親友
「・・・・・・君にこれを渡したかった・・・」
長い沈黙の末、王様が俺に何かを差し出してきた。ぼやけた視界の中で、それが大量の封筒だとわかった。
目線をあげれば気付かわしげな優しい視線を目が合った。
「君の思うようにしてくれて構わない。捨ててくれてもいい」
「・・・こ、れは・・・?」
「あの子が君に書いた手紙だよ」
「・・・・!?」
手紙・・・・?こんなにたくさん・・・?
震える手でそれを握れば、あまりの厚さにずっしりとしっかりとした重みが伝わってきた。
「これを君に渡すべきか迷ったんだ。本当はアリアはそれをのぞんでいないかもしれない・・」
書いては迷うことなくごみ箱に捨てていたからね。
そう言って王様は遠くを見るように目線を反らした。
「でもそれでも、苦しい日々の中で・・。それを書いている時だけはあの子はひどく柔らかくて嬉しそうな表情をしていた・・・」
もうやめてくれ。胸が苦しくて痛くて息もできない。もういっそ殺して欲しい・・。
気がつくたびに回収したけれど、気付かずに捨てられてしまったものもあったかもしれない。それでもそれだけの枚数があったよ。
そう言って、悲しそうに王様が笑う。
「一つ賭けをしていてね・・・。・・海賊の君が、捕まるのを覚悟で・・。それでも自らここへきてくれたのなら・・・。それを君に渡そうと思ってね・・・」
来てくれてよかった・・・。そう言ってアリアの親父さんはまた泣きそうな顔で笑った。
よかったら部屋をのぞいてやってくれ、と促されアリアの親父さんについて豪華な廊下を歩く。
アリアの普段の様子、好きなもの、嫌いなもの、聞きたいことは山ほどあったがそんな余裕などあるはずもない。向こうも同じなのか、前を向いたまま二人静かに目的地に向かっていく。
いくつもの部屋を通りすぎ、階段を上ったその先に、二人の女が立っているのが見えた。二人とも長い金髪で、一人は高い位置で髪を一つに束ね、もう一人は髪を二つにわけ三つ編みをしている。気の強そうなのと、おっとり穏やかそうなの。よく似ているのに、どこか対照的な二人。どちらも見覚えがあった。
・・・ぁ、こいつらあの時アリアと一緒にいた・・・。
思ったと同時にそいつらがこちらを振り返った。姉妹か、もしくは双子か?よく似た顔をしたそいつらは、どちらも目をパンパンに腫れ上がらせていた。俺の顔を見るなり、気の強そうな雰囲気のそいつが腫れ上がった目をキリリと吊り上げた。
「あんた・・・・・っ!!」
掴みかからん勢いで走り寄って来る。全身から俺への敵意と苛立ち、そして抱えきれないほどの深い悲しみを放っていた。
「なんなのよ、今更!!」
ドンッと。力無い弱々しい拳が俺を打つ。何度も何度も泣きながら。そいつは俺を激しく叱責した。
今更なんなんだ。あの子がどれほどあんたを待っていたと思ってる。毎週わずかな期待を込めて出かけていって、そうしてひどく落胆して帰ってくる。なのに心配をかけないように無理して笑う。そんな様子がどれほど可哀相だったか。なのに今更何しに来た。
あんたにおいて行かれて、あの子はあんなに泣いていたのに。あの子はもういないのに!
泣きながら。涙と激しい嗚咽に阻まれ、何度も言葉を詰まらせて。そいつは俺の胸を穿つ。
弱々しい拳は、俺の心を確かに打ちのめしていく。
「・・・・・・・わ・・・るかった・・・」
置いて行ったんじゃない。本当は俺も連れていきたかった!
心はすぐさま否定を繰り返したが、その言葉が俺の口から出てくることはなかった。
ただただ彼女の幸せを願っていた。そのために身を引いた。心が引き裂かれる思いを味わって、それでも愛する彼女のために、と己をねじ伏せた。それが正しいことだと信じて疑わなかった。
でも違った。
俺はまた間違えたんだ。もっと、アリアの心を知るべきだった。知る努力をするべきだった。俺は何一つとして彼女の気持ちをくんでやることができなかった。あんな大事な局面でさえ、俺は間違えた。
目の前の二人は、きっとアリアの友達なのだろう。聖地で楽しそうに飯を食っているところを見かけた。その時アリアはこいつらにくったいのない、心を許しきった笑顔を見せていた。そうして今も俺の胸を穿っているこいつからも、そして少し向こうで顔を伏せているあいつからも、うそ偽りのないアリアへの親愛がみてとれる。
それだけ大事だった・・。
こんなに目がパンパンに腫れるほど。こんなに泣き叫ぶほど。
そんな二人に俺ができることなどなにもなく。ただ悪かった、と。そういって謝ることしかできなかった。
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