父と母
フラフラと街を歩く。もう何日も寝ていない。無理矢理口に詰め込まれた食い物は全て吐き戻しちまう。まるで俺のからだ全てが生きることを拒否しているようだったし、実際そうなんだと思う。
目線をあげたその先に、そびえ立つ城の一角が見えた。黒い布がいたるところで掲げられ喪中であることを国民全てに告げている。
喪中・・・・。
俺の心がまた悲鳴を上げた。アリア・・・。お前はほんとに死んじまったのか・・・?
なんでだよ・・。ちょっと前会ったばっかじゃねぇかよ・・。お前はどっかの貴族に嫁入りするって言って・・・。
そこまで思ってどくっと心臓が嫌なふうになった。
いや、そうじゃねぇ・・・。あいつはどこか遠くに行かなきゃいけない、そう言ってた。
まさか・・・。・・あんなに痩せてたのも・・・。顔色がひどく悪かったのも・・・?
「おい、止まれ!!!」
不意に厳しい声がかけられた。生気を失った視線を必死であげれば、自分の喉元に刃物が突き立てられているのにようやく気がついた。目の前には俺に槍を突きつける、二人組。格好からしておそらくユグレシアの兵士。そして場所からして門番であることはおおよそ間違いないだろう。そうして、その奥に。城の入口が見えた。
・・・アリアの家・・。
・・・アリアが過ごした場所・・。
・・・アリアのかけらがあるところ・・・。
「中に・・・っ!! 中に入れろ!!!」
突きつけられた槍を刀を引き抜いて弾き返し、右の門番には足払いをかける。そのまま起き上がって左の兵士の溝落ちに拳を叩き込んだ。
無理に押し通ろうとする俺を。騒ぎを聞き付けた他の兵士達が取り囲む。
・・・・・まあ、そうだよな・・・。正面から突破できるわけもねぇよな・・・。
これで処刑、か・・・。
でもまあ、アリアが住んだこの城で最後を迎えるならそれも悪くねぇ・・・。
そうして俺は抵抗もせずに、牢屋へと連行された。
すぐに処刑されるかと思いきや、ここの国は随分と寛大らしい。しばらく牢屋に入れられた後、俺は手錠を外され、なぜか丁重にどこかに案内された。物々しい扉が開かれ、その奥であった馬鹿みたいにくそ高そうな椅子に腰掛けるように促される。抵抗する意味さえない俺は、いわれるがままにそこに腰をかけた。
見計らったようにすぐに湯気を立てた茶が俺の前に用意される。
意味がわからない。俺は客などではないのに・・・。
当然用意されたそれに手をつける気にもなれず、ゆらゆらと揺れる白い湯気をぼんやりと眺めていた、その時。バタンと扉が開く重い音がした。何気なくそちらに目をやった俺は息をのんだ。馬鹿高い椅子を押し倒す勢いで立ち上がり、視線はそこに釘付けになった。脱水で足りていないはずの水分が、それでも両目からボタボタと流れ落ちた。
「アリア・・・・!!」
呟いたその小さな声が聞こえたかのように、部屋に入ってきたそいつは口元に柔らかい笑みを浮かべた。心が軋むような悲しい笑みだった。
「あなたが・・・ノアさん・・?」
そいつが確かめるように俺に聞いた。その言葉に、態度に、俺の心が悲鳴をあげる。
違う、アリアじゃない。
アリアならそんなこと言わない。
なにより声が違う。髪色も少し違う。顔つきも・・。あいつはこんなに大人っぽくて色気なんてありゃしない。
アリアじゃ・・・・ない・・! なんで?こんなに似てるのに!!
「アリアの母、エレインです」
母親・・・。はは・・お、や・・・。ぼんやりとそう思った。一泊遅れて、ドクッと心臓が高くなった。
アリア・・・? 今そう言ったのか・・・? エリーシアじゃなくて・・・?
コトンとまた音がした。エレインと名乗ったそいつの後ろから、頭に金の冠をのせた男が部屋に入ってきた。プラチナブロンドの髪に、紫色の瞳。こいつもどこかアリアに似てる・・。
「こんにちは、待っていたよ、ノア君」
そう言ってそいつ。おそらくアリアの親父は俺を見て眉尻を下げて悲しげに笑った。




