それでも信じていたい
目の前には海賊旗を掲げた船。僕の任務はその海賊団の討伐、もしくは捕縛。
・・・・ああ、自分の仕事をしないと・・・。
船首に立っているのは黒髪の海賊、この海賊団の頭領。纏っている空気が他の人と明らかに違う。射抜くような鋭い目つき。固い表情、全身を包む強者の覇気。今まで僕が見てきたクツクツと楽しそうに喉を鳴らして笑う、あのノアとはまるで違う。その姿はどこからどうみても、この大海賊団の頭領だった。
では僕が見てきたものは・・・・?
僕が今まで見てきたノアはなんだったのか・・・。
「その船団。そのトップに一騎打ちを申し込む」
ざわっと、僕の周りが騒ぎ出す。ここで、海賊の掟を持ち出すのか、とか。往生際がわるい、とか。
そんな囁きが聞こえてくる。
僕もちらっときいたことがある。海賊間の暗黙のルール。仲間を助けるためだけに船長が命を張る賭け事。
周りは武装船に取り囲まれ、退路も断たれてる。万に一つも逃げ道はないだろう。誰もがそれを理解し、あきらめ、絶望するような状況で。なのに、そんな状況でさえ彼は背中を丸めずまっすぐに立っている。無様に命ごいなどせず、媚びず、それでも仲間の命だけは助けようと模索する生き様はどこまでも格好よく胸がすっとするほど潔かった。
・・・・・・・・・信じてみたい。
そう思った。僕が見てきたもの、感じてきたものは、決して偽りなんかじゃない、と。
あれこそがノアの本質なのだ、と。
「わかりました」
言った瞬間、また周囲がざわめいた。海賊の賭け事を受け入れた僕に、あちこちから制止の言葉が飛び交う。
どうしても相手をするなら自分がする、とグレンや軍の将軍、護衛達が次々声を上げるけれど、僕はそれを手を挙げて黙らせた。わがままを許してほしい。ここは僕が相手をする。そうすれば少しでも話ができるはずだ。
体をずらしててノアを迎え入れるための空間を作る。
「わたしがこの船団のトップです」
高らかに宣言する。ノアに、じゃない。僕が従える3隻の武装船に対して。この船団のトップは僕だ、と。なにが起きても僕の判断に従ってもらう、と。そう圧を込めて宣言する。
「なりません、エリーシア様!!」
一際大きな制止の声がかかる。グレンだ。しかし僕はそれさえ無言で押さえ込んだ。
僕が相手をすることに驚いたのか。ノアの顔色が変わる。見開かれた瞳は食い入るように僕の顔をじっとみて。やがてその瞳に浮かぶ感情がゆっくりと変わっていくのがわかった。驚きから、疑心へ。そうして間をおかずに深い苛立ちと憎しみへ。深く強く燃え上がる。
ノアの全身から僕にむけて。無数の針のような圧が飛んで来る。むきだしの敵意。
僕がノアに、憎しみの対象として認識された瞬間、だった。
ノアが船縁に足をかけて蹴り上げた。まるで重さを感じさせないノアのしなやかな体が、音も立てずに僕の船へと降り立つ。そしてそのまま一気に距離を詰めてくる。ギラリと冷たい輝きを放つ刀が腰元から引き抜かれ、迷うことない綺麗な太刀筋で僕に向かってくる。牽制とか脅しじゃない。日の光を浴びて、鈍く光るそれは間違いなく命を刈り取る為に繰り出されたもの。その事実に僕の心が悲鳴を上げる。目をそらしたい。反応できない。
けれど、長年培った経験とはたいしたもので。現実を受けいれない心とは裏腹に。体は無意識に腰から剣を引き抜き、その刀を弾き返していた。カーンと、一際高い金属音が僕とノアの間に響き渡る。
流れるような連続攻撃。一切無駄のない美しい太刀筋を打ち返しながら。相手をしたのが僕でよかったと心底思った。自惚れなんかじゃなく、事実として。相手をしたのが違う誰かなら、まず初撃を受け止め切れずに最悪死んでいたかもしれない。その次の攻撃も。そこから繰り出される桁違いに手数の多いこの攻撃も。さばききれずに、多大な被害を受けていただろう。それほどにノアは強かった。
「待って、ノア。ちょっと話がしたいの」
絶え間無く襲ってくる太刀をなんとか交わしながら、説得を試みる。けれどその目は燃え上がるような憎しみだけが宿っていて、僕の声に耳を貸してくれない。
「うるせぇ、俺には話すことなんかねぇよ、嘘つきなエリーシア様?」
返ってくるのは蔑みの言葉。向けられるのは氷のような冷たい笑み。そして僕を切り裂こうとする白刃。
もうやめて、と僕の心が叫び声をあげる。あらゆる角度から攻め込まれる刀を受ける度に、その重さに体が奮え、憎しみのこもった言葉たちは刃となって心に突き刺さる。
けれど、僕個人のことなんかどうでもいい。ノアから必要な情報を何一つとして引き出せていないことに僕は焦っていた。僕の後ろ。僕の命で仕方なく事態を見守っている国の兵士達が今にも手を出してきそうだ。
一騎打ちを僕が受けたにもかかわらず、わって入ろうと剣柄に手をかけている。もし兵士達が参戦すれば、どれほどノアが強くても数の暴力の前にはなすすべがない。そうなれば、船長を助けようと、ノアの仲間たちも乗り込んでくるだろう。それではダメだ。
繰り出された刀を弾き返し、一気に踏み込んだ。間合いに入ったと同時に剣を持ち替え、剣背でノアの胴体を狙う。一度無力化してからでないと、きっと話はできない。タイミングは完璧。あの体制ではふせぎようがない。
とった。そう思った。なのに、カーンと高い金属音がして、僕の剣は見事に弾き返された。
「・・・・・・・・・っ!」
まさか止められるとは思っていなかった。完全にノアの強さを見誤った。これほど強いとは思っていなかった。
焦りが心のなかを支配していく。なんとか早くノアを説得して、話をしないと。
ノアが一歩後退し、僕から距離をとった。そうして睨むように僕を見据えたまま、腰からもう1本の刀を引き抜いた。
二刀?まだ手数が増えるの?
攻撃の手はなおも緩まない。じりじりと体力が削られていく。呼吸が苦しい。心臓が、いたい・・・。
剣を持つ剣がぶるぶると奮え、足に力が入らなくなる。それでも僕はノアの憎しみのこもった刀を受け、ノアを説得するために言葉をかけ続けた。
ノア視点では余裕そうにみえて、実はアリアさんも相当追い詰められてました。
お互い戦いなれているので、勿論弱みは一切見せないようにしてます。
なので、お互い相手は余裕だと思っています。
読んでくださった方、感謝します。




