第28話 村上の後悔と彼女への想い
知良は目を開けると、知らない天井があった。
そして、右を見ると村上がコクリコクリと船を漕いでいた。反対側の腕に違和感があった。
「村上さん」
知良の声で、村上はハッと目覚めた。
「知良くん!目が覚めたのか。良かった」
「ここは、どこですか? 」
「ここはワシの親族のツテがある病院や」
知良はそう言われて、やっと片方の腕に点滴が付いてるのに気がついた。
「知良くんは、剣依都くんとケンカしたあとに倒れてな。酷い熱があって、意識がなかったから、救急車を呼んでここに運ばれたんや」
「心配かけました」
「ホンマや。ワシの老い先短い寿命が縮まったわ」
「すみません」
「でもな、知良くんが無事で良かったわ。また、生きて会えたからな!」
きっと、村上の頭には彼女のことがよぎったのだろう。彼女が事件に巻き込まれる前に、バッタリと会って話していたからだ。
村上は彼女と別れたあとに、訃報を聞いて悲しみと後悔があった。
もう少し、彼女を引き止めていたら無事だったのではないだろうかと、今でも何度も思い悩んでいた。
今回の知良のことも、体調が悪いなら行くのを止めて、家で休ますか無理やりにでも病院に連れていけば良かったのにと思った。
「村上さん、みんなはどうしてますか? 」
「みんなは、家にいるよ。知良くんが、起きたんを知らせないかんな」
村上は、ナースコールを押して看護師に知良が目を覚ましたことを伝えた。
その後、医師や看護師が来て診察と健康状態について話した。
「菅さんは、ストレスと過労と睡眠不足が主な原因で高熱が出たようです。今は、点滴で熱が下がっています。今日は、入院をしてください」
「分かりました」
「明日は、診察と念のために検査をしましょう」
「分かりました」
入院や検査などの事務的な話をした後に、医師たちは病室を出ていった。
「ワシが、入院手続きをするから安心しなさい。救急車が来る前に、千文来くんのところに置いてる服や必要そうなのカバンに詰めて、そこの棚に置いてるからな」
「ありがとうございます」
「剣依都くんと映璃ちゃんに、それを言いなさい」
「はい」
知良が倒れたときに、剣依都は自分を責めたと同時にパニックになった。それでも、必死に知良の介抱をしていた。
その後に映璃が部屋に入り、驚きながらもすぐにひまりに助けを求めて現在に至る。
「村上さん。俺、夢を見たんです」
「人が心配してる間に、のんきに夢を見てたんか」
「すみません」
「冗談や。謝らんでええ」
知良は、頷いた。
「なんの夢や? 」
「彼女の夢です」
「やっぱりな」
「えっ? 」
「彼女の名前を何度も言ってたからな〜」
「恥ずかしいです」
知良は、頭をかいた。
「彼女となんの話をしたんや? 」
知良は、夢の中での彼女の話をした。それを村上は時に悲しそうに、時には嬉しそうに聞いていた。
「それは、良かったな〜」
「なんで、村上さんが泣くんですか? 」
「この年になると、涙腺が弱るんや〜」
「否定しないんですね」
「男や女関係なしに泣いてええんやで。本当はな。だから、ワシは否定せんよ」
「そうですね」
「ワシとしたことが、まだあの子たちに電話してなかったわ。また、明日来るからな〜」
村上は、そう言って病室を出ていた。知良かいる病室は大部屋でなく個室になっている。村上の関係者として、配慮があったからなのだろうか。
知良は、目を閉じて夢の中で会った彼女のことを想った。
彼女の声が耳に、彼女の温もりが身体に残っている。
あれは夢だったのに、不思議と現実世界に思えてなからなかった。
次に彼女と、また会えるのはいつになるだろうか。




