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懺悔

ほどなくして、海賊船から戻った俺は客船の反対側についているでかい船に眉を寄せた。掲げられている旗は、荘厳な鷹。その両脇を剣が固めるその紋章はユグレシアの国章だ。

客船の船長が助けを求めたのか。確かにここはもうユグレシアの海域に入っているが、それにしてもくるのが早すぎはしないだろうか。

頭の片隅でちらりとそんなことを思ったが、そんなことよりも俺にはもっともっと大事なことがあった。

イブは・・・。イブはどこだ?

あれから何もなかっただろうか?まさかとは思うが取り逃がした残党に怪我などさせられてないだろうな。

この一件で海賊をますます嫌いになっちまったかもしれない。嫌いになるな、なんて決して言えないが、それでも話だけでも聞いてくれたらいい、と思う。

ぐるぐると視線を向ける。隅っこの方で固まっているもの。怪我でもしたのか手当を受けているもの。

数人の姿は見えるが、イブの姿は見つけることができない。焦りと後悔で気が狂いそうだった。

やはりなにがあっても側を離れるべきではなかった。

そう思って、視線をユグレシアの艦隊に向けたとき。

両脇をがっちりと固められ、保護されるようにユグレシアの船に乗り込もうとしているイブの姿が見えた。

「イブ!!!」

気がつけば声を張り上げていた。持てるすべてを込めて、何度も声を上げる。

待ってくれ、このまま別れたんじゃ二度と会えなくなる!せめてもう一度、こっちを向いてくれ!!

「イブ!!」

喉が潰れるのも構わず叫んだ。

その声に。反応したようにイブが立ち止まり、こちらを振り返った。キョロキョロと誰かを探すようにその顔が左右に揺れる。

俺を探してくれている。

混み上がる愛しさと焦燥感に、俺はもう一度声を張り上げた。

「イブ、ここだ!!」

イブの頭が揺れ、そうしてその視線は俺に固定された。目が合った。嬉しそうにその顔がゆっくりと綻んでいく。

「ノア!!」

イブは答えるように手を振って。そうして左右を固めていた男たちをふりきって俺のもとまでかけて来てくれた。

「イブ!!」

無事でよかったと笑ってくれたイブに、「お前も」と笑みを返す。そうして、イブ、といつものように呼びかかけたところでイブの様子が明らかに変わった。輝くような笑みはみるみる萎んで行き、視線がゆっくりと落ちていく。

「ごめんなさい」

「・・・・・・・・は?」

え、なにが? 何だよ急に? 謝られるようなことなんてなにもされていない。

けれどイブは混乱する俺を置き去りにして、申し訳なさそうに眉を寄せ、肩を落としている。

「ごめんなさいノア。 僕本当は・・・・」

そこでイブは一度言葉を切った。余りに神妙なその様子に、よほどのことを告げられるのだと直感的に悟った。嫌な予感に手足が異常に冷えていく。俺の体は無意識に強張った。衝撃に備えるように力を入れ、唇を噛み締める。

イブがゆっくりと顔を上げる。そうして覚悟を決めたように一度唇を引き絞り。そうして俺の眼をまっすぐに見つめながら、懺悔しはじめた。

「ごめんなさい。本当は僕、イブ、なんて名前じゃない」

何十もの自体を想定した。ああいわれたらこう言おう。こう告げられたらこう返そう、と。少しでも衝撃を弱めるためにあの短時間で良くここまでと自分でもあきれるほど考えたけれど。告げられた言葉はそのどれにも当てはまりはしなかった。けれど、想定したよりもずっと大きな衝撃をもって俺に襲い掛かった。

「・・・・・・・は?」

そんなつもりはなかったのに。自然と声に険がのる。いつもより数段低いその声に、イブの・・・。

いや、イブじゃない誰かの体が目に見えて震えた。

それを見て、フォローをしないといけないと思うのに、衝撃にまだ頭が、心が立ち直れない。

だって俺は、じゃあ今まで誰と話していたんだ?

何度も呼びかけ、何度も呼びかけられた。あれは一体誰だったんだ?俺は今まで誰と一緒にいたんだ?

名前すら教える価値がない。俺はそんな存在でしかないのか。

「ごめんなさい。騒ぎになるといけないから名前は言っちゃダメだと言われていて・・・」

泣きそうな声が耳を素通りしていく。

騙された怒りよりも、名前すら教えてもらえない、そんなちっぽけな自分の存在が悲しくて仕方がなかった。自然と視線は下へ下へと下がっていく。引っ張られるように心もどんどんと下に沈み込んでいった。

「本当の名前は・・・。アリア。僕の名前はアリア。ノアにだけ、そう呼んでほしい」

まだ申し訳なさそうにしながらも、イブは、いやアリアはもう一度俺に名乗りをあげた。

正直俺はまだ衝撃から立ち直れていなくて。その時の彼女の意を決したような顔も。照れたように微笑んだその表情の意味も全く考えることができなかった。

 ただそれでも。俺にだけ。そういって笑ってくれたその事実だけはうれしくて。俺はこんなことで一喜一憂できる人間だったのか、と初めて知った。




・・・・・・もし俺がもっと聡かったなら。

 ・・・・・・もっと俺が彼女をきちんと見れていなのなら。

俺達の未来は違うものになったのだろうか・・・アリア・・・。





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