君に会いたい
ここから加速度的にアリアさんは落ちていきます。
全身を絶え間無く駆け巡る激痛に、僕はたまらず目を開けた。膜が貼ったようによく聞き取れない耳が、それでもバタバタと忙しなく走り回る周りの喧騒を伝えてくる。目は開いているはずなのに、ひどく辺りが薄ぐらい。もしかしたら夜中なのかと思ったが、そうではないことは本能的に気がついていた。
なにが起こったのかわからない。ただ全身を襲う痛みと、燃え上がるような体の熱。そしてじっとりとまとわりつく衣服の不快感だけが鮮明に感じられた。
よく聞き取れない言葉と共に、得体のしれない苦いものを口の中に押し込まれ、飲むように強要される。そのまま数分経過し、効果がないところを見るとまた別の何かを口の中に押し込まれた。
ただただ辛く苦しかった。
僕はこの日、死を一番間近に感じ、その恐ろしさに震え上がった。
それから何日たったのか。ようやく僕の意識がはっきりしてきて、周りの状況も把握できるようになった。きっと僕はまた倒れたのだ。それも、今までとは比べものにならないほど症状が重く、高熱で死にかけた。
それをなんとか医師と薬師が救ってくれた。多分、概要はそんなところだろうと理解できた。
次の日。随分と症状が落ち着き体を起こせるようになった僕のところに、両親が連れだって見舞いにきてくれた。けれど、ただの見舞いじゃないな、と。訪れた二人の顔つきを見て、僕は一瞬でそれを悟った。そうしてそれは、正しかった。
お前の心臓には呪いがかかっている
何度も口を開きかけては閉じ。言いにくそうに、苦しそうに眉を寄せて。それでも意を決して告げられた言葉は、どこか遠いところの話のようだった。僕とは別の、違う誰かの話をしているようなそんな感覚。
多分僕は認めたくなかった。今しがた死を間近に感じてしまったからこそ。その恐怖を本能的に遠ざけた。
けれど、どれほど否定し抵抗してみせたところで、それは間違いなく僕の話だった。
後数ヶ月で、呪いは完了してしまう。
涙を流しながら、父が、母が、その事実を語ってくれる。呪いの完了。それは正しく僕の死を意味する。
・・・僕が・・・死ぬ・・・?
「僕、死ぬの・・・・・? ・・後たった数か月で・・・?」
冗談やめてよ、そう続けるつもりだった僕の言葉は泣き崩れる母の姿に。悔しそうに顔を歪める父の姿に行き場を失った。
・・・・・僕、死ぬの・・・?
急に現実を帯びてきたその言葉に、それでも頭は否定を繰り返した。
・・・・違う、そうじゃない、これは僕の話じゃない。
では、目の前で目が溶けるほど泣いている両親はいったいなんなのか?
全身をいまだに襲うこの痛みと息苦しさはなんなのか?
いつまでも治らない、それどころか悪化の一途をたどる、この明らかな体調の悪さはなんなのか?
・・・・・・・・・・死!?
本当は気づいていた。明らかにおかしいと思っていた。でも、そうじゃないんだと思いたかった。
誰かに「違うよ、大丈夫だよ」と言ってほしかった。
でも、伝えられたのは欲しかった言葉とは真逆の言葉。
僕はもうすぐ死ぬ・・・。
鈍い頭がようやく理解したところで、僕は大声を上げて泣き崩れた。
水の曜日。いつもの約束の日。
数週間前までは幸せの絶頂だった。大好きな人に会うために、服を選び、なれないお化粧に励み。髪型はどうしようかと悩んで。でも何度挑戦してもうまく結えなくて結局一つ結びにして。鏡で自分の格好を確認して、そうして意気揚々とでかけた。ノアはいつもあの席で待っていてくれて、そうして僕を見つけては嬉しそうに笑ってくれた。それがひどく昔のことのように思えた。
・・・・・・・・会いたい・・・・。
・・・・・ノアに会いたい・・・。
そのたった一つの思いに突き動かされるように。僕は城から飛び出した。みんなが心配する、とか。何かメモを残して、とか。そんなこと全く頭に思い浮かばなかった。ただただノアに会いたかった。




