第23話 知良の今の父親
知良のうつむいた身体が、たくさんの思いが溢れるかのように少し震えていた。
「知良くんも勝手に逃避をしているんだな」
「えっ? 」
「だって、そうじゃないか。大好きな父親を信用したくても、大好きでいたくても、彼が犯した罪は二度と消えることは出来ない。だったら、自分は大人の男を信用するのをやめて苦手になろう。この行為は、知良くん自身を守ってる。でも、君は父親と同じ現実という怖いものから逃げてるんだよ。」
「それの何が行けないんですか? 」
まだ俯いてる知良から、低い声が聞こえた。
「いけないことはない。それは知良くんが必死に考えて出した答えやからな」
村上は視線を合わさない知良を、優しく見守った。
知良はもう父親のように、信用した大人の男に裏切られたくなくて、そんな自分を必死に守っているのだ。その心を否定はしたらいけない。
でも、逃げたままにはしてもいけない。それを村上は、分かっていた。
知良自身も無意識のうちに、父親と同じように向き合うべき現実から逃げてるままになる。
でも、全ての大人の男の人が悪いわけじゃないのを知って欲しいと思っての発言だった。
彼には、これからもたくさんの大人の男性に出会うだろう。
過去にも未来でも苦手意識を持ったまま過ごしては、苦しくてたまらないだけになるから。
「話してくれて、ありがとうな」
知良は、髪の隙間から村上の優しさを見つめた。
「知良くんにとっては、キツイ言葉だったと思う。それでもな、もう会うことのない父親に苦しめられる。そして、本当は逃げなくても良い現実から逃げるのは、本当はすごくもったいないと思ったんじゃ」
知良は服の袖で涙を何度も何度も拭った。
「ワシは、全員の大人を信用をしろとは言ってないからな。そこは勘違いをしたらいかん。悪いやつらも大勢いるから、見極めるのは大変だけど。ワシらのように手を差し伸べて知良くんのことを想い理解して見守る大人の男もいるから。それはわかってほしいな〜」
村上は、たくさんしゃべって喉が渇いたと茶化すように言ってお茶を飲んだ。
知良がうつむきから解放をされて、村上の方を見た。
「今のお父さんは、どんな人なん? 」
「お母さんの小学校からの同級生ですよ」
「それは、すごいな」
「なんか、小学校の頃からお母さんのことが好きで一途だったって」
「それは、またすごいな」
「アイツのことも知ってるし、なんかヤキモチは焼くけど。仲は良かったって」
「そっか」
「夏月兎って言う名前なんですよ」
「どんな、字を書くんや? 」
「夏と月と兎です
よ。本人曰く、みんなは漢字を見ると物珍しい目を向けてくるって」
「そうやな。かつとって聞くぶんには、なんの違和感ないのにな」
「夏生まれで、月にいる兎がきれいだったからって」
「きれいにそのままやな」
「夏月兎さんも、そう言って。いつもこの話しをするときは笑ってます」
「夏月兎さんは、大丈夫なん? 」
「はい。優しくて、あまり怒らない人で心配症ですよ。それに、小さいときからお母さんの実家に帰ると当たり前のように来て遊んでくれました。大人の男っていうより、仲のにいい友達のような親戚のような感覚です」
「なんか、思ってたよりも幅広いな」
知良もそれを自覚しているのか、苦笑いをするしかなかった。
それでも、話しを聞く限りは今の父親は大丈夫そうだと安心した。




