第7話 嘘と逃げない
村上が電話してから、剣依都は五分後に会場にやってきた。彼もまた『また、会えますか』を見て小さく何かを呟いた。
近くにいたスタッフに声をかけて、休憩室的なとこに案内してもらった。剣依都は知良が電話対応していることを知らないので、どんな奴なんだろうと思いながらドアを開けた。
「よっ、久しぶりやな!剣依都くん」
「村上のおじちゃん? 」
「驚いとるなぁ〜」
「そりゃあ、驚くだろ」
「ワシが電話したのに? 」
「先生もおるんやと思うてたから」
「先生は仕事でな」
「忙しいか」
村上は剣依都にコソコソと簡単に説明をした。電話でもしていたが、念のために話したのだ。
「映璃、帰るで。ほら、おいで抱っこするで」
「おんぶ」
「おいで」
剣依都は、しゃんがんでおんぶ出来るように体制を整える。
「よっと」
「けー兄ちゃん、これも渡していい? 」
「ええよ」
映太はクマのぬいぐるみにブラスチックの輪っかに紐が繋がったのを映璃に渡した。紐の先は犬の散歩のリードのような輪っかになっていて、映璃はそこには腕を通す。落とすのを防止するようにしている。
「映璃、ちょっと力抜いて。首しまってるから」
「う……」
「映璃は力加減が苦手だからな。うん、それぐらいでいいよ」
「気をつけて帰りな! 」
「村上のおじちゃん、また連絡してください。アイツとも話したいし」
「分かった」
村上は、三人が帰った後に「これから大変や」と呟いてジュースを飲んだ。
「村上さん」
「うぁっ!? 」
知良が戻ってきたのは、あれから四十五分経ってからだ。
「大げさに驚かないでください」
「すまん、すまん」
「二人、帰ったんですね」
「そうや、家族に電話したらすぐに迎えに来てくれてな」
「俺、会ったほうが良かったですかね? 」
「なんや、微妙な言い方して。菅くんは、ワシになんて答えて欲しいんや? 」
村上の顔はいつもの陽気さが消え、鋭い瞳で知良を見つめる。知良はゾクッとして、身体震えた。それは、身体だけじゃなく声も震えていた。
「映璃ちゃんは、嘘をついてないと思います」
「何が? 」
「映璃ちゃんが、俺が描いた絵を見て『お母さん』って言ったことです」
「どうしてそう思うんや」
「映璃ちゃんの顔は、彼女と似ていました」
「似ている人は、この世にようけおる。世界に三人は同じ顔がおるって何かで聞いたことあるわ」
「彼女が俺を見て笑ったあの表情が同じなんです。村上さんは彼女のことを知っていて、俺に隠してるんじゃないですか?俺と初めて会った日に、村上さんは今度話してくれるって言ってたじゃないですか! 」
「そうや。でもここで話すことないやろ。菅くんは今ここで仕事してるんや。いつまでも休憩せんと、戻り。ワシは逃げんと、家で飯でも作りながら待っとるから」
「分かりました」
村上は返事を聞くと、展示会の部屋に戻り作品を見て帰った。
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