいたぞ」


「煽ってやらないで」と燕が言うと、「いや、現実を知っておいた方がいいんだよ」と極が言うと、「ある意味、やさしいお師匠様だわ…」と燕はあきれ返って言った。


「さて、なぜ座禅などを始めたかというと、

 カップ星に悲劇が起こると感じたからなんだ。

 もしも行くことになった場合、

 かなり気をつけないと、

 星の破壊に巻き込まれる可能性もあるように思う。

 カップ星は確かに中立星だが、

 すっと貫いてきたわけじゃない。

 その昔は大暴れしていたそうで、やることがなくなったから、

 この近隣では、多大な武力を持っているにもかかわらず、

 平和な星として認められている。

 苦渋を飲んだ星々の報復があるかもしれないんだよ」


「…確実にあるわね…

 早いか遅いかだけ…」


燕の言葉に、大勢集まっている能力者やパートナーは一斉にうなづいた。


「できれば、それを食い止めたいけど、

 どこまでやれるのかは未知だ。

 ちびっこリナ・クーターに探らせているが、

 大いに雲行きが怪しいね…」


「極様、リナ・クーターをどれほど放たれたのですか?」


黒崎の質問に、「1980機ですよ」と極が言うと、「あー…」と誰もが言って大いに納得していた。


「故障がないだけでも助かってるんだ。

 行方不明もなし。

 気づかれた機体もなし。

 特に用心するのは、

 近くに子供がいないことを十分に確認することだけ」


極の言葉に、燕だけが陽気に笑い始めた。


「大人たちが思っているよりも五感が優れてるし、

 能力者のような子も普通にいるからね」


「果林で何度も試して、

 リナ・クーターはその情報を持っている。

 だからかなり安心しているんだ。

 …よっし、大雑把な情報収集は完了。

 全機帰還」


すると目の前に、まるで模型店のようにリナ・クーターが現れて、「おおっ!!」と誰もが大いに叫んだ。


そして極に向かって飛んで次々と消えて行った。


「そうだそれだ!

 どうして手品のようなことができるんだ?!」


ジャックが大いに叫ぶと、「ここにも異空間が関係しているんだよ」と極は言って、異空間ポケットの話を始めた。


古い神の一族と勇者などの高能力者にだけ使える、異空間に貯蔵をしておく場所が与えられて、ランクが上がるたびにその容量が増えるという、大いに便利なストックボックスだ。


「じゃ上を見て」と極が言うと、誰もが清々しい青空を見た。


「トーマ、学校の宇宙船はどこにある?」と極が聞くと、トーマはすぐにレーダーを出して調べて、「なくなっています!」と慌てて叫んだ。


「そう、宇宙船はどこにもないんだ。

 じゃ、出すから」


極が言うと、頭上に宇宙船が浮かんでいて、「…みつけましたぁー…」とトーマはレーダーを確認して空を見上げて、大いに苦笑いを浮かべて言った。


「じゃしまうよ」と極が言うと、宇宙船は消えた。


「なかなか便利だぞ」と極が言うと、「うー…」とジャックは大いにうなっていた。


「ところで燕さん」と極が燕に顔を向けて言うと、「…な、なに?」と大いに動揺して聞いた。


「思い当たることがないから、燕さんは動揺しただけだから。

 俺が今から言うことは、ふと思いついたことだから」


「…だったら楽しみにしておかなきゃ…」と燕は明るく言った。


「俺の竜の鎧と緑竜で、宇宙に飛び出してみない?」


極の言葉に、燕はついつい目を開いてしまった。


そして、「飛びたい!」と燕は叫んで、少し走ってから、緑竜に変身した。


もちろん、修行者は誰もが大急ぎで逃げた。


「あ、竜の鎧になると話さないから。

 だけど、地獄を体験したい人は話しかけていいよ」


極の言葉に、誰もが黙り込んだ。


極は目を開いて、「トーマ、果林、宇宙を頼む」と極が言うと、「はい! お任せを!」とトーマはすぐさま叫び、「…トーマ君との赤ちゃん…」と果林は大いに照れて、宇宙を抱き上げた。


そして極が竜の鎧をまとうと、誰もが大いに畏れた。


だが、トーマとパートナーたちは恍惚とした表情になった。


竜の鎧は緑竜に近づき、ふわりと宙に浮かび、とんでもないスピードで大きく旋回して、まっすぐに空に向かって飛んで行った。


「…あいつ… もう、とんでもねえ…」とジャックは言ってあきれ返ったが、寂しい思いも沸いていた。


「だが、装備なしで宇宙に出られるのか…」と黒崎がうなるように言うと、「生物ではないからです」とトーマがひと言で説明した。


「さすがに、大気圏の行き来には結界を使うそうですが、

 宇宙に出た時は結界を解くそうです。

 呼吸をする必要はないので。

 しかも密閉されている部分がないので、

 膨張することもないそうです。

 あ、帰ってきました」


トーマが言うと、誰が空を見上げて、緑竜だけは確認できた。


その緑竜が大きくなってくると、ようやく竜の鎧の姿も確認できた。


ふたりはゆっくりと地面に足をつけ、竜の鎧は少々怯えている者たちに近づいて行った。


「…きっと、もう、誰も、極様に近づかないと思う…」とトーマが言うと、「…いい薬になりそうだ…」とジャックがあきれ返って言った。


修行者の誰もが、『化け物が!』と叫びたいのだが、あまりの恐怖によって叫ぶことも声を発することもできない。


すると竜の鎧の歩く方向から天使たちが走ってやって来て、竜の鎧は静香だけを連れて、かなり遠くに行ってから、会話を始めたことに、誰もが一斉に耳をふさいだ。


まさに誰もが、神の声を聴いたと感じた。


そして竜の鎧は静香を天使たち五人のもとに連れて行った。


竜の鎧は極に戻って、「ようやく確認ができた、静香と普通に話せたよ」と極が言うと、「…ま、内緒話じゃないからよかろう…」と緑竜は寛大に言って燕に戻った。


「最悪星が消し飛んでも、

 俺と燕さんで何とでもできるから。

 まず死ぬことはないよ」


極の言葉に、誰もが一斉に胸に拳を当てて、大いに戸惑っていた。


「タルタロス部隊は不死の部隊だ!」と極が叫ぶと、「ウォ―――ッ!!」と獣人たちだけが叫んだ。


「ノリが悪いヤツが大勢いたが、まあいい…」と極は言って苦笑いを浮かべた。


「ちなみに、耳をふさぎたくなるほどの美声は、

 映像の音響変換だそうだ。

 だから、目で見えることを音に変換すると、

 解読されて普通に聞こえるそうだぞ」


「…そんな器用なヤツ、どこにもいねえ…」とジャックが控えめに言った。


「あ、俺の友人辞めちゃう?

 ついに、黒崎さんしかいなくなったなぁー…」


極の言葉にジャックはむっとして、「おまえが寂しがるから友人もやめねえ!」と力任せに叫んだ。


「あ、よかったよかった」と極は言って、ジャックと肩を組んで修練場に向かって歩いて行った。


「…ジャックはよくわかってるわ…」と燕は穏やかだが少し悔しそうにも見える。


「辞表を出したい人はそれでもいいのよ。

 まさに、人間では考えられない部隊が、

 タルタロス部隊だから」


燕は言って、果林から宇宙を受け取って、ベビーカーに乗せて極を追って行った。


「…ああ、それで…

 友人もやめねえって言ったんだぁー…」


トーマの言葉に、能力者たちは大いにうなだれていた。



極の杞憂は、燕にはもうわかっていた。


それはコップ星で起こりうる杞憂と、仲間を守り切れないかもしれないという杞憂。


これらを極はもう知ったのだ。


よって、意志の強い者だけについてきてもらいたいという強い意志。


さらには、もしも極が倒れても、その意志を継いでもらいたいという希望。


―― そんなこと、起こるもんですか ―― と燕は余裕さえ持っていた。


しかし、燕はそんな極をさらに好きになっていて、極と仲のいい友人の後ろを歩いた。


だが、異空間部屋での宇宙の構造の講義では、極が認めた全員がそろっていた。


極は薄笑みさえ浮かべていたが、さらに強い意志を持って講義に想いと熱を込めて説明した。


数度の休憩を入れて、約30時間に渡る今日の講義は終了した。



コップ星でのラステリア星代表とドドン星代表の会談はつつがなく終了した。


ラステリアの代表のマルカスにとって、ドドン星から得るものは全くなかった。


だが、ドドン星の代表の軍事参謀長のワークスは大いに煌極に興味を持ち、マルカスが父であることをうらやましく思った。


その映像も極秘で公開されて、作りものではなく真実だとワークスは確信した。


本来なら隠して当然の情報を初対面の相手にさらす。


自慢をするような愚かな行為だと誰もが思うが、ワークスはそう思わなかった。


あえてすべてを晒すことで、余計な諍いが起らないように釘を刺されたと感じた。


その余裕をマルカスに感じたのだ。


もちろんこの話は、ワークスの上層部は大いに脅威に想い、興味やよからぬ考えを持つことだろう。


しかしワークスの主は強奪は許さない。


だが、興味を持ち、会ってみたいとワークスにねだるはずだ。


ワークスにとって、それが最大の頭痛の種になっていた。



これと同時に、コップ星の内部が少々騒がしくなっていた。


コップ星近隣の宇宙で、多くの流れ星が、コップ星の近隣で起こり始めていた。


コップ星は二カ所の強重力の星により、隕石などの被害はほとんど起こっていない。


だが、一番の脅威は、この隕石が発生した原因が自然界が起こしたことではないかもしれないという結果だ。


よって誰かが故意に、コップ星に向けて、隕石という投擲を始めたのだ。


もちろん極はこれを知っていた。


しかし、動くことはなかった。


もちろんその理由があって、リナ・クーターが持ち帰った宇宙の状態として、かなり近づかないと、攻撃する者の望みは叶わないと知ったからだ。


近づけば確実に、宇宙船を捕捉される位置となり、子供が石を投げつけている現場を押さえられることになる。


だが、あと半年すれば、この状況がわずかに変わり、コップ星に命中する可能性がわずかながらに上がる。


出番はその時だと極は思い、リナ・クーターによる天体観測と監視を続けることにした。


本来ならばこれをコップ星に伝えるべきなのだろうが、そのような愚かな真似はしない。


伝えた者が実は犯人、などという事件もあるように、疑われたくないからだ。


疑われることによって、余計な争いに発展することもある。


よって極が知ったこの事実は、仲間にだけしか話していなかった。


これがタルタロス部隊の持ち味でもあり、自由な部分だ。


そして極の進言により、軍の部隊ではなく、別の軍のタルタロス軍として、極は統合幕僚長に変更手続きの要請をした。


さすがのミカエルもこれには大いに動揺した。


ラステリア軍ではあるが、統合幕僚長の権限が及ばない軍となるのだ。


しかし所属はラステリア軍なので、少々ややこしい話に発展しそうになっていた。


そして最終手段は、タルタロス軍のキリング星天使居留地への移転という、脅しも記載されていた。


さらにまずいのは、タルタロス部隊には、軍の備品がひとつもない。


全ては極が創り上げたものばかりなのだ。


よって全員が辞表を提出すれば、自由の身となって、どこにでも行くことが可能だ。


よって統合幕僚長はさらにイレギュラーになった、タルタロス軍を承認した。



「ま、ここがやっぱ一番過ごしやすいからね」と極は言って、空気と雰囲気が清々しい縁側で言った。


こことはもちろん、獣人の村の別荘だ。


「ついに、王になられました」とトーマは言って感無量になっていた。


「民衆がいない王はいないから」と極が明るい口調で言うと、トーマは大いに目を見開き、「はっ 勝手なことを言ってしまって申し訳ございません」とすぐさま謝った。


「いいや、その気持ちはよくわかるけどね、

 困った人が約一名いるから…」


極が眉を下げて言うと、「硬いこと言うなよ王様ぁー…」とジャックがにやりと笑って言った。


「勇者は王にはならないよ。

 俺はマリーン様の騎士だ」


極の言葉に、「…からかえなくなっちまった…」とジャックは眉を下げて言った。


「だからね、マリーン様を後ろ盾にして、

 マリーン様の軍にしようとまずは考えたんだ。

 でもそれは最終手段だよ。

 できれば、マリーン様を巻き込みたくないから」


「うふふ… そうじゃないわよ、極さん」と燕が笑みを浮かべて言うと、「そうだね、マリーン様はもろ手を上げて大いに喜ばれるはずだ…」と極は眉を下げて答えた。


「本来ならそうしたいんだ。

 ラステリアには住むが、

 ラステリア軍ではなくマリーン様の軍にして、

 さらに自由に動けるようにね。

 だけどね、俺たちが出撃するたびに、

 マリーン様は眉を下げられることだろう」


「…ええ、それはあるわね…

 その顔を見たくないことはよくわかるわ…」


「…難しいぃー…」とサエが頭を抱え込んでうなると、誰もが大いに笑った。


まさに難しい問題なので、今のような中途半端な状態が一番居心地がいいことになる。


よって現在のラステリア軍とタルタロス軍のつながりはマルカス大将だけとなる。


「大業を果たすには、まずは大いに悩むことから始まるんだな」


マルカスの言葉に、「そうなんだよねぇー… さらに杞憂は、ガイアはこの件を知ったと思うから、さらにめんどくさい…」と極はうんざりした感情で言った。


そして、「ご報告に行ってくるけど、行く?」と極がジャックに聞いたが、狸寝入りをしていた。


「タヌキの尻尾が生えてきたぞ」と極が言うと、ジャックは大慌てで腰に触れると、誰もが大いに笑った。



極は燕とともに、トーマとサエをお付きとして、大神殿に行った。


「…童の軍となれぇ~♪」


ガイアは陽気に歌った。


「やだよ姉ちゃん…」と極は眉を下げ、人間の兄弟のように言った。


「もうきちんと知ったから。

 姉ちゃんがマリーン様に寄り添っている理由」


「…うう… 猪口才なヤツめぇー…

 まさかこの短期間でここまで成長しようとは…」


「宇宙の覇者を乗っ取る勢いだろ?」


「勢いはあるな」とガイアはにやりと笑った。


「…そうか、それほど甘くないわけだ…

 俺に今足りないのは、宇宙の母と宇宙の父の情報だね」


「…くっ! もうそこまで知ったか?!」とガイアは叫んで、少しうなだれた。


「…その神髄を知れば、さらに面倒になる…

 お前はここを離れるかもしれないなぁー…」


ガイアはいつになく言葉遣いを変えて落ち込んでいた。


「そう簡単には行かないよ。

 その伝は別にあるから。

 古い神の一族のヤマ。

 できれば直接交信したいところだけど、

 それができないことは天使の夢見で実証済み。

 だけど、黒ヒョウのラステリアはそれができる。

 どうやらラステリアが動物だから、

 広範囲に通じるものがあるんだろうね」


「…神が全てにおいて優秀とは限らない、かぁー…」とガイアは嘆いて、マリーンに戻った。


だが今日のマリーンは少々違った。


「これからは憂鬱な顔を極様に向けません」


マリーンの真剣な顔と言葉に、「はいはい失格失格」と燕がすぐに言うと、マリーンはすぐさまうなだれた。


「薄笑みを浮かべていれば合格だったんだけどね。

 今のマリーンじゃ無理よ」


「…お母様… 私のことをよく知り過ぎていますぅー…」


「どれほどの付き合いだと思ってるの?

 実の母子以上にわかってるつもりよ」


燕は言って、マリーンをやさしく抱きしめた。


「そうやって抱き締めるから、

 それほど良くないんじゃないの?」


極の言葉に、「…私のことをよく知ってる夫もいたわ…」と燕は大いに眉を下げて言った。


「むっ!」と極はうなって、門の上にいるリナ・クーターに飛び乗った。


そして、空に向かって真っすぐに飛んだ。



リナ・クーターは大気圏を脱出して、右腕の手のひらを宇宙空間に向けた。


すると、巨大なハンマー星をかすめて、隕石が弾き飛ばされたように弾んで見えた。


半分ほどになった隕石はラステリアの重力圏から外れたが、リナ・クーターは閃光を放って、隕石を粉々にしたが、すぐさま結界を張った。


結界を張ったのは、粉々になった隕石の方だ。


リナ・クーターは調査物を回収して、しばらくハンマー星を見据えていた。


「…かなりの遠方からか…

 672番の情報」


極が言うと、その情報が流れ、確実にこのラステリアに向かって隕石を放った船団の存在を確認できた。


「ミラール星軍か…

 さて、どうするか…」


極が考えていると、『早いな』と緑竜が寄り添って言った。


「リナ・クーターの機能テスト」


『マリーンのやつ、眉を下げていたぞ』


緑竜の言葉に、極は陽気に笑った。


ここは緑竜と会議をして、この事実を知ったとだけ、ミラール星に伝えることにした。


その文面は、『こちらからも隕石を投げ返してやろうか』だけだった。


もちろん、誰が送ったのかはわからないように、文書でミラール星の中央作戦本部に直接投げ込んだのだ。


もちろん、ミラール星では大騒動となり、ミラール星の軍のトップは攻撃を仕掛けたすべての星を脅威に感じ、このプロジェクトから手を引くことに決めた。


「簡単に一件落着。

 怖いのなら、始めっからするな」


極は軽く怒ってから、緑竜とともにラステリアの大気圏に突入した。



「…どうして飛んだの?」


極が別荘に帰り着いてすぐに、ミカエルが聞いてきた。


「ミカエルさんは俺のただの友人です」と極が言うと、「…うう…」とミカエルはうなってから、懇願の目をマルカスに向けた。


「ここで話せることではありません。

 さらには、黙っていた方が得策ともいえますけど、

 世間話としてなら」


マルカスの言葉に、極と燕は愉快そうに笑った。


話を聞き終えたミカエルは、「…たった十数分で報復宣言まで…」とミカエルは言ってうなだれた。


軍ではどう考えてもできることではない。


よってさらに、タルタロス軍を認めないわけにはいかなくなった。


「証拠はないと思っていましたが、

 わずかな金属片を回収しました。

 この近隣にはないもので、

 現在調査中です」


極の言葉に、「…結果だけ聞かせてね…」とミカエルは極に懇願した。



極たちが食事をしていると、『リナ・クーター様が突然の出撃?!』ともうニュースになっていたことに、極は目を見開いた。


「航空管制塔から漏れたね」と極が言うと、「…きっとそうです… ごめんなさい…」とミカエルは肩をすぼめて物理的に小さな獣人になって謝った。


『さらに、リナ・クーター様が閃光を放たれました!』


アナウンサーが興奮して言うと、画像はかなり悪いが、光だけははっきりと見えた。


「…証拠には採用できないけどね…

 天体観測マニアがいたか…」


さらには同時期にハンマー星に巨大な隕石が激突したことが確認され、その破片がラステリアに迫っていたのではないかと、推測していた。


「はいはい正解正解」と極がめんどくさそうに言うと、燕は大いに笑い転げた。


『大神殿にあらせられたリナ・クーター様が、

 この星を守ってくださったのです!』


「いや、軌道は外れてたけど、念のために撃っただけ。

 ほかの星にぶつかっても迷惑だろうから」


極の解説に、誰もがこのニュースを大いに理解できていた。


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