魔法具
「・・・・・やっと見つけた・・・・っ!!」
ようやく見つけたそれを前に、俺の心は熱くたぎった。
・・・そうして、比喩ではなく本当に。伸ばした手の先から炎が上がり肉を焼く嫌な臭いがただよってくる。
けれどそんなこと今さらだ。俺は構わず手を伸ばし、ご丁寧に奉られてる<それ>を手にした。
ようやくめぼしい情報を見つけたのが・・・。もう時間の感覚がないからわからないが、多分数ヶ月程前。
情報は古代図書館にあった。何度も通ったのに。その度に目を皿にして本を読みあさったのに。
その時に見落とした情報があって、その見落とした情報こそが俺が一番欲しかったものだったらしい。我ながら、節穴にも程がある。
その魔法具の名前は≪時の砂≫。戻りたい時間を願いながら砂を巻けば、対象者をその時間枠に飛ばしてくれるという代物らしい。俺が捜し求めていたのはまさにそれだ。心が久しぶりに高揚し、感情をもって揺れ動いた。
問題なのは、それがあると記されている場所だった。過去にその魔法具を用いた悲惨な事件が頻発したことにより、別の魔法具を使って絶対に生身の人間が行けない場所に奉られることになったらしい。
強力な魔法具はその存在自体が強力で、壊すことができない。だからせめて悪用されないように、ということなのだろう。
生身の人間には絶対に行けない場所。
すなわち、燃えたぎる火山の中。
でも、不死の俺になら行ける。
一応旅先で手に入れた熱耐性を持つ魔法具をいくつか身につけていく。そのおかげで一瞬で蒸発、なんてことはなかったが、苦しいことには違いない。不死でも痛みは変わらずあるのだから。
生きながら焼かれるのは、さすがに苦しかった。吸い込んだ熱波が肺を焼き、流れ出す溶岩が体を溶かした。
それでも俺の体は超再生を繰り返し、前へ前へと進んだ先に。それはあった。喜びで体が震えた。
火山から抜け出して、山を下ったところにあった湖で体についた煤を洗い流す。
用意していた服を手早く着て、うっとうしい髪を束ねたところでようやく一息付いた。
さすがに今回はしんどかった。できればもう二度と生きながら焼かれる、なんて体験はしたくない。
それでも幸運だったのは、あの火山の中で高熱と激痛に襲われなかったことだ。あの中で意識を失ったりしたら、それこそ目も当てられない。一応タイミングを見計らって突入はしてみたが、それでも襲ってくる時間は毎回ばらばらだ。治まったと思ったら、5分とおかずまた、なんてこと今まで何度もあった。
それを思えば、今回は本当に運がよかった。
ふぅっと安堵のため息を一つついて。手に入れた≪時の砂≫をしげしげと見つめてみる。小さな赤い小瓶に入ったそれは、一見ただの砂のように見えた。浜辺の近くで見るような、サラサラの粒子が細かい白い砂。けれどよく見てみると、一粒一粒がうっすらと光っていて、ただの砂ではないことが見て取れた。何より、こんな溶岩が流れ落ちる中にあっても溶けることなく存在できているのだ。ただの砂であるわけがない。
・・・・・・これで目的の一つは達成できた!!
「うおおおおおお!!!」
気がついたときには腹のそこから叫び声をあげていた。
これを使いさえすれば、もう一度彼女に会える。またやりなおせる!!
けれど、まだだ!!
冷静な部分が、たぎった心に制止をかける。
そうだ、これだけではまだダメだ。
ここで巻き戻したところで、結果は同じ。結局はアリアは呪いによって死んでしまう。それでは意味がない。
俺の望みを叶える、最後の一つ。必要なのは、アリアの呪いを解く方法。
時間を巻き戻す方法と平行して探していたのに、そちらは全く手がかりがない。
呪いを解くほうが時間を巻き戻すよりもよほど簡単にわかりそうだと思っていたのに。まさかそっちでこんなにも手こずるとは。
アリアの親父さんは、15年国をあげて捜索して、それでも手がかり一つ見つからなかったと言っていた。
世界中の解呪師にみせたが、解呪できなかったと。
最悪、アリアが呪いを受ける前まで時間を戻すことも考えたが、どこから呪いを受けたのかわからなければ回避のしようがない。なにより、そこまで戻ってしまえば、俺も5歳かそこらだ。なんの力もないただのガキでしかなく、大国の王女であるアリアとの接点も作れない。
そもそもアリアの呪いはどこから来たのか。
2歳になってすぐに、といっていたからもちろん生れつきの病なんかじゃない。
部屋で乳母と遊んでいたときに急に激しく泣き出して、高熱を出して倒れ。一週間後やっと目が覚めた時にはもうすでに呪いを受けた後だった、といっていた。
誰かが呪ったのだ。それも城の最奥で厳重に守られていた王女を。
部屋にはもちろん護衛騎士が張り付いていただろうし、部屋の中もおそらく強力な魔法具で守っていただろう。なのに、それでも呪われた・・・。
そんなこと可能なのか・・・・?
呪う対象者が遠ければ遠いだけ難しくなる。なのにかけられたのは、誰にも解呪できないほどの強力なもの。それだけのことを人間がやってのけれるだろうか・・・?
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・人じゃないのか・・・?
まさか・・・魔物・・・?
確認されている中で一番強い魔物は、龍種と呼ばれる魔物。馬鹿でかい、羽を持ったトカゲみたいなやつだ。
その力は凄まじく、気性も荒い。一夜で国を滅ぼしたなんて話もざらに聞く。龍種か、それに近い強大な力を持つ魔物がもし関係しているとすれば、それは人がどうこうできるレベルのものではなくなるだろう。
「一度調べてみるか・・・・」
そうして俺は、古代図書館に向かった。




