プロローグ 1
ガラスの花瓶の内側で水に濡れて張り付いた葉っぱの様に、私の中のどこかに、なにかが張り付いたままだ。
花瓶の口が小さいから、手を入れて取ることも出来ないし、細い棒を差し込んでも、丸みを帯びた花瓶に張り付いた葉っぱには届かない。
もう、花瓶ごと割ってしまいたい。
それで、終わりに……。
それで、終わりになれば、いいのに……。
こんな結末で良かったのだろうか?
他にも、方法はあったはずだ。
でも、もう、時間は戻らない。
だから、これしか、なかったのだろう。
私の中には、なにかが張り付いたままなのだろう。
乾いた風が髪を揺らす。
砂漠の砂は、歩く度に靴の中に侵入してきたので、今は、裸足で歩いている。足の裏に感じる細かい粒子。まるで、体の穢れが一歩ずつ落ちている様に錯覚できる。錯覚だ。桶に入った水の中に足を浸すと、水は汚れてしまうだろう。それでも、今の私よりは、砂の方が綺麗だ。
満点の星空も、私を包んでくれている。
そんな風に感じるのは、自分が汚れている証拠だろう。
穢れているから浄化されるんだ。
自分だけは、騙せない。
自分だけは、許せない。
きっと、ガラスで出来ているんだ。
周囲には、誰もいない。
静寂と夜と私だけ。
それなのに、足跡を追っている。
風が消してしまいそうな足跡を、探している。
自分の歩幅を、その足跡に合わせる。
この歩幅を、私は知っている。
何度も、何度も、真似をしたから。
靴を脱いだのは、この足跡に近づきたかったのかもしれない。
この先に、あの人がいる。
あの人が、何度も、ここに来ている事は知っていた。
なんの為に、来ているのだろう?
とっても、寂しい場所だ。
私みたいに?
たくさんの砂も、たくさんの星も、私の孤独を際立たせる。
私だけが一人だ。
三日月の光は、孤独な私を照らしている。
川の流れが、岩を削る様に、夜の風が、私からなにかを、削り取っていく。
そうやって、私の体が砂になっていくのだろう。
だから、ここには、こんなにも砂があるのだろう。
きっと、この砂は、もともと、石だった。
人だった。
生きていた。
今はもう、ただの砂。
ごめんなさい。
ごめんなさい………。