第6話 イマドキ
「おっ、映太くんと映璃ちゃんじゃないか! 」
知良は、その聞き覚えのある声の方を見た。
「あっ!おじちゃんだ!こんにちは! 」
「映璃ちゃん、こんにちは。あいさつ出来てえらいなぁ」
「うん! 」
「でも、もう少し声を小さくしよう」
「はーい」
「村上さん? 」
「菅くん、調子どうや? 」
「あの、ちょっと場所移動してもいいですか? 」
知良は周りを見てから村上に視線を戻した。
「そうだな。あっ、その前に写真を撮ろう」
「えっ?なんで?ちょっ引っ張らないで……」
村上は言うやいなや、初対面の時と変わらずに知良を強引に動かした。絵の前に立たし、その隣に映太と映璃がいる。
「はい、チーズ」
村上は、素早く言うとスマホのシャッターをきる。知良の顔は言うまでもなく、微妙だった。それは映太も同じであった。しかし、映璃だけは笑顔だった。
「おじちゃん、見せて」
「映璃ちゃん、場所を移動してから見せてもらおうね」
「はーい」
映璃は映太と村上に手を繋いでもらって機嫌が良い。
「あっちに休憩室的なところがあるので移動します」
知良は近くのスタッフにも伝えてから、三人と一緒に会場を後にした。
「お菓子、貰い物だけど良かったらどうぞ」
「ありがとう! 」
映璃は素直に喜び、お菓子を頬張る。映太も食べてはいるが何かを考え込んでるようだった。
「村上さんも一緒に飲み物を選んでもらっていいですか?好みが分からなくて」
「おう」
知良は村上と一緒に、彼らから少し離れ簡易キッチンがあるとこに行った。そこには冷蔵庫に近々のジュースやお茶が入っていた。
「これはどういうことですか? 」
「菅くんは、小声でも迫力があるな」
「茶化さないで、教えてください」
「二人のお母さんは……」
「もう、おらんよ」
「………。今は、どうしてるんですか? 」
「お母さんのお兄さん夫婦と弟さんと暮らしてるって」
「幸せなんですか? 」
「幸せかは知らないなぁ〜。久しぶりに会ったからな」
村上は少しはぐらかすように言った。それに知良は気が付いていないのか、「あっ、そういえば」と別のことで村上の行動がおかしかったことに気が付いた。
「もしかして、前に写真を撮ったやつ送ったんじゃないですか? 」
「名推理! 」
「この人はまた」と知良はため息をついた。
「おじちゃん!ジュースまだ? 」
映璃の大きな声が聞こえてきた。ビクッと二人の肩が上がる。その後に、「映璃ちゃん、静かにしてね」と映太の声も聞こえた。
「今、行くで! 」
二人は急いで飲み物を持って、彼らの元へ戻った。
「映璃ちゃん、ごめんな。ようけ、ジュースあって選ぶん時間かかったんや」
「ごめんね」
「うん、いいよ」
映璃は、ニコッと笑って大好きなリンゴジュースを飲んだ。映太は妹がジュースを飲み終わったタイミングを見て声をかけた。
「映璃ちゃん、ジュースもらったよね」
「うん!あっ! 」
映璃は何かに気づいたようで、知良と村上の方を見る。
「おじちゃんと、先生!ジュースありがとう! 」
「おう!映璃ちゃん、お礼言えるのえらいなぁ。どういたしまして。先生も何か言いな」
村上は知良をわざとらしく、先生と言って話をふった。
「どういたしまして。映璃ちゃんって呼んでもいいかな? 」
「うん!えりちゃんだよ! 」
「わかった。映璃ちゃんは、どうして俺のことを先生っていうの? 」
「えっとね……」
「ゆっくりでいいよ」
「絵を描いてたりね、何かの道に進んでいる人は先生って、けー兄ちゃんが言ってたの」
「けー兄ちゃんって? 」
「お母さんの弟が剣依都っていうんだよ」
ずっと黙ってた映太が知良に教えた。
「映太くん、ありがとう」
「どういたしまして」
「けー兄ちゃん、良いこと教えるなぁ〜」
村上はニヤニヤと感心した。
「ちー兄ちゃんとけー兄ちゃんとひー姉ちゃんと映兄ちゃんと一緒に住んでるの! 」
「千文来兄ちゃんと剣依都兄ちゃんとひまりお姉ちゃん。千文来兄ちゃんとひまりお姉ちゃんは結婚してる。剣依都兄ちゃんはお母さんの弟で無職もどき」
映太は、すかさず解説を入れてくれるが、淡々と話して最後の言葉に村上はツボにハマった。笑う村上と違って映太が言う名前に知良は反応した。それを村上は見逃していなかった。
「情報が追いつかないけど。無職もどきって? 」
「働いてるのか分からないけど、家でずっとゴロゴロしてる」
「学生さんじゃないの? 」
「う〜ん。たぶん、大学生だけど。オンライン?がどうのって言ってた」
「イマドキやな」
一応、学生という職業?についているんだと知良は安心した。
「迎えに呼んでも待ってましたって、すぐ来るんだ」
「ちー兄ちゃんがけー兄ちゃんに、過保護を通り越してストーカー?って」
知良と村上は言葉を無くす。どうしようと、村上を見るが、彼はそっと目を閉じる。知良は心の中で「裏切りやがって」と叫んだ。
「楽しい? 」
「お家がってこと? 」
「そうだよ」
「うん!お母さんがね、前のお家が無くなるまで大変でね。たくさんお仕事してたの。大変だったから、ちー兄ちゃんたちが乗り込んで来てね。一緒に住もうって。無職もどきもいるし、部屋余ってるからって言うてくれたの」
映璃が情報の渋滞になるぐらいのことを一気に話した。
「そうしたら、お母さん元気になってゆっくり仕事してたの。お母さんが、お買い物に行ってね。それでね……なかなかね……帰ってこなくて……うぁあ〜うぇ〜ん」
映璃は当時のことを思い出したのか、泣き出した。
「映璃ちゃん、大丈夫だからね」
映太は泣くのを我慢して、リュックからタオルを取って映璃に渡した。彼女はそれを受け取り涙や鼻水を拭う。
「う〜」
「すみません。お迎えの電話してきていいですか? 」
「ワシがするで。映璃ちゃんについてやり。剣依都くんにしたらええんやな」
「はい、番号はこれでお願いします」
「了解したで。そっちにあるキッチンで電話するからな。菅くん、してもええか? 」
「はい、お願いします」
控えめにノックの音が部屋に響いた。
「はい、開けますね」
知良は念のためにしていた鍵を外した。
「菅さん、来客中にすみません。……の〜さんから急ぎの連絡がありました。その後にも……」
「分かりました。すぐに行きます」
村上に視線を送るとOKとジェスチャーが返ってくる。
「映太くん、映璃ちゃん。ゆっくり話せなくてごめんね。先生、用事が出来てお仕事してくるね。まだ展示はしてるから、詳しくは村上のおじちゃんに聞いてね」
「うん」
知良は去り際に、そっと村上の肩に任せたと手を乗せた。村上は頷いた。
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