燃え上がる正義感
「そいつに近づくんじゃねぇよ!!」
自分が思っているより数倍低くて威圧に満ちた声が出た。感情に名前がついてしまえばもう自制など全く効かなかった。今すぐに、イブの前から卑下たこいつらを消し去ってやりたかった。
声に気がついて振り向いたそいつの腰から曲刀を奪い取り、柄頭を相手の溝落ちに叩き込む。うぐっとつまった悲鳴を上げて、あっという間に一人が床に沈んだ。慌てたようにやっと振り返った後の二人も、剣背をつかって叩き落とす。しばらくはこれで受けないだろうと判断し、俺は視線をイブへと向けた。
「大丈夫か、イブ?」
俺の声に、明らかにほっとしたような表情を浮かべたイブが愛しくてたまらない。
怖かっただろうに、そんなこと微塵も感じさせないほど気丈にしているのを見ると、どろどろに甘やかしたくなる。けれど俺にそんな資格があるはずもない。無意識に上がってしまった手を無理矢理押さえ込み、俺は安心させるためにつとめて柔らかく微笑んだ。
「ノアはすごく強いんだね?」
あっという間だったね、と眼をキラキラさせてくるイブの姿に。熱が頬に集まってくるのを感じる。
やばい、顔がにやけて止まらない。
「まあな」とそっけなくつぶやいて、だらし無く緩んでいるであろう顔をせめて見られないようにそっぽを向く。
その視線の端で、イブが倒れ込んでいる海賊達の腰元をごそごそと漁りはじめたのが見えた。
これはまさか・・・?
何をしているのか思い至ったと同時に、イブの決意に満ちた声が耳を打った。
そうして俺は、イブが思っていた以上にお人よしで無鉄砲なのを知った。
「他の人も助けに行かなきゃ!」
己を奮い立たせるようにそう一言つぶやいて。やっと探り当てた曲刀を手にしてわずかに嫌そうに眉を寄せたその姿に。俺は度肝を抜かれた。
いやいや待て待て待て。そりゃ無理だろう。
けれど大人しく部屋で隠れていろと言ったところで聞くような性格ではないことは短い付き合いの俺でも十分承知している。彼女は儚げで穏やかな見かけにも関わらず、中身は相当な頑固者だ。こうと決めたところは絶対に引かない。そして妙に正義感が強い。だからこそ余計に俺は自分の出自を伝えられずにいたんだ。
「俺が行くからお前はまってろ!」
使えもしない剣を振り回して大事な体に傷でも作られたら大変だ。ましてや彼女が賊共の眼に晒されるだけでももう我慢ならない。
自分も同じ賊なのにな・・・。
そう思うと少し寂しくもあり、自嘲が漏れた。
割と大きな海賊団だったが問題になるはずもない。俺は乗り込んできた海賊共を薙ぎ倒し、さらに向こうの船に乗り込んで奴らの頭を縛り上げた。海賊旗を外し、奴らの目の前で焼いてやる。誇りとも言える旗を焼かれるのがどれほどに屈辱かわかっててやっているんだから俺は相当に性格が悪いと思う。




