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呪い


「10日前・・。 朝日が昇る前だった・・・」


 俺に席につくように無言で促した王様は、俺が素直に座ったのを確認すると真向かいの席に腰掛けた。その横にアリアのお袋さんが迷わず腰掛ける。随分と距離が近い。護衛もいるにはいるが、部屋の壁に沿うようにひっそりと2人いるだけだ。俺が暗殺でも企てたらどうするんだ。痺れたように働かない頭でそんなことを思ったが、それを指摘する気にもなれない。

 紫色の瞳がじっと俺を見る。一挙一動を見逃さず、俺の心の奥底まで見透かすような、探るような視線。

・・・・・本当に、いちいちとアリアに似ている・・・。

しばらく重い沈黙が流れた。何故俺がここに呼ばれたのかわからない。城に押し入ろうとした賊を、この国ではいちいち王様自ら取り締まるのか・・・? もういい、もう十分だ。あんたらと向き合っているだけで心が軋む・・。とっとと縛り首にでもしてくれ・・・。

 寝不足と、栄養不足、ついでに脱水でちっとも働かない頭で、投げやりな思考を巡らせたところで、唐突に王様が話しはじめた。

「10日前・・・。朝日が昇る前だった・・・」

・・・・・・は・・・? なにが・・・・?

そう思ったその後すぐに、俺は息を止めた。一瞬で背筋が凍りつく。

ブワリと全身の毛穴が開き、汗が吹き出し、ギシギシと心臓が軋む音が自分の耳にうるさい。

「最後は苦しまずに、微笑みながら逝ったよ・・・」

娘の、アリアの最後の時を語っているんだと。そう思った瞬間、俺の心は悲鳴をあげた。

もういい、もう聞きたくない。そんなことを聞きたくてここに来たんじゃない。

生きている、と。あんな記事はデマだったんだ、と。そう核心を持ちたくて来たのに。

なのに、俺のそんな心情を知らずに、あるいは知っていてなお、か。

王様は淡々と話して聞かせてくれた。壮絶なアリアの人生と、そして聞きたくもない最後の時を・・・。


 アリアが2歳になってすぐ、強力な呪いを受けたこと。呪いに抵抗するために少しでも体を鍛えようとアリアを剣の修業に出したこと。天性の才能を発揮して、世界最高剣位の【剣聖】にまで昇りつめたこと。

そのことを語る王様はとても誇らしげで王の顔からしっかりと父親の顔を覗かせていた。

・・・・剣聖・・・。・・・ああ、それで・・・。

ぼんやりとした頭で、そう思った。

〈僕結構強いんだよ〉

そう言って胸を張ってどや顔してたっけな・・。まさかの剣聖とはね・・・。そりゃ敵わないはずだ・・。

あの時の元気な笑い顔が思い出され、鼻の奥が痛み視界がぼやけてくる。

心臓が痛い。・・・痛くて痛くて死にそうだ・・・。

それでも王様の話は終わらない。最後まで聞かなきゃいけない。そう思う気持ちと、無理だと思う心がせめぎ合う。

 国中、世界中を回って、解呪の方法を探したが、どうしてもそれが見つからなかったこと。

呪いは長い年月をかけてアリアの心臓に徐々に突き刺さり、17年でアリアの心臓を完全に・・・。

「最後の一ヶ月は見てるこちらが可哀相なほど苦しんでね・・・」

王様の言葉に、堪えきれなかったのか隣のお袋さんがついに泣き崩れた。

ああ、ずっと我慢してたもんな・・・。

お袋さんは、唇を噛み締めて、必死で気を張って、ずっとずっと顔をまっすぐに上げて俺のことを見てた。

辛いよな・・。きっと俺なんかよりもずっと・・・。

「それでも、最期まで誰にも恨み言一つ言わなかったよ・・・。ただ・・・」

ただ・・・・。その後に続いた言葉に、俺は息をのんだ。

「ただ時々うわごとみたいに・・。・・君の名を呼んでた・・・」





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