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閑話 一緒に行くよ


キラキラと白い砂が辺りを包む。

ノアの背中が一瞬硬直して。

そうして、僕の目の前で糸が切れたように崩れ落ちた。

とっさに手を伸ばしては見たものの、受け止められる体すら持たない僕が大事なノアを支えれるわけもなく。トサリと余りに軽い音をたてて彼はそこに倒れ込んだ。ピクリとも動かない。人が生きるには余りに長い時間をたった一人で戦い続けて、そうして今やっとその役目を終えて静かに眠ることが出来た彼の器。もう僕と会話ができるくらいまで魂が擦りきれてた。ほとんどこちらの世界に来てた。あのまま、体だけが限界を迎えてたら、ノアの魂は本来行くべき所にも行けずさ迷うことになったかもしれない。

こんなところに一人でいるべき人ではなかった。こんなに長い間苦しい思いをさせたのは間違いなく僕だ。

あんな手紙、書かなければよかった。

あれがきっとノアをあんなにも縛り付けた。

あれさえなければノアは普通に家族をもって暖かいベットの上で穏やかな生涯を終えたかもしれないのに。

「ごめんね、ノア」

せめてその体を抱きしめたくて手を伸ばしたけど、僕の腕は虚しくすり抜けるだけ。そんなことすら僕には許されない。

「本当によかったんですかぁ?」

少し間延びした声と共に、パシャリと水を弾く音がする

胸を覆っていた罪悪感が一瞬で軽くなる。

ここまでは契約事項に入ってない。

完全に彼女の心遣いだ。

ありがとう、と言葉を送りながら僕は彼女に向き直った。

「お礼はいらないですぅ。もともと対価を貰いすぎですからぁ」

それが僕に気を遣わせないための嘘だってことぐらい鈍い僕にもわかる。

彼女に頼んだ無理難題を思えば、僕が差し出したものなんて少ないくらいだ。

優しい人魚姫は、哀れむように目を細めて僕をしばらく見つめた後、小さくため息をついた。そうして億劫そうにゆっくりと口を開く。

「では契約事項をぉ、もう一度確認しますねぇ。

海を漂流していた彼をここに連れてくることぉ。

彼が決断を下すまでその体をもたせることぉ。

彼の望みが叶うように助言することぉ。

そしてもし彼が望めば、その体を人に戻すことぉ。

対価は、アリアさん、あなたの魂。

ただしぃ、巻き戻した世界でもぉ、同じようにあなたが呪いで死んだ場合に限る。

これでいいですかぁ?」

変更があれば今ならまだ大丈夫ですよ、とどこまでも僕に逃げ道を与えてくれる。

もう契約のほとんどが完了してしまっているはずなのに。

「それで大丈夫だよ、ありがとう」

「う~ん。でもでもぉ、申し訳ないですけど望み薄ですよぉ?」

もし失敗すれば魂ごと消滅して二度と輪廻の輪に戻れない。ここは耐えて2人で輪廻の輪に戻った方がまた幸せになれるんじゃないか、と。

3度めになる暖かい言葉に、僕は小さく首を横にふった。

僕の答えはもう決まってる。

「でもでもぉ、アリアさん、ものすっごくマイナスイメージからのスタートですよぉ?」

多分もう生理的に無理ぃって感じで嫌われてますよぉ。

その美しい顔をくちゃくちゃにしかめて、体全体で表現するのがものすごくかわいい。

「うん、だから今度は僕が頑張ってノアをくどき落とすよ」

にっこりと心から微笑めば、人魚姫はなんともいえない顔をした。あれはなにかな?多分心配してくれてるんだろうな。ありがたいな。でも大丈夫。だって。

「僕はノアを信じてるから」

必ず迎えに行くと言ってくれた。

今度こそ旅に行こうと言ってくれた。

だから。

「僕ももう行くね」

キラキラと、白く光る砂が舞う。

「お待ちしてますぅ。必ず2人でここに戻ってきてくださいねぇ」

約束ですよ、と。

僕なんかのために目に涙を浮かべながら見送ってくれる人魚姫に、深々と頭をさげて。

僕はノアが振り撒いた《時の砂》のなかに足を踏み入れた。


「2人とも行ってしまいましたねぇ。

見えなかっただけで、ずぅっとアリアさんはノアさんと一緒にいたんですけどねぇ。あのお二人うまく行くといいですねぇ」



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