エピローグ
この話が、最終話です。
映璃からの提案から数ヶ月後のことだ。知良は、十年ぶりに日本に戻ってからの初めて個展をした場所にいた。
「知良くん。いい作品じゃないか! 」
「ありがとうございます」
知良は、照れくさそうに笑う。
「映璃ちゃんや映兄と先生が、すごいリアルだよね! 」
「そうじゃの〜 」
「お母さんもいるよ」
絵の中には、双子に挟まれた知良がいる。その瞳には、彼女が映っていた。
もしも、彼女が生きていたらの世界を描いた。絵の中なら、現実にいなくても生きてるのと変わらないからだ。
双子と知良が笑顔で、外出から帰ってきた彼女を迎えてる。
「菅先生、お話中申し訳ありません。この作品について伺ってもいいですか? 」
男性が、申し訳無さそうに声をかけた。彼は、前回の個展のときにも話を聞きに来た人だった。
「あっ、もうインタビューの時間でしたね。こちらこそ、申し訳ありません」
知良は時計を見て、インタビューの時間が過ぎているのに気付いた。
「では、改めて質問を致します。この作品に、こめられた想いや背景を教えていただきたいです」
「はい」
知良は、絵や自分の子どもたちを見てから答えた。
「数年前にここでの個展の『また、会えますか』に描いた彼女と俺やここにいる子どもたちがいるもしもの世界の話です。もしも彼女が生きていて、子どもたちと離れて暮らしていた俺が再会して、かけがえのない日常を絵の中で描きたかったんです」
「映璃ちゃんが、先生に言ったんだよ! 」
村上と一緒に少し離れていた映璃が、いつの間にか知良の横で得意げな顔で立っていた。
「えっ? 」
驚く記者と少し慌てる映太をよそに、知良は平然としていた。
「映璃ちゃん、そうだね。映璃ちゃんのおかげでとても幸せな絵ができたよ」
知良は、そう言って映璃の頭を優しく撫でる。
「菅先生、大切なお話をありがとうございます。失礼でなければ、この子どもたちは……」
記者は、映太と映璃を見ながら少し言いにくそうに聞いた。
「はい。彼女は、ここにいる大切な子どもたちを俺に遺して亡くなりました」
知良は、目を閉じて記憶と夢に出てきた彼女を思い浮かべた。
「そうだったんですね」
知良は頷いてから、深呼吸をした。
「前に俺が倒れてしまったときに、夢に出て来てくれました。俺が家を出てから、ずっと言って欲しかった言葉を言ってくれました。だから、今度は俺と一緒に子どもたちとその言葉を言いたかったんです。その言葉を想いをタイトルに込めました」
知良は、ふっと村上の方を見た。彼は、静かに涙を流していた。
村上は、知良や彼女と双子を人一倍心配して、助けて、笑って暮らしてたから。知良の言葉にすごく感銘を受けたのだ。
「質問の答えになってるか、分からないんですけど。大丈夫ですか? 」
「しっかりと答えていただきました。ありがとうございます。菅先生の描く人物は、映璃ちゃんが言っていたようにリアルです。僕は、今まさにそこで家族の日常を覗き見をさせていただいてるように思います。」
知良は、照れたように鼻を触った。
「僕のようなものが言うのもおごまかしいのですが。菅先生の彼女様は、とても幸せだと思います」
「えっ? 」
記者は、絵てもなく知良でもなく、何かを見てるようで視線が少し外れていた。その先には、誰もいなかった。
「こんなにも、愛されていますから。この絵から、その思いがすごく分かります。 」
「なんだか、照れますね。ありがとうございます」
その後は、知良は記者といくつか話したあとに別れた。
「先生、もう帰る? 」
「映璃ちゃん、帰りたいの? 」
「うん〜 」
映璃は、キラキラした目で知良を見つめた。
「お肉屋さんで、コロッケを買ってね。みんなで食べよう〜 」
「先生、まだ少しここにいないといけないんだけどな〜 」
「お父さん、一緒に帰ろ〜 」
知良は、不意打ちのお父さん呼びに弱い。
「うっ……」
知良の中で、仕事と映璃を天秤にかけながら必死に葛藤をしていた。
「映璃ちゃん、村上のおじちゃんと先に帰る?」
村上が助け船を出した。
「帰る! 」
知良は、ほっとため息を付いた。
「お父さん!先に帰るから早く帰ってきてね! 」
「映璃ちゃん、自由人……」
映太は、ポツリとそういった。
「はーい! 」
知良は、笑顔で映璃に返事をした。
村上と一緒に帰った双子のために、知良は残りの仕事を終わらせて、商店街で肉屋のコロッケを買って駆け足で家に向かった。
その途中で、あの事件で犠牲になった人たちのための供養と日々の生活を守ってもらうためのお地蔵様と村上たちが続けてる彼女のための供えたお花に手を合わせる。
また、知良は足を踏み出した。作品のタイトルや夢で彼女に行ってもらった何気ない日々の言葉を言ってもらうために。
「ただいま! 」
知良は、玄関のドアを開けたその先に待つ家族に向けて言ったその言葉を大切に思う。
「「おかえり! 」」
と言ってくれることは、ずっと続く当たり前のことでない。
知良は、その言葉をかけがえない日々を感じて生きていく。
知良の描いた彼女が行きているもしもの世界の絵の題名は、この小説のタイトルやただいまの隣にある言葉です。
読んでいただき、ありがとうございます。




