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海の奇跡~海賊の俺とお姫様だった彼女との250日~  作者: テテン
海の奇跡 アリア
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初恋の君へ

 歩くこともままならない僕を、部屋の前でずっと待ていてくれたレオが抱き抱えてくれた。

いったい何時間待っていてくれたのか。

「ごめんね、レオ・・・」

「謝らないでください、姉上。あなたはなにも悪くない」

だけどずっとこうして待っていてくれた。今日も仕事がたくさんたまってるでしょう?ごめんね、こんなお姉ちゃんで・・。

思いつくままに謝罪の言葉を述べれば、レオはくしゃりと顔を歪めた。

「姉上・・・。姉上、大好きです、姉上・・・」

顔を伏せ、震える声で何度も大好きだと告げてくれる最愛の弟の頭を。

僕は数年ぶりに優しく撫でさせてもらった。


 宿の真ん前につけられた馬車で、城へと帰る。

城の門前には両親が迎えにでてくれてた。大丈夫かと青ざめた顔で僕に駆け寄ってくれた両親に。今まで勝手をして申し訳なかったこと。これからは療養に全力を尽くすことを約束した。だって、もうあの店に行く必要がないから。

 部屋にもどって、なにか欲しいものはないかと問い掛けてくる母に、図鑑を持ってきてほしいと頼んだ。

花の図鑑だ。

お母様はなにかいいたげな顔を一瞬僕に向けたけど。結局なにも聞かずにいてくれた。そしてすぐに花の図鑑を数冊揃えて、自ら届けてくれた。

 けだるい体を励まし、図鑑のページをめくる。部屋には今僕一人だけ。そう頼んだから。

パラパラとページがめくれる音だけが静かな室内に響き渡る。

 ノアは一輪づつ花を贈ってくれた。毎回頬をほんの少し赤く染めて。恥ずかしそうに視線をうろつかせて。でも最期には僕の反応を見るようにじっと見つめてた。

赤やピンク、紫。綺麗に咲き誇る美しい花。僕は毎週それを笑って受けとった。

その花の奥に、言えない言葉が込められているなんて思いもしなかった。

・・・なんて愚かで無知だったんだろう・・・。

 アネモネ、チューリップ、ハナミズキ、ヒヤシンス、リナリア、桔梗。他にもたくさん。

僕は毎回花を受けとった。受け取っただけでなにも気付かず、なにも返さなかった。

君を愛してる、愛の告白、私の想いを受けてください、変わらぬ愛、この恋に気がついて、永遠の愛。

ノアからもらった花は全てが僕に【愛している】と。【この想いに気がついて】と。

慎ましくも強く僕に告げるものばかりだった。

偶然なんかじゃない。

ノアはそういう花を自ら選び、花言葉にいえない想いを乗せて。そして毎週僕に贈ってくれていた。

ようやくそのことに気がついて。

自分のばかさ加減と、そしてノアの想いをようやく知れたことがうれしくて。

僕は声を上げて何時間も泣いた。



 泣いて泣いて泣きすぎて。

声もかれ、涙もでなくなった頃。

僕は唐突に思い立った。

そうだ、手紙を書かなければ・・・。

例え届かなくても、捨てるだけのものであっても。

せめて言えなかった言葉を書きたい。

 かけてあった毛布を退け、足をベットから下ろした。ブルブルと震えて役に立たない痩せこけた足を励まし、杖を使ってなんとか机までの数歩を歩く。激しい目眩と息切れに、たった数歩の距離が果てしなく遠い。何度もこけそうになり、そのたびになんとか持ちこたえて。僕はそこにたどり着いた。椅子を両手で引きだし、ドサリと重い体をそこに埋める。自分の早すぎる呼吸音に、ヒュウと喉でなる嫌な音が聞こえ、背筋がヒヤリとする。けれど、僕は構わず机の引き出しを開けた。

グラグラと揺れる視界を必死で励まし、数ある便箋の中から最上のものを選んでいく。

ピンク、赤、白。どれもピンと来ない。

最高のものがいい。今までのようなどうでもいい内容じゃない。わがままかもしれないけど、僕の今の気持ちを受け止めてくれる最高の便箋がいい。そう思い、再度便箋の山に目を向ける。

ちらりと、その色が見えた。

瞬間、ドクリと心臓が高鳴りをみせた。

取り出したのは、綺麗な空色の便箋。四隅にきれいな装飾を施された、繊細で堂々とした美しさのある便箋。これだ、これがいい。

胸はドキドキと高鳴り、書き残したい気持ちが次々とあふれてくる。

さっそくペンをとり、インクをつけた。そうして僕は、胸にある気持ちをそこに書き綴る。

ノアへ・・・。

いつものように最初の行にそう書こうとして、やめた。


【 初恋の君へ

ノア、今どこを旅していますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】



そうして僕は、胸にあった大事なその気持ちを。

一度として言えなかったその気持ちを。

その手紙に書き残した。


 【ノア・・・大好き。幸せになってね】


これで巻き戻し編は完結になります。


ありがとうございました。

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