そしてもう一度
願った時間願った場所に俺はかえってきた。
目が覚めたのは、懐かしい自分の船の上。
仲間たちに囲まれて、恒例のバカ騒ぎをしていたところで、はっとその事に気がついた。
妙な感じだ。未来から帰ってきたのか、未来のことを思い出したのか。
とにかく軽い混乱はあるものの、やるべきことはちゃんと覚えている。
・・・・まだ、覚えていられる。
その事実に心から感謝しつつ、俺は自分がやるべきことをやっていく。
・・・・サラサラと。
砂時計が落ちるように、静かに俺の記憶がこぼれ落ちていく。
初めて聖地であった日。
船の上で再開した日。
海賊に襲われた日。
・・・・・すごいスピードで失くなっていく。
待ってくれ、失いたくねぇ。
大事な俺の記憶。
何一つとして失いたくないのに。思い出せないのに失った感覚だけははっきりとわかる。
まだだ、まだまってくれ。
もう少し。まだ足りない。まだ万全じゃない。
ガリガリと狂ったように羽ペンを動かしていく。
多少文字が乱雑だが読めないことはないはずだ。
何通も手紙を書いたがそれが確実に相手に届くとは限らない。むしろ差出人がはっきりしない怪しい手紙が読んでもらえるだなんて甘いことは思わないほうがいい。
だから、せめて数をこなす。
100枚200枚。
休む間もなく書き続ける。
これだけの数が浜辺に打ち上げられればさすがに上に報告が行くはずだ。そうしたらあの有能なユグレシアの王様の目にも止まる。
アリアの呪いを解く方法。
海の奇跡と呼ばれる人魚。
その人魚がいる場所を正確に書き込んでいく。
丸めて、それを仲間たちに集めて貰ったビンに詰め込んだ。
ユグレシア近海にそのビンを流すために聖地には留まらず船を出航。アリアとは確実に出会えるように、あの時に乗った商船と、そしてあの時に襲ってきた海賊の動向を調べあげた。
水月亭でくだらないことで笑いあった日。
我が身かわいさに最低な嘘をはいた日。
海の上で敵として対峙した日。
・・・・消えていく。俺のなかで大事なものが。
でもまだだめだ。
ここからではユグレシアは遠い。手紙が届かない可能性が高い。
痩せてしまったアリアと再開し、彼女を一人残して宿屋を出た日。
彼女にの死を知った日。
生まれて始めた心のそこから泣いた日。
・・・・・手紙を。手紙を流さなければ。
もうもたない。覚えていられない。
さっきから目眩がひどい。足に力が入らない。気分が悪い。
だけどあの手紙だけは。
そうして。
俺の中から全ての記憶がこぼれ落ちた。
「頭!!」
呼ばれてはっと我にかえった。
自分が今何をしていたのか思い出せず、軽く混乱する。
ドクドクと不自然なくらい心臓が早打ちしていて、そしてなぜだか無性に悲しい。下唇を噛み締めて目に力をいれて踏ん張らなければ涙がみっともなくこぼれてきそうだ。
「・・・・・は?・・・・なんで?」
わからない。理解できない。
だけど失ったことはわかる。
何を失くしたのかさえ分からないのに。
悲しい悲しい悲しい。
だけど、そればっかじゃダメだ。まだやることがある。
胸一杯に空気を吸い込めば、潮の香りが鼻に抜けた。波の音も耳に心地いい。その臭いと音が心をゆっくりと落ち着かせてくれる。
視線をさげれば、たくさんのビンがプカプカと海の上に浮かんで流れていくのが見えた。位置からいって俺が投げ落としたもののように思えるが全く身に覚えがない。そもそもあれだけの量のビンを海に投げておいて覚えがないなんてことがあるだろうか?
その中身さえ覚えてないのに?
「頭!頭が言ってた海賊の同行をつかめましたぜ!」
海賊・・・・・・?
・・・・・そうか、そうだったな。
気にくわない同業者を今から潰しに行くんだったな。
ニシャリと口角をつりあげる。
そうして俺の命令を今か今かと待ちわびている血の気の多い部下たちに向けて、声を張り上げる。
「行くぞ、野郎共!」
それに反応して、部下たちは一斉に雄叫びをあげた。
これでノアさんの巻き戻しは完了です。
こんな暗くて重い話を読んでくださった方、ありがとうございました。
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ありがとうございました。




