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海の奇跡~海賊の俺とお姫様だった彼女との250日~  作者: テテン
海の奇跡 アリア
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あきらめきれない思い

 その人に最初にあったのは聖地と呼ばれる場所。そのオシャレなカフェだった。久しぶりにあった双子のエマとミアに今まで僕が一度も行ったことがないようなおしゃれなカフェに連れていってもらった。新しいものが好きで趣味もいいエマが一推しするだけあってすごくかわいいお店だった。

 案内されたのはテラス席。気持ちのいいそよ風に吹かれながら、三人でたわいのない話を繰り返した。話題は、エマの勉強の話。後は街にいる少し気の合わない男性の話。だけど多分、エマのは本当に気が合わないんじゃなくて、ケンカするほどてってやつだと思う。まあ、本人にいったらしこたま怒られたけど。

ミアはいつものようにスイーツの話。特に新作のスイーツの話で盛り上がった。

そして後はやっぱり恋話。ミアは恋話が大好きだから、会うとかならずこの話題になる。天使のように穏やかないい笑顔で「いい人は見つかりましたか?」と。まるで親戚のおばちゃんのようなことを聞いてくる。あいにくとその手の話には全くといっていいほど縁のない僕は、毎回曖昧な笑みを浮かべて話をそらし、聞き役に徹する。意外とそういう話が好きなエマには毎回渋い顔をされるけど、こればっかりは出会いがないから仕方がない。

「いや、みつからない」そう言おうとして。しかし「また?」という呆れたような視線を向けてくるエマがなんとなく怖くて。逃げるように視線をうろつかせた。

丁度その時、来店を告げる鐘がなった。

カランと高く響く音。何気なくそちらに目をやった僕は。一瞬で虜になった。

日の光をいっぱいに浴びて艶やかに輝く黒い髪。ニシャリとやや好戦的な曲線を描く口元。触れば切れそうな程鋭い切れ長の瞳。雪のように白くすべらかな肌に、対照的な黒いコート。一緒にいるのは友達だろうか?随分と歳のはなれた男の人たちと連れだって入ってきたその男性。あきれ顔で、一緒にいる少しだけふくよかな男の人のお腹を軽く叩いて、楽しげに笑っている。笑うと、刃物のように鋭い目が、ふわりと柔らかくなる。目元によったシワまでくっきり見えて、そのあまりのかわいさにキュンと胸がしまった。

ドクンと心臓は一際大きくなり、そのままありえない速さと強さで打ちつづける。わけもなく顔に熱が集まってきて暑いくらいだ。息をするのも忘れてその姿に魅入られて・・・。

「ちょっと、聞いてるの、エリー?」 

不機嫌そうなその声に、僕はハッと我に返った。苦労して視線を彼から外し、目の前の友人に向き直る。僕の顔は赤いまま。ちょっとにやけていたかもしれない。そんな僕のあまりにひどい顔つきを見て、それはそれは不機嫌そうにこちらを睨んでいたエマが少しだけ驚いたように目を見開いた後。僕の視線を追うように店の入口に目を向けて。そうして、全てを察したようにゆっくりと口の端を押し上げて笑った。

「あら、ああいうのがタイプなの?」

「ち、ちが・・・!」

反射的に恥ずかしさのあまり否定して見たけど。エマの言う通りだった。


僕は一目で彼に恋をした。


 その後のことはぼんやりとしていて良く覚えていない。ただ「話を聞いているのか」と何度もエマに叱られたこと。「そんなに気になるなら声をかけてきなさいよ」と促されたこと。明らかに気にしている癖に一つも行動にうつそうとしない僕に焦れて「なんなら私が声をかけてきてあげるわ」というエマを必死で止めたのは覚えてる。初対面でいきなり声をかけるなんてそんな度胸僕にはなかった。「あんたいつも、その辺の人に気軽に声かけてるじゃない。そのコミュ力を今発揮しないでいつ発揮するのよ」と呆れられたけど。それとこれとは話が違うんだよ。彼の前に立つことすら恥ずかしくてできそうにないんだ。でもこのまま終わりたくない。そわそわと体を揺らし、でもやっぱり恥ずかしくてそちらに顔を向けることもできず。ただ時間だけを持てまして。ギリギリまでエマもミアも背中を押してくれたけど僕は結局勇気を出せず、彼に声をかけることはおろか、その姿をもう一度見ることすらできなかった。

・・・僕の馬鹿・・・。

 泊めてもらっているエマとミアの家に着いてから。そう何度自分に向かって毒づいただろう。どうしてあの時ほんの少しでもいいから勇気を出せなかったのか。もう会うこともできないのに・・・。

 

 次の日から僕は、エマとミアに付き添われて聖地の一番奥。霊峰の一番高い場所にある神殿に向かった。

ありがたいことに、一ヶ月ほど前に僕は世界で6人目となる【剣聖】の称号を天から授かった。その報告を神殿にしに行くのだ。聖地の民は神殿に向かう人の案内人になっているから、エマとミアにそれをお願いした。【剣聖】を案内するのは街一番の誉らしく二人は喜んでその役を引き受けてくれた。

神殿へと続く道のりは以外と厳しい。ふもとには数は少ないが魔物の姿も見られた。

 襲ってくる魔物を僕が切り捨て、三人で力を合わせて山をのぼる。上に上がればあがるほど神聖な空気が立ち込め魔物の姿もいつしか見えなくなった。

 三週間の滞在により、必要な手続きと報告を済ませた。行きのピリピリした空気とは違い和やかな雰囲気の中山を下る。下る途中で僕は心の中で密かに決意を固めていた。街に戻ったら彼を探してみよう。とても目立つ風貌をしていたから探せば意外に簡単にみつかるかもしれない。そうしたら、今度こそ勇気を出して話しかけてみよう。

 けれど、話はそんなに都合よく進まない。恥を忍んで、エマとミアに頼み込み一緒に探してもらったにも関わらず、彼の足取りは一向に掴めない。

「街の人間じゃない可能性が高いわね」

エマが言いにくそうに眉を寄せて僕にいう。街の人間全員を把握しているわけでは勿論ないが、あれほど目立つ容姿をしていれば噂になっているはずだ、と。この街に済すむエマとミアが今まで一度もそんな噂を聞かなかったなら、街の外からきた人間、ということになる。

認めたくないけれど、それは僕も同意見だった。心が暗いところに落ちていく。それではもう彼に会うことはできないのだ、という結論に思い至り。何故あの時、と後悔だけが押し寄せた。

 

 国に帰らなければいけない日が近づいてる。母国には船を使わなければいけない。その日にちを逆算するなら、今日。遅くても明日にはパラアイルの港をでないと間に合わない。そうしてパラアイルにはここから馬で半日ほどかかる。つまりもう出発しないと到底間に合わない。それでも僕は未練がましく彼を探し回った。

日が傾いて、その日もとっぷりくれて、辺りが真っ暗になったとき。ようやく僕は自分の心に句切をつけた。

嫌だと、拒否しつづける心を無理矢理押さえ込んで。笑顔でエマとミアに別れを告げる。こっちでも引き続き探してみる、という二人の言葉に泣きたいほどの感謝を込めてお礼をいって。そうして僕は馬に乗りパラアイルの港へと向かった。

 港についたのは出港ギリギリの時間だった。明かり一つない真っ暗な道を馬で駆け抜けるんだ。いつもより時間がかかるという事実を僕は見落としていた。桟橋はすでに取り除かれ見送る人も一歩後ろに下がっている。本当にもう出港間近だ。

側にいた船員さんを無理矢理捕まえてチケットを見せた。もう遅いと渋る船員さんに頭を下げていかに自分がこの船に乗りたいかを熱く語った。遅れたのは自分。わかっているけどこれに乗らないと間に合わない。非常識にも一歩も引こうとしない僕に、船員は根負けしてくれて。面倒臭そうにもう一度桟橋をかけてくれ、はやく入れと僕の背中を軽く押した。

 案内された船室は随分と広い個室だった。多分国が用意してくれたチケットがそういうものだったのだろう。けれどこんな広い部屋で一人でいるのはどうにも落ち着かない。基本僕は一人でいるのが苦手だ。本でも読もうかと思ったけど、せっかく海にでたんだし外の景色でもみようかと甲板にでた。まだ出港したばかりでみんな部屋にいるのか、人が少ない。手近な船縁に軽く体重を預け、海を眺めた。船に乗るのは勿論初めてじゃない。けれど毎回その雄大さと美しさに感動する。海は繋がってるはずなのにどうして色が違うんだろう。波もここは寒いところだからか荒い気がする。臭いもほんの少し違う。

「クア」

鳴き声がすぐ近くで聞こえ顔を上げた。すると数羽の海鳥が船と並行するように飛んでいる。何度も船にのったけど、こんなふうに船と一緒に飛ぶ鳥を見るのは初めてだった。


「・・・船は初めてか・・・・?」


探るような、それでいて優しい声が聞こえたのはそのすぐ後だった。


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