どや顔
「よかった、来てくれないんじゃないかと思ってた」
俺の向かいの席に腰掛け上着を脱ぎながら、アリアが嬉しそうに笑う。
・・・・・それはこっちの台詞だ・・・。
「ノアいつついたの?」
場所はすぐわかった?と。興奮しているのか少し頬を赤らめて、早口に問い掛けて来るアリアがめちゃめちゃにかわいい。
けれど2時間も待っていたなんて流石に言えるはずもなく、俺はすました顔でついさっききたところだと返した。
「そっかぁ。僕もここには初めて来るんだ」
友達に聞いて一度来てみたいと思ってたんだ。楽しそうにそういいながら、アリアは来ていた上着をぐるぐると丸め出した。そして見るからに上等なその上着を無造作に隣の席に投げ置いた。
・・・・・・・几帳面なのかと思ってたが・・。以外と雑、なんだな・・・。
けれどそんなところも愛しいと思う。
上着の下には美しい藤色のブラウスに、ふんわりと柔らかい素材の白いスカート。そして・・・。
その細い腰元に余りにも似つかわしくないものがぶら下がっているのが見えて、俺の顔は無意識にしかまった。「な、なに?」とうわずったようなアリアの声が聞こえ、ハッと我に返る。
慌てて視線を戻せば、アリアが戸惑ったように眉を寄せて俺の顔を上目遣いに見上げて来る。
やばい顔が怖かったか・・・?
意識してまた目尻を下げて無害な俺を演出する。
「いや、別に。随分と似合わねぇもんぶら下げてるな、と思って」
言いながら、くいっと腰元をあごでしゃくると、その視線を追ったアリアが納得したように「ああ」といって小さく笑った。
「帯剣するのが外出の条件なんだ」
ものものしくてごめんね、と。眉を下げて申し訳なさそうにアリアが肩を竦める。
さすがは貴族様。外出するのにも色々と制限があるらしい。しかし・・・。
「持ってても扱えないんじゃ意味ねぇんじゃねえのか?」
使えもしない武器をぶら下げたところで牽制くらいの効果しかありはしない。それだって本気で絡んで来るよな輩には何の意味も持たないだろう。俺がいうのもなんだが、それで外出を認めるとか・・。大丈夫なのかそれで?正直護衛の一人や二人連れてくるかもと思っていたのに、そんな様子もなさそうだし。
俺の非難ともとれる素朴な疑問を受けて、アリアが不思議そうに首を傾げた。意味を考えるように数秒黙り込んで、やがてキョトンとした顔で当然というように言った。
「え?僕剣扱えるよ?」
しかも結構強いんだよ、と。そういってどや顔で胸を張った。
マジかよ、嘘つけよ。剣を振り回すご令嬢なんて見たことも聞いたこともねぇよ。
俺だって海賊船の頭を張っている。そんじょそこらのごろつきよりも強いと自負している。
その俺の目から見て、アリアはどう見ても立ち振る舞いが好きだらけだ。悪いが強そうにはとても見えない。
けれど正直にそれを口にしてアリアの機嫌を損ねたくないし、なによりどや顔で胸を張るその表情が最高にかわいい。あの顔が崩れるところは見たくないし、余計なことを言ってアリアが外出禁止になったら元も子もない。
「そうか、そりゃ安心だな」
そういって笑ってやると、アリアはまた嬉しそうに笑った。