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待ち合わせ時間まで後・・・

 迷わずたどり着いたその店は、門構えからして随分と洒落てるなとは思ったが。中に入ってみると予想以上に雰囲気がよかった。置いてある机や椅子は全て品がよく、それでいて堅すぎない。若者向けでありながら、落ち着いた壁紙。少し暗めの照明。聞こえて来るのは、耳にうるさくない程度の楽団の生演奏。奥はほぼ人目に付かないように遮蔽してあり個室に近い。王都とはいえ、こんな外れにこれほどの店があるとは。さすがは大国と素直に感心させられた。

 店内はまだ時間が早いこともあって席がチラホラと空いている。カウンター席が人気のようだが、そんな喧しい場所に用はない。俺は迷うことなく一番奥の人目に付かない場所に座り、彼女を待った。

 テーブルの上には、水が入った洒落たコップとこれまた洒落た水差し。そしてその横に・・・。

俺はそれをちらりとみやって、眉を寄せた。

テーブルの上には洒落たコップと洒落た水差し。そして今しがた俺が買ってきたばかりの赤い花。

あんなに昨日悩んだのに、結局なにも買えていなかったことについさっき気がついた。

もので釣ろうなんて勿論思っちゃいない。けれどなにかしら贈りたかった。喜ぶ顔が見たかった。

こんなことならとりあえずでもなにか買っておけばよかった、と後悔してももう遅い。

待ち合わせ時間まで後1時間と少し。充分時間があるようにも思うが、なにが起こるかわからない。土地勘のない俺が今から買いに行って、もし万が一アリアと行き違いになったら?

俺が来てないと思い込み、もしアリアが帰ってしまったら?

次があるなんて安易に考えられるはずがない。俺は次の約束なんて取り付けてはいないんだから。

仕方なく柄じゃないのは百も承知で、店から数件先にあった花屋で花を買うことにした。ピンク色でふわふわしてて。かわいらしい花を買おうとしたら店主にその花はダメだ、とダメ出しをされた。花言葉がどうとか、見栄えがどうとかありがたい助言を受けて。結局こうやって華美過ぎずそれでいて美しい花を買ってきたわけだが。こんな花一輪で喜んでくれるだろうか。やはり抱えきれないほどの花束を用意すればよかったか。

しかしいきなりそれでは余りに重いと店主に渋い顔をされたためこのたった一輪を購入してきたわけだが。

 ちらりと壁にかかった時計を確認する。待ち合わせ時間まで後40分。どのみち今からではどうすることもできない。

緊張で喉がカラカラだ。コップの水を一気の飲み干し、それでもまだ足りなくて水差しから注ぎ入れる。並々とついだ水をまた一気に流し込めばようやく一息ついた。

無意識に壁時計をみる。まだ一分も経っていない。

マジかよ、時間経つの遅すぎだろ。

 みっともないくらいそわそわと体を揺らし、時が過ぎるのをひたすら待つ。

 待ち合わせ時間まで後30分。しびれを切らした店員が注文を取りに来た。アリアが来てから注文しようと思っていたがある程度人気の品を何品か頼んでおいた方がスマートか。店員に若い女に人気の品を聞き、その中からアリアが好きそうなものを注文していく。6時に出来上がるように頼んでまた待った。

 待ち合わせ時間まで後15分。

早ければもう着いてもおかしくない時間だ。今にもあのドアが開いてアリアがやってくるかもしれない。

そう思うとじっと座っていられないほど心が舞い上がった。

まず最初に何会ったらなんと言おうか。久しぶり?いや、まだそこまでの時間は経っていない。元気だったか?これもおかしいか。よく来てくれた、か?確かに偽りのない気持ちだか上から目線の嫌な感じに取られるかもしれない。

ああ、頭がちっとも働かない。もっと気の利いた台詞はないのか。俺は彼女に会えると思うだけでこんなに舞い上がれるのに。

・・・・ああ、そうか、。【また会えて嬉しいよ】

これでいいのか。

よし、と心を決めたところでまた喉の渇きを感じた。我ながらどれほど緊張しているのか。

苦笑しつつコップの水を飲み干した。

 

 コチリ、と。時計の針が進む音がする。待ち合わせの時間まで後5分。そろそろ着てもいいはずだ。

体を乗り出して、入口を確認するもそれらしい姿は見えない。緊張で高鳴っていた胸にザワリと嫌な予感がはい上がる。まさか場所を間違えたか?そう思って、いや水月亭という名前の店はここしかないはずだと思い直す。では日にちを間違えた?しかしそれにもすぐに否定の言葉が投げ掛けられる。水の日、水月亭だとたしかに聞いた。3度も確認したんだ。そこは間違いない。では待ち合わせの時間?けれどそれも同様に3回確認した。間違っているとは思えない。

じゃあ・・・?

コチリ。また針が進んだ。待ち合わせの時間まで後3分。彼女はまだ来ない。あれほど浮かれきった心が、焦りと不安で塗り潰されていく。

なにか急用でもできたのか?それとも来る途中でなにかトラブルにでもあったのか?

けれど、俺にそれを確かめる術はない。連絡先もなにも知らないのだから。

コチリ。あれほど進みが遅いと感じたのに。俺の焦る心を嘲笑うように時計の針が進む。

待ち合わせの時間まで後1分。何度確認しても彼女の姿はない。

・・・まさか、忘れられた?それとも来るのが面倒になった?

顔から血の気が引いていく。誤魔化すようにそそぎ入れた水を一気に煽った。

そして・・・。

ボーンボーンと。

彼女の姿が見えないまま6時を知らせる低い鐘の音が店内に響き渡った。

 

 待ち合わせの時間まで後0分・・・・。














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