第20話 知良の父親
彼女は今の俺を見てなんていうんだろう。
俺は、彼女にまた会ったら結婚しようと言おう思っていた。彼女のおかげで今の俺がいると確信してる。
俺と彼女は似てるようで似ていない過去がある。
俺は父親がいた。ソイツは犯罪を犯して、逮捕歴がついる。今は生きてるのか、死んでるのかも分からない。
ソイツは、家族に優しかった。だから俺も好きだった。だけど、ソイツは家族を裏切り、人に危害を加えた。
「村上さん、聞いてほしいことがあります」
彼女の家に行く前日の夜に、村上にそう言った。
「なんや? 」
村上は、わざとおどけて言ってやる。知良の顔は真顔であるようで、何かに怖がっていたからだ。
「俺が、男の人が嫌いな理由です」
村上は頷いて、黙って知良の話を聞いた。
「父親が……」
知良は、父親が犯した罪の話をした。
父親は会社の金を横領して、それが同僚にバレて揉み合いの末に怪我をさせた。
その後は、すぐに自首をしに警察に出頭したのだ。
「俺は犯罪者の子供で、いわゆる加害者家族です。そんなやつが、今や絵を描いて個展を出しています」
「何が言いたいんや? 」
「俺は、ずっと自分の夢を叶えてはいけないと思った。だって、実の父親が横領して、罪のない人を怪我させたことには過去に行かないと変わらない。事件が起こった時は小学生でした。それから何度も引越をして、高校生でこの近くに来ました」
知良は、深呼吸をしながら話した。彼自身、いっぱいいっぱいだった。思い出したくない過去を今伝えないといけないと思った。
なぜか、村上なら受け止めてくれると直感がそう告げるからだ。
「俺は、元々男の人に対して信用をしようと思わなかった。家族に優しくて、信用しているの身近な男の人は、父親だけでした。その人に裏切られたと思った」
知良は、小学校の男性教師の言動に恐怖に感じることがあった。それから、男の人は怖くなり苦手になった。
その中で、身近にいる父親は知良の心に寄り添い、信用できる人になった。
しかし、事件がおきて父親に裏切られたと深く傷付き、父親に似た世代の男性が怖くて苦手になった。
「それは辛いな」
「母さんは、アイツのせいで苦労をしました」
「お母さんは、今は何してるん? 」
「地元に戻って再婚してます」
「そっか。連絡は取ってるん? 」
「一応、取ってますよ」
「そっちは、遠いん? 」
「はい。遠いし、田舎だから。俺が高校はこっちがいいって、わがままを行って住んでいました」
「犯行の動機や被害者とかは? 」
「被害者の方は、父親の同期の人です。優しい人で、会ったらお菓子をくれました」
知良の目には、当時のニュースや母の顔、周りの他人が映っていた。
「その頃、母の体調が悪くて働けなかったから。父親は余計に独りで抱えいたらしくて。それと俺の学費や画材代で家計を圧迫していた。それらにあてるために横領したそうです。そして父親の様子がおかしいのに気がついた同僚が、全力で止めてたら物にぶつかって怪我をしたそうです。彼はそれが自分の不注意だからと被害者届けを出さなかった」
父親のことを気にかけてくれた同僚からの言葉や当時の状況が蘇るのだ。
『知良くんのお父さんは、悪いことをしたよ。でもね、俺がもっと早く気づいて、相談にのって出来ることはあったと思うから。この怪我は、俺が知良くんのお父さんを助けることができなかった罰だから。誰に何を言われても被害者届けは出しません』
当時、知良が布団にくるまって泣いているときに、心配して来た同僚がかけてくれた言葉だ。
「加害者も被害者も優しい人やな」
「……そうですね」
知良は、急に村上によって現実に戻されて、後半の言葉しか耳に残ってなかった。
「知良くん、本当はもう分かってるんじゃないか」
「えっ? 」
「人はな、優しい人ほど何かと抱えてしまう。誰かに助けて欲しいと思っても、迷惑をかけてしまうんじゃないかと恐怖に駆られる。やってはいけないことをしてしまっても、誰かに助けを求めた。必死に誰かを想い、罪を犯してしまったんじゃないか」
村上の言葉に知良は、俯いて表情を見せようとしなかった。
「知良くんのお父さんは、どんな理由があっても、してはいけないことをした。知良くんや知良くんのお母さんたちを想って必死に考えた先に、罪を犯した。そして、被害者の意向で被害者届けは出されていないが怪我をさせた。だからといって、君がこの世にいる大人の男を苦手に思う必要はない」
知良の表情は分からないが、すすり泣く声が聞こえた。彼自身もそれは分かっている。
でも、知良は大好きな自分の父親に裏切られたと思ったからだ。父親が罪を犯してくれたお金で困る人はいても、知らないだけ生きることが出来た。自分も罪を犯したように思った。
「アイツが、刑務所から手紙を送ってきた」
「うん」
知良はポケットから手紙を取り出し、村上に渡した。それはボロボロになっていて、どこか彼女からの手紙のように大切していたのが分かった。
「読んでええんか」
知良は、コクッと頷いた。




