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海賊あらわる

航海は順調だった。もっと遅れてしまえばよかったのに。天候と風に恵まれ、予定よりもずっと早く着きそうだった。その事実に俺は焦っていた。今日こそはもう少し踏み込んだ話をしよう、と覚悟を決めた。

ユグレシアに着いたらなにをするのか。家はどこなのか。また、会えるのか。

もちろん聞けば聞き返されるだろうし、答えてもらおうと思えば自分も質問に答えないわけにはいかない。けれど、それでも俺は彼女をこのまま手放すつもりはなかった

いつもの黒いコートに袖を通す。よし、と気合いを入れ直したとところで、船が大きく傾いた。揺れになれている俺はふらつくほどでもなかったが、それでもこの穏やかな気候であれほどの船が傾くなど異常だった。

ざわっと嫌な予感が背筋を過ぎった。心臓が早撃ちをしはじめたと同時に、俺はドアを開け放ち甲板にでた。

 大きな船が隣につけている。そこに掲げられているのは見慣れた髑髏のマーク。自分の船のものとはもちろん違う、けれど同じ意味を持つそれに俺の心は急速に冷えていく。

海賊船だと? よりにもよって何で今日なんだよ!

ロープを投げ入れられ、橋まですでに渡されている。そこから何人もの下品な笑みを浮かべた男たちが曲刀を片手に乗り込んで来ている。

・・・・ふっざけんなよ!!

イブが乗っているこの船に。海賊だと打ち明けようと決めたその日に。別の海賊が襲ってくるなんて。なんの嫌がらせだよ。

自然と噛み締めた歯が、ぎりり軋む音がした。

「そうだ、イブは!?」

もしや自分を待って、もうすでに部屋を出ているのではないだろうか?あんな低俗な輩に見つかってしまえばどれほどの仕打ちを受けることか。

無事で。頼むから無事でいてくれ!!

心の底から願いつつ、俺はイブが待つその場所へと急いだ。

「見て・・・よ・・。こん・・・ころに上・・・が・・るぜ?」

とぎれとぎれに聞こえるその声に俺の背筋が冷たく凍る。

待ってくれ、無事でいてくれ。

はやる気持ちを必死で押さえて、曲がり角をまがったところで、イブが三人の男に囲まれているのが見えた。値踏みするように彼女の体を眺めては、ニヤニヤと嫌いやらしい笑みを浮かべる男たち。その視線の先で、気丈にも震えることなく、怯えさえも一切みせずに。まっすぐに背筋を伸ばしその視線を受けきっているイブの姿が見えた。

混み上がってくきた強烈な愛おしさに頭がどうにかなるのではないかと思った。

ああ、そうか、と。そこでようやく、馬鹿で鈍い俺は自分のこの感情の名を知った。

俺は、一目あったあの日からどうしようもないほどに彼女に惚れていたのか。



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