第1話 帰ってこれなかった
知良は、十年ぶりに日本の地へ降り立った。この日は最高気温が四十度近くになった。アスファルトに照りつき、それが反射して余計に暑かった。
何度ハンドタオルで拭っても、汗は滝のよう流れた。多くの女は、雨でなくても傘をさす季節がやって来た。
「女性は良いよな。男は雨のときぐらいにしか出来ねぇからね」
知良は麦わら帽にグラサンに白ティーにジーパンにサンダルと、海に出かける格好だった。彼は、空港税関にも変な顔をされ、厳重に検査もされた。もちろん、何も無かったので無事に帰国をすることができた。空港のトイレでキャリーケースをコロコロとしながら、トイレに行った。
「やっぱり、久しぶりに会うにはこれでしょ」
トイレから出た知良は、入る前とかなり変わった服装をしていた。ラフだったのがビシッと決まったスーツに革靴になっていた。
その後はタクシーに乗り、ある人に会うために途中で花屋に寄ってバラを買った。また、タクシーに乗り目的地近くで降りて歩いて行くことにした。
「嘘だろ」
知良は目の前の光景にショックで、さっき買ったばかりのバラの花束を照りつく地面に落とした。
「何で無いんだよ」
知良の目の前に広がるのは、空き地に『売り地』と書かれた立て看板があった。彼はその場で泣き崩れた。
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