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イヴという彼女

イブはころころとよく笑う女だった。最初こそ俺を見て警戒するように身を強張らせていたが、言葉を交わすごとにその緊張も溶けて消えた。人懐っこく俺のたわいのない話で声をあげて笑う。白い歯を見せて口角を思い切りあげて。もっと笑った顔が見たい。彼女の気に入りそうな、彼女の興味を引きそうな話題を選んで身振り手振りを交えて大袈裟に話して聞かせた。

ノア、と。彼女のかわいい唇が俺の名を呼ぶたびに心が跳ねた。今までただの記号に過すぎなかったそれが、彼女に呼ばれたことで、大事な俺だけの名になった。腹の底から今まで感じたことのない多幸感を感じる。

時々胸を締め付けるこの感情の意味さえ考えるひまもなく、俺は夢中で彼女と話した。少しでも長く俺の方を見ていてほしかった。時々他の船客が彼女と話したそうに視線を投げかけていたのに気がついていたが。それを遮るように俺は彼女を独占した。誰にも渡したくなかった。だから彼女のお腹がぐぅうっとかわいらしく空腹を知らせ、それにばつが悪そうに恥ずかしそうに彼女が笑ったのを見て少しだけ反省した。一体何時間ここで話続けていたのか。

一緒に飯でもどうか、と誘うと彼女は二つ返事で了承してくれた。

 夜までいろいろなことを話した。けれど俺は、自分の今までの生い立ちと、そして彼女の生い立ちについてはどうしても尋ねることができなかった。正直にいって怖かった。海賊としての誇りはもちろんあるが、貴族のでであろう彼女がそれを知って、俺のみる眼が変わるのが堪えられなかった。

 ユグレシアまでの航海は順調にいって10か日程。その間俺達は同じ場所で待ち合わせ話をした。時々先に待っていた彼女におかしな虫がついていて。それにすら楽しげに彼女が対応しているのをみては馬鹿みたいに妬いた。他の男と楽しそうにしゃべんな、と喉元までそんな自分勝手な台詞がでてきたが、そんな権限が俺にあるわけもなく。そのたびに口をつぐんだ。それでも俺を見つけた彼女が「ノア」と嬉しそうに目元を緩ませて笑ってくれたから。俺の心は少しだけ優越感に震えた。

何度も見惚れた。何度も綺麗だと思った。仕種の一つ一つがいちいち美しい。そのたびに俺の心は揺さぶられた。手に入れたいと、魂が訴えかけた。こんなに強烈に何かに惹かれたのは初めてだった。

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