第27話やっと聞けた言葉
俺は気がつけば、さっきと違う場所にいた。
「知くん! 」
「えっ」
なんで、俺の前に彼女がいるんだ。もう、彼女は……この世にいないはず。
「ほら、映璃と映太と村上さんがお腹すかせて待ってるよ」
彼女越しに見える時計は、午後十九時をさしていた。
「知くんが買ってくれたコロッケ、おやつで食べたよ。すごく美味しかったよ。ありがとう! 」
「喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
彼女は、とても嬉しそうに笑った。俺もつられて笑った。
ここは、俺が村上さんの家でアトリエとして使ってる部屋だ。
いつも、集中し過ぎてご飯を忘れてしまう。よく、こうやって、みんなが現実の世界に呼び戻してくれた。
「知良くん〜」
離れたところから、村上さんが呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、早く行かなきゃね」
「そうだね」
本当はこのまま、ここにいたいと思った。やっと、彼女に会えたから。たくさん、話したいことがある。
でも、どう言ったらいいのか分からない。
「やっと、会えて嬉しいな〜 」
彼女はニコニコと笑う。
「あの絵も嬉しかったよ。今の私よりも美人さんで幸せそう」
彼女がそうポツリとこぼすと、俺の眼の前には景色はあの個展会場になった。
彼女の視線を追うと、壁に掛けられた「また、会えますか」の絵の前に俺たちはいた。
「さっきのは語弊があったね。映太と映璃を産んで村上さんに出会ってからも幸せだった。でもね、知くんがいてこそ、もっと幸せだったかもって思う時もあったから」
「俺がもっと早く帰ってたら、君はもっと長く生きてたかもしれない。君は幸せと言ったけど、寂しくて辛くなったと思う。俺は思うことしかできなくてご……」
「謝らなくていいの! 」
彼女は俺の言葉を遮るのように叫んだ。
「なんで? 」
「もしも、そうだったとしてもね。過去はもう変えられないし、どうなってたかも誰にも分からないの」
彼女は俺の手を握って、俺の目を真っ直ぐと見ていた。
「私は、今の知くんがみんなが幸せなら。それが嬉しいの! 」
俺は相槌を打つしかできなかった。お互いが涙を流し、今しかもう想いを話す時間がないのを分かっていたから。
「でも、君ともっと過ごしたかった」
「うん。でもね、私は知くんの活躍をしてるの、とても嬉しかったよ」
「ありがとう」
「映太と映璃をお願いね」
「うん」
「あの子たちなら、分かってくれるから。大丈夫!」
「うん」
「一人で抱え込まずに、周りの人にたくさん頼って協力するんだよ」
「うん」
「あっ、忘れたことがあった! 」
彼女はそう言うと、手を離して俺を思いっきり抱きしめた。
俺の耳にはあの言葉が届き、彼女の耳にはあの言葉が聞こえた。
俺たちは、お互いの顔は見えなかったけど。あれはきっと笑顔だった。




