第17話 味がわからない
それからは、村上に話した通りで彼女は周りに恵まれた。
しかし、彼女の悲劇は終わらない。知良と数年間一緒に暮らしたアパートが、たった一晩何でもない日に燃えて失った。
そして、彼女は子供たちの命は守れても、大切なものが炎とともに消えた。それは、知良が描いた作品だ。生前彼女は、村上にあることを語ったという。
「あの炎と一緒に絵以外にも、大切なものを失ってしまいました。知くんが帰る場所です」
彼女は、真っ直ぐ村上の目を見て話した。その目は、悲しみが覗かせたという。
彼女にとっては、命の次に知良が帰る場所を失くしたことが最も心を折る出来事だった。
「君が思っているよりも彼女は、君を菅 知良のことを愛していたんだよ」
村上は、ポツポツと雫を降らす知良の背をさする。村上の声は震えていた。
その当時のことを思い出したからなのだろうか、声に涙が混じるようだ。
「彼女の人生は、死は、悲劇だったかもしれません。俺が言うのはおかしい話しかもしれないけど。彼女は悲劇だけじゃなくて、村上さんや周りの人に家族に愛された人生でした」
「……そうやな。彼女はたくさんの人に愛して愛されていたんや」
村上は、一口二口と酒を飲んだ。
「なぁ、そこに菅くんはおるんやな? 」
「………たぶん」
「そっか」
村上は、周りの中に知良が入っているのかを気になって聞いた。
知良は、自分がそこにいたと心から思っていいのかが不安で自信がなかった。
ふたりとも話しているときに、色々な顔をしていた。酷い顔もあり、彼女のことを想う顔でもあった。
彼女から彼らに与えたものは、大きく重く残っている。
「村上さん、お願いがあります」
「なんや」
知良は、あることを村上に伝えた。
「今日はもう遅いけん。明日、連絡してみるわな」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても、二人でよう泣いたな。せっかくのワシが作ったカレーの味が分からんわ」
村上はいつもの調子で笑った。
「なんかなぁ~、今のわしらにあってるわ! 」
村上はそう言ってまた笑い、カレーを温めたり捨てたりせずに残りを食べた。
知良も正直食べる気がなかったが、村上を見て食べなきゃと思ってカレーを頬張る。
リーンリーンとまた鈴虫の音が少し離れたところから聞こえた。
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