手紙
「・・・・・・・・。・・・なんだよ、これ・・・」
そこにかかれていたのは文字などではなく、へったくそな絵、だった。堂々と真ん中に書かれたそれは、目の形から鼻の形まで妙にリアルに書かれているのにバランスがとことん悪い。そしてなぜだか長い髪が真上に逆立っていてものすごいことになっている。
・・・・絵心ねぇなぁ、あいつ・・・。
いったいなにを思ってこれを書いたのか。右上に、【右隣に座っていたおじさん】とかいてある。
「・・・・・・ふは・・・・」
そういえばいたなぁ・・。隣に座ってたひどい髪型のおっさん・・。アリアが「おじさん、その髪型個性的だね、いいと思う!」なんて気軽に話しかけるもんだから、あまり知らない人に話しかけるなと叱ったのを覚えてる。
余程その髪型が衝撃的だったのか。それとも本当にアリアの趣味ど真ん中だったのか。帰ってきて、クスクスと楽しそうに笑いながら絵を描いているアリアの姿が脳裏に浮かんでまたくくっと喉がなった。
笑いながら・・・涙が頬を伝って落ちていった。
次の手紙を開けてみた。
今度はなぜかよれよれの折り紙が入っていた。なにをかたどったのか分からないくらいよれよれだ。
「・・・・どんだけ不器用なんだよ・・・」
右に回して見ても、左に回して見ても、裏返してみても、なにを作りたかったのかさっぱり分からない。
長いこと首をひねって。それでもやはりなにか解らず、あきらめかけたその時。封筒に【ノアにもらった花】と書かれた紙が一緒に入っているのに気がついた。
「・・・・・・・・・・・・花?」
嘘いえよ、どうみてもそうはみえねぇだろ・・・。
ちらりと壁に目を向けた。確かに折り紙と同じ色の花を贈った気がするし、壁にもすこし色は褪せているが元は同じ色だったであろう押し花が飾られている。もう一度手元に視線を戻した。
似ても似つかない・・・。
「・・・・・はは・・。・・・・へったくそ・・」
ククッと肩を揺すった拍子に涙が顎から落ちていった。
違う封筒を開けてみた。
今度はなにやら文字が書かれていた。育ちのよさが伺えるとても綺麗な文字だった。
内容は手紙というよりも日記のようなもので。朝ごはんがおいしかった、とか。城の庭で猫を見かけた(またへったくそな猫の絵が小さく書いてあって笑えた)とか。空を見上げたら、星が綺麗だった、とか。そんなたわいもない手紙がしばらく続いた。あいつがなにを見て、なにを思っていたのか少しだけわかった気がした。
違う封筒を開けた。
また絵が書いてあった。今度は先程よりもずっとましな感じ。少しくせ毛の黒い髪が一本づつ丁寧に書かれている。きりりと鋭い目元。片方だけ釣り上がった口元。右上に【ノア】と書かれていた。
「・・・・・・・・・・あほかよ・・・」
いくら俺が見ない前提だからって、これは恥ずかしいな・・。
真っ赤な顔をして、「ぎやーー、見ないで!!」と。叫びながらかわいらしく怒るあいつの姿が脳裏に浮かんで笑みが漏れた。
また涙が頬を伝って落ちていった。
違う封筒を開けた。
今度は今までよりもずっと長い文章が書かれていた。内容を見て、ドクッと心臓が鳴った。
・・・あの日だ・・・。
俺がユグレシアを追われた日。海の上でアリアと対峙した日。
いつもと同じように【ノアへ】から始まった手紙。渡すつもりなんて最初からなかったんだろうその手紙。
俺は、ドクドクとうるさい心臓を押さえ付け、その手紙を読みはじめた。




