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あきらめきれない想い

俺が彼女に出会ったのは、ただの偶然だった。航海のその途中。偶然寄った聖地と呼ばれる場所、その飯所で。金髪の女二人と楽しそうにお茶しているのを見かけた。常時であればそんな女が好きそうな洒落た場所になど絶対に入らない。が、そこから他の飯所がずいぶんと遠かったことと。一緒にいたアッシュが腹が減って倒れそうだとずっとごちていたこともあり、俺達は仕方なくそこに入った。俺はその偶然に今でも感謝している。

 さらさらのペールブラウンの髪が、涼やかな風を受けてなびく様が綺麗だった。少し大きめの眼は珍しい薄紫色で、宝石のようにキラキラと輝いていた。聞こえてくる明るい笑い声。ケーキを一口食べては幸せそうに頬をゆるめて笑う。その、花が綻ぶような綺麗な笑顔に俺の心は馬鹿みたいに跳ね上がった。一瞬で心を奪われた。魂が抜かれたように数秒はその場に立ち尽くして見惚れた。後から思えば相当間抜けな顔をしていたんじゃないかと思う。

 自慢じゃないが、女に困ったことは一度もない。俺の顔はよほど女受けがいいのか、黙っていても寄ってくる。女の使いは熟知しているつもりだった。その俺が。声をかけることすらできなかった。ちらちらと視線を投げかけては、こっちを向けと願うだけで。しかし俺の願いは届くはずもなく。結局彼女は数刻もしないうちに俺も見ることもなく店から出て行った。

 後悔したさ。何で声をかけなかったんだ、と。せめて名前だけでも聞いておけばよかった、と。

船に帰っても、どうしてもあきらめ切れなくて。それから毎日同じ時間、同じ店に通った。

テラス席を指定し、通りを歩く女を一人一人確認した。余程ぎらついた眼をしていたのか。偶然目が合った女がいちいちと声をかけてくるのが心底うっとうしかった。

他の女なんかどうでもよかった。もう一度彼女に逢いたい。それしか頭になかった。

 二日、三日となんの収穫もないまま時間だけが過ぎていった。そうして一週間が過ぎた頃。とうとう俺は己の内から出るあふれ出る欲を持て余しすぎて耐え切れなくなり、恥を承知で店員に声をかけた。もっと早くに声をかけておけばよかったと後悔をしながら、身振り手振りを交えて彼女の情報を聞いた。

一週間前の昼過ぎ。この席で、金髪の女二人とケーキを食べていた。ペールブラウンのさらさらの髪で、品があって可愛くて・・・。

説明をしながら俺を見る店員の顔がどんどん渋くなっていくのに気がついた。

やめてくれ、その顔。俺だって自分があやしさ満点なのは自覚している。

そうは思ったが今更引くつもりもない。

探してるんだ、と最後に付け加えれば毎日同じ時間同じ席で長時間居座る俺に納得したように店員は生暖かい目を向けてきた。正直いたたまれない。

なのにこんな思いをしてまで得られた情報は一つもなかった。

街をふらふらと歩いた。行き交う人々の顔を逐一チェックして、女が好きそうな店を外から覗いてもみた。

さほど大きな街でもないはずなのに。いっこうに彼女は見つからない。

焦りが心の中をいっぱいに支配していった。

あちこちで話を聞いた。結構目立つ風貌をしていた。あのさらさらな髪だけでも一度見たら忘れない。なのになんの情報も出てこない。焦りよりも絶望が濃くなっていく。

 10日を過ぎた頃。いよいよ俺はそこから離れる決断を下さざるを得なくなった。そろそろ船を出さないと。同じ場所に長らくいるのは好ましくない。

分かっている。けれどそれでも俺は諦めることができず。仲間たちに先に船をだせと命じて。幾日も彼女を探して回った。

 3週間が過ぎた。彼女は見当たらない。もしかしたらこの街の人間ではないのかもしれない。そう思い至った瞬間、心は急速に落ちていった。ではどうやって探せばいい?もう二度と逢えないのか?

絶望的な状況だった。名前も知らない、なんの情報もないたった一人の人間を、探して回るなんて現実的ではない。何年かかる?この世界がどれほど広いと思っている?

しかしそれでも俺の心は彼女に逢いたいと願った。諦めることなどできなかった。

 なら探せばいい。

すぐに結論が出た。俺は海賊だ。世界中の宝を求めて駆け回るのが俺達だ。

俺は心にそう決めて。仲間と合流すべくパラアイルの港へと急いだ。

仲間とはユグレシア領域の外れ。海賊船でも受け入れる小さな港町で待ち合わせている。そこに向かうにはまずパラアイルにむかい、そこからユグレシア行きの船に乗る必要がある。一番近い出港日はちょうど一週間後の早朝。俺は迷うことなくそのチケットを買い、近くの安い宿で過ごした。勿論ここでも彼女の行方を探してみたが、情報は一つも手に入らなかった。

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