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第24話 見た目よりも大人な小学生

 彼女は、もういない。知良たちには、過去の写真や映像でそして記憶の中にしか彼女はいない。

 知良の中の記憶には、十年前で止まっていた。だから、あの個展の時の絵も十年前の彼女だった。


 知良は、千文来たちの家の仏壇の前にいる。

 ここにある彼女の写真は、知良が知る姿とは当然違っていた。知良とほぼ同じく大人で、そして別れた二十歳よりも母親の顔をしていた。

 

「そろそろ、あの子たちが帰ってくるかな」

 

 千文来(ちあき)は、仏間にある時計を見て言った。その声を聞いた後、村上がこっそりと部屋に入ってきたのが音でわかった。

 

「あの、千文来さん! 」   

 

 知良は、仏壇の前から振り返って千文来を呼んだ。


「ん?どうした、知? 」 

 

 千文来は、なぜあんな顔をして知良が呼び止めているか知っていて知らないふりをした。

 

「子供たちは、父親のことをどう聞いているんですか? 」 

 

「頑固で、優しくて、自分の世界を突き進む人だってよく言ってたよ」 

 

 みんな、彼女の写真に視線があった。

 

「あとは、「今は、自分の世界で頑張っているんだよ。それで、長い間私たちは留守をしてるの。だから、帰ってきたらね。おかえりと遅かったねって、拳骨を一発くらわすんだ」とも言ってたな」 

 

「えっ? 」  

 

 知良は驚いたけど、なんだか彼女らしいと笑えきた。

 また知良は、仏壇に置かれた彼女の写真を見ている。その背中にいる二人の大人は、彼がここ部屋に来てやっと笑ったことに安心した。

 なぜなら、彼女がよく知良の笑った顔が好きだからと幸せそうに言っていたからだ。ここに来て初めての笑顔を見れて嬉しかった。

 

「ただいま! 」 

 

 玄関から映璃の声が聞こえてきた。そして、肉屋の娘のちさの声も少し離れた仏間まで響いた。

 

「二人とも帰ったら、手洗いうがいする!! 」

 

「映璃ちゃん、走ったら危ないよ」 

 

「はーい」 

 

 映璃と映太の声や足音が響くなかで、知良は独り取り残された気持ちになった。

 

「俺、どうしたらええんですかね」 

 

「知、君はあの子たちにとってなんだと思う? 」

 

「先生」  

 

「あぁ、剣依都とがあの子たちに教えたからか。アーティストは先生と呼ばれる的なことをね」

 

 知良は黙って頷いた。彼自身、まだ父親と自覚出来てないし、彼らにどう思われてるのか分からない。

 

「ちなみに、ワシはおじちゃんやな」 

 

「そうですね」

 

 知良は、適当に相槌をうった。村上に構う余裕がなかったからだ。

 

「いいじゃん。先生でさ」 

 

「えっ? 」

 

「僕は、兄ちゃんって呼ばせてるけど。でも、先生は、時には親のような存在って言われるでしょ。先生って、学校や塾で教えるだけじゃなくて師匠も含まれる。すぐに親だって思わなくて少しずつでも、一緒に成長すればいいんだよ」 

 

 千文来は少しマウントを取るが、知良にとっての役割のようなことを示す。

 

 「彼らにとってあなたは、何でしょう? 」と質問されても答えられないのは辛いから。

 

 また、バタバタと足音が聞こえこちらに向かってやってくる。バンッと襖が開き、元気な声が響いた。

 

「あっ、先生だ!おじちゃんだ! 」 

 

「映璃ちゃん、戸は静かに開けよう。そして、まずは挨拶だよ」 

 

「あっ!そうだった!ごめんね」 

 

「うん」 

 

「こんにちは! 」 

 

「こんにちは! 」

 

 村上は、映璃と同じようなテンションで返した。映璃は、じっと知良のほう見ていた。

 

「こ、こんにちは」  

 

 知良がぎこちないあいさつをしても、映璃は不思議に思わずに喜んでいた。

 

「映璃ちゃん! 」 

 

 遅れて映太が仏間にやって来た。急いで来たのか、肩で息をしていた。

 

「えへへ」 

 

 映璃は笑ってごまかしていたが、映太には通用しなかった。少し、映璃は怒られていた。

 

「先生! 」 

 

「映璃ちゃん、どうしたの? 」 

 

「先生は、なんでここにいるの? 」 

 

「えっと……」 

 

「先生とお兄ちゃんは、友達なんだよ。だからね、お家においでって招待したんだよ」 

 

 千文来が助け舟を出して、知良はホッとした。

 

「そうなんだ!じゃあね、おじちゃんとちさ姉ちゃんはなんでいるの? 」 

 

「先生が久しぶりにね。ここに来ることになって緊張してるから。付き添い出来たんや」 

 

 村上も知良に助け船を出してやる。

 

「そうなんや! 」 

 

「そうだよ。お家にお邪魔してるから、お母さんに手を合わせてたんだよ」 

 

「……ほう」 

 

 映璃は、少しずつ理解をしていった。

 

「お母さん、喜んでるね!良かったね! 」 

 

 映璃は仏壇に置かれた彼女の写真を見て、ニコニコしながら言った。

 

「先生」 

 

「映太くん、どうしたの? 」 

 

「先生は、お母さんのことをどう思うの? 」 

 

「えっ? 」 

 

 その場にいる大人たちは、凍った。映太が突然そんなことを言うとは思わなかった。

 

「どうして、聞くの? 」 

 

「質問で質問を返したらいけないって、剣依都兄ちゃんが言ってた」

 

 千文来が小さい声で「余計なことを教えやがって」と怒った。

 

「ごめんね」 

 

「質問に答えてね。大人は子供をごまかすの得意だからって剣依都兄ちゃんが言ってた」 

 

 また千文来が小さい声で「余計なことを教えやがって」と怒った。

  

「答えるよ。でもね、時間が欲しいな。大丈夫、誤魔化そうとしてないからね」 

 

「その目は、本当な気がする。信じるよ。答えれそうな時に答えてね」 

 

 見た目よりも大人なことをいう小学生に驚いた。

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